「士郎さん、本格的に御神流を教えてもらいたいんだけど、駄目かな?」
ソニックフォームのデザイン検討も慣らしも終わった、その日の夜。フェイトは、夕食の席でそう切り出した。
「……いきなりだね。」
「前から、考えてはいたんだ。ただ、そこまで踏み込む覚悟がなかなか……。」
「ふむ。訳を聞いていいかな?」
「今のままだと、ソニックフォームが使いこなせなくて……。」
人の身で出せるものとしては、圧倒的な速力を持つソニックフォーム。だが、圧倒的すぎてまだまだ振り回されてしまう。
「ソニックフォーム?」
「高速戦闘用に、装甲を削って速度をあげた新フォーム。当たると終わるから、前以上に回避をしっかりしないといけないんだけど……。」
そもそも、素の状態でも現状のフェイトは結構ぎりぎりなのだ。それ以上のスピードとなると、意識は追いついても体が追い付かない。
「……あまりみだりに装甲を削るのは、感心しないな。」
フェイトの言葉を聞いて顔をしかめる士郎。確かに、装甲と言うのは当たった時に役に立つものだ。きちっとよけられるなら、最悪なしでもいい。だが、世の中そうはいかない。
身動きの取れない状況、狙撃をはじめとした不意打ちでの一撃、圧倒的な広範囲への攻撃、判断ミスに流れ弾。当たる時にはどうやっても当たるのが攻撃というものであり、そのどうやっても当たってしまう類の攻撃で死んだ御神流の使い手は、それこそ枚挙に暇がない。何しろ生身の彼らは、バリアジャケットの装甲などと言う便利なものはないのだから。
そうなったとき、最後の保険として役に立つのが装甲であり、そうでなくても底辺に近いそれをさらに削るのは、速さこそ力を信条としている御神流から見ても、自殺行為としか言えない。
「必要な時だけアーマーパージして使う切り札のつもりなんだけど、今のままじゃ、切り札にならずに自滅しそうだから。」
「そういうことならまあいいか。」
フェイトの言葉に納得し、明日から指導内容を変えることを決める士郎。だが、そこに恭也が異を唱える。
「父さん、教えるのは問題ないが、フェイトのメイン武装は長柄武器だ。俺達の技がそのまま役に立つとは思えないぞ。」
「そこはもう、優喜に丸投げするしかないさ。」
「いや、僕も長柄武器は専門外なんだけど……。」
優喜が苦笑しながら、無責任な事を言いだす御神流師弟に突っ込む。特に戦鎌などと言う特殊な武器は、優喜とて未知の領域だ。せいぜい、薙刀あたりの派生として振ればいいかな、ぐらいの感覚しかない。
「最悪、母さんに頼んで、バルディッシュにそのためのフォームを追加してもらうよ。」
「そうだね。ものになってからバルディッシュを改造するのが一番早いと思う。鎌と小太刀二刀じゃ、性質も使いどころも全然違うし。」
小太刀二刀は取り回しがよく、戦場に関係なく振りまわせる半面、手が短く一撃が軽い。特にフェイトの体格に合わせたバランスだと、遠心力も体重も大して乗せられないため、魔導師相手では心もとない。御神流はその弱点を徹をはじめとした特殊な技法と、斬撃の速度そのものをあげることによる切れ味の向上で補っては居るが、それでも重量武器を超えるほどではない。
一方大鎌は、その大きさゆえに狭い空間では使い勝手が悪いが、大きいということは遠心力も重量も大きいということだ。魔力刃で切るのだから関係なさそうに見えるが、防がれた時に相手に与える衝撃の差は、小太刀と比べると馬鹿に出来ない。単純な力学の問題として、同程度の訓練時間だとどちらが威力そのものは上かと言うのは、比べるまでもない。
鎌という独特の形状のものを選んだセンスはともかくとして、子供の体格とその非力さを補うために長柄武器をあてがったプレシアとリニスの判断は、理にかなったものだと言える。
「でもさ、フェイトが欲しいのって、御神流の技って言うより、『神速』だよね?」
「美由希さん、そんな当たり前のことを今更突っ込まなくても。」
「あ、そうじゃなくて。優の流派にないの?」
「似たようなものはあるけど、せっかく正規の指導者がいるんだし、そっちで教わる方がいいんじゃないかな、と。」
優喜の言葉に、まあそれもそうかと納得して見せる美由希。
「フェイトちゃんが……、人間の世界から足を踏み外そうとしてる……。」
ポンポン進む話に口をはさめなかったなのはが、少し暗い顔でポツリと余計な感想を呟く。
「なのは、ブーメランって知ってる?」
なのはのあまりに己を顧みない発言に対し、苦笑交じりに桃子が突っ込みを入れる。
「えっと、投げたら戻ってくるあれだよね? それがどうしたの?」
「他の人から見たら、なのはの方が何歩も人間の世界から足を踏み外してるって事だ。」
折角桃子がオブラートで包んだ言葉を、恭也が情け容赦なく真正面からたたきつける。
「にゃ!? 私は魔法使っても、生身で普通の人の目がついて行かないようなスピードで動けないよ!?」
「その代わり、まっとうな人間だと、どう訓練してもえられない、絶望的な破壊力を身につけてるじゃないか。兄はお前の方が人類かどうか疑わしいと思っているぞ?」
「それ言い出したら、優喜君はどうなるんですか、おにーちゃん!!」
「いや、僕のはこれと言って才能がない人間でも、ちゃんとした師匠について十年も訓練すれば大体できるぐらいのレベルなんだけど……。」
よもや、優喜に裏切られると思っていなかったらしいなのはが、ショックを受けたような顔で兄と優喜を見比べる。
「まあ、空飛んだり気功弾飛ばしたりとかいうのは、教える側が余程の人じゃないと難しいけどね。」
「それでも、一般人でも訓練で出来る、というわけだな?」
「出来るよ。少なくとも、発勁で生き物殺すぐらいは、普通の人が普通の師匠についてても、十年あれば十分いける。」
ただし、十年続けばだけど、という言葉に沈黙が下りる。因みに、優喜が生き物という表現を使ったのは、普通の訓練課程で覚える打撃の中に、明らかに人間相手だと一瞬で内臓をミンチにしてお釣りがくるような、使いどころが分からない代物がごろごろ存在しているからだ。覚えるのが仕上げに近い時期になるとはいえ、ちゃんと入れれば、象だろうがカバだろうが鯨だろうが仕留められるんじゃないか、と言うのが率直な印象である。
なお、これはあくまで、一般人が普通の(と言っても、一般人の範囲からは当然数歩以上逸脱しているラインだが)師匠に師事して、十年まじめに修行に耐えきれば覚えられる範囲、の話だ。単に筋肉と呼吸の使い方を極めるだけでも、人間それぐらいの領域にはとどく。もっとも、その域に達したところで、マシンガンを持った兵士一人に敵わないのが現実なのだが。
「あ、そうそう。なのは、フェイト。」
「なに?」
「なに?」
きょとんとした顔で優喜を見つめ返してくる二人に苦笑しつつ、とりあえず考えていた事を告げる。
「さすがに生き物を一撃で仕留めるようなレベルじゃないけど、二人に発勁を覚えてもらおうかと思ってる。」
「うん、分かった。……って、え?」
「発勁って、あの触っただけでズドンと来るやつだよね?」
「だよ。師匠ほどの期間短縮は無理だけど、一年ぐらいである程度使いこなせるとこまでは叩きこむから。」
「わ、私人殺しは嫌だよ!?」
何を勘違いしたのか、なのはが恐れおののいて余計な事を言う。
「あのさ、発勁を手加減不能な殺人技か何かだと思ってない?」
「優喜君、そういう運動神経の絡みそうなものを、私が手加減して使うとかできると思ってるの!?」
「運動神経がなくても使いこなせる種類のやつを教えるし、いくらなのはだって、毎日やってることは運動神経が絡んでても、普通に問題なく出来てるでしょ?」
「受け身とかと一緒にしないでよ!!」
なのはの言葉に、苦笑するしかない優喜。見かねたフェイトが、使えるようになっても使わなきゃいいんだからとなだめて落ち着かせ、ようやく納得するなのはであった。
「ふむ。なるほど、な。」
とある最高級ホテルの一室。ドゥーエの報告を聞き、小さくため息をつくグレアム。思った以上に最高評議会の根が深い事にため息をつきつつ、今後の方針を決める。因みに、盗聴器やら何やらはドゥーエの手でチェック、無力化されており、それ以外のものはプレシアと忍が共同開発した、超強力覗き見妨害装置で完全に沈黙させている。
「レジアス、君の話を聞く限りでは、最高評議会の連中は、完全に手段が目的化しているように思われるが、どうかね?」
「まあ、そんなところだろうな。奴ら、管理局の設立目的を完全に忘れている。いや、口実にしている、と言った方が正しいか。」
管理局の事実上のトップともいえる、最高評議会。一般局員レベルではよくてせいぜい噂話、大半は名前も知らない存在であるが、上層部には広く存在が知れ渡っている連中である。ドゥーエに聞くまで、レジアスすらその正体を正確には知らなかったが、彼女を優喜が抱きこんだおかげで、正体と行動原理、影響範囲などが完全にではないが明らかになってきた。
「さて、目先の話になるが、奴らは書の修復プロジェクトに横やりを入れてくると思うかね?」
「まず間違いなく入れてくるだろうよ。夜天の書は、ロストロギアの中でも屈指のえげつない代物だ。管理局の支配体制を確固たるものにするには、この上なく都合がいいからな。」
「となると、そちらも警戒する必要があるな。ドゥーエ君、君もいろいろと大変だろうが、そのあたりも注意して調査してくれると助かる。」
「……敵の手下にそんな事を頼むとか、管理局のトップはどうなってるのやら。」
「何をいまさら。地上のトップが犯罪者と通じていたんだ。抱きこんだスパイを使うぐらい、大した問題じゃない。」
グレアムの言葉に、レジアスとドゥーエが苦い顔をする。
「まったく、あの小僧と関わってから、碌な事がない。」
「運がなかったと思ってあきらめることだ。もっとも、儂にとっては運がよかったのかも知れんがな。」
「時折、ここにいる連中を全部まとめて始末して、そのまま姿をくらましてやりたくなるよ。」
「出来るのであれば、好きにすればいい。」
レジアスの言葉に、小さくため息を漏らすドゥーエ。言うまでもなく、出来るわけがない。確かにドゥーエ自身の戦闘能力は、そこらの局員をまとめて相手にしてお釣りがくるレベルだ。だが、ギル・グレアムとその使い魔二人を同時に相手取って、正面から戦って勝てるかと言われれば、答えは否だ。
不意打ちならどうにかなる。だが、仮にそれでグレアムを仕留めたところで、優喜に捕まって碌でもない目にあわされるに決まっている。自害など許してもらえない事すら容易に想像がつくあたり、本当に厄介だ。
「それで、本当にドクターの計画を、そのまま進めさせていいの? 私としては、生みの親をそんなに裏切らなくて済みそうだから、願ったりなんだけど。」
「ああ。さすがに、ジュエルシードだけは危険物にもほどがあるから、君達にくれてやるわけにはいかないがね。」
「まあ、あの石っころには、ドクターもそんなに執着してないからいいとは思うけど。」
「それに、いきなり決別するよりは、こちらの準備が整うまでは、流れる情報をある程度制御しつつ、目の届く範囲で自由に泳いでもらっておく方が、こちらとしても楽なのでね。」
ドゥーエを完全に身内と思っているのか、それとも優喜の掌から逃れられないと高をくくっているのか、隠しておくべきであろう本音をあっさりばらすグレアム。グレアムの考えている通り、ドゥーエがスカリエッティにこの話をすることは出来ない。優喜が自分の体にやらかしてくれた様々なやり口に加え、自分が優喜にはめられるきっかけとなった作戦、その相手の末路を知ってしまったこともある。さすがにああなるのは、自分を捨て駒だと自覚しているドゥーエでも、正直勘弁してほしい。
「それで、他になにを知れべて来ればいいの?」
「そうだな。他に犯罪者とつながってる連中が、今どんな動きをしているのか、それはしっかり把握しておきたい。」
「後、もう一度予算の流れを洗い出してほしい。別段、同じ部署のよそのプロジェクトから、基本共用する機材の更新費用を持ってきた、とかそういうレベルの違反はどうでもいいが、裏金を作った挙句に度を越して違法研究に投資していたり、私服を肥やしていたりと言うのは見逃すわけにはいかないからね。」
「はいはい。あんまり派手にやると、外に漏れるから気をつけなさいよ。」
ドゥーエの忠告に、驚いた顔で彼女を見つめ返すグレアムとレジアス。
「君の口から、そんな言葉が聴けるとはな。」
「別に、貴方達を心配した訳じゃないわ。私達みたいな技術系の犯罪者はね、あまり治安が良すぎても悪すぎても困るの。管理局が力をつけすぎるのもまずいけど、スキャンダルで組織が崩壊して、治安が悪くなりすぎても駄目。本音を言うと、今ぐらい適度に腐ったままダラダラ行ってくれるのが一番だけど、それはそれで、別の理由で組織が持ちそうにないのが面倒なのよね。」
「なるほど。君がそういう本音を語ってくれるとは思わなかった。」
「別に、知られて困ることじゃないからね。貴方達だって、私なんかに本音を全て語った訳じゃないでしょ?」
違いない、と苦笑するグレアムとレジアスを置いて、部屋を出ていくドゥーエ。グレアムとレジアスの内部粛清は、外に漏れないようじわじわと進んで行くのであった。
「サンダースマッシャー!」
「ディバインバスター!」
アルフのバインドで絡め取られ、シュツルムファルケンの直撃で動きが完全に止まった七十メートルほどの翼竜を、なのはとフェイトの砲撃が叩き落とす。
「シャマル!」
「ええ!」
意識を失う直前の翼竜から、リンカーコアを抜き取り蒐集する。本日三種目の五十メートル超級は、三十八ページだった。
「今、何ページだ?」
「今回ので三百五十二ページね。もう二体ぐらいかしら。」
「そうか。順調だな。」
爪や皮膚と言った、切り取っても相手の命に別条ない組織を回収しながら、今までと打って変わった順調な進み具合を聞き満足そうにうなずくシグナム。
「やっぱ、なのはの砲撃は効くなあ。」
「フェイトの電撃も、案外効果のある連中が多い。」
優喜と一緒にどつき倒した六十五メートルぐらいの大型獣を、同じように組織を引っぺがしながらヴィータとザフィーラもコメントする。こちらは、優喜が死なない程度に脳を揺らすやり方で気絶させたため、二人ともほとんど魔力を消費していない。因みに、すでに蒐集は終わっている。
「カートリッジの消費が嘘のように減った。やはり、大火力砲を使える人間がいるのは心強いな。」
手持ちの残りを確認したシグナムが、感心を通り越して感動するように言う。今までなら、とうの昔に使いきっているはずのカートリッジが、まだまだ潤沢に残っている。百メートル超級とまだ遭遇していない事もあるが、やはり大型獣相手となると、カートリッジなしで高火力の砲撃を撃てないヴォルケンリッターは不利だ。
「それはそうと、二人ともユニゾンはしないのか?」
「まだ、大丈夫そうだったから。」
「それに、これぐらいでユニゾンしてたら、千五百とか相手に不安が……。」
「それもそっか。余力は残しておくにこしたことはねーもんな。」
「そうそう。」
などと駄弁っているうちに、管理局から依頼があった分の組織採集が終わる。
「ちょっと疲れたし、場所移して休憩かな?」
「いい加減、アタシは腹が減ってきたよ……。」
「そうだな。さすがに朝から狩り続けているから、いい加減休んだ方がいいだろう。」
「後二体ぐらいってのが、判断に困るところだよな。」
正直なところ、今の消耗度合いでも、二体やそこら全く問題なく仕留められる。だが、相手が相手だけに、判断ミスで直撃を食らえば、それだけでその余裕は一気にすっ飛ぶ。いくら大味とはいえ、何十トン、下手をすれば数百トンクラスの体重から繰り出される物理攻撃や、何十ページも埋まる魔力から繰り出される特殊攻撃は、優喜とザフィーラ以外は一撃で落ちかねない威力を有する。
「休憩するとして、どこにする?」
「この世界の水辺は安全圏とは言い難い。むしろだだっ広い平原の方が安全だろうな。」
「じゃあ、向こうの方にあった草原地帯がいいか。」
と、話が決まったところで移動を開始しようとする。だが、順調な時ほど落とし穴と言うのは大きいもので……。
「フェイト!」
「フェイトちゃん! 後ろ後ろ!!」
「え?」
移動を開始しようと湖を背に飛び上がったフェイトを、湖から飛び出した全長三百メートル前後の、大型の肉食魚に翼と足を生やしたような外見の生き物が一口で丸呑みした。
「フェ、フェイト!?」
「フェイトちゃん!!」
あまりにあまりな情景にあたふたしているなのは達を横目に、優喜が真っ先に動く。相手のサイズがサイズだけに、まだフェイトは無事だろう。だったら、消化されてしまう前に口を開かせ、吐き出させるのが先決だ。
「でい!」
多分横隔膜だろうあたりを発勁で揺らし、唸り声をあげて暴れる魚龍の口を大きく開いた状態で固定する。
「アルフ! ザフィーラ!」
「あいよ!」
「承知!」
優喜の意図をくみ取った使い魔二人は、上顎と下顎を大きく開いた状態でバインドする。シャマルも加わり、さらに大量のバインドを飛ばし、地面に張り付けるように縛り上げる。
と、その時、魚龍の体内から洒落にならない大魔力が発生し、口から極太のプラズマ砲がほとばしる。その直後に、ユニゾンしたフェイトが口から飛び出してきた。どうやら、フェイトが砲撃を放って、道を作ったらしい。
「フェイト、無事?」
「うん……。だけど、また食べられた……。」
フェイトの言うまた、と言うのは、かつてジュエルシード回収中に、巨大なガマガエルに丸呑みにされたことを指す。
「落ち込むのは後にして、まずは目の前のあれを仕留めよう。」
「……うん。……そうだね!」
優喜の言葉に頷くと、カートリッジを二発連続で撃発し、もう一丁今度は外側から砲撃を入れる。サンダースマッシャーのカートリッジ使用バージョン、プラズマスマッシャーだ。二発撃発したのは、一発だと心もとないからだろう。
フェイトが自力で脱出してきたのを受け、遠慮無く全力で攻撃を開始するシグナム達。まだカートリッジが十分余っているのをいいことに、カートリッジをガンガン使って連続でシュツルムファルケンをぶっ放すシグナム。さすがにシグナムほどの速射性はないが、大物を問答無用でつぶすのは自分の仕事だとばかりに、ひたすらギガントを振りおろしまくるヴィータ。そこに、ユニゾンしてカートリッジを三発撃発したなのはのバスターが突き刺さり、あえなく大型魚龍は沈黙させられるのであった。
「ふう……。」
「さすがにこのクラスは、バインドで固定するのは骨だな……。」
大型魚龍が完全に沈黙するのを確認した後、疲れをにじませながらバインドを解除し、思わずぼやくバインド組。引きちぎられそうになっては追加のバインドを飛ばして強化することを繰り返していたものだから、ずいぶん大変だったようだ。
「私、食べられるとか絡まれるとか、そういうことばかり起こってる気がするんだ……。」
「フェ、フェイトちゃん! だ、大丈夫だから! そのうち絶対いいことあるから!」
終わってから、先ほどの事を今更のように蒸し返すフェイト。また食べられた、だの、絡まれる、だの、今まで何があったのかが非常に気になるヴォルケンリッター。さすがに、巨大ゴキブリにたかられただの巨大ガエルに食われただの巨大ミミズに絡みつかれただのと言う、出家してもいいんじゃないかと言う過去は、彼らといえども想像の埒外だ。と言うか、これだけの断片的な情報で、そんな想像をするようでは、そっちの方がいろいろと問題である。
「まあ、せっかく仕留めたんだし、蒐集しようか。」
「そうだな。」
優喜の言葉に頷き、シャマルを促す。シグナムの意を受け、多分これで必要なページが埋まることを期待しながらコアを露出させ、書に蒐集させるシャマル。
その間に、他の人間は取れる体組織を取れるだけ集めている。とはいえ、サイズがサイズだ。そうそう簡単に終わるものでもない。仕留めるのにかかった数倍の時間をかけて、ようやくすべての作業を終えた。
さて、ここでフェイトの特徴、と言うか特性を思い出していただきたい。彼女は時折、恐ろしいほどの引きの悪さを見せることがある。しかも、致命的な引きの悪さを示す時は半々か、それより分が悪いぐらいの確率で、先にややましな程度の引きの悪さを見せる。
何が言いたいのかと言うと……。
「友よ! 二時の方向から強力な魔力反応!!」
「言われなくても、こっちでも拾ってるよ。……この速度だと、転移も間にあわないか。」
ようやく全ての作業を終え、さあ今度こそ休憩、と言う段になって、休眠状態だったブレイブソウルが勝手に起動し、わざわざ不要な警告を発する。ブレイブソウルの警告と同時ぐらいに、周囲にいた小動物(と言っても、最低でも人間大だが)が一斉に逃げ始めた。
因みにブレイブソウルが大人しく待機状態で休眠していたのは、単純に役に立たない事を自覚していたからだ。パートナーが優喜でなければいろいろ出来ることがあるのだが、残念ながら使い手はデバイス不要の優喜だ。本来ならチートだのロストロギアだのと言われる領域の、反則じみた性能のデバイスだが、優喜が使っている限りは一切パワーアップにつながらない。
「どうした? ……あれか。」
「どうしてこう、いつもいつも消耗してる時に来るんでしょうね……。」
ついに目視できるようになった巨大な古代龍を見ながら、思わず嘆くシャマル。シャマルの嘆きの言葉に対して、優喜となのは、アルフの三人がとっさに考えたのは、フェイトが居るからだろうなあ、である。まあ、サイズがサイズだけに、いくら目視できると言っても、最低でも数十キロは先なのだが。
「シャマル、今のページ数は?」
「四百四十一ページ。さっきの魚龍が八十九ページもあったの。」
「そうか、新記録だな。」
どうでもいいことを言いながら、レヴァンティンをボーゲンフォルムに切り替える。百メートル未満ならまだ、直剣のシュベルトフォルムや蛇腹剣・シュランゲフォルムの出番もあるが、キロメートルオーバーの生き物に、そんな武器をどう使えと言うのか、と言うのがシグナムの率直な感想だ。
「それで、前回のはぴったり二百ページだったの?」
「いや、若干はみ出していた。確か、二百十二ページほどだった。」
なのはの問いかけに、ザフィーラが答える。そして、そこではっとする一同。
「拙いな。二百二十五ページ以上だと、書が起動してしまう。」
「どうせ、あのサイズを僕達の技だけで仕留めるのは厳しいんだし、スターライトブレイカーの威力向上のためにも、書の砲撃を一発二発叩き込んだら?」
「……それしかないか。」
シグナムが同意し、シャマルが発動準備に入ったあたりで、生意気な小動物達が迎撃の準備を始めたと知ったのか、古代龍から攻撃が飛んでくる。
「っ! 拙い! 散開するぞ!!」
五キロ以上先からの砲撃を、大慌てで散開してよける一同。散開した直後に、古代龍の口から飛び出した魔力弾が着弾、なのは達に仕留められ、気絶していた大型獣を巻き込み、辺り一帯を更地に変える。先ほどまで採取していた魚龍も、跡形もなく消え去ってしまった。
「……さすがに、当たるとシャレにならんな。」
「洒落にならない、ですまないんじゃないかしら?」
「だな……。」
などと無駄口を叩いている間に、とうとう戦闘距離まで接近する。前回の時もそうだったが、スケール感覚が狂うサイズだ。目の前にあるのがどの部位なのか、すでに分からなくなっている。さすがにそのサイズが、飛び道具とは言え攻撃が届く距離をうろうろしているのだ。周りの大気がえらいことになっている。
「まったく、このサイズが無遠慮に飛び回って、それでも植物とかがへし折れたりしないんだから、何もかも規格外だよな、この世界。」
至近距離を飛ばれたため、風圧で弾き飛ばされたヴィータが愚痴る。確かに、湖は大時化になっており、こいつが羽ばたくだけで大津波が起こっている。なのに、地上の木々は地面につくんじゃないかと言うぐらいしなっていると言うのに、折れる気配すらない。
まあさすがに、常日頃から上空を百メートル前後の生き物が飛びまわり、地上や水中を要塞のような生き物がうろうろするような環境で、たかが台風程度の風で折れるような植物が、生きていけるわけがないのは確かだろう。
「まあ、何にしても仕留めるぞ! 高町! チャージ開始だ!」
「了解! レイジングハート、ユニゾン・イン!!」
「バルディッシュ!」
さっさとユニゾンし、攻撃の準備に入る。幸いと言っていいのだろうか、先ほどの古代龍の砲撃のおかげで、周囲には十分な量の魔力がある。ちょっとだけジュエルシードの出力をあげれば、素敵な威力の集束砲が撃てそうな予感がする。
「シャマル! 合図と同時に書の砲撃を開始!」
「了解!」
「ザフィーラとアルフはシャマルと高町をガードしてくれ! 他の人間は囮になるぞ! 各自、最大火力で攻撃を!」
シグナムの指示が矢継ぎ早に飛び、各自、最大火力の攻撃を行う準備に入る。
「バルディッシュ! ザンバーフォーム!」
出し惜しみをしている余裕のある相手ではない。さっさとフルドライブモードを起動し、シリンダー内のカートリッジを全部撃発して突撃する。バルディッシュも心得たもので、ユニゾンコアの維持に回す分以外のジュエルシードの魔力を、全て超巨大な魔力刃の密度とサイズの向上に回す。
「ジェットザンバー!!」
とにかく目についた翼に、フルドライブからの一撃を叩きこむ。物理破壊設定ではないので、当たったからと言って切り落とされるわけではないが、それでも一瞬だけ機能停止させるぐらいの効果はあったらしい。明らかにノーダメージではない。
その一撃でバランスを崩した巨大龍に、ヴィータのギガントが追撃で入る。バランスを崩した状態でのその重い一撃はさすがに受け止めきれず、失速して地上に墜落する。周囲を大地震が襲い、湖が先ほど以上の大津波を発生させる。砂塵が舞い上がり、衝撃波が周囲の木々をなぎ倒す。
「シュツルムファルケン!!」
本日何発目か、カウントする気も起らないシグナムの最大火力が、墜落した龍に突き刺さる。さすがに優喜のように、このクラスの攻撃をノーダメージで受け止めるような、そんな洒落の通じない防御力は持っていないらしい。かすり傷よりはずいぶんまし、という程度のダメージは通る。
実際のところ、これまでの三連撃で、一番大きなダメージが墜落によるものであり、次がフェイトのジェットザンバーだ。その程度のダメージでは、衝撃ですぐに動けないだけで、まだまだ戦闘能力は失われていない。シグナム・ヴィータとフェイトの差は、単純に使ったカートリッジの数の差である。さすがに、最大装填数が二発と三発のレヴァンティンとグラーフアイゼンでは、全部撃発したところで、六発使えるバルディッシュには最大火力の面では及ばないのも当然ではある。
地面にたたき落とされた古代龍の頭部に、優喜がバリアを張って体当たりする。フェイトのトップスピードと勝負できるスピードで頭を弾くと、そのまま一気に離脱する。当然、全ての衝撃は発勁として内側に浸透し、特殊な方法で増幅され、さらに波紋となって共鳴、内部でうねりをあげて威力を増す。だが、いくら内側と言ったところで、皮膚の外側から脳の外周まで数十メートルあるのだ。優喜の今の体では、そこまで衝撃を完全に通すことは出来ない。
「シャマル!」
「ええ!」
優喜が離脱したのを受け、闇の書の砲撃を容赦なく叩きこむ。いつもより使用ページを増やした特別版だ。当然、これまでの豆鉄砲に毛がはえた程度の代物とは、比較にならないダメージを与えることに成功する。
必殺技ラッシュで無視できない程度にダメージを受けた古代龍は、怒りの咆哮をあげる。その声だけで大地が震え、大気が共鳴し、洒落にならない衝撃波が周囲に飛び交う。
「ちっ!!」
「ラウンドシールド!」
回避など許さない、圧倒的な範囲の衝撃波に対し、なすすべもなく吹き散らされる一同。
「なのは、大丈夫かい!?」
「うん! ありがとう、アルフさん!」
チャージを潰されては困る、という理由でアルフがカバーしたなのはは、とりあえず現在のところ無傷でやり過ごしている。精度の問題から、書の砲撃の砲兵を努めるシャマルも、ザフィーラにガードされてノーダメージだ。
「フェイト、動ける?」
「大丈夫、優喜が守ってくれたから。」
メンバーの中では飛びぬけて防御が薄いフェイトを、優喜が念のためにかばう。何しろ、一人欠けるだけで致命的になりそうな相手だ。しかも、この攻撃力の前では、優喜の防御アイテムを二つ持っていたぐらいでは、どうやってもカバーできない。シグナムの言う通り、基本的にここの生き物は攻め手が粗く、攻撃に対応するのはそれほど難しくはないが、さすがにこのサイズの相手では、いくら攻め手が粗かろうと、効果範囲が圧倒的すぎて、回避主体のフェイトでは厳しい。
「奴が飛びあがる前に、もう一度行くぞ!!」
シグナムの掛け声と同時に、カートリッジのリロードを済ませたフェイトとヴィータが、今度は狙いどころを変えて追撃を入れようとする。が……。
「ヴィータ!」
優喜が先ほどの攻撃と同じように、バリアを張ってヴィータを弾き飛ばす。今度の当たり方は、純粋に遠くに弾くための当て方なので、姿勢が崩れる以外はヴィータにダメージは一切入らない。
「なにすんだ!」
いきなりの事に怒鳴りかけたヴィータは、優喜が古代龍の尾で弾き飛ばされる瞬間を目撃してしまう。さすがと言うかなんというか、ザフィーラを鼻で笑う防御力と防御技術は伊達ではなく、大したダメージを受けた様子も見せずに再び頭を体当たりで攻撃する。
「ユーキ、大丈夫か!?」
「問題ない! だけど、さすがにこの体だと火力が足りないなあ……。」
やはり大してダメージを徹しきれなかった優喜が、舌打ち交じりにぼやく。いっそ、腕一本粉砕する覚悟で攻撃を叩き込もうかと真剣に考える。
「友よ、大人の体なら、手があると言うのか?」
「単純に、乗せられる気の大きさが段違いだから、普通にやっても脳まで衝撃を通せるんだよ。まったく、本気で子供の体は不便だ……。」
「そこを嘆かれても困るぞ。」
どうにもならない事をぼやく優喜をなだめつつ、少しでもダメージを徹しやすそうな部位をサーチするブレイブソウル。そんな優喜達に構わず、今度こそ追撃を入れるヴィータとフェイト。頭を狙った一撃は、さすがに先ほどよりは効果があったらしい。苦しそうにのたうちまわり、どんどん周囲の被害を拡大していく。
「もう一発、大きいのが来るよ!」
優喜の警告から数瞬後、古代龍の角から電撃がほとばしり、周囲を薙ぎ払うように焼く。辛うじて回避したフェイトと、ギガントの反動でかわしきれずにカス当たりし、防御魔法でどうにかかすり傷に抑えるヴィータ。その様子を見たシグナムが、苦い顔でつぶやく。
「前のやつより強いぞ……。」
「やっぱり?」
シグナムのつぶやきを聞きつけた優喜が、衝撃を内側に通すことをあきらめ、気功弾を絨毯爆撃しながらシグナムに聞く。ファルケンですらかすり傷よりまし、程度のダメージしかならない以上、いくら浸透性のダメージとはいえど、優喜の気功弾など何発当たったところでダメージにはならないだろうが、衝撃で足止めと時間稼ぎぐらいにはなる。
前にシグナム達とやり合った千五百メートルクラスは、タフさこそ大差なかったものの、カス当たりでヴィータの防御をぶち抜いてくるような火力はなかった。共通点は、相手の防御が堅すぎて、気絶させなければシャマルのリンカーコア抜きが通じない事だけだ。
「ああ。竜岡、本当に手札はないのか?」
「一応あれぐらいなら仕留められる札はあるけど、いろんな理由で今回は使えない。」
「具体的には?」
「蒐集って目的から考えたら、さすがに触った相手だけを跡形もなく消滅させる技なんて使えないでしょ? それに、多分今の体で使ったら、間違いなくあれを道連れに僕が死ぬ。」
「そんなに反動がきついのか?」
「当たり前だって。あれをあの程度って言いきれるような技だよ? しかも周囲に一切影響を出さずに消滅させるしね。そんな技が子供にホイホイ撃てたら終わりだって。伊達や酔狂で、うちの流派の秘伝を名乗ってる技じゃないよ。」
優喜の言葉に納得するシグナム。実際、優喜が本来の体だったとしても、撃てるのは二十四時間以内にせいぜい二発。それ以上撃てば、三発目で三日は絶対安静、四発撃てば半年に延び、五発撃てばよくて廃人、悪ければ即死と言うリスクの大きい技だ。それだけ反動が厳しく、後に引くのだ。無論、優喜は特定の状況以外では二発以上撃ったことがないので、感覚としてこのぐらいだろう、と言う事しか分からない。
「そうか、文字通り切り札、というわけか……。」
シュツルムファルケンを相手の頭にたたき込みながら、優喜の説明をそうまとめるシグナム。幾多の戦をくぐりぬけてきた経験が、なんとなくその切り札を切っても死なずに済む手段を持っているのではないか、と考えさせはするが、どちらにせよ現状使い物にはならない。
「後は僕に使える手段って言ったら、腕の一本でも砕くつもりで、体の許容量以上の気を乗せて打撃を入れるぐらいかな。」
「やめておけ。多分それで与えられるダメージも、たかが知れているだろう。」
もう一射、ファルケンを叩きこんだシグナムが、優喜を窘める。シグナムの言葉に苦笑しながら頷き、とりあえず気功弾の属性をいろいろいじってダメージを検討する優喜。試した結果、結論は違いが分からない だ。
「やっぱり、なのは頼りだな。っと、大技来るよ!」
「ああ!」
とうとう優喜達からの攻撃を押し切り、古代龍が咆哮をあげながら再び空に上がる。その衝撃が砲撃手に行かないように、必死に踏ん張ってガードするアルフとザフィーラ。この二人は、優喜以上に切れる札がないため、ひたすら防御に専念している。
飛び上がった古代龍が、深く浅く独特の呼吸を繰り返した後、息を大きく吸い込む。それを見た優喜が、顔色を変える。間違いなく、次の攻撃は辺り一帯を更地に変えた、あの最初に放った魔力弾だろう。
「拙い!!」
シグナムが叫ぶ。優喜が何やら詠唱をはじめ、フェイトとヴィータが阻止すべく攻撃モーションに入ろうとする。だが、二人の攻撃が届くより先に、優喜と古代龍の準備が同時に終わる。
「食らい尽くせ!」
古代龍が魔力弾を吐き出すより一瞬早く、優喜の中和系魔力消去術が発動する。普段なら、詠唱などせずに発動させるのだが、相手の魔力密度の高さと結合強度の強さから、あえて詠唱という手順を踏んで効果を底上げしたのだ。そこまでやるなら完全魔力消去魔術を使えばいいのではないかと言われそうだが、今度は詠唱が長すぎて間に合わない。
「やっぱり足りなかった!」
予想通り、詠唱が短すぎたこともあり、核の魔力を中和しきれなかった。結合力を大幅に落としはしたものの、不発させるには至らなかった。しかも、大幅に削ったとはいえ、それでもプレシアの儀式魔法を上回る威力は普通にある。アルフとザフィーラが組んでガードしても、まず間違いなくぶち抜かれる。
優喜の取った行動は早かった。最大出力でバリアを張り、魔力弾を横から弾き飛ばしたのだ。もっとも、これまでに多少なりとも消耗し、防御力が落ちている優喜では、そこまでの荒業を行えば無傷では済まない。上半身をぼろぼろにした状態で、肩で息をしながら着地する。
「優喜君!」
「優喜!」
「チャージを乱さない!!」
要求される威力の大きさに加え、度重なる衝撃によりチャージ速度が上がらないなのはは、いまだに十分な威力に達しないスターライトブレイカーに焦りを隠せない。今まで程度の妨害なら、多分後十秒で最低ラインは突破するはずだ。だが、当初の予想に合わせた最低ラインで、果たしてあれを叩き落とせるのだろうか?
「なのは! 焦らなくていいから! 十分だと思うところまでチャージして!」
なのはのためらいに気がついたフェイトが、そう声をかけてカートリッジをリロードする。初めての起動で随分長いことフルドライブを維持しているが、バルディッシュは持つのだろうか?
「バルディッシュ、もうザンバーフォームを長く維持してるけど、大丈夫?」
『問題ありません。』
「そっか。」
納得はしていないが、出し惜しみできる状況でもない。ザンバー以外でダメージを与えられるとも思えない以上、本命の発射態勢が整うまでは無理をしてもらう事にしよう。
「次が来るよ!」
アルフの警告に合わせて、あわてて逃げるフェイト。数瞬後、フェイトが居た場所を電撃が薙ぎ払う。そうやってこちらの出鼻をくじいて、深く浅くと独特の呼吸を開始する。どうやら、もう一度魔力弾を吐き出すつもりらしい。
「魔力弾が!」
「分かっている!」
少しでも妨害しようとシュツルムファルケンを頭に撃ちこむシグナムだが、ダメージはあっても妨害できるほどではない。発射の阻止は不可能だろう。詠唱をしようとした優喜を尻尾が妨害しているのが見える。
「バルディッシュ! あの魔力弾、ザンバーフォームで斬れる!?」
『厳しいですが、やってやれない事はありません。ですが、サーが破裂の余波に巻き込まれて、ただでは済まないと思われます。』
「ジャケットの強化、どのぐらいまで行ける?」
『どうにかしましょう。ですが、カートリッジが六発では不足だと思われます。』
「ありったけ突っ込もう! みんな! 少しだけでいいから、発射を遅らせて!!」
バルディッシュとヴォルケンリッターが了解の意を示したところで、魔力刃を消してありったけのカートリッジを撃発する。リロードをしている間に、ヴィータがギガントで頭を殴り、呼吸のタイミングをわずかにずらす。ヴィータが離脱したところで、ようやく準備が終わった闇の書の砲撃、その二発目を叩きこむシャマル。二発目の砲撃は、古代龍のチャージを大幅に遅らせることに成功する。
その間に、ようやく残り二つあったスピードローダの分も合わせて、計十八発のカートリッジ撃発を終えたフェイトは、今までよりはるかに長く、高密度にザンバーを展開する。そして、さんざん遅らせながらも、結局阻止できなかった古代龍の砲撃に合わせて、二百メートルを超える長さのザンバーを容赦なく横に薙ぎ払う。
「ジェットザンバー!」
ちょうど口の中に出来上がった直後の魔力弾を、フェイトのザンバーが両断する。さらに、そのままの勢いで首をなぞるように切り、魔力刃が消えるまで古代龍の体を引き裂く。非殺傷設定ゆえ物理的なダメージは与えていないが、書の砲撃に勝るとも劣らないダメージを叩きだすことに成功する。何より、古代龍の魔力弾を、最大威力のまま直接相手に叩きつけられたのが大きい。
「フェイトちゃん! チャージ完了!」
「分かった! 離脱する!」
なのはの報告を受け、今のでガタが来たバルディッシュをアサルトフォームに戻し、一気に距離を取る。魔力弾の爆発と今の反動で、フェイト自身も結構なダメージを受けているらしく、バリアジャケットが微妙にきわどい感じだ。今のダメージで再び墜落した古代龍は、体勢を立て直せずにのたうちまわる。その振動で砲撃を外すと後がないと見たなのはが、最後の総仕上げのために飛び上がる。
「これが正真正銘の全力全開!」
現状、ユニゾン状態で制御できる限界ぎりぎりから半歩足を踏み外したその一撃。足元に転がった、空のマガジン六ケースが、なのはの無茶を象徴しているようだ。長時間、エクセリオンモードで本来の許容量を超える魔力を扱わされたレイジングハートが、バルディッシュ同様きしみをあげている。なのは本人も、全く被弾していないにもかかわらず、反動でバリアジャケットがなかなか悲惨な事になっている。ユニゾンなしでは、多分深刻な後遺症が残っていたであろうこと間違いなしの惨状だ。
「スターライトブレイカー!」
物理破壊設定であれば、小さな島ぐらいは平気で蒸発させるだけの威力のそれが、全長千八百メートル(計測したブレイブソウル談)の古代龍に吸い込まれていく。着弾した次の瞬間、長く巨大な咆哮をあげて体をのけぞらせ、そのまま崩れ落ちる古代龍。
「シャマル!」
「分かってるわ!」
シャマルが、ようやく沈黙した古代龍のリンカーコアを抜き取る。こうして、ヴォルケンリッター結成以来屈指の大物との対決は、小学生トリオが結構なダメージを受けながらも、どうにか致命的なダメージなしで勝利することができたのであった。