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No.18616の一覧
[0] (完結)竜岡優喜と魔法の石(オリ主最強 再構成 エピローグ追加)[埴輪](2012/04/21 21:14)
[1] ジュエルシード編 第1話[埴輪](2011/05/08 09:49)
[2] 第2話[埴輪](2010/10/31 11:50)
[3] 第3話[埴輪](2010/05/16 20:08)
[4] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:53)
[5] 第5話[埴輪](2010/11/01 21:26)
[6] 閑話:元の世界にて1[埴輪](2010/06/06 22:47)
[7] 第6話 前編[埴輪](2010/11/01 21:30)
[8] 第6話 後編[埴輪](2010/07/10 22:34)
[9] 第7話[埴輪](2010/06/26 22:38)
[10] 第8話[埴輪](2010/07/03 22:20)
[11] 第9話[埴輪](2010/07/11 23:45)
[12] 閑話:元の世界にて2[埴輪](2011/06/25 09:05)
[13] 第10話[埴輪](2010/07/24 21:02)
[14] 第11話[埴輪](2010/08/14 14:15)
[15] 第12話[埴輪](2010/08/07 17:09)
[16] 第13話[埴輪](2010/10/06 22:44)
[17] ジュエルシード編 エピローグ[埴輪](2010/08/21 19:05)
[18] ジュエルシード編 後書き[埴輪](2010/08/21 19:06)
[19] 闇の書編 第1話[埴輪](2010/08/28 21:12)
[20] 第2話[埴輪](2010/09/04 18:23)
[21] 第3話[埴輪](2010/09/11 18:29)
[22] 閑話:フェイトちゃんのお買い物[埴輪](2010/09/18 17:28)
[23] 第4話[埴輪](2010/10/31 11:42)
[24] 第5話[埴輪](2010/10/06 22:17)
[25] 第6話[埴輪](2010/10/09 11:11)
[26] 第7話 前編[埴輪](2010/10/16 18:21)
[27] 第7話 後編[埴輪](2010/10/23 15:32)
[28] 閑話:ヴォルケンズの一週間[埴輪](2010/11/01 21:23)
[29] 閑話:なのはとフェイトの嘱託試験[埴輪](2010/11/06 19:00)
[30] 第8話 前編[埴輪](2010/11/13 18:33)
[31] 第8話 後編[埴輪](2010/11/22 21:09)
[32] 第9話[埴輪](2010/11/27 11:05)
[33] 閑話:元の世界にて3[埴輪](2010/12/04 17:29)
[34] 第10話[埴輪](2010/12/11 18:22)
[35] 第11話[埴輪](2010/12/18 17:28)
[36] 第12話[埴輪](2011/01/08 13:36)
[37] 闇の書編 エピローグ[埴輪](2011/01/09 08:08)
[38] 闇の書編 あとがき[埴輪](2010/12/31 22:08)
[39] 空白期 第1話[埴輪](2011/01/08 14:39)
[40] 第2話[埴輪](2011/01/15 11:39)
[41] 閑話:高町家の海水浴[埴輪](2011/01/22 09:18)
[42] 第3話[埴輪](2011/01/29 19:16)
[43] 第3話裏[埴輪](2011/02/06 08:55)
[44] 閑話:高町家の歳時記[埴輪](2011/02/19 17:56)
[45] 閑話:聖祥学園初等部の林間学校[埴輪](2011/06/25 09:06)
[46] 第4話[埴輪](2011/02/26 09:18)
[47] 第5話[埴輪](2011/03/05 19:26)
[48] 第6話[埴輪](2011/03/19 18:33)
[49] 第7話[埴輪](2011/06/11 17:58)
[50] 第7話後日談[埴輪](2011/04/03 10:25)
[51] 閑話:竜岡優喜の鉄腕繁盛記[埴輪](2011/04/09 19:07)
[52] 第8話[埴輪](2011/04/16 17:57)
[53] 閑話:時空管理局広報部の新人魔導師[埴輪](2011/04/23 11:07)
[54] 閑話:竜岡優喜の憂鬱[埴輪](2011/04/30 18:34)
[55] 閑話:ある日ある場所での風景[埴輪](2011/05/07 17:31)
[56] 第9話[埴輪](2011/05/14 17:40)
[57] 第10話 前編[埴輪](2011/05/21 17:58)
[58] 第10話 後編[埴輪](2011/05/28 21:07)
[59] 閑話:高町家の家族旅行[埴輪](2011/06/05 21:02)
[60] 閑話:元の世界にて4[埴輪](2011/06/11 18:02)
[61] 第11話[埴輪](2011/06/18 17:33)
[62] 第12話[埴輪](2011/06/25 09:05)
[63] 第13話 前編[埴輪](2011/07/02 21:22)
[64] 第13話 中編[埴輪](2011/07/09 20:51)
[65] 第13話 後編(R-15)[埴輪](2011/07/16 11:51)
[66] エピローグ あるいはプロローグ[埴輪](2011/07/23 11:03)
[67] 空白期後書き[埴輪](2011/07/23 11:22)
[68] ゆりかご編 第1話[埴輪](2011/07/30 19:10)
[69] 第2話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[70] 第3話[埴輪](2011/08/20 18:23)
[71] 第4話[埴輪](2011/08/27 18:40)
[72] 第5話[埴輪](2011/09/03 18:13)
[73] 第6話[埴輪](2011/09/24 19:13)
[74] 第7話[埴輪](2011/09/26 19:49)
[75] 第8話[埴輪](2011/10/01 18:39)
[76] 第9話[埴輪](2011/10/08 18:22)
[77] 第10話 前編[埴輪](2011/10/15 20:58)
[78] 第10話 後編[埴輪](2011/10/22 19:18)
[79] 第11話 前編[埴輪](2011/11/05 19:03)
[80] 第11話 後編[埴輪](2011/12/03 19:54)
[81] 閑話:ある日ある場所での風景2[埴輪](2011/11/26 21:00)
[82] 第12話[埴輪](2011/12/03 19:54)
[83] 第13話 前編[埴輪](2011/12/10 20:17)
[84] 第13話 後編[埴輪](2011/12/17 19:21)
[85] 第14話 その1[埴輪](2011/12/24 20:38)
[86] 第14話 その2[埴輪](2012/01/07 20:47)
[87] 第14話 その3[埴輪](2012/01/21 19:59)
[88] 第14話 その4[埴輪](2012/01/28 21:24)
[89] 第15話 その1[埴輪](2012/02/04 19:04)
[90] 第15話 その2[埴輪](2012/02/18 20:56)
[91] 第15話 その2裏[埴輪](2012/02/25 21:31)
[92] 第15話 その3[埴輪](2012/03/03 18:43)
[93] 第15話 その4[埴輪](2012/03/17 19:40)
[94] 第15話 その5[埴輪](2012/03/24 13:56)
[95] 第15話 その5裏[埴輪](2012/04/07 21:01)
[96] 第15話 その6[埴輪](2012/04/15 23:11)
[97] エピローグ[埴輪](2012/04/21 21:14)
[98] あとがき[埴輪](2012/04/21 23:41)
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[18616] 第3話裏
Name: 埴輪◆eaa9c481 ID:677474f8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/06 08:55
「それで話って?」

「大した話ではないのですが……。」

 聖王教会に呼び出された優喜は、割と微妙な顔をしているカリムに用件を聞く。

「まず最初に、聞くだけ無駄だとは思いますが、一つ確認をさせてください。」

「何?」

「貴方は、勲章の類に興味はありますか?」

「いんや。」

「ですよね……。」

 即答されて苦笑を洩らすカリム。こいつが立身出世に興味を示すような人間なら、とうの昔に管理局も聖王教会も乗っ取られている。

「何でそんな事を聞くの?」

「いろいろと変な話が、内部で蔓延しているのですよ。」

「と言うと?」

「まず、発端は、教会の騎士も、貴方から未知の技能を学ぶべきだ、という意見が出てきた事です。」

 カリムの発言に、今度は優喜が微妙な表情を浮かべる。

「それを言いだした根拠は?」

「表立って信じている人間はそれほどいませんが、貴方が非魔導師でありながら、本気を出したヴォルケンリッターを単独で制圧できるという話は、結構有名ですよ?」

「いや、本人が強いのと、教えるのがうまいのとはまた別問題だって。」

「なのはさんとフェイトさんの師匠が貴方である事は、聖王教会、と言うより騎士たちの間では公然の秘密です。」

 カリムの言葉に顔を抑えて天を仰ぐ。

「誰だよ、それを言いふらした奴は……。」

「はっきり口にしたわけではありませんが、はやてやヴォルケンリッターの言葉の端々に、そういう事実がにじんでいます。取り立てて口止めはしていないのでしょう?」

「全くしてないわけではないけど、わざわざ信じる人間もいなかろうから、そこまで強くはしてないかな。」

「それでは文句は言えないでしょうね。」

「まあ、それもそうか。」

 そもそも、問題がそこではない事を思い出し、苦笑がちにカリムに同意する。

「それで、僕がものを教える事と、勲章がどうのこうのとどうつながるの?」

「騎士位も勲章も師範の免許も持っていない小僧にものを教わってたまるかと言う、沽券にかかわる的な発言をする騎士が、古参の実力者を中心に結構な人数いまして。」

「正論だ。実に正論だよ。」

「それに、今回の夜天の書の修復プロジェクトで、貴方が決して軽視できない役割を果たした事は、教会の上層部は誰もが知っています。その功績をたたえる必要がある、と言うのも口実の一つです。」

「勲章とかいらない。そんなもののために頑張った訳じゃない。」

 優喜の言葉に、言うと思ったという顔をするカリム。

「あと、いくら妙な技能を持っているからと言っても、非魔導師に魔導師でもあるベルカ騎士の指導ができるのか、という意見もあります。」

「それまた正論だ。僕に出来るのは、基礎鍛錬と気功、無手およびいくつかの武器の扱い方の指導、後はどういう魔法が使えると戦闘で便利か、っていう意見を言うのと、仮想敵ぐらいだね。」

「十分です。なのはさん達の魔法についても、運用を含めてアドバイスをしたのでしょう?」

「半分ぐらいは、冗談半分で言った適当な思いつきを、レイジングハートとバルディッシュが勝手に実現したものだけどね。そもそも、ジュエルシード事件が終わってからは、魔法がらみは全部、デバイスが勝手に主を無視して作ったり改造したりしてるし。」

 優喜の言葉に、AIが高度すぎるインテリジェントデバイスも難儀なものだ、と言う正直な感想を漏らしてしまうカリム。その思いは、年々ひどくなっていく二人の魔法を見るたびに強くなるのだが、それはここだけの話である。

「まあ、とりあえず、こちらでももう少し準備は必要ですので、返事は急ぎません。頭の片隅にとどめておいていただければ十分です。ただ、出来れば、いい返事を期待していますよ。」

「了解、考えておくよ。とはいっても、教えるとしても、なのは達とは生活環境も含めて全く条件が違うから、そんなにきっちりは教えられない。」

「それは教わる側次第でしょう?」

「まあ、ね。」

 なのはもフェイトも、優喜が基礎鍛錬から付き合っていた、と言う事もあるが、一番大きいのはジュエルシード事件で感じた危機感だ。ジュエルシードの回収は、それだけで普通の人間の一生分ぐらいの危機を経験した。訓練に身が入るのも、当然と言えば当然だろう。

 ただ、夜天の書の件も含めて、いろいろ薬が効きすぎた感があるのも事実だ。優喜自身はもっとどうにもならない領域を知っているので、これ以上は必要ないかなと思う半面、まだまだ鍛え方としては生ぬるいとも思っているが、周りから見ればすでに行き過ぎのレベルである。もっとも、優喜が鍛えているのは基礎体力と基本的な戦闘技法のみで、魔法周りはジュエルシード事件のころにすこしばかり余計な提案をした以外は、何一つ干渉していない。

「それで、近頃はやての様子はどんな感じですか?」

 主だった用件も終わったので、とりあえず近況報告も兼ねた雑談に入る。優喜自身はたびたび聖王教会に顔を出しているが、カリムと話をする機会はそんなにない。カリム自身の仕事が忙しい事もあるが、どちらかと言うともっと忙しいはずの教皇や枢機卿のゲームの相手と愚痴の聞き役として、強制的に引っ張り出されることが多いからだ。

「体の方は特に問題ない。ただ、遊ぶ相手がいないから、寂しがってはいるね。特に、ヴォルケンリッターがみんな忙しく働いてるから、TRPGするのに面子が揃わなくなったのが不満っぽい。なのは達もたまに付き合ってるけど、向こうは向こうでみんな忙しいからなあ。このままだと、ネトゲ廃人一直線かも。基本無料だし。」

「そうですか。」

「あと、自分が余計な事言って背負いこんだ負債を、シグナム達をこき使って返してると思ってるみたいで、そこのところはちょっと罪悪感があるみたい。」

 優喜の言葉に、一つ小さくため息をつくと、はやてらしいとつぶやくカリム。

「それはむしろ逆なのですけどね。」

「だよね。一般的な観点から言えば、むしろヴォルケンリッターや管理局の事情で、本来背負わなくていいはずの負債を背負ったわけだし。」

 実際問題、本来チャラになるはずの負債を背負った結果、シグナム達はうやむやになって失われるはずだった贖罪の機会を得ることができ、むしろ張り切って働いている。ただ、その機会を得るために、はやてに余計な負担を強いてしまった事は、罪悪感ですまないレベルで苦いものを感じてはいる。

 また、遺族の側も、明らかに被害者サイドのはやてが加害者として負債を背負った事、その賠償金のために、ヴォルケンリッターが誰の目から見ても全力で頑張っている事、また、はやて自身も積極的に働きに出ようとしていることなどもあって、少しずつではあるが、感情のしこりが解けてきている。

 本来なら、はやては胸を張って生きるべきなのだ。なのに現状に罪悪感を抱いているのは、自分が真面目に働いて支払うと言った賠償金を、実際にはほとんど仕事をせずに支払っている形になってしまっている事が原因だろう。何しろ、なのは達と違って、現状はやての仕事は、士官教育のケーススタディを兼ねた書類仕事がほとんど。それもせいぜい、一日二時間程度で終わるものばかりだ。管理局としては結構重要な仕事も任せているのだが、本人としてはほとんど働いている実感はないのだろう。

「はやても、そんなに生き急ぐ必要はないと思うのですけど……。」

「まあ、額が額だからね。しかも、被害者の人数で考えたら、あの金額でも一人頭はそんなに大きな金額じゃないし。」

「結局、聖王教会の無策と、管理局の場当たり的な対応のツケを、はやて一人に押し付けてしまいましたね。」

「まあ、若いころの苦労は買ってでもしろってことにしておくしかないんじゃない? いまさら何を言っても、ね。」

「……そうですね。」

 何度も話し、そのたびに納得しようとして、それでも納得しきれない感情をため息とともに吐き出すカリム。結果を全て割り切って受け入れている優喜が、時々心底羨ましくなるカリムであった。







「訓練に付き合ってくれるのはいいけど、今日はゲイズ閣下の用事とかはいいの?」

「ミッドに来るたびに顔を出してる訳じゃないし、いい加減僕が口出しするような事はなくなってるよ。」

「それならいいけど。」

 なのは達と合流し、一緒に昼食を済ませた後。コマーシャルの撮影に向かう二人と別れ、グランガイツ隊の方に顔を出した優喜は、ちょうど午後の訓練が始まるという事で軽く混ざる事にした。

「それで、僕は何をすればいい?」

「あら? 優喜君がここにきてやる事なんて、隊長クラスの相手以外の何があるのかしら?」

「やっぱりそう来るの……。」

 ややうんざりした口調で、クイントの言葉にしたがう優喜。とにもかくにも、隊長のゼストの相手が疲れる。何しろこのご仁、古代ベルカ式を扱うベルカ騎士としてありがちな気質で、とにかく勝負事に熱くなるタイプだ。それが訓練であっても同じことで、いまだに優喜相手に一勝もあげていない事が気に入らない彼は、顔を出す度に訓練と称して本気で挑んでくるのだ。

 とはいえ、実際のところ優喜が勝っているわけでもない。彼ほど気合の入った生き物相手になると、普通の命にかかわらないレベルの気脈崩しは通用しない。そして、ザフィーラと大差ないほどタフな彼には、生半可な発勁では戦闘能力を奪えない。かといって、訓練で命にかかわるような技を出す事も出来ず、気功弾の非殺傷は魔法と違ってスタミナを奪うタイプの上、流れ弾を気にせずに済む威力だと、気合で普通に吹き消されてしまう。

 要するに、互いに決め手に欠けるのだ。そのままずるずるやり合っているうちに時間切れになり、とりあえず限りなく判定勝ちに近い引き分けで幕を下ろす、と言うのがこの勝負の常である。よくよく考えれば、最近のゼストは割と平気で死に兼ねない攻撃を出してくるのだから、結構不公平な勝負なのではないかと思わなくもない。

「ブレイブソウル、ブレードモードで。」

「ほう? 友よ、今日は御神の技を使うのか?」

「それでもいいけど、勝手に人さまの手札を晒すのもあれだから、師匠に習った技を研ぎなおすよ。」

「……手加減のつもりか?」

「まさか。もしかしたらこっちを人に教える事になるかもしれないから、強い人相手に使って、一度研ぎなおしたいんだ。」

 その返事に不満そうなゼストに、軽く苦笑しながら一つ肩をすくめ、一言告げる。

「たまにはこっちのわがままも聞いてくれていいんじゃない?」

「……承知。」

 不満には違いないものの、訓練時限定とはいえ、今まで散々わがままにつきあわせた身の上としては、さすがに強くは言いだせない。たまには仕方がないかと割り切り、優喜の準備が整うのを待つ。

「片手半、スタンモードで。」

 優喜の言葉にしたがい、彼の体格に合わせた長さの長剣に変形するブレイブソウル。片手半と言うのは柄の長さの事だろう。片手で振るうのに邪魔にならず、両手で振るのも問題ない程度の長さに設定されている。

「優喜君、バリアジャケットは?」

「友の防御力の場合、私ごときが展開する騎士甲冑では、あってもなくても変わらなくてね。」

「そういうものなの?」

「ああ。それに、私はとても似合うと思うのだが、友はあのジャケットのデザインがお気に召さないようでね。身にまとったのは、初めて起動した時と夜天の書再生プロジェクトの時、ただ二度だけだよ。」

 ブレイブソウルの台詞に、その場にいた全員の思考が一致する。

 見てみたい、と。

「貴公のわがままにつきあうのだ。この場の人間のリクエストに応えて、バリアジャケットも展開してはどうだ?」

 意外な事に、ゼストもギャラリーと思考は同じだったらしい。さらっと恐ろしい事を言ってのける。

「うわ、なんかひどい事言ってる。なにその割にあわない提案。」

「そこまで嫌か?」

「冷静かつ客観的に見てかなり「痛い」デザインだから、正直絶対着たくない。」

 こういうとき、抵抗すればするほど碌な事にならないのは優喜にも分かっている。だが、ブレイブソウルがあの発言をした時点で、どう転んでもバリアジャケット着用は避けられまい。ならばせめて、本気で嫌がっていることぐらいはアピールした方がいいだろう。あのジャケットが実は自分の趣味だと思われたら、たまったものではない。それこそ本気で釣りたくなる状況だ。

「ねえ、ブレイブソウル。」

「承知。」

 本気で嫌がっている優喜を見て、たまには弱みの類を握っておこうなどと邪悪な事を考えたらしい。クイントがさりげなくブレイブソウルに声をかけ、ブレイブソウルが即座に要求にこたえる。

 優喜の全身が光に包まれ、一瞬にしていつものジャージ姿から、白と黒のツートンカラーの、貴族的な雰囲気のゴシック衣装に切り替わる。相変わらず無駄にフリルをたくさんあしらった、戦闘用の衣装とは思えないデザインだ。女顔の美少年である優喜が着ると、ある種退廃的な雰囲気を纏い、妖艶と言ってもいい魅力を振りまく。男の色気むんむんだ。

「……あのさ。」

「どうした、友よ?」

「前のですでに痛かったのに、何故にデザインをいじってより痛くする?」

「体が成長しているのだから、いつまでも同じデザインでいるわけにもいくまい?」

 デバイスと押し問答をしている優喜を、ぽかんとした表情で見ているゼスト以外の一同。この衣装がここまで似合う人間は、長い人生でもそうはお目にかかれまい。

「ねえ、ブレイブソウル。」

「何かな?」

「もしかして、わざわざ毎回デザインを変えてるの?」

「ああ。さすがに今回は前回からずいぶん間が空いたから、以前に比べて変化が目につくのも当然だろう?」

 ブレイブソウルのアレな発言に、思わず大きくため息をつく。

「と言うか、そんな微妙な体格の変化、いちいちチェックしてるの?」

「当然だ。私は友の身長・体重・スリーサイズからナニの大きさまで、隅から隅まで全て把握しているぞ。」

 どうにも、海に行くときに置いて行かれた事を全く反省していないらしい。もう一度大きくため息をつくと、とりあえずクイントに声をかける。

「クイントさん。」

「え? な、なに?」

「デバイスって、どこに持っていけば捨てられる?」

「ちょ、ちょっと待て友よ! それはあまりにもあんまりだぞ!!」

「いや、普通に捨てていいと思うんだ、個人的に。」

 優喜の冷たい言葉に、大いに焦るブレイブソウル。この分では、女性型である事を生かしてなのは達の風呂に乱入した時の映像や、さまざまな手段を駆使して記録を取っている女性陣の体型データなど、流出すれば犯罪者として手が後ろに回りそうな数々のお宝データがばれたら、跡形もなく砕かれかねない。

「まあ、待て竜岡。」

「なに?」

「そいつは確かに悪ふざけが過ぎるようだが、体型の変化やメディカルデータの記録は、デバイスとして重要な仕事の一つだ。特にお前のような成長期の子供に置いては、な。」

 ゼストの取りなしに、そういうものなのか? と他の面子を見る。どうやら一応そういうものらしく、全員一つ頷いて同意する。

「だったら、今回は見逃すよ。」

「ありがたい。一生恩に着るぞ、ゼスト殿。」

「気にする必要はないが、ほどほどにな。」

 大げさに礼を言ってくるデバイスに、わずかに苦笑して首を横に振る。そして、弛緩してしまった空気を引きしめなおすように、手にした槍を構えて闘気をにじませる。

「さて、いい加減始めるとするか。」

「了解。」

 ゼストの言葉に答えて片手剣を無形の位に構え、右半身を彼に向ける。始めの合図など不要。互いに構えを取った時点で、すでに始まっているのだ。

「はっ!」

「っ!」

 ゼストの突きをすり抜け、カウンター気味に切り上げる。電光石火の動きで引き戻した槍が、優喜の一撃を弾き返す。最初の一撃で、おおよその技量を把握したゼストが、槍に余分に魔力を乗せる。無手の時に比べ三枚程度落ちるのは事実だが、それでも余裕で達人の領域だ。何より、剣を持っていようがどうしようが、体術の切れは変わらないのだから、単に攻撃精度が落ちる程度の話でしかない。

「対処法を学ぶための手慰み、とはよく言ったものだな。」

「素手の方が強いのは事実でしょ?」

 などと軽口をたたき合いながら、舞うように戦闘を続ける二人。ゼストの薙ぎ払いをかわした優喜が、死角から一撃を入れに来る。石突きで迎撃し、そのまま頭をかち割らん勢いで槍を振り下ろすと、横からの一撃であっさり受け流される。分身と同時に、いろんな角度からの突きや斬撃が飛んできては、全てゼストに潰される。

 普通の達人同士の戦闘など、大抵は仕掛けた時点で勝負がついているものなのだが、それでは訓練にならない。それに、ゼストは魔導師だ。魔導師と言うやつは基本的に、近接戦闘では実にタフなもので、フェイトのザンバーやシグナムの紫電一閃、ゼストの大技など一部の例外を除き、近接攻撃で一撃で仕留められる事はまずない。ミッドチルダ式魔導師が白兵戦を軽視しがちなのも、ここら辺に原因がある。

 もっとも、ここ十年ほどは近代ベルカ式がずいぶん発達してきたこともあり、クロノのように対処の幅を広げるために、きっちり体術を鍛える魔導師も増えてきてはいる。

「さて、そろそろ訓練を切り上げようか。」

「……逃げるのか?」

「別にいいじゃん、どっちの勝ちでも。これは単なる訓練だ。」

「……承知。」

 ついに大技を使い始めたゼストの猛攻をいなし、結果に関係なく次の一撃で終わりにするという宣言をする。気配の質が変わり、構えに緊張感が漂い始める。優喜の意図を理解したゼストが、槍を構えなおす。互いににらみ合い、構えを崩さずに小さな動きでフェイントをかけあう。どれほどの時間が経ったのか。息の詰まる緊迫した時間が流れるうちに、ついに見ている側が我慢しきれなくなったらしい。誰かが小さく息を吐く。

 その物音に反応して、同時に動く二人。ゼストの突撃を迎撃するように、横に大きく薙ぎ払う優喜。剣と槍がぶつかり合うか否かと言う刹那、ゼストが槍を手放して大きく後ろに飛び退く。手放された槍を真っ二つに切り裂いた優喜の剣は、そのまま空を切ってもとの構えに戻る。

「あらま、やっぱり通じないか。」

「よく言う……。」

 ダメだこりゃ、という態度の優喜と、大きく切り裂かれたバリアジャケットを苦々しく睨みつけるゼスト。幸いにして地肌にまでは達していなかったが、直撃すれば命にかかわりかねない。もっとも、優喜がそういう技を訓練で使うとは思えないが。

「ブレイブソウル、待機モード。」

「了解。」

 ジャケットを解除して、ジャージ姿に戻る優喜。暗黙の了解で、これで優喜が参加する訓練は終わりだ。ただ、優喜の場合、この状態でも全く戦闘能力は落ちていないのだが。

「やっぱり、武器の扱いは練度が足りない。」

「当然じゃない。武術をあれだけ磨いてるのに、剣術まで同レベルだったら立場ないわよ。」

 この手の技能は、素振りや型を一日に何回やるか、と、その技能でどれだけ戦闘をこなしたか、の二つの要素が、そのままダイレクトに力量に直結する。シューティングアーツと呼ばれる格闘術に、局員としての大半を注いでいるクイントからすれば、素手で完全に負け、その上で剣にまで負けるとなると、本格的に立場が無い。

「とりあえず、剣術だとあれが限界。あのランクの技は多分、次からはゼストさんにゃ通じないだろうし、それ以上となると今度、溜めの問題でホイホイ出せない。」

「……本当に、あれが限界なんだろうな?」

「今のところは。」

 優喜の返事に、どうしても顔が渋くなる。相手はまだまだ伸び盛りの子供で、こちらは衰えこそしていないが、そろそろ経験以外の伸びしろが無くなりつつある年だ。しかも、優喜の使う技能は、魔導師のそれと違って、かけた時間が才能の大きさを凌駕する種類の代物である。

 ずるいとは思わないが、羨ましいとは思う。それが武人としての正直な感想である。明らかに技量と年齢が釣り合わないところには、とりあえず今のところは目をつぶっておく。何がどうであれ、少なくともいずれかの時点でちゃんと真面目に努力と研鑽を積んで、一生懸命体に刻み込んだ代物なのは間違いないのだから。

「また今度、次は予定が合えば、なのはかフェイトを連れてくるよ。」

「そういえば、あの二人も君の弟子だったっけ?」

「うん。と言っても、基礎鍛錬と気功の基本、それから絶対押さえておくべき戦闘のイロハを軽く教えた程度だよ。後はひたすら仮想敵ぐらいしかやってない。」

「貴様が仮想敵なら、十分すぎるだろう。」

 ゼストの言葉に頷く隊員達。たまに顔を出した時のデータでシミュレーションをするだけでも、自分達のクロスレンジの対応力が伸びていっているのが実感として分かる。さすがにレジアスを除く上の連中の目が厳しい事もあり、非魔導師の戦闘データを他所の、それもごく普通の部隊に流すわけにはいかない事もあり、もっぱら首都防衛隊と航空隊のみで共有する形になっているが、直接指導を受けなくてもレベルが十分に上がっている事は、これまでの出動で実感している。

「さて、どうなのやら。」

「すぎる謙遜は嫌みよ?」

「気をつけるよ。……ん?」

 ブレイブソウルが、わざわざ振動して通信の着信を知らせる。普通に口で言えばいいのに、無駄に凝った真似をするデバイスだ。

「グレアムさんか。何だろう?」

 一応全員に軽く頭を下げて訓練室を出ると、廊下で人目を気にしながら通話に出る。幸いにして、ここに用事がある人間はほとんどいないらしく、特に人気はない。

「どうしたの?」

「少々ドゥーエ君から面倒な話が来てね。少し意見が欲しい。いつものホテルにいるから、申し訳ないが顔を出してくれないかな?」

「了解。いまグランガイツ隊にいるから、そんなにかからないと思うよ。」

「ありがたい。すまないね。」

「気にしないで。」

 通信を切ると、ゼスト達に呼び出しがあった事を告げて、そのまま立ち去る。結構いろいろ忙しい優喜であった。







「どうやら、ドクターがあの子たちの事に興味を持っているらしいの。」

 メンツがそろって開口一発、そんな厄介な話を口走るドゥーエ。

「具体的には、どんな指示を?」

「現在管理局内部で起こっている政変について可能な限り詳しくと、高町なのはとフェイト・テスタロッサの内部資料をありったけ、それから、あの子たちの活動の詳細な収支よ。」

「なかなかピンポイントな要求だね。」

 確かに、面倒な話だ。優喜に話が来るわけである。何しろ、事はなのはとフェイトだけの話ではない。現状、優喜の技能、特に付与魔術関連は内部でも極秘である。魔力と言うコストを支払わずに魔法じみた機能を発動でき、ものによっては現在の魔法技術では再現できない物まであるエンチャントアイテムについては、優喜の身柄も含めて細心の注意を払って扱うべき事柄だ。そのため、表面上は存在しない物として、気功も付与魔術も、レアスキル認定すらしていない。

「どの程度の資料を、向こうに流す?」

「そうだね。とりあえず、活動の収支は別に隠す必要はないと思う。知られたからと言って、どうなるものでもないし。」

「漏れ方次第では、予算として寄こせコールやピンはねに対する非難の大合唱が待っているとは思うが?」

「どうせ、予定外の出費に対する予備費として、基本全額プールするんでしょ? ピンはね云々に関しては、適当な割合を退職金なり年金なりに積み立てて、上乗せしておけば? 二人とも管理外世界在住だから、今そんな大金持ってても、ほとんど使い道ないし。」

「そうするか。」

 元々、収益が上がる前提ではなかった。そもそも、一年二年は下積み期間として見ていたため、この時点でブレイクして収益が上がっていること自体が、予定外にもほどがある。そんな不安定な収入を、何らかの予算に組み込むなど危なっかしい真似、酸いも甘いも知り尽くしたこの二人に出来る冒険ではない。

「政変に関しては……、スカリエッティは最高評議会サイドだったか?」

「現状の立ち位置はそうだけど、実際にはむしろ、憎んでいるといっていいわ。」

「ふむ。となると、もしや君は、彼の復讐のために、管理局の内部を探っていたのかね?」

「半分正解で、半分は外れといったところかしら。」

「ふむ……。」

 ドゥーエの返事に、しばし考え込む。ここでさじ加減を間違えると、どうにもろくなことにならない予感がひしひしとしている。

「……そうだな。現状の人事周りは、すべて情報を流してしまってもいいだろう。どうせ、その気になれば、ドゥーエ君でなくとも少々手間をかけるだけで分かる内容だ。予算周りは……、半分程度向こうに流すか。内容の検討は、アリアに任せよう。」

「となると、あとはなのはとフェイトの情報か。こいつのさじ加減が一番難しそうだな。」

「ああ。優喜の存在までかぎつけられると、非常に面倒だ。経歴をいくつか細工して、できるだけ手札が漏れないように慎重に選ぼう。」

「細工と言っても、ジュエルシード事件や夜天の書再生プロジェクトの第一フェイズラスト、あと古代龍戦なんかはばっちり僕の姿が残ってるんだけど?」

 優喜の言葉に、少しばかり視線が鋭くなるレジアス。だが、その事についてはあっさりグレアムが答える。

「心配せずとも、それらについては最初から、全て細工済みだ。」

「それでいいのか、管理局!?」

「考えてもみたまえ。非魔導師がジュエルシードや古代龍の攻撃をほとんど無傷でしのいでいる姿など、報告を受けた人間が納得すると思うのかね?」

「道理だな。」

 グレアムの言葉に納得して見せるレジアス。次元世界の常識に照らし合わせれば、むしろ優喜の姿が映っている方が細工しているように見える。ちなみに、第一フェイズラストの記録映像では、ブレイブソウルはザフィーラが使っているように細工されているし、古代龍戦はそもそも、諸般の事情で映像記録が破棄されている。

「細工には、クロノも苦労していたよ。」

「だろうな。魔法が使えないから当然と言えば当然だが、よりにもよってこいつは接近戦を主体としているのだからな。どうやったところで、不自然な細工は残る。」

「多分、ドクターならその不自然なシーンに気がつくでしょうね。」

「となると、ジュエルシード事件や夜天の書再生プロジェクトの映像は、基本的に破棄した方が安全か。」

「そうだな。細工前のマスターは残っているのだろう?」

「ああ。時の庭園の、ネットワークから独立したストレージに保管されている。後は無限書庫だが、あそこはジェイル・スカリエッティといえども、そう簡単に手出しは出来ない。違うかね?」

「そうね。いかにドクターといえど、ネットワークから独立した、時空管理局本局の内部にある施設の、どこに転がっているかもわからないようなものには手を出せないわ。それに、内容が内容だから、例のスクライアの子に、不審がられずに資料請求なんて、出来ないでしょ?」

 ドゥーエが優秀なスパイなのは、変身で姿を変えて相手に不信感を抱かせずに情報を引き出せるからだ。情報を引き出せる当人に化ければ、情報流出が問題になっても、ドゥーエにまではそうそうつながらない。不審を感じられても、まさか別人が化けているなど、普通は想像もしない。

 だが、無限書庫のように、特殊なスキルが無ければ情報を引き出せない場所では、どうしても外部の人間として資料請求するのを避けられない。そして、ドゥーエが求める類の情報は、普通は無限書庫に問い合わせする必要がある代物ではなく、また欲しがる頻度もほとんどない類のものである。疑うな、と言う方が無理だ。

 そして、そういう疑われ方をすると、芋蔓式に自分のような存在がいる事が割れてしまう可能性が高い。管理局の情報部も、無能ではないのだ。そうなると、スパイとしては終わりだ。そうでなくても、優喜に存在を見抜かれたのだから、他に自分の存在に行きついている人間がいてもおかしくない。

「なるほどね。ならば、その手の部外秘資料は、一度全部非ネットワークストレージに移管、旧データはすべて破棄するよう指示を出すか。」

「どういう名目で行う?」

「そりゃ、機密情報の扱いをかえるんだから、情報流出があった事にするのが手っ取り早いでしょ? 実際、なかった訳じゃないんだし。」

 優喜の言葉に、暗に名指しされたドゥーエが嫣然と微笑む。

「そうだね。ハッキング履歴でもでっちあげて、情報流出対策と言う名目で行うか。必要なら、プレシア女史に使い捨てハッキング装置でも用意してもらって、適当に足のつかない場所で、……いや、拠点割り出しまで済ませて泳がせている犯罪組織がいくつかあるから、そこの拠点にこっそり仕込んで、そいつらに罪をかぶせるか。」

「いっそ、情報管理の抜き打ち検査、という名目で合法的にハッキングをするのもありだな。」

「それもいいね。だったら、徹底的に利用する事にしよう。まずは、犯罪組織の拠点に使い捨てハッキング装置を仕込み、最高評議会派の連中の機密をハッキング、そいつらを検挙した後に、それを口実に情報管理の抜き打ち検査と称して、リニスくんかブレイブソウルに侵入してもらい、管理の甘さを理由に非ネットワーク管理への移行、と言うところか。」

 えげつない事を言いだすグレアムに、やけに満足そうに頷くレジアス。自身の保身を完全に切り捨てた権力者ほど厄介な生き物は、そうはいないだろう。しかもこいつらの場合、真剣に管理局の改革を志している上、捨て石になる覚悟を完全に固めている。今更自身の名を惜しむつもりが一切ないため、必要とあらばどんな汚い事でもやってのける。

「ドゥーエ君、今日すぐにデータを持っていく必要はないのだろう?」

「ええ。さすがのドクターも、そこまでの無茶は言わないわ。」

「ならば、人事周りと予算周りの資料はすぐに用意させるから、それでなのは君達の情報に対する対策の時間を稼いでくれないかね?」

「了解。それだけでいいの?」

 明らかに、この後頼まれるであろうことを想定した発言をするドゥーエに、黒い笑顔を向けるレジアス。強面な顔の造形と相まって、はっきり言って怖い。

「察しが良くて助かる。プレシアが用意したハッキング装置を、連中のアジトに仕込んできてもらいたい。それも、出来るだけ連中が自分の意思で使うように誘導して、だ。貴様なら余裕だろう?」

「赤子の手をひねるより簡単ね。むしろ、ドクターの催促をかわすほうが骨なぐらい。」

 優喜が口をはさむまでもなく、絶対に部外者に聞かれるわけにはいかない会話が続く。その会話の推移を黙って聞いていたブレイブソウルが、実に楽しげに口を開く。

「これまでに私の使い手は幾人かいたが、今回の友ほど面白い使い手は初めてだ。」

「具体的にはどういう意味で?」

「私の特性上、どうしても使い手はゼスト殿のような武人が多いのだが、それゆえに揃いも揃って脳筋と表現したくなるような人間でね。正直、私の使い手が、陰謀に加担するケースに遭遇するとは思っていなかったのだよ。実際の犯罪者の逮捕口実を、政敵の抹殺のためのマッチポンプに利用するなど、実に私好みでいい。」

「別に、関わりたくて関わってる訳じゃないよ。身内を守ってたら、引くに引けなくなっただけ。」

「その理由でここまでやってのけるその才覚、出来ない事をあっさりと切り捨てるか他人に振るドライさ、これまでの友に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぐらいだよ。」

 ブレイブソウルの言葉に苦笑する。本物の陰謀の世界では、優喜などまだまだ可愛らしいものである。

「こういう事にかかわると、ドクターを裏切った甲斐があったと思うあたり、私も結構毒されてきてるわね。」

「陰謀に加担することで充実感を感じないでよ。」

「しょうがないじゃない。私はそういう風に作られたんだし。」

 最初の頃は割といやいやだったドゥーエでも、一年もこの関係が続けば適応ぐらいはする。今ではドクターと管理局、双方に対する爆弾を握っている快感と、二重スパイが発覚して抹殺されかねないスリルの両方に酔っていたりする。しかも悪い事に、このチームは陰謀を進めるうえで、結構理想的な人材がそろっている事も、ドゥーエの充実感に拍車をかけている。

 少なくとも、いろいろ盾に取られて強制されているわけではない。最初の頃こそ事あるごとに反抗を企てては、優喜に毎回違う妙なツボをつかれてえらい目にあわされてはいたが、それが原因で本気で加担するようになったわけではない。間違っても、人として目覚めてはいけない妙な快感に目覚めてはいない、はずである。

「とりあえず、話はそれで終わり? だったら今日は引き上げるけど。」

「ああ。もう話し合うような事はないね。また何かあったら連絡するよ。」

「ちょっと待て。そろそろなのは達の出演時間だ。それぐらいは見て帰ってもばちは当たるまい?」

「あ~、そういえばそうか。」

 レジアスの言葉に一つ頷くと、せっかくなのでテレビぐらいは見て帰る事にする優喜であった。







「……立派に受け答えするようになったな。」

「なのは君、前はあれほど嫌がっていたのに、最近では完全に割り切っているようだね。」

 生放送、十二時間ほどの特番の歌番組の、ちょうど仕事終わりの休憩ぐらいの時間に入るスペシャルコーナー。そこで最近注目の新人であるなのは達が、五曲ほどのメドレーを歌う事になっている。五分程度のトークの後に十分程度の歌の時間、そして終わりのトークがまた一分程度、という構成だ。

「今日は出動とかないんだ。」

「いくら高確率で出動があると言っても、毎回ではないぞ。」

「でも多分、なにがしかのトラブルはあったみたい。受け答えは普通にしてるけど、ちょっとばかし挙動が不審だ。」

「ほう、そうなのか?」

「うん。」

 優喜の指摘を受け、もう一度観察しなおす一同。だが、どうにもどこら辺が挙動不審なのかが理解できない。

「まあ、分かんなくてもしょうがないって。僕は同居人だし、ずっとあの子たちの師匠をやってきてるんだから。二人の事に関しては、部分的には本人より詳しい自信があるよ。」

「……優喜がそういうのなら、そうなんだろうね。」

「ん。とりあえず何にしても、それが分かったからって、今この場ではどうする事も出来ないんだけどね。」

 そこで言葉を切って、二人の受け答えに集中する。彼女達の人となりは、ここ半年の取材やら何やらで随分知られて来てはいるが、直接テレビでトークをする機会はあまりない。今回は、何度も聞かれたデビューの経緯やら何やらではなく、直近のコンサートツアーと、その時に感じた事を中心に受け答えしている。

「……へえ。フェイトお嬢様、執務官を目指してるんだ。」

「うん。前々からプレシアさんの事もあって、出来る事は多い方がいいからって、資格を取る勉強はしてたんだけど、ツアーから戻ってきたら、急に熱心になってね。」

「どういう心境の変化かしら?」

「途中で覗きに行った時の様子からすると、コンサートツアーで見た子供の目が死んでたのが、どうにも気に食わなかったみたい。その時も、帰って来た時も、自分が子供だってことを嘆いてたし、執務官の権限で出来る事、出来ない事を、一生懸命調べてたよ。」

「それも、直接聞いたわけじゃないんだろう?」

「こういうことは、聞かなくともなんとなく分かるよ。」

 優喜の言葉に少し考え込む様子を見せるドゥーエ。画面の中では、なのはが将来の夢がいまいち定まらない事をぼやいて、出演者たちに温かい目で見られている。

「本気で私も染まってしまったみたいね。こんな事に手を貸しているというのに、フェイトお嬢様の夢を応援したくなるなんてね。我ながら、焼きが回ったものだわ。」

「いいんじゃない? こっちの年寄りどもは、自分達が汚れを担当して、子供達の夢を支援するんだ、なんて真顔で言ってるんだし。」

「そのやり口があれってのも、怖い話ね。」

 優喜とドゥーエの会話を苦笑しながら聞き流す年寄りども。やり口がえげつないという部分は、微妙に反論できないことを理解していたからだ。

「そろそろ歌が始まるかな?」

「そのようね。」

 二人がステージのほうにスタンバイする。優喜が即座にその立ち姿に違和感を感じたのは、付き合いの長さといえるだろうか。

「ありゃ。二人とも、立ち居地を間違ってるよ。」

「ふむ?」

「そうなのか?」

 忙しさも手伝って、さすがに二人の開始立ち位置を覚えるほどは映像を見ていないレジアス達。もっとも優喜にしたところで、うちで毎日ダンスの復習に付き合っているから、自然と覚えたに過ぎないのだが。

「うん。やっぱり、さっきの挙動不審の原因が尾を引いてるのかな? 今も、間違いに気が付いて結構おたおたしてるし。」

 他の人間からみても分からない程度の差を、当然のごとく語る優喜。さすがは二人の師匠、といったところか。

「あ、やっぱり間違えてた。」

「そのようだな……。」

 展開したバリアジャケットを見て、否定しようもなく間違えていたことを理解する一同。さすがに、普段揃っているはずの衣装が違えば、間違ったとしか判断しようがない。しかも、明らかにダンスが間違えている。

「お、ちゃんと修正した。」

「割と突発的なトラブルに弱かったフェイト君が、成長したものだ……。」

「その感慨深そうな発言、年寄り臭いわよ。」

「年寄りだからしょうがないじゃないか。」

 などなど、微妙にずれた観点で二人の歌を聞いていると……

「あ、バリアジャケット修正した。」

「二人とも衣装を間違えていたのか……。」

「まあ、出だしのダンスを二人とも間違えてたんだから、衣装も間違ってるだろうね。」

 そこまでの黒い会話はどこへやら。完全にそこらのお茶の間の様子と代わらなくなってしまっている。

「……二人とも、地味に魔導師としての技量も上がっているね。」

「ん。威力や精度は落ちるけど、ジュエルシード事件のころに出来たことは、デバイスなしでも出来るようになってるよ。」

「落ちてどれぐらいかね?」

「まあ、普通の武装局員とは、自分達が優位なまま張り合えるんじゃない?」

 デバイスなしでランクA以上とか、普通の局員が聞いたら泣きたくなる話だ。

「むしろ、彼女達より一般局員を君に鍛えてもらうべきなのかもしれないね。」

「聖王教会でも言われたけど、さすがにそれは無理。面倒見れて、せいぜい後一人二人だよ。」

 優喜のせりふに、むうと唸る重鎮達。そんなこんなをしているうちに、なのはとフェイトが互いの衣装を入れ替えるサービスを行って客席を盛り上げ、ステージそのものは最高のまま終える。

「半年で、よくもまあここまで対応力が付いたもんだ。」

「まったくだ。」

「とりあえず、見るものを見たし、僕は引き上げるね。」

「ああ、すまないね。」

「また何かあったら連絡する。」

 レジアスとグレアムの言葉に軽く手を振って答え、そのまま帰路につく。この後、年寄り二人とその使い魔達は、膨大な量の業務手配に忙殺されるのであった。







後書き
とりあえず、このおっさん達、そろそろ自重すべきだと思うんだ


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