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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] リリカル編26
Name: よよよ◆fa770ebd ID:46b031ba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/30 01:40

数十、あるいは数百もの紙片が周囲を乱舞しながらも漂う本と本の間から姿を現し、紙の端に魔力の刃を作り出して襲い来る。
即ち、私が意思を持つ本への問いかけに対する答えが再び展開された紙片からの一斉攻撃という事に過ぎない。
間隙を縫うようにして向かい来る紙片の速度は、幾つもの本が漂うなかでも遅くはない―――だが、それは飽くまでも人間の範囲内での話だ。
この身は並行世界にて聖杯を得た代わりに守護者になった私そのものを宿したモノ、英霊の力を持つが故に人の範疇は超えている!

「っ!?」

魔力を纏い刃となって迫り来る紙片を斬り払おうとしたが、

「なる程、二枚重ねという訳ですか」

直感から回転するように体を横に捻って避ければ、元の場所から先への予測地点には鎖のように編まれた魔力の帯が幾重にも交差していた。
見るからにバインドのようだが、あのまま向かっていれば今頃はバインドによって身動きが封じられていたかもしれず、魔力の刃を持った紙片を囮にしていたのか、それとも虚実入り混じっての戦術なのかは判断できないが、遠目では紙の重なりなど見えるはずもないが故に、上下に重なった一枚が直前で軌道を逸れるか刃と化した紙片が避けられたのを機に捕縛系の術を放って身動きを封じる二段構えの策なのかもしれない。
ただの魔力弾ならば対魔力による効果を期待して向かって行けるが、戦いとはある意味一瞬で決まるもの、私の対魔力ならば捕縛効果の高い術でさえ解除に時間はかからないだろうが、一瞬でも身動きが止められるというのは致命的だ。
まして、今相手にしている魔道書が扱う戦術は一度に多方向からの包囲、それに私に向かって来る紙片以外にも何かしらの術を行使しているのだろうが幾度も魔方陣が現れては消えている状況を考慮すれば、一瞬のミスによって幾重もの術を重ねがけでもされようものなら身動きを封じられてしまう可能性もある。
そうなれば、威力や効果の高い儀式魔術すら行使されかねず、ミッド式やベルカ式といった並行世界の魔術ならば私の対魔力すら上回る可能性は低くないのだ。
故に、魔力で構成された足場を幾つも作り上げ、捉えられぬよう小刻みに四方を跳ねるかのような機動を繰り返しつつ距離を詰め―――

「はぁぁぁ!!」

シルトから物理的効果の高いプロテクションを幅広く展開た私は、振り返り様に周囲に浮かぶ幾多の本ごと追って来る紙片を横殴りに叩き飛ばし、すぐさまプロテクションを解除した私は統制が乱れたところを踏み込んで一息の間に十数枚を斬り伏せた。
斬った紙片の数は全体からすれば微々たるものだろうが、統制が乱れた好機を見逃さず飛行魔術の加速に加え、不可視の鞘である風王結界(インビジブル・エア)の一部を解いて一気に肉薄する。
飛行魔術の加速と一部とはいえ、圧縮した風を開放した事によって瞬間的に音の領域を超えた私だったが、意識を持つ本は向けていた表紙を、まるで身をよじるかのようにして背を見せて避け、対象が本という比較的小型なモノであるとはいえ最速の一撃を避けられてしまったのは癪ではあるが、私とて英霊にまで至った身、このまま終らせるつもりもない。
咄嗟に魔力を放った私は、わずかだが加速がついた軌道の修正を行い肩口から全身の力を叩きつける、相手が人ならば気絶は免れない衝撃だったろうが、本というのは人よりも軽い事から意思を持つ本は吹き飛びはしたが衝撃によるダメージは期待するべきではないだろう。
素早く追撃を行う必要から振り返り様に足場を作り、その足場に両足から着地と同時に全身のバネをもって斬り返そうとした私だが―――

「むっ、これでは……」

件の本は思いの外遠くに吹き飛ばされてしまったらしく散乱した本の数々に紛れ込んでしまい見失ってしまう。
警戒をしつつもサーチャーを飛ばして探りを入れるが、しばらくしてもそれらしい本は見つからない、

「見失ったか―――ならば」

探し出すのも手かもしれないが、ここが敵対的な相手の工房である事を考慮すれば、その考えは危ういかもしれない……ならば当初の予定通り逸れた皆との合流が先決といえる。
敵意を持つモノが近くに潜んでいるかもしればいが、近くには実体化こそしていないもののアーチャーの気配も感じられる、霊体とは云わば物理法則の縛りを受けない存在だからこそか、あの本が使った転移魔術の影響を受けなかったのは。
霊体から実体に変わって援護をしてくれてたのならば、あの魔術を操る本を捕らえるなり屠るなり出来たかもしれないが、凛の事だから何かしら考えがあるのでしょう、ならば私も思考を切り替え戦略的に退いて合流するのが望ましい。
凛やアーチャーの思惑が判らない以上、アーチャーの援護は期待せず、懸念する背後からの追撃は不可視の鞘を解いて得られる加速に、後方に流れる風の圧力にて抑えられるので追撃を困難にさせられるはず、私は追撃させないよう鞘の風を解きつつ素早くこの場から離れた。
ただ―――途中、紙片のようなモノが見えたので複数の魔力弾を展開し撃ち放つ。
魔力弾そのものはなんら変哲もないただの非殺傷設定の直射弾でしかなく、しかも書庫や他の書物に影響を与えないよう威力も抑えてある。
本来なら牽制程度にしか使えないような魔力弾であるが、外と内の発射速度を調節する事で避け難いように展開して放った事に加え、左手のシルトの先端から発生させた魔力刃に貫通力を持たせる為に回転を与えつつ弾体を加速させる術式を複数展開して高い初速をもって射出した。
向こうのミッドチルダでデバイスを手に入れ魔術の研鑽しているなか耳にした話では、この世界の魔導師達はそれぞれの魔力が波長の違いから魔力の彩色が微妙に違うという、その話しからヒントを得てアリシアに調整してもらった無色透明な魔力の槍。
物理的破壊を目的とする殺傷設定ならば、対象を貫いた後で圧縮された魔力が開放され内部やその周辺諸共吹飛ばす術式となるが、施設そのものに害がないよう魔力そのものに対して効果が高い設定にしてある。
だが、あの紙片も魔力を源としているならば魔力ダメージを受ければ内包する魔力を枯渇させ無力化させられるかもしれない。
そして、速度を調整して放った魔力弾には紙片が避けれるようあえて逃げ道を残してある、その為に避けようとした紙片は高速で飛来した透明な槍に貫かれ、そのまま床に縫い止めるようにして身動きを封じた。
圧縮した魔力の量が問題なのか、ある意味でバインドのような効果をもたらしたようだが、これでは対人で用いた場合は相手の体を貫いて身動きを封じる術になってしまうから、魔力ダメージというよりは即死させなければいいという状況下での使用でしか難しいようだ……
などと思うも、紙片に何もさせずに通り過ぎた私は入り口を目指して更に加速を加え、足場を蹴って方向を変えながらシルトに記録させた地図を頼りに駆け抜ける。
来るまでの道のりは捜索を行いながらだったからこそ時間が掛かってしまったが、今は合流する為に戻るだけなのでそう時間をかけずに走破できそうだ、無論、ここは敵地であるが故に警戒しつつも素早い行動が求められるが来た道のりの半ばまで来ても、所々で本が漂ってはいるがこれといった異常らしい異常は見当たらない。

「諦めた、か?」

そう呟いた私だったが、前から巨大な魔力を感知した私は制動をかけ剣を構える、感覚的にはあの魔力には覚えがあるがここが敵地である以上、気を抜くわけにはいかない。
念の為に警戒していた私だったが、前から迫る魔力の塊は漂う本らを空間そのものを歪ませた歪曲場にて退かせながら現れ、その奥には歪みによってややぼんやりとするが独特の服装からしてアサシンの様子。

「ここにいたか、セイバー」

「皆で迎えに来たよ」

剣を下ろした私と同様、向こうもディストーションシールドが解かれれば、アサシンとその背中からちょこんと顔を出したアリシアが声を掛けて来る。

「どうやら心配をかけてしまったようですね、しかし、私とて英霊にまで至った身ですから少々の事では遅れはとりません」

心配してくれるのは嬉しくあるが、あの程度ならば大丈夫と告げてから、

「ところでアリシアの方はどうなのです、マリーの所での作業は幾分か進みましたか?」

この世界の次元世界がどれ程の規模なのかは定かではないが、治安を預かる時空管理局においてアリシアの技術は重要なのは承知しているつもりだ。
ある意味では、次元世界全てに関わる事柄故に状況によっては私の心配よりも優先させる必要がある。

「うん。部品の入替えだけだから時間はかからなかったよ」

「そうですか」

アサシンはアリシアの護衛として来ているのだからアリシアと一緒に居るのは当たり前だが、アリシアにしても再設計という作業は私が思っていたよりも難しくはなかったらしい。

「どうやら大丈夫みてーだな」

「無事なようでなによりや」

「ええ」

続いてヴィータに八神はやてが姿を見せ、安否を気遣ってくれたので私も返しますが、その後からはシグナムの他にプレシアやフェイト、アルフといったテスタロッサ一家の姿も見える。

「遠坂凛が言うには本らしきモノだという話だがどうなった?」

「実際に交えた感覚の話しですが、あの紙片らの本体と思える本は同時に幾枚もの紙片を飛ばし、それらに術式を行使させるタイプのようでした」

二度と不覚を取らない為か、転移魔術で皆をどこかに跳ばした相手の情報を問い質して来るシグナムに、私も先ほど交えて得たばかりの戦力の程を告げる。

「本体そのものの力は見れなかった為に未知数、現段階で把握しているなかで注意するべきは同時に何枚のページを操れるかでしょう」

「それもそうだ」

静かに聞いていたヴィータは相槌を入れ、

「私が交えた時にも数十枚もの数を操っていましたが、それだけでも並みの魔導師よりマルチタスクに優れているのは明らか。
加え、懸念するべき点は、あの本の魔力が自前のものか外部からの供給かが問題かと思います」

「だろうな、それによっては対応が変わって来る」

「そうだね。魔力を内包するタイプなのか、外部から供給されるかでは探し方も違って来るから」

「自前で魔力を持つタイプなら本の山から探しださねばならず、外部にあるのであらば書庫をくまなく探さねばならない、か」

シグナムに大人のフェイトも頷き、アサシンもまた双方の困難さを示した。

「とりあえずは、一旦皆の所に戻ってから対策を考えようか……これ以上ここに居るんわアリシアちゃんや、ちいちゃいフェイトちゃんの教育に悪い」

「教育、何かあったのですか?」

「あったもなにも、そこな小次郎さんがな相手が思念体だからって………まだちいちゃいアリシアちゃんやフェイトちゃんの前で首をポンポン刎ねるんよ」

「なに、邪剣使いが故に得物が変わってもついつい何時もの癖が出てしまう、とはいえ大抵のモノならば首と胴を斬り離せば動かなくなるというもの、そう珍しいものでもあるまい」

「そらまぁ、小次郎さんは昔の人やさかい珍しくもないんやろうし、私らだけならそれでもいいんやけどアンタの背にはアリシアちゃんが居るんや、まだ幼い娘にそないなもん見せていいと思うとんのか?」

「そうは言うが、こちらとて警護を受けているのだ、どの道、害意があるモノが居るのならば迅速かつ確実な方法で始末するのが望ましかろう?」

倫理感や情操教育を育むという観念においては八神はやてに分があるが、現実的な脅威を素早く刈り取るという目的ではアサシンに分がある話しだ。
故に―――

「ここの現状と照らし合わせて見れば手段そのものは間違いないんだろうけどな」

「問題は倫理感の問題だからね……」

ヴィータや大人のフェイトも、八神はやて、アサシン双方の主張が解るのでどちらとも言えない様子である。

「なる程、おおよその話しは解りました」

そう答えた私だが、アサシンに対して口を尖らす八神はやての姿に私も思い至る、かつてのアヴァターではアリシアは破滅の軍勢を相手に五万近い武功を上げ、神さえも打破してしまっているが彼女が言う通り見た目は幼い。
体感時間そのものは神の座で四十年近く経験しているが、あの場は時間そのものの概念がない所故に肉体的な成長や老化などの影響がない、『原初の海』という途方もない存在の仲介ともいえるアリシアは勿論、私やシロウも望めばあらゆる知識を手に入れられる所で魔術を学べたものだが、それをここで彼女達に説明しても魔術師と魔導師の違いの如き基本的な考え方に大きな隔たりがあるが故に、根源という観念を理解するのは難しいだろう。

「それなら、大人になればいいんだね」

数秒ほどだが、私がどう答えるべきか考えあぐねいでいればアサシンの背中にいるアリシアの姿が変わった。

「アリシアが大きくなった!?」

「そんな……わ、私のアリシアがアリシアが………」

「落ち着きなってプレシア、ただの変身魔法じゃないか」

突然、子供から大人に変わったアリシアにフェイトは驚きを隠せず、プレシア・テスタロッサは混乱し始めるが、アルフは幸いにも変身魔法を多用している為か冷静に分析して二人を落ち着かせようとしていた。
しかし、大人モードに変わったアリシアのバリアジャケットは相変わらず体操服姿で、それは大人のフェイトと瓜二つの容貌からして彼女が体操着を着込んだようにも錯覚しかねない。
だからか―――

「ふむ。なる程、これはこれでよいものかもしれぬ」

後ろから抱きつかれているような形のアサシンは悪くなさそうにしていた。
そんなアリシアであったが、

「アリシア、そういう問題じゃないんだ」

「そうなの?」

「うん。だから急いで大人になる必要なんかないんだよ」

「そうなんだ」

大人のフェイトは、飽くまでも精神的な面での成長に関わる問題なので体を成長させればいいのとは違うと諭せば、きょとんとして聞いていたアリシアも姿形を大人にするだけでは意味がないのが解って元に戻った為にアサシンはやや残念そうにする。

「兎に角、これ以上は先行調査の分を超えとる、後の事はクロノ君が率いる武装隊と合流してから考えようか」

「それがいいかと」

「だな」

ここが敵地である以上、仲間内とはいえ雑談に時間を浪費するべきではないと判断したのか、八神はやてはシグナムとヴィータが相槌を打つなか空間モニターを開き、

「こちら機動六課のはやてや。無事アルトリアさんを保護したさかい、これからそっちに戻るから驚かんといてや」

「分かった。だが、こちらは先程まで――――――いや、現在も襲撃を受けている、転移魔法を使うなら注意してくれ」

「襲撃やて!?」

「そうだ」

報告を入れる八神はやて、聞いているこちらとしてはクロノが言葉を途切らせたのは気になりますが、淡々と続けるクロノの声に驚きの声を上げてしまい。
百聞は一見に如かずと、クロノが空間モニターを操作したのか画面のなかの映像が動けば、その先に泡立つかのような体に無数の手足が生え、更には人よりも大きな目や口が幾多もある怪異が映っていた。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

リリカル編 第26話


書庫内に取り残されたセイバーを助けようと中に入ってしまったアリシア、アサシンの二人を止める為、追いかけたフェイトに続いてプレシアさんやアルフ、その後を追うようにして機動六課の部隊長である八神に続き分隊長である大人のフェイトや副隊長のシグナム、ヴィータと続き。
残った俺や遠坂にスバルは魔力や無重力での移動に難があるからだが、クロノやユーノ、大人のなのはと一緒に武装隊が来てから改めて書庫に入ろうと到着を待っていた。
特に魔力が枯渇しかけている俺なんかは、魔術の補助を受ければ十分動ける遠坂やスバルとは違って仮に書庫内に入っても魔力の回復の遅さから足手まといになりかねない、ここは待つしかないだろう。
そう思いながらも、俺は壮麗な装飾の一部が欠けた巨大な扉に目を向ける、元々そこにも装飾はされていたがセイバーが取り残されたまま閉ざされてしまったので俺が無理やり穴を空けたものだ。
今では目の前の巨大な扉には、人が一人通れるのに十分な空洞が空いているのだが、それは書庫のなかにいるだろう思念体までもが書庫の外に出て来れるのを示している。
従って、この場で待機している俺達の役割は外に出て来るだろう思念体を表に出さないよう押し止める事なんだろう。
その為、

「この辺は、扉の奥とは違って整理済みでバックアップ済まされている、被害を受けないに越した事はないがある程度なら大丈夫なはずだ」

「なら安心して戦えるわね」

クロノは湧くように現れる思念体のせいで扉の奥こそ未整理かつバックアップもできてないが、その手前であるここならばある程度の被害を受けても修復できると口にしたので、遠坂もそうだが俺達も少し肩の荷が降りた気分になる。
それに、クロノは常にしているようだけど、大人のなのはは制服姿のままでバリアジャケットをしてないのが気になる、まあ、ユーノのもしてないから魔力の節約が目的なのかもしれないが念の為だ聞いてみよう。

「八神が言ってたけど、なのはさんってリンカーコアを傷めてるんだろ大丈夫なのか?」

「傷めてるのは確かだけど、少しだけだから無理をしなければ平気だよ」

相互に連携を行う必要性から散開せず近くに集まりながらも、気を使わせてしまったのか大人のなのははバリアジャケットを展開しながら俺の問いかけを返してくれ、つられるようにユーノも防護服でその身を覆った。
そんな俺達だったが、八神達がセイバーを迎えに突入してから十分以上経過しても懸念していたように思念体が外に現れるような気配はなく。
試しにサーチャーを使って手短な書庫の部分を探ってみても、それらしき姿は見受けれないでいた。
とはいえ―――

「あの氷に閉じ込められてるって?」

「あれはセイバーが尋問の為に捕らえた奴で、聞き出してそのままだと問題だからって八神が身動きを封じたんだ」

探査魔術には、エリアサーチといった広域を調べられる魔術もあるけど、周囲に魔力を持った本が多いい場合は反応が多過ぎて判別が難しいから書庫内の構造くらいしか把握できそうにないらしい。
だから多分、俺と同じくサーチャーなんだろうけど探査魔術を使っていたらしいユーノは氷に封じられた思念体について聞いてきたので答える。
まあ、あの思念体は身動きが封じられているだけで、別に死体って訳じゃないから子供であるユーノに見せても問題ないだろうという考えもあるが、一応というか一部思考を変え、それらしき姿は八神が氷の柱に封じた奴は確認できるが他は見えないでいるに訂正しよう………いや、まて……もしかしたら書庫に入らなければ襲って来ないのか?
思わずそんな考えが浮かんでしまった俺だが、

「さすが八神部隊長、まだ溶けてなかったんですね」

「それはそうだよ、そうそう簡単に解けたら意味がないからね」

あの思念体を捕らえた後、奥に向かってから結構時間が経っているのに溶けている様子がないようだからスバルは感心していて、それを目にした大人のなのは口調自体はやや厳しめだが苦笑していた。
そんな、大人のなのはは「ところで」と区切り、

「遠坂さん、アルトリアさんの状況はどうなってるのかな?」

遠坂に今のセイバーがどうなっているのを尋ねた。

「アーチャーの話しだと、魔術を操る本を体当たりで撥ね飛ばした後は見失ったみたいだからこっちに来てるみたい」

「えっ、加勢しなかったんですか?」

遠坂の話しにスバルは意外そうな顔をして声を上げるが、

『危なければ加勢させたけど、霊体化しているアーチャーには私達を転送してくれた本の後をついていって本拠地を探りあててもらわなくちゃならないもの』

何故か遠坂は念話に切り替えて返す。
しかし、クロノは遠坂が声から念話に変えた事に違和感を覚えたらしく、

『だが、なんで念話にしてるんだ?』

『あの本が飛ばすページがこの近くに無いとも限らないから念のためよ』

その問いかけに遠坂は近くにあの紙片を操っていた奴が聞き耳を立てているかもしれないのを示唆してきて、

『言われてみれば、私達が奥に行く間に幾つも見ましたっけ……』

『その頃から既に機を窺っていたって訳だね……』

奥に行く間に所々で目にした紙片の事をスバルは思い出しながら口にして、それを耳にした大人のなのはは俺達が書庫の奥から追い出された件について予測を膨らましていた。

『ページの形をした探査魔法か』

『仮に丸めたり折ったり出来ると仮定しなくても、ここみたいな所なら何処にあっても判らないと思う』

『そいうこと』

独特な探知系の端末を持つ相手にクロノは思案するように片手を顎に当て、遺跡発掘などで探査系の魔術に詳しいユーノが端末が紙片の形をしているメリットを上げると遠坂はよくできましたと言いたげに微笑んで、

『それに、ここに跳ばした本がこのまま何もしないってのも気になるの―――』

次いで話しを続ける遠坂だが、扉の前にミッド式の六芒星を象った魔方陣ではなくベルカ式の三角を模した魔方陣が現れたのを見て声を失い、

「てっ、言ってる傍から!?」

「皆、注意してッ!!」

遠坂や大人のなのはが声をあげるなか、魔方陣の中心には所々が凍りついた人の姿が浮かびあがった。
魔方陣そのものは俺達を跳ばしたような転送用のものだったらしくすぐに消えてしまったが、転送魔術で現れた人はゴムのような浅黒い色の肌をしていてるのはいいが、何も着てるものもない全裸だからソイツが男なのが判るが………なんなんだ?

「Aaa………」

だが、まだ体の大半が霜で覆われているのにソイツは顔や首を動かして俺達を見やり、

「Aaaaaa―――ッ!!」

まるで得物を見つけた獣のような声を上げたかと思えば、皮膚が裂け体が弾け飛び、泡のようなものが膨らみ所々に目や口、幾つもの手足がある化け物に変わり果てる。
家一件ほどもの大きさにもなった化け物は、泡のような体を動かして幾つもある鋭い歯が生えた口を向けて俺や皆を食い千切ろうと襲い掛かって来た。

「来るぞ!」

「こんなの見たことがない!?」

「なんなんだこいつ!?」

クロノやユーノと同じく、俺も鋭い歯が並ぶ口と共に向かって来る泡のような体を飛行魔術を使って避けようとするが、

「っ!?」

横を見れば、遠坂が先にスバルが動けるよう加圧の魔術を行った事で一瞬遅れていて、咄嗟に投げつけたカートリッジも内包する魔力が足りないらしく表面を凍らすも威力不足か凍結には至らない、だから俺はシールドを展開しながら鋭い歯が並んだ口が迫って来る遠坂の前に身を滑らせた。

「衛宮君!?」

急に前に出たからか声を上げる遠坂だけど、ラウンドシールドというシールド系の魔術では比較的強固な障壁を使っているのにも関わらず、泡のような体で衝突した衝撃や次いで繰り出される鋭い歯での執拗な噛み付きで否応なく削られてしまい、なけなしの魔力が急速に奪ってわれてしまうが急に楽になる。

「もう大丈夫です、衛宮さん」

無重力という環境下で初動こそ遅れたスバルだが、俺と同じように障壁を張ってくれ、魔力を使い果たしそうになる俺の代わりに化け物を受け止めてくれていた。
怪異は、泡のような体に幾つもある口でスバルの障壁をも食い千切ろうとする―――が、それもつかの間、魔力の奔流が泡立つ体を消し飛ばす。

「今のうちに少し離れて」

そう口にする大人のなのはの視線は俺達ではなく泡の体を持つ怪異へと向けれたままだ、

「悪い、助かった」

「助かったわ」

「ありがとうございます、なのはさん」

「うん。でも、お礼ならもう少し後での方がいいかな」

礼を言う俺や遠坂、スバルだったがなのはの砲撃で一部が吹飛ばされたはずの怪異は平然とした様子でいて、

「そ、そんな……」

「再生………してるのか?」

ユーノやクロノは見ている間にも体が膨らむようにして元に戻って行く様を目にして驚きを隠せない。

「まるで固定化か復元の魔術でも使っているって感じね」

「復元は解るが固定化は………いや、記憶された形状を維持するという意味では同じか」

「どんな魔法技術が使われてるか判らないけど、どちらにしたってまともな相手じゃないのは確かだ……」

そればかりか、手や足が生えては戻る姿や瞬間的にとはいえ体の一部を失ったのにも関わらず元に戻る速さからして遠坂は魔術的な技術が使われているのかと訝るが、クロノもユーノも目の前の怪異が尋常な相手じゃないのを悟る。

「Aaaaaッ」

泡の体に無数の目や口、手足が生えた化け物は大人のなのはに吹飛ばされたのを気にも留めず幾度も喰らいつこうと俺達に噛みつき、あるいは手を伸ばして捕らえようと繰り返すが避けるだけなら今の魔力量でもなんとかなりそうだ、でも体の一部が吹飛ばされても平然としている奴を相手にどうすればいいんだ。
そもそも回復中の遠坂は兎も角、魔力がほとんどない俺では援護を行うにしても投影した矢程度では効果はなさそうだから手詰まり感がある、ここは大人のなのはやスバル、クロノ、ユーノの四人の足を引っ張らないようやや距離をとって見守るしかない。

「とりあえず衛宮君にはこれを渡しておくわ」

「これって、アリシアから借りたジュエルシードじゃないか」

「そうよ、私の魔力も大方回復したから衛宮君が使って」

「いいのか、遠坂の方だってアーチャーに必要なんだろ?」

「もう大丈夫よ。結構な魔力が必要だったけれど、向こうのミッドチルダに仕掛けた起点がようやく見つかったからアーチャーへの魔力も心配ないわ」

並行世界への繋がりを作れるらしい宝石剣を片手に取り出した遠坂は、「それに」と俺から泡の体を持つ怪異に視線を向け、

「アレを見れば流石に衛宮君を遊ばせてる余裕はないもの」

俺や遠坂以外の四人は、今も蒼い道を描いて翻弄するスバルが泡立つ化け物の手や口を掻い潜り、気をとられた隙を突いて砲撃を速射するクロノや大人のなのはだが、

「くっ、なんて奴だ!こうも手応えがないなんて!?」

「さっきもそうだったけど、まるで実体がないみたい」

瞬間的には泡のような体に穴が空くものの、それさえも数秒で埋まってしまい効果があるようには思えず、

「バインドもっ!!?」

動きを止めようと鎖のようなバインドで拘束しようとしたユーノもまた、魔力で編まれた鎖が泡のような体に固定する事ができずに動きを封じられないでいた。
あの泡のような体が気体か液体なのかは不明だが、身を守る為の動作、即ち避け・防ぐといった行動を必要としない怪異は、痛みすらないらしく体に幾つも穴が空いたまま塞がるのを待たずにクロノや大人のなのはに襲いかかる。
でも、ミッドチルダ式魔術は中・長距離での運用に長けた魔術だ、十分な距離を保っていた二人は共に高速で間合いを広げるので危なげさは感じられない―――だが、二人が避けた怪異の体はそのまま本が収納されている棚に激突して、泡立つ体を戻した後には本棚の一部もろとも収納されていた本の数々が溶けたように消えていた。

「本棚が―――あの体って溶解液!?」

その光景を目の当たりにしたユーノは驚いているが、それが本棚がすぐに溶けてしまった事に対してなのか、泡の化け物の構造についてなのかまでは読み取れない。

「例えそうだとしても、僕達のバリアジャケットは物質的な物体じゃなく魔力で構成したバリアフィールドを服のように編んだものに過ぎない、どれだけ強力だとしても溶解液ならば影響を受けないはずだ」

だが、どちらにせよクロノはバリアジャケットのバリアは俺達の世界の防弾服や鎧などとは違ってエネルギー的な防護だからこそ、あの化け物の体にどんな分解能力を秘めてるか定かではないけど、触れただけなら防護服が溶ける心配はないと安心させてくれる。
しかし、

「問題はジャケットが損傷した時だね……」

「ああ。衝撃や鋭利なもので破損した場合、触れれば僕達もあの本棚と同じになる」

ミッドチルダ式魔術やベルカ式魔術の双方でいえる事だけど、衝撃や熱の変動に対して高い効果を持つバリアジャケットでさえも限度を超えれば破られる、そうなればクロノが言うように直接あの溶解液を浴びてしまう、

「スバル、ここは十分距離をとって戦って」

「解りました」

状況を鑑みた大人のなのはは、見るからに手甲のようなデバイスで格闘戦を主体とするスバルに距離を取らせ、近づかず遠からずといった微妙な間合いを保ち、精々避ける合間に打撃を与える程度に抑えさせた。
再生か復元は解る術がないが、あの泡の化け物だって体を失えば元に戻すのに魔力か何かしらのエネルギーを使うと意図しての牽制なのだろう、けど相手が何だか分からない怪異ならばそれでもじり貧になるかもしれない。
何故ならこの場で十全なのはクロノだけだからだ、大人のなのはは魔導師の命とも呼べるリンカーコアを痛め、ユーノはまだ子供だ、スバルもここだと遠坂の援護がなければ実力を発揮できないみたいだし、その遠坂にしても書庫に篭ったままの主とかいう奴を捕まえようと霊体化したままのアーチャーに俺達を跳ばした本の後をつけさせている最中、幾ら無制限に魔力の供給先を選べるからってアイツは仮にもサーヴァントなんだ何かあった時の魔力は心もとないかもしれない。
それでも、俺にジュエルシードを使えというのは遠坂なにり何か考えがあるのだろうが―――

「多分。衛宮君の概念武装なら、体そのもの与える以外にも蓄積された年月の重みで魂にも打撃を与えられる筈だからあの化け物にも効果があると思う」

「アレの相手なら俺の方が適任って事か、解った」

牽制を行い続ける四人を視野に入れながら、遠坂から理由を聞いた俺はアリシアによって改修されたジュエルシードを受け取ると透明なバリアジャケットの一部を解除して赤い外套のポケットにしまった。
再び透明な防護服を纏う俺だが、所有権の移行によって遠坂に代わり、流れ込んで来る膨大な魔力の量に圧倒されそうになるものの、これなら魔力不足を気にする必要はなさそうだ。
だけど一番の問題は何を投影するかだ―――まるで霧か雲みたいに実体を持たない奴だから、クロノや大人のなのはの砲撃の威力を見る限り単純な威力や貫通力が秀でてるとかは意味がない。
判っているのは、あの泡のような体が触れる物を溶かしてしまう強力な酸か何かの溶解液みたいなものだという事、ならまず手始めに熱や炎を発する剣で蒸発させてみるか。
とはいえ、神の座で休憩の合間に神に見せてもらった神造兵器たるヌァダの剣やスルトの炎の剣、天地を斬り分けた剣とかラハット・ハヘレグ・ハミトゥハペヘット等々は神が丁寧に教えてくれたからこそ解析できたけど、いざ投影に挑戦してみれば魔力回路が暴走しかけて近くに神が居てくれなければ内側から生じた剣群でその度に全身が串刺しになるところだったから除外しなければいけない。
他にも神がアリシアの兄貴だからって創ってくれた一振りの無名の剣、能力は有の否定とかいう力で一瞬で消えてしまう世界を創造するというものらしく、そこに存在するのであれば如何なる物質、魂さえも量子に帰し滅ぼし去る力を持つという。
能力的にいえば、あの泡のような体を持つ怪異に丁度いいのかもしれないが、問題は星々や星系さえも消し去る力と持つというのだから土蔵どころか何処に保管すればいいのかさえ判らない品で一度は辞退した剣だ。
けど、気を利かせてくれたのか無限の剣製の中に突き刺してくれてるから使おうと思えば何時でも使える、でも使えば立っている星ごと滅ぼすとかいうのだから、そんな馬鹿げた威力を持つ剣なんか使える訳がないんだ………神の奴は一体なにを考えてこんな使うに使えない大量破壊兵器をくれたんだろうか?
一部除外する項目を加えた俺は、片目を瞑り自己に埋没しながら検索かけて炎にまつわる幾多の聖剣・魔剣が導き出す。
俺の心象風景、無限の剣製に登録されている武具の大半がアーチャーとの繋がりから伝わって来たものだろうが、アイツは一体どこでこれだけの宝具を目にする事が………って、馬鹿か俺は、守護者になったアイツが名のある英霊達や守護者達の武具を目にする機会なんて、それこそ聖杯戦争か星側の抑止力までもが関与するような危機的状況だけなんだから。
霊長の守護者という座で括られ、過去・現在・未来で起きる災厄を防ぎ止めるべく永遠とも呼べる時のなか、自身の心が磨耗してしまう程に多くの時代へと己の分身を送り続けたからこそ得られた数々。
その過程で磨耗してしまったとはいえ、守護者にまで上り詰めた英霊エミヤの胆力に改めて気づかされる、それもそうだろう人間の感覚でしか生きられない俺達が突然、永遠にも等しい存在になんかに成ったのなら、それだけでも磨耗は避けられない。
それなのにアイツは心の根底では理想を燻らせていたんだ、アイツが―――英霊エミヤが自分の魂を削りながらも集めた宝具、一つだって無駄にするつもりはない、だから使わせてもらうぞ、アーチャー!!

「―――投影開始」

創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
製作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし、
ここに、幻想を結び剣となす。
俺が両手で白い柄を持つ剣、『ディルンウィン』を握り締めると同時に剣は白い炎に包まれる。
この剣はセイバーの故郷のブリテン由来の剣、不死の騎士軍団から祖国を救った逸話を持つ、例えあの化け物が不死者であっても不死の騎士を焼き尽くしたこの剣ならば無傷ではいられないはずだ。
だが難点もある、それは本来なら高貴な血筋の持ち主以外は剣の炎の特性で持つ事すら許されないという事、けど投影とはいえこの剣は俺が鍛えたようなものだから炎が俺を傷つけるような事はないので安心した。
少し前に受けた突進の衝撃を俺一人ではろくに防ぐ事も出来ずにいたからか、俺や遠坂は戦力外に思われていたらしく、やや距離を取っていただけで襲われないでいたのだけど、俺が投影した剣を握り締め、遠坂が宝石剣に持ち替えのを機に危険を察知したのか体中にある目が一斉に俺達の方に向き、

「来るわよ。準備はいい、衛宮君」

「ああ。判ってる」

そう返す俺だが、投影した剣を使いこなせるよう更に蓄積された経験を読み取り続ける。
何故かといえば、投影する際にも剣が作られる背景や構成、材質に加え技術・技法などを憑依経験を元に読み取って再現しているものの、俺が本来の担い手ではない為に持ち主であった者の経験だけは容易には共感し難いものがあるからだ。
そもそもの原因は俺が投影魔術を扱う魔術師でしかないからだろうけど、守護者になったアイツ―――英霊エミヤの双剣、干将と莫耶でさえ、ただ上辺だけをなぞっただけでは読み取れない部分がある。
それこそが担い手によって剣が蓄積してきた経験であり、剣の構成している材質とか工法などの鍛造に関わるところではないからか、更に奥深くまで読み解かなければ見出せない部分。
ある意味、それこそが剣製の延いては投影魔術の極致とすら呼べる境地なのかもしれないが……それだって元になった担い手の技を再現しているに過ぎず、本物の担い手と戦えば一時こそ拮抗するかもしれないが、それ以上の伸びしろがない劣化コピーでは勝る事はないだろう。
でも、それでいいんだ、俺やアイツにとって投影も含めた魔術の本質なんてものは状況毎に選べる手段の幅を広げる為にあるに過ぎないのだから、だからこそ俺やアイツにとっての基本的な戦術を構成する投影魔術、どんな理由で作られたのかや構成する素材・技術等々、基礎の基礎たる骨子がいかに重要なのかが解るというものだし、技量だって別に使いこなせる必要はない、せめて俺でも使えるようになれればそれでいいってレベルに過ぎないんだから。
俺が剣に蓄積されていた担い手の技量を読み取り続けるなか、

「Es last frei EikeSalve――――!!(解放、一斉射撃)」

向かって来た泡の突進を避けざまに炎に包まれた剣で斬りつけようとしていた俺だけど、遠坂が振るう宝石の剣から迸る魔力の斬撃が泡の体を斬り裂き、

「Gebuhr、Zweihaunder!(次、接続)、Es last frei EikeSalve!!(解放、一斉射撃)」

続いて横に振り抜かれた斬撃が泡の体を四分割にした。
その一つに狙いを定めた俺は、剣に魔力を込めて纏う炎の勢いを増した一撃を見舞う。

「AaGaaaaッ!?」

四分割にされたうちの一つを剣が纏う炎の熱が瞬時に蒸発させ、不死者すら滅する炎の威力か、概念武装という蓄積された年月の重みがもらたす神秘が痛手を与えたのか、泡のような体を持つ化け物の口々から悲鳴の声が上がった。
だが、一つ蒸発させた程度でどうこうなるような奴じゃないのは判っている、続いて全身の動きを高速化させるミッド式魔術、ブリッツアクションを使って斬り返しの要領でもつ一つを蒸発させれば、

「デバインバスターッ!!」

「ブレイズカノンッ!!」

残りの二つは機を逃さずにいたなのはとクロノの砲撃で消し飛ばされ、

「一撃必倒!デバインバスターッ!!!」

ワンテンポ遅れて、振りかぶった拳と共に繰り出されたズバルの砲撃魔術は、基本的にはなのはの砲撃魔術と同じなのだろうけど近距離仕様なのか拡散していて、その結果というか周囲を漂う残滓すら残さず泡の体を持った怪異はこの場から消え失せた。

「どうやら片付いたようね……」

「………そうだな」

宝石剣を通して得た魔力を放つ遠坂では難しいだろうけど、炎で包まれているとはいえ直に斬り裂いた俺にはどこか手応えみたいな感触を感じたから効果はあったんだろうと思う。

「核みたいなモノがないか探してたけど、その必要はなかったかみだいだね」

「そうか。核みたいなので制御部分が在れば、あんな生物には思えないのだって生まれるかもしれない………だったら、僕もバインドを網目みたいな形にすればよかったんだ」

排気しているのか、先端から蒸気を吹き出すレイジングハートを手になのはは泡の化け物が消えた辺りを見ていて、遺跡や古代文明に明るいユーノは気体や液体みたいな体であっても核となる部位があれば制御して動かせるかもしれないと判断したようだ。
言われてみれば、ジュエルシードの暴走体だって暴れさせていたのはジュエルシードという核の部分だったから、そんな風にも考えられなくもない、か。

「……でも、なんだったんですあの化け物?」

「そうだね。姿からしてまともな生き物には思えない」

スバルは上司のなのはに訊ねるけど、所属していた所が武装隊を育てる教導隊というからには基本的に事件には関わらない人材育成を主とする部署だったからか、大人のなのはも上手く答えられず、

「恐らくは魔法技術で創られた産物だろうが、あんなタイプは初めて目にする」

「うん。僕も、とてもまともな文明の遺産には思えない、やっぱり古代ベルカ文明とかの技術が関わっていたのかな?」

視線は執務官として様々な事件に関わったクロノと遺跡発掘を生業とするユーノに向かったものの、何故か四人に増えた目線は遠坂に集まる。

「……あのね。いくら私や衛宮君がいる世界の魔術が古代ベルカの技術に似てるところがあるからって、何から何まで判る訳じゃないのよ?」

「すまない、つい……君なら知っているかもしれないと思ってしまった」

「そうだよね、流石にあんな奇妙な生き物は居ないよね」

「ですよね~」

流石に雲や蒸気みたいに実体が在るのか判らないばかりか、手足が生えては溶けるようにして戻るのを繰り返すような訳のわからない化け物なんかは俺達の世界にも居ないだろうとか俺も思い、憮然として返す遠坂に気づいたクロノは謝りなのはやスバルもフォローするのだけど―――

「多分、何かしらのキメラか死霊の類だろうけど私にだってはっきりは判らないわ、ただ時計塔の地下にある研究施設辺りならいないともいえないわね……」

「………いるかもしれないんだ」

もしかしたらと言う遠坂にユーノの頬が強張った。

「……なにはともあれ、あんな訳が分からない生き物まで現れるんだ武装隊ももうすぐ到着するから合流してから捜索するのが賢明なのが改めて判った」

「そうだね。書庫内から外に跳ばしてから襲撃して来るって事は、なかを荒らされたくないって事だと思うけど状況次第ではどう動くか判らないから」

空間モニターを開いて武装隊の展開状況を確認するクロノの言葉になのはも相槌を打つ。

「あの化け物にしても、泡のような体に無数の目や口、手足にいたっては体から出しては戻して別の所に移動している節が―――」

空間モニターを使い武装隊が到着するまでの間、先程の気味の悪い怪異に関して分析をし始めたところ、

「どうやら見つかったみたいだな」

どころからか通信があったようでそちらに繋げる。

「こちら機動六課のはやてや。無事アルトリアさんを保護したさかい、これからそっちに戻るから驚かんといてや」

「分かった。だが、こちらは先程まで―――」

通信は書庫内に取り残されたセイバーを無事保護したのを告げる内容だった。
しかし、化け物が現れた事に関して八神達に注意をするよう告げようとしたクロノだが、

「いや、現在も襲撃を受けている、転移魔法を使うなら注意してくれ」

「襲撃やて!?」

「そうだ」

空間モニターそのものを動かし、クロノ自身も前を見据えながら言葉を続ける。
その目線の先に泡のようなものが現れた思えば、爆発的に膨らんで先程倒した筈の泡の化け物へと変わり、

「Aaaaッ!!!」

幾つもある目が一斉に周囲を探るように動いて、俺達の姿を捕らえると同時に口々からは怒りの声が上がった。

「そんな……」

「完全に消えた筈なのに蘇えったとでもいうの……」

周囲に転移魔法などの魔方陣が現れる気配が無かった事から同タイプの別の個体ではなく、同じ化け物が一度は消滅した筈なのに再び姿を現した事からスバルとユーノは声を漏らしてしまい、

「仮に死霊に近かったとしても、魔力による衝撃なら無事じゃないはず………て事は、ガス状生命体みたいって感じかしら?」

遠坂は気体みたいに固有の形状を持たない怪異だからこそ、その性質からして普通の攻めでは通用しないかし難いと推測して、

「そうかもしれない。一度は倒したと思ったが、単純な物理攻撃では効果が少ないのかもしれない」

「実体が無い分だけ威力も効果も減衰するみたいに、かな?」

「多分、そんなところだ。そして、気体みたいな特性を持つ体なら凍結系の魔法も効果が薄いだろう」

泡のような体という、得体の知れない化け物を冷静に観察するクロノは遠坂の考えに賛成のようでなのはの意見にも相槌を打つ。
仮に魔術で与えられた傷を無効化できるようなら、あの怪異にはバーサーカーのような宝具級の加護かセイバークラスの対魔力に相当するような力がある事になってしまう。
それならば、あの怪異には傷を負わせられないが、あの怪物にそんな加護や能力があるとはとても思えない―――むしろ、

「でも、すぐに復活しなかったんじゃなくて出来なかったのなら俺達の攻撃も少しは効いているかもしれないぞ」

「そうだね。戦いに絶対は無いもの、どこかに何かしらの秘密があるはずだよ」

水や空気のような体だからこそ、皆が推測するように受ける効果が少ないのだと判断する俺に、なのはも打撃を蓄積させ続ける案に賛成してくれ複数個の魔力弾を探るように放つ。
なのはは向こうでの戦いでリンカーコアを傷めている、あの化け物との戦いを長引かせる訳にはいかない。
だが、この時の俺達は、目の前にいる化け物がまさか破滅のモンスターだとは想像すらしていなかった。


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