学園長やルビナスは、状況次第ではセイバー達との戦いもあり得ると判断し、闘技場での会談を選んだが、赤の精の力を奪われない為なのか、予期せぬ神の降臨、そして、白の主アリシア・T・エミヤが神と共に姿を消す事態となり会談は無意味なものとなった。
ルビナスを除く救世主候補生、魔術師リリィ・シアフィールド、僧侶にして盗賊であるベリオ・トロープ、忍びの技をもつヒイラギ・カエデの三人は祖先を上回りしダークナイトたる私や、千年前のメサイヤパーティーである学園長にルビナスでさえ動く事が出来無くなる程の威力を秘めた雷を受けたのだ、未熟な彼女等が受けたダメージは私達以上のものであるのは容易に推測出来、今は医務室へと運ばれ安静にしている。
残った我々、私こと破滅軍主幹ダウニー・リードに学園長、エミヤ君とイリヤスフィール、白の精イムニティ、その三人を纏めているセイバーの六人は学園長室へと集まり状況を纏める事にした。
「如何かしましたか」
学園長室に集まるとセイバーは周囲を見渡し、不審に思った学園長が問いかけ。
「…いえ、ダリア先生の姿が見えないと思いまして」
「…そうね、今頃クレシーダ王女殿下に急いで連絡していると思えるわ…」
セイバーの疑問に答える学園長の表情は曇り、長年自分の右腕として力になってくれていたダリア先生が、実は密偵だった事に僅かながらショックを受けている事を示していた。
―――所詮は飼い犬と言う事か…飼い主の元に報告に行ったと判断する学園長の意見に頷く。
「別に居ても居なくても同じ事よ―――あの先生じゃ」
「否定はしないわ」
イリヤスフィールの意見にイムニティが頷き、私もその通りだと思う、事前に救世主に関する予備知識が無いダリア先生が居ても会談の邪魔になるだけっだったのだから。
「―――そうですね、既に事態は救世主の選定や『破滅の軍勢』と王国軍との戦いでは無くなり、神と神の戦いへと発展しています」
「神対神とは如何言う事です?」
「アリシアもまた神霊の位に辿り着いたもの―――即ち、神の一人という事です」
「―――馬鹿な、神が複数居るとでも言うのですか!?」
イリヤスフィールの意見に頷いたセイバーだが、その口からは信じられない言葉が出て来た。
もしも、この場にベリオ・トロープがいたら方向を変え論戦へと変わっていた事だろう。
「そうよ、私達の世界で神と呼ばれる存在は神話や伝承で多数伝えられているわ」
「………神は一人では無いと言うのですか」
アヴァターしか知らない私には、イリヤスフィールの意見は余りにも衝撃的だった。
「だからって、アリシアはまだ子供なんだぞ―――なのに本物の神が襲って来たんだ、勝てる筈が無いだろ」
「―――いえ、逆ですシロウ、寧ろこの世界の神がアリシアと戦い敗れる可能性の方が高い」
「なんでさ…神霊の域に達してるとはいえ、本物の神相手に勝てる要素なんか無い筈だ」
「あります―――アリシア本人ではなく、神々を統べる神『原初の海』が呼び出されば…代行とし、この世界の調和と安定を司る神では勝ち目は無いでしょう。
付加えるなら、アリシアもまた『はじまり海』の名を受けた者…もしかすると、代行でしかない神よりも位階が高いのかもしれない」
「そうね、最後にアリシアが言った言葉が晩御飯までには帰るとかだったし……セイバーの言う通りかもしれないわ」
闘技場で自身の無力さを嘆き、今は悔しさからだろう拳を握り締めているエミヤ君だったが、セイバーとイリヤスフィールに諭され「―――あ」と目を丸くする。
―――しかし、その話が本当ならエミヤ君達には神以上の存在がついていたとなり、如何に我ら『破滅の民』が切り札とする要塞砲を搭載した機動城砦ガルガンチュワが在ったとしても…神を上回る存在を相手にしては勝機等はあり得る筈が無い。
いや、そもそも、前回の戦いにおいては文字通り天を裂き地が割れた………
「………」
セイバーとエミヤ君の足元で回り続け、神の使徒と呼ぶべきなのか球の様に丸いポチを見やり考え続ける。
そう今、私が見詰めているポチですら、前回の会戦では地獄の如き光景をつくり上げたのだ、機動城砦ガルガンチュワや『破滅の軍勢』が何万いようが初めから比較に等ならない…勝てる筈が無いのだ神やそれ以上の存在を相手になど……
「その『原初の海』って一体何なの?」
「『原初の海』は、世界にとっていうなれば破滅そのものよ―――あんな得体の知れないモノが現れたら世界が無事に済むはずも無いもの」
「そんな、現れただけで世界を滅ぼしてしまう…存在そのものが破滅そのものの神だなんて―――」
「私は聖杯の中で見た事があるわ………それでも、アレを理解等出来なかったし、アレに立ち塞がった英雄と呼ばれた者達が居てたからこそ私の精神が壊れる事はなかったけど…」
「―――なら、アリシアが追い詰められ、そんなモノを呼び出したら…」
「この世界の管理を代行する神ごと、世界は滅び去るかもしれません…」
『原初の海』という我々の知らない名称を知ったルビナスが、その存在がどれ程の存在なのかとセイバー達に視線を向け、その視線を受けたイリヤスフィールとセイバーが神の上位的存在が何なのかを口にした。
「…神ごと世界を滅ぼす存在を召喚するなどと………では、状況は…より悪化したという訳ね」
学園長の言う通り、真の救世主が現れる処か、神々の戦いとなった状況は正に破滅へのカウントダウンが開始されたようなもの。
私にしても神が複数いるなど知らなかった先程までならば、世界が全てを平等とする白の理でなければ、いっその事全てが滅んでしまっても構わないとすら思っていた。
―――だが、神が複数いるとなれば話は違う…遥か古に存在しただろう美しく、悲しみもない完全なる世界、それを人が神から奪ったという幻想は崩れ去り…私には何が正しく、何が間違いなのかが分からなくなってくる。
「―――それに、どこか子供っぽい処はあるけれど…そんな神の上位的存在すら呼び出せるアリシアが何で子供なの?」
ルビナスの疑問ももっともだろう、神の頂に立った者ならば永遠の命―――いや、不老不死すらあり得るのだ…子供である筈がないのだから。
「まあ、信じられないかもしれないけど…実はアリシアは六歳だったりするんだ」
どこか困った感じで学園町とルビナスを見詰めるエミヤ君に、二人は「「え?」」ときょとんとした表情を返し、「仕方ないわね、こんな感じよ」やれやれといった感じでイリヤスフィールの姿が変わり、雰囲気は変わらないものの、その姿は十一か十二歳といった位の少女が現れる。
「私は変身魔術で変えていたけど、アリシアは世界を誤魔化して姿を変えているのよ」
「変身魔術―――マイナーな魔術ですが、年齢を詐称するのに使う方は初めて見ますよ」
「でも、世界を誤魔化す…そんな凄い業をそんな事の為に使うだなんて…」
イリヤスフィールの使った変身魔術といえばマイナーな魔術と言えるが、神域の存在とはいえ、世界を書き換える魔術等はもはや伝承のみの代物、それを変身魔術と同様に使う等とは何て無駄な事をと学園長は溜息をつく。
「でも、俺達には出来る事は無いのか?」
「残念だがシロウ、神霊の域に至らない私達では、神々の戦いへ介入する力は無い、出来る事は信じて待つ事くらいでしょう」
「―――しかし」そうセイバーは一呼吸の間目を閉じ。
「その戦いの後―――即ち、神とアリシアの間で話が終わったのちの事なら知恵を出し合えます。
闘技場でも言いましたが、並行世界が増え過ぎ世界の重みで何れ迎えるだろう、次元崩壊を防ぐ為の手段を話し合うくらいは出来る」
「そうね…例え、アリシアが神と話をつけてくれたとしても、次元崩壊が起きるのなら救世主の選定は続けられるのだから……」
セイバーの話にルビナスは頷き、学園長室に集まった私達六人と一匹を見渡し意見が交わされ始めた。
しかし、幾つか意見は出るものの、それは並行世界をこれ以上増やさない為には如何するかといった話で進められ、既に増え過ぎている現状の状態を変えるといった意見は、始め辺りに出た世界を必要な世界と不必要な世界に仕分けるといった意見しか出ずにいる。
もっとも、必要な世界を仕分ける等という、神をも恐れぬ行為は一蹴されたが……
そんななか―――ふと、頭の片隅に破滅の軍勢として、『破滅の民』や破滅のモンスターを率いる際の事を思い出した。
減らす、増やさない、そのどちらか片方では無く二つを統合するという手法を―――
「―――今、思いついたのですが、こんなのは如何でしょう、先程出た必要な世界のみを残すのでは無く、並行世界ですから似たような世界は多数存在するでしょう、その似たような世界を纏めてしまい、総数で少なくするというのは?」
統合するという方法で、この問題を解決する場合はと考えを纏め上げての発言だったのだが―――私が意見を口にすると学園長室に僅かながら沈黙が訪れ。
「そうだ、その手があった!」
「そうね」
「………確かに、並行世界である以上似た世界は多数存在する筈」
「ええ、同じ様な世界を纏めれば結果的に少なくなるもの」
私の意見を当て嵌めていたのだろう、エミヤ君に続きイリヤスフィールが頷き、僅かに遅れセイバーとルビナスが相槌を打ち。
「―――後は、この意見が神かアリシア・T・エミヤさんに伝える事が出来れば、救世主等という存在は必要無くなるかもしれませんね」
学園長は何処か安心した様な感じで一度目を瞑ると。
「ダウニー先生―――もしかしたら、貴方こそが真の救世主だったのかもしれません」
再度、私に視線を向けそう告げた。
だが―――
「…く……ぷ…ぁ…」
白の精、イムニティの口から声が漏れ。
「あははははははは――――」
腹を抱える様にして笑い出した。
「如何したんだ」
「如何したのですニティ」
「…やっぱアリシアの言ってた様に、頭が変になってるのかしらニティ?」
セイバーとエミヤ君が心配し見守るなか、表情を険しくしたイリヤスフィールが口にすると、イムニティは顔を顰め「違うわよ」と笑いを止め。
「ただ、ミュリエルがその男を救世主とか言い出したから笑っただけよ」
「如何言う意味ですイムニティ?」
不味いと思う暇も無く、学園長の強めた視線がイムニティへと注がれ。
「ミュリエルやルビナスは、ダウニー・リードの名に聞き覚えはない?」
「ダウニー先生の名前に?」
「ダウニー・リード………リード!?」
「気付いた様ねルビナス―――そうよ、そこのダウニー先生こそ、ロベリア・リードの末裔にして、破滅の軍勢を率いる主幹なのよ。
それなのに、ミュリエルときたら…よりにもよって破滅の軍勢の主幹を相手に救世主とか言うから思わず笑ってしまったのよ」
「まさか!?」とか「そんな!?」とか「嘘だろ!?」と学園長やイリヤスフィールにエミヤ君達の視線が私に突き刺さり。
「迂闊だったわ、リードの名に気が付かなかったなんて」
よもや、このタイミングで白の精が裏切るとは予想も出来ず―――いや、白の精からしてみれば私はもう用済みなのだろう…
状況を纏めている間にも、私の正体が明かされた事で油断の無いルビナスの視線が私に注がる。
「―――だが、同時にニティ、それを知っている貴女もまた破滅の軍勢に加担していたと言う事ですね」
セイバーの手に不可視の何かが握られ、冷たい殺気と共にイムニティへと向けられる。
「っ、私が忠誠を誓うのはマスターのみ…『破滅の軍勢』は利用出来そうだから使ったまでよ」
「―――成る程、では我々と破滅の軍勢、その両方を利用し、裏切ったと判断して良いという事ですか…」
セイバーの放つ威圧感に、ゴクリと喉を鳴らすイムニティを見詰め。
「この者を拘束しなさいポチ」
「―――っ、な…に力が奪わ…れ……」
足元で回るポチに視線を向けると、イムニティは見えない何かに体を巻きつかれ動けなくなり、力無く床に体を横たえた、その様を確認するとセイバーは私に視線を向けて来る。
「では、弁明を聞きましょうダウニー・リード、貴方は何故破滅の軍勢等いう組織を立ち上げたのです?」
「そうですね…いいでしょう、進退窮まったこの状況では如何する事も出来ないですから」
破滅の将すら上回るだろう、神が選んだ使徒達を…それも一人で相手にしよう等という思い上がりは元より無い、仮に交戦の意思を見せればロベリアを相手にした時同様、セイバーに一足のもと斬り伏せられるだけだろう。
「―――先程まで私こう思っていたのです、この世界は……いや、かつての世界は神のものであり、そして、神に支配された世界は完全で美しく、一欠けらの悲しみも存在しなかったと。
しかし、やがて世界には人が生まれ、人は世界を神から奪い、思うがまま世界を犯し続け…その結果、神の法則は崩れ、世界には破壊と不幸と悲しみに溢れ、滅びの道を歩み始めることとなった。
やがて世界は、人のもたらす破壊に耐えきれず崩壊を始めた、それが破滅…世界が人間達に発する断末魔の抵抗…」
私が言った様に、この面々を相手に私と云えど敵う筈もないと判断したのだろう、学園長室にいる皆は私の話を聞き続ける。
「そして、救世主こそが滅びの道から世界を救い、人間に真の救いと平和をもたらす希望の光、その救世主と共に古き人の手による世界を捨て、今一度、神による完全な世界を取り戻さねばならないのだと」
「白の理には愛も友情もないのよ?」
「いえ…ルビナス、純粋なる弱肉強食を体現するであろう白の理だけではありません―――アリシアから聞いた限り、赤の理に努力というものは無く、体はその意味を失う」
「そう…だからこそ、二つの内どちらも選んではいけないのよ」
ルビナスの意見にセイバーは、赤の理にも問題はあると指摘し、二つの理のどちらを選んだとしても問題はあると眉をひ顰め、ルビナスも表情を曇らせた。
成る程、それが千年前にした先送りの真相か―――だが。
「―――そう、貴女方が言われる通り、白の理には愛も友情も無いのは確かでしょう」
二人の視線を受け止め、自らの信じる思いを持って視線を返しながら話を続けた。
「―――しかし、反対に傲慢も無ければ偏見もないのです。
赤の理は当然、愛や誇り、礼節等もあるでしょう、だが、同時に強欲さもあれば、増長もあり、そして傲慢となり、やがては自分等を特別な者だとして、他者を偏見の目で見下し差別を行い始める!
アヴァターは根の国だ、根の国で起きた事ならば何れは他の世界へと蔓延するのは確か―――ならば、人々は今まで同様…偏見と差別を繰り返し、争いは常に起こり、悲劇は幾度も繰り返す。
…それでは、今の理の悪い部分を継承していると言えなくも無いのです。
ならば、白という精神的な理は失ったとしても、偏見も差別も無い世界で、人は新たに始める事の方が良いと判断したまでですよ」
「そうですか―――貴方は戦いを生む心、そのものを倒そうとしていたのですね…」
「―――世界全ての争いを止めさせる…そこまで考えて貴方は破滅の軍勢を組織したというの!?」
セイバーは私と同じ様な思想をした者を知っているのか顔色が優れず、ルビナスは私が語る白の理の優位性とその意味に驚きを隠せないでいる。
「買い被りでしょう、それは……ただ―――私には妹がいました…しかし、ある日…ホルム州の片田舎で、ひっそりと暮らしていた私達は、その地方の貴族の慰みものにされ、兄妹で殺し合いを演じさせられたのです!」
「………何という」
「そんな事が…」
学園長とエミヤ君は私の話しに怒りを隠せず唇を噛んでいる。
「そう、我が遠き祖先に出会い、力に目覚めるまでは私も、私の妹も玩具でしかなかったのですよ!
だから、私は妹を殺した原因を考え、辿り着いたのです―――狂った世界を滅ぼし、完全な世界を取戻す為の白の理に。
貴族という他者を見下し、私達を同等の人間…いや、代わりの効く道具としてしか見なかった者達、その様な存在が現れる事の無い世界を求めて!!」
「王国軍のアドバイザーとして入った時に、確か幕僚の一人から、その様な貴族がいるとは聞いていました。
信じたくは無かったが―――成る程、誇りも無ければ理念も無くなり、領民を守る筈の貴族たる者は減り続けるのに対し、資格の無い貴族達は増え、領土は守るが民を守らずにいた、千年…人も国も腐るには十分な時間だ」
貴族たる尊き誇りを失い、堕落した貴族の行いに対しセイバーは怒りを顕にしていた。
恐らく、私の話の他にも破滅が迫る渦中ですら特権を振りかざしていた輩がいて、王国軍内でも威勢だけはいい彼等を持て余していたのでしょう。
「…もしもとして、その事が無ければ如何してたのです?」
「……そうです…ね、およそ妹と一緒に地方の片田舎で学校の先生でもしていたのかもしれません……
―――だが、既に起きた後、もしもという事は無いのです学園長、妹は死に…私は妹の死に報いる為にも、過ちは繰り返させてはならない。
だからこそ、同じ事が起きる世界を無くす必要があると…救世主が世界を変える存在ならば協力し、悲劇を繰り返す世界を正して貰う…私はそれだけを考え、今日まで生き長らえて来たのです―――ですが」
学園長に、もしもという可能性を問われ―――復讐を誓う前のかつての自分自身を思い出してみた。
そして、気付く―――幼き日に死別した妹ならば、破滅等を使い多くの者達を犠牲にするやり方を望まなかったであろうと………
「先程知り得た、神が複数いるという事実―――これでは、如何に破滅の力を利用し事を成そうとしても無意味だ…例え、救世主が現れる事になっても世界は完全では無いのだから…
世界は一つの完全なる姿になり得ず、白の理と云えど何らかの齟齬が現れ、救われる事などありえない…」
その二つを理解してしまった私は、私を私として支えていた怒りという灯火、それが消えてしまい心は空虚となり…全てが虚しくなって来る。
世界は変わらない―――変革等は訪れない…では、私が行って来た事は意味のない、ただの殺戮に過ぎないのだ…その様な愚者ならば、この場で果てるのも良いだろうと…
「そうですか、結局の処破滅の軍勢とはバーンフリート王国に対する反乱組織だったという訳ですね―――ならば、破滅に囚われた人やモンスター達を不足する兵とし戦力にすれば、正規軍である王国軍にも兵力で劣る事は無くなる」
「その反乱とは?」
「反乱とは、統治者以外の者が反抗して武力を用いて簒奪を企てる事。
そして、資格の無い統治者を民自らが倒し、社会構造を根本的に変革する事を革命と呼びます」
「反乱に…革命…」
セイバーは、アヴァターでは聞く事の無い名称を口にし『反乱』と『革命』という名は私の心を揺さ振った。
「―――ダウニー先生、間違えは誰にだってある、そして―――間違いに気付いたら直せばいいんだ」
「その通りだ―――奪われ、失う事の悲しみを知っている貴方は救世主や破滅等に頼らず、自身の共感者を増やし続け、人々を動かしこの国を変えるべきだ」
「私は『破滅の民』を率いる主幹、あなた方の敵…なのに―――何故、その私を倒そうとしないのですか?」
「この地が戦場なら、私は貴方を斬り捨てていたでしょう―――しかし、ここは戦場では無く、私がすべきは、アヴァターの内乱に対する関与では無く世界の破滅を防ぐ事。
そして、付加えるのであれば、破滅というモノは貴方を倒して終わるものでもない」
「馬鹿な…『破滅の民』とモンスターの両方を纏め率いているのですよ!?」
何故だ…破滅の軍勢の主幹である私を、何故、エミヤ君とセイバーは赦そうとするのか。
「―――そうよ、その男が破滅の軍勢を統べる主幹なら見逃す等出来る筈がない、この場で捕らえ王国に引き渡すのが筋でしょう」
「駄目だ学園長!ダウニー先生が破滅の軍勢を指導者で、間違いに気付いたなら戦いを終わらせられる―――これ以上、誰も犠牲にならなくて済むんだ!!」
「破滅の軍勢の主幹なら、その罪の重さは比較する等出来ない程よ―――それでも、エミヤ君…貴方はダウニー先生を庇うと言うの?」
「ああ、そうだ―――行った罪が消える訳じゃない、失ったモノが戻る訳でもない……死んだ者が蘇る訳でも………だから、罪は罪としてずっと背負い続けなきゃならない…
でも、ようやく間違いが分ったのに殺して終りじゃあ、誰も報われないし救われやしない!
犠牲にした人達の分まで、やるべき事をやって全てを終わらせる―――それがダウニーが償える方法なんだと思う!!」
「いえ、それどころか破滅の脅威が無くなったと判断すれば、王国貴族達は再び民を蝕む存在となり―――何れ、第二、第三のダウニー・リードが現れる、恐らくバーンフリート王国は、国家としての寿命が尽きているのにも関わらず、脅威となる存在が無いため延命し続けるだけの国…もはや、何時叛乱が起きても不思議では無い」
私を捕らえ様とする学園長だったが、エミヤ君とセイバーはそれをよしとはしない。
「―――そうね…例えこの場で倒すなり、捕らえ処刑するなりしても結局は、破滅の軍勢内で次の主幹が選ばれ戦火は広がりを続け―――何れ、アヴァター全土に取り返しのつかない被害を与えるでしょう…」
「それに、アリシアと神で話し合いがつかなければ、どの道、全ての世界は滅びを迎えるわ。
だったら、せめてダウニー先生が根の国内の戦いを終わらすって事に賭けてもいいんじゃないの?」
「………」
エミヤ君とセイバーの話を聞き、精神を重んじる理、赤の元救世主であったからだろうか、ルビナス・フローリアスは二人の意見に賛同し、沈黙を保っていたイリヤスフィールが淡々と口を開くと学園長は私を見詰める。
「―――ダウニー先生、貴方は破滅の軍勢へと戻ったとして、戦いを止めるられるのですか?」
「出来るか、出来ないかと言われれば出来るでしょう…しかし、貴族達権力者が増長を始めればいつ爆発しても不思議では無い」
僅かに視線を下げた後、私は学園長の視線を受け止める。
学園長は「そうですか…確かに、一部の貴族達の振る舞いは目に余るのも事実ですから…」と目を閉じる、恐らくは私が部屋を出て行くまで、その姿を見なかったとする意思表示なのだろう。
私に出来る事は、ホワイトカーパス州へと戻り破滅と手を切る事、そうすればアヴァターに現れているモンスターの大半が送還され居なくなる。
破滅にとり憑かれた人やモンスターを兵と出来ない以上、戦力の低下は否めないが―――議会と亀裂が生じ始めた王国軍への切り崩しや、重税や横暴な振る舞いに対する不満を理由に民衆の扇動する方法は十分あり、更には機動城砦ガルガンチュワという切り札も温存しているのだ、もはや破滅に拘る理由や意味は何処にも無い。
「だが、これだけは伝えておきましょうダウニー・リード…アヴァターで革命を起こすにしても貴方は他の世界を見て回るべきだ。
世界には様々な社会システムが在るとゆうのに、この世界アヴァターは国が一つしかないとう異質な場所、他の世界は多くの国々が今日、明日を生き残る為に鎬を削っています―――そして、そういった世界から学ぶと良いでしょう、己自身が何をすれば良いのかを」
「―――それと、出来ればもう人とモンスター達が争わない社会にしてほしい…モンスター達も好きで戦っている訳じゃない、それに、村の中にはモンスターと住み分けていた村も在ったんだから」
「感謝しますよセイバーさん、それと、エミヤ君…人同士でさえ大変だというのに、君は…何て無茶な願いをするのですか」
扉に手をかける背中に、セイバーとエミヤ君の忠告と願いがかけられ「ですが…理想としては悪くない」とだけ口にし廊下へと出る。
扉の横の壁に頭と手足の一部を出したダリア先生が、気を失い埋まっているのを見て驚くが、大方、盗み聞きをしていたのがポチに知られ埋められたのだろうな。
既に救世主等という存在に用は無くなり、学園を後にすると、ホワイトカーパスの部下に連絡を取り指示をだす。
時折、何か呼びかけるような声が聞こえなくも無いが…恐らく疲れているだけなのだろう。
部下に指示を出し僅かに休息をとったその後は、一部の者達が暴走しないよう機動城砦ガルガンチュワに封印を施したりや、時間の不連続帯である次元断層を超えない世界を主な活動区域と計画しながら、アヴァター離れ他の世界を見て回る為にの準備として数名の信用のおける者達を選抜していた。
そうして、学園を去ってから十数日程が経過していた頃―――学園から学園長、ルビナス、セイバー、エミヤ君、イリヤスフィール、イムニティとポチが失踪したとの報告を受けた。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
アヴァター編 第15話
この世界を管理している影が何か勘違いしている様なので、誤解を解く必要から話し合う為に宇宙の星が少ない所へと転移する事にした。
でも―――
「おのれ!放せ、放せと言っている!!」
影は話を聞く気が無いのか、周囲の空間を膨張と伸縮を繰り返し衝撃波を放ってくるので、仕方なく掴んでいた手を放し距離を取る。
「―――っ!?」
すると、影は何故か苦しみ始め―――ああ、そうか…私は周囲を書き換えていて空気や温度に湿度とかも変化は無いから、すっかり忘れていたけど宇宙って空気が無いんだっけ。
でも、一瞬驚いたものの影も状況を理解して周囲を書き換え命に別状は無さそうだね。
『君は誤解しているよ、私は救世主には成れないんだから』
『そうだイレギュラー、何故なら貴様はここで果てるのだから!!』
如何やら影は興奮しているみたいで、中々会話が成り立たない、でも、話しかけなければお話しにはならないので、『念話』を使い言葉を投げかけるけど影からは返答と一緒に熱線が返って来た。
―――ん~、もしかして、当真大河に続いて影までも反逆を始めたのかな?
いや、もしかしたら私が知らないだけで、反逆って行為が流行なのかもと考えが過るも、矢次に放たれ続ける熱線を避ける。
リコ・リスさんの戦闘経験を参考にしていると思うけれど、戦い慣れていないらしいく、動きは感情的なので読み易い、だから避けながら『話を聞いて』と呼びかけ続るけど、私に当たらない事に焦れたのか、次第に影は私の周囲の空間に次元操作を行い威力のある熱線や、速さがあり中てやすい光線を上下左右から連続して撃ち放って来た。
『我は、完全なる秩序と調和の守り手なり』
『え~、ただの管理代行の筈だよ?』
避けながら呼び続けていると、光線を放つのを止め、代わりに拳を握り私を睨み付ける。
『イレギュラー、貴様の存在が世界を乱す―――』
『乱すって…そんな事しないよ』
『貴様を放置すれば何れは、全ての世界にて調和は乱れ多くの世界が滅びを向かえる』
『だから、話を聞いて―――!!』と言う私の声に耳をかさず、『―――故に、貴様を裁く!』と影は私に指を指し一方的に宣言した。
同時に次元操作による多方向よりの熱線やら光線やらが走るわ、空間そのものをずらし次元の刃とし放って来るわで私の話を聞こうともしないよ…
『この程度だと思うな!』
「ん~、如何しようか」と思う間も無く、それ等を避ける私に、次元を跳んだ影が現れ空間ごと薙ぎ払う。
『―――なっ!?』
それを、私は上半身と下半身を次元操作技術の応用で分離させ避けると同時に戻し合体。
『話を聞いて―――っ!』
瞬時に速さを書き換え、光速を超えた速さを用いて影が使っているリコ・リスさんの体を掴もうとした。
けど―――
「………あ…れ…?」
掴もうとすると位相をずらされ、私はそのまま何光年か先へと一人で行ってしまったんだよ。
「―――もう、驚いて危うく星にぶつかりそうになったよ」
「…ですがマスター、その前に何か羽織った方が良いかと思われますが?」
ディアブロに言われ、「ん?」と下を見ればお兄ちゃんが投影したバスタオルが無くなっている。
「そっか、さっきの空間ごと切裂かれたから、その時に壊れちゃったのか」
「その様です、それと、如何やらあの神と呼ばれる存在は興奮している様ですので何かしらの対策が必要かと」
「セットアップ」と言いながら、防護服であるバリアジャケットを纏い「どんな?」と気になり続きを急かす。
「以前、ニュースの特集であった情報ですが、スーパーとかでは、怒りや不満を持つ相手に相対する場合は、対応する人を変えたり、時間を置いたりや粗品という心象を良くするプレゼントを用い対応するとか」
「む~、そっか…代理は無理だけど、時間を置いて冷静さを取戻させたりや、プレゼントで心象を良くするのなら出来るね」
ならプレゼントは神父さんが贔屓にしているお店で、特別に注文を出して作って貰った特性マーボー弁当が良いかな?
特別に作って貰ったから、六人前しかない希少なこのお弁当は、この世でこれを食べないものは損をしていると、神父さんは胸を張って語っていたのを思い出す。
「うん、そうだね。
プレゼントはあるから、後は時間を少し置いてから話しかければ落ち着いて聞いてくれるよね」
「そうだと思われます」
私の知らない情報をディアブロが教えてくれた事で考えが纏まり行動の方針が決まる。
でも、セイバーさんも言ってたけれど…情報って大切なんだとつくづく思う、少なくとも、『行動も移さないで私にばかり頼りきるのは何故か?』というのは私や影に対する情報が無いからだと判断出来るし。
アヴァターでの出来事を考えれば、あの神の座で怒って暴れている当真大河の原因も、情報が少なくて救世主になれるのが女の子だけだと知らず「こんな筈じゃなかった」とかで怒っているのだろうと考えられなくもない、か。
「…ん?」
時間が出来たので思考に耽っていたら、付近の空間が揺れ、邪神と呼ばれている惑星サイズの子やら、幾学的な形状をした子達やら不定形の形をした子達と、その眷属らしき小さい子達が私を囲む様にして転移して来る。
「何だろ、お祭りでもあるのかな?」
「…マスターはあの巨大なモノを知っているのですか?」
「うん、アレは俗に邪神とか言われている理から外れた者達―――今は封印しない代わりに、管理の手伝いをさせているんだよ」
「…では―――っ!?」
ディアブロが何かを言おうとしていると、数多の邪神達から熱線、光線、重力波、念動力に次元震等が私へと放たれ。
「もう、近くには星が在るんだから暴れちゃ駄目だよ―――命が勿体無いじゃないか」
力の制御がちゃんと出来ているから、必要以上の力は使わない影とは違い、力の制御が甘いらしい邪神達は星すら滅ぼせる威力で放って来た。
その為、後ろに星が在る事から避けずに、放たれたエネルギーを変換・吸収しながら背に板状にして蓄えていると、何だか邪神達が騒ぎ始める。
「………マスター、もしかするとこの場所は邪神と呼ばれるモノ達の縄張りなのでは?」
「そっか、犬さん、猫さんも縄張り争いはしてるものね」
そう言われてみれば、邪神達が何故急に現れたのかも解る。
「―――でも、その割には種族とかも違い過ぎる感じがしなくもないかな?」
見た感じとしても、目の前の邪神達はそこそこの実力はあるみたいだし、そう私が訝しんでいると―――
「マスター、これはもしかすると―――」
「何か解ったの?」
十数分程、色々と放っていた邪神達だったけど、力を変換して放つ方法は私に有効ではないと知ると、眷属達に何やら命じ二メートル程の眷属達が光の速度で体当りをして来た。
それら眷属達の動きは、数こそ多いいものの直線的なので読み易く、僅かに動いて避けながらディアブロと話を続ける。
「―――はい、これはある番組の語り部が語っていた事ですが、ある民族では罪人を砂漠の真ん中へと運び、そこから生還した者は無罪としていたとか…
そう考えれば、相手は神と呼ばれた存在ですから、およそあの邪神達を倒し戻る事が出来ればマスターへの嫌疑も晴れるものと思われまるのではないかと?」
「ん~、そっか…私の言っている事が口先だけかもしれないから、試しているって事なんだね」
「恐らくは…」
「じゃあ、取敢えず倒すよ」
そう言い終らない内に、近くで視つけた小惑星を邪神達の中へと転移させ爆散。
惑星サイズの子には、適当な大きさの小惑星が無かったので太陽の様に光っている蒼い星から表面の熱と炎を体内へと転移させ瞬時に蒸発させる。
その爆発のエネルギーと、九枚ほどまで蓄えていたエネルギーを魔力に変換して使い、私の周囲を飛び回る眷属達へと指先を向けると、十条のサンダースマッシャーを非殺傷で放ち無力化させた。
「まさに鎧袖一触ですね」
「…ちょっと勿体無いなかったかな?」
邪神達は、イリヤお姉ちゃんが言う処の第三魔法が使えるので大丈夫だけど、爆散、蒸発した子達の周りにいた、眷族の少なくない数が結構な被害を受けたりや、私の放ったサンダースマッシャーの一つが、偶々近くの星に中り、星そのものには害は無いものの、大気を引き剥がしてしまっている。
そんな状況ですら、何体かの眷属達は果敢に向かって来るので、非殺傷設定のフォトランサーを転移射出し、眷属の張る障壁の中へと現れたフォトンランサーが倒れるまで放たれ続けた。
「これも神が行った試練の結果、マスターが気にする事は無いかと思われます」
「…まあ、兎に角倒したから会いに行ってみるよ」
弱いもの虐めは好きじゃないので、これ以上影が試練を与えないように影の居場所を確認し転移した。
『如何やら貴様相手に奴らでは力不足だったか…』
転移した私を認識した影は、なんだか偉そうな感じで腕を組みながら漂っている。
何してたんだろうと思うけど、取敢えずは―――
『この特製弁当をあげるから話を聞いよ』
『―――やはり、イレギュラーたる貴様を滅するのは我の役目か』
神父さんお勧めの特製マーボー弁当を見せるものの、影はそれを無視し会話が成り立たないでいた。
「………」
こうなったら仕方ないよね…言葉では伝わらないなら、言葉と想いを拳に乗せて伝えるしかないもの。
「マスター、槍は使わないのですか?」
「あの槍を使のは必殺の時だけ、それに―――誤解を解くのに槍は必要ないんだよ」
私が拳を作り構えをとると、ディアブロは何か不思議そうな感じで問いかけて来た。
『イレギュラー、今度こそ貴様の存在一つとして残らず滅して―――がぁ!?』
また次元操作しながら力を放とうとする影の動きを、同じく次元操作を行って顔面を殴り飛ばし初動から潰す。
『―――いい加減話を聞いてよ!』
体勢を立て直す暇も与えず、想いを乗せた拳を次元を超えて影の使うリコ・リスさんの体にめり込ませ、体をくの字にさせると想いを解き放った。
一瞬、痙攣をしたかの様にして目を虚ろにした影だけど、再び目に力が込められ―――引き戻し、繰り出す拳を顔面で受け止めると同時に私の顔を衝撃が襲った。
「―――痛っ」
「空間を越えたカウンターですマスター!」
ディアブロの声で、影は私と同じやり方を用いタイミングを合わせ、次元を超えた拳でカウンターを放ってきたみたい。
『調子に乗るなよイレギュラー!!』
そう影が叫ぶと同時に私の全方向から数多の熱線や光線、更に、位相をずらす事も予想してか、神の座がある次元を除き全ての次元に熱線が放たれていた。
私が自分の身を守る判断を選択するのなら、影が行った方法は有効だったろうけど―――
『―――でも、甘い…そんなんじゃ私は倒れないんだよ』
この枝世界の外から干渉し、そこから時間と空間を操作して時空操作を行うと、少し前の過去から今の時間軸へと両手を移動させ、影の腕と胸倉を掴み引き摺り込むようにして転移、同時に近くに在った小惑星へと背負い投げの要領で叩き付け、全身の力と想いを込めた拳を振り下ろす。
だけど、影も転移し私の拳は数十キロ程の小惑星を砕いたに過ぎない。
転移を繰り返し距離を取った影だけど、私には力を放つ様な技は有効でない事に気がついたらしく、何やら覚悟を決めたいい表情をすると、リコ・リスさんの記憶を参考にしたのか、転移を繰り返しながら距離を詰め、本の代わりに拳を繰り出して来る。
『例え―――何があろうとも守り抜く!!!』
『だったら―――それでも押し通す!!!』
偶々拳と拳が激突し、お互いの想いがぶつかり合うとその衝撃でやや間合いが離れる。
影から伝わってきた想いは、純粋に世界を守ろうとする強い想い。
―――影は決して反逆等していなかったんだ、それが解った私は少しでも疑った事を恥じた。
『この世界から―――我の前から消え失せろ!イレギュラー!!』
『その前に―――この想い!君に届かせる!!』
私の拳が僅差で入るが、放った右拳の打点を僅かにずらし、影が繰り出す拳が私の顔を捉え。
『―――っ!?』
その拳を、影が行った様に打点をずらすのに加え、首の捻りと体の捻りを加え受け流しの要領で力を流し。
戻す全身の捻りと共に、左の拳を影の顎へと叩き込み想いを解き放った。