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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] リリカル編31
Name: よよよ◆fa770ebd ID:9ef8b6ef 前を表示する
Date: 2018/03/19 20:50

試験を終え、嘱託魔道師となった俺とセイバーは想定される守護騎士や、その後に控えるだろう夜天の書を闇の書に変えてしまった原因であるエグザミアへの備えとして、武装隊と機動六課が合同で行っている訓練に参加していた。
合同訓練と呼び方は仰々しい感じがするけど、演習とかとは違ってやっているのは体をほぐしてから皆で走っているだけでしかない。
……ただ、このところ毎朝走っている距離の倍は既に走っているような気がするし、武装隊の人達のなかには息を切らしている人も出始めている。

「………さすがに朝のよりも疲れるな」

「それはそうでしょう、朝に行うのはその後の職務に差し障らない程度でしょうから」

俺が零した言葉に隣で走っているセイバーが返してくれ、

「それもそうか」

「しかし、緩急つけての走り込みなど体力トレーニングを重視するのはいいことだ」

「そうだな。何事にもスタミナは必要だし」

「ええ、いかに才能があっても体力がない者は斃れるのが戦場ですから」

軽く体をほぐしてから行われたランニングは、走るのも一定の速さではなく、ゆっくり走ったかと思えば駆け足に変わるなどを繰り返していて心肺への負荷や体力の消耗が多いい。
でも、相槌を入れるセイバーからみれば完全武装で包んだ訓練と異なって、重量があってかさばり、かつ蒸れるような鎧を着けてないから余裕の様子。
そうはいっても、時空管理局の局員の個々の護りは主にバリアジャケットという魔力で作られた障壁みたいなものだから重さは無いのと同じで身軽に動けるのが特徴だ。
でも利点があれば欠点もあって、魔術による防護である以上、個々の資質によって差がでてしまうのが悩みの種なんだろう。

「今回のは、特にエグザミアなんていういつ造られたのかも判らないほど古い遺失物が関わってるって話だからな……」

「そうです。それ故に何が起きるか判らない状況では極度のストレスにさらされても冷静でいられるような耐性も必要になるでしょう」

「疲れてたら考えだって上手くまとまらないもんな」

「つまるところ、武装隊など組織の力を示す部門に求められるのは、どのようなストレス環境でも柔軟に対応でき、かつ結果を出せるような者を選ぶ選定方法と訓練なのでしょうね」

「もちろん」と続け、

「指揮する者には相応の実力が問われますし、隊員にしても個人主義的が強すぎる者や犯罪傾向が高い者は除かれますが」

「そうだろうな」

などと話しながら走り続けていれば。

「はい、ランニングはここまで」

先頭を行く機動六課のなのはの声が響いたので、俺もセイバーも走るのを止め呼吸を整える。
そんななか、

「……相変わらずの練習量だな」

「ああ。ここんとこ毎日アップした後は三十キロくらい走ってるぞ」

「気がつかないうちになまってたか……」

「艦内だとここまでしてられないからな、なまっちまうのも仕方ないがこう毎日だと辛く感じてくる」

などと、息たえだえになりかけていた武装隊の人達から声があがっていて、結構走っていたのは判ってたけどそんなに走ってたんだなとか思っていれば、

「皆、呼吸を整えたら各自防護服を装着してメインメニューに入るからね」

そういうなのはの声に、武装隊の何人かは「歳はとりたくないものだな」とか「俺もついにロートルか」とか口にして崩れるように突っ伏した。
どうやら、トレーニングの内容は大人のなのはが向こうの管理局で戦技教官であった事から一任されたらしく、長い艦内生活のせいか久しぶりに行われたハードトレーニングに体がついていかないのか武装隊の人達からは悲鳴が上がり始める。
そんな事がありながらも基礎訓練は終わり、食事を含めた休憩を挟んでからは武装隊の人達と別れ、俺とセイバーは実際に行いながら空での戦いでのアドバイスなどをなのはから教わり、

「今日は色々教えてくれてサンキューな」

「空戦での要領はクロノ達からも教わったものですが、こうして改めて教わると見直す点が解り助かります」

教練を終えて礼を言えばセイバーも謝意を述べ、

「ううん。私が安心して教えられるのは、なんていっても二人の基礎がしっかり出来てるからだよ」

そう、なのはに基本ができてるから告げられて気がついた。

「……言われてみれば基礎ばかっしてた気がするな?」

「そうですね。しかし、何事も基本が出来てなければ応用はただのつけ焼刃にしかならない、基礎は重要だ」

「そうだな」

「私としては、今日したトレーニングがいつか意味のあるものになってくれればいいかな」

「あ、でも」となのはは続け、

「二人とも気になったのはエアブレーキの使い方だよ。
普通は速度を下げる時に使うけど、タイミングさえ間違えなければ急激な減速で後ろをとられてるでも相手の背後につけたりするんだから」

「しかし、背後から斬りかかるのは………」

「そんなに気にしなくても大丈夫。仮に後ろをとったとしても相手も気づいているんだから、一気に加速しての急旋回でさらに後ろをとりに行くか、振り向いて対峙するなりするから」

いくら空戦だからって背後から斬りかかるのを渋るセイバーになのはは利点を口にするんだけど、セイバーが渋るのも判る、なにせ元々持っていた剣は騎士道に反した行いをしたせいで本来なら折れるはずのない剣が折れてしまったんだから。
そんなアドバイスを頂くも教練を終えた俺とセイバーは別れそれぞれの更衣室でシャワーなどで汗を流す、けど更衣室の前では武装隊の人達が汗ばんだ姿のまま座り込んでいたりする。
そういうのも、俺とセイバーがなのはから教わっている間、武装隊の人達は対騎士戦を想定した模擬戦を行っていてヴィータ、大人のフェイト、スバルの三人を相手にしていたらしく合同訓練を終えた頃には力尽きていた感じだったらしい。
俺としても、このところ毎日行っていたアーチャーとの練習ではある意味、精根尽き果てるまでやってるから今日のトレーニング自体はそんなに辛いとは思えななかったが、クロノ達とやっていたのに比べればハードなのは確かだ。
毎日こうしたトレーニングを重ねてるんだから、機動六課は大人のなのはやフェイトだけじゃなくてスバルの他にいるという隊員も含め錬度が高いんだろう。

「お待たせしましたシロウ」

「あ…ああ……」

更衣室から出てきたセイバーに声をかけられ振り向いた俺は、シャワーを浴びたのだから当たり前だけど、ほのかに漂う石鹸の香りや、久しぶりに髪を上で纏め上げているのと違い、肩までまである髪を下ろしてるセイバーを目の当たりにして、なんていうかいつもと違った感覚を受けていた。

「どうかしましたか?」

「いや、なん―――」

「―――きっと、いつもと違う髪形だから新鮮に感じたんですよ」

訝しげに俺を見上げるセイバーに、自分を落ち着かせるように口にしようとすれば、俺の考えなどお見通しだといわんがばかりの言葉を紡ぎながらにスバルがセイバーの後ろから姿を現す。

「なるほど。言われてみれば湯浴みをした後にシロウと会うのはそうそうありませんが……」

「アルトリアさんて強くて綺麗ですから、普段と違う髪型でシロウさんも意識しちゃったのかもしれませんよ?」

「え、あ……ああ。俺もセイバーは綺麗だし可愛いと思うぞ」

「………あ、ありがとうございます」

何故か目をキラキラ輝かせるスバルにつられるように何度もこくこくと頷きながら返せば、褒められるのに免疫がなくなってしまったのかセイバーは頬を赤く染め俯いてしまい、

「そ、そうですね。鎧とは違ってバリアジャケットは全身を包み込んだ護りだ、伸ばしたままでも邪魔にはならない」

「なのはさんやフェイトさんもそうしてます」

「それに」とスバルは付け加え、

「なんでしたら、戦い方なんかも似てますしシグナム副体長みたいにしてもいいんじゃないですか?」

「そうだな。セイバーならどんな髪型でも似合うと思う」

「か…か、考えてみます……」

スバルの助言でセイバーの顔は真っ赤に染まってしまったけど、この言葉はきっと戦いばかりの生活だったら髪型を変えるなんて余裕がなかったのかもしれないという、俺には到底気がつきようもない事を気がつかせてくれた。

「セイバーの事気にかけてくれてありがとなスバル」

「いえ。アルトリアさんは凄い人なんですから、これくらいの事でしたらお安い御用ですよ」

嘱託魔導師試験でシグナムに勝ったから凄いと言っているのか、なんだか目をキラキラと輝かせるスバルは「それじゃ、私は戻りますので」そう告げて機動六課へと戻って行く姿を見送りながら、

「そ、そのシロウはどんな髪型がいいですか?」

「そのままでもいいけど、気になるんだったらスバルも言ってたようにシグナムみたいにしたらいいんじゃないかな」

「わ、わかりました」

なのはやフェイトには悪いけど、横で纏めるツインテールよりもシグナムみたいな方がセイバーには似合うんじゃないかとか思う。
この日はこれで終えたのだけど、次の日―――
昨日と同様、基礎練習を終えた後、訓練場はビルが立ち並ぶ市街地を模した造りに様変わりし、サーチャーから送られて来る情報を頼りに入り組んだ路地に魔力で編んだ矢を数本番えた俺は、こちらと同じく見つかりやすい高所ではなく路地を進む複数のサーチャーに対して放つ。
距離的には千メートルにも満たないのだけど、投影ではなく非殺傷の矢では魔力の圧縮に関する度合いからして、その辺りまでが今の俺の限界になる。
だが、俺の放つ矢の形をした非殺傷設定の魔力弾は何に阻まれるとことなく俺達の位置を探ろうとするサーチャーを撃ち落すものの、それは展開していた相手に対して、魔術による詳細な位置を特定する事が出来なくなる代わりに、方向という大まかな情報を与えてしまうのを意味していた。
本来なら方向のみで距離が判らなければ、ビルやら路地など入り組んだ街並みから俺達の場所を特定するのは難しい筈なんだけど、今相対している相手ならばそれだけで十分といえるだろう。
周囲に展開していた数個のサーチャーの一つから一際高いビルの屋上に動く人影を認め、

「来るぞ!」

人影は何の躊躇もなく高層階から飛び降りれば、落下スピードがついてきた頃合を見計らいビルの壁を蹴るのと同時に飛行魔術を用いて距離をつめる。
相手はたった一人に過ぎないが、そんな風にさえ思えてしまうほど驚異的な相手―――あのサーチャーにしたって、何の妨害もなく探索を続けられるとは考えてないだろう、おそらくは元々墜される事を前提にして大まかな位置を把握できればいいと風にしか思ってなかったのかもしれない。
そんな相手に対し、やや高めのビルの屋上から次の矢を番え放とうとする俺の前で複数の光条が交差すれば、同時に姿を隠蔽する魔術を使う必要がなくなった武装隊が隊列を維持したまま姿を現し、更に砲撃と複数の魔力弾を撃ちだす。
そういうのも、魔力弾は使い勝手がいいけど圧縮魔力の関係から距離的に概ね二百か三百メートルまでが効果範囲としてみた方がよく、それ以上の長距離には砲撃が使われる事となる。
俺がサーチャーを撃ち落したのを機に姿を現す相手を認めた武装隊は、機先を制するべく隊列を組んだままそれぞれが砲撃を放ち、避けにくいよう幅の広い火線にしたが、砲撃が放たれる瞬間動きが変わり砲撃の光条と光条の間をすり抜けるよう速度を落とさずにかわしてしまい。
武装隊の人達も冷静に次の手を用いるものの、続いて砲撃を放つ者と魔力弾に切り替える者とで判断が分かれたのだろう。
ミッドチルダ式魔術は距離を置いての戦いを主体としているので、距離があるという事は俺達に分があるようにも思えるが―――残念ながら、今相対している相手はその程度で止まるような相手じゃない。
ミッド式の飛行魔術に加え、幾つもの足場を形成した蒼い疾風は魔力放出を使いながら凄まじい速度のまま幾方向にも動きを変え俺や武装隊の放つ魔力弾を避けるばかりか、切り払いながら迫り来る。
こうしてセイバー相手にミッド式魔術を使うのは初めての事だけど、セイバーの動きは、リズム感とかクロノが使う乱数を用いた回避方法とは違って俺達の考えでも読んでいるのか、射った後から動きを変え狙が外れる為に薄気味悪い。
なんでこんな事になっているかといえば、なのはを除く機動六課が参加していたのは昨日までで、大人のフェイト、ヴィータ、スバルの三人は闇の書の一つである守護騎士対策としての拠点とするマンションへと先に向かっていたからだ。
なのはにしても武装隊との教練は今日で終えるのもあって、今日の模擬戦の相手は戦い方が騎士に似ているからという事からセイバーが俺を含む武装隊の皆の相手となった。
もちろん、セイバーには対魔力があるのでそのままだと模擬戦にすらなれないが、デバイスにストライクアーツの試合などで使われる当たり判定の有効無効を判定するプログラムを用いたので、魔力弾なり砲撃が当たれば当たる角度や威力の状況からバリアジャケットにエフェクトがかかって動きが制限されるという。
そんな訳で、本来なら多勢に無勢のはずなんだけど、俺や武装隊の放った砲撃、魔力弾の集中砲火を受けながら何らペナルティもなく切り抜けたセイバーの姿が不意に消え、再び姿を捉えた時には前で展開していた武装隊の人達に撃墜の判定が下されていた。
どうやらセイバーは、ソニックムーブを使って姿が捕らえられない程の速さをもって駆け抜けざまに武装隊の皆を斬り伏せてしまったらしい。

「調子は悪くないようだ」

ソニックムーブを使った感触を口にしたのか、俺の耳に呟き声が入るかどうかと思う間もなく振るわれる剣を受け止めた。

「ぐぅぁぁぁ!?」

イデアルを弓から篭手に変え魔力刃を展開するのや、脳を含め全身を最大にまで強化するのに間に合って受け止められたといっても、加減されてるだろう魔力放出の他に飛行魔術やソニックムーブ、ブリッツアクションなどが組み合わさった一撃の衝撃は凄まじく重い。
いくら武装隊の皆を斬り伏せた事でいくらかスピードが削がれたといっても、元々セイバーの洒落にならない一撃を受け止めた俺は、そのまま屋上から弾き飛ばされ隣のビルの壁に叩きつけられるわ、元々魔力で構築されていたからか、そのまま突き破って室内にまで吹き飛ばされるはめになってしまった。
だが、壁に激突した事で勢いが削がれたのもあって飛行魔術の姿勢制御とエアブレーキを用いて体勢を安定させつつ止まり自身の状態と周囲の状況に気を配る。
……受け止めた腕はもとより、叩きつけられた衝撃によって体のあちこちにまだ痺れが残るけど、バリアジャケットがあったからすぐに治る程度ですんでる。
でも、逆にいえばバリアジャケットが無ければ死んでたんじゃないかとか過ぎるものの模擬戦はまだ終わってはいない。
それに、室内はオフィスビルを想定しているのか、広々としているけれど内装は簡略されているらしく机や椅子なんかの家具なんかは見当たらない。
家具などで動きを阻害される恐れはないけれど、問題は圧倒的なセイバーを相手にどこまで戦えるか、か。
ああ……そういうば、ずいぶん昔に言峰がサーヴァントにはサーヴァントを以てでしか対抗出来ないとか言ってたなとか思い出してしまう。
加え、俺どころかアイツでさえ剣での戦いとなればセイバーに勝るとは思えない―――が、それは剣での戦いではという意味であって戦いそのものに勝てないという意味合いじゃない。

「結局、やれるだけやるしかないって事か……」

模擬戦であろうと真剣勝負には違いないんだ。
俺にしてもセイバーにどこまで近づけたかを確かめられるいい機会になる、ならばと魔術回路に設計図を描き、周囲に四発の魔力弾を展開しながら先ほど空けた穴の近く、入ってくるだろうセイバーには死角となる筈の所にサーチャーを一つ移動させる。

「―――模倣、開始」

必要なのは必殺ではなく必倒、しかしセイバーを相手にする以上生半可なものでは彼女には到底届かない、この部屋がもう少し高さがあれば他にも手立てがあるのかもしれないけど、オフィスなのか広めではあるものの天井までの高さが足りてない。
ならば俺が使える手札のなか、この状況に適した最強を選んで魔術回路に込め、設計図を元に剣が秘める持ち主の技術、経験により共感を深めながら引き出すしかない。
だけど、ふと視線を戻せば壊れた壁の片隅で何かが動いたのが目に入ってきて、その光る球体はセイバーが送り出したサーチャーだったりする。
………そうだ、セイバーだってもうただ剣を振るう剣士って訳じゃない、ミッドチルダ式魔術を学んだのだから取れる手段の数も段違いに増えているんだった!?
慌てて横に跳べば、こちらの様子から問題なしと判断したらしいセイバーは、空いている壁の外で足場が形成されたのを切欠に瞬き一つする間も空けず向かって来た。
すぐさま迎撃として用意していた魔力弾を射出させ、二発は容易く弾き飛ばされてしまったが残る二つは元々セイバーを狙わず手前で衝突させ衝撃を発生させる。
相手の目の前で手を叩いて虚を突く、いわゆる猫だましを魔力弾で行っただけだが、直感なのか衝撃が発生する手前で影響を受けないようセイバーは身を引きペナルティこそ与えられないものの効果は十分、

「模倣、装填(トリガー・オフ。)。全工程模倣完了(セット)―――!!」

片腕の魔力刃に魔力を通し通常よりも刃を長く伸ばさせ、魔術回路にセットしていた設計図に撃鉄を落として宝具とも呼べない剣から使い手が用いていた業を自らの体にて再現する!!

「―――是、射殺す百ぐふぁ!?」

バーサーカーの斧剣から射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)を読み取り、再現した筈の俺は何が起きたのか解らないが何故か壁に叩きつけられていた。

「……流石ですシロウ、今のは危なかった」

叩きつけられた衝撃で呼吸が一瞬とまった俺に「腕を上げましたね」との声が下から聞こえ、衝撃を受けた時に閉じていた目に髪止めの蒼いリボンが映り、その先には馬の尾のように結い上げられた髪が目に入ってくる。
……状況から察すると、魔力弾が衝突して発生した衝撃を避ける為に踏み込みを止め後ろに下がったはずのセイバーは、俺の企みに気がつきソニックムーブを使ってのカウンターとして体当たりを行ったようだ。
という事は、セイバーにはミッド式魔術での飛行魔術を習得した事から分かっていても避けられないような攻めを受けたとしても対応できてしまえるようになったらしい。

「セイバーには通じなかったけどな………」

「そうでもない。私の方も剣を振るう余裕がなかった」

もしかしたら、セイバーに届くんじゃないかとか思ってたけどまだまだだったなと漏らす俺に、あと一歩のところまで来ている励ましてくれる。

「そういえば、セイバーは無理な体勢からぶつかって来たんだろ大丈夫か?」

セイバーの体当たりを受けはしたが、体が少し壁にめり込んでしまっているらしく両足がついてない感覚がある程度で、それ以外は問題ない俺はセイバーの方は怪我とかしてないか聞いてみたんだけど。

「ええ、ですが……」

大丈夫と返すセイバーだけど、いいよどみながら向ける視線を後ろを追ってみれば、ふと俺の片腕がセイバーを支えるように腕をまわしていたので離れられないでいた。

「ご、ごめん」

「い、いえ」

いつも思うけど、セイバーは小柄で華奢な女の子だから反射的に支えてしまったのだろうけど、突然そんな事をすれば驚かれるのも無理はない。
それに、なんていうか互いに顔が近いのにも気がついてしまい鼓動が妙に大きく聞こえはじめる。

「………悪いけど、まだ模擬戦の最中なんだ」

互いに体が上手く動かず、離れられない状況のなか「そういうのは帰ってからしてね」とでも言いたげに苦笑いを浮かべているなのは壊れた壁から顔を出していた。

「あ、いや。見ての通り模擬戦は俺の負けだ」

壁に押し込められていて身動きできないのだから、これ以上は戦いようがない。

「しかし。私の方も肩から行った時に剣もシルトも下に向けていましたから背後に腕を回されては上手く身動きが取れない、逆にシロウの片腕は自由に動く」

「……でも、こんな体勢じゃあ力なんか入らないぞ」

自由に動けても、セイバーが腰が入らないで振り回すだけの刃なんかを恐れるとはとても思えない、それに非殺傷とはいえ力が入らない魔力刃なんかがあたっても防護服で弾かれるだけだ。

「その辺も含めて、何が良かったか悪かったかこれから皆で検討するから。
元々試合とは違って、模擬戦は実際に戦いが起こる前に悪いところとか不足しているのを洗い出す為のものだもの」

「勝敗は二の次という事ですか」

「そうだね。勝敗がついた方が分かりやすくて、勝った方が自信につながるのは確かだけど、勝った方も悪いところが無いわけじゃないし、反対に負けた人の方がいい動きをしていたりもするから一番て訳じゃないかな」

そんな話から、なのはに連れられた俺とセイバーは武装隊の人達と合流すれば、空間に大きい画面が広がって今回の模擬戦の検討が行われ始められ所々にカメラが仕掛けられていたらしく模擬戦における互いの動き映される。

「先ずは、お互い離れた所から始めたから相手を捜すところからだね」

画面が分かれ、互いにビルの屋上に移動してサーチャーで捜し出そうとする俺とセイバーの他に、奇襲を避けつつ先制を放てるよう武装隊の人達は姿を消しながら上空から捜していた。
確かに、こうして第三者的な目線で見れれば自分の動きが良かったのか悪かったのかが分かり易い。
俺は武装隊の人達とは違って、魔力を温存する目的から見晴らしのいい屋上を選んだけど、セイバーがビルの屋上を選んだのは別の理由もあるからだ。

「凄いね。落下速度に加え、足場を使って全身のバネを使って飛行魔法の初速を上げてる」

「ええ。多数を相手取る時に必要なのは常に先手をとれる機動力ですから」

魔力放出などで初速を高めての飛行魔術を行使するセイバーは、気がついて砲撃を始めた武装隊の砲撃と砲撃の間をぬうように避けつつも減速する様子もない。

「射線を見切ってるけど、アルトリアさんはどうやって避けてたの?」

「勘です」

「え、か…勘」

大人のなのはも、教導にどれくらいの年月を費やしてきたのかは判らないけど、直感で避けましたと告げるセイバーに目を丸くした。

「勘などでは、まるでこちらの動きを読んでいるかのような動きの説明がつかない……」

「そうだ。勘なんていう曖昧なのでは」

「ああ」

聞いていた武装隊の皆も、それでは説明になってないと声を上げ始めるんだけど、

「ううん。私も少し驚いたけど、勘もちゃんとした理由だよ。
話に聞いた程度だけど、表層意識じゃなくて無意識の領域で様々な経験からもたらされる情報を処理して行うそうだから、雑念が多いい表層意識よりも高速で状況を分析できるっていう話だけど、そこまでに至るのはごく一握りの人達だけかな」

「……いわゆる、明鏡止水とか無我の境地ってやつか」

「そうかもね、余程の経験を元に精神を……それこそレアスキルにまで昇華させるほど研ぎ澄ませなきゃ出来ない技術だね」

大人のなのはは、俺には想像もつかない広大な次元世界から局員を募っている時空管理局で教導をしているからか、セイバーの直感に似た例すら話しには聞いていたという。
流石になのは自身も解らない事なので教導するのはできないようだけど、武装隊の皆も一応納得したようだ。
そして、更に映像は進みセイバーがソニックムーブを使って姿が掻き消えるシーンに入る。
超スロー再生にして、ようやくセイバーがソニックムーブと足場を使いながらほぼ直角に動いた事から視界から消えたように見えたのが判明したんだけど、そこまで遅くすると今度は武装隊の方の動きが止まっているみたいにまでなっていた。

「……教官殿、アレはどうしたら避けられたのでしょう?」

「正直、難しいかな。散開して絶えず回避し続けながら連携をしても、ここまで速度差があると個々に撃破されそう。
アルトリアさんって、制御が難しい高速瞬間移動魔法のソニックムーブに加え、一撃一撃が必倒の威力を持つ魔力付与攻撃を続けて繰り出せるレアスキルを持ってるから、間合いに入られたら途端に墜されそう」

大人のなのは「そうだね」と続け、

「アルトリアさんからすれば、どんな風だったらやり難かったかな?」

「そうですね。今回の武装隊の方々は互いに補えるよう密集していましたので、懐に入れば楽でしたが、散開しながらでしたらもう少し時間がかかっていたかと思います。
しかし、時間をかけていればシロウの矢を捌ききれなくなるかもしれない」

尋ねられたセイバーから返されれば、

「………時間の問題か」

「魔力を温存するのに分けたのが失敗だったのかなぁ……」

「それよりも、隊をもう一つか二つに分けての方が無難だったかもしれない」

武装隊の人達から口々に上がる。
そうしているうちに、俺がセイバーの一撃を受け止めたにも関わらず隣のビルにまで吹き飛ばされたのや、魔力放出による踏み込みプラス、ソニックムーブが併用された体当たりで壁に押し込められたのが流れ。
武装隊の皆がなかば呆れるような視線が注がれるなか、超スロー再生から俺が放った射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)は、初速の速さから衝撃波すら起こしていたようだけどセイバーは掠めるようにして懐に入って来ていて、そのまま体ごと叩きつけていたのが判る。

「……私もソニックムーブをこういう風に使う人は初めてかな」

「シロウが使おうとしていたのが何なのかは判りませんでしたが、それは私を倒せるものだと判断したので咄嗟に行える方法をとりました。
もっとも、その後は私も剣を振るう余裕がありませんでしたので詰めが甘いのは認めるところです……」

咄嗟の体当たりとはいえ、なのはが所属する教導隊の方でも高速瞬間移動を目的としたソニックムーブを、こういった風に用いた例は無いらしい。

「これも攻勢防御の一例なのかな。でも、アルトリアさんはもう少し魔力弾とかの使い方を学んだ方がいいかもね。
折角、サーチャーを使ったんだからビルに突入する際に先ず魔力弾で牽制してからの方が無理なく行けると思う」

「なるほど、戦いの幅が広がります」

なのはが言うアドバイスに頷くセイバー、ようは制圧射撃をしてから突入しろって事か。
まあ、その場合は俺も魔力弾で応戦できるだろうけど手数は勝ったとしても、元々の魔力差から一発の威力が違うだろうから小細工をするのは難しくなる。
それから俺やセイバー、武装隊の皆、それぞれに良し悪しや助言を交えるなのはは、「それから」と一拍間を置いてから、

「この後、私は皆より一足先に八神部隊長と合流、機動六課に復隊します。
機動六課として、現地の第九十七管理外世界にて闇の書対策に従事する事になるわけだけど、今回の教導は短い間しかできなかったから基礎的な事しかできなくて、対騎士戦での心構え程度しかできなかったのが心残りかな」

「おかげで、艦内生活の慣れってやつでなまっていたのがよく解ったよ」

「一つ、古代ベルカの騎士を相手する時は必ず単独での行動を避け、相手よりも速さで勝っているのなら無理に交戦せず、数の利を生かしての包囲にて消耗させる」

「二つ、突破力に優れた相手による奇襲・強襲が行われても相互の支援を怠らないように」

「三つ、それらが難しい場合、可能な限りの情報を収集したのち撤退する」

俺とセイバーは二日しか教導を受けてないから何ともいえないが、これまでなのはの教導を受けてきた武装隊の皆から声が上がった。

「シグナムもヴィータもアルトリアさん程の突破力は無いけど、もしも交えるような事になったら単独での交戦は厳禁だからね」

にこりと微笑むなのはだが、俺としても魔術を扱えるセイバーみたいのが何人も現れるのは困る。

「本音を言えば、もう少し時間があったらそれぞれに合った教導がしたかったんだけど……あ、それから士郎君とアルトリアさんは明日、マリーさんの所でデバイスに録音や録画とか捜査に必要な機能のアップデートしといてね」

先に地球におもむくなのはは、別れを惜しみながらも俺達のデバイスには捜査とかに必要な機能が欠けているのを指摘して、翌日、俺とセイバーはいつものように出勤するアリシアとアサシンと一緒にマリーさんの所へと向う事になる。
俺達が後にするアースラはまだドックに入ったままの状態で、この前まではメンテナンスの為に入っていたのだけど今は闇の書対策の一環でアルカンシェルっていうのを新たに搭載するらしく作業を進めている局員達が忙しく体を動かしていた。
そんな改装中のアースラからマリーさんの研究所までの間、特に競争をしているわけじゃないが、アリシアはとてとてと走って先を行っては「はやく、はやく」と両手を振りながら急かし、ポチも後を追うようにしてアリシアの足元でくるくると回っている。

「いちば~ん!」

ぴょんと軽い足取りでジャンプして研究所の扉の前に着地すれば、マリーさんが勤める研究所の自動扉は何事もなかったかのように開く。
本局の技術官であるマリーさんがいる研究所は本来ならば何人かの職員がいるのが普通らしいが、今は擬似リンカーコアシステムの試験運用の関係で現地にいるとかでマリーさん一人になっている。
そんな研究室は、相変わらずわからない機器が揃っているが前と違うところはモニターが壁以外にもマリーさんの周囲を囲むようにして空間に浮かび、関連するデータでも比較しているのか交互に視線を交えながら作業を進めているところか。

「おはようございます~」

自動扉をくぐるなり元気に挨拶するアリシアに続いて俺達も挨拶をすれば、モニターに囲まれながら仕事をしていたマリーさんも振り向きながら挨拶を返すもののどこか表情を曇らせていて、

「……やっぱり、運用試験している所も含め随所からカートリッジシステムが使えるようできないかっていう要望の声が上がっているの」

「現場が大変なのは考慮するが、やはり欲はでてしまうものか」

アリシアと一緒にいてくれる時間が長いアサシンは試験運用の内情にも詳しいらしく、やれやれとばかりに呟く。

「前も言っていたけど、本当に駄目なのか?」

以前から、擬似リンカーコアシステムはカートリッジシステムには対応してないと言っていたのは知っているけど、寄せられた要望が映されている画面を開いているアリシアに念のため問いただしてみれば、

「問題なのはデバイスの魔力を送るユニット、元々循環型や増幅型のデバイスでも送られる魔力にはある程度のノイズみたいのがあるんだけど、カートリッジによる激しい衝撃が来たら今想定しているユニットじゃ耐えられないから壊れちゃうの。
でも、高いユニットならそういったノイズが少なくなるよう工夫されて低減さもれてるから、高いユニットに加え、他の部品とかも魔力の流れに生じるノイズを減らせるようなのに変えてしまえばカートリッジにも耐えられるようにはなるよ」

「でも、そうすると全体的にアップグレードしなくちゃならないから、一つ辺りの予算は最低でも十倍以上も跳ね上がっちゃうんだけどね」

飛躍的に調達コストが増してしまう事への懸念か、マリーさんは小さく息をはいた。
そりゃ一人二人ならともかく、次元世界の多くで働く時空管理局の局員に行き渡らせるとすれば、費用の増大は政治的な話しや治安維持にも影響を与えてしまう。

「擬似リンカーコアシステムの凄いところは所持者に魔力を供給する以外に、ほとんどの部品が市場に出回っている既存の民生品だけで組み上げられてるからコストが低く抑えられるの、それに教導隊の方も今回ばかりは例外的に複数に分かれて早急に試験運用してくれてるけど、こうも早く出来たのは新たに特殊な部品を研究する開発期間がほぼ無かったからが大きいのに……」

「大人のなのはやフェイトの方では、こちらよりもカートリッジシステムによる負担は軽減されているようですが?」

こことは違う次元世界、初めに俺達が訪れたここよりも十年ほど未来の世界では何かしらの新しい技術が加えられたのか、こちらよりもカートリッジシステムの負担が少ない話をセイバーがすれば、

「確かにカートリッジによる人体への負担は減っているよ、でも、それは急激に生じる負荷をフィルターみたいなので緩衝させて人体やデバイスに対する衝撃をやわらげているだけで、擬似リンカーコアシステムが動作に支障をきたすノイズそのものを減らしているわけじゃないんだ」

デバイスショップの店長か店員に聞いたのか、アリシアは向こう側のカートリッジシステムの仕組みとかにも詳しい。

「こちらよりかは安くなるかもしれないけど、安全面を考えるなら全体的な内部の強化が必要になるのか」

「無理に用いれば、何者かと交戦している時に異常をきたしてしまう恐れもあるという話ですね」

結局、無理をしてデバイスの動作を不安定にさせてまでカートリッジシステムとの兼ね合いさせるメリットよりも現状ではデメリットとの方が勝るのが俺やセイバーにも解った。

「単純計算いえば、一人で最低でも五人か十人の働きをしてくれる人ならいいのかもね」

「それはそれで問題だ」

「下手をすれば過労で精神に異常をきたすか死んでしてしまう」

単純計算という机上の計算では過労の悪影響を理解するのは難しいのかもしれないが、二十四時間休日なしの神の座を手伝った経験者としては、かつて救世主だった奴らでさえ精神を病みかねない状況があったから俺もセイバーも過労による影響を軽くは見られない。

「要は懐の事情さえ良ければ解決する問題のように聞こえるが、話はそうそう安易でもないらしい……」

更に内情に詳しいアサシンが口を開けば、

「うん。使えるようになるっていっても全体的に負荷がかかるようになちゃうから、それまでの設計みたいに故意に負荷を特定部分に集中するようにはできなくなるからメンテナンスが簡単じゃなるし故障する確率も高くなる筈だよ」

「あとは、メーカーに魔力の変動幅に高い耐性を持つ部品を作ってもらうしかないけど、メーカーだってすぐにできるって話じゃないものねぇ」

例え予算を出してもらって作ったとしても、擬似リンカーコアシステムほど故障率が低くもなく、依頼するメーカーと共同研究を行う必要から別に開発予算を組まなければならなのもあるばかりか、素材や構造に対する研究には時間も金もかかるとアリシアに続きマリーさんも困り顔で話す。

「そいう話から、ない袖は振るえないという結論に達して、安く多く調達するのであれば現状のままになってしまうとの事だ」

「先ずは今の擬似リンカーコアシステムを使ってもらいながら、カートリッジに対応出来るようになるのは要望を聞いてくれるメーカー次第って感じかな」

「やっぱ、そういう風な流れになるんだな」

「そのようですね」

言い出したアサシンが結論をまとめ、現場からの要望とはいえ結局のところ現在、試験運用が行われている擬似リンカーコアシステムは構造的な問題からしてカートリッジシステムへの対応はできそうになく、マリーさんも飽くまでもこれからの話という事に俺とセイバーも納得した。

「ところで」

擬似リンカーコアシステムの話から本来の目的に戻そうとセイバーは話題を切り替え、

「私とシロウは昨日、なのはから嘱託魔導師としての任務にあたる上でデバイスの機能が不足しているという指摘を受けて来たのですが、どうすればいいのでしょう?」

「その報告は受けてるから大丈夫、必要なユニットはこちらで用意しているから」

俺やセイバーでは技術的な話は難しいのもあり、セイバーが今日訪れた理由を口にすれば既になのはの方からマリーさんに連絡いっていたようだ。

「支払いはどうすればいいんだ?」

「え……いや。管理局の業務で入れるのは必要経費扱いになるから、特にそういうのはいらないかな」

「え?」

俺の言葉が以外だったのかマリーさんは一瞬きょとんとしたけど、反対に俺とせいバーはデバイスの部品もけっこう高価なのを知っていたから、幾ら部品だからといってもタダになるなんて思いもしないでいたので目が点になる。

「無料なのですか」

「ええ」

確認を入れるセイバーにマリーさんは頷いて返し、

「先にこっちの運用データをまとめてるから、その間に使い方を見といてくれる?」

指先を幾つか動かせば、使い方というか取扱説明書らしきものが空間に映し出され、俺とセイバーも異論はないので「わかった」、「ええ」と返事を返して空間に現れたモニターを移動させつつ近くの椅子に座る。
しばらくして、

「アリシアちゃん、昨日の分の仕分けは終わったから後のチェックをお願いできる?」

「は~い」

マリーさんに返事を返すアリシアは、運用試験を行っている所以外にも、擬似リンカーコアの術式を用いている部署からの要望なども入っているだろう画面を閉じた後、近くの椅子に座りながら別の画面を開いて目を通し始める。

「しかし、アリシアに任せてもいいのですか?」

「ええ。流石に開発者だけあって詳しいわよ」

「……いや、管理局の方がよければいいんだ」

俺やセイバーは、アリシアが『原初の海』とかいう神様の上司とパスみたいなつながりがあるのは知っている、だから何か問題があればきっとその上司が教えてくれたりするんだろうから能力的には心配してない。
けど、若干六歳程度の子供に重要な開発関係の仕事を任せるのは世間体というか、いくら次元世界の就業年齢が低いとはいえ管理局としてどうなんだろうとか思ってしまう。

「ああ、そういう話ね」

考えが顔にでも出ていたのか一拍の間を置いてからマリーさんは、

「始めの頃は上層部の方も疑念をもってたみたいで、アリシアちゃんが扱うデータは一緒にチェックするよう指示もあったけど、私達が見落としていたのを見つけてしまえるのが判ってからは研究室で働く大人とかわらない扱いになってるのよ」

「マリーもよく理解がありましたね」

「私は元々術式からのつきあいだからアリシアちゃんの実力が本物なのは身近で解ってたもの」

「ふふん、マリーさんに褒められたよ」

当の本人は、滝のように上から下に流れるデータに視線を合わせつつも、足元でくるくる回っているポチに話しかけていた。

「でも、実際すごいわよ。なにせ向こう側の世界、ここよりも十年は進んでいる次元世界ですら成しえない技術を考案しちゃったんだから」

「しかも、それが人手不足で悩む時空管理局にとって解消に一役買う重要な技術となれば期待は嫌でも高まるというもの」

アリシアを褒めるマリーさんにアサシンは付け加え、

「そんな事だから、私達の部署じゃ初めから一目置かれた状況から始まってるの、余程の事がない限り信頼は厚いかな」

「以前、グレアム提督と会った時には既に研究・開発の部門での信頼は磐石だったという訳ですね」

「そういうこと。それじゃあ、二人ともデバイスを出してもらっていい」

マリーさんはてきぱきと作業を進め、幾つかの部品を用意して俺とセイバーのデバイスを待ち、俺がイデアルを出せば、セイバーも改めてグレアムさんと初めて会った時の事を思いだし「なるほど、そうでしたか」と洩らしながら作業台の上に置く。
それからは、マリーさんが追加の部品を組み込んでいる間、俺とセイバーが説明書を見て気になったところなどを聞き、お昼を挟んだ後も雑談を交えながら作業は進み俺とセイバーのデバイスに新たな機能が付け加えられた。
実際に使ってみれば、空間モニターの要領で録画した映像などを表示させたりや、音声の録音、それには以前にはできなかった留守番電話みたいな機能も追加されているのが確認できた。
向こう側のミッドチルダのデバイスショップで見た限り、この手の機能を持った部品はそれなりの値段をしていたから無料という話に気が引けなくもないが、俺としては他にもアサシンに任せきりにしていて気になっていたアリシアの仕事ぶりも一緒に見れたので安心したところもある。
そのアリシアも擬似リンカーコアシステムの運用データから稼動状態から構成する各部品の消耗率などを調べ異常がないか確認する作業を終え、マリーさんに淹れてもらったココアを飲みながら一息入れてたので俺達もマリーさんに勧められありがたくもらう事にした。
そうしているうちに時間は流れ、時計ををみれば夕方とも呼べるような時刻になっていた頃、不意に別のモニターが開き、

「僕だ。早速ですまないが嘱託魔導師になった君達に頼みがある」

モニターに映るクロノが一拍置いてから、

「悪いが、遠坂凛とアーチャー見つけてくれないか、君達と同様、嘱託魔導師についての話をしようとしてたんだが無限書庫にいるからか、なかなか連絡がとれないでいるんだ」

「まだ取れなかったのか」

「ああ。空間モニターには登録した人物の他に、魔力パターンや個人の特徴を捉え通信を送る機能があるから大抵は割り出せるんだが、今回ばかりは何故か連絡がつかないでいる」

俺とセイバーに話があったのはもう何日も前の話だっていうのに、まだ連絡すら取れてなかった事に逆に驚いてしまう。
一方―――

「なるほど、それで………」

そうセイバーは呟き、空間モニターなる通信が連絡相手を見つけるシステムがどういった方式なのかが解って関心しているようだ、まあ、俺やセイバーが登録されたのは初めてアースラに乗った時にと考えるべきか。

「わかった。こっちも終えたところだから捜してみる」

「頼む」

「凛を捜すのであれば、まずは最近入り浸っている無限書庫からの方がいいですね」

「そうだな」

「私も凛さん捜しに行く」

「でも、アリシアはまだ仕事が残ってるんだろ?」

わずか五、六歳の女の子に仕事がどうのとか言うのも変だけど、アリシアが開発してるのは時空管理局から期待されてるのだから俺やセイバーで間に合うのなら巻き込む必要はない。

「ううん、大丈夫よ。今日の分の検証は終えてるし、今のところ要望はあっても擬似リンカーコアシステム自体の改善要求は上がってないから、課題となるのはカートリッジシステムへの対応だけど、それは今後の状況次第というしかないから」

「うん。今日の仕事は終わってるよ」

マリーさんに合わせるようにちょこんと椅子に座りながら胸をはるアリシア、

「むしろ、教導隊の試験が終わって承認が下りたら擬似リンカーコアシステムの出力強化やカートリッジシステムへの対応、持って来てくれたガジェットなんかも今は別の技術部が解析しているところだけど、搭載したモデルの開発なんかも本格的に始まるから大忙しよ」

「……流石に子供相手にそこまでは無いんじゃないか?」

「それだけ期待されてるのよ、アリシアちゃんもシステムも」

マリーさんとやり取りをしながらも、俺は思う次元世界の労働基準法ってどうなってるんだと………

「先の話はどうあれ、こちらとしてもアリシアとアサシンも一緒の方が都合がいい」

「どうしてだ?」

「仮に凛を捜すのに手間取る場合、別々で行動していたらシロウは夕食を作れない連絡を入れ二人に外食を勧めなければならない。
しかし、一緒にいるのならば共に近場で済ませられます、他にも、その後アースラに戻ってもらえば凛が戻って来たとしても私達に連絡を入れられる」

「それもそうか」

「わ~い。今日はお外でご飯だ」

「さて、どういった趣の料理がよいか」

セイバーの言う事も一理あるなと思う俺だけど、社員食堂みたいな所はあれ、外食に行く機会が少なかったからかアリシアとアサシンの二人は既に外食する気満々のようだ。

「わかった。そうしよう」

ここは俺が折れるしかない、か。
とはいえ、結論からいえば遠坂の足取りをたどるのは難しくなかった。
そういうのも、無限書庫にはユーノも手伝いをしているので聞いてみたところ、遠坂は無限書庫ではなくこっちの方、本局に来ているらしく受付に連絡を入れれば訓練場でシミュレーターの予約していたという話が帰ってきた。
その為、訓練場へと俺達四人は脚を運んだのだけど、そこにいたのはアーチャーの方で、

「む。小僧に皆してどうした」

遠坂に頼まれたのか、赤い聖骸布に黒い胴鎧を身に着けた姿のまま空間に浮かぶモニターを操作していたアイツは俺達に気づき、

「遠坂を捜してるんだけど、どこにいるか判るか」

用件はなんだというアイツに問い返す。

「そうか。なら凛に変わるとしよう」

言うなりアイツの体が縮みだしたかと思えば、比例するように白髪だった髪が伸びながらも何故どこか艶がでてきて銀髪みたいになっていって、

「で、何の用?」

「……なにが起こったんだ?」

髪の色こそ違いはあれ、姿形はアーチャーから遠坂に変わってしまった。

「ノヴァの複合融合機能よ、ノヴァは複数の騎士や融合騎を一つに纏められるのは聞いているでしょう?」

「言われてみれば、融合騎同士でできるとかいう話は耳にしましたが……」

片手を腰にあてる遠坂を見やりながら思い出す、無限書庫の方に顔をだしてなかったからか融合騎が何体か見つかったとかしか聞いてなかったけど、セイバーはユーノ→なのは→フェイトという情報網から知り得ていたらしい。

「ぶっちゃけ言いかえれば、ノヴァの文明ってデバイスの性能に騎士の方がついてこれなくなってきていたから、人の力が足りないなら頭数を増やして補うっていう機能よ」

たいしたことない風な遠坂だけど、実はとても凄い技術なんじゃないかとか思いはするものの遠坂は「まぁ」と続け、

「結局のところ、小型化された魔力炉や騎士を必要としないとか、融合騎同士で融合できたりとか様々な機能を付け加えているうちに開発予算の高さから正式採用される事無く博物館に収蔵されるようになったらしいわ」

「そらそうだろう……」

幾ら高性能だろうと高過ぎたり、扱える人間が限られたりとか、数を用意できなければ組織的な運用は難しいと俺は思う。

「実際に使うか分からないけど、色々な付加機能があればその分だけ部品は増えちゃうもんね」

「至極当然か、アレも欲しいコレも欲しいとしていれば行き着くところはそこよ」

マリーさんの研究室に入り浸りのアリシアとアサシンも、コスト削減がなってないとばかりに頷き合っている。

「しかし、その機能を必要とするほど彼女の飲み込みは悪い」

銀髪になった弓兵スタイルの遠坂の肩に、小さな本が現れ、

「そう言ってくれるな」

逆の肩の上に小さく三頭身くらいにデフォルメされたアーチャーが腕を組みながら姿を見せる。

「凛は、こと魔術……こちらでは魔法と区分されているが、その手の方面では天才的なものがある代わりに、科学的な分野は呪われているのではないかと思えるほど苦手としている。
私の記録に残る凛も一人では携帯電話すらままならなかったのだ、この凛もこちらの世界に来るまでは恐らくは一人ではテレビの配線すらままならなかっただろう」

遠坂は、遠坂なりに頑張ってるんだとフォローになってないフォローを返す。
むしろ、そんな遠坂にデバイスの整備やらミッド式魔術の入力なんかを教えたプレシアさんの頑張りの方が凄かったのかもしれない。

「始めこそ……各種魔法技術関連への理解力が高いものがあったから図などを用いてみれば、何故だか途端に解らなくなってしまうのは不思議でならない。
そのような事から、融合にて直接知識を送り込んでいた」

「私からも対価としての知識を渡してたから、言ってみれば知識の等価交換といったところかしらね」

「昔は、外のセキュリティが入館への対応していたが基本的に通された入館者は閲覧を自由として対価を求めるような事はしてない。
だが、こちから強要した訳ではないとしても求める情報が得られるのはありがたい」

「ノヴァからしてみれば、時空管理局が信用していい組織なのかの判断は重要だもの」

「時空管理局なる組織が略奪行為を行う集団でなければ資料館としても安心できる、彼女がもつ情報は役に立つ」

ノヴァやアーチャーから散々な言われようの遠坂は、閲覧は無料というのにも関わらず対価を用意していたのを負けじとばかりに強調して誤魔化してた。

「それは兎も角、凛に用があるんだろう?」

「そうだった。実はクロノが嘱託魔導師にならないか話をしたいっていうんだ」

そんな遠坂を気遣ったのかアーチャーは話題をそらし、俺達の用向きも遠坂が次元世界の技術に慣れないというのじゃないから用件を伝えれば、

「嘱託魔導師ねぇ?」

正規の局員ではないけれど、管理局からの仕事を請け負う魔導師というのに警戒したのか口元に片手をあてる。

「時空管理局は悪い組織じゃないよ」

「クロノの話しから職務内容は現場などで活動する局員見習い、もしくはアルバイトといったところでしょうか」

マリーさんのところで働いているからだろう、俺よりも時空管理局に詳しいアリシアや、契約する前に色々な問いかけをしたセイバーからも組織に対しての信用は悪くないのを告げ。

「小僧とセイバーはどうするつもりだ?」

「俺とセイバーはもう嘱託試験を受けてなってるぞ」

俺達はどうなんだって、遠坂の肩に乗っているちっこいアーチャーが視線を向けたのでとうになったぞと返した。
………でもって、たぶん遠坂を捜すのが嘱託魔導師としての最初の仕事になったんだろうな。

「タイミングからして今嘱託魔導師になれば闇の書絡みの仕事になるわね」

「それはオリジナルのか?」

遠坂の呟きに肩に乗ってる小さな本ノヴァが反応し、

「そう、行く行くはエグザミアが問題として待ち構えているわ」

「それは興味深い話だ」

ノヴァもエグザミアとは無縁でないため知的好奇心が刺激されたらしく、

「私に内臓されている魔力炉はエグザミアの伝承を参考にしている、そのオリジナル、無限連環システムなるものを伝聞ではなく、自身で見られる機会があるというのは得がたいものだと思うが?」

俺達の世界でいうところの、とても貴重な聖遺物を目にする機会が得れると語る。
というより、遠坂よりもノヴァの方が嘱託魔導師には前向きな感じだ。

「貴重な魔術関連の遺失技術とはいえ、凛が迷うのは科学分野の方に比重が重い故に理解し難いところがあるからだろう、なにより相手は携帯電話よりも遥かに難解なのだからな」

遠坂は、別に管理局という組織に対しての不信や不安から躊躇っているのではないと、ちっこいアーチャーは口にする。

「それで二の足を踏んでるのか」

「ですが凛、虎児を得るには虎穴に入らねばなりません」

俺とセイバーも遠坂がそんな事で見合すというか、尻込んでいたとは思ってもいなかった。
俺も携帯電話は持っていないから判らないけど、プレシアさんのお陰でAIや構造がより複雑なデバイスの整備ができるようにになったんだから大丈夫だと思うが……

「実際、色々世話になってるから嘱託魔導師ってのになるのも悪くないけど……」

「けど?」

「闇の書やエグザミアは私達の世界よりもこの世界、次元世界の技術の塊なんだもの、あまり力になれるとは思わないのよね……」

「その辺りは俺やセイバーも言ったさ。でも、もしかしたら俺達の世界よりかもしれないだろ?」

「そりゃね、こっちに比べ魔術は時間を遡るようなものだもの、もしかしたらってのは無いわけじゃないのかもしれないわ」

「そうね」と続け、

「クロノからすれば、切れる手札が多く揃えた方が何かあった時に都合がいいのは確かね」

「おばあちゃんの知恵袋みたいなものか?」

「面白いこと言うのね、衛宮君」

なるほど、遠坂の言う通り執務官であるクロノの立場からすれば相手がよく判らない古代の遺失物とすれば俺達みたいな別な文明からの視点は欲しいところなんだろう、だから言ってみたんだけど、遠坂の向ける満面の笑みはなんというか背筋に薄ら寒いものが走る。

「まぁ、いいわ。世話になりっぱなしってのも心の贅肉になるだけだし、ノヴァもしたがっているみたいだもの、やれるだけやってみない手はないわね」

口にするのと同時に遠坂は空間にモニターを開いて操作しだす。

「空間モニターを操作しているという事はは、先ほどのアーチャーの話はただの杞憂だったようですね」

「………残念だがセイバー、これは私が操作しているんだ」

なんだ、ちゃんと使えているじゃないですかと片手を腰に当て安心するセイバーに、肩に乗っているちっこいアーチャーは首を左右に振り、

「かつて私が試験運用されていた頃の事、複数が融合していては誰が話しているのか判らないという問題が生じ、その解決策として幻惑魔法を用いて個々を表示させているが正確には私を含め内部にいる」

遠坂の両肩に乗っている小さなアーチャーとノヴァは実体じゃなくて映像だけの存在でしかなく、実際には今も融合しているという。

「話は衛宮君から聞いたわ」

「ちょうどよかった。僕からも君達に連絡を入れようとしてたんだ」

「……どうやら嘱託魔導師の件とは違う話ね」

空間に浮かんだモニターに現れたクロノだけど遠坂は何か感づいたらしい。

「そうだ。実は明日、こちらの世界の八神はやての誕生日会が行われる事になったのだが、その時にこちらも主だった者の顔見せを行おうと思ってる。
もちろん、こちらの世界のなのはとフェイトも参加する予定だ」

「あの二人を巻き込むのか!?」

俺は闇の書やエグザミアなんていう危険な代物だというのに、年端も行かない子供達を巻き込むクロノの言葉を疑った。
だが―――

「いえ、シロウ。むしろ逆だ、参加させる方が守護騎士達への牽制になる」

「そうだ。二人の後ろに時空管理局がいるとなれば、彼女達を襲えば闇の書のマスターである八神はやてからの心象はよくないものになるだろう」

「それに、あの二人の性格なら親しくなりそうだから何もしないより安全って訳ね」

「そういう事だ」

セイバーも遠坂も出席させた方が安全だと口々にし、

「やれやれ、誕生日を祝うのに知略謀略が含まれるとは世も末よ……」

アサシンは、ただ単に誕生日を祝うだけなのに策略が張り巡らされていそうな雰囲気に肩をすくめた。

「誕生日会かぁ。楽しそうだから私も行っていい?」

「大丈夫か?」

アリシアも参加したがっているのを知りクロノに確認の視線を向ければ、

「増えすぎても困るそうだが、こちらとしては君達には参加してもらうつもりだ、アリシアや佐々木小次郎の両名が増えたとしても問題はない」

「なら俺もアリシアと一緒にいた方が安心するからな」

「わ~い」

最近はアサシンにばかりアリシアの面倒を見させていたので少し負い目があるから安堵し、遊びに行けるからかアリシアも喜んでいる様子。

「お祝いというからには何かしら手土産が必要ですね」

「定番としてはお菓子やケーキだな」

「ケーキはなのはが用意してくれるから大丈夫のはずだ」

面識がない相手に会うのだから礼を欠かさないように配慮するセイバーに、俺は定番といってもいいのを上げるけど既にケーキは手配済みだとクロノは告げ、そういえば、なのはの家は表向き喫茶店を営んでいるとか言ってたのを思い出す。

「そうか。ならプレシアさんもフェイトにプレゼントに何を用意するか悩んでいるだろうから、お互いにクッキーでも作って持って行くとするか」



とある『海』の旅路 ~多重クロス~

リリカル編 第31話



窓から晴れ渡った日の光が差し込み、次第に暖かさが増してゆくリビングにて、いつでも私が動けるよう私んとこのシグナムが朝食を用意してくれとる。
多分、上の階で昨夜幼い私に起きた魔力不足からくる疲労、それに伴う眠気といった状況では話せなかった事などをシグナム達なりに話してたんやろう、やや遅れてリビングに来た皆をL字型のソファに座らせた。

「ほんなら、私の素性と何が目的なのか話とこか」

カーペットの上のクッションに座った私は姿勢を正して集まってもろた皆。
強制的に魔力を収奪された影響から両足が不自由になってしもうた幼い私に、呼び出されたままの黒いシャッツに同色のスカートやズボンの四人、こちらの世界のシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの五人を見渡して、私が時空管理局に勤めているのや現在の役職を始め、ここに至るまでの経緯を簡潔に語った。
当然の反応というか、幼い私以外は局員という言葉から表情を強張らせるんやが、

「そなら、お姉ちゃんは未来から来た私って事なん?」

「似とるけど少し違うで。並行世界っていってな、よく似とるけどまったく別の世界から来たんよ」

「次元世界や異世界とは違うのか?」

「どう違うんやろ?」と幼い私は顔にでていたが、こちらの世界のシグナムが並行世界というのが次元航路で結ばれた世界の一つか、航路で結ばれてない未知の世界かを問いかけてきたので「そや」と頷き返した私は、

「広大な宇宙を行き来するのに別の次元を挟んで距離を短縮させた世界の航路とかとは関係なく、宇宙そのものの可能性が異なる世界なんや」

「そんなの移動できんのかよ?」

並行世界というのが次元世界でも異世界でもないのを話すんやけどヴィータが疑問を挿むのも無理はない。
スカリエッティの言葉を鵜呑みにした訳やないけど、私かて訪れていたクロノ君達を人造魔導師だと思うとったんやからなぁ人の事をとやかく言えへんわ。

「普通はできへんよ。でも、そんな不可能領域級のレアスキルを持った子が偶々私の世界に来とって、先程話した通り私達のとこで起きた事件が切欠で知り合えたさかい、こうしてこれたんや」

「そのレアスキルを持つという子の世界では、同じようなスキルを持った人達の数はどれくらいなの?」

「そやな。その世界でも奇跡に相当するらしいから、聞いた限りやとその子の他に一人いるって事くらいやで」

なんとなくホッとするシャマルの様子からして、もしかしたら並行世界からの侵略があるかもとか想像したのかもしれへんな。

「せやから私の事は、はやてちゃんによく似た環境で同じような境遇を経験した同姓同名の別人って事なんよ」

「目的は?」

「私の時には助けられなかったマスタープログラムを助ける事や」

時空管理局の局員って話を聞いて警戒しとるシグナムの視線を受け止めつつ、私んとこのシグナムなら兎も角、今の時点で私がリインフォースの名を告げても、この頃はまだ名前すらつけとらんから、それがマスタープログラムを指す名やと想像すらできんのもあって
あえてマスタープログラムと口にする。
ただ、「それに」とつけ加えてから、

「闇の書の蒐集は時空管理局の方でやるさかい、皆は何もせんへんでいいんよ」

などと告げれば、

「管理局が蒐集を?」

「馬鹿な!?」

「そんなのする筈がないだろ!」

「そうでもない。実際のところ、今まで闇の書の主になった相手は闇の書が蒐集した多種多様な魔法を操れる力に心酔してしもうたから協力なんてしようとも思わんかっただけやさかい、力とかに興味がない私なら協力のしようもあるんよ」

よほど管理局が蒐集を行う事が意外なのか、シャマルは小首を曲げたまま理解するのに少し時間がかかり、ザフィーラとヴィータは声を荒げた。

「そういや、皆からも蒐集して闇の書を完成させたら強力な力が手に入るとか言われたけど私には興味ないさかい、お姉ちゃんの言う通りなんやろうけど……そなら何で集める必要があるん?」

「夜天の書ってのは元々珍しい魔法が失われんよう集めとく為のものなんやけど、遥か昔、大暴れしとったエグザミアってのを封じ込めたんで闇の書って呼ばれるようになってもうたんよ。
それが原因なんやろな、主になった者が一定の期間蒐集を行わなければペナルティとして魔力をより吸い上げてしまうんや」

「魔力って事は……」

「せや、魔力を吸い上げられたせいで両脚に力が入らんようになってもうたのに、それ以上吸われたりしたら力が入らんところが広がってきて一年もしないうちに死んでもうわな」

「……そら困るわ」

「だからこそ、管理局の方で志願者を募っているんよ」

「そなら、こちらからお願いしたいくらいや」

幼い私は要らないのに何で集める必要があるのか判らないでいたが、蒐集しなければそれはそれで生死に関わる問題が生じてしまうのを知れば、私かて簡単には死にたくはないから納得したようや。
もちろん、この案にはここの時空管理局内でも議論はあったようやけど、闇の書を夜天の書に変えるのには如何しても全ての項を満たすリンカーコアを集めなければならないのだから、強引に守護騎士達が奪い去るよりも迅速に手当てができる施設で行って処置するようにした方が害が少なくて済むのもある。
それに、折角、時空管理局に協力的なマスターが現れた機会を見逃せば、壊しても壊しても蘇えってきてしまう闇の書を無くせる機会が失われてしまうばかりか、再び被害が出てしまうのだから行う必要があると判断されとる。

「そのエグザミアというのは?」

「遥か昔、色んな世界を滅ぼしたとかいう力を持った何かやけど詳しい事はまだ調査中や、判ってるのは昔の人達がエグザミアってのを夜天の書のマスタープログラムに複雑に絡みつかせてまで出さんようにしとるってとこまでや」

全ての原因であるエグザミアが何なのかをザフィーラは問いかけてくるんやけど、私らもようやく手がかりを得たところやから何ともいえん。

「皆は知っとるん?」

「言われてみれば昔は闇の書って呼ばれてなかったような気はするけど………よく判んねぇよ」

こっちの世界の四人に視線を投げかける幼い私に、シグナムとシャマル、ザフィーラは「いえ」とか「ごめんなさい」とか「残念ながら」とか口々にするなかヴィータだけは少し違和感を覚えたみたいやな。

「しかし、なぜそこまで……」

「未練っていうやつや。私は、マスタープログラムを救えなかった八神はやてやさかいな……」

こちらのシグナムが疑念の眼差しを向けるけど、降りしきる雪のなかリインフォースが自動防衛システムを復元させまいとして自ら消えるのを望んだ時の喪失感を思い出し溜息と共に吐き出した。

「主、そこの私は完成した書が奪われないか懸念を抱いているだけかと」

「さよか。安心してな、全ての項が蒐集された時こそ管理者権限を用いて自動防衛システムからマスタープログラムを切り離せるチャンスなんやから邪魔なんてさせんさかい、そん時にはやてちゃんはマスタープログラムに名前をつけてやってな」

トントンと包丁が奏でる音を立てながらも耳を傾けていたシグナムからの指摘に、言われてみればそないな発想もあるなぁと思った私は幼い私の返事を待たず「むしろ」と続け、

「そこからが正念場や、私ん時は眠らせようとするマスタープログラムと対話して管理者権限を行使できるようなったからこそエグザミアが封じられているだろう自動防衛システムを切り離せたわけやが。
切り離した自動防衛システムを止めるには、強力な力を叩きつけて一時的に機能を停止させなきゃあかん」

「それを行うにも私達だけじゃ不足しているのね」

「その通りや」

昔っからヴォルケンリッターの参謀を務めていたシャマルは、私の話から自動防衛システムを相手にするにしても守護騎士と主だけやと戦力的にも不足しとるのを悟って時空管理局の協力が必要なのを理解したようや。

「………とはいっても、すぐに信じられるような話しじゃないさかい、ゆっくり考えてな」

「そんな事ない、私はお姉ちゃんを信じるよ。なんせ、病院でもよう判らん症状やのに、お姉ちゃんは私の体が何で悪いのかや対処も知っていたんさかいな」

変に取り繕って疑念をもたれるよりはましやと真実のみ告げた私やけど、流石にすぐに信用される訳がないと思うとったんやが、幼い私は猜疑や疑心にならないばかりか「おかげで今日は体が楽なんよ」と明るい笑顔で微笑んで返す。
でも……なんなんやろうか、信用されたのは私にとって好都合なはずなのに、なんか私が他人を早々信用しなくなくなっていて、なんや穢れてしまったような感覚に陥ってしまうのは?
そら、捜査官になってからは疑うのが仕事のようなもんになっとったんは職業病というかやむを得んのやろけど……こうして、比較する対象があると自分が嫌な大人になってしもうたなぁとか思えてきてしまう。

「………」

なんていうか、幼い私の純心さに今の私が穢れてもうたようで心の奥底で悶々していれば、

「皆はどう思う?」

「私達は主に従うまでです」

「然り」

皆にも関わる事だからか幼い私は四人を見渡すのだけど、こちらのシグナムの決定にザフィーラは相打ちを打ちヴィータとシャマルも頷きを入れる。

「決まりやな。けど、私はお姉ちゃんに何もできんのにそれでもいいんか?」

「私ん時は全てが遅かったからな。できるなら同じ思いは繰り返させたくないだけやさかい、それに、闇の書から開放されたあの子がいる世界があるなら見てみたいだけや」

自分じゃ判らないもんやが、こうして見とれば幼いなりに考えてはいるんやろうけど、突然現れた私らや守護騎士達をすんなり受け入れたりとか、子供故の純真さなんかもあるようやが随分順応性が高かったんやなぁとか思ってしまう。
そないな幼い私は、私に何も返せるものがないと気まずそうに思うとったので飽くまでも私は自分がしたいからしとるだけやから気にする必要なんかないと返した。

「聞くが、そちらの将以外の他の守護騎士はどうなってるんだ?」

「流石に一度に押しかけるのも迷惑やろから、私んとこのヴィータには近くのマンションでお留守番してもろてる。
でもって、シャマルとザフィーラの二人は私んとこで起きた事件の際、隊舎を襲撃してきたガジェットから多くの隊員を守った時の怪我で入院中や」

とりあえず、こちらの主たる幼い私の信用を得た事で敵対的な認識まではされとらんからいいものの、警戒はしとるのか情報を得ようとするザフィーラに脚色する事なくありのままを口にすれば、

「ガジェット?」

聞きなれない言葉にシャマルは聞き返して来て、

「正式にはガジェットドローンという名なんやけどな、私らの世界で、そんなのを使こうて悪巧みしとった科学者がおったんよ」

「なんや大変なんやなぁ……」

「そもそも、局員を個別に相手するんじゃなくて隊舎そのものを襲う事自体がどうかしてると思うぞ」

幼い私とヴィータはそう言って私らの仕事の大変さに理解を示してくれる。
せやから、私も胸の奥で堪ってたもんがあったんやろう、

「そらまあ、ミッドチルダで地上本部が襲撃される程の事やったさかい……」

「ミッドチルダ、管理局の中枢に近いところか」

「何考えてるんだそいつ……」

私も少し愚痴っぽくもらしてしまい、

「むこうにしても、聖王のゆりかごなんていうものまで持っとたからやろうから勝算は十分あると考えとったんやろな」

ついつい口を滑らせれば、幼い私を除く皆は実際にベルカ戦乱期を経験しとるさかい聖王のゆりかごについても知っているからか、一瞬、口をぽかんをあけて、

「ゆりかごだと!?」

「なんて代物を……」

「本当かよ?」

こちらのシグナムとシャマルは声をそろえ、ヴィータは疑わしそうな目で私を見よる。

「嘘なんてついたってしぁない。元々は、管理局のお偉いさん達が年々凶悪化していく犯罪に対しての抑止力として、その科学者に復元を依頼しとったらしんやけどな……」

最高評議会のメンバーがどんな人達なのかは知らないけど、いかに有能でもジェイル・スカリエッティみたいに信用に難がある相手を選んでもうたのは間違えや。

「どれだけ治安が悪いんだよ……」

「まったくね……」

「そんなん危ないんか?」

呆けるような顔つきのヴィータに相槌を打つシャマルやけど、幼い私の抱く疑問はゆりかごなのかミッドチルダの治安なのかは判別しにくいんやけど、きっと両方なんやろう。

「名前からやと寝心地のいいベッドかなにかにしか聞こえへんのやけど?」

「聖王のゆりかごはベルカ戦乱期に用いられた戦舟、戦艦です」

「戦艦なぁ……」

横でシグナムがそれとなく教えてくれるんやけど、幼い私は次元世界についての知識そのものが無いもんやから、次元航路を行きかう次元航行艦どころか分厚い装甲で海に浮かぶ艦船を思い浮かべてそうや。

「昔の人は、次元航行できる宇宙戦艦がないと安心して眠れへんのやったんやろな」

「戦艦は戦艦でも宇宙戦艦なんか、そな凄いのを持っとったんのによくお姉ちゃん大丈夫やったな」

「そら、相手がゆりかごやろが治安を乱す相手なら管理局の局員はなんとかせなあかんからな」

「それで、どうなったんだ?」

「偶々私らの世界にアーサー王が来とって、聖剣で撃破してくれたんよ」

「アーサー王?」

「確か、英国の王様だったんとかいう」

「そや。その王様がいた世界に並行世界の行き来を可能にする不可能領域級のレアスキルを持った子がいて、偶々私んとこの世界に人捜しに来てたんや」

シグナムやシャマル、ヴィータ、ザフィーラの四人は知らんのが当たり前。
そりゃまあ、アルトリアさんも次元世界になんて関わりをもった覚えが無いって言ってたけど、大体五世紀頃の文明なんて太陽の周りを地球が動いとるんじゃなくて、地球の周りを太陽とかが動いてる天動説の時代やったんやから、星々を結ぶ次元航路の存在なんて知りえるはずもなく次元間戦争なんて判る術すらないわな。


「そこで事件に遭遇したのか……」

「そないな経緯で悪い科学者は思いもよらない痛手を受けて切り札を失い、私らは並行世界を行き来できるレアスキルがあるのを知り得たわけや」

「そんな事が……」

「だからこそ、この奇跡ともいえるチャンスを無駄にはしたくないんよ」

「ただ」と区切り、

「あんたには、私ができなかった事をしてもらわなきゃならないさかい私の時より大変になってもうけどな」

「……お姉ちゃんの時には来なかったん?」

「そやな。だから皆が現れるのが誕生日やったし、現れた時には気を失って病院に運び込まれたから大変やったよ」

「だから奇跡なんか……」

「そうや。並行世界を行き来するだけやなく、その世界の時期も関係してくるさかい」

「その偶然が重なって、我らの前に未来の主と将が現れたか」

「そうや。だから時空管理局に敵意は無いさかい皆も協力して欲しいんよ」

早まったまねはせいへんといてと釘を刺す私に、一見、平静を装うっている四人やけど、捜査官として勤めて来た私には無意識やろうが互いの目がわずかに相手の方に動いとる仕草から念話を使うて相談しとるのが判る。

「出来れば、そちらのヴィータやシャマル、ザフィーラにも会って話しを聞きたいのだが?」

「それは、すぐには出来ない話やで」

私んとこのシグナムが台所のテーブルに皿を運んどるのを尻目に、まだ疑うとんのやろう、こちらのシグナムが他の三人にも会って話というか情報を引き出したいと考えたんやろうが、私はきっぱりと断りを入れた。

「なぜ?」

「あんな……自分らがどないな格好をしとるのか判っとるんか?」

会わせられない何かがあるのかとか疑念を抱いたのか、目を細め聞き返すシャマルに私は目の前にいる黒色のシャッツに同色のスカートやズボンの四人を見てから、

「この辺りに、あないな格好の人はおるとおもう?」

「いてへんなぁ」

幼い私に視線を向ければ、並行世界といえど、やはり平凡な日本の住宅地ではまず見かけない服装のようや。

「そいう事で、今日は皆の服を買いにいかなならん」

「そりゃそうやな。それに、皆から頼まれた騎士鎧とかいうのもデザインしないといけないさかい」

「お金の事は心配はいらん、資金はグレアム叔父さんから十分もらっとるから安心しとってや」

幼い私も納得してくれたようで、とりあえず近所の人達に違和感をもたれない身だしなみをするよう買い物に行く予定になる。
でも、両足の不自由さから療養の意味を兼ねて学校に通ってない幼い私やが、小学生である以上家で行う勉強があるため必然的に午後になってしまい。
双子に思われると後々ややっこしくなりそうなのもあって、私んとこのシグナムには留守を任せたんやけど、現れたばかりのシグナムやヴィータ、シャマル、ザフィーラは、これまで長いこと荒事に慣れてしまとったせいか、平和な所での買い物なんてのに不慣れになてもうたらしく相まって日が暮れての帰りになってもうた。
そんな帰り道、幼い私を除く皆の顔つきが変わったのに気がついて私も周囲に注意をむければ、近くで結界が張られているのに気がつく。
そもそも幼い私以外はまだ四人とも少なからず警戒しとるから、幼い私の車椅子をシャマルが押すなか、横に私とヴィータが歩き、その後ろにシグナムとザフィーラが周囲の警戒はもちろん私の事も見張るようにしとる。
でも、まあ私に判るくらいなら探査や補助系統が得意なシャマルはとうに気がついとって他の三人に注意を呼びかけたんやなと思うも、

「私の知り合いがいるようやけど会うてみるか?」

何せ、この時期、この付近で結界を張っている相手には心当たりがある。
というのも、訓練施設もない管理外世界で魔法の練習をしようとすれば必然的に結界内で行なわなきゃならんのやから。
私は、こっちのちいちゃななのはちゃんがユーノ君と一緒に魔法の練習をしとるやろうと見当をつけ、

「そちらの部下か?」

「いや。多分、近所で嘱託魔導師になるか考えとる娘が練習しとるんやと思う」

何でこんな所で結界を張ってるのか訝しげに私を見やるザフィーラに返せば、

「この街には他にも魔導師がいるの?」

シャマルも管理外世界やというのに、こないな近くで魔導師がいるのに驚いたようや。

「せやな。確か、一、二ヶ月前にこの辺りで事件があったんよ、その時巻き込まれたというか偶然というか魔法に出会ってもうて、その時の貢献から記憶や魔力の封印処置とか受けないで魔法を習い続けている娘がおるんや」

「この辺りで一、二ヶ月前っていえば、何や街の方で大きな植物が現れたり消えたりとかニュースに流れとったけか?」

「その辺りは私もあんま詳しくないんやけど、多分、その事件なんかも関係してくるんやろ」

きょとんとしながら私を見上げる幼い私やが、私もその頃は魔導師とかよう判らんのもあって曖昧にしか答えられん。

「主、見て損はないかと思いますが」

「そやなぁ。お姉ちゃんの知り合いなら挨拶しといた方がいいんやろな」

警戒から、何かあった時の備えとして情報を集めようという思惑が見え隠れしとるシグナムに促された形で、幼い私は結界のなかを見に行く事になった。
結界の種類は魔力を持たない者でも術者が許可しとれば入れ、魔力を持っとればなかで何が起きてるのか判別できてもうタイプのもの。
でも術者の許可を得ず、魔力も持ってなければ例え内側にいとっても時間や空間にズレが発生しとるから認識できず、衝撃など周囲へ変化を与えるような事が起きとっても直接的な影響を受けないのが特徴やな。
とはいえ、出入りを封じてる種類やないから私ら魔導師や騎士なら入れる力を持っとるので容易やったが、そこには―――白を基調としたバリアジャケットにつつまれた姿が大小二つ、

「なのはちゃんもいたんか」

なのはちゃんの後を追うように、ちいちゃいなのはちゃんも空中で時々急加速や急旋回を繰り返しながら星々を背景に夜の空を飛び回っていた。

「人が空飛んどる……」

「飛行魔法は扱う者にある程度の適性は求められますが、それ自体は珍しいものではありません」

「要は適切な練習をすればいいってだけだ」

「そうね。飛行魔法にせよ、とれる手段が多いい方がなにかと有利だものね」

夜空を飛翔する二つの白い姿が信じられないのか呆けとる幼い私に、シグナムとヴィータが飛行魔法はそう難しくないのを告げれば、シャマルも空が飛べないよりか飛べた方が便利なのを口にする。
飛行魔法は適正こそ必要やけど、魔法そのものは初級の最後に属する程度のもんやから、そこから航空魔導師みたいに空戦を目指すんなら速さはもちろん回避行動や必須とされる様々な空戦機動に止まる為の制動のほか周囲への警戒なんかで大変やけど、ただ浮かんで移動するだけならそう難しくない。
せやから、

「そうなんか?」

「皆の言う通りや。でも安心してや、ちゃんと練習しなきゃならんけど私が飛べるんやから飛べるようになる」

シグナム達の話を確かめるようにして私を見上げる幼い私に、それらを話せば、

「そな楽しみやなぁ」

周囲に頼れる者もなく、両足が不自由になってもうたばかりか次第に体中から力が抜けていくような感覚から気力も無くなってきていた頃なのに、魔法という希望を得たからか幼い顔に満面の笑顔が咲いた。

「気がついたようだな」

「そうね」

幼い自分に教えてたり、暗がりやからかいつもより私らがいる事に気がつくのが少し遅れとるようやけど、動きを変えたなのはちゃんは幼いなのはちゃんを伴い降りてくる、でも昨日の今日やから仕方ないとはいえ、警戒してザフィーラもシャマルも肩に力が入ってもうてるなぁ。

『こんな所に来るなんて何かあったの?』

『いや。買い物帰りに近くを寄ったら結界があったんで見に寄っただけや』

着地しながら念話で簡単な確認をして来たなのはちゃんに返しつつ、

「紹介するで、私んとこの部隊の高町なのはちゃんとこっちの世界のなのはちゃんや」

「はじめまして、機動六課の高町なのはです」

「今晩は。私は高町なのは、私立聖祥付属小学校三年生です」

こちらの世界の私や守護騎士達に降り立った大小二人のなのはちゃんを紹介する。

「……同じかよ」

「そりゃそうや、私と同じでなのはちゃんが大きくなった可能性の一つが私んところのなのはちゃんさかい」

「なるほど、親子かと思ったが並行世界の人間……よく似ている訳だ」

ぺこりと軽く会釈を交わす大小二人のなのはちゃんに、ヴィータは信じられないとばかりに目を見開き、ザフィーラも半信半疑で聞いとったやろう私がした似て異なる世界を行き来するレアスキルの話を思い出したようや。

「親子っていうほど年は離れてないつもりだけど、こんな機会はまずないからね」

まあ、そんななのはちゃんは困ったような笑みを浮かべてから、

「折角、こっちに来たんだから夜の練習を見ようと思ったんだ」

自分で自分を鍛えてるという、本来起こりえない出来事に、幼いなのはちゃんも未来の自分に教わるのに奇妙な感覚を覚えとるのか、それともザフィーラに親子と言われた事への照れ隠しなのかわからへんけど「にゃははは」と私んとこのなのはちゃんと同じような苦笑いを浮かべとる。
でも、なのはちゃんは元々教導部隊出身やさかい、この頃の自分が心身ともにどんなやったか知りたいのもあるんやろう。
それもそうや、自分で自分を鍛えるなんて真似は普通は出来ん、並行世界を行き来するレアスキルなんてものがあっても都合にいい時間軸の世界に行けるかなんてのは、移動そのものが奇跡である不可能領域級なのに更に輪をかけて難易度が増す。
偶々、そんなレアスキルを持っとるアリシアちゃんが私らとこの世界の間を行き来しとって、そないな偶然が重なって出来てもうとるのは今のところ私やなのはちゃん、フェイトちゃんくらいのもんや。
それに距離とか地理的な問題にしても、私んとこのなのはちゃんが機動六課の一員として、こちらの世界での闇の書事件に協力しとるとはいえ、この世界のなのはちゃんが住む海鳴市内程度のところなら仮に何か起こってもすぐさま戻れるから任務に支障を来たすようにはならへんってのも含まれとる。

「自分で自分を鍛えてるというのか!?」

「普通じゃありえない話ね」

「ああ」

驚きを隠せないザフィーラに、相槌を打つシャマルとシグナムやけど、時空管理局で教導隊出身なのを知る由もないからか、元々なのはちゃんが魔法を教えるのが好きなのを分かるわけがない。

「ところで、シグナムさんとヴィータさんは分かりますけど他の二人は?」

「言われてみれば、まだシャマルとザフィーラには会ってないんだったね」

「そやった。あかん、私んとこは二人とも入院しとるさかい堪忍してな」

幼いなのはちゃんに言われ私もなのはちゃんも気がつき、

「改めて紹介するわ。車椅子に乗っとるのがこの世界の私で、私んとこのシグナムはお留守番してるさかい、このシグナムとヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人が、この世界の守護騎士達や」

車椅子に乗ったちいちゃいのが幼い頃の私なのや、シグナム、ヴィータに続いてシャマル、ザフィーラと順に紹介する。

「なのはちゃんは凄いなぁ、私と同い年なんに空が飛べるなんて」

「なのはちゃんさえ良ければ仲良うしとってや」

「はい」

自由に空を飛れるなのはちゃんを羨ましそうにする幼い私に、昔はよく一緒に練習したもんやなぁとか思い馳せ、返事を返したなのはちゃんは、「それなら」って幼い私に視線を向けなおし、

「お友達になってもいいかな?」

「ええけど……私なんかでいいんか?」

「うん。お友達になりたいんだ」

幼いから自覚がないようやけど、魔力欠乏によって両足が立つ力すら失われてしまうほどの衰弱は精神的の方にも影響を与えとって、少しづつやけど自信をなくしてもうてもうてたらしい。
せやから、ここは年長者たる私が幼い私の背中を押すようにすればいいだけの事、

「昔は私もなのはちゃんと一緒に魔法を練習したもんや」

「そうなん?」

「そや。だから、闇の書が夜天の書になって安心して暮らせるようになったら私ん時と同じよう習えばいい」

「そら楽しみやなぁ」

大人同士の友好とは違い、この頃の友達なんてもんは損得で選ぶんと違うんやから迷う必要なんかないのを告げれば、

「なら、もうお友達だね」

「せやな」

幼い私はなのはちゃんに笑顔で返した幼い私は、なのはちゃんから私に視線を変え、

「やっぱり、姉ちゃんは魔法使いや。お姉ちゃんが来たとたん今まで私が望んでも手に入れられへんかった願いがどんどん叶うんやもの」

「単にタイミングがあっただけやよ」

「そうでもや」

幼い私が言うところの魔法使いの意味合いは、魔道師や騎士とかとは違って、もっと純粋な御伽噺に出て来るようなタイプなんやろう。
でも―――ちょうどいい機会や、

「そならなぁ」

少し考えたふりをしてから、

「ちょうど明日は誕生日やから、他の皆も紹介したいし、お友達になれる子もいるから皆に来てもろうてもええか?」

「そらええ、私もこないになってから大勢の人達となんて久しぶりやさかい」

この結界を張ったユーノ君は離れたところにいるらしくてなかなか来れないようやけど、幼いなのはちゃんと同じよう友達になれるやろと交わすなか。
二人を尻目に大人の事情というか、裏の意図があるのに気がつかず快諾してくれた幼い私には少し気が引けてしもうが、待機しとる皆に念話を使い予想よりも早く皆を会わせられるのを告げた。
懸念するは、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが私達を信用せずに幼い私を別の次元世界に連れ出してしまう事やが、前もって皆を協力者として紹介しとけば幼い私の信用と信頼によって迂闊に動けんよう心理的な枷になる。
かつての自分の記憶を元に、ここまでは順調に誘導できとる、せやけど問題の大本である闇の書の闇、自動防衛システムやその奥に潜むエグザミアの問題は―――これからが本番やな。




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