「優喜、ちょっといいか?」
「どうしたの、士郎さん?」
部屋でがっつりアクセサリを作っていた優喜は、ノックとともに士郎に声をかけられ、作業の手を止める。
「少し話したい事があってな。」
帳簿を手に部屋に入って来る士郎。帳簿を持ち込むような話にピンと来なくて、少し首をかしげる。
「それ、翠屋の帳簿だよね。何か問題が出てきたの?」
「ああ。優喜は税制とかはどれぐらい知ってる?」
「そんなに詳しくはないよ。経営が絡む話の知識なんて、昔バイト先の店長が面白半分で、貸借対照表の大雑把な見方を教えてくれた程度。後、個人と法人の違いを簡単に教えてもらったぐらいかな。」
「だったら、そこからか。」
どうやら、帳簿を開く必要があるらしい。机の上をざっと片付け、空きスペースを作る。
「まず、翠屋は法人にはなっていない。これはいいな?」
「うん。普通、翠屋みたいな店は、チェーン展開でもしない限りは、法人にする事ってまず無いって言ってた。」
「まあ、そういうことだ。で、飲食店にせよ工場にせよ、個人と法人ではずいぶん税制が違ってな。」
そう言って、ざっと帳面を見せながら説明をする。細かい話をすると簿記あたりの参考書並みの内容になってしまうので要点だけを説明すると、法人と個人では、利益として課税対象になる範囲がかなり違う、という話だ。法人では一定範囲までは、社長一家の給料は累進課税の所得税、会社の利益は定率の法人税と課税対象としては別計算になるが、個人の場合は店の利益とオーナーの給料はワンセットで所得税として課税され、累進課税の対象になる。このため、個人だと利益をあげればあげるほど手取りが少なくなるケースが出てくるのである。
「えっと、で?」
「優喜のアクセの売り上げが、いい加減税務署に目をつけられそうになってきてな。個人の店だと、生計を一にする人間に支払う報酬は、いろいろうるさいんだよ。」
個人経営での一番の難点は、家族で店を営んでいる場合、働いている家族の給料は別々に、と言う扱いは認められない事が多い。翠屋の場合で言うと、本来なら桃子に支払われる給料も、士郎の給料として扱われる事になり、その分士郎の収入が増えたという事になって、夫婦別々に給料を支払っていた場合に比べ、所得税の課税率が跳ね上がる。この部分は、アクセの売り上げとして優喜に支払うお金にも言える話だ。
「そっか。それで、どう対応するつもり?」
「デビッドさんや月村の人たちとも話し合ったんだが、いい機会だからお前さんも、店を持つのはどうか、という話が出てる。」
「……正気?」
「ああ。ここに転がってる在庫とか、受注生産分とか、そういうのも計算したうえでの結論だ。材料費やら家賃光熱費やらを考えても、十分にやっていける売り上げになっているしね。」
優喜が心配しているのは、売上だけの問題ではない。自分は戸籍上はまだ中学生で、今みたいに軒先を借りる形ならともかく、独立した店を構えるのはいろいろややこしい問題があるのではないか、という点である。
「後、一応就労制限はあるが、中学生は絶対に働いちゃいけない、ということじゃないから、そこらへんの問題もいろいろ考えてある。」
「まあ、それはいいんだけど、具体的にはどうするの?」
「今出てるのは、忍ちゃんを株主兼社長と言う形にして、月村家とバニングス家が共同出資する形で株式会社を立ち上げる案だ。優喜が課外時間に加工した分を買いあげる、という形式で店舗に並べて販売する形にすれば、優喜自身は自由業と言う扱いになるから、労働基準法には触れない。要は、学業との両立が出来てさえいればいいんだ。」
やけに大掛かりな事を考える人たちだ。そもそも、優喜がいつまでこちらにいるのか分からないと言うのに、そこまでやっていいのだろうか?
「……いつまで僕がこっちにいるかも分からないのに、それを本気でやるの? わざわざ店も人も用意して?」
「ああ。別に迎えが来て事業が続けられなくなれば、会社を畳めばいいだけだし、初期投資ぐらいは、三年あれば十分回収できるよ。それに、デビッドさんや月村の人たちにとって、それぐらいの費用はポケットマネーで遊びで出せる範囲だ。」
確かに、富豪である彼らなら、株式会社を立ち上げるための資本金と、店を一軒用意するための資金ぐらいは、即金で出せる範囲だろう。だが、曲がりなりにも実業家でもある彼らが、そんな趣味の延長線上みたいな事に、そこまで大きな資金を出す事も、普通はあり得ない。
要するに、竜岡優喜にその程度の投資をする用意はある、という意思表示であると同時に、そう簡単には逃がさないという宣言でもあるのだ。
「それで、僕にこの話を持ってくるってことは、話はもうほとんど決まってるってことだよね?」
「ばれたか?」
「分からないわけがないよ。」
士郎の言葉に、ため息をひとつつく。実際、優喜自身も、そろそろ今のやり方は潮時かもしれないとは思っていた。いい加減、入ってくる金額が大きくなってきて、間借りと言う形では不味いんじゃないかと感じていたところだ。
「どこまで話が進んでるの?」
「もう、店舗の用地選定も人員の選定も終わっていて、後はお前の承諾を得て、実際の手続きを進めていくだけになっている。」
「……嫌な外堀の埋め方をしてくるね。」
「駄目と言われたところで、別のやり方をしただけだしな。因みに、店長は当面はノエルちゃんにお願いしてる。優喜の手が空いてない時に彼女が店を空けざるを得ない場合は、美由希かさざなみの人たち、もしくは鮫島さんが店番をしてくれる手はずになってるよ。」
「本当に、無駄に段取りがいいよね。」
「お前さんを見習って、な。」
ここまでやってしまえば、優喜が嫌と言わない事を見越しての行動だ。普通なら反発するところだが、思惑はどうあれ、自分の事を考えての行動なのは間違いなく、勝手に話を決めるな、ぐらいしか文句も言えない。稼ぎ次第では学費と生活費ぐらいは出せるかもしれない、となると、居候の身分としては断るのも惜しい。出したところで受け取らないのは目に見えているが、こういうのは気分の問題だ。
「で、どうする?」
「そこまでされて、ノーと言えるほど義理を知らないわけじゃない。」
「だろうな。まあ、この話が流れたとしても、別のやり方を考えるつもりはあったがね。」
「これ以上手間をかけるのもあれだし、そのまま進めて。」
「了解。店舗工事に入る前に、間取りやデザインの打ち合わせをするから、その時は連絡する。」
「は~い。」
こうして事実上、優喜のこちらでの将来の仕事は決まってしまうのであった。
「店、か。」
「どうしたのさ、いきなり。」
「いや、何。他人の生活を背負うようになれば、そうそう無茶を言いだす事はなくなるかな、と思ってな。」
三カ月後。各種申請も通り、着工前の最後の打ち合わせを終えたあと、珍しく、特に用もないのにブレイブソウルが口を開く。意外に思うかもしれないが、この変態デバイス、普段はほとんど喋らない。用もないのに自分からべらべらしゃべるのは、特に理由もなく、長時間部屋などに放置された時ぐらいだ。
基本、口を開けば碌な事を言わない駄目人格だが、人生経験の長さか、時折実に深い事を言う。いや、むしろ駄目人格を装わないとやっていられないほど、余計な経験を積んでしまったのかもしれない。
「無茶、か。僕自身はそんな無茶を言った自覚はないんだけど。」
「普段はな。正確な話をすると、だ。友の場合、普段と変わらぬまま、非常時にナチュラルに最終手段を取る傾向があるのがな。」
「秘伝を撃った時の事?」
「ああ。正直、あの技をモニタリングして、ありもしない背筋に怖気が走ったぞ。いくら他に手段が無かったとはいえ、取れる準備をせずにあんなものをナチュラルに撃とうとするのは、正直やめてもらいたい。」
ブレイブソウルの言葉に苦笑する。
「あれしか手段が無いんだったら、躊躇ってもしょうがないでしょ?」
「限度と言うものがある。第一、誰かを犠牲にして助かったところで、助けられた方が苦しむだけだ。それを理解していないとは思えないが?」
「分かっちゃいるよ。僕だってそうだったしね。ただそれでも、みんなで一緒に仲良く死のう、なんてのは受け入れられない。」
「あがくのは大いに結構だが、単独でケリをつけようとするのはよろしくない。自己犠牲など、下らん感傷に過ぎんよ。」
本当に、言いにくい事をずばずば言うデバイスである。
「まあ、それについては、今後もなるようにしかならないよ。人の身ではどうにもならない事も多いし、自己犠牲だなんだって言ってられない事態も、ないとは言い切れないし。」
「……全く、困った男だな。」
「そこはお互いさまでしょ。」
「違いない。まあ、くれぐれもなのは達を泣かせるような事にならんようにな。特にフェイトは、君に何かあったら、確実に壊れる。」
「まったく、ありがたくない話だ……。」
重ねてきた四年と言う時間の長さと濃さに、小さくため息をつく。ある種孤立していた彼女に対し、最初に手を差し伸べた外部の人間だというだけなのに、ずいぶんと重い扱いになってしまったものだ。優喜の側も、言い訳をする気が起こらない程度には、今の人間関係に対して情がうつってしまっている。
「まあ、なるようにしかならない事は今は置いておこう。さしあたって僕が悩まなきゃいけないのは、開店までに作っておくアクセサリーの種類と数、かな?」
「どう転んでも、大量生産は不可能だからな。さすがに、月村家もバニングス家も、いきなりそこまで投資する気もなかろう。」
「だね。」
これからいろいろ大変そうだ、ということで意見の一致を見て、思わずため息をつく優喜とブレイブソウルであった。
「ギルから聞いたが、店を持つそうだな?」
「おや、耳が早い。」
いくつかの部隊で試験的に使われているスケープドールと各種消耗アイテムを納めに来た時の事。開口一発、レジアスがそう話を切り出す。
「その類のものも扱うのか?」
「まさか。ただの宝飾店。」
あっさり否定する優喜に、まあそうだろうな、と納得する。そこでふと、思いついた事を口にする。
「ならば、ミッドチルダで、それを扱うための店を用意するのはどうだ?」
「は?」
「いい加減、今のやり方もどうかと思っていてな。それに、スケープドールにしても、保管・管理する場所があった方が良かろう?」
「スケープドールについては、確かにそうかもね。ただ、マジックアイテムを商売のメインにする気はないよ?」
「ならば、表向きの看板として、オーダーメイド専門の宝飾店でも開けばいい。なんなら、時の庭園と高町家のように、ミッドチルダの店と海鳴の店を繋いでもいい。」
やけに乗り気のレジアスに、思わずジトっとした視線を向ける。店一つでも大変そうなのに、二つも三つもどう管理しろ、と言うのだろうか?
「別段、受注と保管メインでかまわん。それなら、自動受付システムでも用意すれば問題ないし、それでは味気ないというのであれば、信頼できる人間ぐらいは紹介する。」
「要するに、いちいち僕を呼び出して注文を通してられない、と。」
「まあ、そういうことだな。それに、そろそろ正式運用の話も出ているから、最低限個人商店の体裁をとっていてくれた方がありがたい、と言うのもある。」
「それ、僕がいなくなった後の事は考えてる?」
「そこが不安要素ではあるが、個人に依存していて一か所に調達が集中している物資は少なくないから、今更一つ二つ増えたところで、という面もある。」
それでいいのか管理局、と言う感想を飲み込み、苦笑しながら頷く。
「まあ、一つ贅沢を言うのであれば、スケープドールだけでも誰かに作り方を伝授するか、誰でも作れる量産システムの構築をしていてくれればありがたいが。」
「……まあ、今後注文も増えるだろうし、エリザ先生と相談して何か考えるよ。」
「ありがたい。とりあえず、さっきも言った理由で、こちらでもお前の店の準備を進めておくが、いいか?」
「了解。あまりシステム的なところは詳しくないから、出来るだけ簡単に運営できるようにお願い。」
「分かっている。悪いようにはせん。」
こんな感じで、優喜は同時に二軒の店を経営する羽目になるのであった。
「これはどこに並べるの?」
「そっちのショーケースに。」
そして、時は流れて春休みの中ごろ。ついに、翌日開店と言う段になった宝飾店「ムーンライト」。店名は、出資が主に月村家から出ている事に由来している。店の名前に合わせて、三日月をモチーフにしたイヤリングやペンダントなどをたくさんデザインしたため、さすがの優喜も、当面は月絡みはネタ切れである。
黒を基調とした、シックで落ち着いた雰囲気の高級感漂う店内に、見栄え良く配置されていくアクセサリー類。優喜の部屋に適当に放置されていたころよりも上等に見えるのだから、置き場所の効果と言うやつも馬鹿に出来ない。
「明日からは、ノエルさんにはお世話になります。」
「気にしないでください。主一家の役に立つのは、メイドの喜びですから。」
そもそも、最近は恭也も忍も免許を取って、二人だけでアクティブに動き回るようになってきた。護衛と言う面でも、恭也一人で下手なSP五人分の仕事をするし、そもそもマッド二人の合作である個人用防衛システムを突破できる人間はごく少数だ。雑用に関しても、屋敷にいる間はいくらでもやってくれる人がいるし、外出中は二人であれこれやるのが楽しいらしい。
要するにノエルは、微妙に手が空き始めているのである。それに、お払い箱にこそされてはいないが、新婚夫婦の間に割り込むような野暮はしたくないという事情もある。彼女にとっても、今回の話は渡りに船、みたいな部分があったのだ。
「なんだか、ポスターとかポップとか作りにくい雰囲気のお店だよね。」
「売るものがものだから、あんまり安っぽくは、ね。」
忍の言葉に、思わず納得する。いくら優喜の手が早いとはいえ、所詮個人が作るものだ。作れる分量が知れている以上、薄利多売に走るのは難しい。だったら、最初からある程度高級な雰囲気の店にして、そこそこの値段をつけた方がいい。元々、翠屋に置いてもらっていた時も、そこまで安くはなかったのだ。
「それにしても、どれもこれも落ち着いたいいデザインだよね。」
「本当。一つ欲しいけど、さすがに値段が……。」
小遣いの残高と比較して、がっくりした感じのなのはとフェイト。次元世界の通貨なら、それこそこの店を根こそぎ買い取れるぐらいの現金を持っている二人だが、日本円は乏しい小遣いをやりくりして使っている身の上だ。そのため、出来るだけ両方で使えるものは、ミッドチルダで買って帰るようにしているが、年頃の女の子はあれこれ物入りである。
優喜のように、ある程度小遣い稼ぎが出来るのであればまだいいのだが、なのはもフェイトも、管理局の仕事が忙しすぎて、高町家の代表的な小遣い稼ぎである、翠屋のお手伝いがなかなかできない。もっとも、元々結構男性客も多い翠屋の場合、二人が同時に手伝いに入ると、売り上げが跳ね上がる代わりに厨房が地獄を見る羽目になるのだが。
「明日手伝ってくれるんだよね?」
「うん。」
「そのつもりだけど?」
「じゃあ、アルバイト料として、一つ取っておいてあげる。」
「「いいんですか!?」」
名目上とはいえ、トップの剛毅な決断に、目を輝かせるなのはとフェイト。つける機会が少ないアクセサリー類を結構持っているというのに、まだこういうのが欲しいあたりが女の子である。因みに、あまりアクセサリー類を身に着けないのは、校則などの問題ではなく、単にあまりおしゃれをするとナンパがうざいからだ。むしろ、普段はジャージで行動する事の方が多い。
「いいのいいの。その代わり、明日は宣伝のために、うんと着飾ってもらうからね。」
「「はい!!」」
その後、明日のための衣装合わせなどを済ませる少女達。長身のフェイトはクールでカッコいい女に、発育のいいすずかは清楚な色気たっぷりに、一番年相応の雰囲気を纏うなのはは思春期特有の繊細な魅力を前面に出し、あしらったアクセサリとの十分な相乗効果を引き出すことに成功する。ここら辺は、衣装を担当したさくらとアリサの面目躍如というところか。
あまり一度に売れすぎても困るから、と、開店セールの類もなければ折り込みの宣伝チラシもばら撒いていないムーンライト。だが、翠屋に置かれた店の名刺と、アクセサリー類販売中止のお知らせが効いてか、それとも一日だけのアルバイトが効いてか、開店初日は予想よりも多くの客が来店し、さほど安くもない商品が結構売れてしまったのであった。
「お疲れ様。」
「お客さん、一杯来たよね。」
「だね。まあ、アクセサリーなんて頻繁に買うものでもないし、いっぱい売れるのはせいぜい長くて今月いっぱい、ってところじゃないかな?」
優喜の言葉に、そうかもと同意するなのはとフェイト。元々、翠屋に並べていたころより値段が高く設定されているし、その分素材も手間のかかり方も一段上だ。それまで作っていた安い素材の物は、店ができるまでに翠屋やフリーマーケットで大方売りつくしている。
「でも、お店が始まっちゃったから、ますます一緒に遊びに行ったりは難しくなるかな?」
隣に座って、そっと優喜に体を持たれかけさせながら、寂しそうに言うなのは。フェイトも、反対側から同じような感じで体を預ける。いい加減、体が大人のそれになってきた三人が座ると、ソファーが普通に満員になる。休み明けには中学二年に進級するので、そろそろ子供のじゃれあいとはいえなくなってきている。
はやてに追い抜かれたまままだ追いついていないとはいえ、フェイトの体型は同年代の平均を超えているし、まだ初潮が来ていないなのはも、ようやく胸が張る感覚が出てきて、女性の体に変化する兆しが表れた。日本人の平均をやや超えたあたりで、急激にバストの成長が遅くなってきたはやてとは違い、二人ともまだまだ第二次性徴が止まる様子は無い。
「まあ、個人の店だし、休もうと思えば休めるんじゃないかな?」
今日は、と言うか最近えらくスキンシップが過剰だな、などと思いつつも、女体の柔らかさと人肌のぬくもりにこれと言った感慨も抱かずに、二人の不安を事もなく解消してやる。こういう行動がなにを意味するのか、知識の上では何となく理解しているが、感情面では理解できない。
とりあえず、最近胸を押し当ててくる事が多いフェイトとすずかに、はしたないから慎むように言うべきか否かと言うのがひそかな悩みではある。大人達にこの話をして、釘をさしておいてくれないかと言ったところ、思いっきり白い目で見られた上で小一時間ほど説教を食らったため、言っていいのかどうか判断できなくなったのだ。正直、胸を押し当てられたからと言って優喜が何かを感じるわけが無く、完全に独り相撲になっている感が強い。
「それに、最悪ブレイブソウルに店番任せる手もあるし。」
「友よ、そういう美味しいイベントでは、毎回ハブられている気がするのは気のせいか?」
「さあ、どうなのやら。」
「イジメカッコワルイ!」
少ししんみりした雰囲気を、あっさり粉砕するブレイブソウル。余りに跡形もなく雰囲気を壊され、苦笑するしかないなのはとフェイト。
「とりあえず、そういう時に限らず、ブレイブソウルが店番ってケースも結構出てくると思うし、そういう意味では頼りにしてるよ。」
「ひどい男だ。そう言われると、Noとは言えんではないか。」
「頼りにしてるから、店番の時に下ネタエロトークはやめてね。」
「友よ! さすがに私もTPOぐらいはわきまえているつもりだぞ!?」
ブレイブソウルのその発言に、思わず目で会話をする三人。結論の一致を見て、とりあえず突っ込みを入れてやる事に。
「微妙に信用できない。」
「TPOを弁えた上で余計な事を言うのがブレイブソウルだし。」
「そこまで信用ない!?」
「「「日ごろの行いが、ねえ。」」」
「イジメカッコワルイ!」
とりあえず、日ごろ無駄に豊富な経験でこちらをいじってくるブレイブソウルをフルボッコにして、これまでの仕返しを済ませる三人。日ごろの行いと言うのは実に大事だ。
「とりあえずなのは、フェイト。いまいち友には効果が薄いし、母君に見られたら私の比ではないぐらいにいじられるだけだから、そろそろ見た目だけいちゃつくのはやめにしてはどうか?」
「……。」
「……。」
「はっ!? これが地雷を踏み抜くということか!?」
なのはとフェイトの絶対零度の視線にたじろぎ、余計なことを口走るブレイブソウル。
「ねえ、レイジングハート。」
「バルディッシュ、ちょっといいかな?」
『『御心のままに。』』
「な、何をする気だ?」
「暴力的な事は何も。」
「ただ、貴方のメモリーから、今の光景を削除するだけだよ。」
「イジメカッコワルイ!!」
さすがのブレイブソウルも、レイジングハートとバルディッシュの二機を相手にするとなると、かなり分が悪いらしい。結局は、なのは達の秘蔵映像を守るのが精いっぱいで、今の決定的瞬間を守り切る事は出来なかったようだ。
「とりあえずブレイブソウル。」
「な、何かな、友よ。」
「同じネタは三度まで。」
「くっ、オチを潰された!」
と、珍しく分が悪いまま会話を終える事になるブレイブソウル。優喜の胸元を離れ、部屋の隅でいじけるように転がっている彼女の姿に、思わず笑みが浮かんでしまう。
「とりあえず、入ってるオーダーを蹴りつけなきゃいけないから、四月は結構忙しいかも。」
「私達も、あまりお休みは取れないから、がんばってせいぜい御花見ぐらいかなあ。」
「だよね。こんなに忙しい中学生って、滅多にいないと思う。」
「違いない。」
こうして、竜岡優喜は職人兼商売人として、日本とミッドチルダ両方で忙しく働く事になるのであった。