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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] リリカル編07
Name: よよよ◆fa770ebd ID:0a769004 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/27 19:44

プレシア・テスタロッサが私達の世界のアリシアとの通信の最中に突如倒れる姿が映し出されると、アースラ艦長のリンディは何かあった時の用意なのか、又は交渉が決裂した時の備えなのか事前に転送ポートへと集結させていた武装局員達を素早く送り込みその身柄を確保した。
そして、慌しくアースラの医務室へと移されたプレシア・テスタロッサを検査した医療班の見立てでは、全身に悪性の腫瘍が転移していてアースラの設備では手の施しようが無いと診断され。
急遽設備が整っている時空管理局本局とか呼ばれる、何というかSFとかに出てくる宇宙要塞のような所へと向かいそこの集中治療室へと運び込まれる事になった。
私達にしてもアリシアが居る以上、無関係という訳にはいかないのでフェイトとアルフと一緒に集中治療室の前にてプレシア・テスタロッサの意識が戻るのを待つ事にし。
見渡せば運び込まれた医療施設は時空管理局という異星文明ではあるけど、感性は私達の世界と同じらしく病院の通路や内装は簡素なものになっている。

「お母さん大丈夫かな……」

壁にもたれ掛かるアサシンを背に、両手にポチを抱き佇むアリシアは集中治療室の中を眺めるながら呟く。
ガラスのような透明な仕切りから窺えるプレシア・テスタロッサは顔に呼吸を楽にするだろうマスクがつけられ、体の各所には薬剤か栄養剤かは解らないけれど何本かの点滴のチューブが伸びている。

「……母さんがそんな酷い状態だったなんて知らないでいた」

「フェイトだけじゃない、私もだよ」

俯きながら病院らしい実用本位の飾り気のない長椅子に腰を下しているフェイトは、今まで母親であるプレシア・テスタロッサの振る舞いから病状を窺える要素が無かったのかと自分を責め、隣に座るアルフはそんなフェイトを慰めていた。
そういえば、ミッド式魔法に属する使い魔と主は精神リンクというパスがあるらしいからアルフはフェイトの心情を察したみたいね。
この二人はロストロギア、ジュエルシードの事故に関する重要参考人とされているものの罪状はロストロギア不正所持と公務執行妨害であり。
それの刑罰にしても、精々二、三ヶ月の保護観察処分で終るだろうとクロノは語っていた。
まあ、それ以前に司法取引というか、そのクロノっていう事務員はアースラが本局に戻る必要がある事から、残りのジュエルシード監視の為としてフェイトの承諾を得た『時の庭園』とかいう移動庭園から武装局員達と共に監視に当たっている、多分、この事件が終ったら刑罰とかじゃなくてなのはとユーノ同様、何らかの報償があるかもしれない。

「もしかすると、プレシア・テスタロッサは自身の死期が近いことを悟り貴女達に厳しく当たっていたのかもしれない」

「そうかもな……」

フェイト達と同じく長椅子に座るセイバーや衛宮君は、アルフからフェイトが受けていたいう虐待について考えを巡らせているみたい。
でも―――

『どう思う、アーチャー?』

『状況からはセイバーの言う通りにも判断出来るが、それまで研究一辺倒で滅多に会う事すらなかったという経緯からすれば虐待は別の意味だろう』

『それに、フェイトとアリシアと話していた時のプレシアの様子……』

『恐らく、凛の予想通りだと私は見るがね』

『………そう』

私は目蓋を閉じ息をはく、私の想像が正しいのならフェイト・テスタロッサっていう女の子は、プレシアにとっては道具かそれに似た存在でしかないのだろうと。
凡そ一代で魔法に至った稀代の魔導師プレシア・テスタロッサ、並行世界の人物とはいえその在り方は魔術師のそれに近いと予想するのは容易い。
なら、魔術とミッドチルダ式魔法が違うように時空管理局とかいう組織が治める魔法文明にとっては異質で異端、狂っているとすら思われるかもしれない、間桐に引き取られた桜程の扱いは受けて無いでしょうけれど、生体改造とか少なからずあの娘は同年代の他の娘達が受けないような虐待か、それに似た何かを受けている筈だ。
ただ……気になるのはアリシアと話していた時のプレシアの反応、それが、フェイトよりもアリシアの方が資質が高いからこその喜びだったのか、本当に虐待でフェイトは母親であるプレシアに憎まれた被害者だったのかは本人でないと判らない、か。

「遅くなったわ、ご免なさい」

私が考えを巡らせていると、カツカツと廊下に音響かせながら早足に歩くリンディの姿が現れる。
急ぎ本局内の医療施設が必要になったとはいえ仮にも軍艦が入港するのだ、施設の手配以外にも艦長ともなれば上への報告とか様々な雑務はあるのは仕方が無い。

「クロノからの連絡からだと、フェイトさんから借りた時の庭園でのモニタリングは順調に進んでいるみたい。
それから、なのはさんとユーノさんの二人には一旦戻って貰ったわ、なのはさんの家族や友人が心配するといけないもの、でも、もしもジュエルシードの魔力波動を検出したとしてもクロノと武装局員で対応出来るから安心して」

そうさりげなく話すリンディだけど、何処と無くぎくしゃくしていて芝居が掛かっているようにも見られる。

「それはいいとして、検査の結果はどうでしたか?」

「………医者が言うには、あの容態でよく動き回れたって不思議がっていたほど。
症状の進み具合からして、もう何年も前から蝕まれていたのでしょうね……それが、アリシアさんと話している際に気を抜いてしまい意識を失ったそうよ」

「そんなに酷かったのか……」

席から立ち上がったセイバーはリンディに向き直り訊ねるが、リンディは奥歯をかみ締めるようにして表情を歪め唇を噛み、それを耳にした衛宮君は両手を握り締めた。

「聞いた限りでは、あと一ヶ月は持たないそう。
それに……あの容態では正気だったのかすら怪しいものでしょうね」

「―――そんな!?」

「あの鬼婆がね……」

リンディが口にするプレシアの命の短さに、驚きと戸惑いで目を見開くフェイトの隣では、アルフが今までの事を振り返っているのかしみじと声を漏らす。

「それから、時の庭園内でこちらの世界のアリシア・テスタロッサの亡骸も確認したわ……アリシア・T・衛宮さん、貴女は正真正銘、不可能領域魔法の使い手として認識されたわよ」

アリシアを見るリンディの表情からは、今だ信じきれない様子が窺える―――まあ、それもそうでしょうなんたって私達の世界でいう魔法の領域なのだから。

「どうでもいいよ、そんな事」

でも肝心のアリシアはリンディの視線を受け、ちらりと視線を返すものの、心の底からそんなモノに価値などないように呟くと。

「うん―――私、決めたよ。」

ガラス越しに窺える集中治療室のベッドに横たわるプレシア・テスタロッサに戻した。
多分、この娘にとって名声などというものは大して意味をなさないのなのでしょう。
間違っても魔法、それも並行世界の干渉という第二に対して言ったのでは無いと思いたい―――つ~か、それ言われたら家の家系に喧嘩売ってるようなものだし。

「決めたとは?」

今まで後ろの壁に背を持たれかけ掛けさせ、静かに両目を閉じていたアサシンだけど、アリシアの言葉に片目を開け問い質す。

「この世界のお母さんが護ろうとしていた地球を、ジュエルシードの脅威から護るの、でないと安心して逝けないと思うんだ」

「―――そうか、そうだよな」

「確かに。逝くにしても、心残しがあるのとないとでは違う」

「そうよな、あながち間違いではない。
安心できず成仏出来ねば、死して後も彷徨うはめになるだろうよ―――女狐の下で門番をしていた頃は、毎夜毎夜、迷ったモノ達が彷徨い来てたのでよく解る」

ガラス越しにプレシアの容態を窺うアリシアの小さな背を見つつ、衛宮君とセイバーも頷き、聖杯戦争の時にキャスターの下で山門に囚われていたアサシンは夜な夜な寺へと彷徨い来る幽霊の姿を目撃してたのか思い出すようにして語る。

「だからジュエルシードの事は時空管理局と私達に任せて、フェイトさんとアルフさんはお母さんが気が付いた時に安心出来るようにここで待っているといいよ」

如何やらアリシアの中のプレシア・テスタロッサ像は、蒼く輝く地球に突如降り注いだジュエルシードという脅威、それに立ち向かうフェイトとアルフを派遣し指示を出す長官とか司令官とかになっているのかもしれない。
そういえば、あの娘ってその手の番組をよく見てるとか桜が言ってたっけか、でも衛宮君がマッチョと同じになるとかならないとか言いながらアーチャーに詰め寄って困らせてたけれど何だったのかしらね……

「そういや、アンタの所は亡くなったんだっけか……」

アルフは、自身が何者なのかという不安や母親を失う悲しみで俯き堪えているフェイトを抱きしめるようにしながら、一人じゃないと安心させるように頭を撫で続けている。

「そうだよ、私も生き返った時に本来のアリシアとは違うモノになったけれどね。
でも、私はこうして今を生きているし、例え思い出だとしてもお母さんと一緒にいた時の記憶と想いは間違いじゃないと思う―――だから、お母さんに心配させないよう前を見て生きないと駄目なんだ」

わずかに振向き口にするアリシアの姿は小さいながらも何故か大きく見える、きっとこの娘は神霊級とかで強いだけじゃなく、芯である心根そのものが凄く強いのだと解った。
同時にこの娘が誤ったまま育つ事の危うさも、アリシアもまた衛宮君やアーチャーと同じで動き出したら止まらないタイプ、しかも、衛宮君やアーチャーとは違い実力は神霊級ときた……誤った目標で突き進んで行けば、数ある神話と同様、周囲に悲劇や災厄を振り撒く存在になってしまうでしょうね……

「でも、他にも手立てが無い訳じゃないでしょ?」

「何かあるの―――っ!?」

「手立てって―――イリヤの魔法にでも頼るのか?(……確か遠坂には、アリシアも第三魔法っていう魂の物質化が使えるのは言ってなかった筈だよな?)」

胸の内で心の贅肉ねと呟きながらも、私は口にするとセイバーは途中で「はっ」と何かに気が付き、衛宮君にいたっては魔法に至ったイリヤに頼むのかとか言って来る。
たく、仮にイリヤに頼んだとしたらプレシアの問題も解決するしょうけど、奇跡である魔法との等価交換なんだからその対価は桁違いになるのは間違いない、そんなものを誰が払うのよ……

「あのねぇ、衛宮君。私達が目指すものは何だか解ってる?」

「神の座だっけか?」

「そう。でも、それは本来なら人の一生をかけても到底到達するには短過ぎるの。
だからこそ、魔術師は様々な系統を研磨・研究して延命する術を磨いてきたのよ―――イリヤが至った第三はその究極の一つだけど、プレシア・テスタロッサの状態なら魔術のレベルで十分だわ」

罵りたいのを抑えつつ、私は目の前にいる一代で根源に至りながら魔術しか学んでこなかったというトンでも野郎に対し溜息をはいた。

「ここ本局の設備と医師達の腕は私達の世界のでも最先端を行くのよ、その医師達が匙を投げる程の症状なのに―――貴方達の魔術なら可能だというの?」

「考え方の違いね。治せないのなら、体を移し換えてしまえばいいのよ」

「体を移す?」

「そう、要は魂を別の入れ物に入れ換えるってこと」

別のミッドチルダで予想した通り、ミッド式魔法にはこうした術は磨かれてこなかったらしく、リンディは私の言う魂の移し換えという方法を訝しんでいる。
―――けれど、出身はリンディと同じミッドチルダとはいえ、私達の世界にて魔法という奇跡を扱える者、即ち賞賛と畏怖を込めて魔法使いと呼ばれる筈のアリシアまで「お~」とか、まるで、そんな手があったんだってな表情をされると私としてもどう答えればいいのか分らなくなる……

「そうすれば母さんは助かるの?」

「多分ね」

魔法使いとしては問題児なアリシアを他所に、目の前に提示された希望という名の光に釣られたのか、俯いていた顔を上げ私を見詰めるフェイトに頷いて答える。
心の贅肉だと解っていながら私は目の前のフェイト・テスタロッサという何処となく儚い雰囲気を纏う少女を放って置けなかった。
だからこその提案、知り合いに腕いい人形師を私は知っているけれど、封印指定にされる程の人形師である彼女は相当高い筈だ……まあ、その辺の支払いはアリシアに立て替えて貰って何れフェイトに返してもらえばいい。
そうすれば、返済するまでフェイトが如何すればいいとか、なにをしたらいいとか余計な事を考える余裕はなくなるでしょうから。

「取敢えず、簡単にでも調べたいからプレシアの状態を診せて貰っていいかしら?」

「ええ、医師から中に入る許可は貰っているから」

「そう。なら入らせてもらうわ。
それから―――集中したいから皆は私の後にしてね」

私は集中治療室の扉を開けると中に入ると、痛みを緩和するためでしょう、麻酔を施された事によって規則正しく静かに寝息を立てているプレシア・テスタロッサへと歩みを進める。
今でこそ安らかに寝ているけれど、恐らく彼女を蝕む病は安らかな眠りすら許さなかっただろう、だからか一時期的とはいえ薬により苦痛を緩和された彼女は深い眠りの中にあった。
実は集中したいからというのは嘘、私が魔術を使い解るとすれば精々体と魂の大まかな状態くらいだ、それなのに何故かと問われればフェイトとプレシアの仲をどうにかしたいという心の贅肉。
多分、桜が間桐に出された後すぐに助け出していればという後悔や、四次で父さんを失い悲しみからか正気を失った母さん、それらへの代償行為と言われればそうなのかもしれない、けれど、何というか放って置けないのだこの母と娘は……

「――――――Anfang(セット)」

魔力回路のスイッチを入れると同時に、左腕の魔術刻印を起動させる、祖先から脈々と受け継がれてきた魔術刻印に固定化された魔術、そのうちの一つ発動させるとプレシア・テスタロッサの記憶を読み始めた。
記憶を視ているうちに色々な事が解る―――功を焦り安全管理を怠った会社上層部が引き起こした魔力炉の暴走、それよる愛娘アリシアの死、それを目の当たりにした嘆きと絶望、失ったモノを取戻そうとした研究と技術、プロジェクトF.A.T.Eと呼ばれる任意のプログラムが書き込める『新たな容れ物』としての人造生命の開発。
そして蘇った……いえ、アリシアの記憶を持ったモノは人格が違った、他にもわずかな記憶が無くなっていたりアリシアとは利き手や受け継がれる事のなかった魔力資質―――それも、アリシア本人の命を奪った忌まわしき輝きに似た金色の輝きときた……
だからか、本物のアリシアに対する愛情が深いからこそ、プレシアにとってフェイトはそれすら奪い取る悪魔か悪鬼にしか見えなくなってしまい、自身がアリシアと呼ばれていたことを消したんだ……

「救われないわね……」

このままだと二人共救われないのは確か、例えプレシア・テスタロッサの魂を人形に移し変えたとしてもフェイトに対する見方は変わらない。
プレシアにしても、魂を失ったアリシアの亡骸の記録を頼りに幾度複製を創ろうとも肝心の魂が失われてしまっている以上、恐らく彼女の努力が報われる日は来ない。
それは、私達の世界のアリシアにしても同じ……いえ、あの娘は自身をアリシアとは違うモノと称していたから自覚してる、か。
例え『原初の海』とかいうトンでもな神様が魂の欠片ともいえる残留思念を纏め上げたとしても、それだけでは到底足りるはずが無い、だからこそ他に何かを加える事で魂として造り上げている筈だ。
以前は在ったモノが無く、代わりに別の何かが入っている以上、あのアリシアは元々のアリシアとは違うモノと判断する必要がある―――だからアリシアは自身の事を違うモノと称したのでしょう。

「正に心の贅肉ね……」

仕方ないとはいえ他に方法も無いので、私は―――わずかでもきっかけとなるのならばと記憶を書き換える事にした。
でも、魔術すら用いた記憶操作ですら矛盾が大きければそこから記憶が戻ってしまう、だから私はプレシアの記憶を更に視続ける、すると、プレシア・テスタロッサが何故フェイト達を使いジュエルシードを集めさせていたのかが判る。
ユーノ・スクライアが発掘したジュエルシードは次元干渉型エネルギーを秘めた結晶体だ、その次元干渉というのがポイント、何故ならプレシアの目的はミッドチルダでも在ったとされているものの実在がはっきりとしない太古の文明―――次元干渉により穴を開け、長年の研究からプレシアが世界の外へに在ると判断したアルハザードへと至る事。
………成る程ねぇ、目的が根源という神の座と、アルハザードとかいう神代レベルの魔法が普通に存在していた文明との違いはあるけど、不可能領域魔法と呼ばれる私達の世界でいう魔法の域に至る事が目的なら、プレシアはこの世界の魔術師と呼べるのかもしれない。

「―――あった」

プレシアの記憶を視続けようやく見つける、わずかな希望を―――それは、仕事でプレシアが一緒にいてくれない寂しさからか生前のアリシアが妹をプレシアに強請っていた記憶。
その記憶の印象を強めにし、アリシアとしては失敗だったフェイトを廃棄するよりもロストロギア等を使った違法・禁忌の術を行う際の実行役として残すのではなく、例え失敗だったとしてもアリシアが蘇生した時に妹がいれば喜ぶだろうに変え手伝わせ、虐待については一向に進まない研究によるストレスや体を蝕む病の苦痛によりやってしまったという風に、他にもアリシアが命を失った原因となる暴走事故の輝きを少しだけ違うように改竄した。

「これで、少しはフェイトを自分の娘だと想えるようになれればいいのだけど……」

この程度ではすぐに元通りとはいかないでしょうけど、二人が時間を掛け親子として接する機会が増えればプレシアにも変化はある筈、そう―――願いたいわね。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

リリカル編 第07話


集中治療室へと入る遠坂を見送った俺達は、左腕の魔術刻印を起動させので何らかの魔術を行使しているのだろう、フェイトの母親であるプレシアさんが横たわるベッドの傍らに立ち動かなくなった姿を見守る。
ここからだと、遠坂の背中で左腕が隠れてしまうから何をしているのか判らないけれど、こと魔術に関して俺は遠坂に及ぶ筈もないから、多分、判ったとしても何をしているのか理解出来ないだろうな………まあ、遠坂の事だから変な真似はしないとは思うけど。
とか、そんな事を考えていたら―――

『それにしてもアリシア。
聖杯の力ならば、あのような病すら治せる筈。
何故、プレシア・テスタロッサが病に蝕まれているのを知ったのにも関わらず聖杯を使わなかったのですか?』

『ほえ。だって、使うにしても使わないにしてもちゃんと聞いてからじゃいと駄目なんだよ』

『やはり使うつもりだったのですか……』

セイバーとアリシアの交している、念話という秘匿性の高い会話を俺にも聞こえるようにしている以上、関係する話題なのは当たり前なのだけど―――アリシアは世界に穴を開けれて外にあるという膨大な力、俺達の世界でいう処の聖杯を自由に使えるのだからそれを使えば解決するのには気が付かないでいた。

『ん~、それに聖杯じゃなくても体を創り直せばいいだけだから、別に聖杯を使わなくても第三魔法の応用とかで十分だよ?』

『いえ、そういう話ではありません。
もしもの場合、貴女が魔法や聖杯を使いプレシア・テスタロッサを生き返えさせるのもよいでしょう、しかし、その時貴女は人では無くなると言いたいのです』

『―――そういう事か。
確かに、奇跡というモノを容易く行うのならばそうともなろう』

アリシアとセイバーの会話にアサシンの声が混ざり振向けば、「あの時我らを受肉させたモノは、冬木のモノではなく別のモノであったか」とか呟き頷いている。
アサシンやセイバーを受肉させたのは、多分、アリシアが使える聖杯なのだろうけど、あれ……待てよあの時は第三魔法だったけっか?
聖杯戦争の事が随分昔の出来事のように感じてしまい、既に記憶が曖昧になっていて詳しくは思い出せないでいる。
まあ、そんな事はどうでもいいとしてアサシンはアリシアの護衛の仕事をしているし、何より一緒に生活している仲だからセイバーにしても部外者って訳にはいかないのだろう。

『ええ、恐らく奇跡を成し遂げた貴女も元には、多くの者達が押し寄せ同じ様に奇跡を求めるでしょう―――そして、何れ貴女は人から神と呼ばれる存在になる』

『別に呼び方なんか如何でもいいけど……』

『そういった意味ではありません、私はかつてシロウの養父、衛宮切嗣に英雄など人類にとって必要ないものだと説かれた事があった。
英雄等という存在は、戦場という凄惨な地獄を華やかな武勇譚で人々の目を晦ましてしまうからだと。
それを踏まえ貴女に語りましょう、容易く死というものを覆すのならソレは神と呼ばれるモノになるだろうと―――それも、死から遠ざけられた人々はいずれ死を軽視し恐れなくなり命を緩慢に腐らせるだろう神に。
そうなれば、アリシア貴女は人と呼べる存在では無くなる、それを念頭に人のままでいるか神になるか選ぶべきだ』

『命を腐らせるのは言過ぎかと思うが、概ねセイバーの言う通りであろうな。
ソレが奇跡を扱える魔法使いか畏れられる由縁、その者達が神にでも悪魔にでもなれるという意味なのであろうよ』

『あう……私は人じゃないと困るよ。
でも、フェイトさんとか悲しんでいる人がいて治せる手段が有るのに使わないのは可哀想だよ』

『……それはアリシアの言う通り難しい処だ。
ですが―――この事は心に留めて置いて欲しい』

セイバーやアサシンの言いたい事も解るし、アリシアを心配する二人の気持ちも解る。
まだ幼いとはいえ、アリシアの力は神霊級という途方もない力であり、更には聖杯という万能の力まであるのだ、アリシアの事を思えばその力の使いようには気を付けないといけないだろう。
ふと、かつて衛宮士郎として生き、守護者にまでなったアーチャーの記憶を思い出す。
アイツですらどんなに助けを求められても、どんなに助けたいと願っても助ける事が出来ない、請われても応えてやれない出来事等は山のようにあった。
でも、使い方次第では万能となる力、聖杯ならそれが出来る、誰も傷つかず、哀しむ人達のいない世界それはどんなに―――でも過去を改竄してしまうというのならアイツは求めないだろう。
俺だってそうだ、聖杯の力で死んだ人間を蘇らせたり、悲しい過去を変えたりするのなら、そんな間違った事は望めやしない。
だけど、重い病に蝕まれているとはいえフェイトの母親はまだ生きている、起きた事を無かった事にしてしまうやり直しとは違うんだ。

『セイバー、少し厳しくないか?』

だから俺は念話を送りセイバーを見据えた。

『フェイトの母親のプレシア・テスタロッサを助けたいという願いなら、そこまで言わなくてもいいだろ。
何よりアリシアはもう自分の母親を失ってるだ、同じ悲しみをフェイトにも味わせたくないんだとと思う』

『しかし、士郎。人というのは思いの外弱いもの、聖杯戦争を体験した士郎なら解る筈。
人々から英雄ともてはやされた者達すら叶えたい願いがあったのだ、そうでない者達が知ればこれ幸いに群がるであろうと予想するのは容易い、とな』

『そうですシロウ、現に私達の世界でも言峰綺礼はアリシアを神と称し崇めているではありませんか……』

俺の言葉にアサシンが答え、続いてセイバーが付加え、あの神父は既にというか色々と手遅れですがといった感じで軽い溜息をはく。
そう言われればそうか、俺の魔術の師である言峰はアリシアを降臨された神とか言って勝手に信仰していたっけか……でも、傍から見ればちっちゃい女の子を信奉する神父だからなあ、セイバーが思うように色々と手遅れなのかもしれない。
そんなセイバーは再びアリシアに視線を向け。

『プレシア・テスタロッサの方は凛が上手くやってくれるみたいですが、アリシア、貴女はどうか自身の力の使い処を間違わないようにして下さい』

『うん、私も人でいたいもん。
使うにしても、他の人達に知られないようにして行うよ』

「どうかしたのかい?」

念話で会話していた俺達の様子を訝しんでいるのかアルフが見詰め、フェイトにしても如何かしたのかとやや不安な様子だ。
多分、表情を変えてないけれどリンデイさんも何かあったのかと思っているに違いない。

「なに、魂を別の器に入れ換えると言っていたがどの様なものかとな」

「そういうこと。そうね……そう言われると確かに気になるわね」

俺が不味いと過る間にも、壁に寄り掛かったままのアサシンが助けを入れてくれリンディさんの表情が変わる。

「ん~、ルビナスさんに作って貰えばいいんじゃないかな。
ルビナスさんのホムンクルスは丈夫で長持ちするし」

「そうだ―――いや、まてアリシア。
ルビナスのホムンクルスは千年以上の耐久性があるけれど、さすがに千年以上もの寿命は普通の人にとっては如何だかな……」

「―――っ、千年!魔術師ってそんなモノが作れるのかい!?」

「ちょっと長過ぎかな……私の方が先に死んじゃうね」

提案するアリシアだけど俺の言葉にアルフとフェイトは驚き目を丸くしている。
それもそうか、俺達の世界でもルビナス並のホムンクルスを創れる魔術師は居ないかもしれなのだから……

「だったら、キャスターさんに頼むとか?」

「神代の魔術師であるキャスターならば、相応の器を作るのも出来るでしょう。
しかし―――その考えは危険だ、その対価は計り知れない」

「左様、如何に惚気て緩んでいようともあの女狐は危険といえよう。
他にも、器を作るにしても材料探しから始めるのではないかという懸念もあるしな」

更に提案を続けるアリシア。
だけど、セイバーとアサシンの言う通りキャスターは止めた方がいいな、はじめは善意で引き受けてくれそうだけど、途中で悪知恵ひらめいて土壇場で裏切りそうな気がする。
まあ、それ以前の問題としてアサシンの言う通り、作ってやるから材料持って来いとかになったらそれはそれで大変だ。

「フェイトさんのお母さんの容態からして、今から材料を探してたら間に合わないわね……」

「そうでもないよ。この世界と私達の世界とでは時間の共有は行われていないから、向こうで材料を探したり器を作ったりして時間を掛けたとしても、こっちの世界から向こうに行く際に目印をつけてから行けばその時間軸に戻れるもの」

「はぁ………何ていうか、不可能領域の魔法ってのは凄いんだね」

プレシア・テスタロッサの容態はいつ危険にな状況を向えても不思議ではない状態、リンディさんは検査をした医者からそれを伝えれているので時間を掛けるような方法は選べないのだろう。
しかし、アリシアの使える第二魔法はそういった事象すら意味のないモノと化してしてしまうのだ、聞いていたアルフは呆れた表情をしてアリシアを一瞥する。

「時間軸に戻れるって事は時間遡行とかも出来るの?」

「ん~、やり直しとかはしない方がいいよ。
過去を変えるとそれはそれで色々と問題が―――」

話を聞いてたフェイトはある事に気が付き訊ね、それにアリシアは口を開き答えるものの「あっ」て表情になり閉ざし。

「―――ジカンッテノハ、ナガレルホウコウガキマッテルモノダカラデキルワケナインダヨ」

と、フェイトに目線を合せないようにしながら再び語り始めるものの、その態度からしてバレバレだろう。
見れば、やはり分ったらしいリンディさんがクスリと笑みを浮べていたりする……

「アリシアは凄いね……私なんか及びもしないよ」

「そんな事ない。フェイトは一流の戦闘魔導師なんだ、フェイトに勝てるような奴はそういない。あの白い娘―――ええと、なのはだっけか、そいつだって勝てなかっただろ」

「でも、もう加減が出来る相手じゃないよ―――なのはは」

「たく、フェイトにそう言わせるんだから立派なものだよなのは、は」

呟くように口にするフェイトにアルフは微笑みながら髪を撫で励ましているのだけど、アースラに記録されていたなのはの映像を見る限りでは並みの魔術師なんかでは太刀打ち出来ないレベルだったりするのだけど、肝心のなのははミッド式に出会ってからまだ一ヶ月もしていないそうだとか。
で、そんな呆れてしまうような才能を持つなのはに対してフェイトは幾度か勝っているそうだ、でも、なのはとフェイトが戦ったらそれは既に子供の喧嘩ってレベルじゃないよな……ミッドチルダってのは子供の喧嘩ですらそんな凄まじいのだろうか?
まあ、それは置いとくとして、フェイトの言う事ももっともだろう、何しろ世界の情報を書き換えたりとかで大人になったり身体能力をサーヴァントであるランサー並にしたりとか、俺の世界でいう魔法が使えるとか、万の軍勢を相手に一方的な殲滅戦をしたりとか、『原初の海』とかいう滅びそのもののような神様を呼べるとか色々ある―――というか、だからこその問題なんだけど。

「ところで、フェイトってどんな魔法が使えるんだ?」

アリシアについてまだまだ教えないと駄目だなと溜息をはいた俺は、話を逸らす意味も兼ねて訊ねてみる事にした。
すると、フェイトの得意魔法は投射魔法のフォトンランサーとか圧縮魔力刃のアークセイバーとか、広域雷撃魔法のサンダーレイジ他にも捕縛魔法や近接戦闘も得意だそうだ。
それらを組み合わせて最も得意とする距離は、射撃を放ちそれを避けたり防いだりしても、高速移動魔法により一瞬で距離を詰め近接戦闘が行える中距離だそうなのだけど……フェイトってそういった方面の魔法しか学んでないのが判り戦闘魔導師って名称の由来も想像出来た。
勿論、遠坂にへっぽことすら言われてた俺に比べればアリシアと変わらない歳から積み重ねてきた錬度からして別次元なのだが………プレシアさんは一体どういう教育方針で子供を育ててるのだか、フェイトの受けてきた教育を聞けば何故アリシアが物事を拳で語るような性格なのか判らないでもないな―――って、本当に大丈夫なのかミッドチルダは。
管理局の地上本部とかいう偉い人が何とかして治安を向上させようとしているみたいだったけど、その前に教育方針から変えないと駄目なんじゃなのいか?
そんな疑念を抱きつつも話を続けていると、並行世界だからなのかリニスという山猫がアリシアの世界では普通の飼い猫なのだけど、この世界ではプレシアさんの使い魔であり、フェイトの教育係でもあったそうだ。
そんな感じに僅かな違いが出て来るので、他にも雑談を交え聞いていると集中治療室の扉が開き遠坂が出て来る。

「どうだったんだ?」

「……まあ、今のところ魂には異常は無いみたいだから大丈夫でしょう」

俺は中から出てきた遠坂にプレシアさんの容態を聞くものの、遠坂の口調はよいものではないからリンディさんの言っていた通り時間の余裕は無いのだろう。

「じゃあ、後は魂を移し変える器を作ってもらうだけだね」

「そういった器を作れる人物に心当たりはありますか凛?」

「勿論よセイバー、前にライダーの魔眼殺しの眼鏡を作ったのを覚えてる?」

「成る程、今回もそこに依頼するのですね」

「そういう事」

時間は無いものの、アリシアの行う第二魔法ならこの世界と俺達の世界との時間的な繋がりはないから、向こうで作り持って来れば後は魂を入れ換えるだけとアリシアは言いたいのだろう。
そして、セイバーは移し変える器を誰から用意するのか気にしていたようだ、まあ、遠坂の事だから間違ってもキャスターには依頼しないと思っていたけど、そう言われば随分前にライダー用の眼鏡を作って貰ったっけか。

「……あの、私も連れて行ってもらっていいかな?」

「フェイト?」

「母さんの為にしてくれるのだから、私だって何か手伝わないと駄目だよアルフ」

「それはそうだけどさぁ……」

フェイト縋るような眼差しで俺達を見詰め、アルフはやや困惑した表情を浮かべつつも「どうなんだい?」って目で訊ねて来る。
もしかすると、アルフはこちらでは不可能領域魔法って呼ばれている第二魔法に、人数とか重量とかの制限が在るのかもしれないと懸念を抱いているのかもしれない。

「私はいいけれど、お兄ちゃんは如何かな?」

そう語るアリシアからは別段、並行世界へと移動する第二魔法には人数制限とかは無い様子、神霊級とはいえ一体何処まで滅茶苦茶なんだか……

「私は構いませんが……」

「同様に、な」

「そうだな、泊める部屋にしてもまだなんとかなるだろうし……良いんじゃないか」

セイバーとアサシンはちらりと俺を見て口にし、少し考えてから俺も答えた、そもそもフェイトの容姿はアリシアにとても似ているから、藤ねえや桜にしてもアリシアの親戚が来たと話せば了解するだろう。
しかし―――

「そう。なら、私も一緒に行くわね」

何というかリンディさんまで来るという。

「あら、私はジュエルシードの事故を担当しているアースラの艦長であり、フェイトさんはこの件の参考人なの。
犯人って訳じゃないから、行動の制限や拘束とかはないけれどフェイトさんとアルフさんだけで行かせられないわ」

俺はリンディさんが来るとは予想していたかったので少し驚いたものの、リンディさんの言い分ももっともか。

「わかった、そう言う事なら何とかしてみる」

三人の部屋にしても邸の客室にはまだ余裕があるから大丈夫だろうし、藤ねえと桜にはフェイトの保護者役と言えば納得する……かな。

「じゃあ、早速行くね」

とか、アリシアが言うなり病院施設の廊下だった場所から邸の庭へと光景が変わり、同時に真夏の日差しが肌をじりじりと焼き始める。
初めて俺達の世界に来たアルフとフェイトの二人は「―――っ、頭に何か!?」とか「これって……」とか戸惑っている様子だけれど。
リンディさんは「そう、向こうの第九十七管轄外世界とあまり変わらないわね」とか、直接頭の中に入って来る情報を噛み砕き、あまつさえ「便利なものね不可能領域の魔法って」とか余裕を持って対応してるから、アースラの艦長として様々な苦労を経験してきたんだろうな。

「ここだと暑いから、取敢えず後の事は中で話そう」

こうしてリンディさんとフェイト、アルフの三人は一時的とはいえ俺達の世界へ来る事となる。
―――だけど、この時の俺は家の居間に別の世界のミッドチルダで買ったお土産が在るのをすっかり忘れていたりする。
その為、皆と一緒にリンディさん、フェイト、アルフの三人を居間に案内し適当に座ってもらい、暑いだろうからと台所で冷たい麦茶を入れていると。

「……あら?」

「どうしまし―――っ」

「っ!?」

ふと、何気なく居間の片隅ある紙袋に視線が動いたリンディさんは首を傾げ、その表情を訝しんだセイバーは訊ねようとするものの「はっ」と息を飲み、同じく遠坂にしても紙袋へと寄り紙袋の中身を窺うリンディさんの姿に「しまった」って感じで顔に手を当てていた。

「これって―――ミッドチルダの銘菓、何でこんな所にあるのかしら?」

「如何してかしらね?」とまるで透き通るような笑みを浮かべて訊ねるリンディさんに、セイバーと遠坂の二人は「やむを得ません」、「そうね……」とか言いつつ頷き合い。

「……言い難いのですが、その土産物は貴女達の世界とは別のミッドチルダにて買った物です」

「早い話、ジュエルシード絡みでリンディさん達の世界に行く前に行った所がそこなのよ」

「私達の世界の並行世界ねぇ。
並行世界の移動や、本局からこの世界まで行えた超長距離転送魔法からして不思議とは思えないけれど………
(そうした場合、このお菓子の賞味期限は約十年後になってるから、この手のお菓子がそんなに長く持つ訳はないし、その世界は私達にとって未来に相当する世界って事になるわね………)」

「正直に言いますと、そのミッドチルダにてデバイスマスターという資格を有する人物に作ってもらったのが私やシロウ、凛が持つデバイスなのです」

「そうは言っても、普通に店に行って買っただけなんだけどね」

もう此処まで知られてしまったのなら話さない訳にはいかないと判断したセイバーは、デバイスの件を語り、横で苦笑いを浮べる遠坂も向こうに行ったけれど普通に買い物しただけだよって付加える。
そんな二人の話を聞いたリンディさんには額に指を当て「如何したものかしら……」って呟き。

「ひとまず、その件はフェイトさんのお母さんの事が片付き次第詳しく教えてもらうわ。
そうね―――信用されるか判らないけれど、一応報告書とかにも書かないといけないから、もしかしたらその世界に行く事になるかもしれないけれど良いかしら?」

「うん、そんな事なら何時でもいいよ」

リンディさんの提案は、如何やらアリシアにとって簡単極まりない事のようで何時でもいいよと応えると、「魔法使いの自覚ないでしょ……アンタ」とか「よく解らないけど、不可能領域の魔法ってのは滅茶苦茶なんだねぇ」とか遠坂とアルフは口にする。
それもそうだろう、アリシアの様子を見てると、何だか第二魔法って実はとても簡単な魔法なんじゃないかとか錯覚をしてしまうのだから。
でも、そうはいっても魔法とは不可能を可能にするモノなのだから其処に至るにはイリヤのように根源に至ったりとかで大変だし、時空管理局の在る世界では不可能領域とかすら言われている領域だ。
そんな簡単な筈であるわけ無い―――しかし、当の本人は魔法という奇跡のありがたみを知らずにいて。

「ん~、並行世界間の移動は第二魔法って名称でこの世界にあるし、次元を通じて移動を行う術は時空管理局のある世界にあるのに……何でその二つを掛け合わせると滅茶苦茶な扱いになるのかな?」

とか口にしていて不思議がっている。
その姿からすると、如何やらアリシアにとっての魔法とは、知っていると便利な生活の知恵みたいな感覚のようだ。
幾ら『原初の海』とかいう神様に生き返らせて貰ったとしても、セイバーが心配していた通りこのままでは不味いかもしれない……とはいえ、それに関しては追々教えていくしかないだろうな。
まあ、何はともあれ別の理を起源とする世界より俺達の住む世界へとやって来た時空管理局提督のリンディさん、フェイトとアルフの三人は土地の管理者である遠坂から魔術師の常識というか基礎の基礎を教わる事となった。
何せ、彼女達は俺達の世界でいう処の魔術が日常から使われている世界から来たんだ、基本中の基本は教えないと露見する可能性が高く危険でもある。
その事は何れ土地を管理している遠坂にもリスクとして圧し掛かってくるだろうし、仮に壊れた大聖杯とかの件で他の魔術師がこの土地に訪れていたとして、三人のうちの誰かが何か捜し物とかで広域探索魔法のエリアサーチなんかを使いでもしたらたちまち感知されてしまうだろうからな………
俺が知る限りでの魔導師に比べれば、魔術師には非情な一面があるものの関連する知識とか教えないでいるリスクと、教えるリスクを天秤にかけたのなら教えた方がリスクは少ないのだろう。
そんな訳で遠坂の魔術師講座は、途中で食事を挟んだものの魔術と魔法の違い、時間と資金を費やせば実現出来るモノが魔術であり、魔術や科学では出来ない実現不可能なモノ、向こうでいう処の不可能領域魔法を俺達の世界では魔法と呼ぶ事から始まり。
魔法文明が発達し、日常生活ですら魔法が用いられているミッドチルダとは違って、この世界では魔術は秘匿するものであると同様に、魔力も必要時以外は外に感知されないようにしなければならないとか、他の魔術師の前で魔力を出そうものなら、それはその魔術師に対し敵対意思の表明と判断されても仕方がないとか。
他にも魔術師は基本的に研究者であって日常生活でも魔術を用いる者は少く、そして、方法や手段として魔術を用いる者は、先に語られたように魔術とは秘匿するものに反する事から、魔術使いと呼ばれ魔術師達からは軽蔑されるなどを順序よく説明していった。
遠坂の話は台所から聞いていた俺にしても、魔術が秘匿されていない文明であるアヴァターや長いこと神の座に居たせいもあり色々と為になったのは言うまでも無い。
三人に注意を施す遠坂は、最後に魔術協会について語り、魔術協会とは魔術を学問として学ぶ者達の互助会であり、魔術協会は自分達以外に魔術という神秘が漏れる事を恐れる―――それこそ人の命よりも。
話を聞いていたリンディさん、フェイト、アルフの三人はそれを聞かされると息を呑み「そこまでするの……」とか「そんな……」とか「たかが魔術がばれない為に……」とか口々にしていた。
説明するとややっこしいけど、多くの人々に知られるようになった神秘はもはや神秘ではなくなるからなのだが………神秘の分散やら魔術基盤の制限や制約とかの話は、ミッドチルダ式魔法という制限や制約が無い業を扱うミッドチルダ出身の三人には言っても理解出来そうに無いだろうから遠坂にしても省いているのだろう。
その遠坂は身に着ければ外へと漏れ出す魔力を抑えるという、俗に『魔力殺し』と呼ばれる道具を取りに自分の邸に向おうとするものの、話を聞いていたアリシアはアヴァターへと向う時の為と用意していた道具の中にキャスターに作って貰った『魔力殺し』の指輪があるらしくそれを渡した。
聞く処によれば、以前イリヤの城で『魔力殺し』の腕輪を見せてもらい、その話をキャスターした処、何でもキャスターには道具作製とかいうクラス能力があるとかで簡単に作ってもらえたらしい、他にも素材さえあれば護符や魔術礼装やとかも作ってくれるとか。
いまいち信用ならないキャスター絡みなので、一瞬大丈夫かと過るものの、時期的に考えれば丁度その頃は葛木との結婚が控えていた頃のようだからキャスターにしても纏まった資金が欲しかったのかもしれないな。
まあ、それでもアサシンの言っていたようにキャスターに人形の器を作ってもらうとなれば、やはり素材から探さないと駄目のようだ。
その『魔力殺し』を身に着けたリンディさんは「………この指輪は私達の世界だと相当危険な品物になるわね」とか呟き何やら顔を顰めていたりするし。
他にも、向こうのプレシアさんの容態が悪いのでアリシアも急いでいたのか、着の身着のままでこちらの世界へとやって来てしまったリンディさんやフェイトにアルフの三人の服装は夏向きの格好ではないので一旦取りに戻ったりしたものの。
俺達の文明とミッドチルダ文明というか服装にはそれ程の差がないので、時空管理局の制服とかバリアジャケットではなく私服にしてもらえれば藤ねえや桜にしても違和感は感じられないだろう。

「じゃあ、私は人形師に連絡してくるから後はお願いね衛宮君」

「ああ、任された」

「だったら、私も一緒に」

俺が遠坂に頷き返すなか、何処となく遠慮がちにしていたフェイトが口をひらく。

「貴女にして欲しいのは、魔術回路とは違うリンカーコアを人形師の彼女に診せて欲しいからなのよ。
だからフェイトの出番にはまだ早いわ、それに、向こうにも事情があるだろうし今は連絡を入れるだけだから」

「ほえ、リンカーコアなら私にもあるよ?」

「そう言われてもね……アリシアのとフェイトのじゃ全然違うでしょ」

プレシアさんの容態が悪いので焦りがあるのだろう、遠坂に付いて行こうとしていたフェイトは「うん……」と頷いて立ち上がろうとしていた姿勢からまた座る、でもリンカーコアの出力の違いにから不適格扱いされたアリシアは落ち込んでいるのか「あう……」と声を漏らしていた。
しかし、遠坂は相変わらずというか……普通なら言い難い事をはっきり口にするな。
その遠坂は「連絡が取れたらまた来る」と言残して自分の邸に戻り、真夏なので日こそまだ高いけれど時刻を見ればそろそろ夕方と呼んでもいい時間帯だ。
しかし、夕飯を作ろうにも冷蔵庫を見てみれば少々食材が心もとない、それに増えた人数分の材料を買い込んでおかないと。
他にもリンディさん、フェイトとアルフの話は桜には遠坂から伝えられるそうだから良いとして、藤ねえには俺から話さないとな。
三人にも口裏を合せてもらうし、年齢の差はあれフェイトとアリシアの二人は双子とでも呼んでもいいほど似ているから親戚と言われれば藤ねえにしても疑わないだろう、それに、リンディさんはアースラで艦長をしていたくらいだから政治手腕にも長けているのだと思いたい。

「なら、今のうちに俺も商店街に買い物しに行って来る」

まあ、藤ねえが来る時間にはまだ早いだろうから今はマウント深山商店街に行って今晩の食材を確保しない事には飢えた虎や獅子が何をしでかすのか判らないからな。


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