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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] リリカル編29
Name: よよよ◆fa770ebd ID:089a895a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/12 02:37

本来なら、上陸した武装隊員に対してあてがわれる一室の前に立つ僕の前で扉はシュッと音を立てて開き、

「またせた」

挨拶代わりの一言を口にしながら部屋のなかに足を踏み入れれば、簡素な壁紙で覆われた室内や無骨だが費用対効果を優先させた安価で耐久性の高いスチール製の机が並び、それぞれの机の前には椅子に座ったまま仕事を続けている五人の姿がある。
ここは、部隊長の八神はやてを筆頭に並行世界から来た異なる時空管理局で設立された古代遺失物管理部機動六課の隊員が僕達の世界で起きるであろう闇の書関連の資料作りや提案書作成に加え、八神はやて達の世界で起きてしまった広域指名手配犯ジェイル・スカリエッティによるSランク級ロストロギア、聖王のゆりかごが使われた事件の報告書を纏める仕事が行われていて。
各々の席では分隊長の高町なのは、副分隊長のシグナムにヴィータ、部下のスバルナカジマや、副官のリインという小さな女の子も上座である八神はやての机の上で画面と睨みあっているところだった。
本来なら、ここは上陸した武装隊などが一時的に宛がわれる部屋で、簡素ながらもオフィスとしての機能は十分にある所だが現在は僕達の世界に訪れた機動六課の事務所として割り当てられている。
もちろん、体を休ませるのに必要な個々の部屋にしても武装局員用のが空いているのでそこを使ってもらっていた。

「仕事の途中ですまない」

「ええよ。こっちもそろそろ休憩を入れようと思うとったところやから」

部隊長である八神が返しに、ふと一人足りないのに気がついた僕は、

「フェイト・テスタロッサ……いや、フェイト・T・ハラオウンの姿がないようだが?」

「今日のフェイトちゃんはお母さんの所や」

一息置いてから、

「部下のメンタルケアも上司の務めやさかい」

紡ぐ八神に、

「そうか」

僕は相槌を入れるも八神は続け、

「本当は来てすぐにでも話せるよう自由な時間を与えたかったんやけど、私らの所で起こった事件の報告書の整理や闇の書事件についての考査で時間が取れなかった分も含めて今日はお休みにしとるよ」

「いや、そちらで決めた事なら僕が口を出す事じゃない」

むしろ賢明な判断だろう、僕達の世界とは違って彼女は幼少の頃に母を失ってしまっている、彼女も年月を重ねて落とし処をつけるなりして答えを出したところもあるだろうが、並行世界とはいえ正気になれた相手が居るのなら直接話した方がいい。
それなのに時間が取れずにいれば、上の空とまではいかないだろうが気になるのは人の性、次第に集中力が散漫となって仕事の能率が下がるばかりか彼女の身に及ぶ危険も上がってしまうというもの、その様な理由もあるから事情を把握しているのなら早めに時間を作らせる必要がある。

「それで執務官、どういった趣きでしょうか?」

「君達がもたらしてくれた資料から僕達の方もようやく本局が闇の書への対策が正式に動き出した事もあって、協力者である君達用にアリシアが組み上げた擬似リンカーコアの術式が入った簡易デバイスを持ってきたのもあるが―――」

分隊とはいえ、副官ともなれば隊長の手が届かない部分を補うのが責務、デバイスを持って来るだけなら僕が行く必要がないのを見抜くシグナムに何かと訊ねられ、

「―――僕としても聞いておきたい事があったから来たんだ」

動きを邪魔しない、腕輪型に組み上げられた七つの簡易デバイスを取り出して机の上に置きながら本題を告げた。

「そうだね。ノヴァも入れれば無限書庫で融合騎が五人も見つかったんだから」

「しかも、ノヴァは融合騎なのにその子達とも融合できるって話ですもんね」

僕が迷っている問題とは違うものの、大人のなのはとスバルは古代の博物館で見つかったのは得体の知れないマステマ感染者や古代ベルカ時代のドローン、スマートフレームとかいう名称の機能があるそうで、それは環境の変化に対して機体そのものの形状や機能を増減させる事で柔軟に対応する能力を持つなど、僕らの世界には無い様々な質量兵器の他に四騎もの融合騎が保管されていたのを交わし合う。
無論、それはそれで無視はできない問題であって、特に本局も内部にある、しかも重要施設である無限書庫内に高ランクに相当するロストロギアが大量に収蔵されている古代の博物館なんて施設が存在していたのに驚きはしたが、無限書庫には既にベルカ戦乱期頃の宝物庫らしき所も見つかっているのだから、技術資料を遺す目的から博物館の如き施設の一部があっても不思議ではないという話でそれほど騒ぎになる事はないようだ。
そして、ノヴァから聞きだした身元というか、次元世界の所在を確認すれば、そこはかつて別世界に侵攻していた古代ベルカと戦争をしていたと考えられる世界で現在では危険性から渡航禁止に指定されている所だった。
何故かと言われれば、大気中に漂う極小の胞子みたいな種子が生物の皮膚に付着するだけで発芽してしまう為だ。
それが何故危険かは、過去の動物実験で明らかにされていて、密閉した容器にその世界の空気を入れたマウスでの実験では開始から一時間程度で発芽した芽が体表はもちろんの事、鼻や口、果ては肺からも発芽していて数十分には全身に広がった根によって死亡が確認されている。
しかし、生命活動が終ったのにも関わらず植物に寄生されたマウスは動きだし、苗床となり養分を供給するだけとなったマウスの体を更に操って、より繁殖に適した所へと自ら動かす性質があるようだ。
その為、その植物が散布させる種子は広い地域で見つかり知的生命体どころか小動物すら住める世界ではなくなってしまっていた、もちろん、その世界にも植物が繁殖困難な砂漠や寒冷地帯などもあるが、そこは得体の知れない何かが地表や地下で蠢き探査機を送ってもすぐ撃墜されてしまうから判らずにいる。
それらの話をノヴァにしてみたところ、異常としか呼べない植物は自然に現れた種ではなく人為的な操作が行われた種類、いわゆる次元間戦争で用いられた生物兵器ではないか、また砂漠などで活動しているのは今も戦争が続いていると判断しているドローンの可能性が高いという頭の痛い話だった。
それでもノヴァは、住民らが植物の種子が及ばない海中などで生活している可能性を示唆してはいたが、人の営みがあるだろう熱エネルギーなどの反応は残念ながら次元航路からでは観測できずにいる。

「それは兎も角として……一つはこっちのはやての分なんだろうけど、簡易とはいえデバイスを七つも用意するなんて大丈夫なのか?」

「前回の事前調査で、夜天の書を闇の書にしていた元凶がエグザミアと呼ばれる何かであるところまでつきとめられた。
母さんやグレアム提督の働きかけもあるが、本局としても、これ以上闇の書による被害を減らせるならば多少の予算の増加はいとわないといった感じで承認しているから心配はいらない」

擬似リンカーコアの術式が入った簡易デバイスの腕輪をまじまじと見つめるヴィータ、世界は違っても時空管理局に所属しているのならば部隊の活動に必要な予算が決して多くはないのを把握していて、いくら簡易とはいってもデバイスの経費が決して安いものではないのを知っているから驚いているようなので安心していいと返す。
そんな僕に、

「それだけ期待されているって事だね」

「ああ。今回は夜天の書を闇の書に変えてしまった元凶をどうにかするのが目的だからな」

大人になったなのはは、裏に秘められている思惑を見抜いていて、

「最終的にはそうするにしても、やはり最初の難関は我ら守護騎士が主を捕まえさせないようにと浚って行ってしまう事でしょう」

「それを防ぐ意味もあって、外部からの魔力供給で私達に設定されている能力限定リミッターを介さないよう底上げする訳やな」

「推察の通りだ。基本的に結界で逃走を防ぎながら協力を求める算段だが、君達のデータではこっちのシグナムとヴィータの二人も結界破壊が可能だというのだから武装隊だけでSランク相当の、しかも複数人も相手取るのは難しい」

シグナムと八神も最初の接触がいかに重要なのか十分把握している。

「そりゃ、こっちの私らからすれば管理局は敵も同然だもんな、はやてが捕まらないよう必死になって逃げるのが間違いだって思う訳がない」

「だからこそ守護騎士達が現れる前に、こっちの私から信用を得とくんよ、既にグレアム叔父さんからこっちの私宛に遠縁で同姓同名の親族が見つかったので近いうちに会いに行くって内容の手紙を送ってもろうてる」

やはり、並行世界とはいえ本人に近いからかヴィータはこっちの世界の守護騎士達がどのような考えで動くのか理解していて、八神も主になるのはかつての自分に近い相手だから接触の仕方なども心得ているのだろう。
そんな八神だが、

「その際には私も同行いたします」

一人だけで行くのは問題なのだろうシグナムも一緒に行くという。
なるほど、似て異なる幼い八神はやてとの重要な接触時に守護騎士達にとってのリーダーであるシグナムがいれば、世界は違っても守護騎士達にとっての将なのだから無視できる筈もなく影響を与えない訳がない。

「残る私達は近くで待機の予定だからね」

「………順調に行けばいいですね」

「そうですね」

なのはの言葉にスバル、リィンは互いに頷き合い、彼女達は現れた守護騎士達が八神を浚って逃走する素振りがあれば、武装隊が広域結界を張って守護騎士達の逃走を封じるなか僕と一緒に取り押さえる役割がある。

「初めの接触さえ上手くいけば、問題となる夜天の書から奪われる魔力については擬似リンカーコアの術式が入った簡易デバイスで補強するとして、定期的にリンカーコアを蒐集しなくてはならない問題に関しては時空管理局の方から志願者を募っているところだ」

「上手く行けば、こちらの我々は何ら罪を犯す事なく全てのページを埋められるという話になる訳ですね」

初めの接触が上手く言った後の問題は機動六課から渡された資料からある程度判明している為、その辺りの対処を告げる僕にシグナムは満足そうにしていた。
調査が始まったばかりで、それが強い力を持つ何かまでしか判明してないが、これまで闇の書の本当の名が夜天の書である事さえ判っていなかったのだから十分進展していると捉えても遜色ないかもしれない、しかし、残念ながらエグザミアについてはノヴァが保有していた資料でさえも憶測的な事しか書かれてない為に詳しい事は何も分かっていないのが現状だ、僕達は彼女達からもたらされた情報から主を守るために守護騎士達が動きかねない当面の問題を解消して時間を作りつつ、先ずは夜天の書を闇の書に変えてしまっているエグザミアが何なのか分析しなければならない。

「で、クロノ君は何が気がかりなん?」

「衛宮士郎やセイバー達の事なんだが……」

「士郎君達がどうかしたの?」

初めの接触さえ無事に終れば、こちらの協力で当面の問題はクリアできる筈なので何が問題なのか問いかける八神には僕の返した言葉が予想外だったのか、なのははまで表情を変えた。

「本来、彼らは僕達の世界で起きたジュエルシード事件の関係者として協力してもらっていたんだが、事件が終った後は次第にアリシアが開発した擬似リンカーコア技術が目的になってしまっていて、もちろん滞在に関しては不自由がないよう必要な物は揃えているつもりだ。
でも、これは僕達の都合で彼らを束縛してしまっているようなもの、それに闇の書に関しては無関係な彼らを巻き込むのはどうかと思ってるんだ」

「そら私らの世界ではガジェットやゆりかごに襲われるわ、無限書庫でも思念体にマステマ感染者とかいう闇の化け物に出くわしとる……エグザミアっていう得体の知れんのだってロストロギアだらけやったノヴァの文明でさえ再現できんかった遺失物や、そんなんからどれだけの化け物が出て来るなんて想像もつかんへんもんなぁ」

確かに彼らの持つ魔術というレアスキルや力は魅力的ではあるものの、本来は時空管理局とは縁の無い管理外世界の民間人でしかなく、そんな彼らを巻き込んでしまうのは問題があると話せば八神もそれもそうかと表情を変え、

「そうだね。次元間戦争をしていた古代の人達でさえ夜天の書に封印しなければならない程だったみたいだもの相当危険な代物だと思う」

「だからこそ、そんな危険な事に本来僕達が守らなければならない民間人を巻き込む訳にはいかないんだ」

なのはにしても、エグザミアが何にせよ、如何に衛宮士郎達が特異な存在であっても局員が守るべき民間人を巻き込んでしまうのは本末転倒でしかないのを思い出したようだ。

「しかし、局員でない者を巻き込みたくないという理由は判りますが、夜天の書を闇の書に変えてしまったような未知の相手に対してアルトリアの剣、衛宮士郎の攻勢結界、アリシアのジュエルシード改などがあれば状況に対する対応力にも差が出てきます」

「ゆりかごの分厚い外装を斬り裂いたアルトリアの剣も相当だけど、アリシアのジュエルシード改だって理論上だけならアルカンシェルクラスにだって相当するかもしれないって話しだしな」

シグナムとヴィータからすれば、彼女達の世界で戦った自動防衛システムの暴走体との交戦やそれまで彼女達が経験してきた体験から、特異なレアスキルを有する彼らの力は無視できないものらしい。
だが、無限書庫でアリシアが用いたジュエルシード改の運用は複数の次元震を波動として干渉させあった結果、驚異的なエネルギーになるように高める方法ではあるが、基本的には歪曲場による閉鎖空間内で次元震同士をぶつけて増幅させる衝撃でしかなく、流石にアルカンシェルクラスの殲滅力云々は理論上の考えだけで、『ディストーションシールド』といった閉鎖空間内で互いの波がそこまでタイミングよく増幅するよう干渉させあうなんて芸当は人間のリソースではまず不可能といえる。

「それに、何かあっても士郎君やアーチャーさんの結界なら少しの間でも閉じ込めておけるかもしれないし」

なのはも他にも彼らの世界でも禁呪として扱われている結界魔法の利点を上げ、

「遠坂さんだって、やたら魔力放ってたのに平然としてましたしもねぇ……」

「あれもレアスキルなんでしょうか?」

スバルにしても、書庫で遠坂凛が宝石で出来た短剣で繰り出される魔力が個人のものとしては破格な量であるにも関わらず絶え間なく撃ち放ち続けていたのを不思議そうに思っていて、リィンは何かしら特異な技術が使われているのではないか考えているようだ。

「他にも、彼らの世界の魔法技術なら僕らの世界で出来ない事でも出来る可能性もあるが、それらを含めても彼らは僕らが守るべき相手なんだ」

彼らは頼りなるのは確か。
個々の力や文明の違いがもたらす魔法技術の違い、それらを考慮しも僕は守るべき民間人に違いないのを告げれば、

「そう、メリットもデメリットも解っていての話なんだね」

「何にせよ、クロノ君は局員でない者を巻き込むのに後ろめたさを感じとるんやな」

「そうなる」

なのはと八神も、夜天の書を闇の書に変えてしまっている元凶、エグザミアに対して万全の体制で臨む必要はあるが局員でない者を危険に巻き込んでしまのは間違いなのを判ってくれた様子。

「ただ。一緒にトレーニングをして間もないけれど、士郎君ってこっちの世界の私やフェイトちゃんが巻き込まれるくらいなら自分から関わって来そうな感じがしたかな……」

「こちらにも、キャロやエリオがいるので言い難いが……分別のついてる大人なら小さな子供が危険に遭わないようにしようとするものだろう」

なのはとシグナムはアルトリアや遠坂凛もそうだが、特に衛宮士郎は時空管理局の局員に向いている思考の持ち主だと捉え、そんな彼らだからこそ好ましく思えもするが、現地で何かあれば事態を収拾しようと独自に動いてしまうかもしれない点を上げ、

「そやろな。なら、いっそうの事嘱託魔導師になってもらったらいいんやないか?」

「嘱託魔導師か。しかし、それを強要するのは問題があると思うが……」

八神は彼らを僕達の関係者にしてしまえばいいという提案をして来て、嘱託魔導師に関しては僕も考えなかった訳ではない、だが管理外どころか、並行世界という異なる世界から訪れたにも関わらず彼らは既に十分な協力をしてくれている。
それなのに、これ以上彼らの力をあてにしてしまうのは正直気が引けてしまう。

「でも何かあって協力してもらうにしたって、こっちのルールが判ってないのは問題があると思うんだ」

「……そうだな。嘱託魔導師については、恐らく母さんやグレアム提督も考えているだろうから、こうしてただ迷っているくらいなら直接聞いてみてみるのもいいのかもしれない」

なのはに何かあってからでは遅いと言われれば確かに彼女の言い分ももっともだ、このまま後手後手に回ってしまうよりかは協力してもらえるなら嘱託魔導師になってもらい、そうでなければ相当な危険があるだろうエグザミアについては関わらせないようにしようと決め、

「ありがとう、おかげで僕も決心がついたよ」

「別に大した事はしてないよ」

「そや。これくらいなら何時でもいいで」

礼をいい、連絡をつけようと踵を返す僕になのはと八神は声をかけて送り出してくれた。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

リリカル編 第29話


周囲には幾つもの六角形のスフィアが異なる動きで俺を囲む。
デバイスなどからでも判るが、時空管理局が治安を維持する次元世界でさえ人工知能は俺達の世界の遥か上を行く、ここ本局の訓練場のシミュレーターとなれば更に最先端の人工知能によって制御されていて、それぞれスフィア群は互いに連携を保つ動きすらみせていた。
勿論、難易度の設定によっても変わるが六角形のスフィア群から絶えず放たれる魔力弾を両腕のイデアルから生えた魔力刃で切り払いつつ駆け抜け一つ二つとスフィアを斬り捨て。
振り返りざま、やや距離が生まれたのを幸いに俺は両手を組むような動作で連結させ弓へと姿を変えたイデアルで矢継ぎ早に矢の形をした魔力弾を射る。
単発よりか精度は落ちるが仕方ない、一度に複数の矢を番え迫り来る魔力弾を撃ち落し、次の射で更に数体のスフィアを射抜く。
だが―――

「っ!?」

唐突にそれまで色のあった視界が白黒に変わり始める。
体の動きを速めるミッド式の機動魔術とでも呼べばいいのか、ブリッツアクションの術式を読み解いているうちに、この魔術には体そのものを強化するだけではなく高速化の制御というか反応速度を速める為に神経をも強化しているのが解って、そこからヒントを得た俺は強化の魔術で同じようなことが出来ないか脳に施してみる事にしてみた。
聞いた話では、高ランクの空戦魔導師ってのはまるでサーヴァントみたいに音速での機動を行うとかで、そんなのを相手に空での白兵戦を仕掛けるなら、桁違いの速さに対応可能な反応速度が求められる、その辺りから考えてみても、神経に作用させて伝達速度を上げるような術式を組み上げた魔導師は、長年人造魔導師を研究して来たプレシアさんみたいに人間工学や人体の作りに造詣のある人物なんだろう。
それに俺の使う強化の魔術にだって癖はある、それは魔力を込める程度を誤って少なければ中途半端な状態になってしまうし、逆に強すぎれば構造を強化させる筈の魔力によって対象そのものが崩壊してしまうといった危険性がつきまとう。
まともな魔術師なら、いくら強化が自由度の高い魔術だとしても脳神経を危険にさらすようなリスクをしてまで試すような魔術じゃないだろう、でも幸い俺は神の座で特に解析を重点的に教わっていたのもあって脳神経についても解析は十分行える。
他にも、親父から教わった魔術の鍛錬を行い続けたからか魔術回路そのものの強度が他の神経などにも影響を及ぼしているらしく、ある程度なら大丈夫だろうと判断しての考えだ。
十分な解析を行った後、手始めに脳そのものだけに強化を行ってみたんだけど……肉体のバランスというか、思考だけが先行してしまって少し動くだけでも恐ろしい時間が経過したようなちぐはぐな感覚に陥ってしまった。
要はバランスの問題だろう、首から下の神経を同じように強化してなかったからこそ起きてしまった状況だったんだ、脳も体も同じように強化を施しえしまえば思考も動作も同じように高速化させたまま、いつもの感覚で動かせられる。
後はどれくらいのバランスが一番適しているのかをこうして探る必要があるだけで、問題にしても特に表立って現れるのは無く精々脳神経を強化するとエネルギーの消費が多くなるから食事の量が増えるといった程度だ。
それでも強化に対する魔力供給が滞れば、体なら腕力や脚力の低下と共に体力の消耗も増して来る感じだけど、脳の場合は程度によっては視覚神経に影響が出てしまうのか視界が白黒になってしまうといった副作用が現れてしまっていた。
とはいえ、視野の変化は原因が解っているから対処しやすい、例え白黒に変わってしまっていたとしても再び強化を施せばいいだけに過ぎず、むしろ問題は強化というよりも魔術や動作を同時並列で制御するマルチタスクの方だろう。
脳に魔力を込め強化を行えば、色が失われた世界は再び色彩を取り戻し、同時に少し強化し過ぎたのか俺に迫り来る数々の魔力弾やスフィアの動きが鈍くなった。
別に周囲の動きそのものが遅くなった訳じゃないが、単純に脳の処理能力が増したからそう感じるに過ぎず、脳の強化は他の部位に対するよりも消費するエネルギーが多いいから多用には難がありそうだけど、体感時間とはいえ周囲の速さが遅く感じられるのは助かる。
体感だけとはいえ余裕が出来た俺は、囲まれないよう走りながら矢を放ち続け、迫る魔力弾を撃ち落しつつ牽制を行いながらも確実にスフィアの数を減らして行った。
そんな折り、ふと状況を把握する為に四方に飛ばしておいたサーチャーから数体のスフィアに魔力弾とは違う魔方陣の展開を認め、射っても間に合わないのを悟った俺はイデアルを篭手に戻しつつ魔力刃を展開しながら高速機動魔術を行使する。
術の名はソニックムーブと呼ばれ、アースラの訓練室で一緒にトレーニングするようになった大人のフェイトから教わった魔術、まるでセイバーの踏み込みの如く瞬間移動じみた凄まじい加速が特徴の高速移動を行う術式。
一緒に教わったアサシンは初めこそ驚いたものの二度目には「なかなか面白い歩法よ」とか面白がっていた、けど俺は余りの高速に感覚がついていかなかった―――でも、脳を強化した今ならソニックムーブでの急加速でさえ十分感覚がついていけるようだ。
魔術による加速こそ同じなんだろうけど、アースラの訓練室での時とは違って妙に遅く感じられるものの、ミッド式特有の魔方陣が描かれた数体のスフィアから魔力の塊が線となって放たれるなか、迫り来る数条の砲撃を弧を描くようにして迂回して避け、

「あぁぁぁっ!!!!」

加速が行われる最中に一体を斬り裂き、

「っ!」

回り込み、魔力で空中に固定した足場を用いながら三角跳びの要領で背後から一対の魔力刃を叩きつけるようにして二体目を裂く。
脳を強化しているからソニックムーブの速さにも十分対応はできている、でもまだ他の魔術と組み合わせるとタイミングが難しく魔力の足場ももう少し遅かったら間に合わなかった。
ソニックムーブの影響はほぼ瞬間、この時点で俺がおこなった急激な加速は消えてしまったが、その間に背後に回った俺をスフィア達は見失っている。
間をあける暇も与えず、即席の魔力弾として両腕の魔力刃を別々のスフィアに射出して墜とし、再び弓に持ち替えた俺はまだ数体ほど残るスフィアへと魔力弾を射って終らせた。

「はあ…はあ………ふう」

「昨日までとは見違える動きでした、シロウ」

呼吸を整えながらバリアジャケットを解除してフィールドを後にする俺に、「どうぞ」とセイバーがタオルを渡し労ってくれる。

「少し強化を変えてみたんだ」

「なるほど。強化の魔術は対象の段階を引き上げる効果をもたらしますから、それによってシロウの体は英霊に近い域にまで引き上げられた訳ですね」

「……流石にセイバーと同じに域ってのは無理があるだろ」

「いえ、先程の動きを見ればかなり近くまで迫って来ているといえます」

「そうか?反応速度が向上したから動きが良くなったのは解るけど、そこまでの実感は無いけどなぁ………」

「ですが、シロウは確実に強くなって来ているそれは誇ってもいい」

両手を腰にあてるセイバーは、俺にもっと自信を持ってもいいと微笑んだ。
そりゃまあ、聖杯戦争が終ってからはアイツから色々教わったのもあるけど、アヴァターでは学園の教官、神の座で神や元救世主達から主に基礎的な部分を教わっていたから下地は出来てるのかもしれない……でも、一番の理由は周りが凄過ぎるからいまいち自分が強くなった実感が湧かないのが原因なんだろうな………
なにせ近接戦闘ではセイバーやアサシンに敵うべきもなく、魔術にしても遠坂には及ばないでいて、ミッド式にしても防御魔術で一番強固なはずのラウンドシールドというのがあるんだが、半円の形をした守りは飛来する攻撃を弾く以外に反らす効果なんかもあるんだけど、なのはやフェイトの砲撃はその防御魔術を使ってもいとも簡単に貫いて来るから防ぐという選択そのものが成り立たない………これで自信を持てというのが難しいだろ。

「ところで、瞬間的に加速を行う魔術をアサシンも使っていましたがアレは?」

「俺とアサシンは機動六課と朝にトレーニングをしているだろ、その時に向こうのフェイトから教わったんだ、何かを避けたり間合いを変えたりとか色々便利だぞ」

「言われてみれば、シロウとアサシンは早朝から機動六課の者達とトレーニングを行っているという話でしたね」

「セイバーさえよければ後でデバイスに入れようか」

セイバーなら、別に使わなくても魔力放出で十分なようにも思えるけど、アサシンも使っていたソニックムーブに興味を持ったらしく、この時、セイバーにソニックムーブというのがどれ程危険なのか想像できずにいた俺は「むむ」と考え込む姿をみかねて後で教えると言ってしまった。
ふと視線を動かせば、ちょこんとアリシアがシミュレーターを操作するコンソール卓に座り、後ろにアサシン、フェイト、アルフの三人が画面を見つめていて。
遠坂とアーチャーの二人は無限書庫で知り合ったノヴァの言う次元砲の特異点というのが、短い間とはいえ世界に穴を開けて外にあるエネルギーに攻撃性を与えて地表を焼き払うという兵器であって、それは俺達の世界でなら聖杯か根源への道といった扱いになるのだから魔術師としての知識欲からかノヴァの居る無限書庫に入り浸っている。
………遠坂もニティに今は関係者以外立ち入り禁止って言われたのに、例え首尾よく神の座にたどり着いたって教えてやるから仕事をしていけって言われて何十年、下手すれば何百年もさせらるだけだろうに、どうして魔法ってのを手に入れたいのか俺には解らないところだ。

「結果がでたよ」

「ほう。なかなか、アーチャーにしごかれているだけはある」

よく家でセイバーとしているゲームの感覚なんだろう、コンソール卓の前に座るアリシアから俺がしていたシミュレーターの評価が現れたのを教えてくれ、後ろに立つアサシンの反応からも評価がいいのが判る。
アサシンは言峰個人か聖堂教会からかは判らないけど、アリシアの護衛役として仕事を請けているから傍にいてくれるから助かってるが、当のアリシアは、ここ数日の間は擬似リンカーコアシステムに何もトラブルがないからか暇を貰ってフェイトやプレシアさんの庭園に遊びに行こうとしていた。
でも、今日は大人のフェイトが庭園に来るそうで気を利かせたフェイトから積もる話もあるだろうというという心遣もあって庭園で遊ぶのを断念していて。
そうは言っても、

「私もお姉ちゃんだからお話ししたい」

そう言ってアリシアは唇を尖らしていたが、フェイトから「お姉ちゃんなら二人きりにしてあげよう」って言われた挙句、アルフからも「アリシアとは死体でしか会った事がないんだから、プレシアと話しをさせるのが先だろ」などと説得され今に至る。
まあ、

「うちのとこはまだ死んだままだからね………」

そうつけ加えたアルフの様子からして、プレシアさん達はこっちのアリシアを如何するのかは決めかねているようだった。
そして、二人が気兼ねなく話せるようフェイトも俺達が居候しているアースラに行けないかという話が出た為、艦長のリンディさんに連絡を入れたところ、魔導師ランクの測定を受けては如何かとの誘いを受け。
幸い、アリシアが擬似リンカーコアシステムの開発の一環で試験場にも出入りしている事から機器の扱い方が分かるという。
そうした流れから、ジュエルシード事件の際に艦内で測れなかった分を含め本局の訓練場で測定する話になって特別顧問のグレアムさんの許可を貰って今に至り、本局の中でも規模としては比較的小さい方らしいが、アースラの訓練場よりも多彩なトレーニングが出来るここを借りて体を動かしていた。

「凄いね。攻撃命中率九十八%、被弾率十二%、総合成績はAAA+だって」

「まあ、掠める程度のは避けないでいたからな」

「それにしたって相変わらず滅茶苦茶な命中率だよ、牽制している分を含めればほぼ百%じゃんか」

小さいながらも魔導師として高い力を持つフェイトや使い魔のアルフは素直に賞賛してくれるけど、二人共俺が同じ歳の頃とは比べるまでもない、そのまま成長すれば比例してより実力が高くなるから、きっと大人のフェイトやなのははさぞ凄いんだろう。

―――いや、実際そうだったな。

無限書庫で出会った化け物の姿が、まだ泡立った時のままでの動きや洞察力からして、もしかしたら俺達の世界でいうところの封印指定された相手を捕まえる為に派遣される執行者に相当する実力なのかもしれない。
そう思いつつコンソール卓に近づき、シミュレーターの結果を表示させる画面を見やれば、そこには終るまでのタイムレコードを始め命中率や回避・被弾率などの項目にAとかSSSとかSなどが映されていて、総合的な評価の欄にはAが三つに+の文字がつけ加えられている。
とはいえ、脳神経の強化を施した事から自分でも上手くやれたと思うものの、時空管理局での評価の仕方が判らなければ表示されているAAA+とかいうのがどれだけの成績なのか今一つ把握し難い。
特に、Sという字はAから数えてかなり後である為、そこまで評価が悪いのかと思えて来てしまう、反対にSが高い評価であるなら最高の成績はZZZ+辺りだろうからAAA+という総合評価は門前払いのレベルになる。
しかし、軽く走って体を解すなりした後で行ったシミュレーターは俺だけじゃなく、その前にアサシンが行っていて、その時の総合評価はSSだった。
実力からしてアサシンと同じ位の評価だっただろうと思うものの、一番に試したセイバーは残念ながら対魔力の問題で訓練用の魔力攻撃さえも無効化してしまう事とセイバー自身も避けないでいた事なんかも原因なんだろうけど、折角行ったシミュレーターではスフィアの弾が命中しているのにも関わらずバリアジャケットの消耗が見えないのがエラーとして扱われてしまって評価が出ないでいた。

「これっていいのか?」

ジュエルシード事件の時に聞いとけばよかったって内心で溜息を吐きながらも、時空管理局の評価がどんなものなのか把握しているだろう二人に聞いてみた。

「然り、前に向こうの高町なのはが擬似リンカーコアシステムを試した際も近い評価であった」

「なのはさんがやったのとは内容が違うから一概に比べるのはどうかと思うけど、成績としては似た感じだったよ」

「そうか、大人の方のなのはは航空戦技教導隊っていう超一流の魔導師だって話しだもんな、ならこの評価は良いのか」

肯定してくれるアサシンは、アリシアに付き添ってくれてるんだから評価についても見聞きして来たんだろうけど、大人のなのはは機動六課の前に航空戦技教導隊っていう精鋭部隊に所属している程なんだから空での魔導師がどう動くのか俺も見てみたいものだ。

「もしかして見方が判らないのかい?」

「おう」

「いや、そんなに自信を持って答えなくても……」

ただ、悪い評価ではないのにホッとしたところにアルフが聞いてきたから正直に答えたんだけど何故か苦笑いをされてしまう。
だからか、

「Aがよくできましたの○で、BからCはがんばりましょうの△や×、Sは大変よくできましたの花丸だよ」

こんな感じってアリシアが教えてくれたものの、なんていうか小学校の答案みたいだ。
まあ、高校の成績表なんかは一から五までの数字で行われているから文字の違いなのかもしれず、AAやAAAなんていう違いは細かな差に過ぎないのだろうけど―――念の為、

「そんな風なのか」

「うん、大体は。でも、これってどれくらいのレベルで設定しているの?」

どうなんだって、フェイトとアルフを見やればフェイトから大筋であってると返されたけど、どの程度の難易度か知らされてなかったらしい。

「オートスフィアが始めから二十体いて、一度に現れる数が二十体までだからそれ以上はフィールドに現れないけど、六十体まで補充されるから何だか減らしても減らしても終らないように見えたよ」

フィールドの外で見ていたアルフからも、今の設定が少し難しいらしいのが判ったからか機器を操るアリシアに皆の視線が集まる。

「ん、皆の実力から魔導師ランクはAAにしているよ」

「AAランクという事は武装隊の中核レベルですね」

「武装隊、か」

アリシアは小首を曲げながら普通の設定だよっていう感じでキョトンとしていて、AAランクというランクのそれを知っているセイバーから今の設定が武装隊の人達が行う訓練と変わらないのが明らかになった。
……ただ、これまでも武装隊の人達と一緒にいた事はあるけど、それまでの多くが結界の展開と維持しをしているところしか見てないので実感が湧き難い。

「小耳に挟んだ話では、武装隊の多くはBランクという話であって、現場で小隊の指揮などを任されるベテランの多くはAかAAランク、AAAランクというのは少数のエリートらしい」

「その上で、保有魔力量が特に多いい武装局員のごく一部に依存のランクの枠では当て嵌められない実力者が居たことから特別枠が設けられてSランクというランクが出来たとか」

「それがSの由来か」

魔導師のランクについては、アサシンとセイバーも気になっていたらしく独自に調べていた様子。
でも、なるほどと思ってしまう、特別、即ちスペシャルとかそんな意味から生まれたからSなんだろう。

「次はフェイトさんの番だよ?」

見ているのが楽しいのか、笑顔のアリシアが問いかければ、

「うん」

「フェイトなら大丈夫だと思うぞ」

心地いい返事で返すフェイトに先に行った俺はフェイトなら問題ないだろうと口にする。
そもそも、アリシアを失った経験からフェイトが一人でも生きていけるようにと施したプレシアさんなりの英才教育なのかもしれないけど、こと戦いに関する限りフェイトの実力は高く、動きは勿論の事、一撃の重さにしても魔力資質が高いからか俺なんかが魔力弾を障壁を張って防ごうとでもすれば、込める魔力が多くなってしまうからたちまち魔力が削られてしまう程だ。
実際、フェイトは俺やセイバー、アサシンとは違って空戦が主体で、空中を不規則に動き回って照準つけさせないばかりか、ブリッツアクションを使いこなしているからだろう動作が素早く飛行速度も速いときている。
直射型の魔力弾、フォトンランサーにしたって俺が複数の魔力弾を中ててようやく倒しているスフィアを一撃でもって倒してしまうばかりか、外れたと思ったのがスフィアの背後で止まって方向を変え再び加速して撃ち抜いたのには正直にいって面をくらった。
見ていた俺は、フェイトやなのはみたいに空中で自在に動ける量の魔力があれば戦術にも幾つか幅が増やせるだけどなぁと少し羨む気持ちで見ていた―――けど、デフェンサーというラウンドシールドよりも逸らす機能に重点を置いた防御魔術を使っているから被弾こそないものの、何だかフェイトの動きは攻めに重点を置きすぎているように感じられ、どこか焦っているようにも見えなくもない。

「どうしたんだ?」

気になってシミュレーターを終えて戻るフェイトに訊ねれば、

「うん……」

フェイトは軽く視線を下げてから戻して、

「アリシアとキャスターさんは母さんを助けてくれた。
向こうのミッドチルダでは、アルトリアさんは皆を苦しめる元凶を撃ち払った、私は皆みたにはできないから誰かを守れるよう少しでも強くなりたいんだ」

「何を言うのです、向こうのミッドチルダでの際にも思っていましたがフェイトはもっと自信を持っていい」

「いやはや。なのはといいフェイトといい、こちらの童の向上心の高さは凄まじいものよ」

フェイトが吐露した言葉に、セイバーやアサシンはフェイトの実力がどの程度なのか本人が把握してないのを苦笑していて。

「そうだぞ。俺の同じ頃なんかよりも遥かに強いんだから自信を持っていいぞ」

「そうなのかな………」

俺だって、正義の味方に成りたくてもどうすればいいのか分からないでいたんだから少しでも強くなりたいっていうフェイトの気持ちは解らなくもない、けど俺の九歳の頃とフェイトでは出来ることが全然違う、なによりフェイトはまだまだ子供なんだから急ぐ必要はないだろう。

「気になるんなら私の妹の方に聞いたらいいよ、なんたって私の妹なんだからね」

「姉を強調するのに必死だね……」

「だって私はお姉ちゃんなんだもん」

戸惑うフェイトにアリシアから大人のフェイトに聞いてみればいいんじゃないかっていう案がなされ、アルフが呆れたような視線を向けるけど胸を張って「ふふん」とアリシアは気にせずにいた。
けど、まあアリシアの言い分も判る、フェイトなら俺とアーチャーみたいにややっこしい事はないだろうからな。
そんなやりとりをした後も、俺はセイバーのデバイスにソニックムーブの術式を入れれば、フェイトも直射弾を途中で狙いを変え再加速させる術を教えてくれたりと互いに気になったミッド式魔術を教え合いつつ残る魔導師ランクの測定を終らせて行く。
ただ……なんというか、ポチが散歩から戻っていつも通りにその辺でくるくるうろついていたら、我慢できなくなったアルフは人の姿をしたままポチに噛りついていたりする、狼の姿なら違和感がないんだけどいい大人の女性が丸いポチを噛りついている姿は見ていてシュールだ。
などと思っていたら不意に空間モニターの画面が現れ、

「フェイトも来てたのか」

「うん。今日は庭園に向こうの私が来てるから邪魔にならないようこっちに居るんだ」

「ちゃんと、リンディさんとグレアムさんの許可は貰っているよ」

画面に映されたクロノは、本局にフェイトが居るのが意外な様子だったが、本人とアルフの話を聞けば「そうか」と納得したのか続け、

「連絡を入れたのは、君達に相談したい事があるからなんだが……」

「相談?」

「ああ。詳細は会って話したい、そちらの都合でいいから時間をつごうできないか?」

何の話かは判らないので聞き返すが、どうやら画面越しでは話し辛い内容のらしい。

「魔導師ランクの測定も終えるところだし、俺はいいと思うけど……どうする?」

「私も問題ないかと」

「私は今日はお休みだから他に予定とかないよ」

「こちらはアリシアが行く所に向かうだけの事」

セイバーやアリシアに問いかければ、二人とも大丈夫なようで残るアサシンはアリシアの護衛をしているからアリシアが行くなら自分も行くのは当たり前だと返し、

「君達って事は、私やフェイトも入るのかい?」

「君らさえよければだが」

初めにフェイトが居たのを意外そうにしていたからか、てっきり俺やセイバー、アリシア、アサシンとここには居ないけど遠坂とアーチャーに対しての話だと思っていた俺だが、アルフが自分達も入っているのか訊ねればクロノは二人も関係する話のようだ。

「どうするフェイト?」

「クロノの頼みなら聞いてみようよ」

「そうだね。プレシアもフェイトも世話になってるし」

二人はジュエルシード事件でのプレシアさんの治療や、フェイトとアルフが管理外世界でロストロギア収集していた件などでクロノに色々と世話になったからだろう、何の話かは定かではないが聞くだけ聞いてみてから考えればいいと判断した様子。

「では、魔導師ランクの測定が終えた後こちらから連絡を入れましょう」

「そうしてくれると有り難い」

セイバーの提案により、とりあえずはそれで通信を終えた俺達は、時間と場所は俺達の都合でいいらしいので先ずはランク測定を終え。
でも、俺は良いとしてセイバーやフェイト、アルフは女の子だ体を冷やす前に軽くシャワーで汗を流してから連絡を入れ商業エリアの喫茶店で落ち合う約束をした。
もっとも、俺やアサシンもコンソール卓を操るアリシアから風邪を引くよって心配されたのもあって、三人を待つまでの間に軽くシャワーで流してから来ている。
喫茶店に入った俺達は、魔導師ランクの測定もあってか小腹が空いてきていたのもあって飲み物以外に各々プリンやらケーキ、パフェなどを頼みながら測定で使った術式の長所、短所を交し合って花を咲かしていた。
思えば、元の世界では魔術について話なんかできる相手っていえばアーチャーくらいしかいなかったなとか思っていれば喫茶店の扉が開いて黒い防護服姿のクロノが入って来る。

「こっちだ」

手を上げて呼んだ俺は、

「それで話って何なんだ?」

「また人手が必要なのですか?」

「いや、今回は違う」

時間通りに喫茶店に現れたクロノに話しかけ、セイバーもまた無限書庫で資料を探すのに人員が必要なのか口にするのだけど違うらしく。

「こうして時間を都合してもらったのは、君達に嘱託魔導師になってみてはどうかと思ったからなんだ」

「嘱託魔導師?」

聞きなれない名称に俺が疑問の声を上げれば、クロノは俺達に視線を向けたまま近くの席に腰を下ろし、

「それだ。正規の局員ではないが、この資格があれば本局や次元世界での行動に対する制限が少なくなって僕達も管理局の仕事を任せられる」

要はアルバイトみたいなものらしい、ただ制限という割にはあまり不自由は感じてないが、言われてみればここで許可が出ているのはアースラを除いて、マリーさんの所限定ではあるが本局技術部や無限書庫の一部、商業エリアなどはある意味一般開放されているから問題ないものの今更ながら制限があるのに気がつく。

「それは闇の書やエグザミアに関する事でもですか?」

「そうだ。むしろ、エグザミアに関しては僕達の文明よりも君達の文明の方が近いかもしれない」

「クロノが思うほど俺達の世界は魔術と科学が合わさった文明じゃないぞ、それに八神達まで来てるんだから十分じゃないのか?」

無限書庫で目にした漆黒に渦巻く化け物、破滅の力すら兵器として利用していた古代ベルカ文明、多分、その頃に生み出されたエグザミアなんて代物は、目的こそ不明だが術式を集めるだけの無害ともいえる夜天の書を闇の書に変えてしまった原因、セイバーはそんな異常な品が必要とされた背景も気になるようだ。
ただ、クロノは俺達の世界の方が近いと思っているみたいだけど、俺達からすれば破滅の力なんていう危険なエネルギーこそ使わないものの科学と魔術が融合しているかのようなミッドチルダの方こそ近いといえるし、前に闇の書の主だった八神の協力があればそれこそ俺達なんて不要だと思うんだが?
そう過ぎった俺だが―――

「しかし、シロウ。エグザミアなるモノは私達の世界にも在るかもしれません、ここで対処法などが解るのなら知っていても損はないはず」

「それもそうか、俺達の世界も古代ベルカ時代は在ったみたいだしな……」

「そうです。こちらの地球に現れた以上、私達の所に現れないという保障はどこにもない」

セイバーに俺達の世界にも関わりがあるかもしれないのを告げられれば、俺達が住む地球も広大な宇宙の一つに過ぎないのだから先史文明の遺産であるエグザミアや夜天の書が無いなんていう保障はどこにも無いのに思い至る。

「そっちはそっちで大変なんだ……」

「なにぶん、こちらの世界には時空管理局なる組織は存在しないとの話しだからな、何かしらあれば自分達で対処しなければならんのだ、有効な術が在るのなら知るに越した事はなかろう」

「そういう意味でなら、僕らは近い価値観を持つ未来世界から情報を得られたのは恵まれているんだろうな」

「そうだね……」

魔術を秘匿している俺達の世界でさえ地球の外には次元航路で行き来する世界があって、そこにはきっと宝具を始めとする危険な聖遺物がある筈だからかフェイトは時空管理局がある世界だけが大変なんじゃないのが解って、アサシンが零す懸念にクロノやアルフも頷きを入れる。
そんな流れから、誰かがやらなきゃ始まらないとでも思ったらしく、

「じゃあ私やる!」

率先してアリシアが手を挙げるんだけど、

「駄目だ」

当然ながら俺は反対する。

「え~」

既に聖杯戦争やアヴァターとか大人でさえ死んでも不思議ではない経験しているからか、何で駄目なのって抗議の声を上げるアリシアに、

「今回は夜天の書を闇の書に変えてしまった原因のエグザミアってのを取り除かないといけないんだ、無限書庫に現れた化け物よりも性質が悪いかもしれないんだぞ」

「僕としても君の持つ不可能領域級の魔法は魅力的だが、出来れば君には擬似リンカーコアシステムの開発に集中して欲しい」

名前やおおよその概要は判ってはいるが、未知なる化け物を相手に幼いアリシアを戦わせるという選択は俺にはない、クロノというか管理局側だって闇の書に関連する事柄よりも、より全体に影響を及ぼす技術開発の方を優先して欲しいようだ。
そんなアリシアに、

「大丈夫だよ、アリシアの代わりに私が頑張るから」

「う~、私お姉ちゃんなのに……」

フェイトが慰めようとしてるんだけど、お姉ちゃんらしいところを見せられないのが残念なのかアリシアは頬をぷくっと膨らましていた。
でも、

「フェイトもアルフも、決めるのはプレシアさんの許可を貰ってからだぞ」

「うん、そうだね」

「わかってるよ」

クロノを見れば判るように、幾ら次元世界の就労年齢が低くたってフェイトもアルフもアリシアに劣らず子供なんだから二人にも釘を刺すのを忘れない。
それに、

「一ついいか」

「なんだ?」

クロノには確認しなきゃならない事がある。

「俺はなってもいいけど、俺達はアリシアの用事が終ったら元の世界に戻るかもしれないんだぞ?」

「その時は、戻る数週間前に言ってもらえればいいさ」

それでもいいのかと問えば、クロノは事前に告げてもらえれば大丈夫だと返すのでやはり嘱託魔導師ってのは俺達の世界でいうところのアルバイトと公務員が合わさったようなものらしい。

「なるほど、契約を破棄するのに代償のようなものは要らないという訳ですね」

「……魔法文明の差だろうけど、時空管理局は次元世界の治安を維持するのが目的の組織であって、率先して違法な契約を結ばせたりはしないからな」

どこかホッとするセイバーに、クロノは僕達管理局を何だと思っているんだと言いたげだが、

「クロノの性分は心得ているつもりです。私も気分を害するつもりはなかったのですが、かつて魔術師同士が交わした契約の隙を突いて相手を殺害した者を知っているもので念の為に伺ったところです」

「世の中には酷い奴がいるもんだね」

「うん」

セイバーが口にしたある魔術師というのにアルフやフェイトは顔を顰めるが、俺にはどこか親父の事のように聞こえた。
実は親父が聖杯戦争に関わった四次がどんな状況だったのか気になって言峰に聞いた事があったんだが、アレもアーチャーのいう傍迷惑な正義の味方って奴の一つなんだろう。
俺の知る爺さんとは違って、ホテルの階を丸々借りきって工房に仕立て上げた相手がいれば、そのビルごと爆破してしまうわ、他にも状況証拠からの推測だそうだけど人質を取って脅迫した挙句に双方共に殺害しているとかがあったりして俺の知る爺さんとは思えないような真似をしていたりする。
俺だって気づくのに時間がかかったから人の事は言えないけど、誰かを助けるってのは自分だけ一生懸命に頑張ればいいなんていうのは思い上がりでしかない、他の……助けたい相手が望まなければ無理なんだ。
そりゃ時には自分だけの判断で動く時もあるけれど、そんな時には助けたい相手や周りから非難される覚悟で動くべきだ、正義の味方は助け助けられてこそいられる、目的の為に手段を選ばなければ例え助けられても感謝なんてできない状況だってあるんだから。
手段も目的も定まらなければ、結局は一を殺して九を救うだけの迷惑な、より争いを広めるだけの厄介者でしかないっていうのに爺さんは気がつけなかったのかもな。
改めて、爺さんやアーチャーが望んだ夢は俺が形にしてみせると誓うなか、

「契約を交わしただけで効果を持つ魔法技術、儀式魔法の一種かな?」

「イリヤお姉ちゃんは、契約を結ぶ時に強制(ギアス)っていう世界の力を利用して契約を行使させるようにすれば相手は約束を破れないから安心だって言ってたよ」

「………契約の内容次第では命を失いかねないからな」

「ええ」

疑問も口にするフェイトにアリシアはイリヤの例をだす。
そういえば昔、アヴァターでそんな事を言っていたなとか思い出しながら俺やセイバーが頷きを入れれば、

「魔術については門外漢ではあるが、魔術師同士の契約とはかくも厄介なものか……仮に女狐と約束事をする時は気をつけねばならんな」

とかアサシンも呟いていた。

「怖い世界だね……」

魔術を用いた契約、それ自体が命を失いかねない危険性を持つという話は次元世界での常識では考えられないらしくアルフは頬を引き攣らせていて、

「イリヤお姉ちゃん?」

「ああ。よくアリシアと遊んでくれるんだ」

虎こと藤ねえは知っていても、帰郷というかドイツの実家に帰っていたイリヤを知らないフェイトは誰って聞き返したのもあってアリシアの頭を撫でながら口にする。

「君達の世界には、そんな書類一枚で命に関わってしまうような恐ろしい技術ががあるのか―――でも安心して欲しい、僕達のは試験こそ必要だが契約でそんな事はしないし、相手を害するなんていうのはそもそも出来ない」

「それを聞いて安心しました、貴方に感謝を」

就労年齢こそ低いものの、クロノは俺達の世界でいうところの労働基準法に則った契約なのだろうが、一抹の懸念が無くなったセイバーは礼を述べ。

「俺やセイバーは嘱託魔導師の試験ってのに受けるつもりだけど、アサシンはどうするんだ?」

「興味はあるが、一度に二つの依頼を受けれるほど自信家ではないよ、言峰神父から請け負った仕事を先に受けているが故に辞退させてもらう」

アサシンはそう返すが、俺もポチがいるとはいえアリシアを一人にするのは不安があるからアサシンが居てくれるのは助かる。

「私とアルフはお母さんに相談しなきゃだね」

「そうだね」

フェイトとアルフもやる気満々のようだし、俺とセイバーはこうして嘱託魔導師になる試験を目指して勉強を行う事となった。


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