汚染獣との戦闘が終了した次の朝。
ナルキはあの時のことを思い返して、とても恐ろしい生き物がすぐ側で欠伸をしていることに気が付いていた。
いくら武芸者とは言え、戦闘込みの徹夜明けでは流石に眠いのだ。
当然ナルキも欠伸をかみ殺しつつ、戦闘の事後処理に向かうところだ。
メイシェンとミィフィも炊き出しなどの力仕事以外の諸々に付き合わせているのだが、こちらはこちらでやはりなにやら眠そうだ。
まあ、汚染獣との戦闘が頻繁に有るわけではないので、緊張したり興奮したりして上手く眠れなかったのだろうとも思う。
だが、もしかしたら、隣を歩く怪生物は違うのかも知れない。
「・・・・・・・・」
違うはずなのだが、いや。何故か盛大に欠伸をしているのだが、もしかしたら非常に眠いのかも知れない。
だが、あの時の猛烈な存在感と途方もない破壊力を発揮した怪生物ならば、あの程度のことで疲労などするはずはないという変な先入観が出来上がっているというのに。
「眠そうですねレイとん」
「はい。久々の戦闘だったので少々羽目を外してしまったようです」
羽目を外すという発言自体に、異常な物を感じているのはナルキだけのようだ。
メイシェンはなにやら微笑んでいるし、ミィフィはなにやら考え込んでいるというかもっと深く悩んでいるように見える。
ちらちらとレイフォンの方を見ているから、汚染獣戦絡みの問題で悩んでいるのだろうと思うのだが。
「聞いて良いかレイとん?」
「何でしょう? 試験以外のことでしたら」
「い、いや。武芸者としてなんだが」
レイフォンが武芸者としてナルキよりも優秀だと言う事は、ミィフィを抱えて壁を飛び越えた辺りで気が付いていた。
だが、昨晩のあれはもはやそんな生やさしいものでは無い。
本当に人間なのか疑ってしまうほど、汚染獣を駆逐して行くレイフォンの姿は凄まじかった。
「そうですねぇ。僕はグレンダンで最強の称号を授けられていました」
「・・・・・。成る程」
グレンダン最強と言われて納得出来る。
槍殻都市グレンダンと言えば、武芸が盛んで有名な都市だ。
何でも王家から特殊な錬金鋼を授けられた、文字通り最強の武芸者がいるという話は聞いたことがある。
その最強の称号を持っているというのならば、納得出来るという物だ。
だが、それだと都市を出られた理由が分からなくなってしまう。
何処の都市だって、優秀な武芸者は喉から手が出るほど欲しいに決まっているのだ。
いくらグレンダンだからと言って、最強の称号を持つ武芸者をおいそれと都市外に出すわけがない。
「少々個人的な問題で戦えなくなりまして」
「そ、そうなのか」
そのナルキの疑問は当然なので、先回りしたレイフォンがきっちりと答えてくれた。
最強の武芸者を都市外に放出するという、個人的な事情というのにもかなり好奇心を引かれるが、それは恐らくとても辛い出来事だろうからとあえて聞かないことにした。
「そ、そんな凄い人をレイとんなんて呼んで良いのか、少し疑問になってきたのですが」
思わず中途半端な敬語になってしまう。
ここはやはりゴルネオに習ってヴォルフシュテイン卿と呼ぶべきかも知れないと思ったのだが。
「レイとんで良いですよ。正直そう呼ばれる方が気楽で良いですから」
「そ、そうですか」
まだ敬語が抜け切れていない。
と言うか、段々ぎこちなくなってきている気がする。
そんなナルキとは対照的に、メイシェンはなにやら小動物チック全開で、レイフォンに懐いてしまっているような気がする。
いや。むしろおじいさんに懐く孫と言った感じだろうか?
「だけどさ。レイとん」
「はい?」
ここでやっと、今まで黙って悩んでいたミィフィが声を出した。
その雰囲気に何時もの軽さはなく、決死の覚悟さえ伺えた。
「何で汚染獣と戦う時に、あんなに・・・」
「悲しそうでしたか? それとも苦しそうでしたか?」
言葉を詰まらせたミィフィに変わって、レイフォンが口を開いた。
そこには何か悟りを開いたような、そんな静かな余裕が有るような無いような。
「どっちかって言うと・・・・。やりきれない」
「そうですね。僕は汚染獣と戦う時にやりきれないという思いを抱いていますね」
肯定するレイフォンの声が、僅かに沈んでいるのに気が付いた。
そして、ミィフィがレイフォンに血を分けた時の話を思い出していた。
人よりも遙かに激しい共感現象が起こったと。
つまり、ミィフィはあれを見ていたと言うことになる。
武芸者でさえ恐ろしくて悪夢を見てしまいそうな、あの光景を最も近くで臨場感抜群の環境で。
平然と一緒に歩いていられるのは、もしかしたら現実感がないのかも知れないが、もっと他の理由があるのかも知れない。
だが、ミィフィの次の言葉はそんな生やさしい予測を全く無視する内容だった。
「雌性体を攻撃する時なんか、泣きそうだったじゃない」
「!!」
普通、汚染獣を倒す時にそんなことを考えたりはしない。
生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
だからこそ、それこそ必死で戦って生き残るというのに、レイフォンは泣きそうだったというのだ。
それが強者の余裕なのかと思ったが、やや違うらしいと言うことにも気が付いていた。
「牛や鳥を食べて平然としている僕が言えたことではありませんが、生きるために必死になっているのは汚染獣も一緒なのではないかと、何時の頃からか考えるようになりまして」
「それは」
そんな事考えたことがなかった。
人類の敵だから戦って勝つ。
それ以上のことを考えている余裕など、今の人類にはない。
やはり、強者の余裕なのかも知れないと思ったが。
「間違っていることは十分に理解しているのですが、それでも考えてしまっているのですよ」
さっきミィフィはレイフォンが泣きそうだったと表現した。
そして今目の前にいるレイフォンは、確かに泣きそうに見える。
表面的には笑っているようにも見えるが、それはナルキから見て明らかに表層一枚だけの事だ。
その内側でどんな思いが渦巻いているか、それを知る事はとうてい出来ない。
「それでも、僕はツェルニが無くなってもらっては困るのです。ですから戦う以外の方法もない」
優先順位が決まっているのだと理解した。
だから全ての感情に封をして戦うのだと。
そう言う事をやってのけているのが、レイフォンなのだと言う事に気が付き、そしてナルキももらい泣きしそうになってしまった。
どれほど辛いか分からないが、酷く悲しい気分になったのだ。
「まあ、そのお陰で私達が生きているんだから、文句を言うのは贅沢なんだろうけれど」
流石にここまで話が来てしまうと、ミィフィも少々居心地悪そうだ。
メイシェンは当然のように涙目になっているし。
「まあ、それは僕個人の問題ですので、あまりお気になさらない方がよろしいかと」
「そういわれて、はいそうですかとは行かないだろう」
普段ならそれで通すナルキだが、流石に今回は少々困ってしまう。
そして、少しだけ、いや、かなり疑問に思ってしまった。
話を変えるという大義名分の元、強引に疑問を表明してみる事にした。
「なあレイとん」
「何でしょうか?」
今までの会話がなかったかのように、にこやかに返事をするレイフォンは、全く何時も通りだ。
なんだか少し腹が立った。
だが、今問題にしなければならないのはもっと別の問題だ。
「いくつなんだ?」
「はい?」
「年齢だ。年齢!」
始めから少々違和感があった。
明らかにレイフォンの言動や立ち居振る舞い、そして何よりもメイシェンの行動。
全てが同世代の少年のものでは無い。
やや暗い雰囲気を吹き飛ばすために、炊き出しなどを行うエリアに差し掛かる前に、全力でもって質問をする。
「十五歳です」
「嘘だ!」
絶対に嘘だ。
たった十五年しか生きていないで、汚染獣戦でそんなことを考えられるようになるとはとうてい思えない。
いや。グレンダンの武芸者はみんなそんな風に考えるのかも知れないが、それでもまだまだ疑問はある。
「何処をどう探しても僕は十五歳なのですが」
「意味深な発言だな」
思わずナルキは詰め寄る。
犯罪行為というわけではないようだが、違法行為は見逃せないのだ。
そして、記者根性と好奇心の塊であるミィフィも、いつも以上にレイフォンに詰め寄る姿勢を見せている。
唯一メイシェンだけは、ハラハラドキドキと成り行きを見守っているようだ。
「実は」
「「実は?」」
「ここだけの話なのですが」
「「うんうん」」
「僕には重大な秘密が有りまして」
「「「なになに?」」」
とうとうメイシェンまで参加して、レイフォンに詰め寄る。
そして、語られた内容に三人そろって絶叫を放ってしまった。
あり得ないと。
B B R
汚染獣戦の後片付けがもうすぐ始まるというのに、力仕事担当の武芸者達を従えたカリアンは、目の前にいる巨漢二人に猛烈に厳しい視線を向けていた。
当然視線が厳しくなる原因とはレイフォン絡みの問題である。
レイフォンが強いことは知っていた。
グレンダンで天剣授受者なんかやっていた以上、弱いなどと言うことは全く考えていなかったのだが。
実際弱くなかった。
いや。強すぎたために今視線が厳しくなってしまっているのだ。
「説明してもらえるかね?」
何故もっと早くレイフォンが参戦してくれなかったのか。
いや。流石にあんな凄まじいことを始めにされたのでは、他の武芸者の立つ瀬がないというのは分かるのだ。
だが、あれだけのことが出来ると言う事を知っていれば、それなりの対応が出来たのもまた事実なのだ。
一言言ってくれれば良かったと、そう思うカリアンの視線が二人を捉え続ける。
「ヴォルフシュテイン卿は、戦うべきではないと思っていた」
「馬鹿な! 武芸者ならば戦うことこそが本分だろう!」
何故か苦しそうに言葉を発したゴルネオに、真っ先に食ってかかったのは当然のようにニーナだった。
レイフォンを小隊に入れるように薦めたカリアンとしても、この反応は予測出来ていた。
だが同時に、何か事情があるらしいことも理解していた。
そうでなければ、ゴルネオがこうも苦しそうにしているはずはない。
そしてもっと分からないのが、親友と呼ぶか悪友と呼ぶか微妙なところのあるヴァンゼだ。
レイフォンが入学する前からなにやら動き回って、専用の都市外戦装備などを用意していたのだ。
それに、レイフォンを転科させる時になにやら非常に抵抗していたのも覚えている。
今から考えると知っているとしか思えない。
だが、今問題なのはやはりゴルネオとニーナのやりとりだ。
「足元の定まらないあの方を戦わせれば、ツェルニが滅ぶ危険性があった」
「馬鹿な! 何故都市に住む者が都市を滅ぼすというのだ!」
先輩だと言うことを全く無視しているというか、考える余裕がないニーナが荒れているが、実はカリアンも同じ心境だ。
都市によって生かされている人間が、その都市を滅ぼすなどと言うことは考えられない。
だが、ゴルネオが発した言葉は想像を絶する物だった。
「三年ほど前、俺の兄弟子がヴォルフシュテイン卿のご家族を虐殺した」
「!!」
その声を聞いた物が息を飲む音を、何処か他人事のように聞きながら、ふと思い返す。
レイフォンはフェリのことをかなり気にかけていた。
少年特有の感情にまかせて、フェリに好意を持っているからだと思っていたのだが、もしかしたら違ったのかも知れない。
レイフォンはカリアンとフェリが憎しみ会うことを避けたかったのかも知れない。
だからこそ、サントブルグに追ってきて都市ごと滅ぼすとまで脅したのだ。
今ならば、そう考えることも出来る。
「その後、あの方は戦う理由を見失い、戦うことしかできなくなった。矛盾しているように聞こえるかも知れないが、あの方には戦い以外の物が残っていなかったのだ」
どれほどの絶望と共に戦ったのか、それは想像することさえ出来ない。
絶望と共に戦っていたからこそ、そこには常に暴走という危険が潜んでいたのだろう。
グレンダンだったらその危険は大きいが、対応出来ないと言うほどではない。
何しろ天剣授受者は後十一人いたのだ。
被害は大きかっただろうが、レイフォンを止めることも出来ただろう。
だが、ツェルニは違う。
彼が暴走してしまったら、それを止めることが出来る人間がいないのだ。
ならば、戦いの場に彼を引き出さないことこそが最善の選択だった。
だが、それでも、汚染獣をツェルニ武芸者は排除することが出来なかった。
危険な賭だったのだと言う事が、やっとカリアンにも分かった。
冷たい汗が背中を流れるのを感じつつ、話の続きに耳を傾ける。
「俺は直接その姿を見てはいないが、汚染獣を相手に戦うあの方の姿は凄まじく、そして恐ろしかったと」
誰から聞いたかは言わないが、伝えた人物は自分の感じたままをゴルネオに伝えたのだろう。
だが、ここで疑問が出てくる。
そんな危険な賭であったレイフォンの参戦を見て、ゴルネオは歓喜の涙を流していたのだ。
常識的に考えて、反応は全く逆のはずだ。
「ヴォルフシュテイン卿を戦わせると言う事は、傷つき疲れ果てたあの方を戦場に出さなければならない、弱い我々ツェルニ武芸者の敗北と同義だった」
傷ついた人間を戦わせなければならないと言う事は、それは都市運営に関わる者の敗北である。
武芸者だけではなく、カリアンの敗北でもあったのだ。
「だが、あの方は再び戦う理由を得ることが出来た。それが嬉しかったのだ」
ゴルネオにとって、兄弟子の行いでレイフォンを苦しめたという負い目が有ったのだろうことは、容易に想像が出来る。
だからこそ、色々と考えたりレイフォンに平身低頭したりしていたのだ。
「俺にはとうてい真似出来ない。ヴォルフシュテイン卿は犯人であるはずのガハルドさんをなぶり殺しにすることも出来た」
ガハルドというのが、レイフォンの家族を虐殺した兄弟子であることは、言われなくても分かる。
憎むべき相手でも、もしかしたら許せたのかも知れない。
あるいは、耐えることが出来たのかも知れない。
「最終的には司法の手にゆだねられて、都市外強制追放と言う事になったが、ヴォルフシュテイン卿が自ら手を下しても誰も文句を言わなかっただろう」
グレンダンの守護者の家族を虐殺した犯人と、その被害を受けたレイフォン。
感情的にガハルドを私刑にしても何らおかしくはなかった。
グレンダンでの法律がどうなっているか分からないが、それでも情状酌量の余地はあるだろう。
「分かりますか会長? 我々は紙一重で、自分の努力ではなく運のおかげで、負けずに済んだのです」
「う、うむ」
ゴルネオの視線が痛い。
レイフォンを利用することだけを考えていたカリアンだが、彼が都市を出た背景を調べた時に疑問を持つべきだったのだ。
集めた情報が全て違う内容であったと言う事に疑問を持って考えるべきだったのだ。
「私は間違っていたのか」
話し合う機会はいくらでもあった。
だが、それを半ば放棄して、現状を変えることにだけ注意が行ってしまっていたのは事実だ。
カリアンらしくないという以上に、組織の長として失格であるという烙印を押されても何ら不思議はない。
「我々は運が良かった。ヴォルフシュテイン卿はこれから先、良い教官としてここに居て下さるだろう」
そう言うゴルネオの言葉で、少しだけ胸をなで下ろすことが出来た。
見捨てられているわけではないのだと。
だが、それと同時に凄まじい違和感を感じる。
グレンダンの天剣争奪戦の光景以上に、凄まじい違和感だ。
「で、では、あの錬金鋼は何なのですか?」
カリアンのその違和感を無視して、ニーナがなにやら少し見当違いの方向で質問をしている。
確かに気にはなっていた。
カリアンの記憶にある姿では、レイフォンは身体に不釣り合いなほど巨大な刀を持っていた。
だが、昨日の汚染獣戦でも、やはり身体に不釣り合いなほど巨大な刀を持っていたのだ。
あの刀については非常に気になる事は事実だ。
気になることではあるのだが、今この場でなくても何ら問題無い。
話が進んでしまっているので、もう戻せないだろうが。
「あれは、純銀錬金鋼と呼ばれている」
「シルバーダイト?」
なにやら強そうな名前が付いた錬金鋼の様だ。
それはこの場に居合わせた全員の感想だった様で、小さなどよめきが辺りを支配した。
そのどよめきが静まるのを待って、ゴルネオが口を開き。
「曰く。真の汚染獣を四つに切り裂いたとか」
「おお!」
「曰く。汚染獣の王からヴォルフシュテイン卿が授かったとか」
「おおお!!」
「曰く。この世界を作り上げた神の骨、その欠片が姿を変えた物だとか」
「おおおお!!!」
ゴルネオの言う曰く話に、その場にいる全員が驚きと納得の声を上げる。
真の汚染獣を四つに切り裂いたとなれば、それは猛烈な破壊力を秘めた錬金鋼と言う事になる。
汚染獣の王からレイフォンが授かったとなれば、今世界を席巻している汚染獣は、王の意志に反しているから殲滅するために、レイフォンに送られたと言う事になる。
世界を作り上げた神の骨の欠片となれば、真面目に神話級の破壊力を秘めていると言う事になる。
どれをとっても凄まじく、窮地に陥ったツェルニを救う、まさに救世主が持つに相応しい錬金鋼だ。
「そ、それで、どれが本当なんだね?」
勢い、カリアンも身を乗り出して真実を訪ねる。
辻褄が合わないので、どれか一つが本当で他が嘘と言う事になるが、それでも十分に凄い。
「うむ。全部嘘だ」
「どわ!」
思わせぶりなゴルネオのうなずきの後、語られた内容に、その場にいた全員が前のめりに倒れ込んだ。
カリアンなんか、地面に向かって全力ダイブをかましてしまったほどだ。
ずれた眼鏡を直しつつ、ただでさえ巨漢であるゴルネオを下から睨み付ける。
当然だが、それに動じた様子は全く無い。
非常に悔しい。
「あれは少々特殊ではあるのだが、通常の錬金鋼であることに違いはない。ツェルニでも作ることが出来る」
「無意味な引っ張りだったわけだね?」
「問題は、そんな根も葉もない与太話が信じられるほど、ヴォルフシュテイン卿はグレンダン市民から、絶大な信頼を得ていたと言う事だ」
まあそうなのだろうと思う。
与太話が信じられるほどには、レイフォンが信頼されていたのだと言う事は理解出来る。
その絶大な信頼をねたんで、彼の代わりになろうとしたのがガハルドで、最終的にレイフォンの家族を虐殺するという、本末転倒な行動を取ってしまったのだと言う事が、今の一言で分かった。
もしかしたら、ガハルドこそレイフォンによって人生を狂わされた犠牲者なのかも知れない。
そして、レイフォンがそう思ってしまったからグレンダンを出たのかも知れない。
いや。これはきっと深読みのしすぎだ。
是非とも間違いであって欲しいと願うほどに、深読みのしすぎなのだろう。
「そこまでは良いだろう」
体勢を立て直して、視線をヴァンゼに向ける。
ゴルネオから聞くべき事はまだある様な気はするのだが、取り敢えず精神的な再建が終了するまで、ゴルネオには関わらない様にしたいのだ。
「君もレイフォン君の事を知っていたね」
「ああ。俺の恩人だ」
「恩人?」
レイフォンは今年の新入生だ。
カリアンの様にグレンダンに立ち寄ったりしなければ、ヴァンゼとの接点は無いように思える。
視線で続きを促す。
「十年前のことだが」
「・・・・・・・・・・・・」
いきなり飛び出した単語に、再建途中の精神が再び粉砕されてしまったようだ。
非常に嫌な予感がするのも、きっと気のせいではない。
「グレンダンで食糧危機が起こったそうだが」
「養殖プラントで伝染病が流行りました」
ヴァンゼの説明を、ゴルネオが補強する。
是非ともこの先は聞きたくない。
そんなカリアンのことなどお構いなしに、頷いたヴァンゼが続きを口にしてしまう。
「口減らしというのかな? 百人の子供と共に俺の都市に来てな」
十年前と言えば、レイフォンはまだ五歳のはずだ。
五歳の子供が百人の子供を連れて、都市間を移動するというのは、かなりシュールな光景に違いない。
ついでに言えば、ヴァンゼだって十歳くらいのはずだ。
「自分は優秀な武芸者です。雇って下さい。報酬はこの子供達の生活費でいかがでしょうと」
話がおかしい。
絶対におかしい。
「それを聞いた有力武芸者の一人が、レイフォン様に勝負を挑んでな」
「無謀な」
レイフォン様とヴァンゼが言ったことには突っ込まない。
一々突っ込んでいたら話が進まないからだ。
そして、無謀だと言ったゴルネオにも突っ込まない。
天剣授受者の実力など、グレンダン以外では知る者がいない以上、誰かが腕試しをしなければならないのだし、実際にそうなったと言うだけの話だ。
「ああ。開始3秒で錬金鋼を復元させることも出来ずに敗北した」
「ヴォルフシュテイン卿はその辺容赦ないですからね」
武芸に関しては、極めて冷徹というか、割り切った考えのようだ。
五歳の子供に瞬殺されてしまった武芸者というのも、かなり問題だが、やはり突っ込まない。
「最終的に、三百人の子供を養う代わりに、家はレイフォン様を二年間雇うことになった」
「それで、一時期ヴォルフシュテイン卿のお姿を見なかったのですね」
「結果的に、俺の都市の武芸者は、質的に異常なほど向上した」
二人だけで話が進んでいるような気がする。
これは少々心外という物だ。
取り敢えず、レイフォン絡みのことには突っ込まずに、八年ほど経っているはずのヴァンゼを何故すぐに認識出来たのか、そちらを突っ込むことにした。
「ああ。俺は昔から老け顔でな」
そう言いつつ、パスケースを取り出すヴァンゼ。
その中から写真を一枚撮りだして、カリアンに渡してくれたのだが。
「・・・・。確かに君だね」
今よりも少し小柄に見えるヴァンゼが、やや照れた表情でレイフォンと共に映っている。
やや照れて嬉しそうにしているが、それでもこの厳つい顔は明らかに今のヴァンゼのままだ。
いや。この頃から厳つい顔だったのだと言うべきだろうし、これならばレイフォンがすぐに分かっても何ら問題はない。
そして思うのだ。
この時期はまだレイフォンの方が背が高かったようだと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
いや。今のは無し。見なかったことにしよう。
絶対に間違いだから。
「何故か俺は特に目をかけて頂いてな。あの時の特訓があるからこそ今の俺があるのだ」
懐かしむように語るヴァンゼ。
そして、色々と脳内で処理しているために、全く動けないカリアンが持ったままだった写真が突如ニーナによって奪われた。
見てはいけないその一枚をだ。
「・・・・・・・・・・・・・・。聞いてよろしいでしょうか武芸長?」
「ああ。良いぞ」
余裕綽々で答えるヴァンゼ。
対するニーナは、汚染獣戦以上に、恐ろしい物を見てしまったように震えている。
その心境は理解出来る。
「武芸長が若いのは良いでしょう」
「俺にも子供の時代はあったさ」
しみじみと言うヴァンゼ。
どんな子供時代を送ったのか、是非とも知りたいと思う。
だが、ニーナが聞きたいことはそこではないのだ。
「それは良いとして」
「うむ」
「何故レイフォンは、今と同じ外見なのでしょうか?」
とうとうニーナが最悪を詰めた箱の蓋を開けてしまった。
いや。壺だっただろうか?
そして、ニーナの台詞を理解した武芸者達が、慌てて集まってきて写真を覗く。
真っ赤な戦闘衣を着込んで、巨大な刀を手に持ったレイフォンと、道着を着込んだ若いヴァンゼが映る、恐怖の写真を。
あり得ないのだ。
十年も前の写真であるはずなのに、レイフォンは今と全く変わらない姿をしているなどと言う事は。
何かのトリックや合成写真だったらいいのだが、恐らく違う。
十年前にヴァンゼと会って彼を指導したという以上、今目の前にある写真は本物なのだ。
本物なら、それを説明しなければならないと何処かで判断したカリアンは、倉庫の奥から知識を引っ張り出してみた。
「強大な剄脈がある武芸者は、その莫大な活剄によって成長速度を遅くできるという話を聞いたが」
成長速度を遅くしているのならば、武芸科生徒で何とか押し通す事が出来るかも知れない。
三十歳くらいまでならば、なんとか誤魔化せるという期待の元、当たっていてくれという願いと共に訪ねてみた。
「その話は本当だが」
今にも死んでしまいそうなカリアンの台詞に、ゴルネオが視線をそらしつつ答える。
何故ここで視線をそらせるのか、皆目見当が付かない。
そして、やはりヴァンゼも視線を明後日の方向へと向けている。
これは、もしかしたら。
「レイフォン君の、本当の年齢というのは、いくつなのかね?」
以前話した時に、レイフォンが武芸大会に参加するのは、犯罪行為だと言っていた。
それは、実力差から来る物だとカリアンは思っていたのだが、もしかしたら違うのかも知れない。
例えば既に三十を超えているとか。
流石に三十を超えてしまっていたら、学生と言うには問題が出てきてしまい、とうてい誤魔化せない。
「公式に、グレンダンでは、ヴォルフシュテイン卿は、十五歳だ」
何故か一言ずつ切ってゴルネオが言う。
何故かとても嫌な予感がしてならない。
「非公式には?」
恐る恐ると、武芸科の誰かが口を開いた。
知っては駄目だという本能の叫びはしかし、ゴルネオやヴァンゼには届かないようだ。
その口が開かれ。
「天剣授受者として、グレンダンの諸語者として、ヴォルフシュテイン卿は、五十一年過ごされた」
一瞬、意味不明だった。
いや。未だに意味不明である。
出来れば永遠に意味不明であって欲しいが、そうはいかない。
「十歳の時に、史上最年少で授与されておられる」
単純計算が出来ない。
十五歳であるならば、五十一年などと言うのは真っ赤な出鱈目でなければならない。
五十一年が本当ならば、公式の年齢が十五歳というのは絶対に間違っている。
「今年六十二歳になられる」
あちこちから、レイフォンは老後の蓄えとして金を稼いでいるという話が伝わってきている。
フェリからもそう聞いたし、クラスでもその話は有名だ。
今までは、それがただの口癖や大義名分だと思っていた。
だが、実際の年齢が六十二歳だというのならば。
「ほ、本当に老後のために貯蓄していたのか」
その場にへたり込んだニーナの口元に、力ない笑みが張り付いている。
もはや笑うしかないと言ったところだろう。
カリアンも同じだ。
「安心しろニーナ」
「何をですか?」
そんなニーナを哀れに思ったのか、ヴァンゼが跪き肩に手を置いて話しかける。
その表情には明らかな同情の色が浮かんでいたし、それはゴルネオにも言えることだ。
「グレンダンでは」
「グレンダンでは?」
「レイフォン様は」
「レイフォンは?」
「永遠の十五歳と言う事になっているらしい」
永遠の十七歳は有名だが、十五歳は始めて聞いた気がする。
だが、カリアンは瞬時にガタガタになっていた精神に活を入れて、再建させることが出来た。
グレンダンで永遠の十五歳ならば。
「ツェルニでも永遠の新入生と言う事に出来るかも知れん!!」
辺りをどよめきが支配する。
これから先、レイフォンがツェルニに居続けてくれるのならば、最も重要な教官の役を果たしてくれるのならば、それは多少のことに目を瞑っても良いのではないかと。
いや。むしろ積極的に便宜を取りはからうべきであると思うのだ。
もしそれが出来るのならば、ツェルニはこの先安泰と言う事になるのだ。
俄然気力がみなぎってきた。
「それは良いのだが」
「何人生き残ることが出来るのか?」
蒼白となったヴァンゼとゴルネオのそんな小さな声はしかし、光明を見いだしたカリアンには届かない。
やる事が決まったのならば、もはや全力疾走有るのみである。
B B R
何時ものことではあるのだが、女王であるアルシェイラ・アルモニスは憂鬱だった。
書類仕事をカナリスに丸投げしてしまっていると言っても、暇な時間が消えて無くなるわけではない。
いや。暇なら仕事しろと言う突っ込みはあちこちから来ているのだが、働くという精神構造をアルシェイラは持っていないのだ。
今日も汚染獣を求めて冬期帯を闊歩するグレンダンの、最も高い場所にしつらえたハンモックでだらけつつも、遠い地から届いた手紙をゆっくりと眺める。
既に何度も読んでいるので、ことさら理解する必要はなく、これを出した武芸者についてあれこれと考えるために手紙を眺めているのだ。
そんな、これ以上どうしようもなく暇な時間にやってきたのが、アルシェイラの影武者として頑張ってくれているカナリスだ。
その仕事ぶりには感謝しているのだが、それを表に出すという行為は、何故か非常にためらわれて仕方が無い。
もしかしたら、アルシェイラの精神構造は決定的に人と違って、ひねくれ曲がっているのかも知れないと、少し他人事のように考える。
まあ、どっちでも良いのだが。
「レイフォン様からですか?」
「ああ。ツェルニで骨を埋められそうだってさ」
投げ槍にカナリスに手紙を放る。
器用にそれを空中でキャッチして速読する。
この速読の能力があるからこそ、カナリスの仕事速度はアルシェイラよりもかなり速く、昼食が終わったばかりだというのに既に今日の分の書類の決裁が終わっているほどだ。
別にアルシェイラが欲しい技術ではないが、優秀な部下に一人ぐらいいても何ら不便はない。
むしろ一人くらいは欲しい。
「それはよう御座いました」
何故か女王よりもレイフォンに向かう時の方が、遙かに敬意を払っているような節があるカナリスに、少々険悪な視線を放ってみたが、まあ、相手がレイフォンでは仕方が無い。
長年天剣授受者としてグレンダンを守護し続け、後進の指導や治安維持と言った仕事もきっちりとこなしてきたレイフォンだ。
しょっちゅうサボっているアルシェイラよりも、よほどカナリスの受けが良いことは理解出来る。
理解出来るからと言って、納得出来るというわけではないが
「でもねぇ。結局あの老化を完全に止める術は分からなかったのよねぇ」
「あれは、レイフォン様の特殊体質と言うべきだと思うのですが」
「そうなんでしょうけど、女の子としては永遠の若さって欲しいじゃない?」
グレンダンでレイフォンは永遠の十五歳と言う事になっている。
それに触発されたアルシェイラは、自身を永遠の十七歳と認めさせようとしたのだ。
だが、その膨大な活剄を総動員して成長を遅らせてきたにもかかわらず、十七歳で通用しないほどの外見に至ってしまった。
非常に悔しくて、レイフォンを問い詰めてコツを聞き出したのだが、他人の技を盗むことは得意でも、自分の技術を教えることは非常に苦手なためか、全く要領を得なかった。
最終的にガハルド事件が勃発。
その後も色々あったために、レイフォンはグレンダンを出奔してしまった。
結果的に永遠の若さを手に入れることに失敗。
非常に理不尽を感じてしまっているが、他の連中から言わせるとアルシェイラの方が理不尽の固まりなのだとか。
非常に納得行かないが、人の心はどうすることも出来ない。
今度はツェルニで永遠の新入生と言う事になったようで、非常に嫉妬してしまう。
「ですが」
「ああ?」
「ツェルニの武芸者は地獄でしょうね」
レイフォンは後進の指導も積極的に行ってきた。
だが、戦場で長く戦ってきたレイフォンのそれは、猛烈に厳しい物である。
どれだけの武芸者が泣きながら逃げ出してしまったことか。
カルヴァーンの道場もかなり厳しいという評判だが、レイフォンのサイハーデンは更に壮絶だ。
一度覗きに行ったアルシェイラが、思わず後ずさってしまうほどだった。
そのレイフォンの指導をツェルニの武芸者が受ける。
一体何人生き延びることが出来るのか。
そちらの方にも興味があるが。
「失礼します」
そんな考えの途中、呼んでいたことを忘れかけていたサヴァリスがやってきた。
何時ものにこやかな笑顔の影に、少々寂しそうな物が見えるような、見えないような。
「レイフォンからの手紙でも来ましたか?」
「・・・。良く知っているわね? 調子に乗っているのはサヴァリスかい? それとも天剣授受者全員?」
「いえいえ。弟がツェルニに居まして。そちらから連絡があったのでこちらにも来ているかと」
少々飛び退りつつそう言うサヴァリスはしかし、なにやら残念がっているようにも思える。
まあ、レイフォンがいなくなって寂しいのだろう事が分かる。
剄量も技量もレイフォンの方が上だった。
ならば、戦って己をもっと強くしたいと考えるのはサヴァリスとしては当然のこと。
ガハルド事件が無ければ、今もきっとレイフォンに挑みかかっていたに違いない。
その楽しみがほぼ間違いなく永遠に失われてしまったがために、サヴァリスはかなり寂しがっているのだと言う事は間違いない。
まあ、戦っていないと体調を崩すと公言しているから、鍛錬という大義名分が無くなったのが寂しいだけかも知れないが。
彼にとってガハルドが同門だと言うことは、全く無意味なことなのだろうし。
レイフォン自身も、ガハルドは罰せられるべきだが、ルッケンスとは関係ないと何度も公式に発表していた事だし。
双でなければ、ルッケンスは遠の昔に市民の手によって断絶させられていただろう。
「まあ良いわ」
そんな思考を打ち切り、アルシェイラは本来サヴァリスを呼び寄せた用件について切り出すべく、面倒で仕方が無いがハンモックから身体を起こした。
そして、滅多に近付かない執務机の引き出しを開ける。
その引き出しの中には、一年ほど前に返上されたままの天剣がぽつりと存在していた。
保管庫に入れるとか言う行動を取るべきなのだが、面倒でそんなことする気にならなかったのだ。
何しろ天剣、ヴォルフシュテインだ。
レイフォン以外の誰かに使われることを、積極的に拒む恐れもあったために、新たな天剣授受者を探すという行為もためらわれていたのだ。
まあ、探したからと言って持つに相応しい武芸者がいるとは、とうてい思えないけれど。
「ほれ」
「はい?」
取り敢えず、気楽にサヴァリスに向かって放り投げる。
投げられた方は、ある意味非常に珍しく、呆然としつつ反射的にそれを受け取った。
そして手の中に収まった物を眺めること3秒。
「これをどうせよと?」
「届けなさい」
「・・・・・。レイフォンにですよね?」
「当然だ」
少し、サヴァリスの周りの空気が変わった。
いや。部屋全体が熱くなっているような気がする。
「当然ツェルニまでですよね?」
「郵便で送るわけにはいかんだろう」
いくら何でも、天剣ヴォルフシュテインを郵便で送るという度胸はない。
となれば、誰か護衛兼運搬係として派遣するのが順当な選択と言える。
サヴァリスを選んだのは、まあ単なる気まぐれだ。
「ただし!」
気まぐれだが、褒美を与えやすいと言う事も理由の一部だ。
多分レイフォンは迷惑がるだろうが、それでもまあ、無いよりはあった方が良いだろうという、ある意味押し売りな思考も混ざっている。
「弱い奴に天剣など不要!」
「おお!」
褒美が何かをサヴァリスは理解したようで、段々と目が耀きだしている。
同時に、後ろからカナリスの溜息が聞こえてもいる。
アルシェイラが何を考えついたのか、それを理解したのだろう。
だがもう遅い。
「つまりそれは」
「ああ。戦って実力を計って良い」
「弱かったら殺してしまっても?」
「無論だ。弱い武芸者に生き残る資格など無どわ!」
「きゃ!」
全てを言い終わることが出来なかった。
なぜならば、サヴァリスが耀いていたからだ。
人がこれほどまでに耀けるとはとうてい信じられないほどに、まさに黄金の輝きと呼べるほどに眩い、直視してしまえば失明間違い無しの光景だ。
と言う事で、カナリスと共に手で視界を塞いで輝きが収まるのを待つ。
だが、輝きは収まるどころか徐々に激しく強く躍動的になってきている。
これは早々に話を切り上げないと迷惑だ。
「では早々に出立の準備をしろ」
「御意!!」
その輝きを維持したまま一礼したサヴァリスが、あろう事か王宮の壁を突き破って実家のある方向へと飛び出した。
いやまあ、アルシェイラの前からいなくなればいいのだが。
そして、思わず呟いてしまう。
「傍迷惑な奴だ」
「人のことを言えるのですか?」
突っ込み役のカナリスが溜息と共に言うが、当然アルシェイラには切り返しの手がある。
とっておきという奴だ。
「ツェルニのことも考えているのだぞ?」
「どの辺がですか?」
「レイフォンとサヴァリスなら、都市が壊れることはないだろう」
他の天剣の中で、レイフォンと戦って都市が壊れない人間となると、トロイアットくらいしか思いつかない。
そして、トロイアットを送ってしまったら、来年ツェルニで出産ラッシュになる危険性がある。
子供を妊娠させたとなると、流石に天剣でも問題になるかも知れない。
と言う事で、サヴァリスを選んだのだ。
後付けだが、なかなか良いこじつけだと自画自賛しているアルシェイラだったが。
「あれが、周りの状況に配慮したり、手加減すると思いますか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
既にかなり遠くに行っているにもかかわらず、活剄を使わずにもその輝きを見ることが出来る。
グレンダン上空に二つ目の太陽が現れたと勘違いした人間が、あちこちで騒いでいるのも、何となく伝わってきている。
もしかしたら、汚染物質遮断スーツを身に纏っただけで、ツェルニまで自力で走って行ってしまうかも知れない。
これは少々問題のようなきがしてきた。
「死ぬわねあいつ」
「レイフォン様を怒らせたら、確実に死にますね」
相手はあのレイフォンである。
レイフォンの強さとは何か?
剄量や技量もあるのだが、立つべき大地の堅牢さこそが彼の実力の本質だ。
ガハルド事件は、その大地を打ち砕き、非常に不安定でいつ暴走するか分からないレイフォンを生んだが、それこそが本質だったのだ。
見守るべき存在、孫と言って良いだろうそれがいる時、レイフォンはアルシェイラでも危険視するほどの力を発揮してしまうのだ。
そして、ツェルニに六万人の孫がいる以上、レイフォンに敗北はない。
サヴァリスは瞬殺されるかも知れない。
本人もそれが分かっているからこそ、あの凄まじい輝きを放ったのだ。
クォルラフィンの新しい天剣授受者は、探しておいた方が良いかもしれない。
そう考えつつアルシェイラは二度目の昼寝をするためにハンモックに戻ったのだった。
後書きという名の懺悔かも知れない言い訳。
はい。性懲りもなく集中投稿などと言う事をやっています。
お気づきの方も多いと思いますが、これはレギオスのご近所さん(富士見ファンタジア文庫)の、ブラックブラッドブラザーズからいくつかの設定と多くのインスピレーションをもらってでっち上げました。
十一月初めから始めて、僅かに六週間で完結させました。
いかがだったでしょうか?
実はこれ、始めは賢者リーリンと、護衛者レイフォンのドタバタ珍道中を計画していたのですが、シュナイバル編を考えている最中危険性に気が付きました。
いくつもの都市で奥さんと子供を大量生産しているレイフォンと、それに振り回されるリーリンになってしまいそうだったのです。
これは拙いと言う事で、このような作品と相成りました。
護衛者レイフォンのために、銀色の刀を持っていたり、言葉遣いがやや古かったり、年を取らなかったり、戦闘衣や都市外戦装備は真っ赤なのです。
そして、アヒル口の彼女役は今回ミィフィにやってもらいました。
紫頭は、ヴァンゼの予定でしたが結局出せませんでしたね。
永遠の十五歳はノリですのであまり突っ込まないで下さい。
更に、ここでも戦う男サヴァリスさんが登場。
天剣を持ってツェルニへ。
レイフォンに殺されなければ、この後の汚染獣戦で元気に戦ってくれるでしょう。
ちなみに、この先は書きませんので期待しないで下さい。
書き逃げとか言われそうですが、十六巻があんなことになるとは思いもよらず、このまま進んでしまったら怖いことになりそうなので。
レイフォンとジルドレイドが日向で芋洋館(ここ重要)をつまみつつ、茶飲み話をする。
もちろん、最近の若い者はとか、家の孫はとか言う内容。
そしてその二人を介護(一番重要)するニーナ。
こうなってしまってはもう、蜘蛛の巣が張っても誰も気が付かないでしょう。
と言う事で続きは書きません。
レイフォン(BBR)とジルドレイド(原作)ダン(復活)、ティグリスとデルク(超)みんなそろって老人戦隊、グチレンジャーとか、絶対に書きません。
もちろん、司令官はデルボネで。
もし、万が一にでも書きたい方がいらっしゃったら是非やって下さい。
楽しみに待たせて頂きます。
さて。
初期段階では主役を張る予定だったリーリンが、本編には全く出てきていません。
それはもう名前も出てきていません。
何故か?
ガハルドに殺された?
レイフォンの子供を産んでグレンダンにいる?
他の都市に移住していて、出てこなかっただけでツェルニに居る?
そんな事はありません!
ただ単に、俺が忘れていただけです。
と言う事で、リーリンについてもご自由にご想像下さいませ。
では、この作品が年末年始の退屈な時間を潰す一助になりましたら、これ以上に嬉しいことはありません。
皆さん良いお年を。