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No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
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[18616] 第12話
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:b2346503 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/25 09:05
「また、ええ部屋借りたんやなあ……。」

「まあ、いろいろあって、ね。」

 クリスマスも終わり、そろそろ年越し準備となったある日。仕事帰りにはやてが相談したい事があると連絡してきたので、クラナガンで借りた部屋に来てもらう事にした。クラナガンの中心部にほど近い場所にある、十分な広さとセキュリティを誇る、いわゆる高級マンションだ。広いと言ってもファミリー向けほどの広さはないが、少なくとも個室のスペースは高町家の自室より広い。さすがに時の庭園や月村家の部屋には負けるのだが。

「家賃とか、考えたくない部屋やな。」

はやてのざっと間取りを見せてもらっての感想は、この部屋を見た大半の人間の共通認識だろう。新婚や子供のいない夫婦を意識したらしく、間取りこ2LDKだが、一部屋がとにかく広い。しかも徒歩五分圏内に鉄道の駅や繁華街があると言うのに、部屋の中に居ると驚くほど静かなのだ。多分、共働き前提で、しかもどちらか一方、もしくは双方が最低でもフォルククラスのエリート(二十歳前で二等陸尉)でなければ、とても借りる事は出来ないだろう。

「確かに、明らかに安くはないけどね。フェイトちゃんと折半だから、それほどでもないよ。」

「そもそも、一人で使うんだったら、この半分もいらないしね。」

「折半でも、私らの収入やとどう逆立ちしても無理やで。」

 微妙に羨ましそうなはやての言葉に、どう答えていいか分からず苦笑する。別段なのは達も、見せつけるためにこの部屋にしたわけではない。二人ほどの人気と収入になると、いくら単に休憩するか寝るだけの場所だと言っても、四畳半のおんぼろアパートなど借りるわけにはいかないのである。かといって、チェックインの時間もあるので、遅くなったからホテルを、と言うのもなかなか難しい。結局、単なる素泊まりのホテルの代わりだと言うのに、やたらリッチな部屋を借りる羽目になったのだ。

 もっとも、二人してミッドチルダのお金は貯めるだけでほとんど手をつけていないため、月のうち合計一週間も利用しないような部屋に大金をつぎ込んでも、それほど痛くない。フェイトなどは、使ってないなら全額支援の資金に回せばいいじゃないか、などとよく言われるが、管理局員は政治家よりは緩いとはいえ、寄付できる上限と言うのが決まっている。上限いっぱいまで手持ちを寄付やら支援資金やらに回したところで、全収入の一割にもとどかないのが現状だ。結果として、さすがにまだ経済に悪影響が出るほどではないにしろ、かなり巨額の資金が銀行に眠っていると言う笑えない状況になっている。

「はやては、収入自体は十分このぐらいの部屋で生活するレベルに届いてると思うんだけど……。」

「残念ながら、八神家は基本的にフォル君の収入だけで生活しとるから、使えるお金はなのはちゃんの基本給と大差あらへんで。」

「……そこまで返済厳しいんだ。」

「ほんまはそこまでせんでもええんやけど、無利子無担保で借りてるお金を、そんな長い事返済引っ張るんは人としてどうかと思うやん。」

 はやての言葉に、何とも言えずに沈黙する二人。常々、この無意味な収入がはやてにあればいいのにと思うのだが、ばかげた収入の源泉が芸能活動である手前、闇の書事件の被害者感情を考えるとあまりチャラチャラした事をするのは抵抗があるらしい。世の中、ままならないものである。

「それで、相談したい事って何?」

 ほとんど使っていないキッチンでお茶を淹れ、はやての前に出して問いかける。この部屋を使う場合、食事は支給されたものか外食ですませるため、立派なシステムキッチンも単にお茶を入れるためだけの設備になり下がっている。外食より支給の弁当で済ませることの方が圧倒的に多いのも、二人の口座に無駄金がたまる原因の一つだろう。

「なのはちゃんらは、新しい部隊の話って知ってる?」

「聞いた事はあるかな。」

「確か、広報部所属の魔導師を、今の小規模なチームでの運用をやめて、一つの部隊として再編成するんだっけ?」

「そうそう。その部隊。」

「あれ、優喜君が向こうに帰るかもしれないからって、立ち消えになったんじゃなかったっけ?」

 なのはの指摘に頷く。実際のところ、広報部の魔導師は、大前提として資質が低すぎる、偏り過ぎる、極端に高すぎる、などの理由で一般の部隊で運用できない人材しか居ない、というものがある。それらを竜岡式訓練法で無理やり戦力として強化し、力技で運用しているのだから、前提となる竜岡式訓練法を施せる優喜が居なくなると、新人を増やす事が出来ない。

 その上で現在の戦力を見ると、魔導師ランクの合計で見れば下手をすれば教導隊をも上回るが、圧倒的に人数が足りない。何しろ、正式に稼働している魔導師は現在四人、来年度デビュー組十人と訓練生八人を含めても二十二人だ。その次の企画は原点回帰と言う事で、Wingを踏襲したデュオ一組(現在人選中)だし、そっちが一人前になるまで優喜が面倒を見られるかどうかはグレーゾーンだ。

 全員稼働すれば二十四人も居る、と言われそうだが、残念ながら広報部の特性上、基本的にまず全員同時に動かせない。その上、もう一つの欠点である夜番が居ないと言う問題を解決するには、基本昼間に行う芸能活動との兼ね合いもあって、普通の部隊よりはるかに大勢の人員が必要なのだ。そこまで回すには、二十四人では少なすぎると言わざるを得ない。しかも、それだけのやりくりができるほど経験を積んでいるのは、いまだに良くてアバンテとカリーナまで、しかもなのはとフェイトは学生もやっているため、広報部専任のアバンテ達ほど夜勤をこなせない。当座は外部に交替部隊をやってもらってしのぐにしても、いつまでも通じるやり方ではないだろう。

 つまり、現状ではある程度安定的に人数を増やせる前提でなければ、広報一課の魔導師を、広報と言う性質を保ったまま新設部隊に移すのは難しいのだ。

「まあ、当初の計画とは違う形になるんやけどな。」

「と、言うと?」

「新しく立ち上がった計画は、や。むしろ現状広報部におる子らを、一般の部隊と作戦行動できるように、実戦を通して再訓練するのが主眼や。そのためには、どんな形でもええから、一旦部隊として編成する必要がある、言う事になってな。」

 はやての言葉に納得する。確かに、広報部の魔導師が抱える最大の欠点が、いろいろ尖りすぎていて他の部隊と足並みがそろわない事である以上、その問題を解消するために部隊行動のイロハを教え込むのはありだろう。何しろ、能力的には管理局史上最も柔軟に動けるカリーナですら、まともな部隊行動を経験していないため、現状他所の部隊とはまともに連携をとれないのである。

「部隊の趣旨は分かったけど、私たちに相談するようなことじゃないよね?」

「相談事はここからや。」

 そう言って、デバイスから名簿やら何やらのデータを呼び出すはやて。

「今回の部隊設立計画な、その性質上他所の部隊との協力だけやなくて、竜岡式で鍛えられた上で他所に所属してる、もしくは普通の魔導師と一緒に行動してる人間が内部に必須やねん。」

「そうだね。でも、そんな都合のいい人って、フォルク以外に居たっけ?」

「そういえば、ギンガが今、ゲンヤさんのところで頑張ってたっけ?」

「うん。ただ、フォル君は計画段階からこっち側の人間にはいっとるし、ランク含む諸般の事情からギンガを引き抜くんはちょっとしんどいから、まだ実務経験がない、もしくは実務に携わって日が浅い子を新しくこっちに引っ張り込む事になりそうやねん。」

「……そんな都合のいい子、居たっけ?」

「なのはちゃんらが無意識に除外するのも分かるけど、現状管理局及び関連施設には、広報部とフォル君、ギンガ以外に後四人、竜岡式で鍛えられてるんがおるんやで。」

 はやての言葉にピンときて、思わず顔色を変えるフェイト。

「まさか!?」

「そうや。スバル、エリオ、キャロ、ルーテシアの四人や。ただ、ルーテシアに関しては、保護者のメガーヌさんがあんまりええ顔してへんし、キャロほど強力な召喚対象を持ってへんから保留。その代わり、他の三人を確実にこっちに入れたい。」

「エリオもキャロも、まだ子供なんだよ!?」

「分かっとる。いくら鬼教官にしごかれてそこらのAランク魔導師より強い言うても、二人とも現時点では単なる子供や。正直、あんまり実戦に引っ張り込みたくはあらへん。」

 フェイトの反応に、渋い顔で返事を返すはやて。彼女とて本意ではないのだろう。

「せやけどな、なのはちゃん、フェイトちゃん。まだ二人とも身分的には安全と言い難いし、正直カリーナ達とは違う意味で陸士学校では伸び悩んどる。周りと対立せえへんように実力を押さえて周りに合わせて、ちゅうことをあの年で何年も続けとったら、二人とも確実に芽がつぶれる。」

「そうかもしれないけど……。」

「それにな。これがあの子らの所属をコントロールできる、最初で最後のタイミングかもしれへんねん。」

「えっ……?」

 その不穏な言葉に、思わず引きつった顔ではやてを見つめるフェイト。言いたいことに思い当ったのか、難しい顔をするなのは。その二人の様子に一つ頷き、続きを話すはやて。

「前にフェイトちゃん言うとったやん。管理局に所属してへんかったら、どんな組織に狙われるか分かったもんやないって。」

「……うん。」

「それ、なにも管理局外部だけに限った話やないねん。」

 直視したくなかった現実を突き付けられ、思わず沈黙するフェイト。なのははすでに、口をはさむ事をやめている。

「こんなこと言いたないけど、キャロみたいなケースは年に何件かはある。クラナガンはなのはちゃんらのおかげで大分余裕が出来とるけどな、地方や辺境は、さすがにそういうわけにもいかへんし。」

「私達が頑張った分で出来た余裕を、そっちに回すのは……。」

「フェイトちゃん。今、自分で言うとって、無理やって思ったんやろ?」

「……うん。」

 はやての突っ込みに、素直に頷くフェイト。それが出来るほどには、管理局にはまだ余裕が出来ていない。せいぜい例の件以来、新型装備の配備について、海の武装隊やクラナガンより、地方や辺境を優先するようになった程度だ。広報部のイロモノ以外にも実力者が多い海やクラナガンは、AMF対策装備が少々遅れても、割と軽微な被害で食い止められるのである。

「でな、悪い事に、エリオもキャロも、陸士学校の初等過程は前倒しで今年中に終わるし、多分中等過程も一年もあれば卒業するやろう。そうなると、そのまま士官学校にでも移らんことには、十二歳未満の少年兵の配備を原則禁止する新協定は守られへん。つまり、このままやと自動的に特例措置を取らざるを得んのや。」

「……士官学校は、さすがに厳しいか……。」

「別にあかんとは言わへんけど、保護者の目から見てどう見えとる?」

「無理とは言わないけど、向いてるとは思えない。」

「それに、二人とも、あまり出世とかには興味なさそう。」

 保護者二人の言葉に、同意するように頷くはやて。エリオもキャロもなのは達と同じく、前線で直接戦う戦力としてこそ、最も力を発揮するタイプだ。召喚師として後方に居るのが基本であるキャロはまだしも、フェイト以上に個人技に特化したエリオの場合、指示を受けて切りこんで行く方が明らかに向いている。

「そもそも、竜岡式で鍛えられた連中は、基本的に指揮官に向かへんからなあ。」

 はやての台詞に同意する、竜岡式の門下生筆頭二名。なのはとフェイトは各々の資格の絡みで短期の士官教育を受け、実際に直接戦闘に関わらずに指揮のみを行った経験もそれなりにあるが、はやてと違って少なくとも戦場全体の指揮に回すには、当人達の能力がもったいなさすぎる。出来なくはないが、どうしようもない状況でもない限りは、指揮をしている暇があれば突撃させた方がメリットが大きいのだ。

「で、や。そこまで踏まえたうえで、エリオとキャロの広報部所属、何とかOKしてくれへんやろうか?」

「……はやてはずるい……。」

「自覚はある。」

「……分かったよ。二人が自分で自分の身を守れるようになるまで、広報部で鍛えよう。なのは、いいよね?」

「フェイトちゃんがいいのなら、私は反対するつもりはないよ。」

 二人の返事を聞いて、一つ大きくため息をつく。

「それはそうと、どうしてはやてが広報部の部隊に口をはさむの?」

「はやてちゃん、遺族感情を逆なでしたくないからって、カリーナ達の時に転属を断ってたよね?」

「ちょっと事情が変わってな。私自身が芸能活動する気はない、言うんは変わらへんけど、それとは別口で、新部隊の指揮官、私がやる事になりそうやねん。」

 はやてのため息交じりの告白に、思わず顔を見合わせるなのはとフェイト。年齢はともかく、階級と経験年数、そして重ねてきたキャリアに持っている資格まで考えるなら、かなり早い部類ではあっても、クロノのように例のない昇進速度、というわけでもない。

「それは、普通ならおめでとう、と言うところだけど……。」

「はやて、なんだかすごく不本意そうだね?」

「不本意、っていうかなあ……。」

 なのはとフェイトの不思議そうな表情に、どう答えるかしばし思案する。ざっと気持ちを整理して、気に食わない、と言うほどではないにしろ、余り気持ちがいいわけでもない要素を口にする。

「これが普通の人員を持ってきた普通の部隊やったら、まだ良かったんやけどな。広報部の魔導師は全員知り合いやし、それなりにいろいろ因縁がない訳でもないし、なあ。」

「あ~。」

「別に、広報部を下に見る気はないんやけど、どうにも他に指揮官に回す人材がおらへんで、そろそろ部隊を任せたいぐらいの人材のうち、一番扱いやすくて文句を言わへん人間を強引に割り当てたような感じがして、ちょっと微妙な気分やねん。」

「なるほど……。」

 仮になのはがはやての立場だったら、確かに素直に喜べない。そうでなくても広報部の戦闘員は、どいつもこいつもよそで務まらなかった問題児だ。イロモノ的な部分を抜きにしても、普通のキャリアが積極的に指揮をしたい人員ではない。しかも、そこにいろいろと実験的な要素が加わるとなると、初めて任される部隊としては敬遠したくなっても当然だろう。

「ま、まあ、広報部の事に関しては、出来る限り協力するから、ね。」

「そんなん当然や。と言うかフェイトちゃん。他人事のように言うてるけどな、自分らも新部隊の小隊長として配属されるんやで。」

「「え゛?」」

 はやての予想外の言葉に、思わず固まるなのはとフェイト。生れてこのかた、研修期間をアースラの武装隊に見習いの嘱託として参加した以外は、部隊と呼べるような集団に所属した事はない。せいぜいが緊急支援に向かった際に、トラブルで不在になった指揮官の代わりに全体や正体の指揮を執った程度で、所属した、と言えるようなものではない。そもそも、普通の部隊に配属できるのであれば、最初からアイドル局員としてフリーで緊急出撃を繰り返す、などと言う状態にはなっていない。

「なんかすごい意外そうやけど、今までの話の流れで予想できへん?」

「ごめん、はやて。今までランクとかの都合で一度も部隊に所属した事が無かったから、無意識に今回も直接は無関係だと思ってたよ。」

「言われてみたらそうかもしれへんけど、今回に関しては、二人は最初から保有制限にカウントせえへん、言う事で話がついとるんよ。」

「それでいいなら、わざわざ広報部に入れずに、最初からそうすればいいのに……。」

「これも、広報部やからこその特例やで。芸能活動との二足のわらじ、っちゅう常時運用できへん要素が噛んでる上に、私も含めて三人とも学生やからこそ許された手や。」

 はやての言葉に、深く深くため息をつく。どこまでも今までの常識を蹂躙せざるを得ない自分達に、いろいろ疲れが出てきたのだ。

「まあ、それはいいとして、後は誰が内定してるの?」

「広報部以外で決まってるのは、ヴォルケンリッターだけや。因みに、新戦術とかも噛んでくるから、っちゅう名目でヴィータが、基本的な活動の場は地上やから、ってことでシグナムが参加する事になって、それやったらいざという時のコンビネーションも考えて、シャマルに出向してもらう事になってん。」

「本気で、制限ランク大丈夫なの?」

「今回は、もうすでに広報部におる子らは別枠扱いになってるから、どうにかはなる。鍛えた結果、認定試験でランクが上がった分も勘定に入れへん事になってるから、そこも気にせんでええ。」

「なんだか、他所の部隊の人に聞かれたら暴動が起こりそうな条件だよね。」

 なのはの感想に、苦笑しながら頷く。実際、この条件を決定するために、非常に揉めたのは事実だ。結局は将来的に今回別枠扱いになったイロモノどもを、普通の部隊に引っ張り込んで運用できるようになる可能性に賭けるということで反対派を納得させて承認を取ったのだが、結果としてヴォルケンズ以外で引っ張りこめる人員はランクA未満を最大五人、という制約がつけられてしまった。そこで出てきた話が、スバル、エリオ、キャロの三人を勧誘する、という案である。

「まあ、実際のところ、イロモノを他の部隊でも運用できるかもしれへん言う可能性と、発足してから一年間の期間限定でやる予定になってるから、今回はええかって目をつぶってもらった側面が大きいで。」

「だよね。そのぐらいの餌がないと、この条件はねえ……。」

「これ、一年間で他所の部隊との連携に成果が出なかったら、どうなるの?」

「そら、私の出世の見込みが無くなるだけの話やで。」

「うわあ……。」

 はやての言葉に絶句するなのはとフェイト。実際のところ、推進派の影響力が大幅に落ちるぐらいで、さすがにこんな目が出るかも分からない実験で、拒否権なしで隊長職を押し付けられたはやての出世の目を奪うほど反対派も鬼ではないのだが、彼女自身は割と本気で、失敗すれば出世が止まると思っている。

「まあ、そんなわけやから、あんじょう気張ってや。因みに発足は再来年の四月、つまりあと一年ちょっとしてからの予定やから、それまでに心の準備だけはお願いな。」

「うう……、そんな事言われたらプレッシャーが……。」

「……私、今からでも引退して翠屋を継ごうかな……。」

 なのはのあまりに都合のいい言い分に、思わず顔を見合わせるフェイトとはやて。思わずまじまじとなのはを見つめ、同時に同じ言葉を口にする。

「「なのは(ちゃん)、今更管理局をやめられると思ってるの(ん)?」」

「だよね……。」

 新しく見つけたやりたいことへの道。その道のりの遠さに心の中で涙するなのはであった。







「よく来てくれたわね、すずか。」

「あの、プレシアさん、お話って?」

「いくつかあるから、一つずつ片付けて行きましょう。」

 なのは達がはやてと話し込んでいるのと同じ時間、すずかはプレシアに呼ばれて、時の庭園に顔を出していた。

「まず、これを見てほしいのだけど……。」

「えっと、カツオ、昆布、イワシにちりめんじゃこ……?」

「ええ。あなたの目から見て、どうかしら?」

「……どれもいいものだとは思いますけど……?」

 問われてじっくり見たすずかの回答に、ガッツポーズを取るプレシア。割と本格的に料理をするようになってからこっち、すずかは食材の目利きもずいぶんと上達した。なのは達と共に、好きな人に美味しいものを食べて欲しい一心で鍛えたその眼力は、競りの市場のプロと比べても遜色がない。プレシアが用意した海産物は、そのすずかの目をもってしても、十分一級品であると太鼓判が押せる代物である。

「それで、この海産物はいったい?」

「私が買い取った無人惑星で取れたものよ。」

「は?」

「ついでだから、この塩もちょっと見てくれないかしら?」

 言われて差し出された塩何種類かを、ほんの少しずつ舐めて味見してみる。

「ちょっと個性が強いですけど、どれもいいお塩ですね。」

「そう? ちなみにどれが一番癖がないかしら?」

「えっと、私の感覚ではこれですね。」

 三つ目に味見をしたものを指し示す。それを見たプレシアが、少し思案する。

「やっぱり、海水から精製したものが、一番癖が少なくなるのね。」

「えっと、無人惑星を買い取ったって……?」

「いろいろ思うところがあってね。循環式農場プラントシステムとか、時間停止式食料保存システムとかの特許収入で、不便な立地にある海洋主体の地球型無人惑星を一つ、買い取ったのよ。」

 やたらスケールの大きい話を、何事もなかったかのように言ってのけるプレシア。毎度のことながら、この人の金銭感覚は理解できない。

「で、買ったはいいけど、獲れる海産物の質がどうか分からなかったから、ちょっと目利きしてもらったのよ。」

「はあ……。」

 プレシアのいまいちピントのずれた発想に、あきれとも感嘆ともつかない相槌を打つすずか。どうやら時の庭園では魚介類が手に入らないという不満や、作れる塩がごみを処理した時にできる分しかないという問題を解消するためだけに惑星を買ったようだが、費用対効果で言うなら最悪であろう。ぶっちゃけ、塩や魚介ぐらいは普通に買えよ、と言うのがすずかの率直な意見である。

「とりあえず、獲れるものは特に問題ないみたいだから、これで豆腐と鰹節の研究ができるわね。塩も新しくなるから、醤油も少しいじった方がいいかしら。」

「……あの、一つ質問いいですか。」

「何?」

「魚とか、獲り過ぎたりしないんですか?」

 すずかの質問に、思わず苦笑を浮かべる。当然と言えば当然だが、やはり、みんな最初に気になるのはそこらしい。特にじゃこなどは網いっぱいすくうイメージが強いし、イワシなどの小魚も、釣るよりむしろ網で一網打尽、と言うのが一般的な印象であろう。

「農園の方もそうだけど、収穫が上がりすぎて余った分は、許可を取った上で通販で売ってるから大丈夫よ。」

「そ、そうなんですか……。」

「因みに、一番高く売れるのは、ニホンミツバチを使って収穫したはちみつよ。そんなにたくさんの余剰が出来る訳じゃないから、入札制でものすごくいい値段になるわ。後は日本酒と醤油も人気ね。」

 割とずれた事を言い出すプレシアに、反応に困ってあいまいに笑って済ませるすずか。ここらへんの対応が、地味にフェイトと似ている。因みに、時の庭園の生産能力はフル稼働で、大体年に千人を飢えさせずに済む程度。昨今の次元世界全体の食糧需給からすれば、一般的な農家を圧迫するには程遠いレベルだ。販売物もどちらかと言うと調味料や嗜好品寄りで、どこかと競合すると言う事もあまりない。

 農場プラント自体は基本的に放置で勝手に生産するとは言え、やはりある程度は世話をするための労働力が必要だ。時の庭園では傀儡兵を改造して行っているが、買い取った企業や国家、自治体などは普通に雇用の場として利用している。魔力炉を使う事による生育の早さで収穫の回数が多いため、内戦などで産業が壊滅した地域の立て直しと飢餓問題の解決に大いに役立っているらしい。

「それで、お話ってそれだけですか?」

「いいえ。今の話はどちらかと言うと私の趣味が絡んだおまけで、本題はこれから話す方よ。」

 そう言って表情を正し、本来持ちかける予定だった話を切り出す。

「すずか、私の助手をやってくれないかしら?」

「えっ?」

「忍に聞いているわ。あなた、エーデリヒ式の修理・メンテナンスができるんでしょう?」

「はい。」

 エーデリヒ式と言うのは、ノエルやファリンのような自動人形の事である。彼女達は管理局の技術をもってしてもオーパーツと呼べる代物で、プレシアですらその構造を完璧に理解できているわけではない。そのエーデリヒ式であるノエルを修理しただけでなく、ファリンと言う新作を作り上げた忍は、次元世界屈指の技師であると言っても過言ではない。

 忍はその技術を、恭也との結婚を機に、もしもの時のためにすずかに伝授しているのだ。何しろ、それなりの頻度でちょこちょこドイツ方面に出張せざるを得ないのが今の忍であり、すずかが大学に入るぐらいの時期に、一度長期で向こうの一族のもとに行くことになっている。その間に何かあった時、誰もファリンのメンテナンスが出来なくなってしまう。そのため、念のためにすずかに、出来る限りの技術を伝授してあるのだ。さすがに忍のように一から自動人形を作る事は出来ないが、そっち方面の技術では、すずかは次元世界で二番目の腕を持っている事になる。

「本当は、忍に頼もうかとも思ったのだけど、あの子はあの子でいろいろしがらみがあるでしょう? かといって、なのはもフェイトも、完全にこっち方面からは興味が逸れちゃったし。」

「あ~、確かにそうですね。」

「それに、あなたにとってもメリットはあるのよ?」

「メリット、ですか?」

 微妙にいきなり飛んだ話の内容についていけず、思わず聞き返してしまう。

「ええ。一年あれば、秋葉原で買える部品で、ストレージデバイスぐらいは作れるだけの技術を仕込んであげられるわ。」

 プレシアの言葉で、意図するところを理解する。どうやら彼女は、すずかが優喜を追いかけて行っても、向こうで何とかやっていけるだけの知識と技を仕込むつもりらしい。仮にその気遣いが無用になったところで、その時はプレシアの後継者として育て上げれば済む話である。実際、プレシアの年を考えれば、そろそろ後を継げる人間を育てておく必要はあるし、管理局に所属していない人物で、技術や工学に興味を持っている人間は現状すずかだけだ。忍もおりを見ていろいろ吸収してはいるが、月村家の次期頭首としての活動が忙しく、思うようにはいかない。

「無理にとは言わないけど、どうかしら。」

「……この話、お姉ちゃんは?」

「もちろん、知っているわ。話を持ちかけた時、あなたが断らなければ是非に、と言っていたわよ。」

「もう少し、詳しい話を聞かせていただいて構いませんか? 拘束時間とかそういう部分が分からないと、ちょっと判断しづらくて。」

「ええ、そうね。すぐに資料を用意するわ。」

 そう言って、あわただしくデバイスを起動、割とごちゃごちゃに詰め込まれたファイルをあれでもないこれでもないと確認して行き、ようやく目的のものを呼び出す。それをすずかにもみえるように表示しながら、大雑把な概要と拘束時間、その他条件を説明していく。ぶっちゃけた話、今やっている習い事の絡みさえなければ、すずかにとってこれ以上ないぐらいの好条件である。すぐにでも飛びつきたいところだが、さすがにいくつか一存で決められない事もある。

「……すみません。すぐに決められない事があるので、この資料を頂いて帰ってよろしいですか?」

「ええ。でもその様子だと、結論は決まっているみたいだけど?」

「はい。ただ、それでも、さすがに勝手に決めるわけにはいかない事がいくつかありまして……。」

「まあ、忍なら事後承諾でも駄目とは言わないと思うし、ご両親の方はすでに実権を忍に譲っているも同然らしいから、忍がうんと言ったなら特に反対はしないとは思うけど。」

「私もそう思います。ただ単純に、これは人間として筋を通すべきだと思っただけですから。」

 すずかの真面目な意見に、一つ頷いて理解を示す。とは言え、それほど残された時間は多くはない。早急に話を終わらせる必要がある。

「それじゃあ、返事はいつでもいいけど、タイムリミットを考えたら早めにお願いね。」

「はい。」

 一つ頷いて退出しようとしたところで、何やら小包を持ってきたリニスが入ってくる。

「あ、もうお帰りですか?」

「はい。」

「だったら、少し待っていただけます? ちょっと持って帰って、食べてみていただきたいものがありますので。」

「分かりました。」

 リニスの言葉に頷き、立ったままその場で待機する。

「プレシア、必要なのは分かりますが、こういうのを使い魔の名前で購入するのはやめていただけません?」

「前、私の名前で買おうとしたら怒ったくせに。」

「当たり前です! どこの世界に、もうじき七十に手が届くのに、こんなものを堂々と買う女が居るんですか!? 余計な話を持ち込む老人たちに買わせればいいんです!」

 いきなり苦情を言いだしたリニスに目を丸くしていると、悪びれた様子も見せずにしれっとプレシアがすずかに声をかけてくる。

「これが何か、気になる?」

「気にならないわけでは……。」

「プレシア! うら若き乙女に、何を見せるつもりなんですか!?」

「別に無関係ではないのだし、いいじゃない。」

 そう言ってのけて、リニスの制止を振り切って、あっさり梱包を解いてみせる。中から出てきたのは、男ならば絶対見られたくないであろう、十八才未満御断りの写真集やビデオの類。

「……もしかして、これ……。」

「言うまでもなく、優喜の治療に使うものよ。毎回忍と一緒に厳選して発注してるわ。」

「……これを、ゆうくんが……。」

 顔を真っ赤にしながら、思わずまじまじと内容物を見てしまう。一発で分かる共通項目として、なのは、フェイト、そしてすずか自身に良く似た女性のものばかりだと言う事。無論、どちらの方が美人かと言えば、圧倒的に本物である。ボディラインも一枚二枚は本人の方が上だ。だが、そんな事は割とどうでもよく、すずかの中では妙な嬉しさと悔しさが渦巻いて居たりする。

「あの……、もしかして……。」

「わざと、あなた達に似たものを探して用意しているわ。今度機会があれば優喜の部屋を漁ってみなさい。多分、いくつかは残ってるはずだから。」

「……。」

 プレシアの言葉を聞き、魅入られたように、今のすずかでは年齢確認で引っ掛かるそれらのブツに恐る恐る手を伸ばす。写真の、映像の中で、自分達に似た女性が、どのような痴態を繰り広げているのか。どんなあられもない姿を、これから優喜に見せつけるのか。ある種の好奇心と女の部分に負けて、不思議な魔力を放つそれらの中身を確認しようとしてしまう。

「すずかさん! 正気に戻ってください!」

 慌てたようなリニスの言葉に、はっとなって手を引っ込める。危うくはしたない真似をしてしまうところだった。しかも、周期から言うと、そろそろ発情期が近い。こんなものを下手に見た日には、何をしでかすか分かったものではない。

「ご、ごめんなさい、リニスさん!」

「こちらこそ申し訳ありません。もう少し、プレシアのやりそうなことを予想してから詰め寄るべきでした……。」

「あら、いずれ近い将来にこういう事をしなければいけないのだし、別に見ても問題ないんじゃない?」

「プレシア、あなたは最近、デリカシーと言うものを投げ捨てすぎです!」

「そんなものを気にしていて、優喜の治療ができるわけが無いでしょう?」

 どうにもかみ合っていない議論を続ける主と使い魔。その様子を、身の置き場のなさそうな様子で見守るしかないすずか。年頃の乙女の前でやるようなものとは思えないケンカは、リニスが正気に戻るまで続けられるのであった。







「今日はお疲れさん。」

「悪いね、誘ってもらって。」

「いいって。人数足りてなかったのは本当なんだし。」

 夕方の翠屋。草サッカーの試合を終えた優喜と高槻君は、打ち上げ代わりのティータイムとしゃれこんでいた。

「しかし、やっぱりお前、がっつり悩んでるだろう。」

「……どうして?」

「今日の試合、いまいち加減が効いてなかったぞ。ユース期待の星のGKを、素人のシュートが体ごとふっ飛ばしちゃまずいだろう。」

「あ~、ごめん。」

 ずっと真剣にサッカーに打ち込んできた高槻君は、高等部進学と同時に、ユースの強化選手に選ばれていた。まだ未完成ゆえやや波があるものの、調子のいい時はプロの選手のシュートすら完全に止め切ることもあるというとんでもない実力を見せる彼は、自称ではなく本当にユース期待の星である。そのくせ、いまだに聖祥で上位三十人以内の成績を維持しているのだから、ある種の超人であるのは間違いない。

 そんな彼をサッカー漫画よろしくシュートで吹っ飛ばしてゴールを決めたのだから、明らかに優喜は加減が効いていない。もっとも、本当に手加減抜きだったら、ボールを破裂させるか、進路上の人間全部をふっ飛ばしてゴールネットをぶち抜くかのどちらかなのだから、いまいち加減が効いて居ないと言うレベルにはまだおさまっている。

「まあ、それ自体は構わないんだけどな。お前に付き合ってもらったから、ある程度プロでも通用してるんだし。」

「だといいけど、ものすごくアバウトにしか蹴ってないから、言うほど役に立ってたとは思えないよ?」

「まあ、コントロールとかは恐ろしくアバウトだったけどな。プロでもあの威力、あの切れ味で飛んでくるシュートはまれだから、あれに追いつけるんだったら、かなりの線で反応できるんだよ。」

「そういうもん?」

「そういうもん。」

 そこまで話して苦笑し、互いに飲み物を一口。高槻君はコーヒーだが、優喜はストレートティーだ。別にコーヒーが嫌いなわけではないが、翠屋だとどういう訳か、自動的に紅茶が出てくるのだ。

「で、何を悩んでるんだ? あいつらに、ガチの告白でもされたか?」

「まあ、そんな処。」

「へえ、ついに思い切ったか。いつだ?」

「ゴールデンウィークが終わってすぐぐらい。」

「そんなに前かよ。いくらなんでも、それは引っ張りすぎじゃないか?」

「僕もそう思うよ。」

 そこまで言ってため息をつくと、もう一口紅茶をすする。

「まあ、普通ならこの優柔不断め、とか言ってボコるところなんだろうけど、そんな単純な話でもないんだろう?」

「分かる?」

「ああ。だってお前、明らかに性欲の類が薄いだろう? 男子部なんて女子の目が無いから、結構エロ本の類とかエロトークとかフリーでやってるってのに、お前完全スルーじゃないか。恋バナ振られても曖昧に笑って逃げるし、よ。」

「それが不自然だってことは、分かってるんだよ?」

「だろうな。で、だ。お前のそういう様子から、聖祥全体でこういう説がまことしやかにささやかれてるんだが、知ってるか?」

「説?」

 高槻君の言葉に、怪訝な顔をする優喜。さすがにたかが性欲が薄い、と言うよりほとんど無いだけで、学説もどきが流れると言うのは、予想外にもほどがある。

「おう。お前みたいな『性別:お姉さま』は、性欲とか恋愛感情とかを超越した、崇拝されるための存在だ、って言うみょうちくりんな説がな。」

「ちょっと待てい!」

「言っとくけど、ガチで信じてるやつ、結構いるんだぞ?」

「てか、『性別:お姉さま』ってなんだよ!?」

「お前の場合、行動とか態度とか、たまにそうとしか表現できないところがあるからなあ。何というか、どっちつかずな感じなんだよな。」

 高槻君のとどめに、思わずテーブルに突っ伏しる優喜。そもそも、最初に言われ始めてからそろそろ四年がたとうと言うのに、まだそのネタを引っ張っていたこと自体がショックである。

「まあ、そこはどうでもいいっちゃどうでもいいんだが。」

「他人事だと思って気楽に言うよね……。」

「いやだって、どうにもならないし。」

「そりゃそうだけど……。」

 この分では向こうに帰らない限り、下手をすると就職してからも言われかねない。あまりのショックにそんな絶望的な予測すら立ててしまう。

「とりあえず、今はお姉さま関係は置いておこう。で、結局のところ、誰に応えるかを悩んでる、ってわけじゃないんだろう?」

「ん。正直に言うと、そもそもそこにすら至ってない。」

「最近、らしくなく恋愛小説だの少女漫画だのを借りまくってるのも、それが原因か?」

「だよ。正直に言って、いまだに恋愛感情とは何ぞや、と言うのが感覚として理解できない。」

 この際だからと、高槻君の口の堅さを信用して、正直に思うところを相談する。

「しかも、それでも誰か一人が特別に大事だ、って言うのなら返事のしようもあるけど、トータルだと三人の誰が特に気になる、って言うのもない。ぶっちゃけた話、高槻だって同じ程度には大事な人間なんだし。」

「そりゃ光栄だが、お前の外見でそういう下手な事を言われると、俺の彼女が非常に怖い。」

「向こうだって、そういう意味じゃない事ぐらいは理解してるんじゃないの?」

「あ~、やっぱりお前、本気で恋愛感情ってやつを理解してないな。今のでよく分かった。」

 高槻君の返事で、薄々そうではないかと思いつつ納得しきれていなかった事を、理屈として理解する。やはり、絶対大丈夫だと分かっている相手でも、恋愛感情が絡むと完全に信用するのは難しいらしい。むしろ、優喜のこの状態を理解したうえで、焼きもちも焼かずに一途に思い続けるあの三人がおかしいのだろう。

「やっぱり、高槻ぐらい噂の立たない奴で、しかもずっとクラスメイトで僕の中身が完璧に男だって分かってても駄目?」

「そりゃ無理だって。ある程度理解してはくれてるけどさ、それでも感情の上では納得しきれてないみたいで、お前とあんまり仲よくしてるとやっぱ機嫌悪いしさ。」

「腐女子って線はない?」

「ないない。八神かバニングスに聞いてみな。完璧に否定してくれるからさ。」

 その言葉に苦笑する。はやては身内に腐女子、と言うより貴腐人が居るためにそういうところに敏感で、かなり高精度の腐女子名簿を完成させていたりする。なんに使うのかは簡単で、自分が巻き込まれないようにするためだ。

「まあ、ちょっと話を戻すとだ。彼氏がお前と仲良く話してて機嫌悪くならない女なんて、俺が知ってる中じゃ八神とバニングスぐらいじゃないか?」

「ありがたくない話だなあ……。」

「むしろ、よくあの二人は普通で居られるよな。」

「まあ、付き合いの長さも深さも全然違うからね。」

 優喜の言葉に一つ頷くと、コーヒーを飲み干す。優喜も同時に飲み干したのを見てお代りを頼もうかと思ったら、いつの間にか士郎が来て注いでくれる。

「サービスするよ。」

「あ、どうも。」

「いやなに。大事な相談に乗ってくれてるみたいだしね。」

「単に愚痴を聞いてるだけですよ。」

 高槻君の言葉に魅力的な笑みを浮かべると、ついでにピザをテーブルに乗せ、伝票をすっと抜き取る士郎。あまりの好待遇に思わず恐縮する高槻君に苦笑すると、そのまま何も言わずに立ち去る。

「お前、大事にされてるな。」

「申し訳ないぐらいに、ね。」

「いいんじゃないか? それぐらいの事はしてるんだろ?」

「さあ、ね。」

 などととぼけてみせる優喜に苦笑し、折角おごってもらったのだし、と、ピザに手をつける。自分では気が付いていないようだが、目の前の女顔はあちらこちらにシンパが居る。高槻君自身も含めて、それだけの人間が世話になった、と言う実感を持っているわけで、例のお姉さまネタをある種の崇拝を伴っていまだに引っ張り続けているのも、それだけの実績を積み重ねたからに他ならない。正直、こいつを恋愛や性欲の対象として見る女を理解できない、そういう種類の人物だが、例の女教師よりはよっぽど人としてまともだとは思っている。

「まあ、話を戻すか。」

「うん。」

「お前、結局恋愛感情が理解できない、でも早く返事しなきゃいけない、ってことで悩んでるのか?」

「そうなるね。」

「だったら、早く返事しなきゃいけない、ってのは考えなくていいと思うぞ。」

 高槻君の意外な言葉に、思わず驚きの表情を浮かべる。その様子に苦笑しながら、言葉を続ける高槻君。

「だってさ、告白されたから返事を、なんて今更の話なんだからさ。」

「でも……。」

「と言うか、あれだけ露骨にアタックされて、返事無しでずっとじらされてきてるんだぞ? 高町は正確には分からないけど、五年ぐらいか? 月村とテスタロッサに至っては八年だ。よくもまあそれだけ続くもんだと思うけど、逆に言えば今更半年やそこらは誤差の範囲だってことだ。」

「かなあ?」

「おう。」

 そこまで言いきって、二切れ目を制圧にかかる。ピザは熱いうちに食べるのが一番だ。

「それに、だ。俺には詳しい事は分からないけど、お前が恋愛感情を理解できないって問題、あいつらずっと前から分かってたんだろう?」

「うん。」

「だったら、むしろ焦って分かったような理屈で無理やり出した答えなんて、別に欲しくないんじゃないか?」

「……あの子たちだったら、そうかもしれないね。」

「だろ?」

 そこまで言って、二人で半分ほどに減ったピザを処理することにする。

「……結局、本質が変わったわけじゃ無い以上、焦るだけ無駄か……。」

「だと思うぞ。無制限ってわけじゃ当然ないだろうけど、そんなに制限時間があるわけでもないんだろう?」

「でもないけどね。」

「まあ、それならそれで、ぎりぎりまで理解する努力をするしかないだろうさ。」

 高槻君の言葉に一つ頷くと、紅茶を飲み干して立ち上がる。それにあわせて、自分も店を出ることにする高槻君。

「今日はありがとう。」

「いやいや、いつも世話になってるし、愚痴ぐらいは聞くって。それよりこっちこそ、年末の忙しいときに、人数あわせで参加させて悪かったな。」

「気にしないで。僕も楽しかったから、いつでも呼んで。」

「おう。」

 そういって、未来の名GKに別れを告げ、自分の店に向かう優喜。

「しかし、あいつが恋愛感情を理解できないことを悩むとはねえ。」

 立ち去る優喜の後姿を見送りながら、しみじみつぶやく高槻君。今までの優喜の態度だと、理解できないで何が困るのか、それ自体分かっていなかったし、分かる必要も感じていなかったように思う。そう考えると、地道な歩みながら、少しは変わってきているのだろう。

「さて、どういう結末になるのかね?」

 そんなことをつぶやきながら、とっとと自分の家に帰る事にする高槻君であった。







「回収してきたぞ。」

「ああ、済まないね。」

 何ぞの研究に没頭していたスカリエッティに、背後からそう声をかける男。

「……やはり、タイムリミット寸前だったようだね。」

 男が回収してきたものを受け取り、しげしげと観察してそう結論付けるスカリエッティ。

「結局、それは何だ?」

「あれらと同じで、古代ベルカの遺産のようなものだよ。ただ、こっちに関しては、すでに消滅したものとばかり思っていたがね。」

 現在の研究成果を指示しながら、簡単に結論だけを告げる。

「……いつものことながら、たったあれだけの噂で、よくこんなものを探そうと言う気になるな。」

「探し物はちゃんと存在した。それで十分じゃないか。」

「全くご苦労なことだ。だが、こんなものを見落としているあたり、存外管理局の捜査網もざるだな。」

「君自身が言ったじゃないか。特に実害が出ているわけでもないのに、たかがあの程度の噂の真偽を確かめるほど、管理局の操作能力に余裕はないよ。」

 スカリエッティの言う通り、特に何があるわけでもない砂漠が大半の無人世界で妙な蜃気楼が立つらしい、などと言う単なる怪談と大差ない噂話の真偽など、わざわざ確かめるような暇人はスカリエッティぐらいなものだろう。しかも、噂の出所が、次元航路が荒れてその惑星に一時避難した船が二隻ほどと言う、普段がどうかを知らないと思われる連中から出たものとあれば余計だろう。そうでなくても次元航路が荒れるときは、近場の次元世界には妙な現象が起こりがちなのだから。

「そうだろうとは思うが、ドクターの現在の研究対象にしろこの遺物にしろ、我々のような小規模の犯罪者集団に先に回収されるあたり、管理局もスクライアも案外ざるだという評価は、さほど間違っているとは思っていないが?」

「興味の方向性と運が絡む話だ。それに、この程度の事で相手を軽視するのは、ただの慢心にすぎないよ。」

「否定の言葉もないな。」

 スカリエッティの指摘に苦笑し、とりあえず黙る事にする男。しばし、回収した遺物をチェックする音だけがその場に響き渡る。

「それで、研究の方はどうだ?」

「娘たちの方は、残りの三人の目途を来年中につけるつもりだ。あれについても、とりあえず大まかな改装は来年半ばぐらいに
終わるだろうから、後は細部の調整、と言ったところか。」

「ふむ。」

「もっとも、起動トリガーとなる『彼女』がどう仕上がるかによって、細部の調整日程も前後はするだろうがね。」

「予定は未定、か。」

「大抵の事はそうだよ。どんな天才や実力者が現実的な見通しの下で計画を立てても、案外予定どおりになど進まない物だ。」

 その言葉に違いないと一言返し、一番気になっていた事を問いかける。

「……管理局はどうするつもりだ? 当初の予定通りに喧嘩を売るつもりはないのだろう?」

「正直、脳みそどもが私が考えていた以上に惨めな死に様を晒したからね。高町なのはとフェイト・テスタロッサの事もあるし、正直リスクに見合うほどの動機が無い。」

「だろうな。」

「君とて、別段管理局全体に喧嘩を売りたい訳ではないのだろう?」

「無論だ。俺とあいつの目的は、本質的には管理局は関係ない。終わってしまえば犯罪者として捕まってもかまわん。」

 あっさりと言ってのける男に苦笑するスカリエッティ。最初押し付けられた時はただのでくの坊だったのに、いつの間にやら大口をたたくようになったものだ。

「ならば問題ない。正直、孤児院の事がある以上、あまり派手な喧嘩を起こすのは本意ではないからね。」

「無限の欲望ともあろう者が、ずいぶんと丸くなったな。」

「もともと、脳みそどもの事が無ければ、時空管理局が崩壊したり揺らいだりするのをありがたいと思っていたわけではないからね。我々のような立場だと、あの手の組織はあまり強くなりすぎるのも困るが、かといってがたがたになっても困る。本当に崩壊して治安の維持が不可能になってしまうと、技術型の愉快犯が事を起こす余地がなくなってしまう。」

「お前を信じて、打倒管理局と息を巻いている愚か者どもには聞かせられんな。」

「ああ。とはいえ、今となってはそういう連中が自滅してくれるのは、実にありがたい話になったからね。何しろ、今より治安が悪いと、孤児院の子供たちが悲惨な目にあう。」

 スカリエッティの言葉に、驚愕の表情を浮かべる男。

「本当に変わったものだな、ドクター。かつては誰がどんな悲惨な目に会おうと、痛めるような心など持ち合わせていなかったくせに。」

「ああ。だが、子供と言うものはいいものだと、孤児院を見ていて実感してしまってね。最初から完成された生き物を作る、などと言うのがどれだけ無意味な発想か、つくづく痛感するよ。」

「その台詞を吐いた口で、『彼女』に改造を施すのだから、矛盾していないか?」

「しょうがない。ここまで進めてきた研究を、少々情がわいた程度の事で変更する気にはなれないし、第一私は無限の欲望だよ?」

「そうだな。欲望が無限である以上、矛盾しても当然か。」

「そういうことだよ。」

 などともの分かりのいい事を言いあいながら、互いの言葉の真意や理解度合いを探り合う二人。刹那の沈黙の後、先に口を開いたのは、やはり男のほうであった。

「何にしても、手が後ろに回るようなへまだけはするな。そんな事になれば、孤児院の弟たちがどれほどのショックを受けるか分からんからな、親父。」

「君こそ、結果がどうなろうと、ちゃんと生きて帰ってきたまえ。もし死んでしまえば私もそれなりには悲しいし、娘たちがどれほど嘆くかは想像もできない。たとえ不完全であとどれぐらい生きられるか分からなかろうと、生きることに対する執念だけは捨てるんじゃないぞ、息子よ。」

 どこまで本心か分からず、だが少なくとも口先だけではない言葉を交わし、その場での互いに対する興味を失う二人。そのまま各々の仕事に戻る。だが、二人は知らなかった。この会話の一部始終を聞いていた者が居た事を。そして、その人物の手によって、彼らの望みが断たれてしまう事を。

 さまざまな思惑を孕みつつ、運命は静かに回っていた。


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