午前一時、俺と遠坂は丘の上の言峰教会を離れ坂道を下りた所で分かれる。
遠坂は新都へマスターを探しに、俺はサーヴァントを呼び出すため真っ直ぐ家に。
別れ際、「サーヴァントを呼び出したのなら敵同士、容赦しないわよ」と言われたが俺としては遠坂と戦う気は無い。
むしろ、協力出来ないかと思ってるくらいだ。
家に帰る途中、やはりと言って良いのか、学校が噴火した事は兎も角として、結構な火災があったのだ、まだ警察や記者らしき人が野次馬相手に聞き込みをしていた。
当然、神秘を隠匿する魔術師同士の戦争等行える状況ではない。
「まずはサーヴァントって奴を呼び出さないと」
一息つき土蔵に向かう。
何の事は無い、ここが俺にとって一番落ち着ける場所であり工房になりうるの所なのだろう。
戦う理由が無かったのは教会へ行くまでの話だ、今は確実に戦う理由も意思も生まれている。
せめてもの救いはアリシアを聖杯戦争から遠ざけれた事か、いくら精霊であるポチがついているとはいえまだまだ子供なんだアリシアは。
サーヴァントなんて物騒な相手に巻き込まれたりしたらひとたまりも無い、学校で襲ってきた相手、槍を持っていた事からランサーだと思うけど……何もかもがデタラメだった。
アレは人とは違う、人はあんな風に動けない、まして……俺を相手にしていた時は本気なんか出していないのにだ。
あの不可視と呼べる一撃は恐ろしく重く、鉄パイプとかなんかだったら強化して使っても直ぐに使い物にならなくなるだろう。
宝具の投影に成功していなければ、俺はあそこで終わっていた。
だからといって宝具があれば対抗出来るかと言われても、サーヴァントが本気で来ればひとたまりも無い。
そのサーヴァントを使い、非道を行っている魔術師を止めようとしても、それこそ何も出来ないまま終わるだろう、な。
サーヴァントにはサーヴァントを以てでしか対抗出来ない。
まさにその通りだ―――が、ここに来て気がついた。
「……俺、サーヴァントの召喚方法なんて知らないぞ」
こんな事なら遠坂に聞いておくべきだったか?
いや、遠坂はまず無理、なら言峰か。
何処と無く胡散臭いけど、前回のマスターでもあった奴だから呼び出しかたくらいは知っているだろう。
……明日、またあのエセ神父に会いに良くしかないのか、まあ、サーヴァントを失って保護を願う場合まで来るなって言っていたけど―――その前に呼び出せないんじゃ如何しようも無いしな。
自分の考え無しに呆れため息をつき、仕方なしに何時も通りの魔術鍛錬を始める事にした。
息を整え、落ち着かせ、魔術回路作り、魔力を取り込む。
何故か魔力回路が二十七本に増えているのには驚いたけど、その理由が判らないので考えても無駄と保留にすると手始めに木刀を強化してみる。
「解析、開始」
魔力を流し込み、限界を見据えて止める。
「おっし、成功だ」
手にする木刀はおよそ鋼鉄以上の硬度があるはずだ、成功すると気分が良いものだな。
続いて、今日いやもう昨日か、自分でも知らない筈なのに投影が成功した双剣 干将・莫耶を思い出し投影してみる。
「投影、開始」
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
製作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし、
ここに、幻想を結び剣となす。
流石に宝具なだけはあってか、魔術回路が暴走しかける、それでも結果だけを見れば干将・莫耶は投影出来ていた。
でもこれじゃ駄目だ、イメージが足りないのか直ぐガラスの様に粉々になった。
「くっ」
よくあの時は投影に成功したな、火事場の何とかってやつか?
魔力回路を安定させる為、息を整えている内に眠ってしまったのか、いつも見る剣の夢とは違い変な夢を見た。
見渡す限りの白銀。
そこに巨大な樹の様なモノ。
その生えている葉らしきモノ、一つ一つが何となく世界なのだと解る。
そして白銀は終わり無いのか、果てがなく広がっていた。
世界を生やすモノを樹に例えれば、樹が根を張り支える為の白銀の大地。
なのにソレは意思を持ち、育ち続ける世界樹を管理していた。
言うなれば幾つもの世界が生まれる世界樹を見守る存在。
ソレは小さきモノが好きなのか、死力を尽くし乗り越え様とする者達がいれば力を与えていた。
そんな俺には想像も出来ない力を持つソレですら、次第に無限に枝を増し、芽生え広がり続ける世界樹を管理しきれなくなってきてしまう。
ソレは選択を迫られる。
世界樹を剪定し、不要な枝を無くすか、一つの世界が持つ力を弱め安定させるかの選択を。
ソレには可能性を生み出す世界に、不要なモノ等ある筈も無い。
しかし、命の可能性。
その世界に住む者達にも無意味な存在等ありはしないのだ。
苦渋の末、ソレは一つの世界が持つ理を変える事を選択した。
例え中身が失われ様としても、世界という器が在れば何れ同じ様な存在達が現れる事を期待して。
滅ぼしてしまうのだ、せめて理くらいは選ばせようと失われた世界の者達の代表、破滅する世界で大きい存在力を持つ者、即ち救世主に成る者に選択させる。
その者、救世主の死後、召還器と呼ばれるモノに変え失わせた事を忘れない為に背負い続ける事を選んだ。
だが召還器として成った者も、二度目にはソレの周りに背負うと崩壊してしまう。
仕方無しにソレは座を創り、代理として影を置き背負った。
世界樹の枝が崩壊の危機に見舞われる度、その枝の理を変え世界の力を弱め続ける。
己の罪として背負い続けた者達ではあるが、格枝にて万を超えた時、煩く管理の邪魔になるので召還器達の必要以外の話しかけを禁じる事にした。
何時しかソレの影がある座には幾万もの無言の召還器達が存在する事になる。
時は流れ、ある枝にて中々選択が決まらないと焦ったソレは、理の選択を約千年毎に決めさせる事にしてしまった。
その理、赤と白、二つの世界の精霊が選んだ救世主候補は違い、赤の救世主と白の救世主に別れ。
選定の後、救世主となった叛逆の剣を持つ男はソレを否定し斬った。
ソレと救世主の存在としての格は違い過ぎ、斬られたとしても痛くも無い。
しかし、迷いは生じた。
更に、別の枝でもソレを倒しに座までその男と同じ存在は追いかけ、ついにはソレの影を倒した。
ここに至り、ソレは自分の行いが間違いなのでは無いのか―――
―――俺は何か凄まじい魔力を感じ目を覚ました。
「っ―――何なんだ今の夢は。ったく、俺は神にでもなったつもりなのか?」
家を見れば明かりが点き、居間から話声―――テレビか?
泥棒!?と過ぎるものの、泥棒が堂々と明かりを点けテレビを見ながら寛いでるのだろうか?
「んな訳あるか。くそ、まだ寝ぼけているのか、あれだけ魔力を持った泥棒なんている訳無いだろう」
俺は気配を出来るだけ消して居間に近づき、僅かに戸を開いて中を伺う、と。
「よう、坊主またあったな」
まるでお前何やってだとばかりに俺を一瞥した後、青い男ことランサーはテレビに視線を戻した。
慌てて土蔵へと走り戻った俺は強化した木刀を手にするが、学校の時と違い何故だかランサーは追ってこない。
そもそもポチが追い払わない時点で俺に危害を加えるつもりはないのだろうか?
土蔵から警戒しつつ身を出し、住み慣れた家を見渡す、明かりは居間と……何故か、風呂場から洩れている。
「なんでさ」
思わずそんな言葉が零れてしまっていた。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
Fate編 第6話
最速の英霊ランサーさんの小脇に抱えられた私は、深夜の住宅街をまるで飛ぶようにして跳んでいる。
空中に滞空している時は、まだ空気が当たり痛いで済むけれど、跳ぶ時の衝撃や着地の時の衝撃が凄く、もの凄く痛いし、上や下へと急激に動くので気持ち悪くなって吐き気がする。
いや……もう吐きそう。
ランサーさんの乗り心地は評価すればもう二度と乗りたくない。
「ついたぜ」とぐったりしている私を地面に下ろし、「何だ元気がねぇな」とか口にするけれど、今の私は胃から込上げてくる吐き気と闘争を開始している真っ最中なんだ答える余裕すらないよ。
出しそうならポチに頼んで穴を作って貰おうとも思ったけれど、次第に闘いは私に形成有利なのか吐き気はしだいに引いていく。
「………」
もしかして、ランサーさんと一緒に戦う時は、常に自身との闘いになるのかな?
サーヴァント同士が戦っている最中、マスターである私達はそれまでの気持ち悪さで横になって応援しているのか、それとも伏せていればいいのかな?
マスターの役割とかよく判らないので、それは一旦棚上げにする事にし、向かうは約束の場所であるお風呂、子供の私は風呂に入って寝てる時間なんだよ。
なのに日付は変わり、午前を三時も過ぎていて。
そうだよ、八時間前にも確かに入りましたよ。
でも、地下墓地で染み付いた匂いとか神父さんの嘔吐物とか床のヌルヌルのへどろとかで服もそうだけど身体も匂いがついてるみたいなんだ。
家に入り明かりを点け、時間がないのでお風呂のお湯に力を使い高速で沸かし直す。
「あれ、お兄ちゃんは?」
「一緒に寝ようって言ったのに御免ね」と謝った後、ポチに聞いてみたら土蔵にいるよって答えててくる。
「そうなんだ。お兄ちゃん、あそこが好きなんだね」
じゃあ、とラインを通しランサーには居間で寛いでいてと伝え、私はランサーさんに魔力を供給する為に宝石を起動させて周囲に滞空させる。
宝石の力は制御してある程度の魔力収集するだけに留めながら服を脱ぎ洗濯機に入れた。
周囲の時間を固定して近所に音が漏れないようにしてからそのまま動かすと、ようやく私は念願のお風呂に入れる。
お風呂はとても気持ち良くて「お風呂は文化の極みだね」と湯船になかで寛いでいると、数分してポチからお兄ちゃんが家の中に入ったよと言われた。
そうか、そろそろお兄ちゃんも寝る頃だよねと思いつつ肩までお湯に浸かる。
「極楽だね~」としていると、お風呂の扉が開き木刀を持ったお兄ちゃんが唖然として見ていた。
何だろう、泥棒でも入ったのかな?
「ただいま、お兄ちゃん」
うん、挨拶は人の営みの基本だよね。
「―――えっ。ああ、お帰り。
(何だあの宝石みたいのは!
解析も出来ない、まるで校庭でみたランサーの宝具と真逆、在りえない位に魔力を放出しているぞ!?)」
ふよふよ浮かんでいる宝石を見つめ、何かぎこちない様子のお兄ちゃん。
「ん、どうしたの?」
よく判らないので首を傾げながら訊ねてみる。
「アリシア、ランサーが居るんだ危険だぞ」
真剣な表情で周囲を警戒しているお兄ちゃん。
そうだった、言ってなかったね。
「大丈夫だよ。お兄ちゃん、だって私がランサーのマスターなんだから」
言いながら私は手の令呪を見せた。
「ああ、そうか。だからポチも何もしないぃぃって!?
(ちょっとまて!なら、学校で俺を殺そうとしたのはアリシアなのか!?)」
身体を洗おうと、湯船から出てくる私に振り向き。
「アリシアがランサーのマス、ああ、ごめん!?
(たく、幾ら子供だからって無防備過ぎだ。
そうだった、遠坂が来た時令呪の事も知らなかったし、確か兆しすら無かったな。
その前に、あの時からランサーがアリシアのサーヴァントならポチが襲う理由が無い、か)」
何か慌てた感じでまた顔を前に戻す。
如何したんだろ?
「うん、神父さんが私が危険だろうって護衛につけてくれたんだよ」
「なっ、アイツが!?聖杯戦争に関わらせない様にしたつもりだったのに何考えているんだ、あのエセ神父!?
どうやって令呪を手に入れたんだ?
それに、その宝石。凄い魔力を放ってるぞ、それも言峰からか!?
(―――あの時俺を殺そうとしてたのはあのエセ神父か!
代行者で在りながら魔術師でもある胡散臭い奴だった、遠坂の薦めだからアリシアを預けたけど。
冷静に考えればあの神父、言峰は信用出来ない。
マスターになってしまったとはいえ、無事にアリシアが教会から帰って来れたのは正解だと思う)」
何か、ガーって感じのお兄ちゃん。
ん~、凄い魔力って、そんなに宝石の力は使って無いけどと疑問に思いつつも。
「令呪は、神父さんに頼まれ事をされたときに必要だなっと思ったら出来たよ。
後、これは神父さんは関係ないよ、これ形見になるのかな?
お母さんの持ち物の一つだよ」
「―――っ、すまない。悪い事を聞いた。
(そうだった、アリシアの両親は確かエーデルフェルトって言う魔術師の名門の一門だったな。
名門って事は、歴史が古い系統だ。
なら、中には宝具を持っていてもおかしくないか。
それにしても、令呪ってそんな簡単に手に入るモノだったのか……確かに俺も未熟なのは自覚してるけど選ばれたし―――っ、魔術の名門?)」
お兄ちゃんは何だか「はっ」とした表情になり。
「アリシアはサーヴァントの召喚方法とか知ってるのか?」
「ん、知らないよ」
即答で返事をすると「そうか」と言いながら肩を落としてお兄ちゃんは出て行きました。
う~、今日は色々起きてゆっくりお風呂に入る事も出来ないのかな。
仕方ないので世界からお風呂場の時間を隔離させて、時間が停止しているだろう世界の中で、私は身体や頭を洗い、ゆっくり湯船に浸かり、最後に水気を拭いて、サッパリした気分で持ってきた着替に着替えた。
再び世界につないでから廊下に出ると、居間に向かうお兄ちゃんが姿がある。
後は寝るだけだねと思案しつつ、後に続き居間に行くとランサーさんにサーヴァントって皆ランサーさんみたいに適応力があるのかと話していた。
ランサーさんはランサーさんで「ここに居ろってのは主命だしな、他の奴の事なんか知るかよ」て言ってる。
何かぎこちない感じ――いや、緊張してるのはお兄ちゃんだけだね。
何か二人で話す事があるのかなと思いつつも、私はランサーさんの主、衣食住の問題等の世話はしないといけない。
だからお兄ちゃんに「私、そろそろ寝るけどランサーさんは何処で寝れば良いかな?」と聞いたんだよ。
そうしたら、ランサーさんに笑われた。
何でもサーヴァントは、魔力供給を止めれば霊体になれるって。
更には食事も睡眠も要らないそうだよ、衣食住全てが要らないって話に私とお兄ちゃんは凄いの一言だよ。
「それより、アリシアとランサーは聖杯に何を求めるんだ」
お兄ちゃんは真剣な目で私に問いかける。
「ん、私は神父さんに聖杯が壊れてるから壊して欲しいって頼まれたんだよ。
だから、大聖杯って装置がある場所に行って直せないなら壊すって処かな」
「ちょっと待て!聖杯が壊れてるだって!?」
「うん、『この世全ての悪』が中に入って汚れてるんだって。
『この世全ての悪』は血と闇と呪いだから、どんな願いをしても破壊を手段としての等価交換。
願いを叶える人がいれば、聖杯はそれ以外の人を犠牲にして叶えるんだって」
「それが本当なら悪質処じゃないぞ」と呟くお兄ちゃんから視線を外し、ランサーさんを見る。
ランサーさんは「まあ、いいぜ」って頷きお兄ちゃんに視線を向けた。
「俺が聖杯戦争に望んだ願いは簡単だ。
英霊同士戦い最強である事を証明するだけだ。
元々、第二の生なんて興味ないからな、聖杯がそんなモノなら丁度良いさ、俺を止めないと聖杯を破壊するって事を餌にして他の奴らを倒せば良いだけだ」
「戦って最強を示す、か。そんな英霊も居るんだな」
戦う事が目的と言うランサーさんの願いに目を丸くしている。
「そうか、安心したアリシアとは戦いたくないからな。
もし、俺が呼び出したサーヴァントとランサーが戦う事になったら正々堂々としような」
私に視線を戻し、私の頭を撫でる。
「取敢えず、俺は明日にでも教会にいって召喚方法を聞いてくるよ」
そう言うお兄ちゃんは何処か凹んでいる感じだった。
「坊主、一つ聞かせろ。
学校でのアレは何だ、何故テメエがアーチャーの宝具を持っていた」
やや憮然とするランサーさん。
「アーチャー?
確かあの時、遠坂と一緒に居た奴―――ああ、そうか俺はアーチャーの宝具を」
と呟き。
「ランサーあれは投影魔術だ。
初め簡単に砕けただろ、あれはイメージが足りなかったからなんだ」
そう口にしながら投影魔術を使い包丁を投影する。
「―――投影……そう、か。」
一瞬厳しい表情をしたが、何か納得したらしく「面白いもの見せてくれた、ありがとよ」そう言いまたテレビに視線を戻した。
『マスター、もしかしたらアーチャーの奴も投影魔術を使ってるかもしれないぞ。
だとしたら奴の持つ宝具の数が際限無いのも頷ける。
仮にそうだとして、問題はアーチャーが投影出来る宝具の種類が幾つあるかだ。
まあ、そうそう宝具なんて物が幾つも在るとは思えないが、厄介なのは確かだな』
ラインを通しに私に伝えてくる。
『ん、でもアーチャーって事は飛び道具が得意なんでしょ?
だったら遠距離からの方を警戒した方が良いんじゃないかな』
『そりゃそうだな』
『でも今日は此処までにして、そろそろ私は寝るね』
夜も遅いから話は其処までとして、宝石を停止させるとランサーさんへの供給を止めた。
「なら、俺は屋根辺りで見張りでもしてるさ」
ランサーさんは霊体化すると屋根の上へと行き、「俺も風呂入って寝るかな」お兄ちゃんも風呂場に行く。
今日は色々な事があったなと振り返りながら居間の灯りを消した。
こうして長い一日は終わりを告げる。