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No.18737の一覧
[0] 戦え!戦闘員160号! 第12話:『番外編・天才科学者とぼんくら戦闘員』[とりす](2011/01/20 18:29)
[1] 第01話:『超展開!? 地球に降りた二つの宇宙人!』[とりす](2010/05/10 19:18)
[2] 第02話:『対決! 魔法少女プリンセス・フリージア!』[とりす](2010/05/11 18:38)
[3] 第03話:『新たなる決意! 戦闘員としての一歩!』[とりす](2010/05/14 12:31)
[4] 第04話:『運命の出会い? もうひとりの魔法少女!』[とりす](2010/05/18 17:01)
[5] 第05話:『奇策! 160号の罠!』[とりす](2010/05/22 19:45)
[6] 第06話:『嵐の予兆!? 束の間の非日常!』[とりす](2010/05/27 21:19)
[7] 第07話:『黒星からの使者! わがまま皇女様のご指名!?』[とりす](2010/06/02 16:16)
[8] 第08話:『御門市観光! 引き寄せられた逢瀬!?』[とりす](2010/06/13 07:45)
[9] 第09話:『決戦! 御門市廃ビルでの死闘! 前編』[とりす](2011/01/01 19:33)
[10] 第10話:『決戦! 御門市廃ビルでの死闘! 後編』[とりす](2011/01/14 03:37)
[11] 第11話:『王の帰還! 黒き星の思惑!?』[とりす](2011/01/18 05:09)
[12] 第12話:『番外編・天才科学者とぼんくら戦闘員』[とりす](2011/01/21 08:42)
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[18737] 第05話:『奇策! 160号の罠!』
Name: とりす◆bdfaf7a6 ID:9aab68a9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/22 19:45
 資料室、という大仰な名前がついているわりには、その部屋はこの地下施設の中でも一際小さい。もっともそれは此処の需要をそのまま表しており、つまりは俺が踏み込むまで、この部屋は「とりあえず作ってはみたけど誰も入ったことはない」という開かずの部屋状態だった。
 部屋はワンルームほどで、そこには一人かけ用の小さな椅子と、その前にコンソールとテレビモニターが設置されているだけ。
 資料室という名前なのに紙の匂いが一切しないという斬新な場所だった。

「本当に調べるってことを知らないんだな、宇宙人どもは……」

 俺はその部屋の存在をヴェスタに訊ねてから三日間、ほぼ篭りっきりでそこに記録されている映像をチェックしていた。今の俺の体に三大欲求など存在せず、不眠不休でも何ら問題ないので、思ったよりは早く全ての映像を見終わることができた。
 もう少し編集されていれば時間も短縮できたのだろうが、仕方ない。何せここにある記録は、ディアナ様が基地で作戦指揮を執る際に映していた外の映像を、機械的に全部撮っていただけの代物なのだから。
 欲しい情報はそこに全てあるのだが、何せ一年分である。中には『ガーディアン・プリンセス』が登場していない日もあって、一応それらも全て確認しなければいけないのだから、流石に骨の折れる作業だった。

 だが、それも終わりだ。
 最後の映像――俺の初戦の恥ずかしい記録を見終えて、俺はコンソールを操作して映像を停止させる。それから、ふむ、と顎に手をあて静かに思い耽った。
 この三日間で得た情報を頭の中で整理し、考察し、組み立てる。
 けどまあ、おのずと出た答えは資料を見る前と同一だった。

「……プリンセス・フリージア」

 俺が調べたかったのは、彼女の今までの戦闘履歴だった。
 一年前の記録から彼女が初登場する回を洗い出し、そこから前回に至るまでの全ての行動を視聴させてもらった。
 フリージアが始めて我らの軍に立ちふさがったのが、今から約半年ほど前。
 戦闘経験は全部で9回。そのうちの7回、『超エネルギー体』の奪取に成功している。
 戦闘傾向は極めて単純。常に真正面から突っ込み、派手な魔法と格闘術で殲滅する。エテルを使用した「魔法」にもその性格ぶりが現れており、とにかく火力を持った放射系の魔法を好む。
 清清しいまでに正々堂々としており、9回中実に9回とも、我らに向かって名乗り上げを怠らなかった。そのうち3回は高い場所からのご登場という徹底振りである。
 しかし実力は確かで、彼女が現れてからの我らの勝率はまさにボロボロ。
 出てくれば必ず負ける、といっていいくらいに気持ちよく短時間で蹴散らされていた。
 無敵の無双状態である。

 ……ちなみに先日俺が遭遇した二人目の魔法少女、プリンセス・サイネリアは戦場にほとんど確認されておらず、出てきても必ずフリージアとのペアで、しかも彼女は後方に下がってほぼ“見ているだけ”に等しかった。
 一人で出てきたのは、なんとあれが初めてだったらしい。運がいいのか悪いのか。
 そのためノワールとしても、彼女のことは『スペア』という通称で呼び、あくまでフリージアの補欠要因……という考え方のようだ。俺が知らなかったのもそのせいだったらしい。
 こちらとは正反対に、戦力が極端に限られているルピナス。
 戦いは数だよとは言ったもんだが、彼女達もそれを補うため色々と工夫しているらしい。二人しかいないのでは、最悪の場合共倒れの可能性すらある。それだけでルピナスは全戦力を一瞬にして失うことになるのだから。

「しかしあの引きこもりのスペアをわずか二戦目で引っ張り出してくるとは……さすが私の息子、最高に運が悪いな」
「お前、それ遠まわしに自分も卑下してるぞ……」

 なんていうヴェスタとの会話もあったとかなかったとか。
 まあ、サイネリアに関してはあまりに情報が不足している。今回の考察からは除外するしかないだろう。こちらの作戦としてもそれが大きな穴になってしまうのだが、ほとんど出てこない、という一点に賭けるしかない。
 ――そう。次の戦いで、フリージア以外が出てきてしまっては困るのだ。

「とはいっても憑依獣の出現地とかにもよるしなあ……その辺が運任せ、ってのがどうにも気に入らないんだけど」

 まあ、なるようになるだろう。
 気楽に考え、俺は椅子から腰を上げ大きく伸びをする。この辛気臭い部屋ともしばらくはオサラバだ。精神的負担からくる肩こり(理論上発生しえないので、これは脳が記録してる前回の名残、といったところか)をほぐしつつ部屋を後にした。





「何をしている! こんな攻撃も避けきれんのか、この無能どもが!」

 演習場を覗くと、ディアナ将軍が大勢の戦闘員と集団組み手をやられている最中だった。手に持った鞭がしなり、足元に跪く戦闘員に容赦なく飛ぶ。

「この駄犬が! 靴に舌を這いずらせる暇があるならいますぐ立ちあがる気概を見せろ! それとも立てないと言うのか? 自分は犬にも劣る畜生だと惨めに認めて死の淵をもう一度漂いたいのか! さあ立て! 立って無様に襲い掛かって来い! 腕が吹き飛ぼうと半身が失せようと、壁になり骸になってあの忌々しい戦乙女どもを一歩でもおののかされるだけがお前たちの存在価値なのだから! ヒューズがぶっ飛ぶまで這い上がって来い! さあ、立て、立て、立て、立て、立て!!」

 ……あーあー完全にスイッチはいっちゃってるよ将軍。
 ディアナ様は本星でも名家の生まれとかで、幼少の頃から指揮官になるべく育てられた生粋の軍人なのだそうだ。『総帥』のお気に入りでもあり、そのためこの絶対少数を余儀なくされた作戦に、実戦経験がないにも関わらず司令官として抜擢された、とヴェスタは言っていたが――

(……ようするに左遷にしか見えないんだけどな)

 それは半分ディアナ様自身も感じていることだろう。
 この作戦に自身の今後が左右するのは間違いない。だからヴェスタに、言葉少なではあるが露骨にエテル変換機の開発を急がせている節がある。
 そうでなくては絶対に勝てないと。
 生まれながらにエテルを知っているからこそ、当たり前に存在していたエテルを持つ者に、エテルを使わず戦う方法、というのが頭の中で組み立てられないんだろう。
 まあ、戦車が跋扈する現在の戦場で、竹槍だけ使って勝てと言われているようなものだ。その心労は察するに余りある。ぶっちゃけ無茶振りに近い。
 少しでも、その気苦労を減らしてあげられればいいんだが――というのは、安い思い上がりか。
 俺は何の力もない、ただの戦闘員だ。

「……160号か。どうした、お前も混じりたいのか?」
「いえー、遠慮しときます」

 予定時間が終了し、ぞろぞろと戦闘員たちが演習場を出て行くのを見計らって、入れ替わりに中へと入っていく。彼女は頬をつたわる一滴の汗をぬぐい、艶やかなブロンド髪を自然な動作でかきあげた。
 ……宇宙人とはいえ、彼女は俺とは違って生身だ。そこには、生命だけが宿せる独特の美しさがあった。
 芸術家が、自身の命を賭して絵に情熱を燃やすのも分かる。
 彼らの才能が神の領域に達していたとしても、この美しさは絶対に無機物では描けない。

「どうした、私の顔に何かついているか」
「いえ、お麗しい顔立ち以外は何も」

 俺の反応があまりに予想外だったのか、ディアナ様は不可解そうに眉をひそめ、腕を組んでこちらを見つめてみた。理解できないと言わんばかりに。

「……奇妙な男だ。世辞を言いに来たわけではあるまい。どうだ、何か収穫はあったか」
「と、いいますと」
「とぼけずともよい。この数日、何やら篭って熱心に研究していただろう」

 おや、流石はお見通しか。
 別に隠す必要もないので、肩を竦め、適当に相槌して返す。

「それがこの私の前に来たということは、何か報告があるのだろう? 160号。奴らに勝てる算段でもついたか?」
「まさか。プリンセスの戦闘能力は歴然です。こちらは一撃でも食らえば使い物にならなくなる。戦って勝てる相手じゃありません」

 あっさり言うと、ディアナ様の表情レベルがまた一段階下がった。

「……そんな分かりきったことを調べるために時間を費やしたのか、貴様は」

 彼女の表情にやや失望の陰が差す。もともとそれほど期待もしてなかったろうけど。

「それが分かっただけでも収穫ですよ。……で、将軍。実は一つ、お願いがあるのですが」
「言ってみろ」

 つまらなそうに瞳を閉じた将軍に、俺は言った。
 先程とまったく変わらない、気負わない声で。

「――次の作戦、戦闘員は俺一人で出撃させてください」

 流石に、ディアナ様の動きが止まった。
 ゆっくりと瞼を開くと、蔑むような目でこちらを見下ろしてくる。
 強烈なプレッシャーが俺の全身を貫いた。

「今、自分が何を言ったのか分かっているのか?」
「ええ」
「勝算はあるんだろうな」
「損はさせませんよ」

 彼女の氷点下の視線に、俺も逸らすことなくまっすぐとぶつけあう。
 その目は凶器ですらある。俺が多分普通の人間なら、目をあわすどころか彼女が背負っている苛立ちを感じ取っただけで失禁しそうになるに違いない。
 ただまあ、幸か不幸か俺は改造人間。んな繊細なハートは死体と一緒に置いてきちまったようだ。
 ……やがて、緊張で研ぎ澄まされた場に、深いため息が漏れる。 
折れたのは、ディアナ様だった。

「……好きにしろ。ただし、お前の気まぐれに付き合うのは今回限りだ。次はない」
「ありがとうございます」

 頭を下げると、ディアナ様はなにやら苦笑を漏らしているようだった。右手で左腕の肘を胸元で支え、その左指が彼女のルージュを引いた唇に添えられる。

「ドクターは貴様の、その飄々とした奇抜ぶりに何やら期待なされているようだが……私は実績しか求めていない。この私を落胆させるなよ、戦闘員160号」
「はっ。それでつきましては、貸して欲しいものがあるのですが……」
「好きに使うといい。次の作戦はお前に一任する」

 いやあ、そうですか。それは助かります。
 俺はにやりと笑うと、ディアナ様にもう一度一礼した。





 そして数日後、ついにその時はやってきた。

『――160号。目標エネルギー反応だ。場所は座標を指定してある。既にプリンセス・フリージアの姿も確認されている。約束どおり、こちらからの指示はない。存分に勝手してこい』

 通信機からその情報を聞くや否や、俺は急いで黒の戦闘服に着替え、仮面を持って一直線にヴェスタの研究室に向かった。

「ヴェスタ!」
「来たか、酔狂者が。お前に頼まれた物は既に完成しているぞ」

 ヴェスタは俺を見た瞬間にやにやと下卑た笑いを浮かべながら、こちらに小さな機械を放り投げてくる。それは小型のトランシーバーのような形をしていた。

「携帯版の転送ポットだ。使えば既に機械に組み込まれている座標……すなわちこの支部基地に、瞬時に転移することができる。が、エネルギー容量から考えて使えるのは1度だけだぞ」
「ああ、助かる」
「くっくっくっ。そんな玩具一つで死地に向かうつもりなのか? 最初に話を聞いたときは面食らったぞ、160号。さ、遺言はないか? それとも最後に母の抱擁が必要か? 好きなのを選ばせてやるぞ」

 明らかに愉しんでいる口ぶりの幼女に、俺は悲痛な表情でかぶりを振った。

「いや……十分さ。天才ドクター・ヴェスタの発明品があるというだけで、何倍にも心強い」
「……いつになく殊勝だな、160号。貴様、まさか本当に諦めて自爆でもするつもりか?」

 俺の態度を不自然に思ってか、ヴェスタは眉尻を下げ、困ったように顔をしかめた。

「今からでも私の作った武器をいくつか持っていくか? エテルには抵抗できんが、足止めくらいにはなるぞ」
「大丈夫だって。俺を信じろヴェスタ」
「いやしかしだな……」
「ああでもそんなに気遣ってくれるならお言葉に甘えようかな」
「うむ、私の頭脳で役に立つなら――」
「いや頭脳といわず、その魅力的な肢体まるごと貸してくれ」
「は?」

 ぽかんと口をあけるヴェスタに、俺はにっこりと満面の笑みで微笑み、即座に彼女の頭を鷲掴みにした。





 夜の闇を、不自然な輝きが照らしてた。
 誰も通っていない深夜の交差点。そこで、一つの決着がつこうとしている。

「――我、焔の主が命ず。汝在るべき姿に還れ」

 爆発的に膨れ上がった赤い光が、紋章と共に獣の体に撃ち込まれた。

封印シール !!」

 一瞬の閃光。
 すぐに光は収まり、巨大な獣は姿を潜め、そこには宙をまわるカードと子犬だけが残された。

「よしよし、怖かったねー。もう大丈夫よ」

 街には決して馴染みようもないコスプレ姿の少女は、しゃがみこんで足元の犬の頭を撫でる。子犬はくーんと小さく鳴くと、今までの暴挙が嘘のように、元気にコンクリートを駆けて行った。
 それを笑顔で見送り、少女はふぅ~、と仕事を終えた達成感と共に言葉を吐き出す。

「まったく、時間場所問わず、ってのも考えものよねぇ。……あふ。こっちの身にもなって欲しいもんだわ。寝不足はお肌の天敵、って言葉知らないのかしら。ま、今回はあのうざったい戦闘員たちが来る前に叩けたから、そんなに苦労しなかったけど……」

 フリージアは宙に舞うカードを手に取る。全てを終え、彼女の気が緩んだその瞬間。
 俺は身を隠していた曲がり角から、ゆっくりと姿を現した。

「……誰!?」

 彼女との距離は50メートルほどはある。月の出ていない夜の闇に、頭上の蛍光灯だけが、俺の姿を照らし出していた。
 彼女はこちらの姿を見ると、緊張はおろか、心底うんざりしたような表情で肩を落とした。

「なんだ、たった一人で今更ご到着? 残念ね、もうカードはこっちの手の中よ。それとも――奪い取ってみるかしら?」

 彼女は挑戦的に、手に持っているカードを掲げて鼻で笑った。それは奪われるはずが無いという絶対の自負と共に見せる、完全な勝者の余裕であった。
 だから俺も。
 曲がり角に伸ばしたままで、彼女からは完全に死角になっていた、こちらの右腕を引っ張り寄せた。

「……っ!? なっ……!」

 フリージアが――絶対の火力と勝利を約束された戦士が、初めて表情を歪ませる。
 俺の右腕には、可憐な少女が抱えられていた。緑色の髪をツインテールにし、フリフリの白いワンピースを着た未だあどけなさが残るその少女は、フリージアに後ろを向いて……つまりは俺の胸に顔をうずめている形で、身動き一つしない。
 フリージアが表情を固めてよろめいたところで、俺はゆっくりと左手を差し出した。
 その意味が、分からない戦士ではないだろう。
 俺たちは滅ぼしあうために戦っているのではない。互いの目的は一つなのだから。

「ひ、卑怯な……!」

 歯軋りし、少女の憎しみのこもった敵意の視線がこちらを射抜く。
 はじめて見せた、彼女の憎悪。純粋な悪を見た、純然な正義の反応――
 俺は、一歩フリージアに向かって歩み寄る。
 彼女は後ずさりし……しかしすぐに留まった。
 そう、彼女は絶対に逃げられない。
 自身が正義の戦士だと自負している限り、絶対に。
 ……さて、しかしここで一つ後押ししておくか。
 俺は右腕にこめている力を若干強めた。それは先程決めた合図である。
 「むぎゅ」と呻いた胸元の少女が、忌々しげにこちらを見上げてくる。が、無視。
 しばし涙目でこっちを睨んできていたが、観念したのか、打ち合わせどおりの台詞を発した。

「た、たすけてぇえー」
「…………」

 超棒読みだった。
 ぱちんと左手で少女の頭をはたく。

「暴力はよしなさい!」

 まあ結果的に煽ることには成功したので、よしとしよう。
 進む俺と立ち止まるフリージアの距離は次第に埋められていき……やがては彼女の間合いに入った。
 知らず、脳が興奮しているのが自分でも理解できる。
 今、すぐ目の前にいる少女は、その気になれば一瞬でこちらの首を刎ねることも容易な戦闘力を持っている。力の差は歴然。こちらが弱者、あちらは強者だ。
 その構図は今も崩れていない。
 彼女は強者だからこそ立ちすくみ、弱者に膝をつかなければならないのだ。
 それは恐怖なのか、あるいは快楽なのか――今の俺は不思議と脳の高ぶりを実感しつつも、酷く冷静に事を運んでいた。
 失敗すれば即死……それすらも愉悦。
 伸ばした左手に、フリージアの視線が絡む。
 こちらの足は止まった。それ以降、互いに動きを見せず、奇妙な膠着が続く。
 催促はしない。
 あちらも何も言わない。
 ほぼ――予測どおりだった。
 やがて唇を噛み締めていた少女が、ゆったりとした動きで、こちらの左手に、カードを……渡した。

「……その子を離しなさい」

 殺すような視線でこちらを見据えるフリージアに、俺は数歩下がったあと、ゆっくりと少女の拘束を解いた。
 それからあからさまにじっくりと時間をかけて小型のトランシーバーを取り出し、彼女の前で、それを発動させる。
 小さな光の粒子が俺の体を包み込む。
 消える最後の瞬間まで、彼女はこちらを睨んでいた。悔しそうに――歯噛みしながら。





「このバカ! いやバカなどぬるいわ、このドアホめ! 死ぬかと思ったぞ!!」

 基地に帰った後、作戦室でディアナ様に事の報告をしていると、数十分後、ドタドタと騒がしくヴェスタが帰還してきた。

「おかえり、ヴェスタ。名演技だったな」
「うるさいわドアホ! 何ゆえ私がこんな心臓ばくんばくん言わせながら最前線に立つ兵士と騙しあいしなければならんのだ! ただでさえ科学者は対人能力が欠けているんだぞ! バレたらどうしようとか気が気でなかったわ!!」
「殺されないって。事前に何度も説明したじゃねえか」
「死ね! 腹を切って詫びろこの親不孝者が!!」

 当分怒りは収まりそうに無い。
 食って掛かる彼女のツインテールを掴んで操縦バーのようにして遊んでいると、ディアナ様が嘆息交じりに言葉を挟んできた。

「……何にせよ、よくやった戦闘員160号。お手柄だ。いささか私の美学に反する戦法ではあったが、な」
「許してくださいよ。今回しか通用しない手なんで」
「む? 何故だ、160号。貴様の卑劣で外道かつ厚顔無恥なあの人質作戦は今後も展開していけばよかろう」
「何言ってんだ、ヴェスタ。お前が言ったんだぞ」
「なに?」

 不思議そうにこっちを見上げるヴェスタに、俺は応える。

「ノワールもルピナスも、意図的には地球人を巻き込まない――パトロールだっけ? あれに対策してるのは、うちらもあっちも同じなんだろ? 地球の人間を使った人質作戦なんて、本来絶対不可能なんだよ、俺たちは」

 そう、今回の作戦は、まず第一歩のところで本来なら破綻しているのだ。
 でなければもっと早くこんな単純な手段を打っただろう。

「そういえば……そうだな。我らとしては当たり前すぎて、思考にも至らない。しかし何故、フリージアはそれに気付かなかったんだ?」
「気付いていたかどうかは知りませんし問題じゃありません。今回の要は、プリンセス・フリージアの性質にありました」

 彼女のこれまでの戦いぶりから、俺にはほぼ確信に至る、一つの可能性を見出していた。

「フリージアは、ほぼ間違いなく我らの戦闘員と同じ――『正義の味方』という肩書きをロールしているプレイヤーです。その立場に成りきり、その立場での行動を最優先する」

 無意味な名乗り。必ず真正面から立ち向かう、後ろからは襲わない、戦闘員が出ればカードが存在していても必ず全員相手にする――それは、ルピナスの戦士としては、本来無用のものだ。
 俺たちの目的は『超エネルギー体』のカードの回収にある。それを優先するのが普通だ。

「今回も色々仕込んでみて確信しました。あの子は絶対に卑怯な手は使わない。今日だってやろうと思えばできたんですよ。俺からヴェスタを強引に救う方法もあったし、カードを先に渡す必要もなかった。人質を解放した後また奪ってもいい――けど、彼女はしなかった」

 何故か?
 それは彼女が正義の味方だからである。
 汚い手は使わない、交渉は守る、人質に危害が出そうなことは可能性がある限り絶対に踏み込めない――

「それとやっぱり、ルピナス側で、俺達ノワールに対する説明が完全じゃないようですね。俺たちを『悪の手先』と呼んだり、地球人を人質にとれないことを知らなかったり……ルピナス側が、彼女の『正義の味方』を阻害する情報を与えていない可能性があります」
「……貴様まさか、それを調べるために今回のことを仕組んだのか?」

 ディアナ様の驚いた表情に、なんだか鼻をあかした気分で誇らしくなる。

「ま、これを知ってれば、今後色々と役に立ちそうですし。でも流石に人質作戦は何回も通用しないでしょう。今回の失敗で、ルピナスも情報を明かすはずです」

 だが、収穫としては十分だ。
 カードも手に入れたし、フリージアの弱点も知ることができたのだから。

「これで次からは、なんとか『戦い』らしいものが展開できそうですね、ディアナ様。プリンセス・フリージア……意外と容易ちょろいもんなんですよ、頭でっかちを出し抜くのなんてね」

 そう、それは。
 俺の脳が直接語りかけているような、言うまでもない、歴然とした一つの事実だった。






※げ、外道~!
Q:何が奇策だったんですか?
A:王道過ぎて一周回って誰も思いつかない的なアレ


次回、160号の進化


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