「いたたたたた……。」
「……くぅ。」
話は少しさかのぼり、臨海公園でのジュエルシード発動より少し前のアースラの会議室。優喜に一発ずつしばかれたリンディとクロノは、太ももを押えてうめいていた。太ももなのは簡単。やりすぎても重要な臓器を痛めないからだ。それに、腕だと間違えて折りかねないが、太ももあたりならそう簡単に折れないだろう、という間違った配慮もある。
「軽く触った程度にしか見えなかったけど、そんなに痛いの?」
「……あんな動作でこんな打撃が飛んでくるなんて、反則もいいところだ……。」
「……骨の芯まで衝撃が浸透してきたわよ……。」
いまいちピンとこないエイミィ。その反応も当然だろう。何しろ見た目の上では、優喜は軽くぽんと叩いたようにしか見えないのだから。
「まあ、発勁って、もともとそういうものだし。」
「……聞くまでもないが、当然もっと強いダメージも出せるんだろう?」
「うん。同じぐらいの動作で、ありったけの内臓を一撃で壊すような真似も出来るよ。練習以外でやったこと無いけど。」
「練習で、人を殺すような真似をしたのか!?」
「練習相手は大型の魔物だったし、やらなきゃこっちが死ぬような環境だったから、大目に見てよ。」
彼にこの技能を伝授した人物について、いろいろ突っ込みたくなってくるクロノとリンディ。少なくとも、小学生を死の危険のある訓練にたたきこむな、とは言いたい。
「確かに、これなら十分に戦力になるだろう。だが、あくまでも素手で触れる距離でしか戦えないんじゃないか?」
「うん。なのはみたいに、広範囲にダメージを与えるような真似は苦手。一応、普通の飛び道具の有効射程程度の範囲なら、攻撃手段はあるにはあるけどね。」
「飛び道具まであるの……。」
「あるってだけで、なのはの足元にも及ばないレベルだよ。」
「あれと対等に撃ちあえたら、それこそ死角が思い付かない。」
クロノの言い分に苦笑する。なのはの砲撃は、威力も精度もそろそろシャレにならないところに来ている。レイジングハートがシミュレーションの仮想敵のデータを優喜や恭也、美由希にしているため、どんどん攻撃の精度が上がってきているのだ。そのうえ、普段のジョギングやら何やらの効果を高めるため、魔力による負荷までかけているのだからたまらない。
因みに、シミュレーションの仮想敵や普段の訓練時の魔力負荷は、フェイトも同じ事をしている。気功による魔力回復速度の向上が目覚ましい事もあり、少々の無理は無理とは言わなくなったのが大きいらしい。二機のデバイスは、主たちが強くなるための努力は一切惜しまないため、鍛えられている当事者たちは自覚もないまま、どんどん力量をあげていたりする。
さすがに、シミュレーションといえども、なのはやフェイトが恭也や優喜に勝てた事はないが、データが不十分な現状の彼ら相手ならば、そう遠くない日に勝率を五分ぐらいには持っていくだろう、とはレイジングハートの弁だ。しかも、バルディッシュとデータ交換をしているらしく、自身や互いの主の最新データを仮想敵に持ち出すこともあるため、二人揃って妙に戦闘スタイルに死角が無くなりつつある。
そんな事は知らないクロノだが、自分の最大火力を余裕で超える砲撃を、三点バースト出来るぐらいの速射性でぶっ放した時点で、なのは相手に撃ちあいをしても勝ち目が一切ない事を理解していたりする。
「しかし、あの砲撃を無防備に三発受けて動けるのも驚いたが、その状態で普通にこちらのバリアジャケットを抜いて見せたのも驚いた。一体、どういう体をしているんだ?」
「簡単な話。同期の同門と組み手をするときは、いつもあれより強い打撃が飛んできてたから、自然と防御力と耐久力が鍛えられたんだ。それに、これぐらいでないと、大技を撃てる体にならない。」
「……正直、理解できない話だな。何のために、そこまで鍛える必要があるんだ?」
「道楽みたいなもんだよ。単純に、これじゃ足りない世界を知ってるってだけ。」
こればかりは、口で説明しても理解してもらえないのは間違いない。フェイトの一般常識と同じで、実感しないと理解出来ない種類のものだ。
「それで、高町がずいぶんと具合が悪そうだが、どうしたんだ?」
「ジュエルシードを集めてる最中にいろいろあってね。今、人に対して砲撃を撃つのが怖い時期なんだ。」
その一言で、なのはの身になにがあったのか、おおよそのところを悟るクロノ。ただ、雰囲気や顔つきから、まだ彼女は直接手を汚した事はなさそうなのは、救いと言えば救いだろうか。
「……もしかして、人死にが?」
「なのはとフェイトはやってない。単に、僕が失敗しただけ。」
「……申し訳ない。」
「済んだ事だよ。」
優喜の一言で、全てを理解してしまうアースラトップスリー。ユーノの安否確認あたりを口実に、もっと早く介入するべきだったのではないかと考えずにはいられない。もっとも、現実問題として、この件に限っては、管理局サイドも責められるほどの失態を犯しているわけではなく、単に全てにおいて、運とか間とか呼ばれるものが悪かっただけなのだが。
「とりあえず、そこらへんの話はおいといて、これからの事を話そうか。」
「そうね。それで、今後のジュエルシードの回収について、なのだけど……。」
「まずは、今現在の進捗状況を教えてくれないかな?」
ようやく痛みが引いて立ち直ったリンディが、エイミィからデータを受け取りながら聞く。
「ジュエルシードは全部で二十一個。そのうち今朝の分を合わせて、十五個が回収済み。残り六個だけど、そろそろ地上には残ってないか、あっても一つ二つだと思う。」
回収責任者として、ユーノが代表して答える。因みに、ここら辺は意見が一致している部分だ。
「その根拠は?」
「根拠と言うか、臨海公園に落ちてたものもあったから、四分の一ぐらいは海に落ちてるんじゃないかな、って考えた程度。まあ、一番の理由は、今朝見つかるまで、一週間以上空振りだったから、探してない場所を考えたら海の中しか思いつかない、ってぐらいだけど。」
「なるほど、な。」
「因みに、これが今までジュエルシードを見つけた場所の分布。海鳴市の、それも海岸寄りに集中してるから、今朝見つけたやつより山奥に落ちたとは考え辛い、と、僕と優喜は考えてるんだけど、どう思う?」
「そうね。サーチャーを飛ばしてみないと分からないけど、残りが全部地上に落ちた可能性は低いわね。」
少なくとも、海辺に一つ落ちていたのだから、海に落ちたものがゼロであると思うのは楽観的にすぎるのは確かだ。
「ちょっと、このデータで傾向を分析してみるよ。」
「お願いね、エイミィ。」
「任せてください。」
とりあえず、落ちているとしたらどの海域が多そうか、という分析をエイミィに任せ、回収そのものの役割分担や、優喜達の待遇などについて話をする事にしたリンディ。
「それで、ここからは、私達がメインで回収を勧めることになるから、あなた達には基本的には手を引いてもらうことになると思うのだけど。」
「こちらとしては、最初からそのつもりです。ただ、あなた方が回収を終える前に遭遇したものに関しては、自衛ということで勝手に蹴りをつけますが。」
「……最後まで関わらせろ、と食い下がってくるかと思ったけど、変に素直ね。」
「言ったでしょう? 最初から自分達が無茶をしてる自覚ぐらいはあるって。もともと、そちらが介入してきたら、とっとと仕事を押し付けて安全圏に下がるつもりだったんですよ。」
何しろ、開始直後は素質だけで行動しているなのはに攻撃力皆無のユーノ、体が子供になって感覚の齟齬が大きくなっていた優喜の三人だ。平均的に大した事がなかったからどうにかはなったが、正直手を引けるならとっとと手を引きたかったのだ。
「なるほどね。それじゃ、もし今、ジュエルシードの発動を確認したら、どうするの?」
「運悪くフェイトが巻き込まれてたら助けには行きますが、それ以外はお任せします。」
「……分かったわ。取りあえず、回収したジュエルシードの扱いについては、後六つの回収が終わってからにしましょう。取りあえず、今は、あなた達が持っている分を、こちらで預からせてもらっていいかしら?」
「お願いします。」
そう言って、取りあえずレイジングハートに保管している分である八個を取り出そうとしたとき、アースラにアラームが響き渡った。
『第九十七管理外世界において強大な魔力反応発生! ジュエルシードが発動したものと思われます!』
「映像を回して!」
『了解!』
映された映像を見て、思わず絶句するしかない一同。何しろ、真昼間の臨海公園で、いつ次元震が起こってもおかしくないほどの魔力がばら撒かれているのだ。ちなみに、これほど迅速に映像を入手できたのは、エイミィがもらったデータを元に、すぐに海鳴全域にサーチャーを転送させたからだ。
「フェイトちゃん!?」
「また、間が悪い……。いや、今回の場合は運がいい、といった方がいいのかな?」
「結界の発動を確認!」
「え? アリサにすずか!?」
見ると、結界内に見知った二人の少女が。その後ろには、見知らぬ老人も居る。
「多分、攻撃が飛んできたから、外に退避させられなかったのね……。」
「ますます、フェイトが居て助かったわけか……。」
「優喜、そんなのんきな事を言ってる場合じゃ!」
「だね。リンディさん、早く現地に転送を!」
優喜の言葉を受けて転送準備の指示を出そうとしたとき、武装局員の一人から異を唱える声が上がる。
『艦長、意見を申し上げます。』
「何かしら?」
『今回のロストロギアの暴走、彼女が起こした可能性があります。犯罪者である可能性が高い以上、消耗するのを待ってから突入すべきかと愚考しますが、いかがでしょうか?』
年配でベテランの武装局員の言葉に、一瞬詰まる。意見を受け入れるかどうかで悩んだのではない。明らかに優先順位を間違えている局員に、どういえばいいのかを悩んだのだ。
これが、あの場にいるのがフェイト一人ならその考え方も問題ない。だが、無関係な一般人が巻き込まれ、しかも彼女が敗れた場合結界が解けて、更に大量の被害者を出す可能性もある。こんな真昼間に発動したロストロギアをほったらかしにして犯罪者の逮捕を優先させるなど、自ら管理局の理念を否定しているようなものだ。
『優喜! なのは!』
リンディが口を開く前に、レイジングハートを通じてフェイトから通信が入る。
『海にあったらしいジュエルシードが、いきなり暴走した! 私とアルフだけじゃ抑えきれない! 結界を張るのが遅れて、中に何人か取り残された!!』
「こっちでも確認してる!」
『逃げておいてこんな事を頼めた義理じゃないけど、早く来て! アリサが、すずかが!!』
「リンディさん!」
今のやり取りで、フェイトが白だという事を確信するリンディ。となると、やる事は一つだ。
「エイミィ! 転送準備! 優喜君達を現場へ!」
「転送します!」
「僕も行こう! 人手は一人でも多く必要なはずだ!」
「OK!」
最年少グループの転移を確認した後、一つため息をついて、納得していない様子の武装局員に釘をさす。
「優先順位を間違えてはいけないわ。私たちの仕事はあくまで、一般市民の生活を守ること。たとえ管理外世界の現地住民だとしても、一般市民が巻き込まれている以上、彼らの安全が最優先よ。」
「……分かりました。」
「とりあえず、今回は出力勝負になりそうだから、貴方達は事後処理のために待機。エイミィ、私も出るから、後の事は任せるわ。転送お願い。」
「了解です!」
「逃げておいてこんな事を頼めた義理じゃないけど、早く来て! アリサが、すずかが!!」
大量に飛んできた棘を切り払いながら、悲鳴のような声で応援を要請するフェイト。正直、映像を送っているような余裕はない。封印しようにも、攻撃が激しすぎて、アリサ達を守るので手一杯だ。
今回の六体の暴走体、とにかくやたらと飛び道具が多い。しかも、共鳴して暴走しているからか、えらく火力がでかい。特に厄介なのが巨大ウニの棘。大量に飛んでくる上にやたら貫通力が高く、フェイトの防御魔法では完全には防ぎきれない。しかもその上、どうやら棘に毒があるらしく、刺さったコンクリートが腐食している。正直、普通の人間が当たったが最後、まず命はあるまい。
他にも巨大なウツボが吐き出す水に、巨大タコのスミ、二枚貝からのレーザーが隙間を埋めるように飛んでくる。どうにかそれを防いでいると、今度はタコやイソギンチャクから触手が飛んでくる。それらをかいくぐると、最後にヒトデが高速回転しながら飛んでくる。救いなのは、全ての攻撃がフェイトとアルフに集中している事と、アリサとすずかが機転を利かし、出来るだけ障害物の多い場所に逃げようとしていることぐらいか。
だが、フェイトの防御力では、一発当たればそのまま畳み込まれかねない。いくら優喜の指輪で二倍強の防御力になっているとはいえ、元が薄いのだ。フェイトのバリアジャケットは、防御力を倍にしてもまだ、なのはのバリアジャケットに及ばない。普通なら十分すぎるぐらいだが、こいつらの火力相手では即座に戦闘不能にならない、というレベルを超えない。
因みに、優喜の作った防御の指輪は、単純に常時一定量の防御力を加算するだけのものだ。一般人やフェイトには莫大な効果があるが、なのはにとってはおまけ程度でしかない。指輪一つでフェイトと同等の防御力を得られるというのは破格だが、高位魔導師や今回のような強火力相手には、気休めにしかならないのも事実だ。因みに、おまけ程度でしかないため、なのはの指輪は違う効果のものだ。
「あっ!?」
切り飛ばしそこなった針が、フェイトのマントを地面に縫い付ける。とっさにマントの端をバルディッシュで切り裂き、もう一度空に上がろうとした瞬間、タコの触手がフェイトをたたきのめす。
「くぅ!!」
どうにか防御魔法で受け止め、大ダメージこそ逃れたものの、完全に動きは止まってしまう。どうにか体勢を立て直して、今度こそ空に上がろうとした時、自分が致命的な場所まで弾き飛ばされた事に気がつく。
「フェイト、大丈夫!?」
「フェイトちゃん!?」
アリサ達の目の前にまで弾き飛ばされてしまったのだ。その上、ウツボが水流を吐き出す準備動作をしている。今飛んでしまうと、無防備なアリサ達に直撃しかねない。覚悟を決めるしかないと悟ったフェイトは、全力で防御魔法を発動させる。
「アリサ、すずか、鷲野さん! 私の後ろから動かないで!!」
「ちょ、ちょっとフェイト!?」
「今から逃げても、アリサ達の足じゃあいつの攻撃から逃げ切れない!」
正直なところ、完全に受け止めきれるかどうかは五分五分だ。受け止めきれたところで、フェイト自身はノーダメージでは済まない。アルフに助けてもらおうにも、向こうは向こうで攻撃をいなすのに手いっぱいで、こちらのフォローに回る余裕はなさそうだ。
「来る! 伏せて!」
フェイトの声に、あわてて姿勢を低くするアリサ達。地面をえぐりながら、激しい水流がフェイトを襲う。瓦礫が、アリサ達の頭上を飛び越える。すさまじい衝撃が、フェイトの防御魔法をえぐり取る。永遠とも思えるほど長い数秒間が過ぎ、どうにか水流を受け止めきれた事を知るフェイト。だが、どうにも踏ん張り切れず、その場で膝をついてしまう。
「フェイト!?」
「大丈夫、まだ大丈夫だから。」
いまいち言う事を聞かない体に鞭打って、どうにか立ち上がる。まだ魔力自体は十分残っている。だが、朝食を食べそびれた事がここに来て響き始めたようだ。どうにも思考がぼやけ、足に力が入らない。そして、それだけの時間、姿勢すら立て直せなかったのは致命的だった。もはや防ぎようのないタイミングで、ヒトデが高速回転しながら突っ込んできていた。
「あ……。」
これはもう駄目だ。頭の中の妙に冷静な部分で判断を下すフェイト。仮に、奇跡的にヒトデを防ぎきっても、ウツボが水流の発射準備に入っている。次はあれを防げない。だが、それでも、奇跡が起こる可能性を捨てるわけにはいかない。少しでも相手の突進の威力を落とすために、防御魔法と並行で、フォトンランサーとアークセイバーを撃ちだす。
直撃したフォトンランサーとアークセイバーを歯牙にもかけず、ほとんど速度を落とすことなくヒトデが突っ込んでくる。防御魔法をガリガリ削り、じわじわとフェイトに肉薄していく。防御魔法が食い破られる瞬間、一か八かでバルディッシュを、回転方向に対して直角に叩きつける。魔力刃と回転するヒトデの足とがせめぎ合う。
「くっ!!」
数秒のせめぎ合いの末、バルディッシュが弾き飛ばされる。普段なら、こうも簡単に押し返される事はない。結局のところ、フェイトが思っていた以上に、彼女の不調は深刻だったのだ。そもそも、本来なら、いくら数の差があろうと、苦手な防衛戦であろうと、こんなに簡単に追いつめられる事はない。たかが一食の影響が、この一大事に致命的な影響を与えていた。
もはや万策尽き、だがそれでもまだ手があるはずだ、と妙にスローモーションで動くヒトデを睨みつけながら頭をフル回転させるフェイト。すでに姿勢は完全に崩れ、魔法の発動も間に合わず、後はせめて少しでもダメージを減らす手段を考えるしかないところまで来て、それでも彼女はあきらめない。来るべき衝撃にそなえ歯を食いしばり、バルディッシュを握る手に力を込める。
あと三ミリ。崩れた姿勢が幸いし、ほんの刹那だけ時間を稼げる。あと二ミリ。バルディッシュの柄をヒトデにたたきつけようと動かす。あと一ミリ。先端がついにバリアジャケットをかすめる。腹部のジャケットが削り取られ、肌が露出する。ついにフェイトの腹にヒトデの足が食らい込もうかというタイミングで、唐突にヒトデが吹き飛ばされる。何かが倒れそうになったフェイトの体を支える。吹き飛ばされたヒトデを、桜色の魔力砲が撃ち抜く。
「フェイト、大丈夫!?」
状況についていけないフェイトを、心配そうにのぞきこむ優喜。どうやら、ヒトデを弾き飛ばしたのは彼らしい。自分が優喜に抱きかかえられている事に気がつき、あわてて立ち上がろうとする。だが、足が言う事を聞かず、今度は自分から優喜にしがみつきに行く形になる。
「ご、ごめん、優喜。なんだか、体に力が入らなくて……。」
「……怪我はないみたいだから、純粋にガス欠か。なのは、ちょっとの間防御お願い。」
「うん。」
真っ赤になりながら、それでも自分の足で立てずにしがみついたままのフェイトを、気の流れからそう診断する。ガス欠ならする事は一つ、とばかりに気を練り上げ、フェイトを言ったん横たえる。バリアジャケットが破れむき出しになったへそに手を当て、気の循環を再度確認。その動作と自身の格好に、湯気が出そうなほど真っ赤になるフェイトだが、次の瞬間、大量に流れ込んできたエネルギーに、羞恥も忘れてどこか色っぽい声をあげてしまう。
「あ。あ、ふぁ。」
「ちょ、ちょっとフェイト!? なんつー声を出すのよ!?」
アリサの突っ込みを無視し、己の体を満たす快感に身をゆだねるフェイト。ポカポカと気持ちいぬくもりが、体の隅から隅まで駆け巡る。全身に活力がいきわたり、徐々に頭がクリアになって行く。疲労が抜け、全身に力がみなぎる。その様子を確認した優喜が手を離すと、思わず未練がましい吐息が口から洩れる。
「フェイトちゃん、なんだか聞いてる方が恥ずかしかったよ、今の……。」
「え?」
優喜が傍から離れるのを心の底でどこか残念に思いながら立ち上がると、なのはから苦情が飛んでくる。今の、というのが優喜からエネルギーを受け取った事なら、自分がどんな恥ずかしい状態になっていたのか、全く覚えていない。
「……そんなに恥ずかしい事してた?」
「すごい声だったよ。」
「え?」
今戦闘中だという事を忘れて、思わず雑談に流れそうになるなのはとフェイト。それだけ、フェイトの出した声が彼女たちにとって衝撃的だったようだが、さすがにそうは問屋がおろさない。
「とりあえず、そういう話は後で。」
ウツボが吐き出した水流を素手ではじき返しつつ、優喜が釘をさす。原因の一端を担ったくせに、他人事のように言ってのけるあたり、いい性格をしている。
「誰のせいだと思ってるのよ……。」
アリサの突っ込みも、どこか力がない。さすがに目の前で何事もなかったように戦闘を継続されると、いつものノリで突っ込みを入れるのも難しいようだ。
「さてさて、どう手をつけるかな。」
気功弾を連続で撃ちだしながら、思考を巡らせる優喜。優喜がつぶやくと同時に、ものすごい威力の雷が海に落ち、暴走体をしたたかに撃ちすえる。さらに、色とりどりのバインドが、暴走体を全て捕縛する。
「もしかして、今の母さん!?」
「優喜君、プレシアさんって、もう魔法使って大丈夫だっけ?」
「子供を守る気になってる母親に、その手の理屈は通じないよ、多分。さて、どうやら役者もそろったみたいだし、総仕上げと行きますか。」
いつの間に現れたのか、プレシアとリニスが暴走体をバインドで縛り上げているのを確認した優喜。どうやら、最後のジュエルシード回収は、佳境を迎えたようだ。
「フェイト!!」
援護のための術を中断し、思わず叫ぶプレシア。画面の中では、フェイトがウツボの吐き出した水流に、したたかに撃ちすえられていた。
「プレシア! 落ち着いてください!!」
「これが落ち着いて居られると思っているの!?」
「だからこそ、早く術を完成させなければいけないんですよ!!」
リニスの言葉にはっとするプレシア。愛娘の窮地に思わず我を忘れたが、ここでもめている暇はない。一時中断してしまったが、まだ術式は生きている。とっとと続きを完成させ、奴らに本当の意味で雷を落としてやらねばならない。
「こんなことなら、やっぱり並列詠唱で術を短縮するんだったわ……。」
自身で詠唱する部分を終え、バルディッシュ・プレシアカスタムに残りをまかせながらぼやくプレシア。大魔法はどうしても発動までに時間がかかる。もっとも、言い出せばそもそも、助けに行こうとするプレシアと、体を気遣うリニスとの間での押し問答が、一番時間を無駄にした部分だが。
「駄目だと言ってるでしょう! あなたはまだ病み上がりで、本来はそんな大きな術を使うこと自体、許されないんですよ!」
「分かってるわ、そんなこと! でも、娘のピンチで無理をしないで、いつ無理をするというの!?」
「だから、私が術を補助しているじゃないですか!!」
などと内輪でもめている間にも、現場では事態が進行している。フェイトがヒトデにやられかけ、優喜が割って入り、ラブシーンもどきを演じて、あられもない声をあげるに至って、プレシアの額に怒りマークが浮かび上がる。
「人の娘にあんな声をあげさせるなんて、優喜とは一度きっちり話し合った方がいいかしら。」
「でもあれ、プレシアも一度やってもらっているはずですよ。」
「ええ。確かにあれは気持ちがいいわ。でも、あんな声をあげる種類の気持ち良さじゃないわよ?」
「案外、体が若いと、感じる気持ち良さも違うのかもしれませんね。」
「……可能性は否定しないけど、フェイトの体は、若いというよりは幼い、よ。そういう感覚があるのかしら?」
「さあ、どうなんでしょう?」
これは、今後の研究課題かもしれない、などと心の計画表にメモをしながら、術の最後のトリガーを引く。自身の消耗と負担を少しでも減らすために、魔力の大半は魔力炉から持ってきている。体が本調子なら、いくら大魔法といえど、この程度の術は何発でも撃てるのだが、病み上がりで体力も衰え、リンカーコアも回復したばかりの今の状況では、減らせる負担は減らしておかないと危ない。
八つ当たりも含めたいろいろな怒りのこもった裁きの雷が、巨大化した暴走体をしたたかに撃ちすえる。普通の生き物なら、それだけで黒こげになって即死するほどの電力だが、さすがはロストロギアで底上げされた生き物。かなりのダメージを受けてはいるが、まだまだ戦闘能力を失うには至っていない。
「リニス! 向こうに行くわよ!」
「はい!」
リニスの転移術で現地に降り立ち、手近なところにいた二枚貝をバインドで縛り上げる。これで、レーザーを撃つのは不可能だろう。リニスもウツボをぐるぐる巻きに縛り上げ、行動を完全に封じている。口を縛られているため、バインドを破らない限り、水流を吐き出すのは不可能だろう。
見ると、管理局員のトップらしい女性が、残っていたウニをバインドで拘束している。正直、バインドの効果が薄そうな面は否めないが、あれが高速で転がってきたらそれはそれで厄介なので、やらないよりはやっておいたほうがいいのは間違いない。
「母さん!? 体は大丈夫なの!?」
「そんな心配は後でしなさい。それよりフェイト、貴方こそ大丈夫なの? 怪我はない?」
「うん。ギリギリのところで優喜が助けてくれたから。それより母さん、病み上がりなんだから、無理をしちゃダメだよ!」
「我が子のピンチに無理をしないで、いつ無理をしろというの?」
優喜が言った事を、裏付けるような答えを返すプレシア。そして、フェイトの姿を上から下まで見直すと、一つ注意をしなければならない事に気がつく。
「フェイト、状況に余裕があるのだから、バリアジャケットを直しなさい。」
「あ、はい。」
プレシアに言われて、初めて自分がへそ出し状態のままだった事に気がつく。元々がそういうデザインならともかく、半端に破損してそうなっているというのは、結構恥ずかしい。
「それで優喜、これからどうするつもりなのかしら? 一応さっきの一撃で、次元震が起こるまでの時間は結構稼げたみたいだけど、多分それほど猶予はないわよ?」
「まずは、共鳴しない程度の範囲で一か所に集めて。それから、プレシアさんから順々に手持ちの大技を叩きこんで行って、なのはが仕上げ。」
「なのはさんが仕上げって、もしかしてあれですか?」
「うん。ただ、感触から言って、ちょっとだけ足りない感じだから、確実に仕留められるように、ね。」
「分かったわ。その辺も考慮して、次の一撃を入れるわ。」
「お願いします。」
話はまとまった。後の仕事は簡単だ。まずは管理局組と、きっちり足並みをそろえなければいけない。
「話は聞いていたわね。私が一番手を勤めるから、後をお願いできるかしら?」
プレシアの言い分に、真っ先に反応したのは、やはりクロノだった。
「ちょっと待て。こちらの指示や要請を聞かないのはまだいい。なぜ僕達が一般人の指示を聞かないといけない?」
「簡単な話よ。私達は、この件に関しては脇役だからよ。」
「そ、そんな理由で!?」
「ほかに理由が必要かしら?」
管理局組が絶句するのを無視し、リニスと組んで自分の仕事にかかる。
「……なるほど、脇役ね。」
女性が苦笑するのを聞きながら、悪い魔女のような笑みを浮かべ、大技の詠唱を続ける。
「クロノ、脇役の意地を見せましょうか。」
「……了解。」
上司の妙に茶目っ気のある言葉にあきれた視線を向けながら返事を返し、自身の最強技の詠唱に入る。脇役の意地を見せるためには、それなり以上に気合を入れる必要がありそうだ。
「フェイト、魔力は大丈夫?」
「うん。おなかがへって、体力が持たなかっただけだから。」
「……また、朝ごはん食べそびれた?」
「……うん。」
フェイトの妙な運の悪さに、苦笑しか出来ない優喜。もともと運動量や基礎体力の割に食の細いフェイトは、一食抜くとそれだけですぐガス欠になる。基本的に燃費はいいのだが、その分燃料タンクが小さい。恭也や美由希にいつも、よくそれで持つなと言われているが、現実問題として彼女のカロリーは割とカツカツだったりする。ちなみに、カロリーの行き先は体の成長七に対して日ごろの活動三である。
「まあ、もうちょっとで全部終わるから、もう少しがんばろう。」
「うん。それで優喜、私はどうすればいい?」
「あいつら全部を覆うようにファランクスシフト。なのは以外のほかの人が攻撃し終わったぐらいに展開。」
「分かった。」
ユーノとアルフが空中に固定した暴走体を睨み、己が編み出した必殺技の準備に入る。母の儀式魔法に比べれば発動は早いものの、相手をバインドで固定しないと使い物にならない程度の詠唱がある。見た感じ、プレシアとリニスの詠唱は折り返し地点のようだ。タイミング的に、今から詠唱でちょうどいいはずだ。
「なのは、チャージにどれだけかかる?」
「分からないけど、十五秒ぐらい見ててくれれば。」
「じゃあ、五数えてからチャージ開始。負荷のほうは大丈夫そう?」
「大丈夫だと思う。」
『伊達や酔狂で、不屈の心を名乗っていないことを証明して見せましょう。』
やけに頼もしい主従に苦笑しながら、自分の仕事に戻る。優喜自身の仕事は簡単。暴走体の攻撃をつぶす肉の壁だ。特に今回の場合、トップバッターのプレシアが詠唱開始してから、最初の一撃が落ちるまでの間にかなりの空白時間が存在する。そこに加え、管理局組はともかく、ほかのアタッカーは最初から防御なんて考えずに詠唱を始めている。バインド維持の片手間になりがちなユーノやアルフだけでは、隙間を埋めきれないのは明白だ。
ゆえに、指示だけ出して何もしていないように見える優喜が、地味にかなり忙しかったりする。管理局組と一般協力者組が、地味に分かれた位置で詠唱を開始しているのも厄介な点だ。
「てい!」
ウニの飛ばした針を、気功弾でまとめて吹き散らす。基本的に、攻撃能力が残っているのはウニとイソギンチャクのみだ。どちらも毒もちなので、下手に当たると命に関わりかねない。
どうにもランダムに攻撃を飛ばす難儀な暴走体に、取りあえず誰が一番厄介かを勘違いさせる必要がある。そうでないと、忙しすぎて取りこぼしそうだ。積極的に攻撃する方針に切り替える優喜。もうちょっと固まって準備に入って、と先に言っておくべきだったと思っても後の祭り。そもそも、管理局組が合流せずに詠唱モードに入ったのが誤算なのだ。
とにもかくにも、弾幕を張る要領で気功弾を連打しながら突っ込んでいく。実はこの気功弾、当たったときのダメージだけならクロノのブレイズキャノンを上回り、速射性はなのはの弾幕やフェイトが最近作ったフォトンランサーのバリエーションに次ぐレベルの、恐ろしく高性能な技だ。
ただし、優喜が持っている飛び道具はこれだけしかない上、一般人程度しかない視力の問題もあって命中率の面で心もとないため、こういう状況でなければ多用しない。正直、動体相手に周囲に被害なしで当てる手段を持ち合わせていない上、なまじ威力が大きいため、確実に当てられる状況でないと、使い勝手が激しく悪いのだ。一応精神攻撃と切り替えが出来るとはいえ、流れ弾が怖すぎてうかつな真似は出来ない。そんなこんなで、なのはと撃ち合いなどしたら、あっという間に押し切られる事請け合いである。
もっとも、竜岡優喜にとって、飛び道具の間合いというのは、最低でも百五十メートルを超えた辺りからなのだが。
「少しおとなしくしてもらおうか!」
イソギンチャクの懐に飛び込んで、密着からの発勁を一撃。寸勁と呼ばれるその打撃により、完全に動きが止まるイソギンチャク。その体内では、象をショック死させるだけの衝撃が波紋となって反響し、うねり増幅して暴れまわっている。この技の最大の特徴は、ダメージの持続時間が長い事。ジュエルシードの暴走体でなければ確実に死んでいる一撃だ。
返す刀でウニへと距離をつめ、一撃でトゲをまとめてへし折り、同じ要領で寸勁を叩き込む。こちらも仕留められこそしなかったが、しばらく身動きはできなくなっているようだ。
竜岡優喜の真価は、魔法なしでも空を飛べることでも、気功弾をはじめとした漫画的な技を持っていることでもない。誰でも折れずに修行すればいずれ使えるようになる寸勁のような技を、化け物相手に通じるところまで磨きぬいたこと。そして、それを的確に打ち込むために、真っ当な生き物からかけ離れたような相手の動きすらも掌握してみせる感覚の鋭さ。それこそが彼の最大の武器だ。
百メートルを超えた辺りから精度が落ち始めるが、それ以下ならマシンガンによる飽和攻撃ですら視力以外の感覚で見切ってみせる感覚器と、それを可能にするほど鍛えぬいた肉体。目が見えなくなったという過去によって磨かれたとはいえ、彼の能力はもともと、何の才能もない凡人が、努力と師の的確な指導によって磨きぬいたものだ。むしろ、ここまで鍛え、磨きぬいたことこそが、彼の真価かもしれない。
「優喜! どきなさい!!」
「はいよ。」
行きがけの駄賃で、よからぬ事をしようとしていたタコに寸勁を叩き込むと、最高速度で離脱する。離脱した瞬間に、さすが儀式魔法と思えるほど派手な雷が大量に落ちる。バインドされていなければ、速攻で逃げ出す算段を立てるだけのダメージを受けた暴走体たちは、苦悶のうめきを上げる。
「次は私達の番ね。」
リンディが、純粋な魔力による光のヴェールで、まとめて縛り上げて一気に暴走体の魔力を食い荒らす。ちなみに、物理破壊設定だと、縛り上げた対象を崩壊させる物騒な技だったりする。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」
クロノの切り札でもある、中規模範囲の攻撃魔法。百を越える大量の剣が、目標に向かって一斉に殺到する。さすがに一撃一撃は砲撃魔法には劣るが、数が数だ。派手に貫かれて大幅に弱らされる。
「フェイト!」
「うん!」
バルディッシュを構え、現時点で使える一番の大技、そのトリガーを引く。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け、ファイアー!!」
六体の暴走体を取り囲むように、三十八基のフォトンスフィアが発生する。すべてのフォトンスフィアが、無慈悲に秒間七発のフォトンランサーを、容赦なく囲い込んだ敵に叩きつける。
「……また、容赦のない魔法ね。」
「……少なくとも、年齢一桁の子供が使うのは間違ってないか?」
あまりに無慈悲で容赦のない攻撃。それを綺麗と表現するのが一番しっくり来る可憐な少女が行うアンバランスさ。そのことになんともいえない気持ちを抱いていた艦長と執務官は、最後尾でもう一人の少女が、もっととんでもないことをしていることに気が付くのが遅れた。
「なのは、間に合いそう!?」
自身の魔法を睨みつけながら、なのはに状況を聞くフェイト。ファランクスシフトは持続時間四秒。ただし、今回はもしものことを考えて、根性で一秒だけ持続を伸ばしてある。
「あ、後三秒……!」
なのはの言葉に視線を向け、今度こそ絶句するアースラ組。レイジングハートの先端に、生身の人間が扱えるとは思えないほどの魔力が集まっている。しかも、それはなのはの持つ桜色の魔力だけではない。プレシアとフェイト、ユーノ、アルフやリニス、クロノにリンディのものも集められている。すべて、使用済みの魔力だ。しかもそれだけにとどまらず、さらにはジュエルシードが放出した魔力まで貪欲にかき集めて、ぞっとするほどの出力の魔力砲を練り上げる。
「ちょ、ちょっと!?」
「もしかして、僕達に攻撃をさせたのは!?」
「そうよ。あいつらの足止めと、最後の攻撃の威力の底上げが目的よ。さすがに、あの威力なら、封印のときに押し負けることはないでしょうしね。」
「制御をしくじったらどうする気だ!?」
「そもそも、あんな異常に負荷のかかる魔法を、未熟な子供の体で使ったら、どう転んでも無事ではすまないわ!!」
「そのために、優喜がフリーになってるのよ。まあ、見てなさい。」
プレシアの指摘のとおり、いつの間にか、なのはに寄り添うように優喜が立っていた。反対側には、これまた寄り添うようにフェイトが立っている。
「なのは、半分肩代わりするよ。」
「う、うん。あ、ありがとう。」
「なのは。私は手伝えないけど、傍にはいるから。」
「「だから、最後の一撃を!」」
優喜が添えた手から、疲れや何やらがどんどん吸い上げられていく。頭と体を苛んでいた痛みが、一気に薄れ、代わりに活力がどんどん流れ込んでくる。フェイトが触れてきた手から、温もりと勇気が伝わってくる。今なら、どんなことがあっても、絶対にくじけることはないだろう。
「いくよ! これが私の全力全開!!」
カウントダウンも終わり、破綻なく魔力砲を束ねあげることに成功。後は撃ちだすだけだ。なのはは、この事件の終わりを告げる、最後の一撃を高らかに宣言する。
「スターライト……、ブレイカー!!」
ファランクスシフトが起こした煙が晴れたところを、巨大な魔力砲が突き抜けていく。そして、暴走体の真ん中に到達した瞬間……。
「ブレイク!!」
なのはの掛け声と共に六つに分かれ、すべての暴走体を撃ち貫く。あまりにあまりな光景に絶句している管理局組をよそに、あまりにもあっけなく封印が完了する六つのジュエルシード。
「ね? 一番確実な方法だったでしょ?」
「あ、悪夢だ……。」
「補助があったといっても、あれを制御するって、たった一ヶ月でいったいどんな訓練をしてきたのかしら……。」
「ちなみに、あの魔法はなのはのオリジナルよ。私もユーノ君も、一切入れ知恵していないわ。せいぜい、優喜が過去に余計なことを言ったから、六分割なんていう物騒なことを思いついた程度ね。」
どうにも、今日一日で、自分達の寄って立っていた足場が、一気に崩れたような錯覚を覚える管理局組。その心情をなんとなく理解しながら、慈愛のこもった目を子供達に向けるプレシア。視線の先では、疲労で膝をつきながら、それでもテンション高くハイタッチをしている子供達がいた。
「さて、さっさと引き上げて、後始末をしましょうか。その前に、お昼かしら?」
「……結局、僕達は来る必要があったのか?」
「何を言っているの? あなた達が居なければ、事件の幕引きや後始末が進まないじゃないの。」
プレシアの言葉に、彼女が自分達を脇役と言い切った理由を思い知るリンディ。明らかに今回、自分達はいてもいなくても変わらず解決していた。むしろ、優喜たちの初動が遅れた分、マイナスだった可能性すらある。
「取りあえず、うちの娘がご飯を食べそびれているみたいだから、さっさとお昼にしましょう。あなた達の船でいいのかしら? それと、巻き込まれた向こうの人たちは、どうしたものかしら?」
「……全部まとめて、アースラで話しましょうか。」
「了解。あの子達を呼んでくるわ。」
こうして、アースラスタッフにとっては、自分達の存在意義に疑問を抱かずにはいられなかった事件は無事解決し、後は後始末を残すだけとなったのであった。