砂漠に住まうというエルフの一部族「ネフテス」の統領テュリュークは人間達の間で起こった無駄とも思える争いについての情報を聞かされていた。蛮族と自分達が呼ぶ「人間」は今回も同種で争う愚を犯している。何年、何百年過ぎても人間は本質的には全く変わらない。本来ならそんな愚かな事を続ける人間たちの戦争など、テュリュークの考える事ではないのだが何せこの戦争をしている人間たちの国「ガリア」に同胞でありネフテスの一員であるビターシャルが巻き込まれているのである。「我々の力が蛮族に利用される事になったのか。・・・フン、姑息な事を考えるものだ」しかしながらガリアの王はまだ話が分かる人物だと彼は評価していた。エルフの政治形態である共和制に一定の理解を示してもくれたのだ。更にはシャイターンの門に近づかないでほしいという要請には、ビターシャルの身柄をしばらくガリアにて預かることで了承を得た。「まあ、姑息だが彼はまだ御しやすい。問題はガリアの相手だな」ロマリア。エルフである彼らにとって悪魔であるブリミルを崇拝する輩が集まる国。そんな者達が自分達の願いを聞き入れてくれるとは思えない。加えてそのロマリアの教皇を名乗る人間は悪魔の力を持つという話ではないか。力に魅入られたその人間が、自分達を害すのではないのかとテュリュークは考えていた。「崇拝する者が違う者同士は相容れぬ。やはり危険はロマリアか」自分はエルフ達を危険から守らねばならない。無駄な血は流さないのが自分達の信条だが、無駄ではないと思えばわりと容赦はないのだ。「蛮族よ、貴様等がシャイターンの門に何を求めるかは知らぬ。だが・・・そこにあるのは貴様等が求めるものではない」何故、あの門を自分達が悪魔の門と呼称したのか。全てはあの悪魔のせいである。あの悪魔がこの星のバランスを崩してしまったのだ。そんな悪魔を神同然に崇める者達をテュリュークは信用する事はできない。「誕生があれば死もあるとはいえ・・・奴がやった事は称えられることではない筈なのだ」このエルフが住まう土地をそのような者達に踏み荒らされる訳には行かない。テュリュークは額に手を当てて考え込むように唸った。既にそのための先手を打つ事を評議会で決定したのだが肝心の待ち人がなかなか来ない。やっぱり歳だから身体にガタが来ているんだな。わっはっはっはっは!「・・・とでも言いたげな表情だな。小僧」「うおっ!??」いつの間にかテュリュークの目の前に現れていた赤い鎧の女性。長い金色の髪をポニーテールのように纏め、翡翠色の瞳は愉快そうにテュリュークを見据えている。見た目は若々しいがとんでもない。この女、5000年以上生きている。しかもこの女、それでも尚現役を貫いている。更に独身である。何か自分より強い男じゃないと結婚しないと誓っているらしいが、彼女に勝てる男はそうはおらず、いても大抵妻子持ちの男であるし、何よりそのような腕を持った者は既に鬼籍に入っており、事実上この女の婿候補は皆無的な状況に追い込まれている。「小僧とは何だ。統領と呼べ、統領と」「はっ、幼き頃フル●ンで砂漠に頭から埋められていた小僧をそう呼ぶ気にはなれんなァ?助ける身にもなって欲しいものだな、豆粒坊や」「おのれ・・・!!幼き頃の消したい過去を弄くりおって・・・!この老害剣士め!さっさと精霊たちの元に還れ!」「すまんがそういう年長者を労らんような言動は聞こえんのだ。何より私よりお前が先に死にそうだな坊主。皺と白髪がまた増えたのではないか?」「誰のせいだと思っているのだ!貴様が任務や調練に参加するたびに白い目で見られるのは私なんだぞ!」「結果、若い奴らは鍛えられるのだ。問題あるまいて。まあ、水浴びしてたら未だに覗きは絶えんがな。これでは蛮族たる人間と変わらんぞ?どうにかせい」「貴女が大往生すれば全て解決なんだが?」「私の水浴び姿を見てギンギンになっていた小僧がよく言うわ。まあ、何処がギンギンになっていたのかは言わんがな」「この糞ババア!さっさと往生しやがれ!!」「ウホホホホホホ!テュリューク統領?言動がお下品でありますよ?」「うるせェー!?大体なんでアンタは5000年も生きてんだよ!?」「気合と強い情念と日々の鍛錬が不老で魅力的な肉体と精神を作り出すのだ」「長い独身生活で培った腐れ根性の間違いだろうそれ!?」「腐っているとは何事か。見ての通り私はまだ戦士として老練に達した現役だが女性としては生娘に近い新品女だ」「アンタはもはや女の皮を被った何かだ。悪魔契約してなかろうな?」「生来悪魔に出会ったことは一度のみ。それ以外はとるも足らぬものばかり。癪に障る者は2、3名いたがな」「悪魔に出会った?契約はしなかったのか」「したさ。『いずれ仕留める』とな」「殺害予告という名の契約だな。で、その悪魔とはどうなったんだ」「・・・5000年間勝ち逃げされっぱなしだ。全く、女を焦らしすぎる悪魔だな」「焦らし過ぎた結果がそれか。私はその悪魔に恨み言を言いたい気分だ」「ふん、恨み言なら一人で言うのだな。それで坊主。私に用件とは何だ?まさか弄られるのが快感とか言うなよ?斬るぞ?」「そんな訳があるか!?貴女に評議会直々の任務だ」「評議会直々?珍しいな、いつもは私に会うと苦い顔をする奴らが」「貴女の腕を買ってのことだ。ジャンヌ殿」「ふん、都合のいい事言って年寄りを使い倒して」「お前のような老人がいるか!?」テュリュークはジャンヌの抗議を一蹴するように怒鳴った。ジャンヌはそんなテュリュークを指差しながら笑っていた。外傷は魔法で治せても、内の体力は戻せないらしく、ルイズ及び水精霊騎士隊の奴らは前の戦闘の勝利で勢いづいたロマリア軍が奪ったガリアの南西部に位置した城塞都市カルカソンヌで死んだように眠っていた。俺たちとしては勢い勇んで戦場に戻ってきたら何故かロマリアが勝っていたので、TK-Xが飛ぶ必要がなかった。・・・もはやフィオの存在意義が問われる結果に、フィオ本人は、『おのれ達也君!私を踊らせ楽しいのですか!』と泣きながら言っていたが俺は無視しました。馬鹿ヤロー!戦車は飛んじゃ駄目なんだよォ!!戦闘機でやれよそんなもの!戦車のキャタピラが泣くだろ空飛んだら!キャタピラ舐めんなよてめー!うむ、取り乱してしまった。ひとまず落ち着こうではないか。俺の目の前ではとりあえず我が主、ルイズが健やかな寝息を立てている。ここにマジックペンがあれば額に『肉』と書きたいほどの愛らしい寝顔であるが、ちょっと待っていただきたい。この女、狸寝入りが得意なのだ。俺も以前、彼女を窒息させようとした事があるのだが返り討ちにあってしまった苦い経験がある。人間は学習する生物でなくてはならない。それは俺もそうである。「達也君、この人間が貴方の主とか言っているふざけた輩ですか」「真剣に俺を召喚した女だ。事実に基づく事を言ったのに何故お前は冗談ととっている?」「何故でしょう?始めて会ったはずなのに、相容れない感じがとってもします。何か自分の存在の危機を思わせるような・・・」コイツの焦りはたぶん気のせいだろうが、フィオにとって何故かルイズは驚異的な存在に映ったらしい。彼女は眠っている筈のルイズに手を伸ばす。何をする気だ。「寝ている女の子を見かけたらまず胸を掴むんじゃないんですか?」「黙れ耄碌ババア。その女は掴む胸などない」「さらっと人を侮辱する発言をするなァーッ!!」「やはり狸寝入りか貴様!」「はっ!?しまった!あまりの怒りに作戦を忘れてしまったわ!?・・・ってそっちのシスターは誰よ?」「よくぞ聞いてくれました」フィオは胸を叩いて宣言した。「主様!使い魔君を私にください!!」「ゴメンねルイズ。この子、この台詞を人生で一度言ってみたかったという病気の子なんだよ」「達也君!?私は至って正常です!?愛に狂ってはしまいそうですが!」「まあ、いつも余計な一言を言ってしまう病気のお前のようなもんだ。持病持ち同士仲良くしてくれ」「なにその持病!?特効薬はないの!?」「残念ながら医学には限界というものがあるのだよ」「アンタは医者か!?」「これから俺をセラピスト・イナバと呼べ」「私たちは精神を病んでるといいたいのかアンタはーー!!」色んな意味で病んでるだろうお前ら。何自分は凄く至って正常だぞ♪という風にほざく事ができるのだ?俺を責める時は意気投合しやがって貴様ら!心底ウぜェ!何かルイズがやっぱり胸で選ぶのかとか言ったりフィオがつるぺたが好きとか社会不適合者です不自然ですとかのたまっていました。僕はこんな女性たちみたいなひとをおよめさんにもらいたくはないとおもいました。2ねんDぐみ、いなばたつや。さて、この馬鹿達は放って置いて俺は同僚、水精霊騎士隊のお見舞いをすることにした。個室が与えられていたルイズと違い、我が同僚たちは雑魚寝同然の大部屋で鼾をかいて寝ているものが大半であった。そんな中、我らが団長、ギーシュ・ド・グラモンは、何か悩んでいるように唸っていた。起きていたレイナールが俺に気付いた。「おお、副隊長!何か凄いピンピンしてるじゃないか!」「俺も俺なりに頑張ったんだが、物凄いなこりゃ。死屍累々じゃねえか」「僕らも僕らなりに頑張ったということさ。まあ、丸々三日ゴロゴロしてる奴もいるがね」「そうかい。まあ、お前らの健闘は称えるが、さっきからギーシュは何をやっているんだ?」「手紙を書いているようだ」「誰にだよ?」「聞くだけ野暮というものだよ副隊長」「モンモンか」頷くレイナール。どうやらこの隊長は恋人想いのようである。良いんじゃないか。同じ世界に恋人が居るだけ俺よりましだ。大事にしてやるといい。ギーシュもモンモンも友達だからな。幸せになってはほしい。しかし当のギーシュは物凄く悩んでいるようである。どういうことなのだろう?俺の疑問には憎々しげな目でギーシュを見つめるマリコルヌが答えてくれた。「モンモランシーに今まで恋文をしたためた事がそういえばなかったから悩んでるんだとさ。全く死ねばいいと思わないか?」「マリコルヌ。隊長の幸せを願わぬ隊員がいればその隊は発展はない。隊が発展すればお前を良いという変わった嗜好の女性もまた現れるやもしれん。心を広くもつんだマリコルヌ。狭い視野を持つ男に女は寄って来ない」「しかし!だからと言って僕の目の前で嬉し恥ずかしイベントをやるだなんて!」「落ち着けマリコルヌ!ここは大人になって隊長の初体験を見守るんだ!そして今後の参考にするんだ!」「どうせ※がついてただしイケメンに何とかってつくんだろう!参考になるか!」「煩いな!?静かにしてくれ!?」ギーシュが呆れた目で俺たちに言う。俺たちはこの男の力になりたいだけなのにそんな言い草はないだろう。だがこの程度で崩壊するほどやわな絆じゃないんだぜ俺たちは!俺はどうやら手紙の内容に煮詰まっている友を助ける為、一肌脱ぐ事にした。・・・何を期待しているのか知らんがちゃんと真面目にアドバイスはするぞ?こっちも恋人持ちなんだし。まあ、とりあえずギーシュが作った手紙を見てみるとするか。例によって俺は文字が読めない為、レイナールが音読してくれた。『僕の愛するモンモランシーへ。元気ですか?僕は死にそうですが元気です。この前ルイズを守るために皆と戦いました。僕たちは頑張って強大な敵をいくつか退ける事ができました。でもその代償は大きく、僕はヘロヘロで萎え気味です。早く会いたいです。戦争なんて嫌なので早くモンモランシーの所に戻りたいと思いました』「「「・・・・・・・・・」」」「自分の文才の無さに涙が出てくるようだよ」「何か小さい子の作文っぽくなっているからその辺を変えてみよう」俺はまずその辺りから考えてみるようにアドバイスをしてみた。そうだな、俺がギーシュとして書くならば・・・・・・。『ボクキトク スグキテクレ ギーシュ』「これだけでモンモンはすぐに会いに来てくれると思うがこれではモンモンの精神状態がとんでもない事になりかねん」「それこそ本当に僕は危篤状態になりそうなんだが」「だから至極普通に考えれば、とりあえず会いたい事を伝えればいいんだ」そういう訳でギーシュがモンモンを思って病まない事を伝える手紙を書いてみた。『そのドリルのような巻き髪が夢の中で僕のお尻を貫く夢を見るほど、僕は君を想っています。僕のモンモランシー。ロマリアの地でも僕は君の素晴らしき巻き髪を忘れた事は無い。例え距離が離れていても僕はいつでも思い出すであろう、君の芸術的な巻き髪を』「巻き髪しか誉めとらん!?それになんだその夢の内容!どうでも良すぎるわ!!」「女性を誉める時はとりあえず3つ誉めればいい。モンモンの場合は巻き髪、雀斑、そしてルイズを凌駕するスタイルの良さだ」「何それ!?外見的特徴しかないよね!?もっと内面的な所を誉めようと思わないのか君は!?」「どんなに奇麗事を言っても人は外面を気にするのさ」「恋人への手紙だ!?恋人への!!」「次は僕の番か」レイナールが眼鏡を押さえながら言うのを見て、ギーシュは若干期待の眼差しを彼に向けた。「要は隊長がモンモランシーを異国の地で心配、即ち想っている事を伝えればいいんだ」レイナールは自分の考えたモンモンへの手紙をしたためはじめた。『親愛なるモンモランシーへ。ロマリアでの任務は大変ですが僕は何とか死なずに元気でやっています。モンモランシーはどうでしょうか?身体を壊したりはしていないでしょうか?最近減食による減量を行なっていると聞いています。正直僕のためにと思うその気持ちは嬉しいのですが、正直僕は感心しません。腹が減っているのに食べないと苛々の原因になりますし、食べる楽しみもなくなってしまいます。ひもじき減量は続きません。それでは逆に身体を壊してしまいます。ちゃんと朝昼晩食べて適度な運動を心掛けてください。あと日々の体温のチェックも欠かさずにしましょう。万が一の事があれば僕は嬉しいのですが、何分色々とまだ未熟なもの同士、試練がかなりの割合で待っている事でしょう。万が一の事があれば僕はすぐに飛んでいきます。その万が一の事も考えた場合、減食による減量は母体及び胎児にも・・・』「っておおおいいい!!?いつの間にかモンモランシーがおめでたい事前提で書いてるじゃないか!?」「恋人の誤った減量による悲劇を予想し諭すのが真の男ではないのか」「過剰予測すぎるわ!?僕は彼女の母親か!?」「母性と父性を併せ持つ男こそ、いい夫になるのさ」「母性多すぎて鬱陶しいわ!?」「全く、君たちは乙女心というものが分かってないな」マリコルヌが溜息をつきながら俺たちに言った。うん、イラッっとしたよ?ギーシュは心底不安そうにマリコルヌに尋ねた。「マリコルヌ・・・大丈夫かい?」「任せてくれ。僕は君らと違ってこういう事を書くことについては得意だからね。伊達に振られまくってないのさ」そう言ってマリコルヌは手紙をしたため始めた。『愛するモンモランシーへ。僕は日々、君の事を想い悶々としています。遠回しに言えばムラムラしています』「って、待て待てーーーーー!!??なんだその手紙はーー!?」「モンモランシーと悶々を掛けたこの高等な技術を君はけなすつもりかい?」「高等な技術というよりそれは高等な変態が書いた手紙だろう!?」「変態?何をいう!恋人にムラムラしない男はいないはずだ!僕なんかその辺をすれ違った平民の女性や幼女にムラムラ出来るんだぞ?」「知るかァーーッ!?お前のそんな役に立ちそうにない特技など知るかーーー!?」「マリコルヌ・・・その手紙じゃお前は振られるぞ流石に・・・」俺は哀れみの視線をマリコルヌに送った。「と言うか君も同じレベルだからねタツヤ。下品なのは君も同じだからね?」「最終的に男女は下品な行為に行き着くのさ」「愛の営みと言えーーーっ!?」数日後、モンモランシーの元に届いた手紙にはこう書かれていた。『愛するモンモランシーへ。僕も皆も元気すぎて困ります。早く帰りたいです』「・・・一体向こうはどんな事が起きているのよ・・・?」モンモランシーは手紙を見ながら呟いた。心底自分の恋人が心配になった時だった。一方、ルイズに用意された個室。「達也君には恋人がいるですって・・・?」「そうよ!だからアンタの野望はここに潰えたのよ!」「青いですね、人間。私がその程度のことで怯むとでも?」「何ですって!?」「このフィオ、達也君を篭絡するぐらい訳がありません!!この美乳とスタイルと模擬演習54729回無敗の私は最早無敵!女の鑑ともいえる存在なのです!」「本番は?」「・・・・・・・・・」鳥の鳴き声が空しく響き渡った。(続く)