第2話 「麻帆良」
エッジが見つけた情報は二つ。
ひとつは「6年前の事件の生き残り」。たった二人だが確かに生き残っていた。
その二人の名は、
『ネギ・スプリングフィールド』
『ネカネ・スプリングフィールド』
という。
この名を見たときはどんな冗談かと思ったものだ。
生き残ったのが『英雄』の血縁。しかも片方は実子。
ならばあの事件は、犠牲者たちは茶番だったのか? あるいは巻き込まれたか。
兎にも角にも全てがスプリングフィールドに掛かっていることだけは確かなようだった。
そしてもうひとつの情報。
『ネギ・スプリングフィールドが麻帆良学園都市へ修行に赴いている』
“麻帆良学園都市”とは月子曰く、極東最大の魔法使いの街であり関東魔法協会という組織の本拠地でもある。
曰く、日本にあるもう一つの魔法組織“関西呪術協会”とは犬猿の仲。
ちなみに神鳴流は“京都”と冠することから呪術協会よりだそうだ。
なんにせよ事件の中枢にいるだろう情報源。接触する以外に情報を得ることはできまい。
魔法使いの極東本拠というだけあって堅牢そうだが、学園都市という面がおそらく穴だろうと密航船の中で考えていた。
ちなみに、何故ネカネではなくネギへ接触するかというと、麻帆良には『“紅き翼”』の高畑・T・タカミチがいるとの情報もあったからである。
時は四月
――――――――――――― 日本
長い船旅を終え、ようやく着いた日本。
とは云え、ここは日本海側。麻帆良へは山を越えなくてはならない。
尤も、砂漠・ジャングル・雪原・山岳と戦地を渡り歩いたエッジにしてみれば、危険のない山なんぞ散歩である(この場合、危険とは襲撃にあたる)。
早速準備を整え山越えを行う。
食料を背負い、山を歩き麻帆良を目指す(ちなみに食料は買った。エッジは英語を苦手とする月子のおかげで日本語を話せる)。
side:麻帆良
中等部にある学園長室では二人の男が話合っていた。
一人は壮年の男性。無精髭を生やし、眼鏡をかけた柔和そうな男である。
しかし、見るものが見れば解かるだろう。一見何気なく立っている姿勢は実に隙がなく、相当の手練であることを窺わせる。
彼は高畑・T・タカミチ。NGO『悠久の風』に所属し、かつて『紅き翼』とともに行動していたとも言われている。
一人は高年の男性。長い髭と長い眉を蓄え、極めつけは長い後頭部を持つ老人である。
しかし、実態は関東魔法協会理事であり、魔法・政治ともに手腕の長けた老狸、近衛近右衛門である。
話の主題は、明日に控える学園都市の全体のメンテナンス日についてである。
「エヴァはおそらく明日、動くじゃろう。さりげなく情報を流しておいたしの」
「そうですか。まあ、エヴァなら殺すことはしないでしょうし」
「うむ。ネギ君の良い修行になるといいのう」
エヴァとは『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』、『闇の福音』と呼ばれる吸血鬼の真祖である。
彼女はある事情で呪いを掛けられ学園に封印されており、その封印と呪いを解くためにネギ・スプリングフィールドの血を狙っている。
学園長はそれを利用し、ネギの成長に当てようと画策しているのである。
また彼女の封印は、実は学園の電力による結界であり、その情報を学園長はそれとなく流しておいた。
「しかし、学園結界が落ちるということは学園都市内で魔物が活動できるようになる、ということじゃ。この機会に図書館島を狙うもの、魔法協会を狙うもの、そしてあの娘を狙うものも来るじゃろう」
「ええ、それ以外にも学園内には貴重な品や技術、貴重な人材がある」
学園都市は外と一線を画す。
それは魔法秘匿のための認識阻害の影響なのか、偶然が重なりそういう人材が集まったのかは判らないが、人材・技術ともに異常なほどのスペックが視られる。
人材は、一般人でさえ“気”と呼ばれる超常能力を駆使する(尤も、一般人といっても裏の世界を知らないという意味。普通人ではない)。
技術は、先進諸国の軍事機密すら凌駕するほどの技術力が視られる。
さらに、それらを生み出したのが学生だといことだ。異常さ此処に極まれりである。
そんなことから学園都市を狙う存在が後を絶たないのだ。
尤も、普段は学園都市外周に探知の結界と高位の魔物を封じる結界が張られているし、学園内の魔法使いの教師・生徒の魔法先生・魔法生徒が警備をしている。
学園の魔法先生達の実力も高い。
生半なことでは侵入できないのだ。
しかし、今回はその内の高位の魔物を封じる結界が解除される。
高位の召喚魔法使いにとっては見逃せないチャンスである。
だからこんなにも警戒しているのだ。
一人の見習い魔法使いの成長のために学園を危機にさらす。
教育者としては失格であり、責任者としては愚にもほどがあることを感じながらも、次世代の英雄のためにとやめる気はない。
それはエゴだと認識しながらも、ならば尚の事と警備を強化を心がける。
「明日の警備は人員を倍増する。学園全域に展開と同時に、エヴァとネギ君の戦いに干渉しないように通達。高畑君は本部で待機。いつでも援軍に駆けつけられるようにな」
「はい」
そうして時は回り、再び夜が来る。
幕間2
side:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
「・・・どうだ?」
暗いコンピュータ室でそう問うのは『闇の福音』エヴァンジェリンである。
問われたのはその従者、絡繰茶々丸。魔法と科学の結晶である。
最近になって得られた情報を確認しようと、学園中枢サーバへハッキングを行っているのだ。
「予想通りです。登校地獄の呪いの他に、マスターの魔力を封印している結界があります。動力は電力です」
「ふん、10年以上気付けなかったとは・・・」
苦々しい表情で呟いた。「しかし」と一転表情を緩めると、
「これで最終作戦が実行できる。フフフ・・・、坊やの驚く顔が目に浮かぶわ」
と高らかに笑い上げた。
side:エッジ
「・・・これが麻帆良か。デカイな・・・」
山を越え麻帆良外輪に到達したエッジはそう零した。
高台から見下ろす学園都市は広大であった。優に街ひとつを丸ごと抱えている。
学園“都市”とはよく云ったものである。
(・・・・・・探知の結界に、・・・これは対魔封印か?)
右目の眼帯を外し結界を視た結果、探知と封印だと思われた。
(やはり侵入阻害はなしか)
学園都市という特性上、人の出入りは必然。侵入阻害は出来なかったということだろう。
エッジにとっては、探知はともかく封印が問題であった。自身の内側にある魔族の力。それが影響を受けるかどうか。
尤も、外へどうこうする能力ではないため、大丈夫だろうと当たりをつけ、夜を待つ。
侵入は夜のほうが良い。
夜を待つ。
第2話 了