「今朝の訓練はここまで。」
「お疲れ様でした。」
なのはとフェイトの言葉に、どうにか整理運動を終えたスバル達はその場に崩れ落ちる。一緒に飛んでいたフリードが、心配そうにキャロの顔をなめているのが印象的だ。
「……ティアナはともかく、スバルもエリオもキャロも、ちょっと情けないよ。」
広報六課が正式稼働した翌日朝のトレーニング。六課としての初めての正式な訓練は、なのは達に痛烈な駄目出しをもらって終わった。
「もう少し体力あると思ったんだけどなあ……。」
「せめて、三期生は超えてて欲しかったよね。特にスバルは。」
言いたい放題のなのはとフェイトに、無茶言うなと視線で抗議する三人。その三人より大幅に少ないボリュームですらいっぱいいっぱいで、余計な口をはさむ気力もないティアナ。
「なのはさん、フェイトさん……。」
「何、スバル?」
「なんか、あたし達にばかりきつい気がするんですけど、ティアには何もないんですか……?」
どうにか口をはさめる程度に息を整えたスバルが、抗議の声をあげる。とはいえ、全寮制の陸士学校に通っていた都合上、最初に用意されたカリキュラム以上のトレーニングを許してもらえなかったエリオとキャロはともかく、長い事必要最低限しか訓練しておらず、二年程度では体力を取り戻しきれなかったスバルは自業自得ではあるが。
「ティアナは、管理局の標準的な訓練カリキュラムを考えたら、十分すぎるほどの体力があるからね。」
「一年たってこれだったらアウトだけど、実際にはこれからだし。」
なのはとフェイトの言葉に、思わず絶望的な表情をするティアナ。さすがにこれから死ぬほどしごくと宣言されて、平気でいられるほどの根性はない。
「まあ、とりあえず二時間休憩だから、その間に朝ごはん食べて仮眠取るなり何なりして、体調を整えておく事。」
「ちゃんと体を休めないと、後が大変だからね。」
そう言って、武士の情け的に体力回復の結界を張って立ち去るなのはとフェイト。好き放題言っているように聞こえるが、なのはもフェイトも、このメンバーはおろか、フォルクよりもハードなメニューを平気でこなしているのだ。大体、フルマラソンの距離を発声練習をしながら走って一時間を切るとか、どういうスタミナをしているのか一度解剖してみるべきではなかろうか。
もっとも、竜岡式を成立させた張本人は、同じ事をして四十五分で走り抜けているのだから、なのは達ですら鍛え方が足りない範疇にはいる。流石に気功で相当身体能力を上乗せしてはいるだろうが、それでもなのは達で百メートルを八秒台、優喜で六秒台のペースでフルマラソンを走っている計算になる。いくら人間をはるかに超えた領域まで身体能力が増幅できると言っても、たゆまぬ努力でそれに耐えられるだけの体力を身につけているのも事実なのだ。正直、そこを基準にされても困るのだが、実際に十年の積み重ねでその領域に到達した人間に言われると、反論の余地を見いだせないのが困る。
しかも、なのはなどは最初のころは、三キロを歩くのに近いペースで走り切るのがやっとだったという証言が、当人を含めいろんな筋から伝えられているのだから、サボらずに積み重ねると言う事がどれほど影響するかがよく分かる。継続は力なり、とはよく言ったものだ。
「……どれぐらいやれば、あの領域まで届くのかしら……。」
「……一番厳しいラインの鍛錬を十年続けた結果、みたいなものだからね~……。」
あそこまではギン姉でも無理だからね~、と他人事のように言うスバルに苦笑し、そろそろ動くようになってきた体を起こす。微妙に腹立たしい事だが、昨日の午後のトレーニングで徹底的に叩き込まれた気功のための呼吸をやっていると、息が整うのも体力が戻るのも、体感できるほど早い。体力回復の結界の効果を考慮しても、普通はここまで早く回復しない。因みに、何が腹立たしいかと言って、イロモノの技能が普通に使える部類に入る事と、この技能が一部に独占された揚句イロモノ扱いされている事、両方である。
正直、昨日と今朝の訓練で、いろいろなめていた自分をきっちり反省しているティアナ。イロモノだなんだと言って甘く見ていると、冗談抜きでトレーニングで死にかねない。今までの魔導師の理想形からは確実に離れるだろうが、一年耐え抜けば間違いなく強くなれる。そう確信を持ったところで、竜岡式に対する不信感はともかく、この部署で鍛えあげられることに対する不本意さは消えていた。
「それで、この後は何だったかしら?」
「休憩してから、お昼ご飯までダンスの練習。お昼食べたら歌のレッスンがあって、その後戦術の座学。晩御飯の前のトレーニングがあって夕食食べて、寝る前のトレーニングで終わり。」
「……本来の業務であるはずの訓練のほとんどが、見事に本来の業務時間外に入ってるわね……。」
今までの流れもあって、業務外でのトレーニング自体はどんとこい、と言う感じのティアナではあるが、あまりに見事に業務外に偏っているのは、さすがにそれでいいのかと思わなくもない。と言うより、オーバーワークになりかねないほどのトレーニングをやって、それから丸一日訓練以外の業務をやると言うのはいろいろ無謀なのではないか?
「どうも伝統的に、オーバーワーク手前までがっつりトレーニングしてから業務をこなす習慣になってるらしくて、竜岡式の人たちって、日中に訓練をする事ってほとんど無いんですよ。」
「だから、なのはさん達はおろか、二期生の人たちですら、この二時間の休憩って言うのをなしで、ご飯食べたら普通に仕事とかレッスンに移るんです。」
エリオとキャロの補足に、うげえ、と言う顔をしてしまうティアナ。三期生はすでに食事に向かっており、まだへろへろなのは自分達とヤマトナデシコの三人だけである。そのヤマトナデシコの三人は、へろへろの時でも仕草にだけは注意するように、などと紫苑に注意されていたりする。その紫苑は付き添いとして、ヤマトナデシコの三人と同じ程度のメニューはこなしている。言うまでもないことだが、エリオ達より一つ年下でかつ、卒業を大人の都合で前倒ししている彼女達のトレーニング内容は、広報六課で一番軽い。とはいえ、丁度初期のなのはと今のティアナの物を足して二で割った程度なので、普通なら十分きついレベルではある。
二期生はおろか、三期生ですらフィジカル面では教導隊レベルか、下手をすればそれ以上だ。あのトレーニングを一年間、誰一人脱落せずにこなし切った彼らを、適性が実用的でなかったから、とか、魔力量が少なかったから、とかいった理由だけで、誰が馬鹿にできるのか。竜岡式の効果自体には懐疑的な部分がぬぐえなくとも、少なくとも自分よりよほどまっとうに努力している人間をイロモノと見下していた自分については、申し訳ないとか恥ずかしいとかでは済まないほど反省しているティアナ。それと同時に、何故にここまでやって鍛えた人間に、わざわざ芸能活動をやらせるのか、という疑問がわかない訳でもない。
が、現状基礎的な肉体能力の差もあって、他所の部隊との連携もまともにとれず、内部ですら企画段階で組んだチーム単位でしか行動できていない彼らに関しては、芸能活動をさせないにしても、結局普通に活躍させるのは厳しいのだろう、と言う事は理解できてしまう。それに、これだけ卓越した実力を持っているからこそ、治安維持組織の仕事と芸能活動と言う、普通に考えればどちらも片手間に出来るようなものではない二束のわらじ(なのはとフェイトはそこに学生生活がプラスされるが)を可能にしているのだろうが。
「とりあえず、ご飯食べてマッサージ受けてこよっか。」
いろいろ考えても詮無い事をつらつらと考えつつ、とりあえずこの後すべきことを提案する。
「そうですね。」
「ご飯は大事だよね、ティア。」
ようやく歩ける程度まで体力が戻り、やっとのことで朝食に向かえる一同。正直訓練のきつさがたたって、ティアナはあまり食欲はないが、ちゃんと食べなければ持たないどころか命が危ないことなど分かり切っている。きっちり食べるのも仕事のうちだ。とりあえず、ティアナはどうにか初日の朝を乗り切った。
「どないな感じ?」
「ティアナは予想よりは体力があったけど、他の三人がね~。」
「エリオもキャロも、みんなで温泉に行った時と、そんなに変わって無かったよ。」
はやての問いかけに、苦笑がちに答えるなのはとフェイト。
「普通やったら、エリオもキャロもあれで十分やねんけどなあ。」
「私たちの経験で言うと、全然とまでは言わないけど、あれじゃ足りないよ。」
「むしろ、陸士学校も空士学校も、もう少し基礎鍛錬のボリュームを増やすべきだと思うんだ。」
なのはとフェイトの言葉に、間違いないとばかりに頷くはやて。実際、管理局のフィジカル周りのトレーニングは、教導隊をはじめとした一部例外を除いて、軍隊色がある組織としてはかなり軽い方に分類される。さすがに、普通のスポーツ選手がやるよりは厳しくやっているとは言え、それほど体作りを重視していないのは明らかだ。その結果、場合によってはそこらのアスリートに過ぎない魔法戦競技会の大会のトップクラスに負ける陸の局員、という構図が出来上がるのである。いくら相手がトップクラスで、しかも魔力量やら何やらで劣っている事が多いにしても、さすがに情けないと思ってしまうのはしょうがないだろう。
「実際のところ、人手不足が響いて効率を重視しすぎ取る、っちゅうのが現実やろうな。」
「それと、基礎鍛錬を減らすのと、どういう関係があるの?」
「簡単な話や。今までの概念やと、魔力資質が低い人間をどうがっちり鍛錬しても大した意味はあらへんし、魔力資質が高い人間は基礎鍛錬なんか適当でも、十分強くなるしな。私なんか、基礎鍛錬を適当にやってる典型例やし。実際、現実的な話、今以上に基礎鍛錬にかける時間があったら、魔法関係の技能を磨くのに同じ時間かけた方が効率よく強くはなるし。」
もっとも、はやての場合はその運用上、基礎鍛錬で鍛える意味が薄い、と言うのが現実であり、管理局の教育機関の考えを肯定している存在ではない。彼女に関しては、いくら竜岡式で近接戦闘に耐えるように鍛えたところで、直接攻撃を受けるところまで追い込まれてしまった時点で、戦術的にも戦略的にもいろいろアウトなのだ。
「でも、ストライクアーツの大会の人たちみたいに、魔力資質が高い人間が鍛錬をきっちりやった時の強さは無視できないよね?」
「それを秒殺出来るなのはちゃんらが言うても説得力はあらへんけど、まあそうやわな。」
一昨年に番組の企画でなのはとフェイトが参加した、公式魔法戦競技会のインターミドル・チャンピオンシップ。管理局の広報部に所属した事がある魔導師は参加禁止、という規定が出来る決定打となったそれを思い出しながら突っ込みを入れるはやて。因みに、あくまで決定打になっただけで、切っ掛け自体はカリーナとアバンテである。
「まあ、基礎鍛錬が少ないのは少ないと思うんやけど、それでも並のスポーツ選手よりは厳しく鍛えられてはおるんやで。」
「それはそうだけど……。」
竜岡式や御神流が基準となっているなのはにとっては、どうにも釈然としない話である。とはいえど、実際のところ、竜岡式も御神流も、その鍛錬内容は軍隊基準でもクレイジーの一言に尽きる内容であり、そこを基準にしたらほぼすべての軍隊がぬるい事になるが。
「まあ、一般的な局員の話は置いとこか。とりあえず、スバル達のこれからの展望を教えて。」
「スバルもエリオもキャロも、必要最低限はクリアしてるから、むしろティアナが問題かな?」
「歌とかの事も考えると、正直、あと半年早く移籍が決まってたらよかったんだけど……。」
「陸士学校から直接、ってパターンでもない限り、半年あっても一緒とちゃうかな?」
「どうして?」
「半年前に移籍がきまっとっても、多分その準備のための時間を、もとの部隊が作ってくれへんやろう、言う事や。」
本気で理解できていない様子のなのはとフェイトに、苦笑交じりに答えるはやて。実際、移籍が決まってからの二カ月、スバルとティアナは休暇のローテーションから外され、せいぜい半日休しか休暇を取らせてもらえない状態で仕事をしており、どうにか二回ほど接触する時間を取らせてもらえた以外は、ずっと待機任務で出動時以外外部との接触は不可、と言う扱いだったのだ。当然、何かあれば最優先で出動させられている。二ヶ月間とはいえ、言うまでもなく管理局の規約違反である。しかも、前の部署がそういうブラックな真似をして積み上げた代休は、広報六課に居る時に消化させなければならない。実に嫌われたものである。
「私たち、そこまで嫌われてるの……?」
「救助隊とかは特に嫌っとる感じや。言うたら、広報部の仕事って、見方を変えたら他所の手柄を横取りしてるようなもんやから。」
「「え?」」
なのはの、ある種今更のような言葉に、三日ほど前の六課稼働前の最後の打ち合わせを兼ねた夕食の席で、ゲンヤやゼストあたりから聞くまではやて自身も理解しきれなかった事情を説明し始める。因みに、彼女がそっちの事情に気がつかなかたのは、ひとえにひがみで相手を低く見るという心理が想像できなかったからである。
「考えても見てや。なのはちゃんらが作戦に参加すると、たとえ本番の一番難しいところを元々任されとった部隊がこなしたとしてもや。どうしても、世間一般の印象ではなのはちゃんらが手柄を立てたみたいに見えるねん。たとえ、内部の評価では担当部署の手柄になっとっても、な。」
はやての指摘に、そこまで考えた事もなかったなのはとフェイトは、反論しようがなくて黙ってしまう。
「もちろん、本来の担当部署の手に余るから呼ばれた、言うケースでは、なのはちゃんらの手柄で問題ないねん。ただ、そうやない仕事も多かったやん。」
「うん……。」
「それも全部世間的にはWingの功績になってしもたら、いくら内部で正当に評価されとっても、たまったもんやあらへんわな。」
しかも、それをなしているのが、一見チャラチャラ仕事しているだけのイロモノ部隊とあっては、なおのことだろう。
「せやから、特にハードな仕事してて、日常的に命の危険と背中合わせの救助隊なんかは、命がけで頑張った手柄をイロモノに持っていかれた揚句、自分らが無能やみたいな言われ方すれば腹にも据えかねる、っちゅうことやねん。」
「それ、前の部長とかは……。」
「多分理解してたと思うで。実際、報道資料の使い方とか番組構成とかも、事前に見てはあっちこっち細かく突っ込み入れとった見たいやし。」
広報部のトップ連中も無能ではない。自分のところの魔導師の評価と引き換えに、他の部署が無能だと思われては意味がないどころかマイナスである事ぐらいは理解している。ゆえに出来るだけ、他の部署の事や広報の魔導師達の立ち位置や仕事なども正確に世間に伝わるようには努力をしていたが、やはり人間、どうしても目立つところを評価しがちだ。なのは達がどんな仕事でも本来の部署に花を持たせるようにしていても、それを謙遜として見られては意味が無いのだ。
「結局、私たちはどうしてれば良かったのかな……?」
「なのはちゃんらは、あのままでええねん。むしろ問題なんは、結局マスコミの報道内容をコントロールできへんでそういう風に世間を誘導してしもた事と、それに対して拗ね始めた武装隊とかを煽るアホがおった事や。」
「……うまくいかないよね。」
「……うん。本当にうまくいかない……。」
考えた事もなかった事情を教えられ、力なくつぶやくなのはとフェイト。結局、二人ともどこまで行っても現場の人間であり、こういった権謀術数の分野になると、どうしても無力なのだ。
「で、問題をややこしくしてしもたんが、本来やったら使い物にならへんような人間を、無理やり強化して使ってる、いう形になってしもた事。これで、一気に馬鹿にする空気が出来てしもたんが致命的や。学校におる子とか新人ぐらいやったら、上司や指導教官のそういう意見に染まってもうても不思議やないし。」
それを、実力差を理解していない、とか、自分の頭で考えない、とか評価するのは簡単だ。だが、どんな事でも、ものすごく力量差が離れてしまうと、どれぐらい差があるかが分からなくなるものだ。しかも、表に出てくる情報で、竜岡式で鍛えられた人間でないと出来ない事をやっているケースは一割に満たず、その大半がなのはとフェイトが成し遂げた事、となると、なおのことだ。
そうなって来ると、手柄を横取りされた怒りや正当に評価されないひがみが混ざった意見に流されやすくなるのは、当然と言えば当然であり、結果として出動がかちあうことが多い地上の部隊で特に、広報部や竜岡式を下に見る空気が醸成された、ということである。
それでもまだ中央はましな方で、少なくともなのはとフェイトに関しては、それなりに正当に評価している。これが地方や辺境になってくるとさらに話がややこしくなり、Wingですら大した実力もないのにやらせで評価をかさ上げしている、などという扱いになっていたりする。
「正直なところ、実力云々に関しては、ちょっと朝晩の訓練内容を見せるだけでもあっちゅう間に認識が変わるとは思うけど、下手に公開するんも怖いんは確かや。なのはちゃんは、教導官として、そこらへんどう思う?」
「今公開するのは反対。ちゃんとしたカリキュラムを組める人間のサポートと、医療スタッフの十分なケアが無いと、故障者を量産するだけになるよ。」
「ゲンヤさんとか教導隊の隊長さんも、同じ意見やったわ。リーゼ姉妹も、今の管理局には一定ラインより上の肉体鍛錬に関するノウハウが足りへん、って言うとったしな。」
なのはからの、予想通りと言えば予想通りの返事に苦笑しながら頷く。
「でまあ、そういう話を踏まえて、ティアナはどんな感じ?」
「今はまだ、もといた部署の意識に引っ張られてる感じかな? カリキュラムとしては、優喜君が結構がっつり組んでくれてるみたいだから、そっちはどうにかなりそう。」
「まあ、今までの子も、半分は最初はティアナと変わらない反応だったし、一カ月もすればそこらへんの意識は変わると思うよ。」
すでに、今までの態度を反省し始めているとは知らないフェイトの言葉に、一つ頷くなのは。さすがに、たった二回のトレーニングで意識改革をするほどの素直さがあるとまでは思っていなかったようだ。とはいえ、まだまだ意識改革が始まったところであり、しみついた価値観を完全に捨て去るところまでは至っていないのだが。
「さて、そろそろダンスレッスンだし、ちょっと様子見てくるよ。」
「私は、調査依頼をいくつか片付けてくる。」
「了解や。悪いけどお願いな。」
朝の秘密ミーティングを終え、今後の予定を告げて支配人室を出ていくなのはとフェイト。訓練生以外は地味に忙しい一日のスタートであった。
「和むね~。」
「確かに可愛いわ……。」
一時休止の間に、エリオとキャロのデビュー曲のダンスを眺めながら、思わず癒されたような声で話すスバルとティアナ。朝の子供向け番組や某教育テレビなどで見られそうな、子供らしさ全開のダンスを息の合った動作で踊るエリオとキャロ。その姿は実に愛らしく、堅物くさいティアナですら目じりが下がってしまう。二人の間を楽しそうに飛び交っているフリードが、よりほのぼのムードを強くしている。
正直、お世辞にもきっちりしたダンスとは言えない。元気が行きすぎて、明らかに動作が雑になっているところも散見される。だが元々、テレビを見ている子供が真似をできるように、あえて雑でも形になるような振付をしているのだから、それらの要素は魅力にはなっても、マイナスにはならない。第一、ちゃんと振付を間違えずにやっているし、二人とも実に楽しそうなのだから、文句をつけられる筋合いはない。
「はい、よくできました。」
「「ありがとうございます!」」
「キャロちゃん、上手になったわ~。」
おネエ言葉の先生の言葉に、嬉しそうに頭を下げるキャロ。結構いいガタイなのに、いわゆるオカマのような動きをするこの講師に最初の頃は引いていたエリオとキャロだったが、配属が決まってからずっと、いろいろ習っているうちに、すっかりなついていた。
「さて、スバルちゃん、ティアナちゃん。そろそろ続きを始めましょっか?」
「「はい!!」」
休憩の終了を告げられ、力強く返事を返す。スバルもティアナも、エリオ達同様、最初に彼を見た時は大丈夫なのか、と思ったのだが、実に分かりやすい指導で丁寧に、だが必要十分なぐらいに厳しく愛を持って指導してくれる彼を、最初の休憩までにすっかり信頼していた。
「期間が短いから、びしばし行くわよ!」
「「お願いします!」」
言葉通りびしばししごかれ、湯気が出るほど動きまわらされる二人。エリオ達と違って、あまり誤魔化しの効かないタイプのダンスを教え込まれていることもあって、非常にたくさん駄目出しをされる。二人とも運動神経は悪くないのだが、初めてのジャンルである上、覚えることが多すぎて中々体がついて行かない。
「OK! 一旦そこまで!」
講師の言葉で、動きをピタッと止める二人。それなりに長くコンビを組んでいるだけあって、最初から息があっていることは救いであろう。
「二人とも、筋がいいわ~。」
「本当ですか?」
「ホントホント。このペースで頑張れば、一カ月もあれば舞台に十分立てるわよ~。」
大量に駄目出しをされ凹み気味だった二人を、飴を与えて引っ張り上げる講師。もっとも、彼の言葉は嘘ではない。初めて担当したころはまだまだ運動神経が切れていたなのはや、こういう面でも凡人だったカリーナに比べれば、天才とまでは言わないまでも十分素質があると言える。
「昔のなのはちゃんはね、本当にひどかったんだから。それから比べれば、素質は十分よ。」
「その話は恥ずかしいので、秘密にしてほしいんですけど……。」
「あら、なのはちゃん。」
講師の言葉に恨めしそうに突っ込みを入れるなのはを、驚いたように見つめる四人。いつ現れたのか、全く気がつかなかったのだ。
「なのはさん、いつからいました?」
「ん~、スバルとティアナが踊り始めたぐらい?」
つまり、かれこれ三十分ぐらい、気配を消して見学していたのだ。そんなはずはないのだが、意外と暇なのかと思わず疑ってしまう一同。
「そう言えばなのはさんって、そんなにひどかったんですか?」
「本気で凄かったわよ。今でこそ一週間も練習すれば大抵のダンスは踊れるようになるけど、昔は絶望的なぐらい踊れなかったんだから。」
「あの頃の事は言わないで下さいよ~。」
普段の凛とした姿からは想像もできないほど情けない声で、必死になって講師を止めるなのは。だが、この手の人種は、こういう時にいたずらするのが大好きと相場が決まっている。
「丁度、デビュー前の映像が残ってるけど、見る?」
「「「「見ます!」」」」
講師に言葉に対し、なのはが制止する前に満場一致で返事が返る。フリードまで興味津々、と言う表情をしているのはどういうことだろうか?
「デビュー前って、いつのですか?」
「管理局内部で、何かのパーティをした時の余興の映像よ。」
「よりによって、それですか……。」
「そんなに恥ずかしがることないじゃない。だって、あなた達がデビューするきっかけになった映像よ?」
「だから恥ずかしいんですって。」
なのはの何とも言えない情けない声に苦笑しながら、とっととデバイスを操作して映像を展開する。映像は、今やファッションの一種としてミッドチルダにもすっかり定着したゴスロリ(日本発祥)を着たなのはとフェイトが、ぺこりと一礼して出だしのポーズをとるところからスタートした。
「わ、なのはさんとフェイトさん、可愛い~!!」
「エリオ達より小さいぐらい?」
「これ、いくつの時ですか?」
「九歳の時かな。思えば、ここから道を踏み外したんだよね……。」
どことなく遠い目をしながら妙な事を口走るなのはを不思議そうに見ていた四人だが、アップテンポの可愛らしい伴奏が始まったところで、映像に視線を戻す。
「……すごい。」
「……歌が上手なのは、このころからだったんですね……。」
第一声から、楽しそうに歌う二人にあっという間に引き込まれる一同と、いまだに恥ずかしそうななのは。実際、なのはの場合、歌はともかくダンスはとりあえず踊れているだけ、と言うレベルで、フェイトがうまく合わせてくれているから辛うじて様になっているだけである。元を知らない人間が見ても分からないが、何度もタイミングがずれたり動作を間違えたりしている。所詮は局員の余興である上、やっているのがまだ子供であり、更に歌が凄まじいレベルであるため誰も気にしていないが、本来ならステージの上に立てるような力量ではないのだ。
「……ちょっと、想像してたのと違いますね。」
「ティアナ?」
「九歳とか十歳のころの歌だから、エリオたちみたいな曲かと思ってたんですが……。」
「ん~、私たちの場合、デビューしてからずっと、ちょっと背伸びした感じの曲ばかり歌ってた気がするね。」
少し懐かしそうに、今までの事を思い出して答える。正直なところ、当時はよく分からなかった歌も多い。逆に、この頃からこんな歌詞を理解していたのか、みたいな曲もあったりと、いろいろアンバランスな子供だった自覚はある。
「そう言えば、なのはさん達の歌って、昔から結構ラブソングが多かった気がする。」
「うん。まあ、理由は分かってるんだけどね。」
「理由?」
「この頃からずっと、フェイトちゃんは恋をしてるんだよ。」
画面の中の、まだ九歳だった頃の自分達を見ながら、今だから言える事を告げる。その、意外すぎる言葉に目を瞬かせ、恐る恐るなのはの顔を見る。
「ずっとって、同じ人ですか?」
「うん。ずっと一人の人を、ね。」
凄いよね、という言葉に、どう返事を返していいかが分からないスバルとティアナ。なのはとフェイト、もっと言うならすずかに紫苑も、一人の人物に恋をしている事は知っていた。当人達が特に隠していないこともあって、広報部の中ではばればれの事実である。ついでに言えば、同じ男を取りあいしているように見える四人が、喧嘩をするところが想像もできないほど仲がいいのも有名な話だ。
「なのはさんも、ですか?」
「私はこの頃は、中身は正真正銘見ての通りの子供だったから、恋愛なんて難しい感情は全然理解できてなかったよ。フェイトちゃんに引っ張られて、一見それなりに様になってる感じには歌えてたけど。」
これまた意外な言葉が飛び出す。その言葉が本当であるなら、なのはは親友の想い人に後からアタックを開始した訳で、よくそれで喧嘩の一つもせずに今の関係を築くことができたものだ。なのはがよほど図太いのか、フェイトがとことんまで寛大だったのかは分からないが、彼女達の絆の強さは、どうにも余人には理解しがたいものがある。
そこまで考えて、今の状況についてふと疑問に思うティアナ。何故自分達は、勤務時間中の、それも残り時間が厳しい芸能がらみのレッスン時間を食いつぶして、先輩の恋バナを聞きだしているのだろうか? そもそも、こんなことで時間を潰しても大丈夫なのだろうか?
「さて、あまり邪魔しちゃ悪いし、ちょっと他の子たちの様子を見てくるね。」
「あ、はい。」
「お話、ありがとうございます。」
「続きは、また昼休みか晩御飯の時にでも、ね。」
そう言って手を振って立ち上がり、いろいろ横道にそれた事を考えていたティアナに軽くウィンクをして立ち去るなのは。それを見て、いろいろな不安が少し軽くなった気がするティアナ。
「じゃあ、今の話も踏まえて、もう一度通しで踊ってみましょうか。まあ、エリオちゃんとキャロちゃんは、そこまで深く考えなくても大丈夫だけどね。」
どうやら、今の雑談もそれなりに理由があってしたものらしい。年齢一桁の頃の映像や話題など、来年度には二十歳と言う女性にとっては、あまり嬉しいものではない。それをあえて雑談と言う形で話すことで、スバルやティアナにいろいろなヒントを与えつつ、自分達が別段卓越した存在でも何でもなく、恋もすれば恥ずかしい失敗もしでかす普通の人間であることを教えて安心させたかったのだろう。
所詮一日二日の事であるため、竜岡式や竜岡優喜に対する不信感がぬぐえる訳ではない。だが、事あるごとにイロモノと見下していた相手にいろいろな形で彼女達に気を使われている事を知ってしまい、それまでの自分の態度が恥ずかしくてのたうちまわりたくなってしまう。接点もなければ情報も基本的にマスコミベースの物しかなかったとはいえ、よくもまあ、知ろうともせず、自分の頭で考える事まで放棄して、イメージだけで馬鹿に出来たものだ。
芸能活動に対しては、いまだに抵抗がある。芸能界を馬鹿にしているとかではなく、どうにも管理局としての本分から外れている気がしてしょうがないからだ。それに、芸能界で本気で歌やダンスに打ち込んでいる人たちに対しても、失礼なのではないか、という意識もある。だが、なのは達が乗り越えたそれを、自分のような新米がごちゃごちゃ言っても仕方がない。口でいくら反省したところで無駄な以上、本気で努力して結果を出すしかない。
時に、スバル以上に一直線に突っ走ってしまうティアナ。自分の態度を反省する、という意味ではいい方に作用したその性質は、その後の鍛錬には悪い結果をもたらしてしまうのだが、この時点では誰も気づくことができなかった。なお、歌に関しては……
「……二カ月あればまあ、大丈夫かな?」
「フィアッセ先生、その不安をあおる言い方はやめて~!」
ダンスと違って特に語るところもない下手さ加減で、指導する側にとってもスタート地点としては可もなく不可もなく、と言う感じだったそうな。
「さて、どないしたもんか……。」
稼働して速攻で持ち込まれた話に、どうしたものかと思案を巡らせる。情報の精度は間違いないらしいため、対処をしないと言う選択肢は存在しない。
「まったく、まだ大まかな日程発表しただけで、チケットの前売りも開始してないイベントやっちゅうのに……。」
昨日の今日ですでに動きがあるとか、情報統制はどうなっているのか小一時間ほど問い詰めたくなる。餌の意味合いもあるため、それほどしっかり隠蔽とかはしていなかったのは確かだが、それにしても早すぎる。
「細かいところまで一人で決めるような話やあらへんし、ちょっと他の子にも意見きこっか。」
とりあえず隊長勢を呼び出そうと思って予定表を見ると、なのはとフェイトは現在不在、シグナムとヴィータは追加レッスンと言うことで、今呼び出すのも気が引ける状況。動かせるのはどうやらフォルクとグリフィスだけらしい。所属長であるリンディは、基本的には外部との折衝を担当しているため、余程でない限りはこういう問題はこちらに丸投げである。
「もう少し時間あけるか、晩に議題として挙げるか、やな。」
せめて、優喜かプレシアがいれば他の情報源をあたれるのだが、一方は何ぞ納品に行っており、戻ってくるのは夕食前になるとのことで、もう一方はすずかと一緒に、時の庭園にてマッド全開で何かをやっている最中。呼び出しても怒りはしないだろうが、すぐに準備を始めなければいけないほど切迫した問題でもないため、手を止めさせるのにはためらいがある。
「そうやなあ。スカリエッティのこれはどうせ向こう側からのリークやろうし、要望通り乗ったる場合の企画書でも作っとくかな。」
やけに詳細な情報を記した書類に目を落とし、微妙な手待ちの時間を潰す意図も兼ねて企画を練る。もうじき、こんなしょうもない企画を立てていろいろやらかすような余裕はなくなるだろうが、現時点でははやてがチェックして決済しなければいけない案件はほとんどない。昨日本格稼働を開始したばかりの部署では、ある意味当然であろう。
実際のところ、管理局の本分を考えるなら、乗っ取り口上の最中にでもなのはが一撃かまして、全員とっとと捕縛してしまうのが正しい姿であろうが、それをすると十中八九、支持より不支持が上回る。犯罪者を放置して、という批判もなくはないだろうが、ナンバーズが回収したレリックの九割は所有権が確定してない物であり、実は逮捕するほどの罪には問われなかったりする。残り一割はなのは達がアイドルとしてデビューする以前の物で、ぶっちゃけ窃盗の時効が来ている。グランガイツ隊が大ダメージを受けた案件のように、まだ時効にならない事件もあるにはあるのだが、そっちは同一人物と証明できる証拠が無いため、これまた逮捕しても有罪に持ち込めない。
要するに、問答無用で仕留めて逮捕しても、証拠不十分で釈放される可能性が低くはなく、また、有罪になったところでせいぜい罰金刑程度の罪では、ブーイングを食らってまで捕まえる理由としては弱い。しかも、どうせ捕まえても護送中に逃げられるのが分かり切っているため、管理局の株を落とす一方になりかねない。スカリエッティ自身は逮捕するに足る証拠はいくつかあるのだが、ナンバーズは共犯者としても現実には大したことをしていない上、タ○ムボカンの悪役のごとく憎めない上にある種のお約束を成立させているため、どうしても捕まえるんだ、というモチベーションに欠けるのである。
「あんまり犯罪者と慣れ合うのもあれやけど、この案が通るんやったら、向こうとある程度の打ち合わせはいるなあ……。」
イベントとしては盛り上がるであろう。それは確信できる。だが、余計なトラブルを起こさずに成功させるには、向こうに余計な事をさせないように、出来るだけ行動を制限する必要がある。それも口約束や進行表によってではなく、実際に取れる行動を減らす方向で考えなければならない。
なのはやフェイトの話では、ナンバーズの中でもセインとディエチの二人は、話が分かる温厚な性格をしているとのことだが、それ以外の人物については、いまいちよく分からないところだ。ただ、これまでの対決映像から分析した感じでは、四番・クアットロ以外は、必要でなければ過激な行動には出ないのではないか、と考えている。もっと正確に言うなら、少なくとも五番以降はなのは達と同じで、普通かどうかはともかく、中身は良くも悪くも真人間に分類されるだろう、と言うのがはやての結論だ。
ゆえに、考えるべき事は、表に出てくるであろうメンバーのうち、クアットロが余計な事をしでかす余地をいかに減らすかだ。はっきりした事は言えないが、あの手のタイプは相手を下に見て、策士策に溺れた結果、周囲を巻き込んで自滅する人種ではないかと踏んでいる。それで単純に自滅してくれる分には構わないが、イベントを崩壊させられたら目も当てられない。
ああでもない、こうでもないと素案をまとめていると、支配人室の扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞ~、って優喜君か。えらい早かったやん。」
「グレアムさんやドゥーエから、はやてが頭をひねってる最中だろうからアドバイスしてくるように、って言われてね。納期が迫ってる分だけ納品してきた。」
「グレアムおじさんはともかく、ドゥーエって誰?」
「ナンバーズの二番。いろいろあってこっちに引きずり込んだ、スキャンダル的な意味で歩く火薬庫。」
「物騒やなあ……。裏切ったりせえへんの?」
「僕に引っ掛けられてこっちについた人間が、今更僕を出しぬけるとでも?」
優喜の返事に苦笑する。聞けば、優喜にひっかけられたのは夜天の書再生プロジェクトが立ち上がったころだそうで、それから今に至るまで優喜の手駒でいると言う事は、今更こちらを裏切る気はないか、裏切る隙を見つけられないかのどちらかだろう。
「そんな長い事暗躍しとったんかい。」
「何をいまさら。あの頃僕が裏でいろいろえげつない事をしてた事ぐらい、知らない訳じゃないでしょ?」
「まあ、そのおかげで、今私らがこうして、罪に問われることもなくやっていけてるんやけどな。」
はやての台詞に小さく笑って、話を元に戻す。
「それで、何を悩んでるの?」
「ああ。四番が記念講演を乗っ取ろうとしとるらしくてな。それを企画の一部に取り込もうとしてるんやけど……。」
「なるほど、向こうがとりそうな行動がはっきりしないから、行動制限をどうかければうまく行くか、確信が持てない、と。」
「そんなところや。」
「とりあえず、今決まってる素案を見せて。ドゥーエと相談して、あれを引っ掛けられそうな展開を考えるから。」
「分かった。頼むわ。」
相変わらず、こういう黒い事柄には無駄に頼りになる男だ。とりあえず、夜に色々話し合うと言うことで、早々にドゥーエを呼び出して色々チェックする事に。
「まあ、それは置いといて、や。ついでやから、ちょっと聞きたいことがあるんやけど、ええ?」
「ん?」
「優喜君から見て、ティアナはどんな感じ?」
「能力的には、今まで見てきた地上の局員の平均よりは上、海の局員から見るとまだまだ見劣りするレベル。技量的なものはあとからいくらでも伸びる年だし、そっちはあまり心配ない。明日から特別メニューでしごく予定だしね。性格的にはなんとも。あれぐらい思い込みが激しかった子も何人か居たし。」
二期生男性グループのリーダーと、三期生ガールズバンドのギターの顔を思い出し、思わず苦笑するはやて。どちらも一年といわず三日で認識が変わり、半年で外部から馬鹿にされても、知らないって事は幸せなんだなあと言う顔をするようになったのだから、竜岡式は色々洒落にならない。
「ただね。思い込みが激しい上に真面目そうだから、おかしな方向に突っ走りそうな不安はある。」
「そっちのフォローは任せるわ。」
「任せられてもねえ。ぶっちゃけ、向こうは僕のことをまったく信用してないし。」
「まあ、信用されるようなことも、まだ何もしてへんしなあ。」
「とりあえず、一番注意が必要なのは、多分記念公演の時だろうね。」
優喜の言葉に一つ頷く。正直な話、スカリエッティの乗っ取り作戦だけだとは思えない。広報六課の関係者はあちらこちらから睨まれている上、期間限定とは言え、今まで自重してきたヴォルケンリッターの芸能デビューもある。遺族会の皆様はむしろ喜んで受け入れてくれたが、反夜天の書派の活動は未だに収まっていない。そっちの情報はまだ入っていないが、警戒に越したことはない。
「そこらへんを踏まえて、もう一個質問。」
「何?」
「二期生のよその部隊との連携と、三期生の仕上がり具合はどんなもん?」
「二期生のほうはカリーナの報告を待って。そもそも、大規模な部隊行動についてを僕に聞かれても、ね。」
「それもそうやな。」
「三期生は、初陣の緊張をどういなすか、だけかな。まだ実戦を経験してないから、こっちもなんとも言えない。」
実質的な稼動初日と言うこともあって、ぶっちゃけ何も進んでいないといってもいい。もっとも、何かが進んでいるのであれば、はやての書類仕事がこんなに簡単に済むわけがないのだが。
「まあ、次の出動は三期生に任すから、フォローよろしくな。」
「了解。じゃ、ちょっと行ってくる。」
「お願いな。」
戻ってきてすぐに出て行く優喜に一つ頭を下げ、とりあえず関係者にデータを転送する。この議題と優喜が持ち帰った修正企画書でむやみやたらと盛り上がり、クアットロの行動をどう誘導するかではなく、ナンバーズ全体をどういじるかで盛り上がるのであった。