避難勧告により俺達はホテルから離れ、従業員の誘導に従って一緒に近くの公民館にまで向う。
やや高台に位置する公民館のなかは、都会から離れた郊外に位置するとはいえ結構な数の人々が不安を隠せない様子で集まって来ていた。
旅行客である俺達は、土地勘もまだ曖昧なのもあってか心配したホテルの人達が役場まで連絡してくれたので特にトラブルも起きず避難を済ませられたが、なんていうかミッドチルダの建物は各次元世界の影響なのか、土地が安く余っているのかは判らないけれど俺の国とは違って公民館自体がかなり大きめに造られている。
この場所は俺達の世界でいうところの魔術と武術を混ぜ合わせたストライクアーツとかいう格闘技の練習場も兼ねている事もあってか、外観同様なかも広々としている訳なんだが………今回ばかりは避難して来た世帯が多いいのもあって、やや手狭な印象を受けなくもない。
それに、離れた所では空間モニターとかいうテレビが、まるで映画館のスクリーンのような大画面で映し出されてはいるものの、ガヤガヤと喧騒にかき消され俺達の所まで音声は届かないみたいだし、多くの旅行者は地上本部が襲撃された次の日にはミッドチルダを一目散に去って行ったというのに、まだ居座っていた俺達の姿は珍しいように思われているみたいで何人かの人達から「折角、来たのに災難だったね」とか「私らは戻る場所はここしかないけれど、あんたらは在るんだろ」とか話しかけられるが―――
「うん。でも、最近知ったんだけれど私には妹がいるの、その娘がミッドチルダに居るから捜しに来たんだよ」
アリシアがこの世界のフェイトを捜している旨を告げたら、「生き別れの妹を捜しに!?」や「くぅ、泣かせる話じゃないかよ……」とか俺達を取り巻く人達の反応が変わって。
「私やなのははアリシアの手伝いみたいな感じかな」
「そうなんだけど……最近はどちらかというと魔法の合宿みたいな感じになって来ているね」
「それは仕方ない事だよ、僕らの予定としては公開意見陳述会が終ってから連絡を入れようとしてたんだから」
「そうだよ、折角の時間を無駄に過ごすのも勿体ないし、あの時は地上本部が襲われるなんて想像もしてなかったんだから」
アリシアに続き、フェイトが口にするとなのは苦笑いを浮べるが、ユーノとアルフは公開意見陳述会までの時間を無駄に過ごすよりはずっといいと擁護する。
その話を聞いていた周囲の人達は「公開意見陳述会の後にねぇ……」とか「あのスカ野郎、こんな小さな娘達の願いすら踏みにじりやがって」とかになって行き、当たり前といえばそうだが、テロを起こしたスカリエッティに対する住民の怒りは凄まじいレベルになってきているようだ。
『まずは怒りの矛先がこちらに向かなくてなによりです』
『しかし、例えそうなったとしても数人も斬れば落ち着くだろうよ』
『斬るって―――そうか、非殺傷か。
でも、例え非殺傷でやったとしても、あれって結構痛いから注意してやらないといけないからな。
それに、そもそも争う必要がないのならその方がいい』
『ああ、暴徒と化したのなら身を護る為にも制圧する必要はあるけど、個人の心象としてはそうはしたくはない』
ふうと息をはきながら念話を使うセイバーに、アサシンは平然と何人か斬ればいいとか告げたのもあって、思わず俺も念話を使ってしまったが俺と同じでクロノも住民相手には戦いたくはないようだ。
いや、クロノは多くの人達を守りたいからこそ執務官にまでなったような奴だから俺以上に感じているのかもしれない。
『それ以前に、セイバーが気にしすぎたんじゃない?
まあ、どの道なにも起きなかったんだからいいんじゃないの』
遠坂の念話にプレシアさんは『そうね』と付加え、
『例え起きたとしても全員倒してしまえば済むことだもの、アリシアから改良したジュエルシードを一つ借してもらえれば私一人で片付けてみせるわよ』
とか告げヤル気満々なようすだ。
『あの、母さん……』
『大丈夫よ、こう見えて母さん強いんだから』
『そういう意味じゃ……』
目を丸くするフェイトに、プレシアさんは安心してとばかりに頭を撫でるが、なのははどう言えばいいのか解らないような顔している。
『喧嘩はダメだよ』
『アリシア。ああ、そういうところもあの娘と同じなのね』
フェイトの頭を撫でてながらも、私の娘に危害を加えようものなら全員ブッ倒すと意気込んでいるプレシアさんに対しアリシアは嗜めるが、それがプレシアさんの琴線にふれたのに加え、隣に座っていたのもあってかフェイトと一緒にむぎゅと抱きしめられてしまう。
プレシアさんは俺の世界から来たアリシアを別の存在だと判っているものの、やはり並行世界だからか性格も似ているようで、あまり可愛がりすぎて親権問題にならなければいいのだけど………
まあ、俺としてはアリシアさえ良ければ問題ないけど言峰がどう出るか―――いや、まてアリシアを信仰の対象にしているアイツならプレシアさんを聖母扱いしなくもない、か。
などと思っていたら、局員の一人が入って来るなり「空いている人は手を貸してくれ」と声を上げ、話を聞けばガジェット対策の一環として公民館の前に土嚢を積み上げてバリケードにするらしい。
そうか、積み上げられた土嚢を盾にすればⅢ型は難しいだろうけどⅠ型なら防げそうだ。
もしもの保険的な事かも知れないけれど、ガジェットが襲ってきた時に皆を守れる作業なら断る理由もない、俺が立ち上がると同時にクロノとセイバーも立ち上がり、
「考える事は同じか」
「そのようですね」
互いを見ながら口にする。
すると、アリシアが「私も行く」と言い出し、フェイトとなのはも「私も」とか「迷惑じゃなければ」とか口々にしながら立とうとする、が。
「駄目よ、貴女達はここでお留守番。
だいたい、アリシアやフェイト、なのはの体格だったら土嚢なんて運ぶのは辛いでしょ?」
「そうね、私達はここで情報を集めて何かあったら伝える事にしましょう」
遠坂とプレシアさんが三人を止めてくれ、取り出した端末を四苦八苦しながらも弄りだす遠坂だが、アリシアが世界を書き換えるとかいう方法で大人モードに変身出来るのは知らないようだ。
そういえば確かアルフも変身魔術は使えるので、もしかしたらフェイトも大人モードが使えるのかもしれない。
「とりあえず、私がフェイトの分まで手伝ってくるよ」
そう言い、立ち上がるアルフの姿は見た目からしてフェイトやなのは達どころかセイバーよりも力はあるように思える。
「ならポチも力仕事は得意だから一緒に行ってあげて」
「え、そうなの?」
「うん。ポチは力が強いからお布団とかの上げ下げもしてくれるんだ」
ポチはアリシアに頼まれると分ったのかクルクルと回りだすけれど、聞いていたユーノはサッカーボールみたいな大きさのポチが実はトンでもな精霊だなんて思いもしないんだろうな。
ポチが大地の精霊かまでは判らないけど、あれで本気になれば塹壕そのものが簡単に造れてしまう、けどここでそんな事を行なえば造成による周囲の被害があるかもしれないから難しいところか……
でも、実際のところポチの力は想像以上で俺達が一つ二つ運んでいる間に、まるで目に見えないベルトコンベアでも在るのか、幾つもの土嚢が流れるかのようにして運ばれては積み上げられていった。
そんな訳から土嚢によるバリケードの構築は、思いのほか時間はかからなかったが―――
「やはりというか、Ⅰ型の対策にはなってもⅡ型への対策にはなっていませんね」
「そうだな……」
見晴らしのよい大通りに対し、八の字に積み上げられた土嚢は腰を下ろせば身を隠せるようになってはいるものの、やはりというか……心もとない感じは否めないでいて、セイバーからバリケードの問題点を指摘された俺もその言葉に頷くしかなかった。
そもそもⅡ型は空を飛んでいるから、ただ土嚢を積んだだけでは心もとない、そればかりかⅠ型にしたってアレはアレでふよふよしている割には動きが速いので油断をしていれば回り込まれるてしまう。
「そうは言っても、今の地上部隊では他に手のうちようがないんだろう、Ⅰ型に比べればⅡ型の出現件数は少ないようだからそれに期待するしかない……」
「Ⅱ型って中程度の航空魔導師と同じくらいの相手だって話だろ、私だって懐に入れれば倒せそうなんだから、それ程危険視するような相手じゃないんじゃないかい?」
この避難所に派遣された陸士の数は十人程度だが、空間モニターで通話している陸士の顔色がだんだん青く変わっていく様を目にするクロノは表情を引き締め、アルフはアリシアやプレシアさんがおおよその情報を元に分析した限り、Ⅱ型は速度こそ速いものの左右に関する動きや旋回性能はⅠ型の方が高いようなので初撃さえ避けれれば何とかなりそうだと判断している。
勿論、魔導師同士の空戦と同様に相対速度やタイミングが重要な訳だけど、AMFの出力はⅠ型と同程度みたいだから特殊な技術を使わくても、単純に圧縮した魔力で殴るなり体当たりするなりすればアルフなら壊せるだろうと話していた。
「いや。ガジェットの怖いところは数だ、一機辺りのAMFは対策が取れても地上本部を襲ったような数で攻められればAMFの濃度は跳ね上がり並みの魔導師では手の打ちようがなくなる」
「まあ、このような避難所にそれ程の戦力を割くとは思いませんが、何かしらの拍子に巻き込まれる可能性は十分ありえます」
しかし、クロノはガジェットの怖いところは生産性の高さによる数と、それに伴うAMF濃度の濃さにこそあると指摘しながらアルフに視線を向け、セイバーはスカリエッティが公民館などという重要な施設でもない所に好き好んで戦力を割り振る事はまずないだろうが、いざ事が起きた場合は何が起きるのかは分らないので用心は必要に越した事はないと辺りを見回している。
「スカリエッティは地上本部を襲った相手だからな、クラナガンだからって躊躇ったりするような奴らじゃないだろうし」
ガジェットなんていうロボットを大量生産している事から、俺でもスカリエッティの背後に大掛かりな組織が関与しているのは解るし、そうなれば組織である以上多くの人員で構成されているから『奴ら』と言い、セイバーやクロノも「ええ」、「ああ」と応じ、この避難所が襲われるという最悪のケースを考えようとした時―――
『―――大変です!』
なのはから念話が届いて。
『何かしら切札は持っているとは思ってたけど、予想以上のモノよこれ!!』
『先程、管理局から報道があったんですけどスカリエッティは聖王のゆりかごという、Sランク級のロストロギアを持ち出したんです』
『頼みのアインヘリアルも三基とも破壊されてしまったそうだし……』
慌てた感じの遠坂に続き、フェイトとプレシアさんからも念話が届くものの事態がどんな風に変わったのか把握できずにいるが、Sランク級という規格外のロストロギアが使われる事から状況は悪化したのだけは解った。
『確か。ゆりかごは聖王統一戦争っていう、ベルカ統一を計った戦に用いられたモノで、ベルカの戦乱の歴史にも出てくる遺失技術の塊の事です』
ユーノの念話から伝えられる遺失技術、ゆりかごというモノは今のミッドチルダの技術とは違う異質技術で作られたばかりか、技術そのものが歴史から失われたはずの技術で作られているらしい。
ロストロギアの概念がよくない形で技術が進んだ文明の遺産と考えれば、俺達の住む地球よりも進んだミッドチルダの技術でさえ凌駕する危険極まりない代物なのだというのが解る。
外にいた俺達は急いで館内に戻れば目に入って来るのは一隻の船の映像、たぶんあの船が『聖王のゆりかご』ってヤツなんだろうけど館内は騒然としていて放送内容までは判らない。
けど、船の周囲には小さな光が点いたり消えたりしているからきっと航空魔導師隊が交戦しているのだろう―――って!?
「っ、まて周囲の山とか変じゃないか?」
大型の空間モニターに映される船だけど、船自体の映像はそんなでもないが周りの山々が不自然に小さく感じられていて違和感を覚える。
「見た感じ数キロはありそうだね。
たく、でかけりゃいいてもんじゃないだろうにさ」
「超巨大戦艦、これがスカリエッティの切札か」
あまりの大きさに呆れ顔のアルフだが、反対にセイバーは緊張を漂わせていた。
「とにかく、今は情報が欲しい皆と合流しよう」
聖王のゆりかごという、Sランクのロストロギアの映像から一端は足を止めていた俺達だけど、クロノに急かされ事で「ええ」とか「わかったよ」とか口々にしながら歩みを進める。
避難して来た人達で混み合い、歩くスペースが狭いのもあってかやや手間取ったけれど、端末から状況を汲み取ろうと窺っているアリシア、遠坂、アサシンになのは、フェイト、ユーノ、プレシアさんの姿を見つけ近づく。
「不味いわね、このままだとここにまで来るのにそう時間はかからないわ」
「今は航空魔導師達が迎撃に出ているそうだけど、外で護衛しているガジェット達に阻まれているそうだから、クラナガンへのルートを変えるまでにはいたってないそうよ」
アサシン程ではないものの、俺達の姿を見つけた遠坂は尋ねる前に要点を口にしてくれ、プレシアさんはその話しに補足してくれる、が。
「じゃあ、ここも戦いに巻き込まれるのか!?」
それは、このままでは避難して来た人達で一杯のここも巻き込まれる事を示していて、一瞬だが冬木市で起きた大火災のなかを彷徨う記憶を思い出させた。
この街の人々が戦火に巻き込まれ、住み慣れた街並みがことごとく廃墟に変わり、炎と息苦しさのなか、生きる事なんか到底望めないように、希望すら抱けないまま彷徨うなんていう状況になんてさせてたまるかっ!!
「時間の問題よ衛宮君、航空魔導師達の奮闘次第では方向を変えるかもしれないけど………」
「とはいえあの大きさ。航空魔導師というのがどれ程の実力かは定かではないが、見ている限り効いているとは思えん」
「そうね、護衛についているガジェット群が直接阻むのに加えAMFもあるもの、それにゆりかごだって同じように魔力を阻害する機材が積まれていると考えても不思議ではないから厳しいわね」
頭に血が上るしかない俺とは違い、片手を口元にあて思考を巡らす遠坂は現状ではほとんど手の打ちようがないのを話すが、アサシンは遠坂が唯一示した案にしても期待出来そうにないのを語り、プレシアさんもガジェットの群れに加え、それに伴い上がるAMFの濃度によって航空魔導師隊といえどゆりかごの動きを変えるのは難しいと告げる。
「っ、て事はAMFの影響によって、航空魔導師達は魔力の使用量が増えるばかりか回復すら酷く遅れるのか……」
「彼等を航空機に例えれるなら、燃料や装備が乏しい状態で交戦しているという事になりますね」
「そんな状況よ、AMFの影響下ではとてもじゃないけど魔力主体の魔導師じゃあ外から壊すのはまず無理ね」
リンカーコアと魔力回路の違いからか、俺自身はAMFの影響を受けている環境でも変化を感じられなかったけど、プレシアさんの話や例を示すセイバーからクラナガンに入れさせまいとしてゆりかごと戦っている航空魔導師隊は魔力の運用すら難しいのが解り、遠坂も顔を顰めながら航空魔導師達では望みが薄いのを認めた。
「なにか手はないのかな?」
「外が駄目なら、なかに入って止めればいいんじゃ?」
「確かにそうだけど、たぶんゆりかごの内部はもっと高くなっている筈だよ」
「外からじゃ効き目が薄いってのに、なかに入ってもきついんじゃ手のうちようがないじゃないか……」
話を聞いていたフェイトはいい方法はないか呟き、なのはがゆりかごのなかに侵入して艦橋を制圧するかとか動力炉を止めればいいんじゃないかと提案するけど、ユーノはプレシアさんの話からゆりかごの内部は外よりもAMFの影響が高いだろうと考え、アルフはAMFの厄介さにいまさらながら舌を巻く。
それに、ゆりかごの内部は内部で多くのガジェットが待ち受けているから並の武装局員では荷が重い、か。
「クロノ、こういった状況でも管理局は犯人の身柄の拘束を第一にするのですか?」
「余程の事情でやむ得ない時以外はそう、でもどうしてそんな事を聞くんだ?」
「………いえ、もしもアインヘリアルが健在だったならと思いましたので。
(私がなかに入り、幾度か聖剣を振るえばゆりかごを沈められるでしょうが、犯人達は無事とはいえなくなる)」
「そうか―――いや、今は無い物の事を考えてもしかたがない」
疑問をぶつけるセイバーに、クロノはアインヘリアルにの是非について過ったのだろうけど、続けようとした言葉を呑み込み。
「とにかく、僕達は僕達にしかできない事をするとしよう」
「それしかないでしょう」
クロノに相槌を打つセイバーは言葉を区切って立ち上がり。
「では、私は此方に派遣された部隊の方に協力を申し込んできます」
「僕も行こう。それから状況が状況だ、すまないが君達の力を借りたい」
セイバーに続いて立つクロノは俺達を見渡して口にするけど、なのはやフェイトにしても避難して来た人達が傷付くのは嫌だろうし、そもそも身に降りかかるのは時間の問題だから断る理由もない、俺達の意思を確認したクロノは礼を述べ、セイバーと一緒に局員達へと向かって行く。
ただ状況が判ってないのか、アリシアだけは小首を傾げていて―――いや、まてアリシアは『原初の海』とか呼ばれている神様を召喚できるからこの状況を危機として認識してないだけなのかもしれない。
そもそも、世界を滅ぼせるとかいうトンでも神を呼ばれたらゆりかごどころの騒ぎじゃなくなるし、仮に神の座にいる神に頼んだとしても後々の騒ぎが大きい、困った時の神頼みって訳じゃないけど、もし、頼むとするなら―――それは俺達や局員達ではどうしようもない時だけにしなければならない。
その後、局員に協力する際にクロノは身分証を提示したらしく、ある事件の為にここで捜査をしていた事を告げると派遣されてきた局員達はまさか執務官がいるとは想像もしていなかったので大いに喜んだそうだ。
加え、正規のランクを取っていない俺達は少なくても総合Aランクはあるとかいう話し振りで局員の人達に期待されてしまう事になったがAランクってどれくらいの実力なんだろうな……
それでも、クラナガンに入る際にはこの近くを通り過ぎるようなのでクロノとセイバーはゆりかごが侵攻してくる方向から配置を決め地上部隊の局員の他に、なのは、フェイト、ユーノ、アルフのように空が飛べる者はクロノの指揮の下で制空圏の確保を行い、俺や遠坂、アサシン、アーチャーはセイバーの指揮の下で地上から来るだろう主にⅠ型やⅢ型の相手をする事になった。
また、大魔導師と呼ばれ高い魔力と高度な技術を持つプレシアさんだけど、戦いには慣れていないようなので、ある意味砲台とでもよべばいいのか、やや後ろの方に配置され、アリシアはこのなかで唯一広域防御である『ディストーションシールド』が使えるから避難所そのものを包み込む形で護りに徹してもらう事になる。
そういうのも、アリシアが攻撃に転じればまるで機関砲というか雨の如くフォトンランサーを放つ事はできるけど、ガジェットにはAMFがあるのでどこまで有効なのかは判らないし、そもそも俺達の目的はゆりかごやガジェットの殲滅ではなく、避難して来た人達を護る事だから皆を護れる広域防御が使えるのならその方がいい筈だ。
『ディストーションシールド』の展開にはジュエルシード改が三、四個もあれば足りるらしいので、ゆりかごが来るまでの間、デバイスに格納機能がついているレイジングハートとバルディッシュに一つづつ搭載させ、なのはとフェイトの魔力量を底上げしたりや、プレシアさんは広域攻撃魔法も使える事から、運用を容易にするのに三つ程持たせて魔力消耗にならないようにしたりする。
地上部隊の局員達には、アリシアとプレシアさんがガジェットの残骸から取り出し単体で使えるようにした、AMF発生装置を利用しての簡単なAMF対策というか心構えを教えたりするなか、アリシアはなんでも対AMF用の阻害魔法CAMF(カウンターアンチマギリングフィールド)とかいうのを組み上げたとかで、試しに魔力弾を放ってみたらAMFで阻害される筈の魔力弾の形が崩れる事無く使えた。
ただ、残念な事にジュエルシード改を分けた事によって魔力量の関係から『ディストーションシールド』を張っている時には精々百メートル程度しか及ばないらしいが、地上部隊の局員達がAMFに対し不慣れな以上、これほど効果的な魔術はそうないだろう。
しかし、結局というか地上部隊の局員達にそれほど多く教えられないままガジェット、速度性能に優れたⅡ型が姿を見せ。
すぐさま防護服を展開し配置についた俺達は、まず射程の関係から俺とアーチャーによる迎撃を行なうものの、次から次へと現れるガジェットの群れにプレシアさんの雷が降り注ぎ、遠坂の宝石剣から光が迸る、掻い潜って来たガジェットにはクロノ達が動いて殲滅し、地上でも姿を現したⅠ型が迷わず俺達の方へと向い来るのでセイバーとアサシンが斬り捨てていた。
しかし、ここが高台だから分るのだけどⅠ型にしてもⅡ型にしても何故か俺達の方にばかり来ているような感じがする―――何故だ?
『そういえば、ガジェットってレリックに引き寄せられるって話だからジュエルシード改の反応を誤認したのかもしれないよ?』
『あり得る話だ』
『そうね、前にもアグスタとかいうホテルでも同じような事が起きたって話し出し』
ガジェットの群れは一波、二波どころか既に四波と続き、地上部隊の局員達から「ここは最前線か!?」と声が上がるなか、皆も俺と同じような疑念を抱いていていたたのだろう、クロノ曰く情報分析が優れているユーノは逸早く気付いて念話を使い。
執務官として様々なロストロギアに関わった経験のあるクロノは肯定し、遠坂は実際にあった出来事を例として挙げた。
『じゃあ、ジュエルシード改につられてここにはガジェットが殺到してくるのかい!?』
『つまり―――ここが最前線って話しね』
『ええ。恐らく、ここはクラナガンの何処よりも激しい戦いになるはずだ』
ユーノ達の話から目を丸くするアルフだけど、戦いに慣れていない代わりに人生の辛酸を舐めてきたプレシアさんは落ち着いた様子で状況を分析し、様々な戦場を駆け抜けてきたセイバーはその推測が間違いではないと頷きをいれる。
『だったら、ここで私達が頑張れば他に避難している人達や、戦っている人達の被害は少なくなるって訳ですね』
『そうだね、なら頑張らなきゃ』
『でも、なのはやフェイト、ユーノにアルフはまだ子供なんだから無理はするなよ』
横道にそれる事無く、一直線に殺到して来るガジェットの群れをもう何機倒したかなんて数えるのも馬鹿らしくなるような戦いでも、なのはとフェイトは他人の為に身を挺していて、ある種の危なさを感じてしまう。
その為、気持ちは解るけど無理はしないよう釘を刺した。
四人とも「は~い」とか「はい」とか「大丈夫です」とか「心配性だね」とか返すが、いざとなったら俺が盾になっても『ディストーションシールド』に護られた避難所まで退かせる必要があるかもしれない。
『ですがシロウ、彼女達が行なっている空のカバーは重要だ、仮に居なくなったとしたら戦線が崩壊する危険すらある』
『確かに、刃が届かねば斬るにも斬れん。
空での戦いが出来る者が四人も抜けてしまえば、その穴を埋めるのは容易ではないぞ』
なのは達に釘を刺す俺にセイバーとアサシンは難色を示し、弓から双剣に持ち替えⅠ型を一機二機とたて続けに斬り裂いた俺は、クロノの指揮の下、ユーノを盾にしつつ、なのはの砲撃で数機纏めて撃破し、散開したガジェット達には特殊な技術を持つクロノの魔力弾やフェイトのアークセイバーという光刃により、それでも近くまで来るガジェットにはアルフの光弾が炸裂して墜して行くのを見上げ、どうやら俺も心配し過ぎだったかもしれないなぁとか過る。
今でこそ、アーチャーのように投影した剣を撃ち出せるるようになったし、戦いにも慣れてきているけれど、俺がなのはやフェイト、ユーノと同じ年齢の時には魔術を使う事すら出来なかった、誰一人として救えなかったのだから―――幼いとはいえ、実力が高いのは認めざる得ないだろう。
それにアサシンの持つデバイス『鈍ら』は刀身が瞬間的に伸びるトンでも機能があるけれど、伸びる長さは精々十メートル程度なのでⅠ型やⅢ型は兎も角、Ⅱ型を相手にするのは難しい。
だからこそ、四人も抜けられたら空を飛べる遠坂や駆け抜けられるセイバーが空のカバーに入ったとしても辛いのは解った。
それに、執務官として経験を持つクロノが指揮しているから無茶な事はさせないだろうし、土嚢を盾にしている地上部隊の局員達はアリシアのCAMFの影響範囲であるのと、空からの攻撃を受けないでいられるのもあってⅠ型の相手を出来ているのだから、なのは達に退かれたらバランスが崩れてしまうのもある訳だが……それでも、ガジェットの襲撃は途切れる事無く続き、やがて遠くの空にぼんやりとした淡い影、ゆりかごの船影が姿を見せ始める。
船影は次第にその大きと姿をはっきりさせ確実に近づいて来ているのだけど、余りの大きさに感覚がマヒしてしまい距離感が判り辛い。
それに、視力を強化しているから判るのだが、多分、Ⅱ型がゆりかごの護衛をしていたのだろう、動きからして航空戦魔導師隊と交戦している点と点のうち一方が不意に動きを変え俺達の方へとまっしぐらに迫り来ていて。
勿論、航空魔導師隊らしい点も動きの変化を察知して追撃しているのだろう、爆発する光点が幾つか見られるものの、向かって来るガジェットの数は今までの襲撃を遥かに上回る量だった。
『くっ。これだけのガジェットや巨大戦艦を持ち出すという事は、スカリエッティの目論みはゆりかごとガジェットでクラナガンを人質にするつもりか!?』
『成る程、人質にするのならば砲撃が無いのも頷ける、か』
大量のガジェット群とゆりかごは確実に近づいてきていて、次第に視力を強化していなくても見えるようになり、冷静に戦況を観察していたセイバーはスカリエッティの目的がクラナガンを人質にして本局から派遣された艦隊に対しての盾にするのではないかと怒気を強め、アサシンも巨大戦艦の割りにはガジェットしか展開してこなかったのを訝しんでいたのか、セイバーの言葉に納得した感じでいる。
『そう言われてみれば、テレビでも砲撃とか対空砲火とかってあまりなかったけ?』
『アレだけのガジェットに護衛をさせながら対空砲火を強くなんてしてたら、ガジェットにも損害が出るからでしょうよ』
戦艦の砲撃というアサシンの言葉に反応した遠坂は、空間モニターとかいうテレビで見ていたゆりかごの映像から戦争映画とかに出てくる艦船からの熾烈な対空砲火とかが無いのに気がついたようだけど、『時の庭園』という移動庭園を持つプレシアさんは船の護り方も熟知しているようで、護衛がいるなかで対空砲火で弾幕を張ろうものなら護衛のガジェットにも被害が出るので頻繁には撃てないのだと告げた。
『だけど、なんて数なんだ』
『たく、次から次へと……いい加減にして欲しいね』
『まだ、あんなにいるのか……』
空でも迫り来るガジェットの物量にクロノは表情を硬くさせ毒づき、アルフもうんざりした感じで愚痴る。
ただ、唖然とするユーノが漏らした言葉に、なのはとフェイトは、
『もう少し頑張らないとね』
『うん、そうだね』
とか答え、まだ幼いといえ恐怖で心が折れてしまわないのが救いだ。
でも群れというか、もう軍勢といわんばかりのガジェット軍団、そんな集団に襲われたのなら量を質で耐えていた戦線が崩壊してしまう―――なら。
「やるしかない」
例え、それが一分すらもたない時間稼ぎでしかなかったとしてもだ、時にはそのわずかな時間が必要になる場合もあるだろうから。
俺にはスカリエッティがゆりかごを使って何をするのかは判らない、けど、このままゆりかごがクラナガンに来ればゆりかごという巨大な艦に積まれている筈の大量のガジェットがばら撒かれ大惨事が起きるるのだけは解る。
「すまないセイバー、少しかもしれないけど時間を稼ぐ」
「シロウ、何を―――っ!?」
制止しようとするセイバーの声を振り切り走る、今までのように俺や、アーチャー、プレシアさんによる長距離からの攻撃で漸減し、それを抜けて来るガジェットを地上はセイバーや遠坂、空はクロノの指揮の下、なのは、フェイト、ユーノ、アルフで撃破し、更にセイバー、アサシンが留めつつ、地上部隊の局員達が掃討するといったチームの力で対処してきた。
だからチームとして一緒に戦った方が効率は良くなるのは確か、でも向かって来るガジェットの数を考えれば今までのように無事ではすまされない。
このまま何もしなければ、その先にある未来は逃れようのない被害、それも、かつて冬木市を襲った大火災並の悲劇をクラナガンで生み出す事だろう―――故に、圧倒的な物量で迫り来るガジェットへの恐怖を感じ得る思考はとっくに焼ききれていたと言ってもいい。
加え、今この魔術を使えるのは俺とアーチャーくらいなもの―――
「―――体は剣で出来ている」
自らを表す呪文に、自らを律する韻を持たせた言葉であり呪文であるものを呟く。
「血潮は鉄で、心は硝子」
強化や投影を行なうのとは違い、列を成すようにある二十七の撃鉄を次々にあげる―――行使するのは唯一つ、難しいはずはない、不可能な事でもない、もとよりこの身はただそれだけに特化した魔術回路なのだから。
「I have created over a thousand blades.(いく度の戦いを超え不敗)」
「いく度の戦いを超え不敗」
ガジェットへと空を駆ける俺の声に、別の声が重なるかのようにして聞こえ、視線を向ければ俺と同じ事を考えたのだろうビルからビルへと走り渡るアーチャーの姿を捉えた。
「Unknown to Deahe.Nor Known to Life(ただ一度の敗走もなく、ただ一度も理解されない)」
「ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし」
自己に対する詠唱をするなか、裡からもたらされる呪文はわずかな違いをみせ、
「Have withstood pain to create many weapons.
(彼の者は常に独り 剣の丘にて勝利に酔う)」
「彼の者は誰かと共に在り、剣の丘にて剣を研ぐ」
次の言葉では俺とアーチャーの道は違える。
「Yet, those hands will never hold anything(故に、その生涯に意味はなく)」
「故に、その生涯に意味は要らず」
正義の味方という理想を追い求め、ただ独り孤高を貫きあり続けたアーチャー。
守護者にまでなれた身だというのに、自身の生涯を自己満足なだけのはた迷惑な愚者が夢をみていただけだと語り、俺はアーチャーのように守護者になんてなれないけれど、セイバーやアリシアとの経験から自分一人では出来る事に限りがあるのを思い知った。
簡単な事だったんだ、俺を含め誰かが間違えたのなら諭せばいいだけなんだから、そもそも、俺が一人で頑張ったって大した事は出来ないだろう、でも出来ないなら出来ないで周りの人達の力を借りるなりすれば、俺には思いもつかないような知恵や妙案が出てくるかもしれない。
恐らく、俺一人ならアーチャーのように一を切捨て九を生かすようになってしまう筈だ、アーチャーが言うはた迷惑な正義の味方、そうならない為には周りを見ず一人で頑張ったり、助けたい相手も救いたい人達も今をよくするのに力を尽くさなきゃ駄目なんだろう、だからこそ俺自身は誰かが困った時に力になれるよう自身を磨き続ける道を選び、意義や意味にしても俺が望んで行なうだけの事、自分が好きで選んだのだから他人に意味を求めるのは筋違いの筈だ。
親父に憧れ選んだこの道、俺の好きで行なった結果で泣いている人や悲しむ人達が減るのならそれでいい、そんな独りよがりの正義の味方に意味も意義も必要ない、ただ―――理不尽に苦しむ人々が一人でも少なくなればそれでいいんだから。
「 So as I pray, unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)」
「この身は、無限の剣で出来ていた」
引き金を一斉に引き、次々と撃鉄が打ち下ろされる。
元々、俺が使える魔術は一つだけでしなかい―――強化も投影もその途中で出来ている副産物に過ぎない、自身の、自分自身の心を形にするだけの、無限に剣を内包した世界を作る魔術―――言霊を吐いた俺とアーチャーの世界は現実を侵食し変動させた。
炎が走り、燃え盛る火の壁は境界となって世界を一変させる。
固有結界、それは術者の心象世界を具現化する最大の禁呪であり、俺やアーチャーのただ一つの武器であり宝具と呼べるもの。
ここには全てがあり、おそらくは何もないのだろう。
故に、その名を『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』と呼び、生涯を剣として貫いてきたアーチャーが手に入れた唯一つの確かな答えでもあった。
燃え盛る炎にに包まれた錬鉄の世界、剣の丘から見渡す荒野には無数の剣が乱立し、墓標のように突き刺さる一つ一つが聖剣や魔剣と呼ばれる名剣、更に先には結界に引き込んだガジェット達が空から地上に集められて移されたからだろう、玉突き事故のように激突し始めている光景が広がり、やや離れた横の方では巻き込んでしまった航空魔導師達の姿も見られる。
そんな世界にアーチャーは空に回る歯車を幾つも背に立っていて、
「―――そういう事か得心した」
俺がアーチャーの後ろが見えるように、アイツも俺の後ろを見て言葉を呟く。
振向けばいつか夢で見た、世界を内包する樹がその壮大な姿を顕にしていた。
「小僧、アレがお前が契約したモノなのだろうな」
アーチャーは、そう口にしながら天を衝くような巨大な剣を囲むようにして航空魔導師達がいる場所へと刺して行く。
アーチャーの奴、あんな物を何処で見たのか知らないが、剣の檻というか壁に使われた巨大な剣は天使や精霊の軍団を相手に一人で戦った、ある巨人の英雄が手にしていたとされる剣であり、固有結界に巻き込んでしまった魔導師達に関しても、魔力素というリンカーコアが魔力を生成するのに必要なものがこの世界に在るのか難しいところだ。
例え、空での戦いに秀でた航空魔導師達ですら魔力を回復できずにいては魔力消耗という疲労を起こしてしまう、そういったのを防ぐ為に魔導師達がガジェットと戦わないよう隔離したんだろう。
後ろで巨大な姿を顕にしている世界樹の存在も気になるが時間が無い、今はガジェットを殲滅するのが先決だ。
幸いというか、固有結界の魔力消費はそれ程多くはない、多分、アーチャーと一緒に行なった事で魔力の消費が半分くらいですんだのと、この世界が俺達の世界よりも修正が弱いか、魔力回路から生成される魔力が強まっているのかのどちらか、もしくは両方の影響なのかもしれない。
まあ、アーチャーのは遠坂の魔力を使ってるだろうから後で遠坂には礼を言わないとな。
アーチャーが周囲に乱立する剣を浮かべ撃ち出しつつ向って行くのに遅れ、俺も周囲の剣をガジェットに撃ちだしながら突貫する。
この瞬間の差が俺とアーチャーの差、戦いに関して幾つか経験してきたがアイツとの差はサーヴァントと人間とかいう単純な差ではない。
経験―――それが俺とアーチャーでは明確に違う、ガジェットに剣の雨を降らし、剣を振るい前へ前へと進むが、赤い外套を纏った背中は常にその前を行く。
だけど、アイツは僅かに顔を動かし「―――ついて来れるか」とでも言いたげな視線を向けてきてたのでカッと頭に血が上った。
「てめぇぇっ――――っ!!!」
ガジェットの大軍を相手にしながらも俺は、必ずアイツを超えてやると心に決め、手にした双剣を振るい更に踏み出した。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
リリカル編 第16話
地上本部襲撃に続き機動六課は無数のガジェットの襲撃によって隊舎は壊され、およそ三十名の隊員の多くに負傷者がでた。
しかも、あれ程の事件を起こしたジェイル・スカリエッティの捜査すら地上本部はこれは地上の問題として協力の意思を見せずにいる。
でも、はやてちゃんは機動六課が追うのはスカリエッティではなく、飽く迄もロストロギア『レリック』の捜査で、その捜査線上にスカリエッティと今回の事件を起こした組織がいるだけと考え、廃棄処分が決定していた引退艦アースラに本部機能を移し活動を再開していた。
そんな折、スカリエッティ達は再び動きを見せ、実動隊だろう戦闘機人達は短時間のうちに守備隊と二基のアインヘリアルを壊滅させた後、複数のグループに別れながらも地上本部へ向うルートを目指す。
緊迫する状況のなか、捜査を受け持ってくれたアコース査察官からの通信が入り、スカリエッティの拠点を見つけたとの知らせが伝えられると、まずスバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人からなるフォワード部隊を地上部隊の援護に向かわせ。
騎士カリムの許可の下、今まで部隊保有魔力の制限からリンカーコア出力の制約を完全に解除した私達隊長副隊長のうち、フェイトちゃんはアコース査察官が見つけた拠点の増援として。
シグナムはリインフォースと一緒に、一週間前、本部が襲撃を受け際に現れヴィータちゃんと交戦した騎士、ナカジマ三佐から聞いた話では元首都防衛隊のストライカー級だったというゼストが向う中央本部へと別れた。
残りは―――
「魔導師部隊陣形展開、小型機の発着点を叩いて!」
「なかへの突入口を捜せ―――突入部隊、位置報告!!」
はやてちゃんの指揮の下、空戦魔導師隊がガジェット達を押さえ、ヴィータちゃんも突入口を探して鉄槌を唸らせる。
「第七密集点撃破―――次っ!!!」
急がなきゃ、「痛いよ、怖いよママ……」ゆりかごの王座に縛りつけられたヴィヴィオの助けを求める姿が脳裏を掠める、もうすぐだよヴィヴィオ、もうすぐなのはママが助けに行くから!!!
「っ、なんや動きが―――変わった?」
攫われたヴィヴィオを心配しつつも、ゆりかご内部へ続く突破口を探していた時、今までゆりかごの護衛として近づく者達を排除しようとしていたガジェット達がクラナガンの上空に近づいた途端動きを変え、はやてちゃんは逸早く気がついた、けど―――
「不味い、街の方に向うぞ!?」
それまで、護っていた筈のゆりかごにガジェット達は次々にそっぽを向いてクラナガンへと飛び去り始め、その様を目の当たりにするヴィータちゃんは瞬間的に追撃するかこのまま突入部隊の警護を続けるかの迷いが生じたよう。
「あかん、あれだけのガジェットが街に入ったら大事や!?
突入部隊はそのまま作業を続行!
なのはちゃんとヴィータは、内部への突入口が出来次第突入や、外のガジェットは私と魔道師隊で当たる―――魔道師隊は、突入部隊への護衛を残しガジェットを追うで!!」
相変わらずゆりかごからは次々とガジェットは出て来るものの、出た途端にクラナガンに機首を向け飛び去ろうとするガジェットの動きに、捲くし立てるようにして指示を出したはやてちゃんは追撃し、続く魔道師隊も護衛が去り、まるで裸のようになったゆりかごからクラナガンに向かい飛ぶガジェット群への追撃を開始する。
状況が一変した―――
それまで、ゆりかごの外壁を壊し内部に侵入しようとする突入部隊を排除しようとしてきたガジェットはいなくなり、ゆりかごを操る犯人も予想していなかったのか次々にガジェットの増援を出すけれど、発着点から現れるガジェットはその尽くがクラナガンへと飛び去って行くだけになってしまう。
そうなれば、外壁を壊し突入口という内部に侵攻する為の橋頭堡を作る突入部隊の作業ははかどるのだけど、私とヴィータちゃんも幾つかの発着点から現れ、飛び去るガジェットを撃破して行くものの、ゆりかごの防衛すら棄てるガジェットの行動の不可解さに困惑していた。
「っ、一体なんなん………まて、分断されたのか?」
「それは無いと思う。
他の航空魔導師隊と分断するにしても、ゆりかごの防衛まで棄てする意味は無いから」
ヴィータちゃんは、もしかしたら街に向ったガジェットを追う魔道師隊とゆりかごの間に十分な距離が出来てから残った方を叩くのかもしれないと想像したようだけど、それなら初めからゆりかごの周囲に展開するガジェットの数を増やして対処すればいいだけの話しだし、一体なにが起きているのか……
「………」
手掛かりは数少ないけれど、その内の一つ騎士カリムのレアスキル、預言者の著書(プロフェ―ティン・シュリフテン)の前の予言では、
『古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、
死せる王の元、
聖地よりかの翼がよみがえる、
死者達が踊り、
なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、
それを先駆けに、数多の海を護る法の船も砕け墜ちる』、
というものだった。
解釈として、古い結晶はレリック、無限の欲望とはジェイル・スカリエッティを指しているのだという。
死せる王の元、聖地より帰った船の意味は多分……ヴィヴィオとゆりかご、踊る死者達は戦闘機人や、八年前に殉職した筈の騎士ゼストを指し。
なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ちの意味するのは地上本部の壊滅、それを先駆けに、数多の海を護る法の船も砕け墜ちるは、ロストロギアを切欠に始まる管理局システムの崩壊を示していたという。
でも、機動六課が設立された影響なのか予言は変わっていて、
『古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、
死せる王の元、聖地よりかの翼がよみがえる、
死者達は歌い踊り、異邦人達を連れ舞い戻らん、
なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、
民の願いは空を染め、
死せし王、剣を振るいて翼を斬り裂かん、
それを境に数多の者達、無限の英知の帰還を知る』、
になっていた。
予言のうち、初めの方は前と同じ予言が含まれているけど、前まで踊るだけだった死者達は歌いだして楽しそうになっていて、更に誰かを連れて来る意味合いを示し。
地上本部の壊滅によるものなのか、人々の願いは空を染めるとなっている、ミッドチルダの人々が受ける衝撃は計り知れないのは解るけど……
それに、死せし王、剣を振るい翼を斬り裂かんって意味はヴィヴィオが剣を使ってゆりかごを壊すって事を指しているのかな?
でも、最後のそれを境に数多の者達、無限の英知の帰還を知るっていう意味が解らない、ヴィヴィオが聖王にまつわる血筋だとしても『無限の英知』が指す意味が何なのかが不明過ぎ。
交戦ではなく、飛び去るガジェットを後ろから狙撃するだけとなった今では、余裕から予言の解釈を上手くすればヴィヴィオを助けられるかもしれないと思い、マルチタスクの一部を使って考えてはいるのだけど上手く答えは出てこない―――何処かで何かのピースが欠けている感じがする。
幾つものマルチタスクを行いながら、周囲を警戒を行いつつ突入部隊が外壁に穴を開けられるまでガジェットを墜していた時、遠目に地上の方から空に駆け上がって来る人影を捉え―――
「なっ!?」
突如、広がった炎に包まれたと思えば炎が消えた時には、それまでいた筈のガジェットもはやてちゃんを含む魔道師隊も姿を消していて。
「―――っ、はやてとの繋がりが無くなっちまった」
「それって!?」
ヴィータちゃんの呟きに驚きを隠せない。
夜天の書の主であるはやてちゃんと、守護騎士のヴィータちゃんの間には互いに感じあう繋がりがあるけれど、それが感じられなくなったって事は―――
「なんだよ!なんなんだよ今のは!?」
「……多分だけど、今のは何かしらの結界魔法だと思うからはやてちゃんも魔道師隊も無事の筈だよ」
あの極一瞬とも思える時間内で、はやてちゃんや魔導師隊をどうにか出来るとは思えない、系統化されている魔法のうち、今の条件から消去法で導いた結果が結界魔法なんだけど、はやてちゃんとヴィータちゃん―――恐らくは他の守護騎士達との繋がりを一時的にしろ遮断してしまえる結界魔法なんてそう多くはない筈。
でも、今みたいに炎で包み込むようにして消えてしまうようなタイプは見た事が無いな……
上がって来た人影は街の方から走って来たから地上部隊の隊員だと思えるし大丈夫だと思えるものの一抹の不安が残ったのは確か。
「それでも、こんな時なのにはやてや魔道師隊まで巻き込んでどうすんだ!!ちくしょうっ、はやて――――――っ!!!」
恐らく、地上部隊もまだ一週間前の襲撃の影響が抜けてなく、いまだ指令系統に支障をきたしているのだと思うけど、ヴィータちゃんの叫びが蒼穹に響き渡って程なくして地上部隊の展開する辺りから竜巻が上がり、ゆりかご周辺で展開する魔導師隊に向け強力な砲撃が行なわれる為に離れるよう要請が告げられた。