ヴォルケンリッターが顕現してから初めての日曜日。
「頼むから、今日は大人しくしててよ……。」
「主はやてに危険がなければ、大人しくしているさ。」
「昨日、危機でも何でもない事に散々大げさに反応してるから、一切合財信用できない。」
結局、最低限の服と食器ぐらいしか買えなかったこともあり、もう一度、朝から買い出しに出ることになった。昨日の様子からいろいろ不安だから、と、アリサ達も一緒だ。
「優喜がいないのが、これだけ不安に感じることもそうはないわね……。」
「あ、あはは。アリサちゃん、大丈夫だから、ね?」
「すずかに保証してもらってもねえ……。」
アリサのどよんとした様子に苦笑するしかないなのはとすずか。昨日散々突っ込んだので少しは大人しくなるかもしれないが、一日二日でそうそう考え方が変わるわけがない。
「……ん? 大道芸か?」
「お~、ほんまや。ベタなピエロの大道芸とはまた、珍しいなあ。」
「はやて、あーいうの、珍しいの?」
「海鳴みたいな地方都市やと、大道芸自体、あんまり見かけへんからなあ。しかも最近のパフォーマーは皆おしゃれになって、ああいう古典的な衣装の人はほんま減ったわ。」
はやての言葉にそう言えばそうだね、と同意するすずか。
「そういえば、ピエロ言うと確か、全身に重火器をこれでもか、言うぐらい詰め込んだ挙句に、体操選手みたいな動きでわざわざムーンサルトで三回ひねりしてから全砲門一斉掃射するんやっけ?」
「……あの芸人、そんなに物騒なのですか!?」
「ならば犠牲者が出る前に我々が!」
はやての余計なひと言にいきり立ち、人畜無害な大道芸人を始末しようと動きはじめるヴォルケンリッター。だが、彼らが行動を起こす前に……。
「洒落が通じない連中に、そういう冗談を言うな~!!」
どこからともなくハリセンを取り出し、アリサがフルスイングではやての頭を張り倒した。すぱーん! と小気味よい音があたりに響き渡り、思いっきり前につんのめるはやて。
「あいた~! アリサちゃん、今のは結構効いたで……。」
「普通のハリセンなんだから、そんなに痛くないでしょ?」
「そもそもどっからハリセンなんか取り出したん?」
「忍さんがくれた発明品よ。なんでもデバイスの待機モードを参考に、亜空間に収納してるとか何とか言ってたわね。」
アリサが台詞とともにハリセンを収納する。そのあまりの技術の無駄遣いぶりに、思わず遠い目をしてしまうなのは。
「アリサてめぇ!!」
「なんか文句ある?」
「……アタシが悪かった。」
ヴィータが食ってかかるも、再び取り出されたハリセンと、アリサの妙な眼力にビビって、思わず謝ってしまう。
「なのはちゃん、そこで他人の振りはひどいで。」
「ごめん、はやてちゃん。私はまだ芸人にはなりたくないの。」
「ひどい、ひどいでなのはちゃん! 二人で芸人の星を目指そうと誓い合ったあの夜は嘘やったん!?」
そろそろ当初の目的を忘れて暴走し始めているはやてに、いい加減話が進まないと感じたアリサが、待機モードのハリセンを再び取り出す。
「はやてちゃん。そろそろいい加減にしようね。」
ピコ、っという可愛らしい音ともに、赤いおもちゃのハンマーがはやての頭をとらえる。すずかが、控えめにはやての頭をピコピコハンマーでどついたらしい。悪乗りしておかしなことを言いだしたはやてに、再びハリセンを振りかざそうとしたアリサが、思わぬ伏兵に目を丸くする。
「すずか、アンタいつの間にそんなもの……。」
「お姉ちゃんがね、一応持って行けって。」
にっこり笑いながら、何事も無かったかのようにピコハンを収納するすずか。忍にいろいろ言ってやりたいことは出来たものの、突っ込み役が増えるのは歓迎だ。そう割り切ることにしたアリサであった。
因みにこの日は、なんだかんだで八回、ハリセンが唸りをあげた。
月曜日。
「普段するような買い物は、ここで大体は揃うで。」
スーパーみくにや。はやては普段の生活圏をヴォルケンリッターに案内していた。
「とは言うても、実は私もあんまり来たこと無いんやけどな。車椅子で買い物は結構骨やから、いつも隣のおばさんとかに頼んどったし。」
「……凄い種類の品物だ。」
「日本のスーパーは、どこもこんなもんや。」
はやての言葉に目を見張るヴォルケンリッター。ほとんど薄れかけた記憶の中にも、いろいろな市場やスーパーマーケットの類の光景は残っているが、その国で指折りの大規模な都市でもなければ、売り場面積も品ぞろえもこの半分以下なのが普通だ。
「この国は、豊かなんですね。」
「広さで言うたらちっこい国やけど、経済規模は上から数えた方が早いぐらいやし、人口もそんなに少ないわけでもないからなあ。純資産になると確か世界一やったはずやで。」
その国の経済状態と言うのは、こういう市場を見れば大体分かる。特に、食料品については、種類と品質がダイレクトにその国の生活水準を示していると言っていい。余程極端な農業国家でもなければ、食べてなくなる食品にそれほどこだわる余裕があるのは、大体において富裕層だけだからだ。
そういう視点で日本を見ると、過疎地でもなければどこにでもそれなりの規模の食品スーパーマーケットがあり、大体の場所でよほどマイナーか季節を外したもの、もしくは地域性の問題で食べない物でない限り、大抵の食材は手に入る。これは、ヴォルケンリッターが見てきた中でも指折りの豊かな国である証拠だ。
「ほな、せっかく来たんやし、ついでやから今日と明日の朝の分の食材買うて行こうか。」
「分かりました。」
てきぱきと山ほどの食材を選んでかごに入れ、ヴォルケンリッターが唖然としているのを横目にさっさと支払いを済ませる。帰り道についでに商店街の比較的よく利用する店を紹介しながら家路へ。
「ん? ヴィータ、なに見てるん?」
「あ、いや、何でもないよ、はやて。」
「あ~、これが欲しいんか。ちょっと待ってな。」
ヴィータの視線の先を見て判断し、財布の中身を確認する。ちょっと足りない。さすがに、昨日一昨日と結構な金額の買い物をしているので、貯金はともかく手元の現金は微妙な事になっている。
「ちょっとお金おろしてこなあかんなあ。明日の食材にも微妙や。」
「いいよ、はやて。」
「ええってええって。どっちにしてもお金おろさんとあかんねんし。」
そう言って銀行に向かおうとしたその時、シャマルがデバイスを展開する。
「シャマル、なにしてるん?」
「安心してください、はやてちゃん。買える値段まで値引きしてもらいますから。」
「どうやって?」
「魅了の魔法って、便利なんですよ?」
その台詞が終わるより早く、アリサからもらっていたハリセンが火を噴く。
「そういう人道にもとる真似は禁止や。ええね?」
「……は~い。」
こうして、ヴィータのお気に入りとなる兎の人形は、ちゃんと正規の手段で正規の値段で購入されるのであった。
火曜日。
「高町の兄上が、剣の達人と聞いて。」
「いきなりだな……。」
閉鎖空間限定とはいえ、なのはとフェイトが手も足も出ないと言う話を聞きつけたシグナムが、はやての許可を取って出稽古に来た。もちろん、場所を知らないのではやてと一緒だ。他のヴォルケンズは、あまり大勢で押し掛けるのも、という事で今日はお留守番だ。
「言っておくが、俺はごく普通の人間だから、現状では魔法を一撃食らったら即戦闘不能だぞ?」
「だが、その条件で高町とテスタロッサを制圧しているのだろう?」
「あいつらは、道場みたいな狭い空間での魔法の使い方がまだまだだからな。貴女はそうではないだろう?」
「まあ、そうなるな。ならば、魔法なしではどうだ?」
「それならいいだろう。とはいえ、木刀を使うから怪我でもしたらはやてちゃんに申し訳が立たない。念のため、バリアジャケットは着ておいてくれ。」
恭也の言葉にうなずき、道場に移動。レヴァンティンを起動、バリアジャケットを纏う。
「優喜、審判を頼む。」
「了解。」
宿題を切り上げた(正確には、なのはの家庭教師を切り上げた)優喜が、なのは達が観戦位置に陣取り、二人が木刀を構えたのを見て、始めの合図を送る。
「ふっ!」
「せい!!」
速攻で、素人のはやての目ではとらえきれない攻防戦が始まる。シグナムが恭也を弾き飛ばすような一撃を叩きつけたかと思えば、恭也が徹の乗った重い攻撃を四連続で放つ。その後もえげつない攻防が続き、だんだんヒートアップしていく二人とは裏腹に、無情にもシグナムの木刀が砕け散る。実戦ではともかく、同じ強度の練習用木刀の場合、衝撃が分散する二刀と攻防すべてが集中する一刀では、持ちが大幅にちがうのは仕方がないだろう。
「ちっ! レヴァンティン! カートリッジ……!」
「生身の人間に、カートリッジを使おうとしない!」
砕けた木刀を即座に投げ捨て、道場の隅に置いてあったレヴァンティンを拾い上げて、一連の流れでカートリッジを撃発しようとし、優喜にハリセンでしばかれる。痛みもダメージもない癖に、恐ろしい衝撃が頭部を襲い、思いっきりつんのめるシグナム。
「……またその武器か! 騎士甲冑を貫いた揚句、ダメージも与えずにつんのめるほどの衝撃を叩きこんでくるとは、非常識にもほどがあるぞ!」
「生身の人間にカートリッジ付きの攻撃をかちこもうとする人間が、常識を語らない。」
「……すまん。」
「まあ、そういう試合がしたいんだったら、また今度僕がつきあうからさ。」
優喜の台詞に苦笑する恭也となのは。
「因みに、この試合どっちの勝ち?」
「カートリッジ使わせた時点で、恭也さんの勝ちでしょ?」
「ああ。正直、何発か直撃をもらっているし、実戦では下手をすれば死んでいてもおかしくないからな。」
「……なんか、恭也さん凄すぎて、私やとなにがどうなったか全然やわ。」
はやての言葉に、にやりと笑って見せる恭也。しかも、シグナムが食らった攻撃はすべて徹が乗ったえぐい一撃だ。バリアジャケットを着ろと言ったくせに、着ていても意味の無い攻撃をガンガン叩き込むあたり、勝負になると非常に性格の悪い男だ。
「しかし、高町やテスタロッサが勝てないと言った理由もよく分かる。あの動きでは、単純な射撃や狙いの甘い誘導弾では、かすらせるのも厳しいだろうな。」
「うん。実際、今まで一回も攻撃を当てたことがないの。」
「それに、あの騎士甲冑を貫通してくる一撃。あれでは、騎士甲冑による防御力のアドバンテージなど、あってないようなものだ。」
「優喜君は、もっとひどい攻撃とか平気でするよ?」
「本当か? と聞きたいところだが、先ほどの動きを見ると事実なのだろうな。」
シグナムの言葉に真面目な顔で頷く恭也となのは。実際、優喜はどんな形であれ、接触すればその瞬間に発勁を叩きこんでくる。しがみついた状態で腹や太ももから発勁を叩き込むとか、漫画の世界かと言いたくなる攻撃だ。
「まあ、とりあえず試合も終わったし、おやつにしようか。」
「数が足りないと思うが、どうするんだ?」
「そう思って、はやてが来た時にデリバリー頼んでおいた。」
優喜の言葉と同時に、玄関が開く音がする。見ると、玄関のげた箱の上に、ロールケーキの入った箱が置かれている。
「全く、相変わらず無駄に手際がいいな。」
「そういうもんでしょ。」
こうして、試合の後は、穏やかにお茶会が進むのであった。
水曜日。
「……来客か?」
呼び鈴を聞きつけ、狼形態のザフィーラが、のそりと立ち上がる。現在、他のヴォルケンリッターははやてに頼まれて、商店街の方へ買い物に出かけている。はやてが留守番なのは、この後塾が始まるまでの間、アリサとすずかが顔を出す予定だからだ。
「主は……、どうやら気が付いていないようだな。」
呼びに行くかどうかを少し考え、アリサとすずかなら、中に通してから呼べばいいだろうと結論を出す。狼形態のまま、玄関に移動し、器用に鍵をあけ扉を開く。
「八神さん、お届もので……ヒィ!!」
どうやら、来客は宅配便だったらしい。面倒だな、と思いつつも、家の中に入り、印鑑を咥えて玄関に戻る。はやては足が不自由な関係上、結構通販で物を買う。なので、彼らの前で受け取りのために印鑑を押す姿を何度か見せているし、受け取りのためにどこに印鑑を置いているかは全員が知っている。
腰を抜かしている配達員に印鑑を渡すと、ちょこんと座って判を押すのを待つ。恐る恐る受け取った配達員は、さすがに狼が印鑑を押せるわけはないと変に冷静に判断し、受け取り伝票のところに印鑑を押す。恐る恐る返してきた印鑑を、間違って相手の手をかまないように慎重に咥えて受け取ると、とりあえず邪魔なので一度げた箱の上に。
「あ、ありがとうございました~!!」
ビビりながら納品書をちぎって荷物のひもにはさむと、脱兎のごとく逃げ出す配達員。一つため息をつくと、置き去りにされた荷物を加えて中に入れ、扉を閉めて鍵をかける。
「ザフィーラ、横着せんと、人間の姿で受け取りや。」
玄関でごちゃごちゃやっているのに気がついたはやてが、ようやく様子を見に来たらしい。
「……すずかとアリサだと思った。それに、良からぬことをたくらむ連中なら、この姿を見れば勝手に逃げるから、手間がかからないと思ったのだが……。」
「いや、それでも一応人間の姿で対応しいや。何ぼ何でも、犬とか狼とかが扉開けて来客に対応するってのは、いろいろ問題あるで。そうでなくてもザフィーラは体大きいんやから。」
ザフィーラの狼形態は、普通に人一人ぐらい乗れるサイズだ。さすがに牛や馬ほどあるわけではないが、犬としてはかなり大きい方に入るだろう。
「……申し訳ない。以後、気をつける。」
「頼むで。」
この後、ザフィーラは律儀に言いつけを守り、地球にいる間はきちっと人型形態で来客対応をするようになる。が、時すでに遅く、この一帯ではとある都市伝説が広まるのだが、それはまた別の話だ。
木曜日。
「なあ、はやて。あれ何やってるんだ?」
「ああ。あれはゲートボールやね。」
「ゲートボール?」
「そういうスポーツがあるねん。とはいうても、私もルールはほとんど知らへんねんけど。」
せっかくなので、少し観戦していくことに。ハンマーでボールを叩くと言うルールに惹かれてか、他の四人(と言っても、ザフィーラは狼形態だが)に比べて真剣に見入っているヴィータに気がつき、ゲームをしていたご老人が一人、声をかけてくる。
「嬢ちゃん、興味があるのかい?」
「ん? ああ。なんか面白そーだな、って思ったんだ。」
「ちょっとやってみるか?」
「ルールわかんねえぞ?」
誘われるに任せてスティックを手に取り、ルールの説明を受けて恐る恐るボールを打ってみる。
「ほうほう。」
「中々ええ筋しとるの。」
「そ、そっか?」
と、このように褒められ、新規のゲームに混ぜてもらって軽く一試合。とはいえど、身体能力は高いが所詮ルーキーのヴィータ、思う位置に球がいかず、試合慣れしたお年寄り達の搦め手からの一打に翻弄され、あまりいいところも無くゲームを終える。
「……アイゼン、セットアップ。」
「ヴィータ?」
ご老人達が見ていないところで、こっそりグラーフアイゼンを起動するヴィータ。
「やっぱ借りモンでやってもうまくいかねーのは当たり前だよな?」
「それはそうだが、そもそもルールを覚えたばかりで練習もしてないスポーツの初試合で、熟練者相手に活躍しようと言うのが虫がよすぎると思うのだが……。」
シグナムの言葉に耳をかさず、グラーフアイゼンを構えると……。
「アイゼン! カートリッジ……!」
「やめい!」
さすがヴォルケンリッターとでもいうべきか、シグナムと全く同じ行動原理で事を起こそうとする。そうなると当然結末も同じで……。
「ヴィータ! いちいちなんかあるたびにカートリッジ使おうとするんやめや!」
「だって、はやて……。」
ハリセンでしばかれた頭を押さえながら、涙目で上目遣いに言い訳が混じった抗議をしようとするヴィータ。
「言い訳せんの! 大体、ルール決まってるゲームを魔法で捻じ曲げようとするんは卑怯やで! そういうのは興醒めもええ所やから絶対あかんで!」
「分かったよ、はやて……。」
主の命令には逆らえず、しぶしぶアイゼンを待機状態に戻して、もう一度借り物のスティックで勝負を挑む。ある程度コツはつかんでいたらしく、先ほどよりは正確なコントロールでいい位置に球を転がせる。
「よしっ!」
「やっぱり嬢ちゃんは筋がええのお。」
「また一緒にプレーしましょう。」
「ああ。じっちゃん、ばっちゃん、またな!」
この日、ヴィータに新たな趣味が出来たのであった。
そして金曜日。
「ねえ、はやて。」
「ん? どうしたん?」
「ちょっと、ヴォルケンリッターを借りたいんだけど、いいかな?」
「私は特に問題あれへんから、あの子らがええって言うたら好きに連れて行って。」
いつものように軟気功ではやての体と闇の書を矯正しながら、優喜が唐突に切り出してくる。
「せやけど、いつも思うんやけど、何でわざわざ外で話すん?」
「まあ、いろいろ理由がありまして。……ん~、そうだなあ。はやても来る?」
「一緒に行ってええんやったらついていきたいんやけど、大丈夫なん?」
「まあ、そろそろはやてにも話しておいた方がいいかも、と思わなくもないんだ。ただ、ヴォルケンリッターについては、出てきてからまだ一週間だし、ちょっと早いかもしれないんだけど……。」
どうにもこうにも隠し事の多い優喜。別に自分達に不利益がかぶらないのでどうでもいいと言えばどうでもいいのだが、それなりに好奇心の類ぐらいははやても持っている。あまりあからさまにこそこそされると、必要無くても暴きたくなる。
「……なにがまだ早いんだ?」
部屋の外で壁に背中を預け、それとなく優喜を警戒していたヴィータが口をはさむ。
「さすがに、一週間じゃこっちの暮らしに馴染んでないだろうし、はやてとアリサ以外は、まだ貴方達に信用されてる気がしないし、そういう意味でちょっと早いかもなあ、とは思うんだけど……。」
「……お前がただの小僧だったら、信用してもいーんだけどな。」
「うん。その意見は実に正しい。僕だって、一緒に暮らしているわけでもない同じような生き物を、たった一週間で信用しろって言っても無理だしね。」
「……自分で言うのかよ……。」
ヴィータの言い分に苦笑を返し、とりあえずはやての治療を切り上げる。
「それと、先に言っておくけどな。」
「何?」
「別におめーらを信用してないわけじゃねえぞ。少なくとも、おめーらが悪い奴らじゃねーのは理解してるつもりだ。」
「ん。ありがとう。」
ヴィータの言葉に小さく微笑んで礼を言う。
「それで、ここじゃ言えねー話って何なんだよ。」
「ちょっと待ってよ。話すなら一度で全部済ませよう、ね。」
「ちっ。分かったよ。シグナム達よんでくる。」
「お願い。すぐにリビングに行くから。」
返事代わりに手を振ってヴィータが出ていったのを確認した後、はやての体を抱き起して車いすに乗せる。はやてに闇の書を渡し、車椅子を押してリビングへ移動する。
この後、優喜は八神家一同に全てを話し、本格的に闇の書の修復に関わらせることになるのであった。