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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] リリカル編28
Name: よよよ◆fa770ebd ID:089a895a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/12 02:29


まったく―――相変わらずというか、サーヴァント使いが荒いマスターだ。

霊体化したままの私は、数々の本が散乱するも両側が連なる本棚で造られた通路をぼやきながら進む。
少し前までは、転移魔術で転移させきれなかったセイバーと一戦交えていた魔道書だが、セイバーに魔術の類が通用しないのに気がついたのか、あるいは不毛感からかは判らんがセイバーの体当たりで吹飛ばされたのを好機と捉えたらしく、表紙などの外装を変え他の本に紛れ込んでやり過ごしている。
剣の間合いで交えていたセイバーではそれらの動きを察知するのは困難であっただろうが、生憎と私は少し距離を取って見ていたから容易に観察できていた。
その後の動きはセイバーの出方次第だったろうが、この場を退いたセイバーを見とどけてから奥に退いたのを見るに、ここはどうやらある種の防衛ラインのようだ。
しかし、私とて霊体化している今は物理法則の影響を受けないからこそ問題ないが、肝心の書庫は重力がない所………実体化しては普段通りの感覚で動けまい。
だが、生前かは忘れたが守護者になってからは異界でこそあるとはいえ、この手の環境も幾度かは経験しているようだ。
それに、重力が働かないというのは自由落下のそれに近いが故に、いざという時はその辺りの感覚を元に動けばいいだろう。
そう判断しながら先を進む魔道書の後を追い続ける私だが………小僧や凛、セイバーについて無限書庫に向かったはいいとして、時空管理局は自分達が重要視する施設にも関わらず、こうして敵対的な者達を放置している辺り危機管理が甘いように思える。
ここの者達にしても、霊体である私の姿を捉えてないところを見るに、やはり情報生命体の如き者達は霊体のそれとは違うらしい。
それに、サーヴァントというモノは基本的に魂喰いに過ぎないのだ、凛が私の力を必要としてないのならその方がいいのは確かなのだが、状況を考えるにどうやらそういう風には行かないようにも思える、こちらとしてもなるべく凛に負担をかけないよう注意して魔力を使わなければならないだろう。
小僧にしても、投影した矢こそ思念体に通用せずデバイスを用いた矢を使っていたものだが、あの程度ならば投影する矢に何か効果を付与すればいいだけだろうに、まだまだ私が教えなければならない事が多いいように思える。
だが、どこぞの何かと契約したせいで私やガジェットが幾度殺しても殺しきれなかった程のモノと化している為に奴自身に関しては心配する必要がないのは助かる、それに、パスからは凛に加え機動六課の六人、部隊長の八神を筆頭に分隊長にまでなった大人のなのはとフェイトに分隊副隊長のヴィータ、シグナム、その部下のスバルといった面々にも怪我などはないようだ。
転移先が危険な所ではなく安堵する私に、更に書庫に取り残されたセイバーの救出に対してアサシン、アリシアに加えテスタロッサ一家とスバルを除く機動六課の面々が向かったのが伝えれ、仮に元の道に伏兵がいたとしても対魔力が高いセイバーを早々にどうにかできるとは思えん、こちらとしては魔道書を見失うわけにはいかないから、迎えが出たのなら安心して追跡に集中できるというもの。
そう思いつつも魔道書を数分も追いかけていれば、ふと本棚の一部が消え、本棚と本棚が途切れた部分に魔道書が壁の所に近づけば両の壁が開いて扉に変わる。
幻の類か……いや、壁を挟むようにして続いている本棚の位置からして元々扉だったのを壁に見えるよう擬装した後で本棚に見せかけていたと捉えべきか。
なるほど、本棚が幻であるなら侵入して来た者がこの辺りまで来た時には来た道と同じく、この辺りにも多くの本が散乱しているのだろう、あの本棚もその頃には空の本棚の幻にしてしまえば誰も気に留めまい。
それに加え、あの幻がただの幻でしかないのか、それとも魔力を元に触れられる様な形あるタイプなのかで隠されている扉を見つけられる難度は激変する。
ならば、扉の奥には余程見られたくないモノか知られたくない何かがあるはずだ、結界の類は張られてないのを確かめた私は物理的な障害などの影響を受けない霊体のまま扉を通り抜けた。
扉の奥には狭い通路が続いているが、進んだ先は部屋になっていて元々は広い空間なのだろう大小様々な筒のような透明な容器が所狭しに置かれ、容器の内容は人の形をしたナニカや異形と化しているモノなど様々な生き物成れの果てが納められていた。
壁面にそれらに関する研究資料らしき書物が収められている様子から察するに、無限書庫がどれ程の次元世界を範囲とするのか判断できないが、この手の書物の存在こそがこの施設がここに複製された要因なのだろう。
それに、施設内の様子から推測すれば、どうやらここは何かしらの研究施設でサンプルを保管する所のようだ。
室内を見回していれば、ふとミッドチルダ式やベルカ式などの術式特有である魔方陣の輝きを認め、近寄ってみれば成人した人間が入れるような大型の筒の一つから入っていた何かが消え去るところ、様子からしてどこかに移送されたらしい。
可能性としては、アレはここに住み着いているという主という者にとって重要なサンプルだからこそ安全な別の場所に移したのかもしれんが、それらを調べる間もなく凛とのパスから焦りが伝わって来た。

『どうした、凛?』

『……大丈夫。こっちに変なモノが転移して来て、少し驚いただけだからアーチャーはそっちに専念していて』

パスを通じて訊ねる私に、凛は問題ないと返して来たので安堵するも、

『了解した。だが、もし何かあるようなら令呪を使いたまえ』

『わかってる』

本来なら令呪は、回数こそ少ないがサーヴァントを従わせる絶対命令権で命令を強制させる他に、一時的に絶大的な能力の強化を可能にさせる。
聖杯を巡る戦いが一般に知られる危険などで、監督役が特別な報酬として提示する以外で増やすには基本的に他のマスターの令呪を奪うしか手がない貴重な力でもあるが、それを必須とする聖杯戦争ならば兎も角、並行世界のしかも次元を隔てた所では貴重ではあるが、他のマスターやサーヴァントに襲われる訳でもないのなら凛とて必要と判断したのなら躊躇するまい。
しかも、元の世界では既に聖杯戦争は終わりを告げられ、他のサーヴァント達も受肉して日々を過ごしているような状況であるばかりか、私と凛の関係にしても小僧を私のようにしないよう教育するのに必要な魔力を一方的に受けている身なのだ、仮に令呪が無くなったからといって足元を掬うような真似はしないのは凛も解っているだろう。
ただ、気になるのは凛達の所に転移して来たという何かか………転移したいえば、先程ここから容器の中身も何処かに送られている、もしかしたら凛達の所に送らた何かは先程ここから送られたサンプルの可能性がある。
そう思案しつつ、室内を一周回って捜してみるのだが肝心の書庫の主たる人物らしき姿は認められない。
まあいい、一通り捜してみて見つからないのだ。
とりあえずは話ができそうな相手なら事欠かないので聞くだけ聞いてみるか―――

「すまないが、ここの責任者に会いたいのだが?」

これ以上は時間の浪費と捉えた私は、このまま眺めているだけでは始まらんと結論づけ、実体化してこの書庫の主たる人物がどこに居るのかを魔道書に聞くことにした。
とはいえ、こちらとて考えなしに話しかけた訳でもない、先ほどのような重要なサンプルが一つとは限らないのだ、仮にこの場にまだ重要視する資料やサンプルなどがあるのであれば、魔道書や思念体のようにここを守る者達であっても、このような保管庫での騒動は望むものではないはずだ。

「セキュリティの大半は失われて久しいが、残ったセンサーすら反応がなかったとは驚くべきものがある」

「生憎と私は生身ではないのでね、そちらの思念体に似て異なる身だとでも言っておこう」

元の世界でなら、知性を持つような魔道書は魔術師そのものの魂が入った礼装や、秘匿する魔術が他の者達に渡らない為に後継者のみが見れるよう意思を持たせられた危険極まりないモノばかりである。
だが、こちらの世界でなのはやフェイト達のデバイスという科学と魔術が組み合わさったかのような代物を知った為に、この魔道書も何かしらのAIが組み込まれた型だと踏んだが間違いではなさそうだな。
しかし、難点は相手が本という形をしているからか、どちらが前か後ろかや人のような表情の変化が読めないところ、か。

「ある種のエネルギー体といったところか。で、当施設に何の御用か?」

「先程も言ったよう、ここの責任者に会いたいのだが?」

人間ならば、目頭の動きや無意識に表情に出てしまう感情の変化などである程度はその者の心情を探れるもののだが、本が相手では表紙を見て内心を探るのは困難を越え不可能だと肩を竦ませつつ疑問に疑問で返す。

「残念だが、当施設は運営する館長が居なくなってから久しく現在は私が代行している」

む、機動六課のスバルという女の子も言っていたが、なる程、この場を管理する魔道書そのものが研究を受け継いで暫定的にここの主となっていたいう話か。
無理もない、どれ程長い間なのか定かではないが、この辺りの書物の年代を考慮するに普通の人では寿命が足りそうもないのは確かだ。

「では、ここはどういった研究を行っていた施設なんだ?」

「答えても構わんが、こちらは気にしなくていいのかね?」

言い終わるが早いか、目の前の空間に映像が映し出された。

「っ!?」

時空管理局で慣れ親しんだ空間モニターとは些か毛色が違うようだが、根本的な原理は似たようなものなのだろう。
問題は映し出された映像に機動六課のなのはやスバル、執務官のクロノが泡立つ体に無数の目や手足を持つ怪異と交えていて遠目に小僧や凛の姿が窺える。
画面に映される泡の化け物は、砲撃系の魔術を受けたのか幾度も体に穴が空くが何事もなかったかのようにしてすぐに元に戻ってしまっている、しかし、状況からそれ程危険な相手には思えない、だが気になるのは守護者として培って来た勘が警告を発しているという事か……

「アレにも固体差があるのが気がかりだが、今回のは体の構成こそ脆いものの復元力は優れているらしい」

「……だが、君が止めればいいだけではないかね?」

「精錬する前であったのなら制御も可能だ。だが、より効果を高める為に精錬したのを―――しかも、実験とはいえ高純度にまでなったものを投与したタイプとなれば、何人もの研究者達が長い年月をかけ研究を重ねていたが実現できいない」

「すると、アレは単に何の制御も受けずに暴れているだけという訳か……」

「そういう事になる。だからこそ、ここに近づかせないよう扉を閉めてから送り込む必要があった、無論、あのエネルギーを受けた者が襲う優先順位もまた研究者達の調べで判明してるからこそだがな」

「というと?」

「まず初めに生命体、次に住居や設備など形作られた文明といったところだ」

魔道書は凛達が映る画面とは別に新たなモニターを広げ、そこに映っていたのは数十人の人々が本棚に挟まれた通路を駆け、ある者は立ち止まって振り向きざまに銃や弩を放っているといった内容である。

「こちらが、かつて用いたタイプだ」

続いてモニターに現れたのは、悪夢から抜け出て来たかの如き姿をしていた。
突き出た触覚の先には目があり、全体的なイメージとしては灰色をした巨大なナメクジのような姿をしていて、体には三対の巨大な腕に人の顔にも似た凹凸が所々にある………いや、十数人もの人間が顔だけをあらわにされ苦悶の表情を浮かべたまま張りついている。
ナメクジの怪異は、それが口なのだろうが粘液のような液体を吐けば、浴びた者達は溶けるようにして姿が変わっていきほぼ肉団子のような形になったところを巨大な腕に拾われ、背中に開いた穴に放り込まれていた。
すると、体を覆う人の形をした凹凸が更に増えたところを見るに、背中に空いた穴は巨大な口であり、喰われた者達は融合させられてしまうのか生きたまま怪異の一部となっているようだ。
もちろん、襲われている方も黙って喰われたりはせずに魔力弾やら銃、弩を放ってはいたが、それらがあたる事など無く全てが何も存在してないとでもいうのか怪異の体を抵抗もなく通り抜けている。
そうしている間にも、おぞましい怪異の姿に加わり、あまりにも一方的な状況の為に、呆然と立ち竦む者、つくばって泣き出す者、正気を失って笑い出す者、それらの者達は格好の餌食となって肉団子にされ、またある者はそのまま喰われていく……………アレは危険だ。
怪異側からは触れられるが、こちらからは触れる事すらできないといったのは、状況から考え、存在している次元が少々異なっているから攻撃が透過してしまっているのではないだろうか?
そして、体に新たに加わる顔の数々……あれも推測するに、猿やリスの頬袋の如く魂そのものを蓄え少しづつ糧として取り込んでいるのかもしれない。
だが私に判るとすれば、あの様な怪異、仮に元の世界で現れたののなら、まず間違いなく守護者が呼ばれるだろうという事。

「保管されていた我々は、いつの間にか施設の一部と共に何処かに移されたのに気がついた。
状況を把握する為に調べてみれば、既に外部から魔力の供給が失われていた他、警備システムの多くや数々のセキュリティが失われ、やむ得ず本館にある品々を修繕して用いながら設備を復旧をさせつつ周辺の捜索を行う事にした」

頭の片隅で勘という形にならない警鐘が鳴り響くなか、泡立つ化け物とおぞましい怪異を見比べている私に、魔道書は静かにこれまでの経緯を独白し始める。

「そうしている間にも月日は経ち、最近住み着きだした君達が現れる少し前に訪れた者達、商船を装っていたようだがどこぞの私掠船が来たのだ。
その者らはこの地にある金銭的に価値がある物を探しに訪れた俗物に過ぎんが、言葉巧みに貴金属や調度品の場所を聞き出していた、その辺りはこちらとしてもどうでもよいからこそ教えはしたが、この施設、技術資料館に蔵されている品々にまで手を伸ばそうとしてきたのだ―――無論、それ故に我等と争いになったのだがな」

「だが」と魔道書は続け、

「ファントム・ソルジャーズは健闘していたが、ここまで来れたのなら解っているだろう、あの者らは物理的な衝撃には滅法強いが魔力的な損傷には脆弱だ。
いかに魔力さえ在れば際限無く増やせる者達とはいえど維持するのにも相応の魔力は必要とする、必然的に展開可能な人数にも制限がかかってしまえ……しかも、弱点が判明しては戦いにすらならなかった」

「だから、あの様な怪異を使ったのか」

「そうだ、が―――今回は以前程の力はないようだ。それに、ここまで来られてはこちらとしても手立てがない、施設の維持を約束してくれるのならそちらに下ろう」

「約束できないのであれば?」

「その場合は、今映されているほど精錬されてはいないが、肉体としては死しているにも関わらず活動を続けているような固体はまだ幾体も存在している、それらを解放した他に保管されているドローンなども用いなければならないだろう」

「ならば、その前に君を倒せばいいだけではなのかな?」

「そうしたのなら、そうすればいい―――だが、施設だけの魔力ではそこに保管してある感染者達の封はどの道維持できんがな」

む、施設の他に魔道書の方にも魔力炉が備わっていて双方が揃って初めて十分な供給を可能にしているのか……言っている事が真実なら軽々しくは手出しはできない、セイバーも魔道書を倒せずにいたがパンドラの箱紛いの施設の蓋を開けずにいて逆に幸運だったようだ。

「………悪いが責任のある立場ではないので今は答えられん」

安易に答えられない内容でもあるが、元々時空管理局に属していない身としてはそれ以前の問題だろう、ナメクジの如き怪異が画面から姿を消すのを見ながらそう返すほかない。

「しかし感染者とは?」

「魔道技術、あるいはナノマシンなどのテクノロジーでもある程度は生物の体を変えられるが、我々がマステマと名づけたエネルギーは対象者に遥かに高い、本来なら致死的とすら思える変化を与え―――いや、一部は死してなお活動させる力すら持っている、しかし、そのエネルギーの影響を受けた者達、人や獣、恐らくは生きとし生けるもの全てに適用するのだろうが感染した者はそれまで大人しかった生き物ですら攻撃性や残虐性が増して周囲の者達に襲いかかるようになった」

「では、現れた当初は……」

「そうだ、その様な性質故に初めて現れた時の被害は酷いものだったとも伝わっている、しかし、程度の差はあれ突然多くの者らが変容したのであれば何かしらの原因があると考えれた。
ならば、その影響を受けたか感染したと捉えた我々は長らく調査を続け遂に、それまで仮定の存在でしかすなかったマステマを発見したのだ」

「そんなのを抽出して精錬したのか……」

「そうだ。それまでにない未知の力だった故にな」

心身ともに攻撃性を増して残忍になる未知のエネルギーか………まて、確か少し前にどこかで聞いた事があった気がするが一体どこでだったか?

「それで、こちらはどうなったのだ?」

画面には、ナメクジの如き怪異が去った後に人の形をした姿はどこにも見当たらない、あの辺りにいた人員は文字通り全滅したのだろう。

「あの者達は船で逃げ出したが、その後二度と姿を見せなかったよ、同時に精錬されたマステマを投与され姿を変えた者もな」

「そうか……」

時空管理局で無限書庫をいつ頃発見したのか判らないが、既に起きてしまった出来事ではどうしようもない、それに、話が本当なら逃げ出した侵略者達の船に乗り込むなどして密室と化した船内で殺戮が行われたか、母国にまで逃げ延びたはいいがそこで怪異との戦いが続いたのだとも考えられる。

「それ以後、我々は外から訪れた者達の気配を感じたのならば速やかに扉を閉ざし、入って来た者は追い払うか始末するかにしている」

「では聞くが、アレ位の感染者は後どれだけいるのだ?」

「あそこまで精錬されたのは三体だ。
うち一つは試験的に当時交戦していた相手国に用いられ、その国は半年程で崩壊した、しかし、その後も被害は拡大して周辺にも及んだ為に最終的には開発していた新型爆弾、次元振動弾の使用をもってようやく終息できたという」

「その残りがここにあるか……」

「そうだ。この技術資料館は、価値のある技術そのものや開発したものの運用に困難がある代物、正式な量産に問題があるもののなどを含め技術的に価値の高い品々を保管している」

まったく、世界を幾度か焼き払えるアトラス院ほどではないだろうが、あの様な怪異がいるようでは厄介さは変わらん、無限書庫もなんていう所を模倣してしまったのだか……
パスからは特に危険は伝わって来ないが、視線を向ければ凛が泡立つ怪異を十字に斬り裂き、映像からは見えないものの三方向からの砲撃とディルンウィンを手にした小僧が分かれた体を消滅させている。
小僧も努力の甲斐があって基本骨子がより真に迫って来ているばかりか、自身に足りない魔力もどこからか調達して来ている様子………この調子なら掃除屋でしかない私を超えるのもそう遠くないようだ。
いや………ある意味では既に超えているか、あの頃の私では今の小僧ほどではなかったのだ、あの衛宮士郎なら私とは違う道を辿れるだろう、それを見届けてみたいのもあるが私のわがままに凛と桜をつき合わせるのも問題だからな、適当なところでまででいいだろう。
先程危惧した勘は杞憂だったようでよかった思うのと同時に、あの小僧が私のような独りよがりにならないで嬉しく思え―――衛宮士郎、かつての自分と同じだった者に少しの合間見入っていた。

「見たところ、そちらの兵は相当のもの……優れているとはいえ復元するだけの力だけではこんなものだろう」

期待外れも甚だしいといった風にも聞こえる魔道書の声から、ふと我に返った私は他の皆から注目を受けている映る凛に気づがつき、

『凛、ここの責任者と話をつけた』

『そう。ご苦労様、アーチャー』

『なに、そんな大した事はしていない。ただ相手の要求は施設の維持だそうだ、区切りがいいところで執務官に話をしてくれると助かる』

『それで、この書庫の主ってのはどんなんだった―――っ!?』

画面を見ながら状況を告げる私だったが、不意に凛とのパスから警鐘のような感覚が伝わったるとすぐにその意味を理解する。

「っ、完全に消滅したと思ったのだがな」

「君達にはとっては残念ながらになるな。だが、実験の域を出ないとはいえ、兵器として造られたモノがあの程度というのには少々疑問を呈していたところだ」

画面に映される映像には再び泡の怪異の姿が現れていて、驚くべき復元力だとは思っていたが、よもや殺されても死なない不死性持ちだとは……

『アーチャー、そっちで何とかならないの!?』

『生憎だが凛、アレは元々制御など出来てないらしい。
だが、不死性にも幾つか種類がある、まずはアレがどんなタイプなのか見極めるんだ』

『そう言うけど、そもそもアレてなんなのよ!』

『ここの責任者が言うには、感染したあらゆる生き物の攻撃性や残虐性を肉体的にも精神的にも増大させ周囲の者達に襲いかかるようになるエネルギー、魔道書はマステマと名づけているが、そんな名称は兎も角、その未知なる力を更に精錬して殺戮の為の兵器として試験的に造られたのがアレだ』

私はセイバーを見つけて戻ったのか、機動六課のヴィータが放った巨大な鉄球をデバイスの形状を弓に変えたシグナムが射抜いて内部から炸裂させるのを目にしつつ手短に魔道書から見聞きした話を伝える。

『……それって』

私も、どこかで聞いたような気がして喉元まで出かかっているのだが思い出せずもどかしいのだが、凛も思うところがあるらしく一呼吸置いたかと思えば、

『前に、イムニティって娘が衛宮君の所に来た時に聞いた破滅のモンスターと同じ特徴じゃない!!』

『っ。そうか、どこかで聞いたと思ったが破滅の力か!?』

魔法が使われているのかは判らんのが、並行世界にいる間は肉体の時間は経過してないというものの体感時間で二、三ヶ月程経っているのにすぐに思い出せるとは相変わらず聡明だな。

『それで、他に弱点とかないの?』

『現時点ではこれだけだ』

『わかったわ。とりあえず判った事だけでも皆に話してみるから、アーチャーは引き続きそこで書庫の主ってのが何かしないか監視しながら情報を集めといて』

『了解した』

確かに凛の懸念は的を射てる。
向こう側に現れた程でないにしろ、ここにも破滅の力の影響を受けた感染者達が少なくない数で眠っているのだ、精錬の度合いによって個々の力はまちまちなのだろうが精々死者程度ならばいいが、死徒クラスの者までもがいたのなれば厄介極まりない。
声こそ聞こえないものの、画面越しの凛が皆に話している様子を視野に入れつつ、私は凛の指示に従って魔道書が変な行動を起こさないよう監視しながら問う事にした。

「君達がマステマと呼ぶ力について、他に知っている事はないか?」

「後は精々次元振動弾の使用によって、次元をかき混ぜられたのが原因か、あるいはマステマ感染者の影響なのかは判明してないが、その頃から人体を蝕む未知の物質が検出されたのが記録されている程度……………いや、前の例といい通常兵器の効果が望めないのは共通しているようだ」

「そうか、泡の怪異は一見して傷を受けているように思えるが実のところダメージを受けているようには思えん、ならば結果から判断して同じと考えるべきか……」

魔道書に問いかけた私だが、言われてみれば泡の怪異は損傷こそ受けていたものの、弾や矢どころか魔法弾すら透過してしまっていたナメクジの如き怪異と同じく怯む様子はなかったのを思い出す。

「これは仮説に過ぎないが、前の例は少しばかり次元を違わせていた事から攻撃を透過させていたようだった、それと同様にあの泡状になっているのは本来の姿の一部でしかなく核となる部位などは別の次元にあるのかもしれない」

「急所になり得るところのみを別に移す事で致命傷を受けないようにしているという話しか……」

仮にそうだとすれば、泡の怪異は失っても問題がない部分のみで構成されているであろうから、ある意味では安全な場所に居ながら戦う相手の戦力ばかりか性質や特性を時間をかけながら把握する事ができる、か。
なる程、魔道書の仮説が正しければ、あれには攻撃そのものを透過させてしまう怪異と同程度のマステマが精錬して投与されているというのだ、次元に干渉する力が無いとは言い切れん。

「どうやら、向こうでも気がついたのがいるよう……」

「む!?」

一瞬、空間に切れ目が入るかのようにして穴が広がれば、そこには漆黒に蠢く何かがいる。
見るしかない映像では肌で感じるような正確な脅威の判別はつかないが、アレもナメクジの如き怪異と同じなのであれば確実に守護者が呼ばれる災厄なのだろうが、それ目にしたアサシンは闇の如き蠢く怪異に反応してか瞬時に斬りつけていた。

「独力で次元を開いてしまうとは凄いものだ―――これは、当初想定していた以上に進歩している文明と捉えるべきか、では夜天の書を持つ者も粗悪な模造品などではなく相応の力を持つと考える必要がある」

「……夜天の書を知っているのか?」

「あの書に組み込まれているだろう無限連環システム、エグザミアの秘密に迫る為に国は様々な伝承を調べ上げ再現しようと試みたが、残念ながら作れたのは小型でこそあれ平均的な魔力炉と変わらぬ品でしかなかった」

画面では機動六課で副隊長を務めるヴィータという少女が、アサシンの一撃から少し間をあけ複数の鉄球に鉄槌を叩きつけながら撃ち込めば、お返しとばかりに渦を巻いていた闇が蠢き砲撃の如き魔力が幾線も放たれていた。
セイバーやアサシンが居るとはいえ、守護者としての勘が漆黒に蠢く化け物を脅威と判断している、一応アサシンの背には神霊たるアリシアも居るが、並行世界に関する魔法使いとはいえまだ幼いのであれば期待するのは難しいだろう。
内心では向こう側に駆けつけたい衝動に駆られるが、そんな真似をすれば私がいなくなったのを幸いに魔道書はここまでの道を封鎖するか、そこまで行かないまでもより困難にする事は間違いない。
ここに現れた私に対して魔道書が何もしないのは、単にここを荒らしたくないからに過ぎないのだから、それに加えエグザミアと呼ぶ物が何なのか判断がつかないのや、話し振りからするに夜天の書に関する知識もあるともうかがえる。

「勿論、それらの開発で得られた技術は後々に私に搭載されているような小型高性能な魔力炉を開発する礎になった訳だが」

「それもここに在るのか?」

凛の事だ、やむ得ない場合は礼呪を使うだろうと考え、内心の焦りを極力表に出さないよう平静を装いながら問い質す。

「その通り、現在では施設の貴重な動力源となっている」

「だが何故、夜天の書にエグザミアなどという物が在るのだ?」

「幾つかの書物には暴走するエグザミアによって数多くの文明が滅び去ったと伝えられている、これは推測でしかないが夜天の書の容量に目をつけた者が暴走するエグザミアを封じるのに用いたのではないかな?」

「確証は無いという事か」

「その通り。だが、こちらも古代の文献でしか知らぬが、かつてのエグザミアは暴走していたと記されているが更に前では安定していたとも取れる記述もある」

「それが今では夜天の書に封じられたにも関わらず、暴走を続け闇の書と呼ばれるようになった所以か、しかし夜天の書には転生機能というのがあるらしいぞ?」

「本来の永遠結晶エグザミアが稼動していたならば、そのエネルギーは途方も無い力になるという話、常に暴走し続けるよりも、どんな理由があれ間隔が開いている方が被害は少ないと判断したのだろう。
しかも、転生機能に関してさえエグザミアは無限連環システムとも呼ばれていたとも伝えられているのだ、関わりが無いとは言い切れない点もある」

「大本である夜天の書やエグザミアの謎が判らない以上、何が原因であるのかすら判らないという話だな……
耳の痛い話だが、解るのは封じた者達が常に暴走して被害を出し続けるより、一時的とはいえ夜天の書に封じた事で書のマスターとその地に住まう人々を犠牲にする方が少なくてすむと考えたという程度か………」

転生機能などを持つ夜天の書に、暴走する得体の知れない代物を入れるのが間違えではなったのかを聞いた私であったが双方共に情報が少なく、恐らく暴走していた当時でさえ他に方法が見つからなかったからだろう、時や場所を問わず、九を生かす為に一を殺す考え方は何処にでもあるらしい……
などと思っていれば、向こう側を映す画面に魔力の光条が幾つも降り注ぐなか、蠢く闇に宝石剣を振るい続ける凛の姿が画面に映し出されていた。
宝石で出来たあの剣は、私でも解析するのだけでさえリスクを伴う程の代物だが、実力のある魔術師であれば単純な威力なら下手な宝具よりも望める魔術礼装である。
その宝石剣から迸る魔力は、蠢く闇の抵抗力が強いのか斬り裂いたり吹飛ばしたりするまではいかないものの、凛はただただひたすら魔力の刃を叩きつけていた………まるで、幾度も打ちつける波が少しづつでも岩肌を削り取ろうとでもいうかのように幾度も幾度も魔力の波を叩きつけて。
だが、ついに闇のような化け物もたて続けに放たれる魔力の波は堪らなくなったのか、それまでアサシン、アリシアのコンビを中心に襲わせていた黒い触手のような部位が重なるように集めれば、巨大な剣の如くなったソレを凛に向け振り下ろした。

「っ、いかん!?」

画面を挟んだこの場で叫んでも意味がないと冷静に理性は下すが、思わず口に出てしまったものは仕方がない。
先程までの映像を考慮するに、触手のような状態でさえ攻めあぐねていた様子だったのに巨大な剣の如き形態に変われば単純に考えてさえ脅威が増すのは確か。
必要があるからとはいえ、ここで見ているしか出来ないとは―――凛が令呪を使ってくれさえすれば、あの場に立つ事も可能だろうに!
いや、だが、必要があるからこそ私はこの場にいるのだ、魔道書に目を光らせてなければ何をして来るか分からん、迂闊に動く訳にはいかない、それに……今更動いたとしても間に合わん、か!!
何も出来ずにいる不甲斐なさで、無意識に奥歯がギリッと音を立てるが、あの場で戦っているのは凛だけではないのを失念していた。
闇の本体に、か細い魔力光が放たれた事で瞬間的に動きが鈍り、凛の前には盾が敷かれ、その盾の種類から防いだのは小僧なのだと判る。
しかし、巨大な剣と化した漆黒の刃は勢いこそ衰えて叩きつけられた事から熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)で十分耐えられると思っていたが、その後、盾に食い込むかのように、一見止まって見えるにも関わらず触れる刃自体が盾を溶かすように削り始めていた。
こうして見ているだけでは解らん、何なのだあの化け物は―――そう過ぎる私だったが、そこに巨大化した鉄槌が叩き込まれ、上へと逃れる凛の動きと相まって漆黒の巨剣の刃は逸れ、周囲の本棚を斬り裂きいて多くを破壊したものの人的被害は無いようで安堵する。

「………見ているだけというのは性に合わないものだな」

「こちらとしては、この場から離れてくれてもよいのだが?」

「そんな事をすれば、アレを倒したとしても次のを送るだけだろう?」

「勿論だ。あの感染者の成れの果てが討ち取られたのならば、残る感染者はより精錬の程度が低い者ばかり、同時に複数の者を送らなければなるまい」

「だからこそ私が留まる必要があるのだ……」

「それは残念としか言いようがない」

……魔道書の立場からすれば無理もない、か。
まだこちらが何者なのか、魔道書にとって最重要である施設などの安全が確約されてないのだ、向こうからすれば手っ取り早い方法は入って来た侵略者を排除できるのならそうするのが一番なのだろう、だが、それはこちらにとって迷惑極まりない、早々に執務官など立場がある者との交渉が必要だな。
等々交わしている間も、画面には闇の巨剣の隙をついた小僧が矢に変化させたディルンウィンを射ったのを先駆けに、機動六課、テスタロッサ一家、セイバーがそれぞれの得意な魔術もって放てば。
手応えがあったらしく、見る見る間に薄くなり始めた怪異は堪らず、身を護る為か剣の如く重ね合わせいたのを再び触手に戻すのだが、アリシアが八つのジュエルシード改を飛ばして漆黒の怪異そのものを閉じ込めてしまった。
半透明に包まれている様子からして、アリシアが用いたのは『ディストーションシールド』と呼ばれる空間そのものを屈折させる魔術のようだが、数分も経たないうちに解かれた後にはオレンジ色の空間が広がり、そこに微かに動く浮遊霊の如き存在が漂うだけとなる。
映像だけでは何が起きたのか解らんが、その霊体もアサシンが振るった三つの刃によって断たれ、魔道書が送り込んだマステマ感染者の脅威は無くなったように見受けられた。

「なるほど、君達の文明は驚くべきものがある」

「だろうな」

そう肯定したものの、気がつけば本体が倒されたからか泡の怪異の姿も消えていたし、少なくともアサシンが振るった業は凛が目指す並行世界の干渉の一つ、どこぞの並行世界から同じモノを持って来て行う多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)などと呼ばれる奇跡なのかもしれないが、正直にいって何が起きたのかさっぱり判らん。

「こちらとしては不本意ではあるが、あの者達もここに来るらしい」

「では、来た者達に夜天の書について知っている事を話してくれるとありがたい」

「ここは資料を収めた施設、知識を欲するだけならば歓迎しよう、しかし、ここの安全を約束してくれるのであればだが」

こうして私は魔道書を監視しつつも皆の到着を待った。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

リリカル編 第28話


左右の壁が本棚と化しとる書庫、どこまでも延々と続きそうにすら思える通路、そんななかをここな書庫の主を名乗っとる相手と話し合うために先導する遠坂さんの案内で奥へ更に奥へと私達は進み続ける。
なんでも遠坂さんとアーチャーさんとの間には、パスとかいう特殊な通信手段が確立されとるらしく、念話が使えないアーチャーさんはその通信回線を用いながら遠坂さんに場所を教えているそうや。
しかし、まあ………普段は幽霊みたいな状態やから滅多に言葉を交わしたりはせんやけど、アルトリアさんや小次郎さんみたいにアーチャーさんも本名を教えてくれるといいんやがなぁ。
そんなんが過ぎるも、ふと通路は初めに私らが来た時とはうって変わって、漂っていた本の数々は無くなり通りやすくなっていた。
そういえば、ここまで来る間にも所々で鎧を着た思念体達が本を整理しとるんのを目にしとるし、それぞれ見て来た人数を合わせれば数十人近い数にもなるようやから不思議でもないのかもしれへんけど、これで、初めに目にした多くの本を散らかしとったんは私らへの足止めやったのが判るというもの。
………しかも、あえてスバルが手にしたような、本の中から手が伸びて首を絞めだす危険性のある本ばかりを選んで出し入れしとったのなら、書庫の主は勿論、思念体達もここにある蔵書にどんな記述があるのか把握しとると考えていいやろう。
アーチャーさんが聞き出した内容は遠坂さんを経由しながらやけど、ここに来るまで間に聞いとるから書庫の主の要求が施設の安全の確保と維持なのは判っているさかい、よっぽど危険な物でなければ大丈夫やろう。
もっとも、こことは違う似て異なる世界から来とる私が口をだせる立場ではないんがなぁ……

『……また、黒い化け物が出て来たりしませんよね』

『大丈夫や。その為にアーチャーさんが向こうで目を光らせとるんやから、それに、あんなんがウヨウヨしっとったら正直たまらんけど、万が一に備えて皆も戦力を分散させないよう来てくれとるんやもの』

ここな書庫の扉の前に送り込まれた化け物、漆黒に渦を巻いていた怪物のショックが大きかったらしく、ユニゾンしているリィンから少し怯えた口調の呟きが漏れてきたので、ちいちゃなクロノ君やユーノ君、アルトリアさん、士郎君。
小次郎さんとその背中にくっついとるアリシアちゃん、そのアリシアちゃんと私らの世界のフェイトちゃんを心配して来てくれとるんやろう、ちいちゃなフェイトちゃんにお母さんのプレシアさんやアルフが警戒を解いてないのを見つつ大丈夫やと返す。
せやけどリィンの言い分ももっとも、懸念するのは少し前に送り込まれた化け物の存在、私にはアレが闇が渦を巻いているかのようにしか見えへんかったけど、直接肌に刺さるかのような魔力に、魔方陣も無しに放たれる前兆が読めない砲撃の如き魔力の塊、加え魔法どころか運動エネルギー、あろう事か物質同士を結合させる力までも奪って対象を崩壊させながら取り込んでしまうとかいう怪物やったんやから。
しかも、厄介な事に本体はこことは別の次元に居て、判り難いよう分身が送り込まれとったもんだから本体が別にあって、それを違う次元から操っとるなんて想像もつかん。
並行世界にまで干渉できるアリシアちゃんが居てくれ、なおかつ潜んどる次元まで切り開いてくれとったからこそ、直接的な攻撃しかできへん私らでも倒せたって断言してもいいくらいや。
そらまあ、潜んどる次元座標さえ特定できれば幾つかの次元を経由して行う次元跳躍魔法なんかでも有効やろうけど、次元跳躍魔法を扱える魔導師なんてそう多くはない、しかも、あないな化け物を仕留めるとなれば何人の魔導師が必要になるのかさえ見当もつかん。
でもって一番の問題は、こことは別の並行世界である私らの世界にもここと同じ所があるんやろうさかい………そこでもなかに入れば、ここみたいに化け物を送り込まれるんのを考えたら、戻った時に司書長のユーノ君に話して扉そのものを物理的にも封印してしもうた方が手っ取り早いのかもしれへんなぁ……

「遠坂さん、アーチャーさんからは精錬された破滅の力を持ったのは後どれくらい居るんやか聞いとるか?」

「ええ。あの化け物と同じのはアレを含めて三体だそうよ、ただ少し劣るのは結構いるみたいね」

「あんなのが、まだ二体も居るんですか!?」

「………劣るって言っても沢山いるんだ」

念の為に聞いた私に、あろう事か遠坂さんはまだまだウヨウヨしとるって口にして、それを聞いたスバルやちいちゃなユーノ君は驚くやら青ざめるやら。

「安心して。転送されて来たような化け物クラスはアレが最後、他の二体のうち一体は遥か昔に次元ごと吹飛ばされて消えていて、残るもう一体は時空管理局が来る前にどこかに行ってしまったそうよ」

「次元ごと吹き飛ばした?」

「なんでも、幾多の次元ごと振動崩壊させてしまう当時の新型爆弾だって話」

「正に古代ベルカ時代の技術ね」

残る二体もとうの昔に居なくなっているから大丈夫と遠坂さんが告げれば、クロノ君やプレシアさんは次元震を発生させる類のロストロギアを連想した様子。

「ただ、そこから破滅の力、ここの書庫の主はマステマって名称で呼んでいるけど、それとはまた別の計測不能な未知の粒子が溢れ出て来たらしいわ」

せやけど、クロノ君やフェイトちゃんのお母さんは次元震による、次元断層が発生したのではないかとか思ったのかもしれへんけど、核などの反応兵器による放射能とは違うようやが、幾つもの次元そのものに影響を与えるような兵器が使われた跡では、やはり何かしら人体に害を与える物質が検出されたと話す。

「……まさか、それがベルカを汚染した元凶か?」

「かもね」

マステマとかいう、神様公認の世界に災いと破壊をもたらす天使だが悪魔だかの名をつけられた未知のエネルギーの化け物を倒したら、今度はかき混ぜられた次元のどこかからこれまた未知の物質が流れ出て来たとかいうのにシグナムが反応するんやが、その辺りはここな書庫の主も真相までは知らんらしいので遠坂さんも何とも言えないようや。

「断定じゃないんだ」

「そりゃそうだろうよ。その頃の記録が残ってるって言うなら別だけど、計測不能な未知の粒子って話しなんだから確たる証拠がないんだろう」

遺跡の研究や古代の歴史が好きなユーノ君は確実な情報じゃないのが残念な様子やけど、ヴィータは仕方がないって慰めを入れる。
ただ、話には加わらでいる士郎君やアルトリアさんは、微妙に顔色を変えたから何か知ってるのかもしれへん。
……………そういえば、化け物の本体が現れる前に、ある似て異なる並行世界で人々を蝕む力が広がったとか言っとったからそれと同じモノだと思うたんやろか?
そう考えつつも遠坂さんを経由しながら、アーチャーさんからもたらされた情報を共有しながら奥へ奥へと進むめば、ふと怪しげな壁がある空間が目に入って来た。
壁そのものは何ら変哲もないんやけど、これまで通路の両側は本棚が続いていとったのにも関わらず、その一角だけは本棚では無く壁になってるんやから怪しむなというのが難しい。

「ここよ」

先導する遠坂さんが壁の前で止まれば、壁が左右に動いて奥に続く通路が現れる。
ただ―――

「隠し扉ですか……」

一見、隠されとるようでも、ある意味で全然隠されてないもんやからアルトリアさんも驚いているのかもしれへんなぁ……

「昔、誰かに襲われたような事を言ってたもんな」

「そんなところ、侵入者対策として扉だったのを気休めでもいいから擬装させたんでしょ」

そういえばって、士郎君は書庫の入り口で氷に閉じ込められたままの思念体が言うとったのを思い出し、遠坂さんも無いよりはマシという感じで見とる。

「でも、もう少し判り難いようにできなかったもんかね……」

これまで続いていた本棚の列に欠けたかのような壁、あまりにも露骨過ぎて、怪しいを通り越して逆に罠にすら思えなくもないからかアルフがやや呆れ気味に呟けば、

「せめて本棚だったら怪しまれ難かったんじゃないかな」

ちいちゃなフェイトちゃんも、これはないって思うとる様子。

「でも、それだと扉を隠しながら構造的な問題でどう動かすかが問題かな?」

「うん。機械的な構造だったら組み入れる奥行きがなければ難しいと思うし、書庫のなかに丁度いい資材があるのかも判らないからね」

書庫の本棚の奥行きは、大小の差こそあれ一冊の本が入れる程度の大きさでしかない、そんな奥行きしかない本棚に本棚そのものを動かせる機構を組み合わせるとなれば流石にスペースが足りないのをなのはちゃんやフェイトちゃんが指摘する。
本棚が続いていた通路のなか、いかにも怪しい壁があるという状況、この先にアーチャーさんが居るらしいから罠の類は無いやろうけど、皆が何考えとるやろなとか思うとれば件のアーチャーさんと交信しとるのか遠坂さんは、

「………そういう事」

などと漏らしてから私らを見やり、

「アーチャーが言うには、どうもあの扉の前に幻かは判らないけど本棚があって本格的に擬装されていたみたい」

実は壁を隠すよう魔法技術が使われた擬装が施されていたのを告げた。
それを聞いた私らは、

「やっぱり、このままって訳はないですよね」

「まあ、普通はそうだろうな……」

スバルとヴィータは納得した様子でいて、

「考えてみればあたりまえか、ここの主も施設について話しをしなければならないのだからな、こちらを迷わせたりするのは時間の無駄でしかないのだろうよ」

「そうなんだ」

ふむと顎に手を当てる小次郎さんだけど、その後ろでくっついとるアリシアちゃんはよく分からなさそうな顔でいる。

「まあ。どの道行かなきゃならんのや、向こうも話し合いをする気があるって判っただけでもよしとしようか」

「そうだな」

怪しさが漂いすぎて罠にすら思えそうな扉やけど、向こうも施設の安全について話し合いを望むのが判ったんなら害はないやろう、クロノ君も頷きを入れ扉を潜った私らは更に奥へと向かった。
そして進んだ先には透明な筒のような大小様々な容器が所狭しに置かれ、筒のなかには人の形に似てた異形の怪物やら様々な化け物などの生き物の成れの果てが納められている。

「……えらい場所やな」

標本なんやろうが、書庫とは思えない様相に思わず声を漏らしてしまう私に続いて、

「スカリエッティの研究施設も色々な人達が捕らえられていたけれど、これほど異様な感じじゃなかったな」

「そりゃそうだ……」

数日前、スカリエッティのアジトで似たような光景にを思い出したのか口にするフェイトちゃんに、ヴィータは相槌を打ちながらもスカリエッティのアジトで捕まっていたのは浚われたりした人達であって化け物の類じゃないって言いたそうや。
それに―――

「ただ、破滅の力だかマステマだかのエネルギーの存在を知ったのであれば、こちらの世界の奴がどう動くかが心配です」

「そうだね。私達の方では捕まえたけど、こっちの世界の方はまだなんだから」

「まったくだ。ただでさえ化け物だったのに、スカリエッティみたいな科学者が関わって来たら最悪の事態になりなねない」

シグナムとなのはちゃんに言われて気がつく、この世界にも居るジェイル・スカリエッティが居るんやから、あんなマッドサエンシストが人や生物を化け物に変えてしまうような力を手にしたらと思うとゾッとしてしまう、それはクロノ君も同じなんやろうな。
クロノ君が言うた通り、ただでさえ化け物やったのに、あんなんと同じのが幾つも造られるようなら、後ろに居る最高評議会が幾ら寛容でも認めへんやろう、なんせ生命とは反対に生じるエネルギー、破滅の力を集めて精錬してしもうたのが前に目にした渦巻く闇の化け物の正体だという話やし。
私ら時空管理局の人間から見れば、破壊と殺戮を目的とした古代の遺失物であるばかりか、次元に関与する力を持つところからして高ランクのロストロギアのカテゴリーに当てはまるかもしれへん。
そうなれば、次元世界の平和と安定の為には処分するしかないんやし、書庫の主との交渉はクロノ君が行うんやろうけど、仮に交渉が上手く纏まってもスカリエッティなどの対策を行わなければ破滅の力を取り巻く状況は厳しく思える。

「ようやく来たかね」

いつもは霊体化しとって私らの目には見えへんのやけど、非常事態である今は流石に実体化したままのようや、そやから少し離れていても赤い外套を羽織ったアーチャーさんの姿はよく目立とって、その横には一冊の本が漂うとる。

「ここの書庫の主とやらはどこに居るんだ?」

早速、話しに入ろうとするクロノ君やが、

「彼といえばいいのかな、この魔道書がここの書庫の主だ」

手を向けながら答えるアーチャーさんの先には、漂うとる本が指し示されとった。
せやけど、

「っ、お前はあの時の魔道書!?」

アルトリアさんは知っているのか声をあげ、

「知っているのか?」

「あの魔道書こそ、初めに入った時に私以外を転送した張本人です」

「地の利は向こうにあるとはいえ、あの時はしてやられたとしかいえんな……」

問いかける士郎君に、アルトリアさんはあの魔道書こそ私らを追い出した相手やと返し、虚をつかれたのを思い出したシグナムは声を漏らす。

「私は自律複合管制型デバイス、アルビオンの後継にあたる自律統合管制型デバイス、ノヴァの試作タイプとして作られた」

何を言っとるのか解り難いんやけど、マスターなしで動いとる事から自律という意味だけは判る。

「その、複合管制とか統合管制ってなにが違うんだ?」

せやから意味が判らないって士郎君が言えば、

「融合騎であるアルビオンは、騎士にも補助を行う脳改造が必要になるもののドローン運用に特化していて広域探査や分析、補給、整備など用兵上それまで別々分担にしていた機能を統括して纏め上げ、常にドローンらの情報を受け取りつつ状況を把握しながら百機近いドローン各種を運用してその場その場にあった指揮を可能にする」

ノヴァは答えてくれるんやけど、融合騎という言葉から古代ベルカ時代にあった国なんやろうが、なんていうか騎士そのものにすら改造を施さなきゃ運用できないデバイスってのは問題やな……

「要は兵站とか後方で支援していた部隊を一括りにした、改造人間によるワンマンアーミーってところか……」

「アルビオンとかいうデバイスは兎も角、そんなんでよく騎士の方がもっとったなぁ……」

遠坂さんは口元を押さえながら部隊運用を考えとるようやけど、現役というか実際に部隊運用を行っとる私からすれば人一人で一つの部隊全てを運用させるなんて狂気の沙汰としか思えへん。
異色とはいえ、たった一つの部隊を運用しているだけで私がどれだけ周りに根回しするのに苦労した事か……その間やかて、部隊の運用に必要な情報や資材なんかをリィンやグリフィス君達が色々まとめてくれとるからこそ何とか保っとるようなもんやったんやから、いくらドローンとはいえ一人で部隊の運用なんかをすればたちまち行き詰るのは目に見えとるし、そもそもリアルタイムで幾多のドローンが何を、どの程度の効果を上げているだなんて一つ一つ把握しとったら頭が幾つあっても足らんわ。

「だからこそ、私が元となる自律統合型が造られた。
これは融合騎であるアルビオンにも当てはまっているが、それまでの融合騎での融合事故や騎士に補助脳などの改造が必須であった事へのリスクが考慮されて開発されたものだ」

そりゃそうやろう、いくらデバイスの補助があるとはいっても一つの部隊をたった一人で処理しなければならないんや、処理能力を上げる為に脳改造を行って底上げしながら融合したとして演算能力の限界を超えた情報に追いつかずにいれば、ふとした切欠から融合事故が起きてしもうても不思議はない。

「じゃあ君は融合騎じゃないんだね」

「いや。私は本来なら騎士を必要とはしていないが、試作であるが故に融合騎としての機能も搭載され、状況から必要と判断したのならできるようにもなっている」

ちいちゃなユーノ君の問いかけに。隠す必要がないのか肯定したノヴァが光に包まれれば、魔道書としての姿から今のリィンみたいなちっちゃな女の子に変わるんやけど、

「融合騎としての姿はこんなところだ」

「む。彼ではなく彼女だったか」

その姿を目にしたアーチャーさんの呟きを耳にしたらしく、

「この姿、形は私を開発していた者の好みでしかない、本来、融合騎とは人とは異なるモノ、性別の差など融合する騎士へのメンタルケアの一つに過ぎないと考えている」

融合騎の姿は飽くまでも開発者の好みでしかないって断言してすぐに本の形に戻ってしまう。

「私も基本的には自律統合型はアルビオンと同様の運用になっているが、違いは基礎演算能力を著しく高めた他に自ら魔力炉を備えさせ、運用概念としては騎士を必要としない完全無人化された部隊を率いる事を前提になるよう考案されているが為に想定外の事以外では騎士の必要性を感じていない。
また、私は試験的な意味合いが強いが他の融合騎との融合も可能だ」

状況に応じて融合騎としても運用や、自ら別の融合騎との融合すら可能であると打ち明け、通常は魔導師や騎士を必要としない自律行動型のデバイスであると明らかにした。

「単体で戦術どころか部隊運営にそのものを行えるデバイスか……凄いな」

「だから初めに入った時、こっちの戦力を把握しようとして来たんだ」

「なるほど、先の戦い方といい貴女は一軍の将だったという話ですね」

シグナムとなのはちゃんに次いでアルトリアさんも同じ様子でいて、私も互いの戦力を把握して後、戦力差から直接的な戦闘を避けつつも策を弄して、入って来た私らを転移魔法で外に放り出した手並みからは情報解析や指揮能力に問題があるようには思えへん。
でもって、ノヴァの話が本当なら―――

「なら、あの思念体達はドローンの一種でいいのかな?」

「いや。ファントム・ソルジャーズはドローンとは違ったコンセプトの元で作り生み出されたシステム、もちろん兵は精鋭中の精鋭が元になっているが、幾度の改修を行っても残念ながら開発陣が望む性能にすると魔力による攻撃に対して脆弱であったが為に技術資料として本館に収蔵されていたものだ」

フェイトちゃんも思うたのか口にするんやけど、ノヴァからはあの思念体達はドローンとは別のタイプだと返される。
せやけど、アルビオンとかノヴァとかいうデバイスは無人機であるドローンを運用する管制型なんやろうから、好き好んで思念体やらマステマとかいう危険なエネルギーを用いた怪物を扱う必要はないんやないか?
もしかして、ここには運用できるドローンが無いんやろかとか疑念が私のなかで過ぎる。

「僕と彼女達は時空管理局の者だ」

いつからは判らんけど、この書庫を管理しとるノヴァにちいちゃなクロノ君は私やなのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィータ、シグナム、スバルにちらりと視線を向け、

「それから彼らは僕達の協力者という立場になっている」

続いて士郎君や小次郎さん、ちいちゃなユーノ君に向けた目を、彼と言うとるもののセイバーさん、アリシアちゃん、遠坂さん、ちいちゃなフェイトちゃんにお母さんのプレシアさん、アルフに注いで大まかな紹介を行った。

「そちらが来るまでの間、時間があったのでこちらが知っている事は伝えてある」

そう告げるアーチャーさんは、書庫内であまり実体化しなかったのもあるんやろうが、私らが転移魔法で飛ばされた後もアルトリアさんと一緒にたにも関わらず霊体化という特殊な隠密行動を続けてたからこそ、ノヴァに悟れないで追跡ができとってここを突き止めとる。
しかも、来る間に聞いとった遠坂さんの話では、全てを滅ぼそうとする力を精製して生み出された漆黒の渦のような化け物を倒した後も、ノヴァはマステマ感染者という新しい化け物達を次々と送り込もうとしていたとかいう話やったから、ここを見つけノヴァの動きを封じたアーチャーさんの手柄は大きいはずや。
そんなアーチャーさんは肩をすくめとって、

「とはいえ、管理局で世話になっている程度の身では精々設立された理由に加え、古代ベルカや戦乱期の戦争に伴う銃器を始めとした質量兵器への嫌悪感についてくらいでしかないか……」

「それでも十分助かる」

アーチャーさんは、管理外世界の出身では理屈的には話せても感情的な細かな部分までは難しいと言いたいんやろう、ちいちゃなクロノ君もその辺りは察したのか「問題ない」といった表情で返す。

「その者の話からして、次元間戦争での反応兵器に対する忌諱なのだろうが、保管が難しい反応弾や規模が大きくなってしまう次元砲の類は流石に模型や資料でしか展示していない」

「ただ」とノヴァはつけ加え、

「懸念するのは、フォトンブラスターなどの熱線兵器に粒子加速やイオン系の類がそちらが質量兵器とする定義に該当するかどうかだ」

個人携帯する銃器なのかはっきりしないんやけど、たぶん全部が全部該当するんやろうなぁ……つか、反応兵器ってのは核物質なんかの分裂や融合なんやろけど、次元砲ってなんや?

「………詳しくは管理局の技術官に見てもらわなければ判らないが、とりあえずは破滅の力とやらを利用している対象、そちらではマステマと呼称している生物兵器や、引き金を引くだけ、あるいはボタンを押せば使えてしまう品などは対象になると思ってほしい」

私と同じ思いなのか、ちいちゃなクロノ君も苦々しい顔をしとる。

「ところで次元砲ってどんなのかな?」

私も思うた疑問をなのはちゃんが口にすれば、

「名前だけ聞けば、転移魔法みたいに何かを転送するのみたいなのにも思えますね」

「そうだな。強制的に何かしらの爆発物を送りつけられるんだったら、送られた相手は何もできずに吹飛ばされるしかないもんな」

「……転移魔法の悪い使い方だね」

横でスバルがヴィータに連想するイメージを囁いとって、耳にしたフェイトちゃんもウンザリしながら呟きを零しとった。
せやけど―――

「残念ながら違う。次元砲とは、特定の次元空間に特異点を発生させる事で、そこから溢れ出すエネルギーに攻撃的な指向性を持たせる事によって周囲を破壊するシステムだが、地上で使えば瞬時に熱せられた大気の膨張で衝撃波も加わり状況次第では反物質弾頭よりも効果が望める使いがってのよい兵器だ」

返って来た答えは転移魔法とは遥かに離れとって、

「は、反物質……」

「よくもまあ、そんな費用対効果が望めないモノを……」

極少量で星そのものを吹飛ばせてしまえるような性質のエネルギー物質に、ちいちゃなフェイトちゃんは驚いとるけどお母さんのプレシアさんは反対に呆れた顔をしとる。
私も耳にしただけでしかないんやが、反物質ってのは生成するだけでも莫大なエネルギーが必要になるとかいう話しやから、エネルギーとしてのコストパフォーマンスでいうなら相当悪い。

「そうでもない、生成用の衛星を幾つか軌道上に上げとけば恒星から放射されるエネルギーを受け少しずつではあるが自動的に生み出されるようになっていた」

打ち上げるか転移魔法かなんやろうけど、反物質の生成に必要な粒子加速器を衛星軌道に置いとけば時間はかかるんやろうけど後は勝手に生成されるとか返され、

「無論、マステマ関連の技術に関しても後に伝えたい技術であるからこそ施設で保管している訳だが、サンプルとして凍結封印しているにしてもマステマ感染者は特異な存在、施設の安全さえ得られるのであれば処分はやむ得ないと考慮しよう。
他に展示してあるのは、ドローンやその兵装程度、人が身につけたり携帯するような品の展示は少ない―――この施設にある展示物はこんなところだ」

続いて映し出される映像には、ここの書庫にある品の目録なのかよう判らん名称が流れる、ただそれで、ここが無限書庫を時空管理局が管理する前から存在していた博物館でしかなく。
本来、展示していただろう品の多くがロストロギアに認定されそうな物ばかりにしか思えへん科学と魔法技術が異常に発達した文明の遺産であるのが解った。

「では、武装解除に応じてくれるんだな?」

「元来、この施設は後の世に技術を残す為に建てられた資料館、そちらが施設の安全を提供してくれるのであれば折角の展示物を再利用してまで武装する必要はない、が―――条件がある」

「条件?」

「サンプルの危険性は承知であるが故に処分はいた仕方ないと判断するが、残るマステマ関連の技術や資料の保持に加え。
この施設は現在、駆逐型のドローンなどの動力を運用して賄っているが、それも魔力炉を提供してくれるのであれば再び展示物に戻す事ができる」

「一度目覚めれば、人を襲い始めるサンプルであるマステマ感染者は処分しなければならない、しかし、技術や資料のみなら何かあった時に必要になるかもしれないか………悪いが、こればかりは事が事だけに僕の一存だけでは即答は出来ない」

あくまで博物館の運営と安全を求めるノヴァが出した条件やが、執務官であるクロノ君でも即答は難しいところ。
しかし、まあ……ドローンの運用が専門やのにその動力までも使こうて運営しとったのには驚きや。

「仮に魔力炉を提供したとして何に使うの?」

これまでドローンの動力までも使こうて運営しとった博物館、せやけどちいちゃなユーノ君は動力源から開放されたドローンがどうなるのか知りたいんやろう。

「マステマ感染者の凍結封印以外にも、施設の維持にも用いなければならない、故に―――現状でドローンが使用されるような状況になるのなら、残る全てのマステマ感染者達の封印は解かれると思ってくれていい」

「なるほど、交渉が決裂した場合はドローンを持ち出すから一斉に目覚めるか」

「そんな事したら、ここも無事じゃないんじゃないかな?」

ノヴァの答えに小次郎さんは「やれやれ厄介なものよ」とか声を漏らし、背中にいるアリシアちゃんも問を投げかける。

「問題ない。マステマ感染者の行動順序は決まっていて、周囲に誰もいなければ物を壊しにかかるが小動物を含めた生命体が存在していれば、まずはそちらを襲ってからになる」

「というと?」

破滅の力を目にした事があるアルトリアさんが先を促せば、

「ここには艦船などで来ていると判断するが、ここから退くにしても同じようにマステマ感染者達も乗り込むだろうから残る固体数は少ないと考えられる」

「少ないとはいえ、ここにも被害が出るだろう?」

安全を求めているのに被害を容認するという矛盾に対してアーチャーさんも疑念を挟み、

「その辺りはドローンを用いればいい。資料によれば低レベルの感染者にも数千度の熱に耐えられる固体もいたいうが、プラズマなどによる数十万度の熱には耐えられないとある。
他にも体を構成している物質が異質に変異しているとはいえ、元々投入された区域で鉄屑や残骸などを取り込み必要に応じて機能を増減させられ、半永久的に活動可能な駆逐型ならば取り込んだ体ごと裁断して駆動炉のエネルギーや資源に変えられるだろう、対人用のナノマシンキャリアならば散布したナノマシンを用いて体内から脳にまで侵入させられ対象を操れるようになる、故に存在する固体数が少なければ何とかなる」

「………ドローンって、そんなヤバイ奴ばかりなのかい」

「何を言ってる、元々軍事用に開発されたものだぞ?」

聞く限り、スカリエッティのガジェットが玩具に思えてくるという私らの常識からかけ離れた技術の数々にアルフは「うわぁ」ってな感じに頬を引き攣らせとって私も言葉を失ってしもうた。

「それじゃあロストロギアそのものだよ」

「ロストロギアというのは判らないが、こちらとしてもドローンを用いるのは施設や周辺の資料に少なくない被害は出るので好ましくはない、だが状況が状況ならばやむ得ないと判断している」

「どこにでもパンドラの箱のような所はあるものだな……」

ノヴァが述べる技術は、そのほぼ全てが時空管理局がロストロギア、科学や魔法が異常発達して滅んだ遺失文明の遺産に抵触する為になのはちゃんは不快感を露にしとって、アーチャーさんはどこか他に似たような所を知っとるのか忌々しげな声を漏らした。
そらまあ、無限書庫に高ランクロストロギア博物館みたいなのがあるのは問題や、でも元々この書庫に来た目的を忘れたらあかん。

「そう言うても、本来、私らが来たのはここをどうこうしようという訳やなくて、ただ情報がないか探しに来ただけなんや」

「その情報とはエグザミアに関する事か?」

古代の博物館という、ロストロギアに認定されそうな品々がある所やが、別にここの武装解除が目的で来た訳やないのを告げる私に、ノヴァは、ここに来て何度目になるか判らない聞き覚えのない名を上げてきた。

「いや。エグザミアというのは初めて聞く名だが、こちらが探しているのは夜天の書にまつわるものだ」

「夜天の書だと?」

「ああ」

探しているのは違う物の情報やと訂正するシグナムに、外見からは判らないんやけどノヴァは意外そうな感じで返してきたので「そうだ」とばかりにヴィータも頷きを入れる。

「だが、あんな容量が大きいだけの外箱に何の価値があるのだ、元々は術式などを記録し続ける物であったが容量の問題から遥か昔に存在した魔道技術や術式の内容は失われているだろうに?」

「どういう意味や?」

古代の博物館に居るんや、夜天の書が闇の書と呼ばれる前でも不思議には思えへんが、ノヴァはそれ以上に知っているみたいに思え、

「彼女が言うには、夜天の書のなかには暴走の原因であるエグザミアという何かが封じられているらしい」

「それがエグザミアか……」

「そんなのが封じれているなんて……」

私らが来る前から既に聞き及んでいたんやろう、エグザミアという何かが夜天の書に入っているのを語るアーチャーさんに、ちいちゃなクロノ君とユーノ君は夜天の書を闇の書に変えてしまった原因かもしれんそれへの思いを口にするのだけど、

「参考になるかは判らんが幾つか書物がある、これは我々の文明がエグザミアの作成を試す為に集めた資料や、魔力供給量を少しでも多くする必要から君達やその前に訪れた者達が来る遥か前に幾つもの書庫を探して集めさせたものだ」

「てっ、なかなか見つからない思うとったらあんたが持っとったんか!」

ベルカ式に似た三角で構成される魔法陣が現れ、転移されて来た数十冊の書物を見て私は思わず声を荒げてもうたが、ノヴァからもたらされた資料は所々で曖昧な記述があるものの夜天の書が闇の書にされてしまった原因が自動防衛システムに封じられているエグザミアにあるのを示しとって、それさえ取り除けば元に戻るかもしれないという望みを抱かせるには十分な内容やった。


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