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No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
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[18616] 第15話 その2裏
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:ce31bc1c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/25 21:31
 それは、唐突に現れた。

「空間に亀裂!?」

「次元震か!?」

「いや、次元境界は安定している! それに、発生しているエネルギー量も少ない!」

 突如目の前に入った空間の亀裂。ゆりかご産のガジェットを相手にしながらその現象のデータを取っていると、そこから「それ」が現れた。現れた「それ」の名状しがたい姿に、戦っていた局員の間に動揺が走る。

「……なんだ、あれは……。」

「ば、化け物……!」

 多分、「それ」を形容する言葉を、人類は持ち合わせていないだろう。触手、内臓、鉤爪、無数に生えた牙、脳みそなど、「それ」を形作る要素を断片的にあらわす単語はたくさんある。だが、その要素全てを併せ持ち、一秒たりとも姿が安定していない「それ」を言い表すのは難しい。せいぜい、辛うじてグロテスクと称せる程度だろうが、その表現すらどことなく違う。

 そして、言葉で言い表せない姿をしているからか、「それ」を見ていると、だんだん自分が正気なのかが疑わしくなってくる。ただ一つはっきり言える事は、本能が「それ」の相手をすることを拒む、と言う事だけだろう。

「く、来るな……。」

 今までの戦闘で消耗していた局員たちの中には、「それ」の姿に耐えられない者も少なからずいた。それでも、ただ出てきただけなら、ここまで簡単に士気をくじかれる事は無かったであろう。

「あっ……。」

「えっ……?」

 出てきた「それ」が、一匹だけならば。踏みとどまろうとしていた幾人かが、あっけなく命を奪われたところを見ていなければ。そして、その死に様が普通のそれであったなら。

 胸やわき腹をあっさり貫かれた局員たちは、そのまま干からびながら溶かされると言う、おおよそ想像したくもない状態で命を奪われた。しかも、最初の時点で致命傷を負わされていながら、即死した訳では無かったのが、彼らの恐怖と狂気を煽っている。訳が分からない、と言う表情だった犠牲者が、痛みと恐怖で悶えながら崩れていく姿は、とても正視に耐えるものではない。たとえ管理局員とはいえ、それを見て平静を保てと言うのは、いくらなんでも酷だろう。

 そうして、恐怖と狂気は伝染する。

「ひぃ!」

「やめろ! 来るな!!」

「に、逃げろ!!」

 次々に仲間が殺され、食われて行く様に耐えきれなかった一部の局員が逃げ出し、その動きが全体に伝播する。その様子は、まさしくパニックと評していいものだ。隊長クラスが必死になって統制を取ろうとするも、その彼らですら逃げ腰なのだ。抑制など聞くはずがない。普通なら、ここまで統制がとれない逃げ方をすれば致命的な被害が出そうなものだが、今回に限っては、結果的には正解であった。

 パニックが起こり始めた時点では誰も気がつかなかったが、ゆりかご産ガジェットが局員を完全に無視し、出てきた「それ」に対して総攻撃を仕掛け始めたのだ。破損を一切気にせず突撃を敢行し、味方の攻撃の流れ弾を気にせずに持てる武器を壊れるまで撃ち続ける。戦闘機能を失ったものは体当たりからの自爆を躊躇なく実行し、ある意味「それ」と同じぐらい狂ったように戦い続ける。下手に踏みとどまって戦っていれば、間違いなく巻き込まれて余計な被害が出ていたであろう。

 結果として、「それ」はゆりかご産ガジェットに足止めされた事になる。皮肉にも、今まで命がけで戦っていた機械兵器のおかげで、管理局は大きな被害を免れたのだ。

「もしかして、今がチャンスなんじゃないか?」

 もちろん、その異常ともいえる状況に気がつく人間も少なくない。隊長クラスはもちろんの事、腕利きとして集められたフォートレス隊やストライクカノン隊、各地上部隊のエースなど、パニックを起こさずに、出来るだけ牽制をしながら安全に退却してきた人間は、皆一様にガジェットの行動の変化を見て、この後の行動の検討に入っていた。

「待て! 下手に攻撃を仕掛けず、まずは「あれ」の情報を集めるぞ!」

「そうだな。せめて、どんな攻撃が通用するのか、いや、真っ当な手段で叩き込んだ攻撃に効果があるのか、それぐらいは確認しないとな。」

 ストライクカノン隊とフォートレス隊の会話に同意し、可能な限り沢山のサーチャーを飛ばし、遠隔操作の攻撃用スフィアなどを利用して攻撃を入れ、状況を分析する。出した結論としては

「質量兵器も魔法攻撃も、一応効果はあるようだな。」

「だが、単純な斬撃や実体弾の類は、大したダメージにはなってないようだ。効果が無い訳ではないが、切ったはしから再生している。後、特に効果のある属性はなさそうだ。」

「そうなると、ある程度の範囲を一回で吹っ飛ばす攻撃で無いと厳しいな。使える手段は単純魔力砲か榴弾、拡散砲あたりか。」

 つまり、ベルカ式の出番は少ないらしい。フォートレスも、役に立つ攻撃ユニットは一つだけ。つまりは

「主力は、ストライクカノンになるな。」

「頼むぞ!」

「任せておけ!」

 ストライクカノンの設定を榴弾モード・出力最大に変更し、気合の声とともに返事を返す。そのままざっと手順の打ち合わせを済ませ、陣形を組み直す。打ち合わせ通り、フォートレス隊の隊長が全体の状況を確認し、最も効果的なタイミングを見計らって、ストライクカノン隊に指示を出す。

「目標ポイントA! 第一射、撃て!」

 その掛け声とともに、十といくつかの砲門から榴弾砲が同時に発射され、最も離れた所にいた「それ」に着弾させる。当った瞬間に大爆発を起こし、それの体は一瞬にして隅々まで焼き尽くされる。成果を確認するより早く第二陣と入れ替わり、素早く構えて照準を合わせる。流石に最大出力の榴弾となると、チャージも冷却もそれなりの時間がかかる。そのため、原始的な射撃戦・砲撃戦のように交代で撃たなければ、攻撃に結構な空白が発生するのだ。

「目標ポイントB、撃て!」

 第一射で標的を仕留めた事を確認し、第二射を新たな標的に撃ちこむ。亀裂をふさぐ手段がないため、どんなに頑張っても新たに出てくる事までは防げないが、それでもガジェットを盾に出来る事もあり、出てきた相手を仕留めての水際防御はできる。

「第三射、撃て!」

 敵の敵は味方。図らずもそう言う共闘関係が成立する現場。ゆりかご産ガジェットとストライクカノン隊は、順調に敵の数を減らす、もしくは維持する事に成功するのであった。







「なんや、あの見てるだけでSAN値が減っていきそうな生きモンは……。」

『優喜達が仕留めに行ったの、あれの親玉らしいわね。』

「そうなん? って言うか、プレシアさんは知ってはったん?」

『今、ブレイブソウルから連絡があったのよ。後、他の現場からの情報で、あれがどんな攻撃をしてくるかが判明しているわ。今、そっちに転送する。』

「了解。」

 プレシアから転送されたデータと、その時の現場の映像を見て、思わず顔をそむけそうになる。これは無い。いくらなんでも、これは駄目だ。

「……うわあ。」

『間違っても、子供には見せられないわね。』

「流石にこれは、報道規制が要るわ。」

『秘密にしたい、と言うより、お見せ出来ない映像になってるわね、見事に。』

「それにしても、通信妨害がかかってるのに、よう情報がもらえたなあ。」

『フォートレスやストライクカノンの隊長仕様機は、通信機能を強化してあるのよ。ゲイズ中将からの要請があって、そっちに対する実装を優先したから、広報の子たちのデバイスを全部改造する暇は無かったのだけど。』

 プレシアの言葉に、なるほどと頷くはやて。通信妨害対策に関しては、テレポート対策と同じぐらい優先して開発を進めているのだが、流石に「縛めの霧」クラスとなるとなかなか完全な対策は無理だ。それに、テレポートやAMFと同じく、相手も対策に対する対策を開発していくため、いたちごっこになりがちなジャンルでもある。

 現状、今回の最新型や「縛めの霧」クラスの通信妨害に対して問題なく通信ができるデバイスは、同じく最新の通信システムを搭載したデバイスを除けば、正真正銘ロストロギアである夜天の書かブレイブソウル、後はもはやロストロギアと変わらないレイジングハートとバルディッシュだけだ。後は、アースラから各隊員に通信を送った場合、辛うじて連絡が取れる程度である。

 普段は厄介な通信妨害だが、今回に限ってはプラスに働いた面もある。無謀なマスコミの記録映像が、検閲前に生放送で流される事を防げたことだ。それまでのガジェットやレトロタイプとの戦闘はともかく、これに関しては絶対に普通に放送するのは無理である。こんなものを無修正で放送した日には、パニックでは済まない。

「とりあえず、通信妨害のおかげで、マスコミに圧力をかける余裕ができたんはありがたいわ。何ぼ何でも、そのままでながす事はあらへんとは思いたいんやけど、あの人らの倫理観なんか、全く当てにならへんからなあ。」

『そうね。その件に関しては今、リンディと協力して、スポンサー周りも含めていろんなところに圧力をかけてあるから、流石にそう簡単に無修正の物が流出する事は無いでしょうね。』

「そっちは任せますわ。とりあえず、ちんたらやってると碌な事にならんやろうから、出てくる奴は出来る限り迅速に始末せんとなあ。普通に攻撃は通用するんですよね?」

『今いる奴は、そうみたい。ただ、同じような見た目で、全く物理攻撃も魔法攻撃も通じないのも居るらしいから、そっちは注意が必要ね。』

 プレシアのえぐい言葉に、思わず顔をしかめるはやて。あれで攻撃まで通用しないとか、どんな嫌がらせなのか小一時間ほど問い詰めたい。

「それって、どうやって倒すん? 後、識別できるん?」

『識別するのは簡単ね。ブレイブソウルいわく、同じ見た目だけど、プレッシャーとかそういったものが段違いだそうよ。倒し方については、気脈系の攻撃か、霊力による攻撃なら普通にダメージが通るそうだから、そう言うのがいたら、一般局員は下げるしかないでしょうね。』

「また難儀な、って言うか、その定義やと、私とフォル君以外のヴォルケンリッターは、基本的に物理無効のが出てきたら、倒しようがない、っちゅうことやん。」

『そうね。ただ、ダメージが出ないと言うだけで、一応影響はあるそうだから、足止めぐらいはできるんじゃないかしら?』

「それしかあらへんか……。」

 つくづく面倒な話だ。思わずため息交じりに、そう内心でつぶやくはやて。とりあえず、今いる奴は普通に攻撃が通りそうなので、さっくり大技を使って殲滅すればいいかと考え、まとめてラグナロクで吹っ飛ばしてみる。予定通り、普通にすべて消滅したのを確認して、次の標的をロックオンしようとしたところで、今まで感じた事の無いプレッシャーを浴びる。

「な、なんやあれ……。」

 プレッシャーを浴びせられた方を向いて、思わず絶句するはやて。そこに居たのは、今までと同じ名状しがたい姿をした何かだった。そう、見た目は。

 だが、明らかに何かが違う。今までのは、見ているだけでどんどん正気が削られて行きそうな感じはあったものの、腹に力を入れればそれほど問題は無かった。だが、今回現れたのは、そんな生易しいものではない。あれは、そばにいるだけで正気が削られ、直視するだけで耐性の無いものは即座に向こうの世界に連れて行かれてしまう。そんな生き物だ。

 夜天の書のバックアップがあり、しかも大概正気を保つのが難しい経験を重ね、更に気功によって鍛えられた精神力を持つはやてですら、ややもすると一目で狂気の世界に足を踏み入れそうになるプレッシャー。見方を変えて観察すれば、周囲にばらまいている瘴気の量が桁違いである事が分かる。見た目が同じだからとなめてかかれば、痛い目にあう程度では済まないだろう。

「……なるほど。見てるだけでSAN値が削られて行く程度のが物理攻撃が効いて、直視したらSAN値直葬されかねへんのが物理攻撃無効、と。」

 どうにかこうにか正気を保ち、茶化すようにつぶやいて無理やり気を取り直す。何でリアルにクトゥルフみたいな事を体験する羽目になってるのか、などと思わず遠い目をしそうになるのをこらえ、どうにかこうにか通用しそうな攻撃の準備をする。

「さて、どの程度通用するかは分からへんけど、やるだけやってみるか……。」

 腹をくくり、己の手札のうち、気功変換と相性がいい魔法を発動させる。

「行くで! ティルフィング!」

 邪神っぽいのを相手に、邪悪な魔剣の名を冠した魔法を叩き込む。そんな趣味の悪い状況に対し頭の片隅で苦笑しながら、とりあえず目の前のやばそうなのを、全力で排除しにかかるはやてであった。







「参ったもんじゃの。」

「何なんだ、あれは……。」

「さての。ただ、儂らにどうこうできるものでも無かろうて。」

 逃げ出すタイミングをはかるため、周囲の状況・情報を表示していたモニター。そこに現れた名状しがたいものと老人の姿をした何か。それを見てしまったマスタングとフィアットは、表情の選択に困りながらぼやく。正直なところ、ただそいつらが出てきただけならば、こんな表情はしていない。

 表情の選択に困ったのは、そいつらが人間を捕食したシーンだとか、老人の姿をした何かがヴァールハイトを脳漿で焼いたシーンだとか、そう言うあまり直視したくない映像を見てしまったからである。流石に、たかが映像でそれを見たぐらいで取り乱すほど、この二人は真っ当な可愛らしい神経はしていないが、かといって完全に平静を装うには、ちょっとばかり常識やら何やらから外れた光景だったのも事実である。

「本当に、どうにもできないのか?」

「出来る可能性がある事については、儂は出来んとは言わんよ。」

「そうか……。」

「まだ、わらわら出てきちょる方には質量兵器が効いておるようじゃから、とりあえず対処のしようもないでは無いがの。あの爺もどきには、儂らの手持ちでは手も足もでんよ。」

 マスタングの言葉に、思わず黙りこむフィアット。実際、マスタングの作ったものでどうこうできるのであれば、ヴァールハイトがあそこまで一方的に追い詰められ、なぶられる事は無いだろう。その事実に思い当り、完全に言葉を失ってしまった。

「むっ……。」

「どうした?」

「どうやら、儂の手持ちとは、とことん相性が悪いようじゃの。」

「厄介なのが、要るのか?」

「明らかに、質量攻撃も魔法攻撃も効いちょらん奴がおる。広報部の連中の攻撃は、どういう訳かちゃんとダメージになってはおるがの。」

 とことんまで厄介なマスタングの指摘に、思わず顔がゆがむフィアット。正直、質量兵器も魔法攻撃も効かないなど、反則ではないかと小一時間ほど問い詰めたい。

「どうする? 考えようによっては、管理局が混乱している今はチャンスだが、この隙に逃げだすか?」

「そうしたいのは山々じゃがの。脱走しようにも、丁度脱出ルートのあたりに亀裂が出ておっての。しかも、このままじゃと広報部の部隊とかちあいそうなんじゃ。」

「……全く、運が無いな。」

「ぶっちゃけるとの。逮捕されても死刑になる訳ではないから、あれに絡まれて食われるぐらいなら、捕まった方がましじゃろう。」

 マスタングの身も蓋もない意見に、だが今回の状況的に同意せざるを得ないフィアット。そんな話をしている間にも、画面の中では状況が動き続ける。逃走経路をふさいでいた名状しがたい何かが、広報部所属らしい、まだ十歳にも満たないであろう小さな少女に一刀両断された。

「本当に、広報部の連中の攻撃は通じるんだな。」

「正確には、あのミスターXが教えた技能による攻撃は、なんじゃろうな。因みに、今あのちびっこが切り捨てた奴、他の局員の攻撃は効いておらんかった。」

「よく見ているな……。」

「たまたまじゃよ。連中とあれが戦闘を始めたのは、おぬしが状況を整理している最中だったからの。」

 マスタングの言葉通り、戦闘が始まったのは、丁度フィアットが画像や音声データから有用な情報を抽出し、整理している最中だった。いくらなんでも、その作業と並行でこれだけたくさんの映像を細かく確認するのは、たとえプレシアをはじめとする、もはや変態の域に達したと言われるほど有能な人間でも不可能だろう。マルチタスクと言っても、人間のそれは限度がある。

「しかし、威力や技の練れ方に釣り合わぬ、気の抜ける掛け声じゃのう。」

 まだ何匹かいるうちの一匹を、「ちぇすとー」と気合の入っていない掛け声とともに、彼女の身長と大差ない長さの野太刀で一刀両断する少女。その声を効いて、思わずマスタングの言葉に同意するように苦笑してしまうフィアット。流石にこの数だと全てが特殊属性攻撃以外無効、と言う訳ではないらしく、他の局員たちもそれなりに数を減らしている。

 何より効果があるのは、若草色の髪をした、尖った耳を持つ少女が鏡をかざしながら張る結界で、これにより相手の動きと攻撃力、及び防御力が洒落にならないぐらい落ちているらしい。長い黒髪の、変わった形のペンダントを胸にぶら下げている少女の弓も、単なる弓とは思えない貫通力で相手を貫き、一撃で消滅させている。原理は不明だが、あの三人の攻撃は広報部の中でも特に、今回出てきたような生き物には効果が高いようだ。

「子供だと言うのに、強いな……。」

「今更の話じゃの。とりあえず、ちょうどいい感じじゃし、そろそろ逃げるかの。」

「そうだな。うまい具合に、連中が掃除を済ませてくれたようだ。」

「後は、適当に陽動をかけて、と言うところじゃな。」

 着々と逃げるための行動を始める二人。彼らは知らなかった。その動きが、鏡を持つ少女に筒抜けになっている事を。







「ドクター……。」

 次々と現れる、名状しがたい姿の何か。それを見て乾いた声でつぶやくウーノに対し、ギラギラと輝く目でモニターを見ながら答えるスカリエッティ。

「ようやく、つながったよ。」

「何が、ですか?」

「ゆりかごにある、用途不明の機能について、だよ。」

 ゆりかごの砲撃には、用途不明の機能がつけられていた。生き物の精神を破壊して殺す、と言う機能だ。ゆりかごの主砲なら、そんな妙なシステムで砲撃をしなくても、生き物など普通に撃てば都市をいくつ、という単位で殺すことができる。せいぜい建造物に影響を与えない事ぐらいしかメリットが思い付かない上、植物や微生物も殺してしまうため、クリーンな武器とは言い難い、何のためにあったのか分からない機能である。

「……もしかして、あれに通用する、と言うのですか?」

「多分、ね。考えてみれば、ミッドチルダ式だろうがベルカ式だろうが、我々が普段使っている攻撃魔法は全て、基本的には物理的な影響によりダメージを与える、いわば物理攻撃だ。せいぜい、実態が伴っているかいないかぐらいの差しかない。」

「その説明では、非殺傷設定の機能については、ちゃんとした説明はできないのではないでしょうか?」

「非殺傷設定と言うのも、基本的には魔力の相互干渉と言う物理法則を利用して、スタミナと魔力を奪っているにすぎない。だから、流れ弾である程度物理的な破壊が起こっているだろう?」

 スカリエッティの言葉に、頷くしかないウーノ。

「今現在存在している魔法は、精神に干渉できるものはほとんど無い。せいぜい、医療用にいくつか、暗示の延長線上のようなものがある程度だ。今回タイプゼロを洗脳した魔法だって、結局は単なる暗示の延長線上だしね。」

「確かに、そうですね。」

「つまり、現代魔法は、人の精神に対する攻撃や防御の手段が、極端に少ないと言う事になる。」

「それが……?」

「質量兵器が効かない相手に、魔法攻撃まで効かない原因だろうね。ついでに言えば、バリアやシールドが何の効果も示さないのも、同じ理由だと推測できる。」

 スカリエッティの解説に、不安そうな表情を浮かべるウーノ。結論が出たところで、ではどうするのか、と言われれば、ウーノには取れる手段が思い付かないのだ。

「ドクター。あれの親玉らしき老人、ドクターならどうなさいます?」

「ゆりかごが手元にあるのであれば、即座に砲撃をかけるね。無いのであれば、基本的には関わらない。必死になって逃げるよ。」

「利用できるように、コントロールの手段を探す、という考えは無いのですか?」

「ウーノ。あれをたかが人間がコントロールしようだなんて、ただの思い上がり以外の何物でもないよ。今に精神系の魔法がほとんど残っていないのも、研究そのものがタブー視されている気配があるのも、どうせあれを呼び出した愚か者がいたからに決まっている。」

 スカリエッティですらそこまで言い切る存在。それに思わず頭を抱えたくなるウーノ。いくらなんでも、反則ではないのか?

「それにしても、もはや残滓となってしまっているようだけど、やはり聖王は聖王らしいね。」

「……砲撃?」

「ああ。さっき説明した機能が、アクティブになっているよ。やはり、あれと戦うためにつけられたものらしいね。」

「つまり、古代ベルカの崩壊の原因に、あれも関わっている訳ですね。」

「でなければ、いくらなんでも、己の世界を破壊するまで闘いをやめない、なんていう愚かな真似をするはずがないよ。」

 スカリエッティの言葉は、妙な説得力があった。

「何にせよ、あれは放置しておくわけにはいかない生き物だ。こちらには手出し出来る手段がない以上、ゆりかごと広報部には頑張ってもらうしかないね。」

「この近くにもあの亀裂が発生しているようですが、どうなさいますか?」

「さっきも言ったように、我々に取れる手段はそれほどない。それに、有名人が私を捕まえに来るようだし、彼女に対処を任せてしまっていいだろう。」

「そうですね。分かりました。」

 やはり、スカリエッティには逃げる気は無いらしい。ならば、地獄の果てまで付き合えばいい。

「とりあえず、彼女を出迎える準備をしようか。」

「なんなりと、お申し付けください。」

 マスタング達とは対照的な二人。幕引きへの準備は、着々と進んでいた。







「へえ、面白いじゃないの。」

 唐突に表れたそれを見て、クアットロは楽しそうにほくそ笑んだ。

「やっぱり、これはドクターが世界を支配しろ、と言うメッセージね。」

 そんな勝手な事を言いながら、この隙に管理局を殲滅し、クラナガンを一気に制圧してしまおうと、増産したガジェットドローンを次々に発進させる。だが

「……どういうこと?」

 ガジェットドローンはクアットロのコントロールを受け付けず、次々に現れる名状しがたいものに向かって行く。

「何故コントロールが? ……上位からの割り込み指示? 私より上位なんて……、まさか!?」

 思い当たる内容に顔色を変え、誰が割り込みをかけているのかを手繰っていく。予想通り、指示は王の玉座から出ていた。

「陛下! これはどういう事ですの!?」

『あれの存在を、許しておくわけにはいかない。』

 いやにはっきりした口調で答えるヴィヴィオに、思わずイラッとした表情を浮かべるクアットロ。人形は人形らしくしていればいいのに、と言う意識が、もろに表面化している。そんなクアットロを完全に無視して、さらに何らかの指示を出し続けるヴィヴィオ。その表情は、先ほどまでの人形そのもののうつろなものではなく、まさしく聖王と呼ぶにふさわしいものである。

「陛下、一体何なのですか!?」

『あれを放置しておくと、手の着けようが無くなる。今のうちに殲滅しなければ、たとえこのゆりかごといえども長くは持たない。』

「ドクターなら、あの程度の生き物……。」

『たとえモニター越しとはいえ、あれがどういった生き物なのかが分からないような小物は黙っていなさい。』

 人形だと思っていた小娘の言葉に、思わずカチンとくるクアットロ。洗脳装置の強度を上げようとスイッチをいじるが、ヴィヴィオにはこれと言って変化が起こらない。

『本体には、この位置からでは砲撃は不可能。おまけで出てきた連中の密集地帯は、あそこ……。』

 その言葉で、彼女がなにをしようとしているのかを理解するクアットロ。別段それ自体はやられると拙い事ではないが、余計な情報があちらこちらにばらまかれるのは、正直ありがたくは無い。

『退魔砲、起動。発射。』

 淡々と、だが確固とした意志を持って砲撃を開始するヴィヴィオ。あまりの手際の良さに、クアットロが割り込みをかけて緊急停止を行う余裕すらない。

(もう、本気で何なのよ!)

 大したことではないとはいえ、自分の指示に逆らうヴィヴィオに、イライラが頂点に達する。実際のところ、いずれは駆逐しなければいけなくなるであろう生き物なので、今そっちに攻撃を集中させたところで、そこまで不利益がある訳ではないが、それでも不愉快なものは不愉快なのだ。

「陛下! 高町なのはがこちらに向かっています! 早く迎撃を!」

『捨てておきなさい。どうせ最初から、内部に誘い込んで始末する予定なのでしょう?』

「それでも、迎撃の意志を見せるのと見せないのとでは!」

『心配せずとも、代わりに迎撃してくれるものがいる。』

 そのヴィヴィオの言葉の通り、なのはの進路をふさぐように、三つほど空間の亀裂が発生している。

『近すぎて、砲撃には不向きな位置。代わりに処理をしてもらいましょう。』

 完全に、謎の生き物を駆逐する事に意識の全てを集中しているヴィヴィオ。霊視ができる人間が見れば、クアットロからのラインを断ち切るように、ヴィヴィオに大量の何かが憑依しているのが見えるだろう。

『第二射、発射。』

「少しはこちらの言う事も!」

 自分はいつも人のいうことなど全く無視するくせに、一人だけ完全に状況に取り残されて苛立ち、切れるクアットロ。そんな彼女を無視して、ヴィヴィオ、もしくはヴィヴィオにとりついている誰かは、黙々と名状しがたいものを始末し続けるのであった。







『セレナ、聞こえるか?』

「どうしたの、ミヒャエル?」

 目の前の名状しがたい何かを全て仕留め終え、出力任せに空間の亀裂を閉じたところで、セレナのデバイスに通信が入った。相手は同期の男性ドラムグループ「ビート」のリーダー、ミヒャエル・ベンツだ。三期生のデバイスはとある理由により、広報部でも一、二を争う通信機能を持っているため、この重度の通信妨害下でも普通に連絡が取れる。

『あれが出てきてから状況が悪い。ゆりかごが奴らに仕掛けているから何とか総崩れだけは避けているが、このままではもたない可能性が高い。』

「……そうね。多少は鍛えてる私たちでも、あれはちょっときついものね。」

『ああ。だから、俺達で現場の心を支えるぞ。』

「あれを、やるの?」

『他に何がある?』

「顰蹙とか、買わないかしら?」

『俺達はミュージシャンだ。ミュージシャンが演奏して、何が悪い?』

 ミヒャエルの台詞に、苦笑しながら同意するセレナ。この時点で、彼の提案を実行するのは確定した。

「分散してやるのはリスクが高いから、どこかに集合した方がいいわね。どこにする?」

『そうだな。中央公園がいいだろう。』

「了解。すぐに合流する。」

 通信内容を共有していた他のメンバーが、即座に移動を開始する。正直、彼女達が抜けると厳しくならないか、という懸念はあるにはあるが、二期生がアースラからの指示で、手薄なところをフォローするように飛び回っているらしいので、そっちを当てにしてもいいだろう。

 本来なら、歌で全体を激励するとか、なのはとフェイトに任せたいところなのだが、あの二人はあの二人で戦力として重要な上、ゆりかごの制圧とスカリエッティの逮捕と言う、下っ端には到底任せられない仕事がある。それに、こういう時こそ、三期生のデバイスに搭載されたシステムの出番だ、と言うのもある。

「来たか。」

「打ち合わせは、準備をしながら。」

 幸か不幸か両組とも名状しがたいものとは遭遇しなかったらしく、通信から一分とかからずに合流を果たす事が出来た。テキパキとした動きでデバイスの設定を変更し、特殊機能の立ち上げを済ませ、全員の立ち位置を決める。

「一曲目は、任せていいのね?」

「ああ。うってつけの曲がある。楽譜は転送した。」

「……なるほどね。じゃあ、二曲目は全員で、って感じね。」

「それ以降は、流れに任せてやるぞ。」

「了解。ユニット、リンク開始!」

 遠隔操作でクラナガン全域に張り巡らされたサウンドブースターユニットが、中央公園のステージとリンクする。

「リンク完了、いつでもいいわ!」

「では、連続で行くぞ! 一曲目『今がその時だ』、二曲目『SKILL』、演奏開始!」

 ミヒャエルの、十代前半とは思えない渋い声が、演奏に合わせて朗々と歌い上げる。明日のために、今こそ命を燃やす時だ、と言う軍歌のような歌詞だが、実のところは日本のアニメソングである。アニメソングながら、戦いに向かう者達を奮い立たせようとする内容は、ミヒャエルの渋い声と相まって、圧倒的な言霊となってクラナガン全域に響き渡った。







「後一匹!」

 目の前で閉じられつつある亀裂を横目に、エリオは何体目かの名状しがたい何かを始末する。姿や攻撃手段のグロテスクさの割に、彼らは気功系の攻撃に対しては実に脆い。亀裂から現れた五体のうち、三体が出てきた瞬間に一撃で落とされ、コンビネーション的な動きで抵抗していた残り二体のうち片方も、それほど長く持たずに処理されていた。

「封鎖完了! フリード、ホーリーフレイム!」

「キュイ!」

 エリオに対する攻撃を外した名状しがたいものに対し、フリードの特殊属性ファイアブレスが襲いかかる。基本的に炎の性質をもつブレスだが、よく分からない手段でフリードに気功を仕込んだ結果、幽霊だの名状しがたい何かだのにやたらよく効く炎を吐けるようになったのだ。

 とは言え、確実に吐けるようになったのはつい最近で、美穂が来た頃はほとんどコントロールができておらず、吐いたら偶然そうなった、見たいな感じがずっと続いていた。その頃にこいつらが出てこなくて良かった、などと心の底から思うキャロ。目の前では、名状しがたい何かを焼き尽くし、得意げにフリードが胸を張っている。

「とりあえず、ここは終わったね。」

「お疲れ様。」

「早くティアナさん達と合流しないと、あんまりいっぱい来ると全然手が足りないよ。」

「うん。急ごう。フリード!」

 空をぐるぐる回って状況を確認していたフリードが、キャロの呼びかけに従い地上に降りる。もうすでに遭遇戦は三回目。最初は見た目のあれさ加減にかなりてこずったが、三度もやりあえば慣れる。超大型のレトロタイプなんかと比べると、素直に始末されてくれる分だけ、エリオやキャロにとっては相性がいいと言える相手だ。

 もっとも、だからと言って、精神的な負担が変わる訳ではないが。

「それで、ティアナさん達はどっち?」

「向こうの方だと思う。」

 辛うじてティアナとスバルの気を拾ったキャロが、ちょっと自信なさそうに行き先を示す。空振りだったら空振りだったで問題無い、そういう考えのもとに行き先を決め、フリードをそちらに向かわせる。数秒後、二人の背筋を冷たいものが走る。

「フリード!」

 どうやら、フリードも同じような何かを感じていたらしい。声をかけるまでも無く、背中に乗っている人間の事など一切無視して急降下を始めていた。

「キャロ!」

「うん!」

 フリードの背中に乗っていては間に合わない。そう考えたエリオが、キャロを抱えて飛び降りる。途中で何度か魔法で足場を作り、三角飛びの要領で速度を殺して地面に着地。空を見上げて絶句する。

「……何、あれ……。」

「……あんなの、勝てるの……?」

 先ほどまでフリードが飛んでいたあたりにできた亀裂から、見た目こそ同じながら、今までとは比べ物にならない威圧感を持つそれが出て来ていた。もう二秒ほど決断が遅ければ、出て来ていたあれに捕まり、食われていたかもしれない。そう思うと、改めて背筋を怖気が走る。

「……キャロ、先に行って。」

「だめ。エリオ君一人で、どうにかできる相手じゃない。」

 キャロの言葉に、唇をかみしめる。その痛みで恐怖を振り払い、槍を構えて相手の気を引こうと気合の声を上げる。そのままの流れで踏み込もうとした次の瞬間、頭の中いっぱいに警告が広がる。その声に逆らわずに、倒れこむようにして飛びのきながら、槍を薙ぎ払うように振る。穂先から柔らかくも硬い奇妙な感触が伝わり、それと同時に何かが左足をかすめる。

「があ!」

「エリオ君!?」

 ただかすめただけとは思えないほどの激痛とともに、何かを吸い取られたかのような倦怠感が全身を襲う。いや、事実吸われたのだろう。先ほどまで蓄えてあった気が、今の一撃でごっそり減っているのだから。

「エリオ君!」

「ま、まだだ! まだ死んじゃいない!」

 槍を杖のように使い、気合を入れて震える足に力を込め、必死の思いで立ち上がる。正直、今すぐ逃げ出したい。何もかも捨てて、部屋の片隅で震えていたい。この程度のけがなど何度も経験しているエリオだが、今回の一撃はただ怪我をしたなどと言う、そんなちゃちなレベルのショックでは無かった。

 多分、こいつの攻撃は、食らった人間の心を揺さぶる性質があるのだろう。竜岡式で鍛えられていなければ、きっと耐えきれなかったに違いない。いや、そもそも普通の訓練しか受けていない人間では、たとえどれほど修羅場をくぐっていたとしても、こいつを直視した時点で壊れてしまいかねない。

「お前になんか、負けてたまるか!」

 全身に気を巡らせ、気合の声とともに傷をふさぎながら突っ込む。正直、傷自体は怪我のうちにも入らないレベルだ。一般人ならともかく、仮にも現場に出るレベルの局員が、この程度で大騒ぎすることなどあり得ない。実際、エリオの動きは全く鈍ってはいない。次々と繰り出される、攻撃なのか何なのか分からない相手の行動を回避し、防ぎ、やり過ごし、ついに本体に一撃を叩き込む。

 それなりの手ごたえを感じながら離脱し、次の一撃のために体勢を立て直す。同じようによく分からない行動をやり過ごしていると、視界の隅に虚空から生えた触手が映る。

「キャロ! 後ろ!」

「えっ?」

 あの手この手でエリオをサポートしていたキャロが、その声で振り向くと、すでに回避できない距離に触手が迫っていた。とっさにシールドを張りつつ身をよじろうとしたとき、別の場所からさらにもう一本が。

「キャロ!」

 エリオの叫びを聞きながら、スローモーションで己に迫る触手を、どことなく呆然と眺めてしまうキャロ。あれがどういう代物かはよく分からねど、まず間違いなく、キャロにとって喜ばしい展開にはなるまい。見ると、エリオの後ろから、どう表現していいかよく分からない何かが迫っている。

 キャロに気を取られているエリオは、それの存在に気が付いていない。だが、警告しようにもすでに自分も触手が間近に迫り、身動きすら取れない状態だ。それに、今は感覚が引き延ばされてるから間に合いそうに感じるだけで、実際には声を出したところで手遅れだろう。

(神速って、こんな感じなのかな?)

 そんな、どこかピントがずれた事を考えながら、自身に迫りくる触手と、エリオに襲いかかる何かを見ていると、視界の隅から飛び出したたくさんの虫が、エリオとキャロを守るように、二人に危害を加えようとしている物に一斉に飛びかかった。

 その勢いに押され、完全に狙いが逸れる名状しがたい何かからの攻撃。その代償に、攻撃を防いだ虫達は、急速に干からびながら溶けて行き、ぼとぼとと落下をはじめ、地面に落ちる前に砕けて消える。瀕死に近い状態ながら生きていた虫達は、唐突に開いた送還の魔法陣をくぐって帰っていく。

「何?」

「もしかして、召喚虫?」

 安全を確保できるだけ距離を取り、油断しないように周囲に意識を巡らせながらも、互いに疑問をぶつけあうエリオとキャロ。虫を召喚できる人間など、メガーヌとルーテシア、あとはマドレだけだ。だが、ルーテシアはこんなところにいるはずもなく、メガーヌは最前線で戦闘中。こちらをフォローすることなど出来ない。後はマドレだけだが、彼女の体では……。

「エリオ君、多分、マドレさんだよ。」

「えっ?」

「さっきの送還陣、マドレさんのくせが残ってた。」

「じゃあ、マドレさんが、この近くに?」

 電撃を乗せた槍で触腕を切り落としながら問いかけるエリオに、黙って首を左右に振るキャロ。先ほど犯罪者を護送中に、マドレが残ったあたりで大きな魔力の動きがあり、気が一つ減ったのだ。そこから考えるに、マドレはすでにこの世にはいない。多分、自分達のために、トリガー式の遅延召喚魔法をかけておいてくれたのだろう。

「マドレさん、多分もう……。」

「確信が、あるの?」

「うん。」

 キャロが、こんなことで嘘をつく必要は無い。ならば、彼女はもういないのだろう。

「だったら、あんなのを相手に、命を無駄遣いは出来ないよね。」

 エリオの言葉に頷くと、かけられるだけの補助魔法を彼にかけるキャロ。己の手札を切れるだけ切ってみる覚悟を固め、相手の攻撃を叩き潰しながら、大量に気を練り始めるエリオ。そこに、歌が聞こえてくる。

「この歌は……。」

「ミヒャエルさん!?」

 その瞬間、今まで感情らしいものを特に見せなかった名状しがたいものが、初めてどことなく不愉快そうに身をよじって見せた。

「あれも、苦手なものがあるんだ!」

「エリオ君、チャンスだよ!」

「ああ!」

 今まで、実戦で使えるレベルに達していないからと封印していたとある技。優喜の兄弟子の教え子が、彼らの武術をベースに自力で編み出したという技。どうやら、この手の相手を仕留めるためのものらしく、秘伝ほどではないにせよ、普通の生き物に放つには過剰ともいえる威力を持っているそれを、自身の身の丈に合った形にアレンジして叩き込む。

「ギャラクティカ・オーバー・ドライブ!」

 スターライトブレイカーのごとく星の光を纏った槍を構え、名状しがたいものに対して飛び込んで行くエリオであった。







「歌で形勢逆転、か……。」

「ある意味、伝統かもしれないわね。」

 ミヒャエルの歌が聞こえた時、ティアナ達も強い方の名状しがたいものと戦っていた。流石に全員無傷とはいかず、スバルとティアナの露出多めのバリアジャケットも、ギンガの無駄に身体のラインがはっきり分かるナンバーズ仕様のボディスーツも、あちらこちらが裂けていた。カリーナの服も、マントはすでに穴だらけ、スカートも太ももの付け根が見えそうなぐらい深く裂け、顔に一撃かすめたため、マスクも半分無くなっている。満身創痍とは言わないが、随分と苦労した形跡がそこかしこに残っている。

 四人の中で一番大きなダメージを受けているのはスバルだ。元々フォワードであるため、どうしても敵の至近距離に近付かざるを得ないところに加え、何故か彼女一人が集中攻撃を食らったため、完全に防ぎきることもかわしきることもできず、結構な回数被弾しているのだ。肩や太ももなどにはかなり深い傷もあり、ところどころ、中の機械が露出している。

「さて、形勢逆転、と言っても、まだ圧倒的に優位に立ったわけじゃないのよね。」

「スバル、ティアナ、どう出る?」

「残念ながら、まだ集束砲を撃てるほど回復していませんから、私はサポートに徹する事にします。」

「さっき使ってたもんねえ。」

「それに、私はまだ、砲撃を気功変換して撃つ能力はありませんし、かといってクロスレンジであれと殴りあえるほどの力量もありませんので。」

 ティアナの言葉に頷くと、ギンガとスバルの方に視線を向けるカリーナ。

「そっちは、切り札を切れるだけの余裕はあるよね?」

「うん、じゃなくて、はい。」

「もちろん。」

「じゃあ、一体は私が何とかするから、もう一体は二人でどうにかして。」

「「了解です!!」」

 ざっと打ち合わせを終えると、張ってあった結界を解いて一気に突っ込んで行くカリーナ。経験と鍛錬の差か、初めて上位種らしいのを見た時も、ギンガ達ほどの動揺は見せなかった。

「まずは、ファタ・モルガーナから!」

 器用貧乏の究極系のようなカリーナの場合、どんな状況にも対応できる半面、どうしてもパンチ力が足りない事が多々ある。故に、こういうタフな相手の場合、手数で攻め立てる以外の選択肢は持っていない。しかも、残念ながら器用貧乏のくせに霊力は扱えないため、ヤマトナデシコのように弱点属性をついて一撃で、と言う訳にもいかない。

 だから、チクチクと小技で痛めつけるのだ。

「続いて、ノーブル・フェニックス! ローズストーム!」

 カリーナの技は、威力と見た目の派手さがほぼ比例している。そのため、どんどん攻撃が派手になっていく。そのままいくつかの技を連続で叩き込み、いい具合にチャージが終わった最大火力の大技を発射する。

「最後に直伝・スターライトブレイカー!」

 本来は、ティアナやカリーナのようなパワー不足の人間向けと言えるその大技は、カリーナの魔力光である深い青色の尾を引き、瞬く間に名状しがたい何かを飲み込んで食らい尽くす。必要ならさらに追撃できるように、ティアナと違って十分に余力を残しておいたカリーナは、相手の気配が完全に消滅した事を確認したうえで、スバルとギンガの方に意識を向ける。

「「ギア・エクセリオン、起動!」」

 視線を向けると、ちょうど二人とも、フルドライブを発動させたところだったようだ。詳しい機能は聞いていないが、二人の特性からして、バリア強度向上、気功変換補助の拡大、身体強化、速度上昇、と言ったところだろう。あの手のフルドライブは終わった後にやたら疲れるのが最大の弱点だが、戦闘機人でタフさが売りの彼女たちなら、どうとでもするだろう。

「ギン姉!」

「ええ!」

「「ハウリング・ブレイカー!」」

 増えた速度で相手の周りを螺旋状に走り、気の渦を作り出す。その中心を撃ち抜くように飛び込み、二人のISである高速振動を気功とフルドライブの機能で拡張し、気脈を共振させて粉砕する。振動が魂に至り、さらに周囲を取り巻く気の渦が、実体化していない本体をズタズタに切り裂き、すりつぶし、粉々に砕いて行く。聞いているだけで気が狂いそうになるような、そんな断末魔の叫びを残し、この場にいる最後の名状しがたい何かは消滅した。

「……終わったね。」

「全く、難儀な生き物も居たものね。」

「竜岡師範と竜司さんが行った先のは、これより性質が悪いらしいよ?」

「うへえ……。」

 思い思いに感想を述べながら、とりあえず一旦アースラに帰還する事にした一同。状況の確認もあるが、何よりスバルのダメージが、結構洒落にならない。

「スバル、治療が終わるまで、あんたはアースラで待機。いいわね?」

「え~?」

「え~? じゃないの。そのダメージは、さすがにちょっと見過ごせないわ。」

「でも、ティアは出撃するんでしょ?」

「あたしは、ダメージ自体はほとんど無いもの。アースラに戻ってカートリッジの補充を済ませ終えた頃には、集束砲のクールダウンも魔力の回復も、ほとんど終わってるはずだしね。」

 そんなティアナの言葉に、不服そうな表情を隠そうともしないスバル。

「それに、ちょっと試してみたい事があるの。その試してみたい事ね、最初からスバルがいると、確信が持てなくなりそうだから。」

「……ん、分かった。あたしとのコンビ、解消する訳じゃないんだよね?」

「当然よ。あたしもアンタもまだまだ半人前なんだから、単独で活動なんてできる訳無いでしょ?」

 その言葉にほっとしたような笑顔を浮かべ、ウィングロードの上を走っていくスバル。それなりにぼろぼろになったエリオとキャロを途中で回収し、とりあえず無事にアースラに到着する。

「なんか、すごくいろいろあって長く感じるけど、まだ夕方なのよね……。」

「あはは。」

「今日は、なんだかすごく一日が長く感じますね。」

 ティアナのぼやきに、思わず笑ってしまうエリオとキャロ。この一時間ほどが異常に密度が濃かったため、まるで何日も戦っていたかのような錯覚と疲労を感じてしまったのだ。

「今、竜司から連絡があって、親玉は仕留めたそうよ。ただ、こっちに出てきた奴とか開いた亀裂とかが無くなるわけじゃないらしいから、後は人海戦術で打ち漏らしの掃討と亀裂の封鎖をしなきゃいけないのよね。」

「つまり、まだまだ一日は長い、と言う事ですか……。」

「そう言う事になりそうよ。」

 プレシアの言葉にため息をつくと、許可を取った上でとりあえず当初の予定通り、最前線の部隊と合流しに行くティアナ。他の三人はそれなりに大きな怪我をしており、治療しなければ再出撃の許可が下りなかったため、今回は単独出撃だ。

「ティアナさん、合流するまで、絶対無茶はしないでくださいね!」

「あたしはガンナーだし、今回はこっちの人数も多いから、わざわざゼロ距離を取りに行くような真似はしないわ。」

「あたしのいないところで大けがなんかしたら、絶対許さないからね!」

「すぐに合流しますから!」

 余程信用がないのか、やたら釘を刺されるティアナ。その事に苦笑しながら約束し、最前線に転送してもらう。クラナガンの長い一日も、そろそろ終わりが近づいていた。







あとがき

断るまでも無いことだとは思いますが、今回出てきた設定は独自のものです。原作には一切でてきません。


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