『今時間いいか?』
「問題ないけど、どうしたの?」
イギリスから日本に戻ってきた次の日の晩。唐突にクロノから通信が入った。
『なのはとフェイトの事について、少し聞きたいことがある。』
「何?」
『プレシアさんからデバイスを受け取ったらしいが、二人とも戦えるようになったのか?』
「立ち直りはしたよ。戦える、ってほどかどうかはもう少し経過を見た方がよさそうな感じ。それから、デバイスは最終調整のためのデータ取りで使ってるだけだから、まだそれほど長い時間は手元に戻ってくるわけじゃない。」
『そうか……。』
それを聞くだけのために、わざわざくそ忙しいクロノが通信を入れてくるとは思えない。何か他の用事があるのだろう。
「それで、なのはとフェイトが立ち直ったかどうかをわざわざ聞いてどうするの?」
『どうする、と言うほどの話でもないんだが、ちょっとな。』
「煮え切らないね。本当にどうしたの?」
『ああ。まだ夏休みが残っているんだったら、ごく短期になるが、こちらの空士学校で研修を受けてみないか、と誘うつもりだったんだ。』
クロノの言葉に納得する。それは確かに、戦える状態になるまで復活していなければ、あまり意味がない。
『二人とも、確かにすばらしい技量をもってはいるが、正規の訓練を受けているわけではない。いろいろ偏りもあるから、一度どこかで、短期間でもいいからきちっとした研修を受けておいてもらいたいんだ。』
多分、あの事件がなければ、元々の予定として組み込まれていたものなのだろう。予定されている日程表と講義内容、講師のプロフィールなどをどんどん転送してくる。
「まあ、なのはもフェイトも、今まで受けてたのは通信講座での座学だけだから、短期集中でも正規の研修を受けた方がいいのはいいかもしれないけど、この日程はきついかもしれない。」
『そうなのか?』
「うん。フェイト、明日編入試験なんだ。それで、今も最後のあがきとしてチェックしてる。」
夏休み終了まであと一週間。編入試験の事を聞いたフィアッセが、最後の仕上げと修了試験を二日ほど繰り上げてくれたため、時差ボケその他をきっちり解消した状態で試験に挑める。もっとも、フェイトの場合、最大の敵は自身の天然ボケなのは言うまでもない。
『そうか……。まあ、一応話をしておいてくれ。日程に関してはある程度こちらで調整しておく。』
「了解。」
この後、無事に編入試験を終えたフェイトが話を聞き、なのはを説き伏せて参加することになるが、基本的に空士学校での訓練内容は二人いわく
「大変ぬるかった。」
とのことである。ファーン・コラード校長にコテンパンに叩きのめされつつ、最後の最後で一勝をあげることができたのが、この研修の数少ない成果だったらしい。
「今日から、皆さんに新しいお友達ができます。入ってきてください。」
新学期。フェイトにとって、正真正銘の初登校。一応、管理局の訓練校やCSSで勉強している時間もあったが、一般的な意味で学校に通うのはこれが初めての経験であるフェイトは、当然のごとくがちがちに緊張していた。右手と右足が同時に出るほど緊張していた。
「今日から皆さんと一緒に勉強する、フェイト・テスタロッサさんです。海外からの転校生ですが、皆さん仲よくしてあげてくださいね。」
「フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします。」
いまだに自己紹介と言うやつに慣れていないフェイトは、がちがちに緊張したまま、おずおずと頭を下げる。その様子を苦笑がちに見ていた優喜に、夏休み直前の席替えで、後ろの席になったアリサと隣の席になったすずかが小声で声をかけてくる。
「がちがちね……。」
「ゆうくん、ちゃんとフォローしてあげてね。」
「僕ばかり出しゃばるのもどうかと思うから、学校での事はアリサとすずかにお願いしたいんだけど。」
「まあ、そこら辺は任せておきなさいって。」
などとこそこそやっていると、フェイトがすずかの反対隣りに来る。優喜となのはの間の位置だ。同じ家に住んでいるのだから、とフォローの意味を兼ねて担任がその位置に配置したのだ。因みに言うまでもないが、聖祥は男女平等の観点から、席替えは完全にランダムだ。
「優喜、なのは、よろしくね。」
「ん、よろしく。」
「勉強、一緒に頑張ろうね。」
などと微笑ましいやり取りができるのも、この日はこの時だけ。何しろ、金髪の綺麗な転校生、などという珍しい生き物が入ってきたのだ。好奇心で同級生たちが群がってくるのも当然のことだ。
「前はどこに住んでたの?」
「前に通ってた学校って、どんなところ?」
「好きな食べ物とかある?」
「どうして高町さんのおうちに住んでるの?」
などなど、怒涛の勢いでマシンガンのように質問が飛んでくる。注目を浴びるのにも質問攻めにされるのにも慣れていないフェイトは、その恐ろしい勢いと密度に怯えて、思わず逃げそうになる。その様子を見かねたアリサが、同級生達の間に割って入った。
「はいはい。フェイトが可愛い子だから気になるのは仕方ないけど、そんなに一度に質問しても答えられないでしょ? それにその子人見知りが激しいから、そんなに一気に詰めよっちゃ、怯えちゃうわよ。」
「バニングスさん、テスタロッサさんと知り合いなの?」
「ちょっと縁があって友達になってね。優喜となのはの次ぐらいには、その子と親しいつもりよ?」
アリサの言葉に、視線がアリサとすずかにも集中する。その様子に苦笑しながら、すずかが一つ頷く。
「まあ、そういうわけだから、質問は落ち着いて一つずつ、ね。」
「はーい。」
アリサの取りなしのおかげで、フェイトは苦手な状況からすこし脱出できる。まだまだ注目を集めてはいるが、詰め寄られないだけましだ。アリサに感謝の視線を送ると、苦笑しながら気にするなというジェスチャーが返ってくる。その様子を見るだけでも、フェイトとアリサが一定以上のラインで親しいことは明白だろう。
「前はどこに住んでたの?」
「アメリカの一番大きな山脈のふもとにいたんだ。場所が場所だから学校とかなくて、ずっと通信教育で勉強してたから、学校に通うのはこれが初めてなんだ。」
「好きな食べ物は?」
「翠屋さんのシュークリームは大好き。それ以外は好き嫌いは特にないかな?」
などなど、とりあえず無難に受け答えをするフェイト。時折天然ボケを発動させて、危なっかしい回答をしてアリサ達をひやひやさせることもあったが、どうにかこうにか初日の午前中は細かいトラブルはあっても大過なく切り抜ける。
「それで、うちの学校の感想は?」
「まだ何とも言えないよ。」
アリサの問いかけに、お弁当に箸をつけながら、疲れをにじませて答えるフェイト。四月に初めて高町家でご飯を食べた時には危なっかしかった箸使いも、今ではややもすると同級生の一部より綺麗に使いこなしている。性格的には天然ボケで不器用だが、スペック的にはものすごく器用な娘だ。
「ただ、休み時間の度に質問攻めだと、落ち着く暇がないのが辛い、かな。」
「まあ、せいぜい三日もすれば落ち着くだろうし、少しの間の辛抱よ。」
「だね。僕の時は三日もかからなかったし。」
もっとも、優喜の場合、フェイトのように人見知りをするわけでもなく、精神的にもずいぶん大人であることも手伝って、それほどてこずらずに質問攻めをやり過ごしたわけだが。
「勉強の方はどう?」
「漢字が難しいよ……。」
「まあ、それはもうあきらめて頑張るしかないかな?」
「うう、この先勉強についていけるか、不安だよ……。」
よその国で勉強する場合、大体の人間が真っ先に引っ掛かるのが国語であろう。御多聞に漏れず、フェイトも国語にしょっぱなから引っ掛かっていた。竜岡式詰め込み教育の成果で、小学校三年程度までの漢字は大体読めるようになっているが、書き取りがいろいろ難儀な様子で、中々前途多難である。
「フェイトの場合、社会も厄介なんじゃないかしら?」
「あー、そうだよね。」
アリサの言葉に頷くすずか。社会の内容は多岐にわたる。小学校で習う内容は基本的な地理と歴史がメインだが、海鳴の郷土史がどうのこうの言われてもフェイトに分かるはずがない。口実に使ったアメリカの地理ですら、いまいちよく分かっていないぐらいだ。
もっとも、移民の多いアメリカの場合、識字率が意外と低く、自分の住んでる州の名前ぐらいしか知らない人間も多い。とはいえ日本の場合でも、識字率こそ高水準を維持しているものの、四十七都道府県の配置となるとお手上げという人間は結構多いので、他所の国の言えないのだが。
「まあ、国語と社会が拙いのはなのはも同じだから、二人一緒にしごいてもらいなさい。折角同じ家に住んでるんだからさ。」
「とはいえ、僕も高校レベルになると、そんなに偉そうなこと言える成績じゃなかった覚えがあるよ。」
「そこはそれ、もう一度勉強しなおせばいいんじゃないかな?」
小学校レベルでは天才児の優喜でも、大学レベルとなると上の下程度である。何しろ、例の勉強法を使っても、東大に受かるほどの学力はついぞ身につかなかったのだから。
「まあ、中学ぐらいまではどうとでも出来るから、そこはがんばって家庭教師をするよ。そこから先は責任持てないけど。」
「そこから先は、自己責任でいいんじゃない?」
「私もアリサちゃんに賛成。いつまでもゆうくんに頼り切りは、ね。」
なかなか厳しい事を言ってくる非魔法少女組。とはいえ、今現在は元々ハンデを抱えている状態なので、そこを埋めてからの話になるだろう。
「それから、歴史については、あんまり学校で教わる内容は鵜呑みにしない方がいいよ。」
「そうなんだ。」
「どうして?」
優喜の妙な台詞に食いついてくる魔法少女組。フェイトはともかく、なのはがこういう反応を示すあたりは苦笑するしかない。
「どこの国もそうだけど、大体学校で教える歴史って言うのは、自分の国に都合がいいように解釈してることが多い。日本の場合は戦争に負けてアメリカに占領されてた都合上、アメリカにとって都合のいいようにこじつけたものが多いし、中国や韓国にかかわる話は、嘘を教えてる部分も結構ある。それに聖祥はどうか知らないけど、第二次世界大戦前後の話って、ほとんど授業をやらない学校も多いんだ。」
「第二次世界大戦?」
「六十年ほど前にあった、世界中を巻き込んだ戦争。現時点では、核兵器が使われた最初で最後の戦争でもある、かな? まあ、そのうち習う、はず。」
優喜のアバウトな言い方に苦笑するアリサとすずか。第二次世界大戦関係は、学校教育以外の事でも、いまだにあれこれもめている内容である。そんなデリケートな部分を例に出されても困る、と言うのが読書家で情報通の二人の認識だ。
「まあ、明後日は音楽だから、アンタ達の得意分野でしょ?」
「フェイトちゃん、また注目を集めるかもね。」
「それは困るよ……。」
すずかの言葉に心底困った顔をするフェイト。残念ながらフェイトの願いもむなしく、夏休みの間に叩きこまれたクリステラ魂は歌で手抜きを許さず、思わずなのはと二人で思いっきり歌ってしまって、クラスだけでなく学校中の注目を集める羽目になってしまうのであった。
「高町、テスタロッサ。」
「シグナム?」
「どうしたの、シグナムさん?」
「これを頼むのは心苦しいのだが……。」
「なに?」
放課後。士官学校での研修で得たデータをもとに、ようやく最終調整を終えたデバイスを受け取りに来たなのはとフェイトは、何事かの相談に来ていたらしいシグナムと鉢合わせした。
「先に聞いておきたいのだが、二人はもう、戦えるのか?」
「自信はないけど……。」
「魔法を使うのも怖い、って言うのはなくなったよ。」
「そうか……。」
なのはとフェイトの返事に、かえって表情が暗くなるシグナム。
「シグナム、そんな顔して本当にどうしたの?」
「いや、むしろ戦えないと言う返事を期待していた。あんなことがあった以上、平和な世界で暮らせる人間が、こちら側に首を突っ込まなくてもいいと思っていたんだが……。」
「そこは気にしなくていいよ。多分、どうあがいたところで、私達が普通の暮らしをするのは無理だと思うから。」
フェイトの言葉は、高位魔導師の立場を的確に言い表していた。プレシアのように高位魔導師であっても前線に出ない人材も少なくはないが、それとて魔法が一切関わらない仕事をしているわけではない。高位魔導師でなければできない技術開発なども厳然としてあり、その大半が軍需か軍事転用可能な民生品と言ったラインだ。よほど大きな組織のバックアップでもなければ、高位魔導師が魔法の関わらない平和な仕事につくのは、身の安全の問題で難しい。
職業選択の自由だなんだをさえずることができる国は、実のところ地球上ですらそれほど多くはない。ましてや、次元世界の安全の基幹を握っている魔法と言う技能、その才能が突出している人間をレジ打ちのアルバイトなどに回せるような余裕は、どこの次元世界にもない。
結果、なのはのように魔法技術がほぼ無いに等しい管理外世界に生まれた突然変異種でもなければ、高レベルの魔導師は生まれた時から事実上、その人生は決まっていると言える。犯罪者になりたくなければ、公的機関でこき使われるか、大企業でこき使われながら飼い殺されるしかない。
「結局、あの時のことは、私達が甘かったんだと思う。」
「いや、テスタロッサ。あれは普通に作戦自体がおかしいぞ。」
ヴィータの例を見るまでもなく、シグナム達は少年兵を忌避するような感覚は持っていない。だがそれと、フォローする余力がある状況で、初陣の少年兵を単独で難易度の高い作戦に、それも情報なしで送り込むことをよしとするのは別問題だ。
「それで、シグナムさんは一体私達になにを頼みたいの?」
「……ああ。蒐集の進みが悪くてな。二人に手伝ってもらいたいんだ。」
「私達のリンカーコアが必要なの?」
「いや。今、管理局の許可のもと、新規に発見された独自の生態系を持つ無人世界で、調査も兼ねて大型の魔獣を相手に蒐集を行っているのだが、これが手ごわくてな。」
シグナムの話によると、管理局員や聖王教会からの蒐集は大した成果が上がらなかったらしい。それもそのはずで、大半の局員や教会騎士は、魔力量自体は多くても十ページ前後で、しかもどちらの組織も、ローテーションの都合で、多い時でもせいぜい週に二人ぐらいしか蒐集させてもらえなかった。人材難の上、一度収集するとなのは達のような回復力の高い子供でも、回復に丸一日、安定するまでにさらに二日程度はかかるのだ。一度に何人も休ませる余裕はない。
その上、一度蒐集した人間からは、二度蒐集できない。結果として、なのは達が復帰するまでに、管理局員からは百八十ページ程度しか集まらなかった。その後、許可を取って地球上の人間以外の生き物から、悪影響が出ない範囲でかき集めたのだが、それでもがんばって百ページ程度しか集まらなかったらしい。ぶっちゃけると、クロノやユーノより多いカエルやフナなどが合計で六匹いただけで、後は居ても数行程度の生き物ばかりだった。
結局、管理局からの要請にしたがい、無人世界の魔獣を殺さないように仕留めて蒐集しているのだが、これがまた厄介なのだ。何しろ、その世界のリンカーコア持ちは最小でも全長五メートル前後、平均が五十メートル台と言う洒落にならないサイズで、時折二百メートルを平気で超えるものや、千五百メートルと言う規格外が襲いかかってくるのだ。
魔力量は五十メートルクラスで三十、百で五十、千五百ともなると余裕で二百以上は埋まるのだが、仕留めるために書の力を借りることも多く、大体の日がトントンかやや黒字程度、場合によっては普通に赤字になるレベルである。因みに、千五百はまだ一度しかやり合っていないが、書の魔法を五発程度撃たされたために、余裕で大赤字だ。
「……なんだか、そこまで極端だと、全然ピンとこないんですけど……。」
「私たちも、真龍すら下手をすればぬるい世界があるとは思わなかったぞ。」
「真龍?」
「知恵を持つ龍族としては、頂点に立つ生き物だ。魔力量だけなら多分、あの世界の連中を余裕で凌駕するだろうな。」
シグナムの言葉に、世界の広さを思い知る二人。せいぜい人間レベルでいくら強くても、その小賢しさを鼻で笑うような生き物などいくらでもいる、ということだろう。
「正直に言うと、だ。攻撃を防ぐのはそれほど難しくはない。連中はサイズがサイズだけに、攻撃そのものはひどく大味だ。破壊力はシャレにならないが、直撃を受けないようにするのはそれほど難しくはない。」
「えっと、それじゃあ、私たちの手を借りたいのはどうして?」
「単純な話、火力が足りない。とにかくタフな連中でな。何しろ、五十メートルクラスでさえ、こちらの最大火力を五、六発叩き込まねば沈まない。千五百ともなると、絶望的な生命力をしている。そして、事実上千五百クラスに多少とはいえまともにダメージが入るのは、私の最大火力のシュツルムファルケンと、ヴィータの最大火力であるギガントシュラーク、あとは書のページを食いつぶしての大規模砲撃だけだ。」
「その言葉通りだと、なのははともかく、私の攻撃力じゃ全然足りないんじゃないかな?」
フェイトの言葉に、首を左右に振るシグナム。確かにガトリングランサーやホーミングランサーは頼りにならないだろうが、サンダーレイジやサンダースマッシャーなら、かすり傷程度とはいえ十分ダメージが入るレベルだ。同じ威力でも、斬撃と砲撃では、大規模な目標に対しては効果が全然違う。
「私達の手札には、大規模な目標に対してダメージを入れられるものが乏しい。資料で見せてもらったが、高町のスターライトブレイカーなら、チャージ次第では十分、千五百でも一撃で沈められる。それに、テスタロッサの攻撃は手数が多い上に、電撃特有の付加効果もある。あまり危険な事に誘いたくはないが、手を貸してくれると非常に助かる。」
シグナムの言葉に、どうしようかと顔を見合わせるなのはとフェイト。
「なんだか、そういうのって優喜君の専門分野のような気がする。」
「だよね。母さんの体を治した時以外に、優喜が全力でそういう事をしたところって、見たことないよね。」
「竜岡か。あいつはむしろ私達の側じゃないのか?」
シグナムの甘い認識に、思わず苦笑が漏れるなのはとフェイト。普段加減した発勁で内側にダメージを徹すやり方しかしていないため、致傷力は高いが攻撃力自体は大したことがないイメージが染みついているが、実のところ素手でなのはとユーノのラウンドシールドをぶち抜いた揚句、内側にある岩を砕くぐらいの芸は普通にやってのける。その火力をそのまま内部に浸透させた揚句、波紋のように反響させて増幅するのだから、大規模破壊はともかく、単体に対する致傷力はサイズに関係なくメンバー最強だろう。
「まあ、どっちにしても手が足りないんだったら、優喜君も誘った方がいいかも。」
「……そうだな。一人増えれば、それだけ攻撃が分散して身を守るのも容易くなるし、あいつの規格外さなら何かあっても問題ないだろう。」
シグナムが納得して見せたのを見て、小さく苦笑する。
「それで、お前たちはどうする?」
「どうしようか?」
「実物を見てみない事には、何とも言えないよ……。」
などとためらっていると、
「フェイト、なのは、手伝ってあげなさい。」
待機状態のデバイスを持ったプレシアが、入ってくるなりそんな事を言ってのける。
「母さん?」
「シグナム、資料は見せてもらったわ。千五百はともかく、百前後の連中は、集団戦での連携と新型デバイスに慣れるためにちょうどいいぐらいの相手ね。」
プレシアの言葉に絶句するなのはとフェイト。恐竜みたいなサイズの生き物が、デバイスに慣れるための訓練にちょうどいい?
「そもそも、今回の任務はヴォルケンリッターが主体だし、時間が合えば、という前提条件とはいえ、優喜が行っても問題ないのよ? その上で、貴方達はこのプレシア・テスタロッサの最高傑作を持っていく。何を恐れる必要があるのかしら?」
「百メートル以上の生き物と戦うのって、普通に怖いと思うんだけど……。」
ジュエルシードの暴走体ですら、大きくてもせいぜい十メートル台だったのだ。その十倍以上ともなると、想像もつかない。どこになにが潜んでいてもおかしくない海の中ならまだしも、陸上の生き物に百メートルクラスのものなど、地球にはいない。
「それに、お手伝いはいいけど、学校も塾も宿題もあるから、そんなに沢山は手伝えないと思う。」
「そこは重々承知している。手が空いている時間だけで構わない。それに、私達の食事の事もあるから、出来るだけ夕飯の時間には戻れるようにする。管理局の方からも報酬が出るように掛けあおう。だから頼む。」
そこまで頼まれてしまっては、否と言う返事は返しづらい。ある意味リハビリにちょうどいいかもしれないということもあり、不承不承出はあるが、首を縦に振るなのはとフェイト。
「無理を言ってすまない。助かる。では、都合がついたら連絡をしてくれ。私はアースラまで行って、報酬の件について掛けあってくる。」
そう言って、二人の返事を待たずに時の庭園の転送装置まで移動する。そのあわただしさに顔を見合わせていると、プレシアが声をかけてくる。
「それじゃあ、レイジングハートとバルディッシュの変更点を説明するわ。」
そう言って、二人に待機状態のレイジングハートとバルディッシュを渡す。
「まず、最大の違いは、ジュエルシードを組み込んだことによるユニゾンシステムね。」
「じゅ、ジュエルシードを組み込んだ、って……。」
「母さん、それ大丈夫なの?」
「私が、そうそう簡単に暴走させると思ってるの? ちゃんと出力リミッターもかけてあるし、何度もテストをして出力の安定を確認してあるわ。」
怖い事を平気で言うプレシアに、改めて恐ろしい人を敵に回しかけていた事を理解するなのは。自分の母親のマッドさ加減に声も出ないフェイト。
「そのついでに、カートリッジシステムとフルドライブシステムも組み込んだけど、どっちも負荷が大きいから、体が育ち終わるまでは、ユニゾンなしで起動できないようにロックをかけてあるの。あまりいいものじゃないから、ユニゾンしてても出来るだけ使わないようにしなさい。」
「カートリッジシステムって、シグナム達が使ってる、ベルカ式のシステムだよね?」
「そうよ。」
「ヴィータちゃんも使ってるけど、そんなに負荷が大きいんですか?」
「ベルカ人の魔導師の大半は、体質的にカートリッジシステム特有の負荷に強いのよ。そもそも、あのシステムの負荷は、集束に比べると肉体側の負担が大きくて制御側の負担が軽いから、体を鍛えればある程度どうにかなる種類のものだし。」
それが、ベルカ式が近接に特化した原因のようなものだ。さらに言うなれば、シャマルがカートリッジを使わないのは、攻撃以外には使いにくい性質上、補助魔法メインの人間には使いどころがないからである。
「使っちゃまずいんだったら、組み込まなきゃよかったのに。」
「その通りなんだけど、ね。」
フェイトの遠慮のない指摘を苦笑しながら肯定し、ため息をひとつついて理由を話す。
「その子たちが、カートリッジシステムを組み込めってうるさくてね。何をどうやってもエラーを吐き出すものだから、根負けしてつけたのよ。」
「じゃあ、フルドライブも?」
「そっちは、報告書との整合性を取るためね。アリシアの補助を、試験的に用意したフルドライブモードの効果ってことにしたから、言い訳としてつけておく必要があったの。」
要するに、大人の事情である。まっとうな神経をしたデバイスマイスターが見た日には、言い訳のためにこんな高度なシステムをついでで組み込むプレシアの技術と神経に、めまいがする事請け合いだ。まあそもそも、自分の娘のデバイスに、次元震を起こしかねないロストロギアを組み込む時点で、まともなデバイスマイスターなら卒倒しかねない話だが。
「それで、いろいろ変わったから、名前もちょっとだけ変わったの。」
「どんなふうに?」
「バルディッシュ・アサルトとレイジングハート・エクセリオンよ。呼びかけるときはともかく、起動のキーワードはそっちになるから。」
「うん。」
「分かりました。」
そのあとも、追加機能についていくつか講義を受け、各種機能の実践テストと最後の微調整を済ませてこの日の用事は終わった。
「……この情報は、ドクターに渡してしまっていいのね?」
「うん。」
「……この間の聖王の遺伝子についてもそうだけど、ドクターの思惑通りに進めてしまっていいの?」
「逆に、今の段階で阻止しちゃまずいんだ。いきなり手を切ったりしたら怪しまれるし、プレシアさんにせよ君の親にせよ、ああいうマッドな人たちって、下手に行動を阻止したら何やらかすか分かんないからね。」
優喜の言葉に、妙に納得してしまうドゥーエ。ジェイル・スカリエッティに関しては、気分が乗っている研究を中断させた場合、と但し書きがつくが、優喜の言うようにいきなり行動を潰した結果、碌な事をしなかった前科が山ほどある。彼が広域指定犯罪者なのも、そこら辺が原因の一端である。
「それで、貴方は何をしたいのかしら?」
「これと言って、大それたことは考えてないよ。」
「本当に?」
「別に、次元世界の平和だの正義だのに興味はないし、お金はあるに越したことはないと言っても限度はあるし、権力なんて持ったら碌な事にならない。せいぜい、身内が例の件みたいに理不尽なリスクを背負わされなければ、それ以上は望まないよ。」
言ってることは小市民的だが、実行するとなると非常に大それたことになる事柄を告げる優喜。
「いろんな人間を見てきたけど、あなたほどの欲張りはそうはいないわ。」
「もともと手の届く範囲は知れてるんだ。せめてその範囲ぐらいは欲張っても、ばちは当たらないんじゃない?」
「どうせなら、世界平和だとか最大幸福社会の実現とか、大きな理想を掲げたらどう?」
「小学生になにを求めてるんだか。第一、平和なんてものは身内のついでに守るものだし、幸せかどうかなんて、そう思い込めるかどうかだけの話だ。そんなスローガンにもなりはしない物のために、これ以上面倒を抱えたくない。」
自分勝手で自己中心的な優喜の発言に、まったくもってやりにくいガキだと苦笑するしかないドゥーエ。このジャイアンに逆らう手段の無いノビ太君なドゥーエに出来ることは、こいつの面倒な指示を、出来るだけ手を抜いて完了できるように頭を絞ることだけだ。
ぶっちゃけ、ドクターの指示を淡々とこなしている方が、はるかに頭を使わずに済む。何しろ、ドクターの指示で相手にする人間は、九割がたは付け入る隙がある。その上、こいつの指示をこなすということは、マッドな生みの親に二重スパイをやっている事を悟られないようにすると言う、無駄に難易度が高く、やたらとリスクの大きい行動を強いられるのだ。そして、ばれたが最後、いろんな意味で無事では済まない。
かといって、裏切ってドクターに全部ぶちまけたところで、優喜にその事を悟られずにスパイを続けることができるとは思えない。今まで、ドクター相手でさえ通じた詐術が、こいつにはどうしたことか通用しない。完璧に平常心でついた嘘を、あっさり見抜かれてしまう。
「それで、いろいろ頑張ってくれてるから、もの以外でご褒美を何か、と思ってるけど。」
「だったら、私を解放してくれると非常にありがたいんだけど。」
「それは駄目。」
「でしょうね……。」
優喜の返事に、ため息を漏らすドゥーエ。Sな彼女としては、虐げられているだけの現状からとっとと脱出して、思う存分裏からいろんな人間をいたぶりたいのだが、多分こいつがいなくならない限り、そんな日は永久に訪れないだろう。
「正直疲れがたまってるから、たまには何も考えずに休みたいものね。」
「さすがにまだ、そんな暇をあげるわけにはいかないけど、疲れが取れればいいんだったらどうとでも出来るよ。」
そう言って肩に触れようとする優喜から、思わず距離を取るドゥーエ。最初に籠絡された時に加え、二度ほど反逆を試みた時のトラウマが残っているのだ。
「別に逃げなくても大丈夫だって。」
「今まで何やってきたのか、自覚ある?」
「逃げようとするから悪いんだって。」
そういいながら、あっさりドゥーエの動きを封じ込めて、当初の予定通り肩に手を置く。次の瞬間、ドゥーエの全身を表現できない快感がつきぬける。
「あ。あ、ふぁ。ああああああああああああ。」
やたら色っぽい声で悶えるドゥーエに、ツボを間違えたかな? と心配になる優喜。肉体年齢の問題もあって、性欲の類がないので妙な気分になることはないが、何とも気まずい感じだ。
「ちょ、ちょっと優喜……。」
「ごめん、ツボ間違えてた?」
「た、確かに体の疲れは消えたけど……、別の意味でなんだかピンチな感じになったじゃない……。」
「悪いけど、さすがにそこまで責任は取れない。っと、そろそろ戻んないと。ブレイブソウル、お願い。」
ドゥーエとの話の時には空気を読んで休眠状態に入っているブレイブソウルが、起動するなりあきれた声で優喜に突っ込む。
「友よ、さすがにこのスパイの扱いが何重かの意味でひどすぎる気がするんだが?」
「え~? ちゃんとご褒美でリクエスト通り疲労回復をやったんだけど?」
「あんた絶対わかってて余計なオプションつけてるでしょ!?」
「そんな、個人の体質に絡んでそうなところまで気にしてる訳ないじゃない。」
優喜としては本心からそう言っているのだが、日ごろの行いのせいでこの場の誰にも信じてもらえない。
「っと、本気でまずい。ブレイブソウル、転送お願い。」
冗談抜きで時間がない優喜は、ドゥーエをさっくり放置してブレイブソウルに転送をせかす。
「……スパイよ、強く生きろ。」
「ちょっと! せめて入れたスイッチを切ってから!!」
ドゥーエの抗議もむなしく、優喜達は彼女を全力で放置プレイして立ち去る。その後ドゥーエは妙なスイッチが入って火照った体を持て余しながら隠れ家に戻り、その火照りを抑えるために余計に疲れる羽目になるのであった。
「フェイトちゃんどうしたん、難しい顔して。」
「うん、ちょっとね。」
始業式の翌日。闇の書の侵食度合いのチェックに来ていたはやてが、お茶を手にため息をつくフェイトを見咎めて問う。
「悩んでることがあるんやったら言うてみ? 話聞くぐらいは出来るで?」
「うん。ありがとう。」
はやてに礼を言い、少し考え込んでから、正直に話すことにする。
「えっとね。昨日受け取ったデバイスで、さっきシグナム達と模擬戦をやったんだけど……。」
さすがに、海の物とも山の物とも知れない改造デバイスを持って、いきなり何十メートルと言うサイズの獣を相手にどつきあいをするのは、いかになのはとフェイトがずば抜けた実力を持っていたとしても危なっかしい。そんな訳で、シグナムとヴィータ相手に、一対一、及びペアでの模擬戦をやったのだが……。
「ものの見事にぼろ負けしちゃって。」
「あ~、そらしゃあないわ。なのはちゃんもフェイトちゃんも、戦闘訓練そのものはずっと休んどったんやろ?」
「うん。だけど、せっかくパワーアップしたデバイスをもらったのに、出だしからこれで大丈夫なのかな、って……。」
フェイトの言葉に、どうアドバイスしたものかと悩むはやて。何しろ、はやて自身は戦闘に関しては門外漢だ。一般論は言えても下手なアドバイスは出来ない。
「……まあ、今回の模擬戦の理由って、実戦でそうなったらまずいから、やん?」
「そうなんだけど、ね。」
「まずは、少しでも新しいデバイスの使い方に慣れるところからスタートするしかないんちゃう?」
「うん。ただ、それでもシグナム達に勝てるイメージがわかなくて……。」
フェイトの言葉に、あー、としか言えないはやて。この場に優喜か当人達かがいれば、あまりに自身を過小評価しているフェイトにいろいろと突っ込みを入れていたところだろうが、残念ながら居るのは次元が違いすぎて凄さが分からないはやてだ。下手な慰めは逆効果になりかねない。
「まあ、アニメでも新型ロボットに乗り換えた直後って、必ずしもパワーアップするわけやないし。それに、新型になってから特訓で必殺技を作る、いう例もあるし。」
「必殺技、か……。」
考えなくもなかったフェイトだが、師匠である優喜が、現状その手の物に手を出すことに否定的だ。基礎もできておらず、今使えるものの練度も完璧とは言い難いのに、新必殺技なんてもってのほかだ、と言う理由には、フェイトも反論する気はない。
「まあ、必殺技に限らず、せっかくデバイス新しくなったんやから、バリアジャケットをリニューアルするとか、そういう感じで強化するのもありやと思うで?」
「バリアジャケットの強化、か……。でも、元々私は防御系は苦手だし、下手にジャケットを分厚くすると、重くなってスピードが落ちて逆効果だし、かといってこれ以上薄くするのも……。」
フェイトの、ジャケットを薄くすると言う言葉にピンとくるはやて。思いついたことを言ってみることにする。
「フェイトちゃん、確か優喜君から防御力強化の指輪、貰っとったやんな?」
「うん。」
「ほな、ジャケットを薄くしてもええんちゃう?」
「……それはいくらなんでも無謀だよ。優喜の指輪だけしかない状態だと、なのはの弾幕でも落とされかねない。」
さすがに無茶か、とフェイトの返事で確認するはやて。だが、別段最初から最後まで薄くする必要はないのだ。
「それやったら、アーマーパージなんかどう?」
「アーマーパージ?」
「うん。必要な時だけパーツを外して軽量化するんや。バリアジャケットは、魔力さえあればいくらでも作りかえられるんやろ?」
「うん。……そっか、それなら……。」
「軽量化のリスクは、最小限に抑えられるで。」
はやての言葉に、希望を見出したフェイト。そうなってくると、パージするパーツとパージ後のデザインを考えなければいけない。
「パージを前提に、ちょっとバリアジャケットをいじってみる。」
「それやったらフェイトちゃん、パージ後はこうしたらええんちゃうかな、って言うんがあるんやけど。」
そこでアドバイスを止めておけばいいのに、余計な事を思い付いて余計な入れ知恵をしようとするはやて。
「ちょっとまってな。」
「あれ? ここ、携帯電話使えるんだ。」
「まあ、通信ユニットを経由する必要はあるけどな。」
因みに、その通信ユニットはリニスが勝手に作ったものだ。携帯電話会社も、さすがに異世界人にそんな真似をされているとは思うまい。
「……お、あったあった。これこれ。」
携帯電話のインターネット機能を使い、優喜達と知り合う前にいろいろアニメや動画を漁っていた時に見た、自分達が生まれるよりはるか昔の少女漫画原作のアニメを引っ張り出す。フェイトに見せたいのは、そのエンディング映像だ。
「これやったら、相手の判断ミスを誘う効果もばっちりやで。」
「……さすがに、これをやったらただの変態なんじゃ……。」
「大丈夫大丈夫。私らにわいせつ物陳列罪は適用されへん。それに、こういう恰好は、男の子結構喜ぶって聞いたことあるで。せやから、優喜君も喜ぶはずや。」
「……本当に、優喜が喜ぶ?」
思わぬ言葉で釣れたフェイトに、内心でやばいと思いつつもとりあえず頷いておくはやて。
「だったら、これも検討しておくよ。はやて、ありがとう。」
「期待してるで。」
優喜達の反応を期待しながら、その場を立ち去るフェイトを見送るはやて。次の日はトレーニングルームで新フォームのための秘密特訓を行い、さらにその翌日に再戦を申し込むフェイト。
「何やら昨日は一生懸命トレーニングしてたみたいだけど、言ってくれたらアドバイスぐらいしたのに。」
「いろいろ恥ずかしかったから、こっそりやりたかったんだ。」
「一体何をやらかしたのやら……。」
フェイトの言葉に一抹の不安を覚えながらも、審判代わりにシグナムとの対戦を見守ることにする優喜。戦闘開始から数分間、前回同様ユニゾンもカートリッジも新技も無しで戦闘を続ける。前回より動きの切れが良くなっているフェイトに苦戦しながら、徐々に追い詰めていくシグナム。
「やはり強いな、テスタロッサ! 将来が楽しみだ!」
「簡単に追いつめられてるから、褒められても信用できない!」
そういいながら力技で距離を取り、ついに新フォームを披露するフェイト。
「バルディッシュ! ソニックフォーム!」
フェイトが何かをやろうとしていると判断し、強引に距離をつめるシグナム。間一髪のところでソニックフォームへのフォームチェンジが発動し、パージしたパーツの衝撃でシグナムを弾き飛ばす。
「アーマーパージだと!? あの薄い装甲を更に削る……、と……、は……?」
アーマーパージにより吹き飛ばされたシグナムは、衝撃が抜けた後、思わず我が目を疑う。それだけ、フェイトの格好がひどかったのだ。
「……フェイト、その格好は正気?」
優喜が、あきれを含んだ声で突っ込みを入れる。フェイトは、なんとマントの下のジャケットをすべてパージしたのだ。はやてが見せた八十年代に放送された少女マンガ原作のアニメ、そのエンディングと同じく、マントの下は一糸纏わぬ姿である。
「……ネタ振っといて何やけど、本気でやるとは思わへんかったわ。」
「……おかしいと思ったら、はやてが原因か。」
唖然としているシグナムに対し、攻撃に移らず動きが止まっているフェイト。やがて
「……恥ずかしい……。」
やはり羞恥心は克服できなかったらしく、マントで前を隠して地面にへたり込む。
「……テスタロッサ、やる前から分からなかったのか?」
「恥ずかしいだろうとは思ったけど……、優喜が喜ぶかもって言われて……。」
「はやてはそんなに僕を変態だと思ってたんだ……。」
「え~? 普通男の子って女の子の裸見て喜ぶもんやないん?」
はやての言葉に小さくため息をつくと、ハリセンで一発はやての頭をしばく。
「あいた!」
「あのさ、はやて。見た目どおりの年のころで、同い年の女の子の裸見て喜ぶやつはそう居ないって。」
「中身の年齢やったら?」
「残念ながら、僕の好みは最低限第二次性徴が終わってるぐらい。」
優喜の台詞に、はやてに騙されて先走って、思いっきり空回りしたことを思い知るフェイト。
「うう……。はやて、ひどい……。」
「いや、喜ぶと断言はしてへんやん。」
「主はやて、友人を変態扱いするのは感心しません。」
シグナムにまで責められて、さすがに身の置き場がなくなるはやて。
「いやさ、フェイト。それ以前の問題として、ユニゾンしたらマントが翼に化けること忘れてない?」
「あ……。」
つまり、現状のソニックフォームは、ユニゾン状態だと完全に全裸になるのだ。装甲が薄いとかそういう次元ではない。天使の翼を生やした全裸の女性、というのはアニメや漫画、ゲームのイベントシーン、小説の挿絵などではよくある演出だが、さすがに現実でやるとただの変態である。しかも、ユニゾンすると体は大人のそれになるのだ。
「フェイト、帰ったら一緒に落とす装甲パーツの検討しようか。」
「……うん……。」
優喜の提案に、顔を真っ赤にしたまま一つ頷くフェイト。大型モンスター相手の実戦前に余計な問題を発生させずに済み、一つため息をつく優喜たち。この後、妙なネタでフェイトをおかしな方向に誘導したはやては、フェイトを除くテスタロッサ一家から、きついお灸をすえられることになるのであった。