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No.18334の一覧
[0] 永劫のアカツキ(戦国時代→現代への転生・15禁:過激な暴力描写)[うどん](2010/08/10 19:40)
[1] 永劫のアカツキ その1[うどん](2010/04/23 22:16)
[3] 永劫のアカツキ その2[うどん](2010/04/26 21:30)
[4] 永劫のアカツキ その3[うどん](2010/05/09 11:06)
[5] 永劫のアカツキ その4[うどん](2010/05/24 00:26)
[6] 永劫のアカツキ その5[うどん](2010/06/04 17:27)
[7] 永劫のアカツキ その6[うどん](2010/06/09 14:15)
[8] 永劫のアカツキ その7[うどん](2010/06/15 01:53)
[9] 永劫のアカツキ その8[うどん](2010/06/21 16:40)
[10] 永劫のアカツキ その9[うどん](2010/06/23 20:49)
[11] 永劫のアカツキ その10[うどん](2010/07/05 11:23)
[12] 永劫のアカツキ その11[うどん](2010/08/06 17:53)
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[18334] 永劫のアカツキ その3
Name: うどん◆60e1a120 ID:065c079b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/09 11:06
「……ああ、帰ってたんだ。ただいま」
家には電気が灯っていた。
こういう顔は、見たことがある。義輝は考えた。
これは、南蛮人の中年男だ。南蛮人の女は見たことがないゆえ分らぬが、年若い後家であろうか?
「帰りが遅くなるなら、連絡ぐらいするんだ。レベッカ」
男の気弱そうな反応に、義輝は逆に身構える。
「ごめんねパパ、チンピラに絡まれたの」
レベッカは投げやりに事実を伝える。パパというのは、父親のことを指す。この生娘は、後家ではなく嫁かず後家であるようだ。
「レベッカ、笑えない冗談だ」
まったくだ。年の14にもなる娘の貞操を案じる父親など、どこにいるというのだ。14にもなって生娘とは、片腹痛いことこのうえない。
異相であるとは思ったが、このレベッカは南蛮の女天狗の中でも格別の醜女なのかもしれない、と義輝は考える。

「そうね、笑えないね」
レベッカは食事も摂らずに自分の部屋に戻り、泥のように眠った。今夜はとても頭が疲れた。
まるで、今まで使ったことがない頭の部分が突然使われ始めたせいで、脳が悲鳴を上げているようだった。
それは生まれて初めて少女が浴びた、羅刹の域に立つ益荒男の血の滾(たぎ)り。人の身では代謝できない領域の、
大型肉食獣に匹敵する脳内アドレナリンの爆発。少女の心に、獲物に襲いかかる虎のそれに匹敵する闘争心を引き起こす、まさに人にして虎の高みに立つ羅刹の
恍惚がもたらした代償だった。

レベッカは、見たこともない小さな部屋にいた。
清廉な空気の中、庭先には炎のような真っ赤な紅葉が、朝焼けに映える。
「レベッカ、でよいのじゃな?」
そこには炎の城の中で見た、全身を返り血に染め血走った眼で凄惨な笑みを浮かべる羅刹の姿はない。
そこにいたのは、古代アジアの少年貴族だった。その装束の仕立てからして、高位の子弟であることは間違いない。
そしてなにより、少年は少女よりも可憐であった。
「……やはりこの姿では、おぬしら南蛮人であっても、男には見えぬか」
少年は、おのが姿をレベッカに見せつけるようにくるりと回り、はにかんだ笑みを浮かべた。

「あなたは、誰?」
「おぬし求めを請けて顕現した暁の輩よ、義輝と呼ぶがよいぞ」
 男子のものとは思えないほど艶やかな色遣いの装束に身を包んだ少年の黒髪が、さらさらとたなびく。
「暁の輩って、なに?」
「ひとことでいえば憑き物、じゃな」
 少しおどろおどろしく言うものの、その姿は楽しげなアジアの美少年貴族のままだ。
「私にとり付いたということ? 私の魂を奪うの?」
「いや、むしろ逆じゃ。暁の輩は、不完全な魂を補完する。太極はわかるか?」
「太極ってなに?」
 少年は木の枝を折りとり、地面に円い陰陽太極図を描く。

「陰が極まれば陽に変じ、陽が極まれば陰に変ず。光と影、火と水、虚と実、善と悪、秩序と混沌のように、この世には相反する要素がある。
それぞれ、片方だけでは存在しえぬ。そして男と女もまた然り」
「男と女?」
「そう、おぬしは女でワシは男じゃ……そこ、笑うところではないぞ」
「だって……女の子みたいな男の子にそんなこと言われても」
「とにかく、男と女が和合すれば、完全な魂となり輪廻を超えて永劫に至る。らしい」

「ふーん……って、『らしい』って何?」
「簡単な道理よ。男女和合が永劫の理ならば、なぜ恋人は別離する?
とはいえ男女の魂を1個の肉体に封じるだけでも、永劫とはいかぬまでも限りなく生命力が賦活する。不老とはいかぬまでも不死には近づき、
先だってのような不可思議な力も現れる。少なくともワシはそう聞いておる」
義輝が常世稲荷から受けいていた説明は、限定的なものだった。
「誰かから授かったの? 人殺しの力を」
「ふん、あの程度の殺生、常世稲荷なくとも、元よりワシには出来たことよ。生物は殺したら死ぬ、人とて同じこと。
不思議でもなんでもないとは考えんのか?」
義輝が憑依し戦った力自体は怪異でも何でもなく、義輝の業だった。 

「じゃああなたは、とても強いの?」
「……強いというより、上手いと言ったほうがよいか。殺人は単に相手の命を奪う業にすぎん。そこには、ただ上手いか下手かしかない。
おぬしは、殺人術の心得がない人間はどれほど簡単に殺せるか、分かっておらぬな」
「あんなに、何人も倒せたのに……」
ようするに、喧嘩より殺人のほうが簡単と義輝は子供に当然のことを諭すように言う。

「喧嘩なら、10歳の少年は15歳の大人に勝つことはできん。これは分かるな? しかし殺人ならば話は別よ。10歳でも15歳を殺せる。
つまり、喧嘩で勝つのは殺すよりはるかに難しい。むしろ、全く別のこととなる」
「でも、あいつらに勝ったじゃない。喧嘩が強いのとは違うの?」
「あれは、組み打ちに勝ったというわけではない、すべて単に途中で殺すのをやめたまでじゃ。あやつらには明確な意思のもとに人は殺せぬ、
ゆえにワシには勝てぬ」
「あなた……何人殺してきたの?」
レベッカには、この表情豊かな少年が、ただの殺人者には見えなかった。
「さあな、覚えておらん。
そんなワシに備わった力がよりにもよって『自身が殺した生物は、元より存在しなかったことになる』こととは。
まこと、虚しきこととは思わんか? レベッカ」

自らの殺人の履歴を問われても、義輝には一切の悲嘆もわだかまりもない。その殺した上からまた殺すような非道な力も持ち合わせてなお、なぜそんなに凛としていられるのか。
「義輝のこと、よくわかんないな」
「そうか……ワシにもレベッカの分らんところがある」
義輝は、レベッカの瞳をまっすぐに見る。殺人者なのに、琥珀色に澄んだ瞳。
「なに?」
「おぬしは、なぜ14にもなって生娘でおるのだ?」
レベッカが義輝に抗議しようとした瞬間、レベッカの目は醒めた。

義輝は、レベッカの瞳を通して現世を視る。
南蛮の鬼の国と思っていたが、よくよく見ると南蛮には南蛮の秩序と人々の営みがある。それは義輝のいた世界とは全く理(ことわり)を異にするものだったが、そのいちいちが興味深かった。
特に、町民も武士も関係なく通うことが義務付けられている「学校」というものが印象的だった。

『なぜ所帯を持つ年頃の男女が、子供のように読み書きを学ばねばならんのだ?』
「ハァ? この学校には、15歳までの生徒しかいないのよ?」
『ふむ、15まで結婚もせずに学問を義務付けられるとは、大変な国じゃの!』
「その先には、高校や大学もあるわ。私は大学に行くつもりだから、少なくとも22歳ぐらいまで結婚しないつもり」
『なんでそんな大年増になるまで結婚せんのだ! 年の14・5ともなれば、元服して所帯を持つ準備をするにしても遅いぐらいではないか』
「昔と今では、平均寿命が違うのよ。結婚年齢だって、平均年齢が30歳に近くなってるわ」
『30とな! もう孫がいてもおかしくない壮年ではないか! ワシなぞ30前に死んだのだぞ!』
「……いくらなんでも、あなたの言ってることは現代と違いすぎるわ。あなたは、いつの時代のだれなの?」
『ワシは義輝、そして今は今であろう? 場所は異国であるようじゃが』
「あなたにとっての今と、私にとっての今は絶対に違うよ!」
『……どういう意味なのだ』
「あなたは、間違いなく大昔の人。つまり、あなたにとって今は未来。あなたの国がどこなのか知らないけど、あなたの国でもぜんぜん違うはず」
『もしかりに、ワシのいた時代が過去だとして……ワシがレベッカに顕現するまでの間に現世では何が起こったのだ? 教えるがよい』
「……義輝、あなた前向きなのね」
『ワシが過去の人間だとしたら、今までに何が起こったのかを知りたい。当然であろう?』
「そうか……義輝、あなた嘘をついてたね」
『ワシは嘘など付いたつもりはないぞ!』
「だってあなたは憑き物……過去の亡霊なんかじゃない。完全に人間よ」
人との対話を欲する幽霊、それも世界の今を知りたがる幽霊なんて聞いたことがない。もちろん義輝は、その気があれば私の記憶から直接必要な情報は取り出せる。
だけど、取り出したうえで敢えて疑問にして問いかける。だからこそ義輝は完全に人間なのだ、とレベッカは思った。



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