遠坂からのパスによる繋がりから、アーチャーは俺に避難所はまだまだガジェットの脅威が去っていないのを伝え急かしながら先を急ぐ。
固有結界の使用にて俺の魔力は底をついてしまったようだが、こっちの世界は元の世界よりも回復が速いのか回復し始めてきたので、なけなしの魔力を工面しながら体の強化を続け走り続ける。
途中、遭遇するガジェットを双剣や弓で倒しながら走っていたら、俺には聞こえないから念話じゃなくパスの方なんだろう、アーチャーは眉を顰めながら一連の騒動を起こしたスカリエッティって奴が接触を行なってきたという話を聞き、驚くよりも皆が心配になり駆ける速さを更に上げた。
セイバーやアサシン、クロノが居るから大丈夫だろうけど、この騒動を引き起こした張本人だ、何を仕掛けて来るのか油断ができない。
でも、急いで戻ってみたまではよかったけど、空間モニターとかいうテレビには件のスカリエッティの姿は見られずにいて。
代わりに―――
「母さん、やりすぎなんじゃ……」
「わ、私じゃないわよ」
プレシアさんは、宙に浮いたテレビの画面越しに赤い糸で組まれたような檻をバリアブレイクとかいう技能の要領なんだろうけど壊して出てくる女性と話している。
大人形態のアリシアというか、フェイトを大きくしたような感じから、あの女の人がこの世界のフェイトなんだろう。
「戻りましたかシロウ」
「どうなってるんだセイバー?」
俺はやや難しそうな顔をするセイバーに戸惑うも、状況がよくないのは理解できた。
「まあ……ね、スカリエッティのせいで面倒くさい話になってきてるから」
「ええ、実は―――」
遠坂やセイバーの話を聞く限り、なんでもスカリエッティはこの世界のフェイトを捕らえ、研究材料にしようとしたらしいが唐突に現れた次元跳躍攻撃よって倒されたらしい。
光弾による豪雨のような制圧方法からして、多分、行なったのはアリシアのようだけど、会うのを楽しみにしていた相手が誘拐されそうにもなれば怒りもする、か。
「しかし、この世界にて我らは人造魔導師の集まりとなった訳よ」
「……まあ、誰だって年齢は違っていても同じ人が二人もいれば人造魔導師の線は疑うよね」
そう言いながら肩を竦めるアサシンに、ユーノは同意を示すものの、
「いや。この際、人造魔導師云々はどうでもいい。
問題はここまで知れ渡った以上、これからの動きは限られてくるだろうという話だ」
そんな二人の言葉をアーチャーはバッサリ斬り捨てた。
「その通りだ」
見上げれば、クロノは警戒用のサーチャーを幾つか残しつつ地上に降り立つ。
その姿に、ふとゆりかごや周囲から襲来するガジェットの姿がなくなっていたのに気づいた俺は、遠くで黒煙を撒き散らしながら浮ぶゆりかごの周囲に幾つもの光点が点滅しているのを確認する。
どうやら、俺が巻き込んでしまった魔導師部隊がゆりかごから出てくるガジェットを押さえてくれ、事態が好転したのも手伝ってか奮闘する地上部隊が巻き返しをしているのもあるんだろう。
『状況が状況だ。この騒動が治まり次第、地上本部か本局のどちらかに接触しなければならない』
『だったら。いっそうの事、この世界のフェイトちゃんや私が居る機動六課に行くのはどうかな?』
『うん。私もそれがいいと思う』
話が話だけに念話に切り替えるクロノに続き、やや上空にいたなのはやフェイトも降りて来て、
『なんかドサクサに紛れるような感じだけど仕方ないかな……』
『事件が切欠ってのがなんか癪だけど、どの道、接触するつもりだったしね……』
ユーノとアルフも後に続いた。
『問題は向こうの出方、か』
『その辺は心配ない。
向こうが管理局である以上、僕達を人造魔導師と思うのなら何らかの形で保護しようとする筈だ』
『なるほど、私達が人造魔導師かもしれないという理由から接触を図り、折を見て私達が違う世界―――次元世界という区切りではない、並行世界という別の世界から来た話をする訳ですね』
アサシンは接触を試みるのは良いとしても、機動六課が話しに乗るって来るかどうか気にかけているようだ。
でも、時空管理局を熟知するクロノが言うには向こうの方から話しに来るらしく、セイバーもまたそこを切り口にして交渉のテーブルに誘えば上手く事が運ぶかもしれないと予想していて。
『そうなったら事が魔法―――不可能領域の業に関する話だから、個別に動く地上よりも次元世界全体に関係する話になるでしょうし、本局寄りの六課に接触した理由にもなるでしょうけど………』
『けど、って何かあるのか?』
遠坂も機動六課を通し、時空管理局の中枢である本局に並行世界に干渉する技術が存在するのを伝える意味もあるから筋は通せるとは言うものの、なんとなく遠坂の歯切れが悪い様子から気になる点でもあるのかもしれないと思い訊ねのだが。
『個人的にはあんまり広めたくないってだけよ……』
『知られるとなにか不味いんですか?』
『不可能領域の魔法なんて知った処で使えるようになる訳じゃないんだから、気にし過ぎなんじゃないのかい?』
言葉を濁すように溜息をはく遠坂から訝しむなのはに続き、アルフも考え過ぎなんじゃないかって言うけれど、ユーノは―――
『もしかしたら、人体実験とかされるとかかな……スカリエッティの背後には、地上本部や最高評議会ってところが関わっていたみたいだし』
とかいい既に気にかけていた。
俺達の世界ほどじゃないと思いたいものの、この世界にだって違法研究とか呼ばれる非人道的な実験を行なっていた奴がいたんだから可能性として否定できないのかもしれない。
『いや。これだけの衆目にさらされたのだ、そのような事はしたくともできないだろうよ』
『凛は魔術使いに近い魔導師ではなく、魔術師だからな……恐らく感覚がついていかないのだけだろう』
ユーノの懸念になのはやフェイトが不安げに表情を曇らせるが、これだけというか……ほぼミッドチルダ全域で注目の的になってしまった俺達に危害を加えるのは得策とはいえないとアサシンは語り。
この世界やクロノ、なのは達の世界を合わせれば、かれこれ三ケ月近くいるとはいえ、まだ慣れない遠坂にアーチャーは溜息をついた。
『しかし、僕達の世界にだって質量兵器に対するアレルギーみたいな感覚がるんだ、彼女達の世界にも魔法に対して思うところがあるのだろう』
自分のサーヴァントにすら溜息をつかれ、立つ瀬のない遠坂だが、並行世界とはいえ、この世界と同じ時空管理局の魔導師であるクロノから擁護の声があがる。
それもそうだ、流石に執務官だけあってクロノは考えが柔軟だな、世界が違えば価値観も違うのは当たり前なんだし、魔術を手段の一つに過ぎないとする俺やアーチャーはある意味魔導師に近いから違和感は少ないのだろうけど、生粋の魔術師である遠坂はそうはいかないから違和感が多いい筈。
でも、それは遠坂がそれだけ魔術を大切にしていたって話でしかないんだから、なかなかこっちの世界に慣れないのを責めるのはお門違いだ。
「……まあ、いいわ。
それはそうと、そちらからガジェットの命令は変えられないの?」
俺達から視線を変えた遠坂は大人のフェイトが映る画面に目を向ける。
つれらて見れば、倒れている三人は余程アリシアに打ちのめされたのか、スカリエッティにトーレ、セッテとかいう二人の女性はピクリとも動かないでいて。
いや、動かないというか……気のせいかもしれないが二人の女性はやや地面にめり込んでいるような印象を受けなくもないな。
でも、画面の向こうでは大人のフェイトがホッと胸を撫で下ろしていたからきっと大丈夫なんだろう―――そうでなければ不味い事になるし。
「え?」
「管理局の方だってガジェットの残骸を色々調べてるから判ってると思うけど、自律行動が基本のガジェットだってある程度の命令は遠隔操作で出来た筈よ―――じゃなきゃ、スカリエッティだって運用に支障をきたした筈だし」
「ケガはない」とか「変な事はさなかった」とか色々心配しているプレシアさんに、「うん」とか「大丈夫だよ」とか戸惑いつつも画面越しに答えながら、倒れている三人の状態を確かめてバインドで拘束していた大人のフェイトは、遠坂から話しかけられた一瞬こそ驚いたものの。
「そうだね」
表情を引き締めなおすと空間に画面を呼びだし、
「シャーリー、ガジェットを止めたいの手伝ってくれる?」
通信に現れただろう相手に向かって呼びかけた。
「はい。話は聞いていましたから準備の方は整っています、データを送ってください」
「話を聞いてたって?」
向こうの画面は俺達からでは角度では斜めになってしまうため、シャーリーって人の姿はよく見えないけれど名前や声で女性なのは判る。
でも、そのシャーリーが返した言葉に大人のフェイトは思わずきょとんとしてしまった。
「スカリエッティのアジトに向ったフェイトさんが存じないのは無理ないのでしょうけど、そっちらの避難所ではフリージャーナリストの方がミッドチルダ全域に映像を流しているんです」
「全域に……」
「はい。ですから、そちらで起きた事柄でしたらおおよそ把握しています」
俺が知るフェイトは物静かだが努力家な女の子だ、そんな娘が大人というか、クロノと同じ執務官にまでなったとすれば実力は勿論、相当な分析力や洞察力を身につけているのは想像しやすい、けど……流石にこれは予想もしていなかったらしく驚き目を丸くしている。
それに戻るまでの道中、アーチャーを経由して聞いた限りでは、ミッドチルダ全域に流した理由はアリシアがセイバーの聖剣にミッドチルダの人達の願いや想いを力に変えて付与するためらしかったけど……この様子だと俺の予想以上に影響があったみたいだな。
………まあ、全長数キロにも及ぶ超巨大戦艦ゆりかごを斬り裂いたとなれば、その驚き様も解らなくもないか。
「僕からも提案があるが、いいか?」
「ええ」
機を逃さずとばかりに話を切り出したクロノは言葉を続け。
「そちらとしても僕達に問い質したい事はあるだろうが、今は互いに落ち着いて話せる状況ではない筈だ。
この騒動が落ち着き次第―――せめてガジェットのによる被害が収まってからにした方がいい、話す時間と場所はそちらに任すから、その時に僕達が来た理由を話そう」
そう話し、ここまで表沙汰になり、かつこの世界のフェイトにも見つかってしまったのと同時に今までのように隠れて動く理由もなくなったんだ、なら間を通さない直接の接触に変えるべきだとクロノは考えをあらためたようだ。
「解りました。シャーリー、はやてにも連絡してくれる」
「了解です」
「……なんていうか、似てるっていうより昔の兄さんにそっくりな感じかな」
画面の向こうでは、この世界のフェイトがボソッと零す声が聞こえたりする。
まあ、並行世界とはいえこのクロノも本物のクロノなんだが………気持ちは解らなくもないか、並行世界間移動という魔法の領域の業を考慮するより人造魔導師技術の可能性を考えるのが確率としては高いのだから。
なにせ、魔法―――こちらでいう処の不可能領域の業が不可能と呼ばれる訳は、それが今の技術を伸ばした先にあるようなタイプの技術とは一線を隔てた異質な技術、積み重ねによる技術発展では至れない領域を指すのだから、普通なら選択肢に加えるのさえ馬鹿馬鹿しい筈だ。
だからこそ、俺達の世界では根源に至りでもしなければ手がかりすら見つからないって考えになったのだろうな。
「では、我々はこの場にて避難所の安全確保及び騒動が治まるまで待機します―――異論はありませんね?」
クロノが提案した内容に修正や疑問がないかを確認するセイバーは俺達を見回し、なのはやフェイトは「は~い」、「うん」とそれぞれ答え。
「まあ、結果オーライってやつなのかね……」
「そうかもね……」
アルフとユーノの二人は、ガジェットとの戦いが一段落して気が緩んだせいか疲れが表に出てきているようだ。
それも仕方ない、なにせ地上部隊の局員達ですら魔力消耗を起こしかけている状態だし、地上本部の方が落ち着いたのなら出来るだけ早めに病院に行ってもらわないと危ないかもしれない、それ程の戦いだったのに二人共よく頑張ったと思う。
「異論はないが……問題はこれからか」
「そうね。例え人造魔導師の疑惑を晴らしたとしても、この世界の人達に並行世界に干渉する業が存在するのを知らしめるだけだし……」
「家族に会いに来ただけならば兎も角、知略謀略が含まれるとなれば大事か……」
アーチャーはクロノの案にこそ異議はないようだが、この世界の人達が俺達の事を人造魔導師と思い始めているのに懸念を示す。
そんなアーチャーに頷きを入れる遠坂に加え、アサシンもまた、単にこの世界のフェイトに会うだけなら個人の問題ですむが、並行世界に干渉する技術が在るのが公になれば組織としては無視するのは難しいかもしれず、もしかしたら何かしらの仕掛けをして来る可能性を視野に入れているようだ。
問題は山積みだなのを理解させられるも、とりあえずは時折迷い込むように姿を見せるガジェットを処理しつつ、プレシアさんやユーノに回復魔法をかけてもらいながら休みを入れる。
一息つきながら、念話を使い、避難所にいるアリシアにスカリエッティのアジトを襲った次元跳躍魔法について聞いてみたら、
『皆でフェイトさんを虐めるからメッってしたの』
などと告げられ、念話の様子から頬を膨らませるアリシアの姿が容易に想像できた。
画面越しとはいえ、ようやく目にした肉親が誘拐というか拉致されようとしてたら怒るのは当たり前、それがスカリエッティ達に対して豪雨のように光弾が降り注ぐ結果につながったって話か……まあ、こんな騒動を起こしたスカリエッティには自業自得としかいえない。
そんな感じに皆で雑談をしながらなんとか一息ついてたとき、ふと周囲を見渡せば目に入ってくるのは残骸と化したガジェットの山々ばかり―――これはこれで問題か。
残骸の撤去に関しても、倒したガジェットの残骸の数を考えれば気が遠くなりそうな作業だ、でも住民の生活を考えるならやらない訳にもいかない。
俺にもまだまだ手伝える事があるかもしれない、そう思いながら休んでいれば、どうやらガジェットの命令変更は上手く行ったのか、日が傾き始めた頃には避難所に向かって来る姿は無くなり。
代わりに地上部隊の方から増援というか交代の部隊がやって来て、今まで避難所を護ってくれていた部隊は付随してきた医務官と一緒にヘリで戻って行った。
その時、偶々耳にした話によれば、ここを守っていた部隊は交通課の人達らしく、いつもは違法駐輪とか駐車違反とかを取り締まる部隊だったそうでガジェットとの戦闘どころか荒事そのものに向いてない部隊だったとかいう話だ。
そんな部隊なのに避難所を守り通したのは局員としての意地なんだろうけど、こちらとしては頭が下がる思いで一杯になる。
また、俺達がいる避難所から遥か先では、日頃から犯罪捜査や逮捕を行なっていた部隊が防衛線を築いてガジェットを食い止めようとしたそうだが、ガジェットのAMFの影響と物量で死人こそ出なかったものの部隊としては壊滅してしまったらしい。
他にも、セイバーはゆりかごの始末を買ってでたそうだけど、ゆりかごなんていう巨大な戦艦を地上で沈めれば環境を含む様々な問題があるとかで、管理局側は宇宙まで曳航して処分するとかいう話で決まったそうだ。
などと交代に来た部隊の人達から話を聞きながらも同行を求められるかと思いきや、地上本部の方でもなにかあったのか、それとも六課の後ろ盾である本局から指示があったのか判らないが同行を求められる事はなかった。
その六課からは明日の昼頃に迎えに来るという話が伝えられ、この世界の人達にどう話すか話し合っていたのだけど、困った事にゆりかごを斬り裂いた件や、スカリエッティによって人造魔導師の疑いがかけられてしまった件で避難警報が解除された途端、俺達がいる避難所にいたる所からマスコミの人達が群がりはじめ、マイクやらカメラやら手にした人達が我先とばかりに目の色を変え何十人も押しかけて来る様は俺でも圧倒されそうになる。
霊体化して早々に姿を消すアーチャーや、何を聞かれても暖簾に腕押しという表現がよく似合うアサシンは兎も角として、まだまだ小さいなのはやフェイト、ユーノにアルフなんかは戸惑いを隠せないでいた。
そうは言っても事が並行世界の干渉という魔法、不可能魔法の領域の話だからマスコミとはいえ迂闊には話すわけにもいかない訳で―――
「それについては、明日、本局に関わりのある部署と話すので今の段階では話せない」
「現段階では話すことはなにも無い」
なんとかしてマスコミを宥めようとするクロノとセイバーは口々にそう言うものの、マスコミの方も子供の使いではないからなかなか納得しないでいるし。
マスコミ達の反応に昔の出来事を思い出したのか、それともいい加減頭にきたのかは定かではないが攻撃魔法を展開し始めたプレシアさんを遠坂が文字通り取り押さえているような状況になり始めたので洒落にならなくなり始めた頃。
俺達を見兼ね、避難所の人達が火炎放射器のような雑草刈り用のデバイスやら巨大な鋏みやら柳刃包丁のようなもので追い払ってくれたのはありがたかった。
そんな感じに、ガジェットの襲撃から始まった慌しい一日はなんとか終わり、次の日、避難所で朝を迎えた俺達は周辺の残骸の片付けを手伝いながらも午後から来る六課の人達について念話で話し合う。
まあ、結論から言えば、並行世界移動なんていう不可能領域の話なんかは言葉を並べたとしても信じてもらえそうにないので、一度、俺やアリシアの住む世界かクロノやはのは達が住む世界を見せてはどうかという話で纏まった訳だが。
やや早めの昼をとって、午後に来るだろう六課の人達を待っていると一機の大型ヘリが駐車場に降り、後ろの扉部分が上から下に倒れるようにしてできた斜路から陸士部隊の制服姿に髪を後ろで二つに結った女の子が現れた。
「少し待たせたちまったみたいだな」
「そのようだ」
まだ幼さの消えない女の子に続いて、ヘリから現れたポニーテールの女性は俺達を見回すと、
「私は機動六課、ライトニング分隊副隊長のシグナム、こちらはスターズ分隊副隊長のヴィータだ」
互いの名を告げながら斜路を降りて来る。
クロノと遠坂が地上本部から手に入れた資料から六課の大まかな構成は知っているとはいえ、シグナムって女性は兎も角、ヴィータって娘の方はなのはやフェイトと同じくらいに見えなくもない、まあクロノからして十四歳なんだから………もしかしたら結構な歳なのかもしれないが。
「僕はクロノ・ハラオウンという者だ、あんな事件が起きた後なのにすまない」
クロノはセイバーが「なるほど、機動六課の機動というのはこういう意味でしたか……」と呟くなかヘリから現れた二人に礼をする。
セイバーが言う機動の意味は、きっとヘリによる局員の高速輸送と展開、他にも空中からの支援なんかも想像してるんだろうな。
「私は高町なのは。私立聖祥付属小学校三年生です」
「フェイト・テスタロッサです」
クロノの後になのはとフェイトが名乗りを上げ、俺や他の皆も続いて名を告げる。
「……なるほど、記憶は引き継いでいるという訳か」
「みてーだな」
ただ、シグナムとヴィータの二人は俺達を人造魔導師だと思っているようで、
『予想はしていたが。同じ部隊に所属しているからだろうな、彼女達はこの世界の僕達を知っているみたいだ』
クロノからの念話にプレシアさんや遠坂、セイバーは『その様子ね』とか『みたいね』とか『ええ』とか頷きを入れ、
『そりゃまあ、そうだろうね……』
『普通は不可能領域の可能性なんか考えないから……』
アルフとユーノも、人造魔導師の線で考える二人に対して、並行世界などという別の可能性の世界からの訪問者の可能性なんか想像できようもないと答える。
そんな話に加わらない二人、
『もうすぐ、こっちのフェイトさんに会えるね』
『なに。急いては事を仕損じるという、もう少しの辛抱よ』
この世界のフェイトにようやく会える嬉しさで一杯のアリシアをアサシンは宥めていた。
「あの、こっちの世界の私ってどんな感じなんですか?」
「っ、どういう意味だ?」
ジッと見詰めながらする、なのはの質問にシグナムは目を細め。
「私にとっての魔法の意味がわかったんです。
悲しい願いや……つらい決断で、力を振るうひとがいます。
それが罪や、別の悲しみを呼ぶことがある。
話して、言葉で伝えあえたら、その方がいい。
わかってもらえたら、それが一番いい……
だけど、心が伝わらないとき……わかり合えないとき。
それでも伝え合って、わかりあうために!この力があるんだって!!」
「そうだね。本当に戦わなきゃならないのは、戦う相手じゃなく、相手の悲しみや心の闇―――戦いに駆り立てる理由そのものなんだから……」
なのははジュエルシード事件や、この世界でスカリエッティが起こした事件の末に至った考えを口にし、フェイトもなのはと同じく自分が目指す理由を得たようだった。
魔術を手段の一つとして割り切る俺やアーチャーとは違い、なのはが魔法について色々考えていたのは知っていたけど―――そうか、これがなのはの得た答えなんだな。
「そういう事か、私が知るなのはも魔法は大切なものを守れる力、思いを貫き通す力として日々の鍛練に力を入れている」
一瞬だが、シグナムという女性の眼光が強くなったような気がしたものの、目を伏せなおすと穏やかな感じでなのはとフェイトに視線をむけた。
「そうなんだ―――なら私も、これからもっともっと強くなります!」
「じゃあ、私も負けてられないね」
シグナムが語る、この世界のなのはの在りように満足いったのか、なのはは目を輝かせ、フェイトも負けずに口にする。
「私だってついてくよ」
「僕だって」
それを聞いたアルフとユーノもそれぞれ答え。
「うん、ありがとう。皆や魔法と会えて、レイジングハートに会えて良かった」
三人と手を取り合うなのはは笑顔を満面に浮べ感謝を述べる。
「……どうする、シグナム。
そっくりっていうか、昔のなのはに瓜二つだぞ」
「ああ、テスタロッサもだがな……」
その光景に機動六課から来た二人は戸惑いを隠せないようだった。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
リリカル編 第19話
ゆりかごに突入したなのはちゃんとヴィータの二人は、誘拐されたヴィヴィオの救出に加えスカリエッティ一味の捕縛を目的に動き。
途中、砲撃型の戦闘機人が放ってきた砲撃をなのはちゃんが撃ち返して捕縛したそうやけど、王座の間ではヴィヴィオがスカリエッティに何か施されたらしく大人の姿になっていて、なのはちゃんにしてもヴィヴィオだと判る前にシューターを放ったのが原因かもしれないんやけど戦いになってもうた。
ヴィヴィオの思考を操作しただろう戦闘機人は、ゆりかご艦首の船底付近で魔道師隊に発見されたものの、地上部隊に協力していたかつての王らしき人物が放った砲撃よって崩れた支柱やら鉄骨に埋もれ意識はなく、ヴィヴィオを元に戻すのは難しそうに見えた。
せやけど、無限書庫の調査によってヴィヴィオの力はゆりかごの駆動炉から供給されているのだと判明した事から私とヴィータで駆動炉へと向かい。
いたる所で爆発が起き、それに伴う火災や高熱、煙で満ちた通路には降りた隔壁が幾つもあったんやがそれらを破りながら突破する。
なんとか辿りついた駆動炉はヴィータの一撃でも壊れずにいて、攻撃を加えられた事から自動防衛機能が働いてしまったんやったけど、現れた防御スフィア群は私が放った広域魔法で沈黙させてから、ヴィータはグラーフアイゼンをドリル状の尖端から魔力を捻り込むようにして貫通力を高めた形態、シェアシュテールングスフォルムを叩きつけ破壊に成功した。
それによって、なのはちゃんと戦っていたヴィヴィオもゆりかごの影響から解放され、ヴィヴィオの体内に残ったレリックのみを壊して事件は終わりを告げたんやが―――
「問題は次世代型人造魔導師やな……」
座り心地の良い艦長椅子に座りながら端末を操作し、空間に浮かぶモニターを出すとフリージャーナリストが撮影した映像を再生する。
そこには空を光らせ人々の魔力を利用したり、その魔力を使いゆりかごを斬り裂いたり、わずかな手がかりから場所の特定を可能にし、次元跳躍魔法で無力化したり………起源とかいう未知の何かを操作して生み出されたというレアスキル持ちの魔導師達が映し出されていた。
私や魔道師隊を剣ばかり刺さっとる、ようわからん結界に巻き込んだ赤い二人も一緒やし、なのはちゃんやフェイトちゃん、アルフ、クロノくんにユーノくんを元にしたのもいるけど、一人一人がなにかしらのレアスキルを持っていると考えた方がいいんやろう。
ようやくスカリエッティが絡んだレリック事件が一段落したと思えば、次はそのスカリエッティを利用していた最高評議会が生み出したらしい人造魔導師達、地上本部ではレジアス中将が殺害され混乱も起きてるさかい……やる事は山積みや。
あまりの仕事の多さに「はぁ」と溜息をはき空間モニターから視線を泳がせれば、ルキノやシャーリーがグリフィス君の指示で端末を操作し情報を纏めている。
しかし、スカリエッティ一味の襲撃によって機動六課隊舎が壊され、隊舎の代わりに一時的とはいえ借り受けたアースラやったけど、廃艦寸前の引退艦とはいえ大気圏内なら十分使いものになるもんや。
アースラは色々な思い出がつまった場所やったけど、こうして使う側になってみれば移動できる分、何かしら起きた場合にはヘリを出さなければばならない隊舎とは違って、本部機能をもったまま移動できるから機動性のある部隊を運営するには必要不可欠なのが解る―――私が思い描く即応性のある部隊の構成には、人材の外にも色々な装備や設備が必要になるんやろうな………あかん、勉強不足なのが露呈してきとる。
などと思案していたら、後ろのドアがシュンという音を上げ開き、
「だだいま戻りました」
「お帰り、リイン」
初代リインフォースと同じ銀色の髪をした三十cm程の体格をした私の家族、新人達からはちっちゃな上司と慕われている頼もしい副官が戻って来た。
「それで、どうやった?」
「はい。足を負傷したティアナは入院、シャマルにブラスターモードを使用したなのはちゃん、スカリエッティに捕まっていたヴィヴィオは念のため検査です。
あと、病院を抜け出したザフィーラとヴァイス陸曹の二人も再び病院に戻して、ちゃんと治すよう言っときました」
「さよか。でもザフィーラとヴァイス陸曹が戦線に復帰しなければ戦闘機人に囲まれたティアナは危険やったからあんまり強く言わんといてな」
「はい、です」
まあ、それでも傷が癒えないまま二人が無茶をしたのは確かなんやけど―――みんな多かれ少なかれ無茶をしとるから人の事いえんわけやし。
「こっちは、例の人造魔導師の疑いがある魔道師達にアルトにヘリを出してもらったから午後にはこっちに来てもらうようなっとる。
ゆりかごに関しても、地上での破壊だと色々な後始末が面倒やからクロノくんの艦隊で軌道上まで曳航して沈める予定や。
それに、フェイトちゃんの方も地上部隊に引継ぎをし終え次第アースラに戻る予定やから間に合うやろ」
「画面越しに見た限りでは、昔のなのはちゃんやフェイトちゃんにそっくりな感じですから、同じようにいい子だと良いですね」
「そうやな」
リインの知っている昔のなのはちゃんやフェイトちゃんは十一歳の頃やけど、私の目利きではもう少し小さな頃やろか……
それに、あののなかに私を元にしたのが居ないのは、私が夜天の書の主という特殊性があるからなんやろう。
「まあ。一応、ヴィータとシグナムを同行させとるから何かあったとしても大丈夫やろうけど―――向こうのクロノ君と同じような子も、昔のクロノ君と同じよう判断力に優れているようやから心配ないやろ」
「どんな子達なのか楽しみです」
「とはいえ。本当に人造魔導師だった場合、後ろ盾やった最高評議会とかいう組織や、レジアス中将が死去されたさかい放っとく訳にもいかん」
「そうですね……特にゆりかごを沈めかけた人はベルカ時代の王の力を持ってるみたいですし」
「それだけやない。その王に力を注いだ相手や、私や魔道師隊を特殊な結界に巻き込んだのも居る」
「もしかしたら、それぞれがベルカ戦乱期の王の力を持ってるのかもしれないですね」
「それはそれで大事や……」
単騎で万騎を駆逐するような狂気の技術の結晶が蘇ったんやから………いや、ベルカ時代でもロストロギア扱いされていたゆりかごを斬り裂いたり、護衛をしとったガジェットの大軍を結界に閉じ込め殲滅したのを考えれば十分あり得る話や。
今日のマスコミの放送によれば、件の相手らは周辺に散らばったガジェットの残骸の撤去を手伝ってるとかいう話やったが、それらを空間モニターに出し、どうするか思案していたものの、ふと時間が近づいているのに気がついた私はグリフィス君にアースラを任せリインと食堂に向かい簡単な食事を済ませる。
食堂から会議室に向う間、制圧したスカリエッティのアジトについて地上部隊に引継ぎを終えたフェイトちゃんと出会い一緒に会議室に向う通路を歩く。
通路を歩きながらフェイトちゃんからの報告を受け、ヴェロッサのレアスキル思考操作からマッドサエンシストにはつきもんやのか自爆装置を解体した件や、捕縛した戦闘機人十二人の体には人造魔導師技術を使ったスカリエッティのコピーが仕込まれているのが判明し対処にあたってる話や。
エリオとキャロの説得で投降してきたルーテシアという召喚士の母親メガーヌ、地上部隊の調べによれば何年も前に行方不明となった元捜査官やそうやが、彼女がスカリエッティに協力していた理由は母親の蘇生が目的だった為らしい事などの報告を受ける。
「そや、フェイトちゃんから見て例の魔道師達はどんな感じやった?」
エリオとキャロの二人は、投降したルーテシアを落ち着かせる意味もあって残ったそうやが、そういった報告を受けながら元々次元航行艦という性質から一切の装飾などがない、味気ない通路を歩みつつ私はこれから会う相手の情報を少しでも得ようとフェイトちゃんに話しかけた。
「まだ少ししか話してないけど……見た目だけじゃなく、なんか昔の兄さんと同じ雰囲気がしたかな」
「さよか。多くの違法研究で保護されたケースでは、記憶を引き継いでいる人造魔導師は結構いるんやけど……性格や印象が違ってたりするんやがな」
人造魔導師の疑いのある集団のなかで、クロノ君似の相手と会話をしたフェイトちゃんは昔、まだ背が低い頃のクロノ君と同じ印象を受けたという。
人権に関する問題以外に、人造魔導師技術が難しいとされるのは魔法資質の継承や、性格に違いが現れる為に能力や実力が違ってくるからもあるんやが―――クロノ君をよく知るフェイトちゃんからして、違いを感じ取れないとなればそれらの問題をクリアしたとも考えられるわけや。
「それが例の起源とかいう部分なのかもしれないですね」
「起源か……」
リインの言葉に考えを深める、魂とかいうオカルト的な分野の話なんやが、そこを操作すれば元となった相手と瓜二つの人造魔導師やレアスキルを持ったのが生まれるというのは受け入れがたい話や、人ってのは外部の環境で色々と変わるもんや。
私だって、なのはちゃんやフェイトちゃんと会ってなかったらきっと違ってたやろし、でも、その辺すらも考慮されたとなれば………その完成度は想像を絶するかもしれへん。
いや、違和感の少なさからすれば気がつかないうちにオリジナルとすり替わっているかもしれん事件も起きうるかもしれん、仮に管理局のトップが知らないうちに入替ってたとかになれれば背筋がゾッとする話になる、私は今まで次元世界で知られる事なく研究されていた未知の技術に戦慄を覚えざる得なかった。
そんな状況を招かない為にも、あの小さいクロノ君やなのはちゃん達と話さなきゃあかん―――特にその技術を持つ相手がどんな人物なのか、今のところ怪しいのは遠坂凛とかいう女性やけど、最悪のケースで考えれば違法研究をしている人物がスカリエッティと同じか、それ以上の性格の場合もあるんや。
そんな人物の元で、かつてベルカ戦乱期に現れた王達の力を持つ者達が何人も現れるようになったら、今回のスカリエッティが起こした事件以上の問題になるやもしれんさかい。
そう思いつつ会議室に入った時、空間モニターにグリフィス君が現れアルト達が乗ったヘリが戻った知らせが届く、ヘリはアースラの後部格納庫に着艦するから例の魔道師達が来るのはもうすぐや。
『シグナム、ヴィータお疲れ様。
人造魔導師の疑いのある魔導師達やけど、見た印象はどんな感じや?』
『はい。それが、その………なんと言ったらいいのか、出会った頃の高町とテスタロッサ、アルフも瓜二つというか。
記憶もしっかりしてますから、もし、あの頃に出会ったのなら見分けがつかないのではないかと思えるほどです』
『二、三話したけど、クロノやユーノもあの頃と同じって感じだな。
あと知らねーのが四人ほど居るし、フェイトの母親やフェイトそっくりの小さいのもいるけど性格が判らないから判別のしようながねー』
念話で話しかけた私にシグナムにしては珍しく歯切れの悪い口調で語り、ヴィータもシグナムと同じくあの頃のクロノ君やユーノ君と同じ印象を受けると答えた、でも―――
『待った。フェイトちゃんの母親そっくりなのと小さい方はなんか予想がつくけど、一人足りないんと違うか?』
『それが、アーチャーという名らしいですが………こっちらのクロノが言うには思念体らしいです』
『こっちから話しかけたら現れるけど、それ以外の時は消えてるんだ………本人や遠坂ってのが言う分には幽霊みたいなものだから気にするなって話になってる』
『……幽霊ですか』
『召喚魔法の一種なのかな?』
一人足りないのを不審に思った私が聞き返したものの、シグナムとヴィータは思念体やら幽霊やら答え、リインとフェイトちゃんも困惑を隠せない。
幽霊……あかん、もうレアスキルがどうこうってレベルの話じゃない………わけがわからん連中や。
『いや、むしろ降霊術。もしくは、かつて失われた死霊術の類か』
『まあ。かつてのベルカ時代じゃあ、死体を兵士にして操ってた冥王ってのがいたから、その辺の遺失技術とかが使われたのかもな』
片手で頭を押さえる私を知る由もなく、話を続けるシグナムとヴィータからは、かつてのベルカ戦乱期に用いられた技術を復元して使っている可能性を示唆する。
それは、一人の王が他の王を凌ぐ為に過度の力を宿した時代―――すなわち、今回レリック事件でスカリエッティがヴィヴィオに対して行なったのと同じ、人の肉体と命を魔力核に結びつけ、一つの強大な質量兵器として扱う技術が用いられているという話や。
そのゆりかごを斬り裂いた一人は、確実に王の力を宿してるんやろし、幽霊を使役する技術とかがあっても………あの時代の異質時術なら不思議やない、か。
ベルカ戦乱期の王クラスの力を持つ者が既に複数人現れてるかもしれない状況に、この話し合いは当初抱いていた以上に管理局にとって重大な問題だと認識を改めた。
椅子に座り、左右にリインとフェイトちゃんを待機させ、そろそろやとリインに記録用の録画を始めさせれば外から声が聞こえ、扉が開き固唾を飲み込むなか件の魔導師達が入って来る―――
「わ~い、こっちのフェイトさんだ!」
せやけど、小さいフェイトちゃんの横から更に一回り小さなフェイトちゃんがぴょーんと飛び出して来て、
「私、アリシア。お姉ちゃんなんだ」
「アリシア………」
「うん。お姉ちゃんって言っていいんだよ」
咄嗟の事で虚をつかれたフェイトちゃんは目を丸くするも抱きつかれ、えっへんと見上げながら自分が姉であると主張した。
フェイトちゃんを見上げ、目をキラキラと輝かせるアリシアという女の子は、ヴィヴィオくらいの背丈というか、明らかに体格差が大人と子供程に違うのにも関わらず姉と言い張るのでフェイトちゃんにしても言葉に詰まっとるのやもしれない。
そりゃあ、私かてフェイトちゃんからお母さんの話やアリシアっていう姉妹について耳にした事はあるやけど……こうも直球で来られてはこっちとしても対応に困る。
そんな、ちっちゃなお姉ちゃんを名乗るアリシアに―――
「ごめんな、突然だったから驚いたろ?」
「そうですアリシア、いくらなんでも先走りすぎです」
私や魔道師隊を結界に巻き込んだ赤毛の少年とゆりかごを斬り裂いた王の二人が前に出て、赤毛の少年はアリシア頭に手を置くようにしながら謝意を述べる。
昨日から報道されてる内容からは、赤毛の少年は衛宮士郎、金色の髪をした王はセイバーという名らしいんやが………セイバーってどう聞いても偽名やろな。
「そりゃあさ、アリシアがこっちのフェイトに会えて嬉しいのは判るけどさ……ちょっとというか、姉を名乗るには身長に差があり過ぎるんじゃないのかい?」
「どちらかというなら、妹はアリシアの方ね」
昔のアルフそっくりな容姿と名を持つのと、フェイトちゃんのお母さんそっくりの二人は笑みを浮かべながら口を揃え、
「そうですね、お姉ちゃんっを名乗るには少し背が足りないですよ」
「う~。私、お姉ちゃんがいい」
リインも話しに加わって、当のアリシアはぷうを頬を膨らませるものの、小さななのはちゃんやフェイトちゃんが近寄り「大丈夫だよ、どっちにしたって姉妹なんだから」とか「そうだよ」とか慰める。
けど、この辺は私も同感や。
「そっか………報道では知ってたけど母さん、本当にアリシアを蘇らせたんだね」
虚をつかれたフェイトちゃんやったけど、アリシアから母親、プレシア・テスタロッサに視線を向け微笑みかける。
「いいえ、私はそこまで至れなかったわ」
せやけど、辛そうな表情でフェイトちゃんのお母さんは顔を横に振り。
「この娘を蘇らせたのは貴方の母親―――この世界の私よ」
「そして、その彼女を君に合わせるのが僕達がここに来た理由の一つだ」
この世界という言い回しが何処か気になるような言い方やったけど、続けて昔のクロノ君そっくりな子が口にした話の方が気になる。
「どうゆう事や?」
「簡単に言えば、その娘以外の理由ってのは事件を起こしたスカリエッティが私達を人造魔導師って思ったようだけど、実際は違うってだけの話よ」
「騒動に巻き込まれ、気がつけば人造魔導師―――他の者は兎も角、魔導師ですらない身としては肩身が狭い思いよ」
「そう言う割には下手な魔導師よりも強いんだけどね……」
問いかけ返す私の言葉を赤い色の印象が強い女性、遠坂凛やったな……彼女が答え、侍風の確か佐々木小次郎やったかが、さも迷惑そうに語る内容にちっちゃなユーノ君は呆れるような表情を見せた。
「順を追って話そう。色々な報道で僕達の事は知ってるとは思うが、まず互いの紹介からでいいか?」
アリシアによって機先を制されたような状況になってしもうて、扉の近くで待機しとるヴィータとシグナムがどうしたらいいのか言葉を挟めずにいるなか、ちっちゃなクロノ君が提案する内容は魅力的やった。
「そやな、そうしてくれると助かる」
一応、報道されている以外にも彼らが泊まっていたホテルの顧客簿から名前などは知っとるやけど、本人から聞くのが一番やし。
「まず、私は機動六課部隊長の八神はやて。
そんでもって、このちっちゃな副官がリインで、こっちが機動六課フォワード部隊ライトニング分隊隊長のフェイト執務官や」
私の紹介にリインとフェイトちゃんは「よろしくです」、「よろしく」と返し。
「後ろに居るのが―――」
「お言葉ですが主、私とヴィータは既に話しているので存じているかと思います」
「ああ」
「さよか。それならそれでええか」
続き、シグナムとヴィータを紹介しようとしていた私にシグナムはその必要はないと口にし、ヴィータも相槌を打っとるさかい大丈夫なんやろ。
「僕はクロノ・ハラオウン。
こっちから順にアルフ、プレシア・テスタロッサ、ユーノ・スクライアに佐々木小次郎、遠坂凛。
あとアーチャーという男が居るが、今は霊体化とかいうので消えている」
それぞれが「世話になるよ」や「よろしく」とか「お願いします」、「さてどうなるか」、「なるようにしかならないわよ」等など口々にするなかちっちゃなクロノ君は話を続け。
「次に、君達の前にいるのがアリシア、高町なのは、フェイト・テスタロッサに衛宮士郎、セイバーだ」
ちっちゃななのはちゃんとフェイトちゃんは「よろしくお願いします」と声を揃えて挨拶するものの、
「ポチを忘れているよ」
「ああ、すまない」
アリシアは足元で転がる丸っこいのを忘れてるって指摘し、すっかり忘れていたらしくクロノ君は謝りを入れた。
「私もクラス名ではなく真名を明かした方がいいでしょう」
「いいのかセイバー?」
「ええ。ここは地球から遥か遠く離れた地、次元間航行という技術を用いてようやく来れる世界だ。
そのような場所だというのに、私の名が伝わっているなどと思うのは驕りに過ぎない」
セイバーって少女がどんな王やったのかは判断しかねるけど、地元では相当有名だったらしく、本当の名を明かすという少女の言葉に衛宮君という少年は気遣う。
私にはクラス名というのがなんなのかは判らへんが、次元世界のなかには魔よけの類から本当の名前を隠す所もあるさかい、このセイバーを名のる少女もそういった風習のある世界の出身なんやろ。
「私の真名はアルトリア・ペンドラゴン、かつては地球………こちらの名称では第九十七管理外世界にあるブリテン、今では英国と呼ばれる国の王だった者です」
「セイバーさんて英国の王様だったんだ」
「あの剣といい、その英国ってところは相当な技術をもってるんだろうね」
剣士を名のる少女が語った出身地の予想外さに、私は思わず「なんやて!?」って声を上げそうになったがなんとか飲み込み、同じように聞いたちっちゃななのはちゃんは、あのロストロギアに指定されかねない剣が作られたのが地球やという事実に気がついてないのか素直に驚いていて、アルフもあの剣からして英国の技術力が相当高いレベルなんやろうと口にし、ちっちゃなフェイトちゃんやそのお母さんも「うん」とか「そうね」とか言い納得している様子や。
でも、私の知る英国は時折へんてこな兵器とかは作っても、ベルカ戦乱期のような異質技術はないはずなんやけどな……
「なるほど。スカリエッティの時は話を合せているだけかとおもったが、まさか本当に王だったなんてな……
僕もセイバーが偽名なのは解ってたけど、現地で偽名を使ったのは元王という立場を隠す必要があったからか」
片手を顎に当ててるクロノ君にしても、偽名なのは薄々感じていたようやけど、本名は知らされてなかったようやな。
しかし―――
「………は?」
「む、どうかしましたか?」
「いや、我々も……その第九十七管理外世界は知っているが、英国の女王でアルトリア・ペンドラゴンという名は聞き覚えがないものなので、な」
「そうでしょうね。当時の私は女性ではなく男性として振舞っていましたから」
私もそうやが、まさか私やなのはちゃんと同じ第九十七管理外世界出身だとは想像してなかったらしく目を丸くするヴィータやが、シグナムが助け舟を出しすとアルトリアは納得した様子でそれも仕方がないと口にする。
そもそも本人達は人造魔導師を否定しているけど、もしもという事もあるさかい、管理世界なら出身を調べれば何かしら判るとか思うとったんやが………まさか出身が第九十七管理外世界とは予想外や。
それに加え男装していた英国の元国王なぁ、元って事は何年かまえまでは王だったって事なんやろけど、第九十七管理外世界出身の私にしても、むこうの中学では国内の将軍や皇族の名前は熱心に学んだもんやが、世界史の授業、しかも近代以降は国外のついての授業なんかは碌になかったもんやからようわからん―――つか、年上には見えへんのやが一体何歳なんやこの人?
『リイン。予想外やけど、とりあえずグレアム小父さんに確認してくれへんか?』
『はい、です』
念話で告げ、ちっちゃな空間モニターを開いたリインはグレアムおじさんに用件を纏めた内容を送った。
「では、僕達が何故ここに来たのか順を追って話そう」
「その前に立ち話もなんや、せっかく来てもうたんやし座りながらするとしよか」
クロノ君は、私達が一通りの紹介を終えたのを確認すると私達を見回して話し始めようとするが、それに待ったをかけ席を勧め、アーチャーとかいう幽霊以外の十一人は礼を述べつつ対面するようにして席に座る。
向こうも礼儀から私が薦めるまで椅子に座るのしなかったのもあるんややが、椅子に座らせていればなにかあった時にでも椅子から立ち上がるという動作が必要になるさかい。
その間があれば私は兎も角として、横で立つ管理局でもトップクラスの速さを持つフェイトちゃんは勿論の事、出入り口で立ち並ぶシグナムとヴィータも機先を制する事が出来るといった保険の意味も兼ねている。
「今からする話は君達からすれば到底信じられない話に聞こえるだろうが、彼女も語ったように僕達は人造魔導師とは違う」
話を再開させた小さなクロノ君は、遠坂凛という少女を横目にしながら前置きを口にしつつ。
「では、何者なのかと言われれば並行世界と呼ばれる可能性の世界。
それも、こちらの世界からすれば十年前に相当する世界から来た事になる」
クロノ君は真剣な表情で語るんやが、その話は私の想像すら超えていて理解するのに数秒要した。