チップレースはダントツ、ジェシカがトップ。
ルイズはマイナスでダントツ、ドベ。
ブービーは俺。時たま入ってくる女性客に接客してチップを貰った。
そして、泣いても笑っても今日がチップレースの最終日である。
ルイズはジェシカから何か学んだらしく上手くやっていた。
うん。ルイズが接客してる、あの男後で殺す。
などと思っていると、デブ中年が店に入ってきた。
「これはこれは、チュレンヌさま。ようこそ『魅惑の妖精』亭へ……」
思い出した。奴はヤラレ役だ。
店側の空気は最悪、嫌なやつが来たという空気が漂っている。
しかし、そこに空気の読めないバカ妹、つまりルイズが接客を始めた。
「強者だな。空気読めないってレベルじゃねーぞ」
チュレンヌとのやりとりを見ながらそう思う。
デブ中年は店から他の客を追い出した。嫌だねー、こうゆう貴族がいるからこの世界はよくならん。
と思っていると、デブ中年は、ルイズの薄い胸を触ろうとしている。
おい、それは俺のものだ。
「飛び蹴りぃ!」
「ぐはぁ」
見事に転がるデブ中年。
「き、貴様……、よくも貴族の顔に……」
「しらんね。こいつは俺のもんだ!」
デルフは邪魔だったので、今は日本刀だけしか持っていない。
だが、この程度の奴はこれで十分。
というか日本刀が汚れるから切りたくないので責任転嫁することにした。
「ルイズ、こいつがお前の胸がペッタンコでかわいそうだって! やっておやりなさい」
「さっきは洗濯板とか言ってくれたし、死ね!」
『虚無』呪文、エクスプロージョンが炸裂した。
普段撃たれてるからその恐怖はわかるぞ。
それだけは同情してやる。
「な、何者? あなたさまは何者で! どこの高名な使い手のお武家さまで!」
チュレンヌはがたがた震えながら、ルイズにたずねた。
ルイズは答えずに、ポケットからアンリエッタの許可証を取り出してチュレンヌの顔に突きつけた。
「……へへ、陛下の許可証?」
「わたしは女王陛下の女官で、由緒ただしい家柄を誇るやんごとない家系の三女よ。あんたみたいなどこぞのしょぼい役人に名乗る名前はないわ」
「し、し、失礼しました!」
チュレンヌは命乞いをしながら有金をおいて逃げていった。
「すごいわ! ルイズちゃん!」
「あのチュレンヌの顔ったらなかったわ!」
「胸がすっとしたわ! 最高!」
スカロンが、ジェシカが、店の女の子たちが……、ルイズをいっせいに取り巻いた。
「ルイズ、魔法使ったら貴族ってばれるだろ。もう遅いけど」
「う……、だって……」
「いいのよ」
「へ?」
「ルイズちゃんが貴族なんて、前からわかってたわ」
スカロンが答えた。俺は貴族だとはばらしていない。いや、ジェシカが見抜けるくらいだ、父親のスカロンなら貴族と予測していたのだろう。
「こちとら、何年酒場やってると思ってるの? 人を見る目だけは一流よ。でも、なにか事情があるんでしょ? 安心しなさい。ここには仲間の過去の秘密をバラす子なんていないんだから」
このオカマ、漢である。
チップレースはチュレンヌのおいて行った金のおかげでルイズが優勝した。
翌日、ルイズは店の手伝いを休んだ。
きっと疲れたんだな。
すっかりと記憶から抜けてるイベントの事を思い出したのは、俺が部屋に帰ってからだった。
「おおぅ」
小悪魔っぽい何かがいた。
黒いビスチェ、『魅惑の妖精のビスチェ』と呼ばれる男を魅了するマジックアイテム。
いや、ただの服装なのだが、それは女の魔性と言っておこう。
「いつまでバカ面下げてんの。ほら、ご飯にしましょ」
やべ、顔に出てたか?
テーブルの上にはご馳走が並んでいる。
「なんだこれ?」
「わたしが作ったのよ」
「マジで~?」
「ジェシカに教えてもらったの」
そう言って頬を染めるルイズ。
「さ、食べましょ」
俺は頷いてルイズの作った料理を食べた。
なんだ、その、初めて作る料理らしい出来栄えだった。
「味はどう?」
「そこそこ」
決してまずいと言わないのが紳士的な答えであり空気を読む俺の回答だった。
「そういえばサイトって料理うまいもんね」
「ルイズが作ってくれたことがうれしいね」
ルイズはえらそうに頷く。接客で多少こういったことに免疫がついたのだろう。
「でもって、わたしは、どう?」
「すごく似合ってる。可愛い。結婚したいかも」
ルイズはまんざらでもない様子で飯をくってた。
アレ? 返事はどーした?