どうやら幸運にも水精霊騎士隊の隊員達は一人も欠けることなく戦いを終えたようだ。キュルケはカルカソンヌの真下にある小高い丘から遠眼鏡で騎士隊の戦いを見守っていた。あのフィオとかいう謎の修道女は自分の予想以上に強く、更に言えば『分身』を使っていた。一体何者なのかは知りたいところだが、ひとまず達也を守るという意思は見受けられた。「結局、タツヤは二十二人を抜いてそれからは戦わなかったわね」「身代金も結構貰っていたみたいね・・・あとでたかろうかしら?」「ルイズ・・・どう考えても貴女の方がお金は持っているじゃない」「日頃世話になっている主に貢物をするのが使い魔ってものじゃないかしら」「そういうのは集ってまでやる事じゃないわよ」ルイズは達也と出会ってから何故か歳相応と言うか子供っぽい所を無遠慮に見せるようになってきた。それ以前の彼女は何処か背伸びしすぎて足が攣ったような有様だった。口を開けば皮肉と不平不満ばかりで孤高を貫こうとしていたあの間違った方向に気高い彼女は何処に行ってしまったのだろうか?優秀な二人の姉がいて自分だけゼロだったあの頃・・・ルイズは学者にでもなるのかというほど勉学に打ち込んでいた。座学は現に魔法学院でトップクラスだった。それだけが取り得だと彼女は割り切っていたのかもしれない。知識だけは無駄にあり実践が上手くいかない。結果だけを見るものにとっては彼女の努力は無駄かもしれない。貴族は魔法が使えるのが常識のような風潮の中、念願かなって魔法の力を手に入れたルイズは賢さを何処かに投げ捨ててしまったのか?いやいや、それでも座学は相変わらず優秀であるし、相変わらずそれなりの努力はしているのだろう。「ルイズ・・・この戦いにおいてアンタの力は神から与えられた力って言われてるけどそこの所どう思ってるの?」「虚無が神から与えられた力ね・・・うーん・・・私は教皇聖下みたいに熱心な信者じゃないけどさ。神様がこの力を私に取っておいてくれたとは思うかな」「あら、てっきりこれは私の有り余る才能のお陰よとかいうかと思ったわ」「そりゃあ一時期は神はいないとか本気で思ったこともあるわよ。でもね今はそうは思わないわ、実を言うとね」「そりゃまたどうして?」「タツヤがアルビオンで行方不明になったとき私たちは何かに祈ったわ。その時思ったのよね、人の心の中には確かに祈る対象としての神様がいるってね。人はすがる対象を求めて宗教にそれを求める。それは別にいいことよ。問題はそれをいいことに搾取したまんまの方よ。祈るのはタダなのにお金くれとか虫が良すぎでしょう!神様がお金持った所で使い道ないじゃないの!?」「いや、それはやっぱり教会や聖堂などの維持費がかかるからじゃないの?」「魔法で何とかしなさいよ!?その為の魔法じゃないの!?」「いや、ね?人件費とか」どうやらルイズは宗教自体に嫌悪感は持っていないらしい。何で金をやらんといけないのだという点がご不満らしい。おおよそ貴族の娘とは思えないほどのセコイ怒りである。「神様も大変よねー、勝手に感謝されたり勝手に恨まれたりするんだから。難儀な職業ね」神様を職業と申すか、この女。「何言ってんの、私がやってる『聖女』も戦場の皆さんを鼓舞する職なのよ。恐らく聖下は私の保険にティファニアをついでに聖女に仕立て上げたに違いないわ」「どうしてそう思うの?」「巨乳好きと貧乳好き両方のニーズに合わせた聖女の選択だと思うのよ、私」「そんな俗っぽい選び方をするの?ロマリアの教皇は・・・」「何言ってるの!より良い信仰を得る為には民衆の嗜好を知らなければならないわ。女性向けは恐らくジュリオや聖下が担当してるだろうし、後は男性信者の指示を増やしたいが故に私たち二人を立てたに決まってるわ!ああ、美しさは罪よね」「あー、はいはいそうだわねー」キュルケはすでに話半分でしかルイズの世迷い事を聞いていなかった。一方その頃、タバサはカルカソンヌの街に上るための崖の階段を歩いて上っていた。シルフィードを使えばひとっ飛びなのだが、今は何だか歩きたい気分だった。こうして自分の足で一歩一歩歩いていると、昔の事が思い出される。幸せだった幼き頃・・・父のオルレアン大公が健在だったあの頃・・・。祖父が死に、父が謀殺され、全てが壊れてしまったあの頃・・・。伯父に父は殺され、母は心を狂わされ、悲しみの中無茶な任務を命じられたあの頃・・・。化け物の巣窟の中で出会った仲間だった人。自分の師だったかも知れないあの人。自分の境遇を聞き、甘えていると言ったあの人・・・。やがて悲しみは怒りとなり、伯父王への復讐心が育っていったあの頃・・・。そしてあの人は死んでしまい・・・自分は仇を討って・・・『タバサ』は生まれた。感情が消え、それこそ虚無感が漂うような雰囲気を纏うようになった。そんな自分にも友人が出来た。激しい情熱を内にも外にも放出するかのような少女、キュルケ。誇り高いのは分かるが何か抜けている虚無の担い手、ルイズ。頼れるがわりと鬱陶しい使い魔、シルフィード。かけがえのない友人たちを大切にしたい、迷惑をかけたくない・・・。そう思って自分は単身ガリアに乗り込んでまんまと囚われの身になってしまった。その時、気付いた。私は何も変わってなんかいない。泣き虫だったあの幼い頃と・・・。人は変われるが簡単にその根っこまでは変われない。それを気付かせてくれたのは我が親友キュルケとそして・・・タバサはその時、ふと人の気配に顔を上げた。階段の折り返し地点に立っているのは、ロマリア神官にして、教皇ヴィットーリオのヴィンダールヴこと、ジュリオであった。ジュリオは困ったような顔でタバサに声を掛けた。「やあ、タバサ。健康の為に階段上りかい?精が出るね」普通の女性ならばジュリオのハンサムな顔やオッドアイにやられて参ってしまうのだが、生憎タバサはその普通のカテゴリには入っていなかったようだった。タバサはジュリオの挨拶を無視してその場を通り過ぎる。「失礼。どうやら呼び方を間違えたようだ。シャルロット姫殿下」「・・・知ってたの?」「ええ、存じ上げていますよ。そもそもこのハルケギニアのことで、我々ロマリアが知らぬことなどほぼありません」「陰謀にも長けている国と感じる」「ほほう?」「このような用意周到な侵攻は随分前から計画されたものと思われるし、何より・・・主のいない所で彼を殺害しようとした」ジュリオは溜息をついて頭を掻く。あの場では自分は失態を演じてしまった。大泣きもしたし本性も出てしまった。もはやあの場にいたタバサにはクールな自分を演じるには無理がありすぎるのだとジュリオは感じている。「まあそうですね・・・多少の読み違いはあれど、大筋は此方の狙い通りに進んではいます。予定通りリュティスに至る道もできましたしね」「貴方達の予想の範囲内とでも言うの?」「いえいえ・・・まさかガリア軍が此方を攻める大義名分を持っているとは思っても見ませんでしたよ。国内の顕著すぎる格差から聖地を名乗るのは不敬だと・・・成る程ロマリアは神官ばかりが甘い汁を啜っている現状がありますからね。僕の主もそれを何とかしようと思ってはいるのですが・・・結果が伴ってはいないですからね、残念ながら」だから今日、信仰が地に落ちた状態となっているのだが、それでも救いを求めてロマリアへやってくるものは後を絶たない。人を救うのは人間だが、現状のロマリアはその人さえも余裕がない状態である。それこそ神様に頼って救ってもらうしかないな、とジュリオはたまに思うこともあるのだ。「貴方達は何が目的?私を貴方達の人形とするつもりなの?」「由緒ある王国を、本来の持ち主にお返しするお手伝いがしたいだけなんですがね」「国は伯父王でもそれなりにやっていけている。その必要はないのに?」「貴女の復讐のお手伝いと言ったら?」「余計なお世話。これは個人的な問題。他人がおいそれと口を挟むものじゃない」「やれやれ、ハルケギニアの姫君たちは頑固か一癖もある方々のようだ」ジュリオは肩を竦めて言う。聖戦の完遂にはまずジョゼフ王の打倒は必須なのだが、このガリアの地で彼を打倒するには神輿が必要である。それが次期国王と目されていたオルレアン公の遺児、シャルロットである。彼女が正統な王権を主張さえすればこれ以上の担ぎがいのある神輿はない。オルレアン派の敵部隊の寝返りも期待できるかもしれない。「とはいえ、ガリア側に戦う理由があるのが困ったところだ」「・・・下手をすれば、私を担ぎ出したところで逆に怒りを買うことになるかもしれない」「ええ、それが厄介極まりないんです。担ぎ方を誤ればガリアは今度こそ本気でロマリアを潰しにかかるでしょうね。理由はそうですね、シャルロット姫を戦争に利用しているとか人質にとってこちらを惑わせようとしているとか。こうなるとトリステインにも迷惑がかかることになりますね。身柄を保護しているのはトリステインのはずですから」「・・・・・・」「しかしまあ、ここまでは我が国の兵士やトリステインの援軍の頑張りもあり上手くいっています。策謀とか抜きにすればこれは喜ばしい事です」「そのトリステインからの派遣された騎士を何故暗殺しようと?」「全ては此方の都合ですよ。まあ、痛い授業料を払うことになりましたがね。正直言って『彼』は我々の計画外の存在なんですよ。我々が主催した舞踏会に合わせて皆は踊っているのに、彼は一人ひたすら食事を摂っているかのような行動ぶりですから。それだけなら無害なのですが、舞踏会の光景としては少々見苦しく感じましてね。舞台から降りてもらおうと思っていたのですが・・・」「返り討ちに合ったと」「ははは、どうやら彼は舞踏会会場の食事が御気に召していたようです。我々はその食事の邪魔をしてしまったのです。ですが放置してれば無害と判断した為、現在は彼の好きなようにやらせています。・・・まあ、踊っている人を食事に巻き込む所もあるようですが」「分かる気がする」良くも悪くも影響力のある男である。放置してればいいやと判断したロマリアの教皇はその判断が本当に良かったかと推敲すべきである。タバサは密かにそんなことを思った。その日の夕方、観光のメッカでもあるカルカソンヌでルイズ達トリステイン組は一軒の宿屋が割り振られていた。例によってその宿屋の一階は酒場となっており、水精霊騎士隊の面々はひとまず今回の戦いの勝利を祝っていた。互いに生きてて良かった。案外何とかなるものだと肩を組んで喜び合うその光景の中で、俺は酔っ払いの相手をしていた。酔っ払いどもは酒臭い息を俺に吐きかけ、上機嫌でワインの壜を振り回していた。非常に危険である。酔っ払いの名前を具体的に言えばルイズ、フィオ、マリコルヌの3人である。はっきり言って凄く面倒な面子である。助けになりそうな存在は我らが隊長ギーシュと言いたいのだが・・・「モンモランシー・・・僕は帰りたいよ・・・ひっく・・・えっぐ・・・」「隊長・・・君は酔ってるんだと思うが、そのような泣き言を言ってはいけないよ・・・」どうやら酔った際に愛する彼女の事を思い出したらしく我らが隊長は泣き続けている。その隊長のお相手をレイナールが務めているので、彼に援軍は期待できそうにない。というか酔った時ぐらい泣き言言ってもいいじゃん。相変わらず我が騎士隊の参謀殿は厳しい方である。・・・さて、状況を整理しよう。ギーシュとレイナールが使えない以上、俺は他の人に援軍を求めねばならない。タバサ・・・メシ食ってる。キュルケ・・・まずい・・・ほろ酔い気味だ・・・。テファ・・・戦力になるのか?「正に孤立無援の状態だな」「君は僕に助けを求めようとは思わないのかい?」何故か俺の隣に座るのは、何故かここにいるロマリアの神官ジュリオである。何でトリステインの宴会場にお前さんがいるのだね?話を聞けばロマリアの方はかつて俺たちを嵌めようとした際に無駄に騎士達を動かしてしまったから居辛いとの事だった。で、ここは知り合いが多いからとちゃっかりこの宴会に参加させてもらったというわけである。「お前は教皇の直属だろう。そばにいなくていいのか」「たまには羽を伸ばしてもいいと思うんだよね、僕は」「あんな事があってこの場に来るお前の度胸を称えよう」「かつての敵が手を組むとか素敵だと思うよ」「ただ酒が飲みたかっただけだろ、お前」「向こうは女の子いないもの・・・」それが本音かよ。微妙な空気の中、俺はジュリオを援軍として酔っ払いたちに挑む事になった。「結局、男の人ってのはどのような胸がいいとおもうのれすかー?」「どーせ胸ならなんだっていいんれしょー」「断じて違う。いいかい?良き胸と言うのは形の良さだ。更に大きさも加えられる。その程よいバランスに男は惹かれていくんだ。フィオ、君のような何もかも中途半端な胸はよい評価を得られない。ルイズは問題外だ」「私が問題外なら、タバサも仲間ねぇ~」妙な仲間意識を持たれて迷惑そうなタバサ。縋るような視線で俺を見る。フィオは中途半端と言われたことにショックを隠し切れないようである。俺は野菜サラダを食べながらルイズに言った。「伸び代のないお前に仲間扱いされても・・・」「おのれタツヤ!言ってはならない事を言ったわね!!?」「どのような成長の可能性があろうともお前の成長は胸ではなく腹か尻だけだ!それがお前の運命だ!」「やかましい!変えてやるわよそんな運命!!」言ってる事は格好いいのだが、意味を考えればこの上なく情けない運命打破宣言である。「達也君・・・私は中途半端な女なのですか?」「ノーコメントでお願いします」「おのれ達也君!!そこはお前は俺にとっては最高の女だとか言う場面でしょうに!!」「思い通りにならないのが人生です」5000年生きてきてそんなことも分からんのかこのダークエルフは。「マリコルヌの胸のタイプを聞いても仕方ないわ。私達が聞きたいのは・・・あんた達よ。タツヤ、ジュリオ」「いや、皆それぞれ魅力的だよ」ジュリオがそうやってすぐ逃げた。女性どもはそんな八方美人的答えをつまらなそうに聞いて視線を一斉に俺に向けた。・・・何を期待に満ちた目で見てやがるお前ら。胸のタイプを答えろと言うのか俺に。・・・誤魔化せない空気なので答えはするが。「理想の胸?そりゃ姫様だろう」俺の答えに一同は凍りつく。アンリエッタは俺の恋人の杏里に生写しである。杏里を直接知らないルイズ達に分かりやすいように言ったのだが。マリコルヌが無言で俺の手をガッチリと握る。彼も同感らしい。「おのれタツヤ!アンタ事もあろうにトリステインの玉座を狙っているのね!?」「話が飛躍しすぎだ!?」「こうなればその姫とやらを亡き者に・・・」「その前にお前が老衰でくたばれババア!?」酔っ払いの相手は本当に疲れる・・・そんなことを痛感した夕暮れ時であった。聖戦を止める為行動する事を決めたアンリエッタは達也達を残して王宮に戻って執務室に篭っていた。国庫を空にすると同義の聖戦はやるべきではないと考えるアンリエッタはゲルマニアの誕生経緯を考えてそう思っていた。ゲルマニアは聖戦で疲弊した諸侯が反乱を起こした結果誕生した国家である。見たこともない聖地より、目先の生活が大事・・・人々はそう思って生活している。「こういうときのための女王の位というわけですかね・・・」アンリエッタは身を挺してこの聖戦を止める覚悟である。ロマリアの教皇は話が通じない。というか聖戦を宣言したのは彼である。ならばガリアの王に接触してみるしかない。では使者でも送るか?生半可な使者では駄目だろう・・・。そう思っていたからこそ、アンリエッタは後日、会食の席で重臣たちの前で宣言した。「このわたくしが、直接ガリア王と交渉いたします」食事を摂っていた重臣たちが一斉に噴出した。重臣たちは無茶だ!とか遠足じゃないんですぞ!と喚き散らしている。それもそのはず、彼女に万一の事があれば、後継者のいないトリステインは混乱の渦になる。「だまらっしゃい!これはトリステインのみならず、ハルケギニア存亡の危機なのです!わたくしがいなくとも枢機卿も母君もいらっしゃるではございませんか」「母を謀るとは娘ながら大したものです、アンリエッタ」「母君?隠居暮らしには速すぎると思われますから、万一があれば頑張ってくださいまし」「万一がないよう頑張ってくださいな」この母はどうあっても隠居暮らしを謳歌したいようだ。「わたくしは負ける賭けはしない主義です。最終的に勝つことこそ我がトリステイン王家の家訓のようなもの!それなりの用意はしてあります」アンリエッタは書類が詰まった鞄を握り締め言い放つ。この中には彼女が練り上げた外交案が入っている。アンリエッタはトリステインだけで収まる器ではなかったことに枢機卿のマザリーニは嬉しく思った。彼はアンリエッタの前に膝をつき、「ご成長を嬉しく思います」と、短く告げた。枢機卿がそういうならば他の重臣たちも反対するわけには行かなかった。こうしてアンリエッタはガリアに向かう事が決定したのだった。会食が終わり、その部屋に枢機卿のマザリーニだけが残った。彼は誰もいないと思われる室内で呟いた。「さて・・・陛下はお前の目から見ても成長したと思うかね?私は成長したと思うがな」「・・・・・・理想論ばかり振りかざす頃に比べればかなり成長しましたな」「だろうな。・・・ガリアにはアニエス殿も帯同するが、お前にも影ながら同行して貰う。良いな」「やれやれ・・・枢機卿も意地が悪い事を企みますな」「お前の能力は本物だと信じている。この国を愛するその心もな」「承知しました。陛下の御身、影ながら支えると致しましょう」「頼む」そう言うとマザリーニは部屋から退出した。部屋の中には誰もいなくなった。達也の世界。高校3年生の三国杏里は恋人の妹が寂しくないよう定期的に因幡家を訪れている。自身も今年受験で忙しい身ではあるのだが、それでも彼女は不満も全くなかった。そもそも両親は家にいないことが多いから因幡家は彼女にとって第二の家同然である。「ただいま、おば様!」「あら、お帰り杏里ちゃん」だからこうやって挨拶するのも自然である。杏里が因幡家の居間に行くと、そこにはケーキが置かれていた。達也の妹の瑞希がそのケーキをじっと見つめている。・・・ああ、そうだったわね。今日は・・・「よっしゃ、ひとまず全員揃ったな・・・」達也の父は椅子に座ってそう言った。息子と娘が一人ずつ行方知れずであるのが心配でたまらないのだが、今回はそんな雰囲気を持ってはいない。今日は一年に一回のめでたい日なのだから。「それじゃあ、主役はいない誕生会だが、始めるか!」「はーい」「「「「達也、18歳の誕生日おめでとー!」」」」そう、この日、何処かの世界にいる彼らの大切な人は18歳になっていたのだ。十八本の蝋燭の火が揺れている。杏里はそれを見ながら恋人の帰還を信じ続けるのであった。その頃、達也はというと、宿屋で寝ていた。酔っ払いたちに付き合わされ身体と精神が限界を迎えたのだ。隣では酔いつぶれたギーシュが寝息を立てている。部屋は酒臭かった。俺が目覚めると、そこは真っ白な空間だった。またこの空間かよ。今度もウェールズが出てくるんじゃないだろうな。少し離れた所から誰かが近づいてきた。俺は目を細めてその人物を見ようとした。その人物は自分と同じ黒い髪に黒い目・・・というかどう見ても日本人のような格好である。姿格好は同じ年齢位の男子であり、服も日本で一般的に着られている洋服であった。だが、そいつの姿に俺は見覚えはなかった。『よう・・・誕生日だってな、オメデトウ』「誰だよお前は?見知らぬ奴に祝われても気持ち悪いだけだぞ」『俺は数多ある物語の祖となる存在。いわば本物の物語の住人と言えばいいのかな?』「は?よく分からんが、名前はないのか?」『名前か・・・その物語では俺はこう呼ばれている・・・。『平賀才人』とな』「おお!異世界に来て初めて身内以外の日本人に会えた!?でも思ったんだが、その言い回し恥ずかしいからやめた方がいいよ」『大物っぽく出て来たのに何その言い草!?中二病扱いかよ!?』「俺は数多なる物語の祖となる存在(笑)」『(笑)つけんな!?畜生、何なんだこいつは!?』よく分からんが目の前の男は憤慨している。大物っぽく現れたが正直誰やねんお前。あ、そういえば今日で俺は18なのかー・・・ハルケギニアの暦と地球の暦は違うから忘れそうだったぜ・・・。一方、ド・オルエニールの達也の屋敷では真琴たちが達也の誕生日を勝手に祝っていた。・・・・・・誕生日を忘れているのはどうやら達也だけだったようである。(続く)