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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
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[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
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[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
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[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] リリカル編25
Name: よよよ◆fa770ebd ID:fae2e84c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/27 01:25

「シュートッ!」

空間シミュレータ構築された街並みのなか、私はアクセルシューターを放ち次々に目標を撃ち抜いて行く。
私達の世界でもデータそのものは供与されたけれど、実物の擬似リンカーコア搭載型デバイスを用いての試験運用を行う必要がある為に、私はこっちの本局技術部試験用空間シミュレーターにて試験を行なっていた。
十年もの歳月の差から、シミュレーターそのものはガジェットの襲撃で壊されてしまった機動六課のものに比べたら見劣りしてしまうのはしかたがない。
けど、擬似リンカーコアシステム求められるのは安定した魔力供給、気象や戦闘、長時間での稼動など様々な状況下でも安定した魔力を術者に供給できるかが試験の内容。
この運用試験に求められるのは高い耐久性能と安定性だからシミュレーターそのものの性能でそれほど差が生じるとは思えないのや、私達からすれば、この世界は十年前の世界なんだけど、この擬似リンカーコアが加わったデバイスはある意味では私達の世界の世代を超えているといってもいい未知の技術が使われているだけに試験運用は慎重に行なわなきゃだね。

「―――でも、いわれた通り供給される量は大体Dくらいかな」

「I think whether as the(その通りかと思います)」

私の感想に待機状態のままレイジングハートが答える。
マリーさんの説明からは、擬似リンカーコアシステムはカートリッジシステムと干渉してしまうそうで同時に併用した場合、互いの魔力は波のような形で衝突し合って数倍にも膨れ上がる爆発的な現象を生み出してしまうという。
そんな状況になれば、魔導師もデバイスも負担はもの凄いどころかリンカーコアそのものも傷つきかねないしデバイスの疲弊も無視できない。
その為、擬似リンカーコアシステムの試験にはマリーさんが用意してくれたストレージ型のデバイスを使い、このデバイスには擬似リンカーコアシステムの状態を観測する機器も搭載されている事から、常にリアルタイムで計測された情報がモニタールームに送られ続けている。
そして、初めての運用試験は魔力ランクがDの人達は総合ランクでCやBランクが多いのもあって試験も慎重にCランククラスの試験にて行っていた。
内容にしても要救助者が居るような試験ではく、一定数の標的を殲滅して行くだけの簡単な形式で状況による負荷がどれくらい掛かるのかを検出しているのだけど、今のところ問題は感じられそうにない。
むしろ、安定した魔力が杖に送り込まれているから魔導師本人への負担は感じられないでいる。
擬似リンカーコアにしても、リンカーコアと同じく使い続ければ疲れに似た負荷が掛かるが、それはカートリッジの排莢に酷似した機能で交換される部品に集約されるそうだからデバイスそのものに関しても負担は少ないみたい。

「うん。よく出来ている」

フェイトちゃんには悪いけど、設計したのがヴィヴィオと同じくらいのアリシアちゃんだったら少し心配してたんだ―――でも、この様子なら大丈夫かもしれない。
あんな幼いのに並行世界への移動や新しい技術を作り上げられるなんて凄いなぁとか思うも試験は続き、幾つかのシューターで移動する標的に追い込みつつ、回り込ませていた誘導弾を用いて最後の一つを撃ち抜き試験は終了、空間シミュレーターが元の無機質な隔壁で覆われた訓練室に戻る。

「こちらの計器からは異常は見られませんでしたけど、実際に使ってみてどうでした?」

空間モニターが開き、運用試験を終えた私に早速マリーさんは感想を聞いてきて、

「まだ長時間の稼動や限界近くの運用はしてないから何とも言い辛いけど、今のところ見ての通り、Cランククラスの任務かつ長時間に及ばない状況なら大丈夫だと思う」

返す私は一通りの運用試験を終えた訓練室を後にして、計測及び分析用に併設してあるモニタールームに足を運ぶ。

「いやはや、末恐ろしい娘とは思っていたがここまでとは」

「はは、ここの私からすれば十年もの年月がありますから」

「なに、私が知る高町なのはに比べ、動きが手堅く危なげがないのだ謙遜する必要はない」

覆っていたバリアジャケットを解きながら、自動で開閉する扉をくぐれば、本名佐々木小次郎ことアサシンさんがタオルを渡してくれ、

「でも、ゆりかごでの戦いでリンカーコアを傷つけてるんでしょ……大丈夫?」

とてとてを歩いてくるアリシアちゃんは心配してくれる。
運用試験を行なう魔導師には事前に調子がどうかを報告する義務があるから、きっとマリーさんがモニタリングしている間に私の体調を心配して話したのだと思う。

「うん。今回は自分の魔力じゃなくて擬似リンカーコアからの魔力だけを使ってたから無理はしてないよ」

新型ガジェットの設計図を開発部に送る為に整理してた手を休め、心配そうに私を見上げているアリシアちゃんに大丈夫だよって頭を撫でた。
その、アリシアちゃんが設計しているガジェットだけど、一口に新型ガジェットとはいっても私達の世界から十年の歳月や部品一つ一つの差からやや大型化してしまうらしい。
まあ、その辺は私達の世界で部品を一新してアップグレードすればいいだけの話しかな。
その後は、マリーさんやアリシアちゃんと一緒に先程までの運用試験で計測されていた数値とモニタリングされていた状況とを比較しながら問題点があるかどうか洗い出しをしを行なう。
そうはいっても、今回のは無理のない運用だから信頼性が増したという点ではプラスだけど、まだまだ現場に出せるようなレベルじゃない。
試験で得られたデータを検分をしているなか、

「ほう、そうするのか」

アサシンさんは私の動きを教材みたいにして見ていた。
アリシアのペットのポチも、彼女の足元でなんだかくるくる回ってるから退屈はしてないみたいかな。
そんな風にしながら作業をこなしていれば、後ろの扉が開いて、

「こちらです、中将」

「ここにいるんだな」

「ええ」

振向けばグレアム提督に連れられ、一人の男性が現れる。

「作業中、すまない。ミッドチルダ地上本部防衛長官のレジアス中将がぜひ擬似リンカーコアシステムの開発者に面会したいといって案内して来たところだ」

グレアム提督はそう中将を紹介するものの、

『まったく。かねてより、公開意見陳情会の前の調整として各次元世界の地上代表であるミッドチルダの担当と話を進める為に招いていたのだが―――まさか、レジアス中将本人が出張って来るとはこちらも予想してなかったよ』

念話をしながらも肩を竦めていた。

「地上本部防衛長官のレジアスだ、擬似リンカーコアシステムの開発者に開発状況を聞ききたいと思って来た」

「今年の公開意見陳情会の内容は、主に擬似リンカーコアシステムの海と地上の配分が焦点になるでしょうからなぁ……」

やや強引なやり方だったのか、突然の来訪にグレアム提督も溜息を漏らす。
私は直接の面識はないけれど、シグナムさんから私の世界の中将はスカリエッティが送り込んだ戦闘機人によって殺害されてしまったとの報告を受けてるから妙な感覚を覚える。

「だろうな。ところで開発者は誰なんだ?」

「は~い」

私達を見回す中将にアリシアちゃんが手をあげた。

「な……」

「中将、擬似リンカーコアシステムが開発中の技術だというのに加え、今まで開発者を公表してないのはこういった理由もあったようでして……」

自分が開発したって答えるアリシアちゃんを目の当たりにして言葉を失う中将に、グレアム提督は理由を述べる。

「現在、運用試験を行い始めたところです」

「君は?」

「古代遺失物管理部機動六課所属、高町なのは一等空尉です」

はやてちゃんに迷惑が掛からないよう言葉を交えつつ敬礼を行なう。

「機動六課……聞いた事がない部署だな」

「中将。擬似リンカーコアシステムを設計したアリシア・T・エミヤが、並行世界という我々の宇宙とは違う所から来たのはご存知がと思いますが?」

「ああ。彼女達の協力があればこそ危険なロストロギアの運送中の船が事故を起こし、それを知ったプレシア・テスタロッサが自分が犯したのと同じような過ちを繰り返させない為に、自身は血反吐を吐きながらも娘を管理外世界に送って見事に回収させたという話は聞き及んでいる―――と、いうよりも地上でも美談として広まっているぞ」

「ジュエルシード事件は、ある意味ではマスコミが食いつき易そうな事件でしたから。
で、美談は兎も角として、その並行世界を移動できる彼女が元々居た世界の時空管理局、そこに高町一等空尉は務めているそうだ」

「……彼女もまた、我々とは違う並行世界から来たというのか」

既にアリシアちゃんという前例があるからか、こっちの世界には並行世界からの渡航者に理解があるみたい。

「彼女達からはガジェットという自律型ロボット技術と、我々が今開発している擬似リンカーコアシステム関連の技術とを交換している最中なんですよ」

「なるほど」

グレアム提督の話しに一応は納得した様子だけど、

「だが、開発者であるアリシアという娘が居るのに何故こちらで開発をしているんだ?」

当然、私達の世界にも時空管理局があるならそこで開発すればいいという疑問が出て来る。

「まあ、その辺は我々も詳しくは知り得てないところですが、彼女の母、私達の世界とは違う世界のプレシア・テスタロッサが一度亡くなった彼女を蘇生させるのに並行世界を移動する術を手に入れ別の並行世界の技術を用いて成功させたという話ですから、その辺りの事情があるんでしょう」

「……亡くなった娘を生き返らせるのに別の可能性の世界を模索するか、人の執念だな」

「プレシア・テスタロッサは大魔導師と呼ばれるほどの優秀な魔導師、最愛の愛娘の蘇生を手段を選ばずに行なった結果があの娘なでしょう」

「ところで」と話しついでにとグレアム提督は続け、

「プレシア・テスタロッサといえば彼女について調べるなか、かつて違法な手段で違法なエネルギーを用いてプロジェクトを進めたとありましたが………関係者の話を聞いたところ少々事情が異なりましてな」

「……それは、もう二十六年も前の事件だぞ」

擬似リンカーコアシステムを開発しているのが開発チームではなく、アリシアちゃん個人だからか、レジアス中将は苦虫を潰したような表情をするも言葉を選ぶ、

「お母さんは優しい人なんだ、そんな悪い事なんかしないよ!」

けど降ってわいたプレシアさんの話題にアリシアちゃんは頬を膨らませながら怒ってる。

「その娘の言う通り。かつてのプロジェクトに関わった研究者達に聞き取りを行なったところ皆が皆、彼女をそう評価していたそうだよ。
それに、事件の根幹となった安全管理は彼女の受け持ちでしたが、問題は―――そもそも起こした原因の追究がされてない事実、放って置けばその様な社風の会社は再び同じ事を起こしかねない」

「ミッドの安全を考えれば、か……考慮しておこう」

「二度と魔力炉の暴走などで不幸な人達がでないようお願いします」

グレアム提督とレジアス中将の会話から、きっと、その会社には抜き打ちの査察が入るだろうから今でも問題があったら今度こそ表沙汰になると思う。
そんな私の懸念が当たったのか数ヵ月後、その会社では元管理局の高官が不透明な役職について高給を得ていたのが問題になって、結果的にそれまで同じ様な役職についていた人達が明るみになったばかりか、取締役やそれまでの役員が軒並み入れ替わる事件があったという話しだ。

「あの……話を戻していいですか?」

「ああ、頼む」

「続けてくれ」

二人共気まずい様子で、とても話しかけ難い雰囲気だったけど、私はあえて声をかけ提督と中将の同意を得て話の路線を戻す。

「なのはさんが話てくれた通り、擬似リンカーコアシステムそのものは試作品がようやく完成して運用試験が始まったばかりなんです」

ホッと胸を押さえるマリーさんは、擬似リンカーコアシステムの現在の状況を話す。
まずあり得ない話だけど、こことは違うところでも行なわれている教導隊による運用試験で、擬似リンカーコアシステムが何も問題なく合格すればおよそ一ヶ月ほどで試験は終了になり、部品を発注する企業の選定を行ってから現場での試験運用が始まる。
そうなれば、ちょうど公開意見陳情会が行なわれる時期に重なるだろうからグレアム提督が言っていたようにその時の議題は主に海と陸での配分が焦点になり、海は次元世界で見つかる大規模災害を併発するロストロギア対策として、陸は自分達の足元に危険が迫っているのに何で対策を行なわせないんだって互いに守りたい理由があるから引き下がれないんだろうな……

「でも、元となった術式だけなら間もなく一連の試験内容が終るはずですよ」

「だが、聞く限り術式の方は他の魔法の運用を妨げるという話しではなかったか?」

レジアス中将は術式にはやや不満がある様子。

「ええ。術式は展開しているだけでデバイスの容量が多くとられてしまいますから、多くの術式を扱う魔導師には不向きです」

「それに、デバイスそのものにも負担が多くなる一面も併せ持つ」

実際に魔導師として前線に立った経験や、艦隊司令官として多くの武装局員達を見てきた事からグレアム提督も術式には不満があるみたいだ。

「でしたら、機動六課の八神さんが考案した簡易デバイスに術式のみを入れたものはどうでしょう?」

「簡易デバイスに?」

それ専用にデバイスを用意する発想はなかったのかグレアム提督はマリーさんに聞き返し、

「はい。擬似リンカーコアシステムに比べるれば、紛いなりにもデバイスそのものを使うのでコストは割高になりますが……」

「割高、か……」

「ただでさえ時空管理局での予算問題は深刻だからな……」

飽く迄も部品に過ぎず、量産化の規模が大きくなればそれだけ単価を抑えられるかもしれない擬似リンカーコアシステムに比べ、簡易でもデバイスそのものを一つ用意する必要があるからコストが高くなるのを告げられた中将と提督は二人して顔を顰める。
そもそも、私の世界のレジアス中将だって予算があればスカリエッティに協力なんかしなかったと思うのだからこの反応は仕方がないのかもしれない、

「ない袖は振るえぬか」

ただ、横で聞いていたアサシンさんはそんな二人の様子にやれやれといった感じで漏らしていた。

「まだ、擬似リンカーコアシステムとの併用は試験されないのですが単体での使用は術式と同じなので問題ないかとは思います」

「……むう」

次元世界の平和と安定を守る時空管理局だけど、限りある予算で導入しなければならないから費用が多くかかってしまうのは望ましくないんだと思う。
それに、これは管理局に協力的な闇の書の所有者、この世界のはやてちゃんの魔力不足が原因でシグナムさん達守護騎士が蒐集に動かないようにする時間稼ぎの為に用意した物、確かに在れば都合がいいけど、局員の地力を底上げするような使い方はコストパフォーマンス的にも厳しいとしか言えない。

「そうか、簡易とはいえ流石にデバイス一つ分は局としても辛い……待つしかなさそうだな」 

「そのようですな。ただ少し前から気になってはいたが、そこの小次郎君の鈍らはどうなのかね―――確か、擬似魔術回路というリンカーコアの仕組みとは違う機構が採用されているとは聞いているのだが?」

「ほう。それは初耳だな」

「擬似魔術回路?」

簡易デバイスに術式のみを入れる方式の選択が難しい以上、教導隊の試験が終るのを待つしかないのに納得した中将だけど、提督は小次郎さんに目を向けながら訊ね、中将も私も擬似魔術回路という話は初耳なので興味が湧く。

「残念ながら、小次郎さんの鈍らは不適合です」

「それはどうしてだい?」

「術式の検証に加え、前にアリシアちゃんに鈍らと同じ物、鈍ら二式とでも言いますか、それを作って貰った事があったんですが……」

疑念も持つ提督に言葉を濁しながらもマリーさんは続け、

「私達の知るリンカーコアは魔力素を取り込んで魔力にしていますが、魔術回路は生命力そのものを魔力に変換しているようです。
その特性を持たせた魔力刃もまた斬った対象の生命力を奪い、かつ逆変換能力とでもいいますか様々な属性のエネルギーをも魔力に変換吸収してしまう機能が加わっていますので、斬れば斬るほど魔力は高まりますが―――同時に、デバイスの所持者に対して心地よい感触を与えてしまうのが判明した為、犯罪を助長してしまう恐れから解体処分しています」

それって……もうデバイスじゃないよね。

「ふ、少々心を揺さぶられたからといって、どうこうしてしまうようではまだまだとしか言えん」

「若いな」とか呟いている小次郎さんだけど、

「凛さんは妖刀って言ってたよ」

作成者のアリシアちゃんは前に遠坂さんにそんな風に言われたのを思い出し、

「そんな物を持たせたら局員そのものが犯罪者になってしまうか、本末転倒だな」

「………まるで古代ベルカ時代の異質技術のようだ」

中将も提督も、妖刀じみた擬似魔術回路を搭載させたタイプは無理があるのが解った様子。

「やはり、公開意見陳情会まで待つしかないか」

「それも、順調に試験が進めばの話しですが……」

既に地上の犯罪件数は年々多くなって来ているらしく、長年待ち望んでいたシステムに中将も気が急いてしまっていたようだ。
けど、この新技術は治安に関わる局員の負担を減らせる筈だから、当然、それは治安の向上につながる、私達の世界で戦闘機人にすら手を出してしまった経緯を考えれば中将の焦りも解らなくもない。
ただ、グレアム提督は運用試験での洗い出しは平均故障時間の向上や、安全基準を満たしているなどの信頼性を向上させる狙いがあるけど、もっと根本的な問題として現場と開発側で運用に関する思想の差異すら稀にある事から、実際に運用してみなければ明らかにならない不具合なども存在するので不安を隠せないでいる様子。

「状況は以上のようです、どうでしたか中将?」

「しばらくは術式で我慢するしかないのは判った、それに、これ以上の邪魔をする訳にもいかん―――ここらで失礼するよ」

大まかだけど、今の状況を把握して頷きを入れる中将は提督から視線を変え私達を見回した。

「えと、擬似リンカーコアシステムの詳細とかはいいんですか?」

どういった理由で魔力が精製されるのか、システムの概要を話してないマリーさんは意外な感じで問いかけるけど、

「不要だ。こちらは技術官ではないからな、説明を受けたとしても理解できるとは思えん。
それに、必要なのは過程ではなく結果だ、結果を出せるのであればこちらは幾らでも協力を惜しまん」

そう中将は返す。
結果を出せるのなら何でもする……その考えが正しのか間違っているのかの判断は難しいけど、私達の世界の中将はその考からスカリエッティに協力してしまったみたいだね………
そう思っていれば、

「一つ、聞いていいかね高町一尉」

「はい。なんでしょう」

突然、私を名指してきて、

「擬似リンカーコアシステム、使った感触はどうだった?」

「今回の試験はスペックの確認みたいなもので、試験の際に自身のリンカーコアは使わずにいましたが問題なく動作していました」

「そうか」

中将は目蓋を閉じ、

「手間をとらせたようだ、作業に戻ってくれ」

考えるように一呼吸してから開けた中将は、入ってきた時と同じようにして戻り、本局内を案内していた提督も一緒に出て行った。

「これは思っていたよりも期待されているようだ……」

「それは仕方ないかな。カートリッジこそ使えなくても今のデバイスの世代を超える技術なんだから」

擬似魔術回路という機能を搭載した鈍らを持っているからか、小次郎さんはデバイスに魔力を供給させる部品が時空管理局に与える影響がが解ってなかったみたいなのでかいつまみ、

「そういった理由もあって、今回は特別に本局でも同時に複数の所で運用試験を行なっているんだもの」

マリーさんも管理局がアリシアちゃんに向ける期待の程を告げる。

「じゃあ、皆がもっと楽になれるよう新型ガジェットも早く終らせなきゃ」

中将や提督の来訪で気合が入ったのか、アリシアちゃんは自律行動でき、非殺傷魔法をも使えるガジェットをこっちの技術で開発できるよう再設計に戻るのだけど、

「ええと。ガジェットは兎も角、元になる擬似リンカーコアシステムの試験が終ってないから設計だけが先行してても……」

実際のところ、レリック事件でガジェットとは何度も交えて来たから解るけど、Ⅰ型なんかは多目的に作られていたから特に器用な面もあって、もしそういった機能を持たせたままなら様々な状況にも対応できるだろうから武装隊以外の局員から見ても助かると思う。
でも、私は車に例えればまだ肝心なエンジンの部分の試験を始めたばかりなのに車体そのものを設計しはじめているようにも見えるので、ちょっと気が早いかなとか思わなくもないかな。

「でしたら、私達技術官はアリシアちゃんが安心して仕事ができるう、なのはさんのデータや、他のところから送られてくる試験データを集計して実用可能にしなければなりませんね」

マリーさんも気合が入ったようで、私達は試験で得た情報の検証を行ない、ポチがお茶を出してくれるなか話していれば擬似リンカーコアシステムのいわば原典ともいえる擬似魔術回路の段階で、小次郎さんの要望からアリシアちゃんは幾度も細かい改修をしていたのが判明して、だからこそ、ここまでのレベルにまで研鑽されたのが解った。
そんな小次郎さんも、今回の新型ガジェットに関しては門外漢なので関わりがないけど、部品の変更を行なうだけの再設計だったからかアリシアちゃんはお昼前に終え開発部にデータを送信する。
それからは、他のところからも送られてくるデータの検証に追われるマリーさんは兎も角、私も今日のところはもう運用試験を行なう予定はなくアリシアちゃんや小次郎さんとお昼をとる。
その後は、小次郎さんが見守るなかアリシアちゃんを横に、ヴィヴィオみたいに小さな手を繋いで歩いて無限書庫で手がかりを探しているはやてちゃん達の手伝いに一緒に向う。
途中、丸くてくるくる回っていたぽちが見当たらないのでアリシアちゃんに聞いてみれば散歩に行ったとかいう返事を聞かされたけど……機密が一杯の時空管理局本局なのに散歩なんかに行かせていいのかな?
その辺りはこっちのクロノ君に聞けばいいかなと保留にしたまま無限書庫の正面扉を抜ければ、受付けで母さんのプレシアさんと一緒のフェイトちゃん、アルフの三人の他に小さなクロノ君とユーノ君に出会い、聞けばプレシアさん達はユーノ君を手伝うつもりで来てるのだという。
これは推測だけど、私達の世界のフェイトちゃんが気がかりなのにプレシアさんやこっちのフェイトちゃん達は民間人だから何かしらの理由がないと接触が難しいって判断したのかもしれない。
でも、連絡を入れてもらった受付の話しでは古代ベルカ区画に向かったはやてちゃん達と連絡がつかないという。
あの区画は思念体が現れるという場所だけど、向かった面々からして何かあったとしても十分対応できると思うも急いで転移装置を使って移動する。
無重力空間に出た私達のうちアサシンさんだけは慣れない様で動きが鈍いけど、アリシアちゃんが背中に抱きつくような感じで掴んで動きを補助すれば、それ以後は問題無くはやてちゃん達が居る区画にたどり着けた。
私達の世界ですらまだ未整理状態の古代ベル区画、そこははやてちゃん達が居るにも関わらず重厚な扉が閉まったままの状態。

「入れ違いになったのかな?」

「それなら、僕達に連絡を入れるなり受付に言付けを頼むなりする筈だ」

開かれてない扉を目にしてユーノ君は一旦作業を止めたのかと思ったみたいだけど、クロノ君はその可能性を否定する。

「そうなると何か遭ったって事になるねぇ……」

「ええ」

「でも、幾ら無限書庫って呼ばれる所でも時空管理局の施設だよ、時間を忘れているだけなんじゃないかな?」

私達の世界とは違って、まだ大きい姿のアルフは不安な様子を見せ、プレシアさんも相槌を打つけど、幼いフェイトちゃんは考え過ぎだよっていいだけだ。

「実は、ここの区画は人を襲う思念体が出るからまだ未整理のままなんだ」

「そうなんだ」

「管理局の施設なのに……」

「しかし、それを踏まえても大丈夫な人選をしたつもりなんだが……」

私の言葉にアリシアちゃんはキョトンとした表情でいて、ユーノ君はどこか呆れ顔をしている、クロノ君も大丈夫だと言いたいのだろうけどどこか歯切れが悪い。

「そうだね。私達の世界のフェイトちゃんも居るし、シグナムやヴィータだってそうそう負けたりしないから大丈夫だよ」

「左様。如何に慣れぬ環境とはいえ、あの騎士王が……ましてやアーチャーまでも居るのだ、そうそう遅れを取るとは―――っ!?」

私に続いてアサシンさんが言葉を紡いでいれば何かを感じ取ったのか顔を向け、そこに突然魔方陣が描かれたかと思えば光と共に七つの人影が現れた。

「皆いるか!?」

「どこに転移したんや―――って」

「……なのは?」

「アリシアちゃんにアサシンさんって事は……」

転移魔法のゲートから現れた士郎君やはやてちゃんが周囲を見渡し、ファイトちゃんにスバルが私達に気がつき口にする。
無重力での動きに慣れないスバルは解るけど、何ではやてちゃんにスバル、衛宮君、遠坂さんが手を繋いでいるのかが気になるかな?
朝の練習の感じからしてそれほど問題になるようには思えなかったけど、思いの外、飛行魔法が上手くなかったのかもしれない、でも―――

「ていよく追い出されたって訳かよ……」

「してやられたな……」

転移先についての座標指定が甘かったのかとも過ぎるけど、グラーフアイゼンとレヴァンティンを下ろす、ヴィータとシグナムの二人の様子からして、どうやら書庫の中で何かあったみたいだね。
リィンは、はやてちゃんとユニゾンしているから判らないけど転移して来た六人の反応はまちまちだ。
ただ、そのなかで一人、遠坂さんだけは辺りを見回したまま、

「……ねぇ、セイバーは?」

そう呟いた。
その声を耳にした皆も「あれ」とか「本当だ」とか「いないぞ」とか口々にしながら慌てて見回すもののセイバーさんの姿は見受けられない。

「そっか、もしかしたらって過ぎったけど……やっぱりね」

「やっぱりって?」

「対魔力よ………」

しまったとばかりに片手で顔を押さえる遠坂さんに、士郎君は聞き返すけど返って来たのは魔力攻撃などに対する耐性についての言葉。

「あの魔法耐性は転移魔法にまで及ぶ、か」

「衝撃を緩衝するようなタイプの魔法じゃないんだ」

遠坂さんから告げられた対魔力という言葉に、シグナムやフェイトちゃんは衝撃や各属性への耐性が高い防御魔法などではなくアーサー王と呼ばれたアルトリアさんのレアスキルだと理解する。
私もフィールド系の防御魔法みたいに周囲に展開している防御膜みたいなものを想像していたけど、それは間違いで魔力で生じた効果そのものを低減させるタイプのよう。
それは、つまり影響を与えられるとしたら対象本人にではなく、周囲に影響を与えるタイプのものじゃなければ効果がないって事だけど、今回はそれが原因で逸れてしまったみたい……

「て、あかんわ!!」

「それって、つまりセイバーはまだあの中に居るって事だろ!?」

はやてちゃんと士郎君の声につられるようにして、一連の状況が解らない私達も重厚な扉へと視線が向かう。
状況から察するに、あの扉の向こうに入ったはやてちゃん達は思念体の襲撃にあって今まで交戦してたようけど、業を煮やした相手によって転移魔法で追い出されたのだと思う。
でも、それなら相手からしても一人だけ残ってしまうという予想外の結果にアルトリアさんの身が案じられた。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

リリカル編 第25話


時空管理局の重要な情報施設である無限書庫、収められている書物や文献等の年代からして闇の書に関する記載がされた資料が見つかる可能性が高い事から、私らはその書庫で本格的な調査を始める前の先行調査を行うようにしたんや。
元々、その書庫には攻撃性の高い思念体の群れが現れるというので危険性が高く指定されてはいたんやが、捕獲した思念体からここで思念体等を操るっとる主がいるという話しやったから調査の前に話しをして、一般開放されてない区画やさかい出て行ってもらうか、最低でも調査の妨害はしないようするつもりやった……
せやけど、書庫に住み着いていとった相手は見つからずにいて、それどころか本そのものに危険性がある書物を機雷のようにして扱い私らの行動を阻害してから転移魔法でもって外に放りだされてしまったん……
私らも何かあった場合は転移魔法で出ればいいと考えておったんやが、私らが使えるなら他も条件は同様や、でもアーサー王であるアルトリアさんのレアスキルは魔力を用いた攻撃的な方法を低減するのでは無く、魔法の術式そのものを阻害するタイプのものだったらしく相手が行った転移魔法に跳ばされず今も一人で書庫の奥に居るんやと思う。
アルトリアさんが孤立している以上、忙がないかんが情報の共有は必要や、せやからかいつまんで状況を話せば、

「成る程、話しを聞く限り戦力は此方よりも低いと見受けられるが執務官殿はどう判断する?」

「多分、そうだろう。でなければ、こんな遠まわしな事はしないはずだ」

先ずは彼我の戦力を分析する小次郎さんはクロノ君に話しを振り、小さいながらも私より経験があるかもしれないクロノ君は戦力が勝っているのなら直接戦って倒せばいいのだから、相手が搦め手を用いざる得ないのであれば戦力的に此方が上だろうと判断する。

「遭遇した思念体は非殺傷でも倒せた程だからな……」

「それなら、ここの思念体って魔力ダメージが弱点なんだね」

書庫の中で相見えた思念体やが本当は消したくなかったらしい衛宮君は、ずっと非殺傷のまま使い続けてたんやけど非殺傷設定は魔力ダメージが主で物理的な影響が少ないにも関わらず、あたっただけで消えてしまった話しをすれれば、アリシアちゃんは非殺傷での魔力ダメージこそが思念体にとっては効果が高いのだと指摘して、

「いわれてみれば、普通の矢には平然としてたのに非殺傷の矢が中ったら一撃で消えてたっけか」

「物理的な影響が少ない魔力ダメージが弱点、そんなのもいるんだ……」

どうやら物理ダメージそのものである普通の矢も放っとたようやけど効果がない様子やったそうで、それを聞いたユーノ君は遺跡関連には詳しいようやが非殺傷が効果的な思念体ってのは初めて耳にした様子や。
まあ、遺跡を守護しとるような思念体などは明らかに敵意を剥き出しに来るさかい非殺傷なんて使わないからやろうなぁ。
等々、情報の共有を行いながらも私はリィンに扉を開けるよう指示を飛ばしとったんやが、

『だめです!何回コードを送っても開かないです!!』

ユニゾンしている為に外には聞こえへんのやけどリィンは慌てた声を上げとる。
最初にコードを送った時こそ、身震いすような感じはあったんやがそれだけ、仕方ないので続けて開閉コードを送ってはいるんやが扉は開は閉ざされたままや。

「……どうしたんだ?」

「多分、私らを奥に行かせとる最中に書庫の主が思念体らに命じて扉が開かないようしたんやろ、な」

一向に開く様子を見せない扉に訝しみ訊ねる衛宮君に私は返し、

「俗に言う篭城ね」

「だからこその転送魔法だったんだ」

「途中から襲撃が少なくなったのはそのせいか」

遠坂さんとスバル、フェイトちゃんは飽くまでも書庫に立て篭もり続ける相手の意図を読むんかけど、それって短く纏めれば私らを奥に進ませとる間に扉への工作が終ったさかい放り出したって事だけやからなぁ……

「あの様子だと内側に何かされてる感じだね」

「そうね。金属か何かで溶接したか、それとも或いは何らかの方法でかんぬきでも取りつけているのかもしれないわ」

「それじゃあ開かないよ」

こっちのアルフとフェイトちゃんのお母さん、プレシアさんの話しに小さなフェイトちゃんが困った様子でいた。

「そうだろうと何だろうと、開かないってのならぶっ壊して進むだけだ」

「ああ。この様な所で時間を稼がせる訳にはいかないからな」

開かないなら壊して進めばいいというヴィータにシグナムは互いにグラーフアイゼンとレヴァンティンを構え、

「判った、司書官の方には僕から伝えとこう」

「勿体ないけど人命が掛かっているなら仕方がないね」

ある意味、これはもうアルトリアさんを人質にした立て篭もり事件ともいえる状況である為、クロノ君に続いて未来の司書長であるユーノ君も追認する。
せやけど―――

「待ってくれ、壊していいなら俺がやる」

衛宮君はデバイスを構える二人に代わって自分が行うと宣言した。

「でも、ああ見えてあの扉は厚いですよ」

そんな衛宮君にスバルは書庫を護る扉の厚さからして、生半可な破壊力では壊せないのを告げるんやけど、

「そうは言っても、俺はシグナムやヴィータよりも無重力での動きに慣れてないんだ、だったら慣れている二人が魔力を消耗するよりも俺が扉に穴を空ければ二人はセイバーの救出に集中できるだろ」

「そりゃあ、私なんかに比べたらヴィータ副体長やシグナム副隊長が行ってくれた方が速いですけど……」

「いや、そもそも出来るのか?」

「壊していいなら、な」

やや懐疑的なスバルとヴィータやが、衛宮君は扉を壊していいなら大丈夫だと返した。

「そうね。どの道、早くした方がいいわ」

「なに。慣れぬ環境とはいえあの騎士王だ、早々に遅れは取るまいよ」

「まあ、セイバーはね……」

遠坂さんはアルトリアさんを心配しているのか片手で口元を押さえ、そんな遠坂さんに小次郎さんは心配無用とばかりに声をかけるんやけど何やら意味深な言葉を返してアリシアちゃんに視線を向ける。

「ところでアリシア、ジュエルシードは持って来てる?」

「うん、あるよ」

「一つ貸してもらっていい」

「いいよ」

どこからともなく現れる青い宝石を遠坂さんに渡すアリシアちゃん、相変わらず器用に魔法を使えるもんや。

「それでどうするん?」

ジュエルシードが魔力を蓄えるロストロギアなのは承知しとるんやけど、昨日の情報交換の際に聞いた話ではアリシアちゃんのは半永久的に魔力供給が可能な魔力炉になっているそうや、そして遠坂さんのその魔力を使って扉を壊そうとする狙いなんやろうがどんな魔法を使うのか聞いてみた。
せやけど―――

「書庫の中にはセイバーの他にアーチャーも居るから、セイバーが変な本と戦っているのが伝えられて来るんだけど、いざという時には援護できようアーチャーに送る魔力の補充が必要なのよ」

魔力を使う先は扉への破壊目的ではなく、本名を聞きそびれてしまったアーチャーっていう英霊への魔力供給が狙いと返される。
そういえば、私達といる時でさえ魔力を節約する為か常に霊体化という云わば幽霊な状態だったものだから影が薄というかすっかり忘れてもたわ……
でも、そんなアーチャーって人も英雄として祭られていた人の一人なんやから戦い慣れている筈や、それに幽霊が重力の影響を受けるのかは判断し難いところやけど霊体って事は壁を抜けたりなど、いわゆる物理法則の影響を受け難い性質を持っているかもしれないのだ、なら無重力下での戦いも手慣れているかもしれず書庫の奥で取り残されてしもうたアルトリアさんの救出にかかるだろう時間を稼いでくれるかもしれない。

「なかで何が起きてるのか判るのか!?」

「状況はどうなってるんだ!?」

すっかり忘れていた人材やったけど、これでアルトリアさんが一人で戦い続けているのではないのを知れた私は少し肩の荷が降りたような感じはしたものの、アーチャーって人からの連絡は念話とは違うようやから状況が判らないクロノ君と衛宮君は聞き返す。

「セイバーは無事よ」

遠坂さんは「ただ―――そうね」と続け、

「ここって無重力だから、セイバーもいつもみたいに機敏に動けないのに責任か何か感じてたんだと思う」

「そうか?」

アルトリアさんの精神状態について口にするものの衛宮君は疑問系だ。

「ほら、前にホテルで泳いだ時だって負けず嫌いなところがあったじゃない」

「言われてみれば確かにその様な面もある、か」

衛宮君の反応に手応えを感じなかった遠坂さんは、加えて例を出せば小次郎さんはどこか納得している様子でもある。

「そいった感情が積み重なっているところに急に一人になったものだから張り切り出したていうか、本みたいな相手が周囲の本とかに気を配りながら戦っているのにセイバーは考慮しないで戦ってるから本棚が壊れたり本や文献が吹き飛んだり跳ね飛ばされたりとか周囲の被害がだんだん無視できなくなって来ているって状況ね」

「て、事は?」

何だか想像していたのと違う状況になってそうなので聞き返す私に、

「私達をここに送り返した相手が魔力弾みたいのやバインドで牽制して封じ込めをしようとしているんだけど、セイバーの対魔力の方が強いから牽制しながら逃げ回ってるって感じ。
もっと早い話が、早くセイバーを止めないと幾つかの本や文献が傷むか場合によっては読めなくなるって事よ」

「そりゃ不味いわなぁ」

遠坂さんの話しを要約すれば、孤立したアルトリアさんが加減を忘れて暴れだしたって話しなん、そりゃあ書庫に立て篭もっている相手も、まさか一人になった途端リミッターが外れたようになるようなのが居るなんて思うとらやろからなぁ、しかも直接効果があるような魔法が通用しないのなら尚更や……

「そうか。セイバーが無事で安心したけど、どの道、急がなきゃいけないんだな」

「そうだね」

いつの間にか弓を手にしていた衛宮君やが、フェイトちゃんもやる事は変わらないと何時でも動ける準備を済ませている。

「せやな。思念体が現れても私らが相手をするさかい、フェイトちゃんは先行してや」

私がフェイトちゃんに指示を出したまではいいとして、

「了解」

「え!?あ、はい」

「……すまんなぁ、私らの世界のフェイトちゃんに言ったんや。でも、奥はまだ何が出るか判らないさかい、こっちの世界のフェイトちゃんは扉から思念体が出て来ないか見ててくれるか?」

「わかりました」

頷くフェイトちゃんに加え、まだ小さなフェイトちゃんまでもが自分に言われたものと受け取ってしまったのを訂正したのはいいんやが、私もここがおおよそ十年の時差があるとはいえ同一人物がいる並行世界なのを忘れとったからつい何時も通りに言うてもたわ……
とはいえ、この頃からフェイトちゃんの実力は一線級だったから実力的には問題はないんやろうけど、大人が居るのに子供を行かせる訳にもいかん。

「……まあ、並行世界に来るなんて本来あり得ない事だから慣れるのが難しいかもしれないわね」

「そうだね。大人になったフェイトが居るのはいいとしても、同姓同名の同一人物が二人もいれば紛らわしいのは確かか……」

フェイトちゃんのお母さんは理解ある人で助かる、それにアルフも思うところはある様子やけど、もう少しすれば私も昔の自分に会うんやからこら考えなあかん事やわ。

「こちらは既に武装隊を呼んでいる、僕も含め到着次第入り口から順に制圧して行くつもりだ」

見た目は小さいんやけど、流石はクロノ君やな、もう武装隊を呼んでいたって事は書庫内での異常が確認された段階で召集していたんやろう。

「なら、なのはちゃんとスバルはクロノ君に従っといてや」

「はい!」

「了解です、八神部隊長も御気をつけて」

私の指示に返事と共に敬礼を返すスバルになのはちゃん、相変わらずいい返事やけど、

「せやな……一度、放りだされとるさかい二度目をされる訳にはいかへん」

他意は無いんやろうがなのはちゃんの一言は既に一杯食わされとるさかい結構くるものがある。
まあ、なのはちゃんにしても時々無茶する性格やから、

「ただ、なのはちゃんはまだリンカーコアを傷めとるさかいゆりかごの時みたいに無理したらあかんよ?」

「もちろん、そのつもりです。今回は、何よりクロノ君や小さなフェイトちゃんの他にも武装隊の人達とか大勢いますから大丈夫です」

この書庫に居座る相手との接触は必要やけど、今は孤立してしまったアルトリアさんの救助が最優先される場面や、せやから特になのはちゃんが無理をする必要がないさかい念の為になのはちゃんには釘を刺しとくんやが、なのはちゃんもそれは十分理解しているだろうから無茶はせんへんやろう。

「私はアーチャーに魔力の供給と指示をだすからここにいるわ」

「俺もだ。扉に穴を空けたら、しばらくの間は魔力がほとんど無くなるから足を引っ張るだけだしな」

遠坂さんと衛宮君は、それぞれの理由からここで待機すると告げ、

「我が骨子は捻じれ狂う」

ふと、呟いた衛宮君の手には先ほどの弓と同じく気がつかないうちに螺旋状に捻れた剣を手にしとって、それを弓に番えた。

「じゃあ、扉を壊すぞ」

「ああ、任せた」

「くれぐれも書庫のなかは壊すなよ」

「わかってるさ」

その螺旋状の剣から発せられる魔力は衛宮君本人よりも高い事から、シグナムは扉を壊すのに十分と考えたものの、ヴィータは注意を呼びかけ矢の代わりに剣を弓に番えとる衛宮君は扉を見据えつつも返して、

「『偽・螺旋剣』(カラドボルク)――――――投影解除」

螺旋状の剣を矢と化して放つ。
せやけど、あの剣はただの剣ではなかったようで分厚い扉を苦もなく貫いたばかりか、明らかに剣身が触れてない部分もまた抉るようにして削っていて人が一人通れるくらいの穴がそこに出来上がっていた。

「空いたのはいいとしても、なかって本当に大丈夫なのかな?」

「ああ。扉を貫いた辺りで消したから、衝撃で付近の本が散乱しているかもしれないけど他に害はない筈だ」

「……実体のある剣を消すか、剣製とかいう魔術は奥深いんだな。(そういう事は、前に感じた通り魔力で物理的な効果をもたらす程まで編み上げるという工程を踏んでの使用となるから非効率に思えるが、それは僕らの世界での話しで向こう側の世界ではそれ程効率が悪い訳ではないのかもしれない。
そう考えてしまえば、ある程度の魔力は必要だろうが、その場に適した装備をその時々に変えて整えられるというメリットを得られるから馬鹿に出来ない技術に変わる、か)」

重厚な扉を容易に貫通した剣の威力に加え、弓とは思えん程に初速が速かった事からユーノ君は心配してしまったようや、けど衛宮君はよう判らんけど扉を貫いた後は矢として放った剣を消したからそれ以上の影響はない筈と口にしていて、クロノ君はそれで納得したのかなる程といった顔で見ていた。
ただ、衛宮君の魔法かレアスキルなのかは定かではないんやが、見慣れない魔法の効果に一瞬とはいえ意識を持っていかれたのが原因やが、

「セイバーさんを迎えに行ってくるね」

衛宮君や遠坂さん、プレシアさん達と一緒に武装隊が到着するまで待っているものだと思とったアリシアちゃんが小次郎さんごと扉に空いた穴から中に入って行ってしもうたんや。

「駄目だよ勝手に行ったら!」

そんでもって、アリシアちゃんを止めようと小さなフェイトちゃんも穴に入って行ってしまい、

「ちょっとアリシア、フェイト!!」

「てっ!?プレシアまで、だったら私も行くよ!!!」

続いてプレシアさんにアルフまでもが入って行ってしまった。

「私も止めてくる!」

「頼んだで」

私らのなかで一番の速さを持つフェイトちゃんを先に突入させてから、

「待って衛宮君。貴方、魔力だってそう残ってないんでしょう、だったらここでまってなさいよ」

「でもな、遠坂。俺はアリシアの兄貴なんだから止めないと駄目だろ!」

小さなフェイトちゃんと同じく慌てて動こうとした衛宮君やったが、遠坂さんが引き止めてくれていたので間に合ったようや、

「悪いんやけど、衛宮君と遠坂さんはここで待っててや」

「ええ。私はここでアーチャーに魔力を送ってるから、衛宮君は魔力が尽きかけてるんでしょ?」

「………っ、言われてみればそうだった。魔力がない今の俺だったら皆の邪魔になるだけか―――わかった、アリシアを頼む」

本心では行きたい衛宮君は唇を噛み締めるが理性で飲み込んでくれ、これ以上、書庫内に突入しないよう遠坂さんと衛宮君に釘を刺してから私やシグナム、ヴィータが続いて突入する。
せやけど、そこで目にしたのは十数体もの思念体が首と胴が分れ消えつつある姿、唯一残っとるのは氷柱に閉じ込めたままの思念体ただ一人やった。

『小ちゃい方のフェイトちゃん、アリシアちゃんと小次郎さんは如何なっとん?』

小さいとはいえ、この頃からフェイトちゃんは速かったから追いついているものだと思うとったんで念話を使こうたやが、

『うん、戻るように言ってもセイバーさんを迎えに行くだけだよって言って聞かないし。
小次郎さんも、一人だと上手く飛べないんだけど、アリシアが背中にくっついてるから遅くもないし動きにも無駄がないっていうか、思念体が居ても小次郎さんが倒してしまってるから追いつけないんだ』

思念体と交戦しながらフェイトちゃんが追いつけない速さで飛んどるんか!?

『せやけど、背中に張り付いているだけでそこまで息を合わせるのには相当訓練を積まないと難しい筈や』

『それに、アリシアみたいな子供が大人を引っ張り続けるのにも無理があるんじゃないかな?』

先行しとる小さなフェイトちゃんからの交信に、私やフェイトちゃんがそれぞれ疑問に思うた点を述べるんやけど、

『多分、バリアジャケットそのものを融合させてるのよ』

プレシアさんから以外な答えが返って来た。
フェイトちゃんのお母さんであるプレシアさんの予想にある程度までは納得したものの、

『融合なぁ……それなら特に力が要らん訳のが判るんやが、アリシアちゃんと小次郎さんの息があっているのは何か理由があるんか?』

『向こうの世界の私がどんな研究の果てに得たかは想像もつかないけど、私の予想ではバリアジャケットを結合させつつ接触回線の要領で意識を読むような魔法で相手が望む動きを実現させてる可能性が高いわ』

『相手の意識を読んで動くって、ほとんどユニゾンと変わらないじゃんか!?』

幾ら擬似リンカーコアの開発とか不可能領域級の魔法が使えるアリシアちゃんの頭が良いからといっても所詮は他人や、互いに息の合った機動ができる様になるまでには十分な訓練を重ねなければできる筈もないんやからこそ聞き返したんやが、プレシアさんからからは此方の想像を超えた話しが返ってきてヴィータも驚きの声を上げる。

『アリシアが運び、佐々木小次郎が行く手に立ち塞がる相手を斬って進む、か。
テスタロッサもあの頃から十分高い実力を持っていましたし、先ほどの思念体の様子からして数秒もしない間に倒した技量を考慮すれば実力的には十分かと思いますが?』

プレシアさんの予想から、アリシアちゃんと小次郎さんは十分空戦に適応できているから大丈夫じゃないかと言うシグナムやが、

『手際だけを考えればそうやけどな、でも小さい子を危ない所に行かしたらあかんよ』

『それはそうですが……』

それに相手が透明感のある思念体とはいえ、首と胴が離れる光景なんかを子供が見ていいもんやない。

『小次郎さんもアリシアちゃんに止まるよう言ってや』

『そうは言っても、何だかんだで一つの屋根に暮らしていたのだ心配するのも無理はなかろう。
それに、こちらは風に運ばれる雲の如き身よ―――無論、身に降りかかる火の粉は斬り払うだけだが、な』

『それはそうやけど、アリシアちゃんはまだ子供なんやで!』

『それ故に神父殿からアリシアを護るよう依頼されてもいる、あの娘の向かう先に害を成す者が居るのであれば斬り捨てるまでのこと』

………あかん、あの人一見まともに見えるんやけど考え方が斬り捨て御免や、しゃあない、ミイラ取りをミイラにする訳にもいかんしな。

『わこうた、ならアリシアちゃんも小次郎さんも皆で援護しながら行くから合流するまで待っててや』

『ん~、どうしたらいいかな?』

『なに。あの騎士王が遅れを取るとは思えん、そう急ぐ必要もあるまい。
加えれば、あの場には霊体化しているとはいえアーチャーが目を光らせているのだ尚更よ』

『そう、なら一緒にセイバーさんを迎えに行こう』

虚を突いた転送魔法によって孤立してしまったアルトリアさんの救出に向かう私らやったが、私は二次遭難にも似た危険を警戒して妥協案を示せばアリシアちゃんも小次郎さんも私達の到着を待っていてくれた。
そして、私達よりも先行していた二人のフェイトちゃんにプレシアさん、アルフといった面々と共にアルトリアさんの救出に向かうんやが、アリシアちゃん達に合流したまではいいとして、このコンビとんでもないわ。
小次郎さんが持つデバイスから繰り出される斬撃なんやが、遠く離れた所から振るったと思えばあたる瞬間に十メートル近くも伸びるもんやから相手は反応する暇すら与えられずに首がポンポン飛びよる。
流石、名高い剣士と云われているだけあって小次郎さん自身の技量が高いのは解るんやけど、無重力という環境下では飛行魔術に適正がないと辛いもの。
生前は空を飛ぶなどといった経験が無い小次郎さんも例に漏れず、なのはちゃん達が見た限りではあまり上手とはいえないって話しやったんやが、それなのにこれ程までに自在に動けるのはアリシアちゃんが思考を読み取って動いとるからなんやろう。
そう思うと、不可能領域級の魔法が使えるとはいえ魔力資質が低いあの娘は私達が想像していた以上に実力を持っていると考えた方がいいんやろうか?
せやけど、それらの技術は元々虚数空間に落ちていったフェイトちゃんのお母さんがもたらした筈や、あの娘を見ているともしかしたらフェイトちゃんのお母さんは本当にアルハザードに辿り着いたんとちゃうやろうかとさえ思えて来る。
仮に辿り着けなかったとしても、アリシアちゃんを生き返らせたばかりか、並行世界の移動、精密な次元跳躍魔法、今もこうしてバリアジャケットそのものを結合させる事で融合騎にも似た運用すら行えてしまっているんや、少なくても技術者という面ではジェイル・スカリエッティをも上回っているのは確かやろな。
そう思うてしまった私は、この世界のプレシアさんもあと十年もすれば似たような実力になるんやろうかなぁとか過ぎってしまい、前を進む小さなフェイトちゃんやアルフと一緒に来てしまったプレシアさんを眺めつつも先を急いだ。


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