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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] アヴァター編13
Name: よよよ◆fa770ebd ID:d27df23a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/24 00:31

バーサーカーにセイバー、そして『救世主の鎧』を纏ったセルが楔の先端となり、群がるモンスターを薙ぎ払って行く。
その周囲には、槍や長鉈等の長柄武器を手にした者達が密集した隊列をなし、セイバーの指示に従い突撃を行う様は正に槍の壁とすら呼べる陣容だろう。
そして、その内側では俺やデビットは弓を手に、イリヤのように魔術に長けている者達はそれぞれが詠唱を行い、他にも一度しか使えないらしいが巻物に記された魔術を使い援護を行う人達も数多く見受けられる。
バーサーカー、セイバー、セルの突破力に、攻撃性の高い槍の壁が楔形の隊列で突き崩し、援護の魔術で火や氷の矢、光弾が飛び交い、爆炎、爆風が吹き荒れ、雷が舞うなか破滅のモンスター達は次々と倒れ、破滅の軍勢はなす術も無く駆逐されて行くばかりに思えた―――

「ヒルムナ!マズ…ハ、アノオオキイヤツラカラシマツシロ!!」

爬虫類を連想させる鱗に覆われたモンスターが指示を下し、植物と動物を併せた様な大型のモンスターが数体向かって来る―――それだけなら、バーサーカーやセルの敵では無いだろう。
しかし、大型のモンスターは無数の蔦の様な触手を伸ばし、小柄なセイバーは避けれたが、巨体が災いしたのかバーサーカーとセルが絡め取られてしまう。
更に驚きを隠せなかったのが―――
紅い装束を着た魔術師の様な奴ら、如何やら幽霊に近いらしく、負の想念から生まれて来るモンスターらしいが、そいつ等が蔦を使うモンスターにより動けない瞬間を狙い、素早く二人に近付くと―――轟音と共に自爆した。

「っ、自己犠牲呪文か!?」

「威力は高いが範囲は狭い、隊列を密にし近付かせるな!残りの者は矢と魔術を用いセルビウム・ボルトを援護せよ!!」

後ろから、アヴァターの魔術に詳しい奴なのだろうと思うがそう聞こえて来た事から、あの紅の装束を纏ったモンスター達が行った魔術が何なのかが判明しすると、セイバーはすぐさま指示を下す。
その自己犠牲呪文の威力は凄まじく、一体が使う自己犠牲呪文だけでAランクはあっただろうか。

「バーサーカーは大丈夫なのか?」

「大した問題じゃないわ、バーサーカーは宝具『十二の試練』(ゴット・バンド)があるから、十二回殺されなきゃ死ぬ事は無いわよ」

数体掛りに飛び掛られ、爆発したバーサーカーを目にした俺は、流石に不味いかと思ったが、イリヤは全身から煙を上げるバーサーカーを見詰め、「へぇ、モンスターでもバーサーカーを殺せるんだ」と感心したように呟いている。
破滅のモンスター達を指揮している爬虫類ぽい奴が、「―――ヤッタカ」と口にしているなか、自己犠牲呪文の威力で蔦が吹き飛んだバーサーカーは、全身を煙で包みながらも何事も無かった様な感じで前に足を踏み出し。

「■■■■■■■――――!!」

魂すら凍らせ絶望すら抱かせる咆哮と上げると同時に、手にした斧剣を凄まじい速さで振るうバーサーカーは蔦の触手を持った大型モンスター達を薙ぎ払い一蹴してまう。
そんなバーサーカーだが、紅い装束のモンスターをまるで無視するような感じで戦っていた為か、再度纏わりつかれ自爆に巻き込まれる―――しかし、今度は傷付いた様子すら見せず、無慈悲な狂戦士は容赦無く周囲のモンスター達に死を振りまく。

「ヘラクレスであるバーサーカーは、一度乗り越えた試練なら二度と失敗する事は無いわ、だから―――」

「―――蘇生魔術の重ね掛けに加え、一度殺した方法ではバーサーカーは二度と傷付く事が無いという事ですか。
(敵であった時は恐るべき相手でしたが、味方になればこれ程頼もしい者はいないでしょう―――いや、それよりも聖杯戦争時に、彼の大英雄がアーチャーとして現れなかった事を幸運と思うしか無い)」

クスリと笑みを漏らし、頼もしげに説明するイリヤに割り込んだセイバーは、バーサーカーに敬意を払っている様子だったが、横で聞いていたデビットは「―――マジで化け物だな」と口にしていた。
だが、セルが乗っていた『救世主の鎧』は、数体掛りの自爆により両足の至る所が損傷し、外から見れば動くのは困難だと判る。

「っ、くそ、脚が―――仕方ねぇ、剣は振るえねぇが砲台くらいには…なれるか」

元々、胴体と脚の部分には魔術的な技術が使われているらしく、空間が空いているから足元で自爆を受けたとしても胴体の損傷はほぼ無いといってもいい、その為、傷付いた両脚との魔術的連結を解除すると、背中に四対ある伸縮自在の槍と手に持つ斧剣を脚の代わりに使い立上り、空いている腕を飛ばしモンスターを貫いた。
「―――バ、バケモノダ」と指揮していたモンスターが逃げ出すと同時に、破滅の軍勢が総崩れになるなか俺達は進撃を続け、丘の上へと辿り着き防衛線右翼側の状況を見て絶句した。
―――そこは正に灼熱の地獄だった、塹壕よりも下は紅蓮の溶岩が溢れ出し、溶岩の海と表現すら出来る、その溶岩の海からは無数の紅の触手が伸び周囲のモンスター達を焼き払い、溶岩の熱と想像を絶する出来事に塹壕の上に陣取っていた友軍も大混乱に陥っている様子だった。
更に、人やモンスターの死体が集まった十メートル近い巨人の上半身を模した何かまでいる始末。
俺と同じく、灼熱地獄を見た者達の士気は急激に下がり、「あんな化物…如何やって倒せばいいんだ……」とか「………もう終りだ」とか口々にしだす。
とはいえ、巨人は兎も角として溶岩の触手には何処か見覚えがあり―――あっ!?

「―――アレ…て、まさかポチか」

「ちょっとまてエミヤ!ポチってアリシアのペットで丸くてよく回ってるヤツだろ!アレの何処がポチなんだ!?」

「いや…俺も詳しくは知らないが、ポチは見ての通り溶岩を使えるんだ……」

「アリシアに確認しました―――その結果、今、目にする溶岩と蠢く触手の持ち主は間違いなくポチだそうです。
しかし―――アレは、私が予想していたよりも遥かに巨大だ」

「う、嘘だろ…」と零すデビットだが、逸早く『念話』で確認したセイバーが俺に代わり答え、それを聞いたデビットは「………マジかよ」と固唾を飲み込む。
ポチに幾つか指示を出し、その通りに溶岩が蠢く様を見せたセイバーは、溶岩の中にいるモノは我々が事前に呼んだ精霊だと部隊の皆を激励した事で士気は戻り、俺達は混乱し浮き足立つモンスター達へと突撃を開始する事となる。
俺は丘の上から援護の為矢を放っていると―――

「―――っ、アイツ戦場でなんて格好してるんだ!?」

上半身だけの巨人の近くで、およそ戦場には相応しくない―――いや、というよりもほぼ全裸に近い格好をした女の子が、杖を手に銃を手にする仮面の男と向き合っている。
まて―――仮面と銃?

「―――破滅の将か!?」

「むっ、シロウ、敵将の姿を確認したのですか!?」

「ああ」と指で示し、更に注意して見れば、周りにいるのが救世主クラスの皆だと判り。

「今、救世主クラスの皆が戦っている最中だ」

そして、上半身だけの巨人相手にルビナスが大剣を構えている事から、アレも破滅のモンスターか何かなのだろうと判断を下すと、剣の丘から一振りの剣を取り出し、弓に番え魔力を込める。

「赤原猟犬(フルンディング)」

真名を開放し、放たれた猟犬の名を冠する剣は、狙い違わず破滅の将の一人を貫いた後、上半身だけの巨人へと突き刺さるのを確認し呟く。

「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」

だが―――内包した魔力が爆発した事により巨人の半分近くを吹き飛ばしたものの、地面から死体が競り上がるが如く蠢き瞬く間に巨人の体は復元してしまう。

「っ、あの巨人はアレくらいの攻撃じゃ駄目なのか!?」

「―――では、私が行きます、後の指示は『念話』で」

宝具の爆発にすら耐えうる巨人に、驚きを隠せなかった俺の前をセイバーが駆け抜けて行った。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

アヴァター編 第13話


破滅の軍勢に襲撃を受けている右翼へと、リコの逆召喚で転移すると同時に、私達はそれぞれモンスター達を倒して行く。

「大いなる欲望、光を持って薙ぎ払え」

シアフィールドさんの放った爆炎に気を取られている隙をつき、エルダーアークに根源力を収束させ解き放ち、直線状のモンスター達を薙ぎ払う。
ダリア先生の教育態度は失格かもしれないが、授業内容には私達同士で戦う事も多いい、その為、私達は他の人が如何戦うのか予測出来易く互いに連携しながら戦う事が出来ていた。
故に、白兵戦能力が高い私とヒイラギさんで、向かって来るモンスター達の突撃を止めつつ、前衛と後衛の両方をこなせるトロープさんとリコの両名は、援護と漏れたモンスターの相手する事で、詠唱と集中に十分な時間を与えられたシアフィールドさんの攻撃魔法は面を攻めモンスター達を一気に撃破してしまえる。
そうは言っても、向かって来るのはただのモンスターの群れでは無く、破滅の軍勢なので、私達が相手をする数も半端では無い―――が、数の劣勢は一時的とはいえ私の分身を練成する事でどうにかでき。

「エルストラス・メリン・我は賢者の石の秘蹟なり、我は万物の根源たる四元素に命ずる爆ぜよ」

僅かな隙をついて、私も攻撃魔法を唱えると面でモンスター達を吹き飛ばす。

「これで防衛線の破綻は何とか回避できそうね」

「そのようね」

「何とかなったから良いけれど……あのまま、中央で待機している間に、ここが破綻していたらと思うとゾッとするわ」

周囲を見渡したトロープさんが確認し口にした言葉に私は頷き返し、知らない間にこの右翼側が破綻した時の事を想像したのかシアフィールドさんは眉を顰めた。
私達が救援に駆けつけた事で、戦線は破綻せず維持する事が出来、混乱した指揮系統も今では戻りつつある。
それでも、壊滅した師団の生き残りの負傷兵が多く配置されていた右翼側後方の損害は多く、気が付くのがあと少し遅れていたら完全に壊滅していた事は否めなかったでしょう……

「こんなものですか、救世主というのは―――がっかりですね」

「そう―――たかが、破滅のモンスター達を倒したぐらいで天狗になっているとは、可愛らしいこと」

「王国軍は遊び相手にもなりゃしなかったが、お前ぇらは如何なんだ」

モンスター達の襲撃を堪え、騒然としている場に現れる三人、その後ろには指示を待つようにして数知れないモンスター達が控えている、この三人が空に現れた破滅の将で間違いなさそうね。
三人の特徴は仮面の男に、目線を目隠しで覆った女性、半裸の巨漢…その内の一人を私は知っていた―――

「―――ロベリア」

「久しいわねルビナス、あの時昇天したと思っていたけれど、生きていたのなら千年前の借りは返させてもらう―――もっとも、その出来損ないのホムンクルスの体で何処までもつかは疑問だけど」

千年の時を越えて再会したロベリアは、この千年の間に何かあったのか顔を目隠しで隠している。
それでも、私を嘲笑しているのだから見えているのでしょうけれど。

「俺の名は……」

ロベリアの隣にいる二人の内の一人、半裸の巨漢が名乗りを上げようとすると。

「ムドウ……」

「ん?」

「八虐無道」

「なんだぁ?俺様もとうとうそこまで有名になったかあ?」

「……柊 天道を知っているか?」

「申県の柊の里を襲った事があるであろう!」

「ん?ああ、思い出した。
御上に差し出す年貢をよこせと言ったら兵隊を送ってよこした馬鹿な領主がいたから、四肢を切り飛ばして、子供の見ている前でヤツの女房を犯してやった事があったなぁ」

「私の……父だ!!」

「こりゃあ驚いた。あのガキが今じゃ救世主候補様とはね……こんなにうまそうな娘に育つんなら、あの時食っておけばよかったぜ」

「なにを!」

「そんな挑発に乗っては駄目よヒイラギさん、仇を討ちたいのなら余計に冷静にならないと、討てる相手も討てなくなるわ」

「っ、拙者とした事が…ルビナス殿、すまないでござる」

ムドウと名乗る巨漢の挑発に乗りそうになり、今にも飛び掛らんとしたヒイラギさんを窘め落着かせる。
怒りが無くては戦い続ける事は出来ないけれど、過ぎた怒りは冷静さを欠き、冷静さを無くせば視野を狭くさせ、動きも単調になるから本人の意思とは真逆に隙だらけとなる、そうなってしまえば本来なら勝てる相手にも勝てなくなってしまうもの。

「…なるほど、二人にも知っている顔がいましたか」

「―――ならば私も」と仮面で表情は判らないけれど、ロベリアとムドウに向けていた視線を私達に向け続ける。

「我が名はシェザル…破滅を願う者。
そして、私もお前達に聞こう、お前達は何者なのか……と」

「……シェザル?そんな……」

「救世主候補生など言う未完成の身分がお前の本質か?
それとも、ベリオという名がお前を表現する全てなのか?
その肉体がお前の本質なのか?
ならば、抜け落ちた髪を自分自身と言えるのか?
切り取られた腕は?もぎ取った首は?お前自身は……どこにある?」

「この声……まさか………」

この時、トロープさんに語りかけたシェザルと名乗る仮面の男の言う事は意味不明に思えた―――

「人は死を迎えた時にだけ、『それ』を悟ることが出来る、そこに…自分が『いた』のだと―――分かるか……ベリオ」

「まさか…そん………」

「しっかりしなさいベリオ!」

「…そうです、昔は如何あれ、今は破滅のモンスター達を纏める破滅の将の一人、倒さなければアヴァターに住む人々が彼等の手により殺されてしまいます」

「ご、ごめんなさい……」

昔の恩人だったのか、シェザルのよく分からない言葉に動揺しだすトロープさんを、シアフィールドさんとリコの二人が現実に引き戻し、トロープさんは自身の動揺を無理矢理なのでしょう抑え込んだ。

「さしずめ破滅の救世主候補ってところだな」

ヒイラギさんの仇であるムドウが私達を見据える。

「冗談言わないで!皆の為に戦い、認められたのなら兎も角、破滅の誘惑なんかに下ったヤツに、救世主候補を名乗る資格は無いわ!」

「ふっ…そう、貴女達、ルビナスからは何も聞いてないのね」

「如何言う事よ!」

シアフィールドさんの剣幕にも、ロベリアはそよ風が吹くが如く表情一つ変える事無く、一度私の方に顔を向けた後。

「この世で真の救世主になれるのは唯一人だけ。
そして、世界が白と赤の二通りの理でできているのなら、候補者から白と赤の救世主が選ばれ、話し合いや殺し合い…手段はともあれ、一つとなり真の救世主は誕生するのよ。
なら、その理を補助する者も白と赤の二通りあると考えるのが当たり前ではなくて?」

「デタラメを……第一、救世主は私達人間を助ける為の存在なのよ!
お前達破滅やモンスターなどと手を組むはずがないじゃない!」

「貴女は救世主になった事があって?」

「なっ!?そんなのある訳が……」

「無いのなら、どうして救世主が人間の為だけにある存在と言えるの?
私は、そこのルビナス同様、千年前に白の精と契約を交わし白の救世主となった者―――差し詰め、貴女達の先輩に当たるわね」

「―――白の救世主ですって!?如何いう事よルビナス!」

シアフィールドさんは、ロベリアから私に視線を向けて来る。

「ロベリアの言ってる事は本当よ―――そうね、真実を言わなかったのは謝るわ。
でも、真の救世主は貴女達が考えている様な存在では無いのよ……本来ならこの戦いが終わった後、アリシア達を交えて話そうと思っていたけれど」

ここで話してしまったのなら、皆はもう戦えなくなってしまうかもしれないとも過ぎるが、他の二人もロベリアと同格の実力の持ち主ならば、疑問を持ち戦うのは逆に命取りになるでしょう…

「皆、心して聞いて欲しい…救世主こそが破滅を滅ぼし世界に平和をもたらすと伝えられているけれど、逆なのよ…真の救世主こそが、真の破滅をもたらす者。
真の救世主が現れる時―――全ての命は滅び去り、世界は新たな理と共に生まれ変わるわ…」

「っ、救世主という者がそんな曲者でござったとは!?」

私の話を聞いたヒイラギさんは拳を握り締める。

「その通りよ、そして、真の救世主たるべき資質を持つ方は現在もっとも白の主に相応しい方でもあります」

「―――先程の事といい…その方が、己の使命を自覚されれば、貴様らなど塵芥に等しい」

ロベリアとシェザルが告げる白の主アリシア、先程の大魔法を使ったのがアリシアなら、その実力は計り知れない、でも―――

「っ、そんなはず無い―――あの子は私に優しくしてくれた……私を戻してくれたあの子がそんな事をする訳が無い。
きっと、イムニティに騙されているのよ、話して説明すれば救世主になんかになる筈は無いわ!」

かつて親友だったロベリアとの戦い同様、救世主の伝説を信じた人達がこんな気持ちにならないようにする為、私とミュリエルは皆を指導し監視していた。
なのに―――よりにもよって、私を元に戻したアリシアが白の主だなんて……それに、アリシアは見る限りでは、白よりも赤の方が近い感じがするわ、なら、イムニティの契約に問題があったとしか思えない!

「はっ、だから―――そうなる前に俺達がテメェらをブッ殺しに来たって訳よ」

「ついでに赤の精オルタラ、今はリコ・リスと名乗っているそうだけど貴女の命も頂くわ」

「今はマスターが居なくても、元マスターであるルビナスが傍にいてくれれば私の力は十分使えます。
それを―――いくら契約していないとはいえ、仮にも世界の半分の理を司る私を、ついでにとは……甘く見られたものですね」

ムドウとロベリアの言葉にリコが目を細め。

「っ、ニティ殿が―――なら、白の主とは…そういう事でござるか!」

「リコが赤の精とか、解らない事だらけだけど、世界を破滅させようとする、あんた達の思い通りにはさせない!」

話はこれでお終いと白の将三人が構えると共に、召還器を手にしたヒイラギさんとシアフィールドさんが構える。
どうやら、イムニティと付き合いがあったヒイラギさんは白の主に思い至ったようね。

「どうする、ルビナス?」

「ロベリアの事は私が良く知っている、貴女達は残りの二人をお願いするわ」

「では、拙者はムドウの相手をいたす」

「なら、私は変な仮面をした奴を相手にするわ」

「リコとトロープさんは二人の援護をお願い」

シアフィールドさんの問いかけで、皆に指示を出しリコとトロープさんがそれぞれ、「はい」、「……は、はい」と答え。
ムドウとシェザルも「テメェら出番だ」、「行け、モンスターども」と後ろに控えていたモンスター達や見慣れない衣装を着た兵士達が突撃して来る。
私達の後ろで様子を見ていた王国軍兵士達も、「王国軍の意地を見せてやれ」とか「伝承が如何であれ、このアヴァターを救う者には違いない、救世主候補生をお守りしろ!」と叫びを上げ破滅の軍勢と激突した。
根源力で全身を強化し、瞬時に私とヒイラギさんはロベリアとムドウの二人へと間合いを詰め戦いを始める。
片手剣でエルダーアークを受け流すロベリアは、昔同様動作に魔法の含みを持たせ、剣と魔法の連撃を使ってくるが間合いを調整し、大剣であるエルダーアークの一撃を持って押し戻す。
横目では、タタタタタと軽快な音をたて連射銃を撃ち放つシェザル相手に、シアフィールドさんは障壁で防ぎ攻撃の機会を窺っている。

「はっ、そんなもん、俺の硬気功には効きやしねぇ!」

ムドウと戦うヒイラギさんは牽制なのでしょう、数本の苦無いと呼ばれる手裏剣を投擲するが、ムドウの体に刺さる事は無く、効いていない様子だった。

「何処を見ているルビナス!」

「ちぃ」

踏み込みと同時に、ロベリアの手にする剣が三度の突きを放つ、その内二撃は避けたが、避けられない一撃はエルダーアークで受け、その力を利用し薙ぐように振い、ロベリアはバックステップしながら剣で受け止め後退した。

「もうやめて、シェザル兄さん!」

油断無く構えていると、ホーリーウォールという範囲の広い防御障壁使い、銃を連射しているシェザルの弾丸から、他の兵士達を防いでいるトロープさんの悲痛な叫び声が戦場に響き渡る。

「っ、そう言う事―――兄妹同士で戦わせるなんて、相変わらず趣味の悪い…」

「―――何を言ってる、シェザルとその妹を呼んだのは白と赤の精の二人……私は関係が無い」

「まあ」と呟きシェザルへと顔を向け「シェザルの妹だから碌でも無い奴だとは思うけど…」

「そんな事無い、トロープさんは良い子よ」

「はっ、大方あんたと同じでカマトトぶってるのさ!」

「昔も言ったけれど、私はカマトトぶってなどいないわ」

「…貴女も昔と変わってないわね」と少し昔の事が過ぎり気が付く。

「処でロベリア、貴女…召還器はダークプリズンはどうしたの?」

「…あんたのこの体を乗っ取ってから、使えなくなったのさ…あんたが小細工をしたんじゃないのかい?」

「そう…もう召還器の声も聞こえないのね」

「ふんっ!それがどうしたっ!今の私には力があるッ!召還器など必要としない程の力がッ!」

「…そう、なら悪いけど、その体、返してもらうわ!ロベリア!!」

「ほざけ―――裏切り者が!!!」

同時に踏み込む私とロベリアの剣は、互いに激しく激突を繰り返し火花を散らす。

「ルビナス!アンタは、そうやって、また心の中でほくそ笑みながら、私を見下す!」

「っ、あいかわらず、ロベリア。
それは、被害妄想と言うのものよ?私はいつだって、貴女を…」

「奇麗事を!いつだって、私は救世主候補御一行の汚点!
薄汚れた醜い妖術戦士!白や紫の服がお似合いの御一行で唯一、真っ黒な服をまとう、暗黒騎士!」

「貴女がそんな役割を引き受けてくれた事を、私達はいつも感謝してたわ」

「戯言を―――言うな!」

間合いを離すと同時に、ロベリアは黒い霊気を放ち。

「なら―――貴女を滅ぼすしかない!」

飛来する黒い霊気を、解放した根源力で相殺し間合いを詰め剣を振るった。

「どうして!ロベリア、貴女だって今の世界で生まれた一人でしょう、どうして蘇ってまで破滅に荷担なんかしたの!?」

「あんたにはわからない、ルビナス!美しさも、力も、才能も持っているあんたには絶対に解らない!
私の故郷は破滅に滅ぼされ!私の体も破滅にズタズタに切り裂かれ――――――だから解る!
破滅は力だ!破滅から身を守る方法はただ一つ!
破滅を支配する力をもつ事だけ!」

ロベリアの剣に激しさが増す。

「その力を求めて何が悪い!どのみち、今の理で破滅は従えられやしないのさ!
そして―――ルビナス!お前は私の壁だ!!
お前を越えなければ、もう私は前に進めないんだよ!!!」

「力を得て……欲しかった安心は得られたの?」

「―――っ、うああああっ!あんたなんか嫌いっ、ダイッ嫌い!」

「―――私は貴女の事が好きだったわ」

怒りで動きが単純化した瞬間を狙い、根源力の全てを自身への強化に割り当てロベリアの剣を弾くと同時に一撃を見舞った。
「……ふぅ」息を吐き自然体に戻すと、倒れたロベリアに注意を払いながら周囲を見渡す。

「ちぃ、ちょこまと―――禁固が楔、我亡の呪法…喝ぁぁぁ―つ!」

声に驚いたのか、ムドウと戦っていたヒイラギさんの動きが止まる。

「……何の真似だ」

「そういやよぉ、食い残しをよ思い出してな」

「………食い残し?」

「親父を殺され、お袋を殺され、暴れるガキがいやがってなぁ…けど、まだその体を楽しむにゃ、熟れてなくてな―――後々楽しもうと思ってなぁ?」

「………」

「―――そん時、傀儡の術を仕込んでおいたんだよ………て、おい…何で動ける?」

術が失敗した事に動揺するムドウに対し、ヒイラギさんはゆらりと自然体で間合いを保ち。

「…………そうか…アレは貴様が仕込んだのか。
汝、八虐無道。宝嬉元年国許において咎なきわが父母を討ちて立ち退きし大悪人―――そして、師匠に拙者が猫にすら劣る者と思わせた…それこそ万死に値する大罪である」

「師匠だと?」

「―――貴様らが主と呼んだ者だ!」

瞬時に間合いを詰め掌打を打ち込む。

「何度も言ってるだろ!テメェの技なんか効きやしねぇんだ―――っ」

こちらからだと、ヒイラギさんの掌が軽く触れただけにしか見えなかったけど…体を崩すムドウの様子からして手痛い一撃だったみたい。

「ぐぅ…硬気功が効かないだと……テメェなにしやがった!?」

「拙者が勇気を持ち欠点を克服しようとした時、師匠から教わった技には二つある……一つは、今の様に如何に外面を強固にしようと関係無く内部を破壊する術に」

鋭いムドウの剣閃は、ゆっくりした動作にも見えるヒイラギさんの動きを捉える事が出来ず、独楽の様に大剣を振り回すも虚しく空振りするだけだった。

「捉えられねぇ―――こりゃあ、如何いう事だ!?」

「もう一つは…この世界アヴァターと同化する事で、人の身では不可能とされる事さえ可能にする力を得る事―――残念ながらその技は拙者が未熟故…会得出来ずにいるが、代わりに敵意を軌道として感じ取る事が出来る様にはなれた―――無道、既に貴様の動きは見切っている」

「馬鹿な…なんだそりゃ、そんな術は聞いた事がねぇ……」

一瞬の隙を逃さず、呆然とするムドウの懐に飛び込むと左胸に掌拳を当て。

「汝の悪行もこれまで、散れ無道…」

打ち込んだ掌に力を込め捻じり込む。

「が…ぁぁぁ……」

手を放し、背を向けるヒイラギさんの後ろで、目や耳、口から大量の血を溢れ出し崩れるように倒れるムドウ、これでロベリアに続き、破滅の将がまた一人倒れた。

「っぅ、ムドウが……余裕だな…ルビナス」

倒れていたロベリアが剣を杖代わりにしながら身を起こし私に顔を向ける。

「投降し、封印刑を受けるのなら、私は貴女の助命を嘆願しても―――」

「っ、見下すんじゃないよ!」

「この地に集う死霊よ…我に再生の力をッ」そう呪を紡ぎネクロマンシーの秘術を唱えると、ロベリアの体が再生を始め。

「くっ…お前に…お前に何がわかるッ!この千年…死体を操り、ただひたすら復讐を願ってきた私の何がッ!」

「千年の時を超えてきたのは、貴女だけじゃない―――貴女の千年と、私の千年。
いいわ、どちらが正しかったのか…決着をつけましょう…」

「いいさ…この千年で得た力、存分に見せてやる―――来いアンデット達よ!!!」

ロベリアの声と共に、命無い手が無数に突き出したかと思うと、呼び出された死者達はロベリアを埋める様に集まり一つとなって行く。

「アヴァターに屍体の埋まっていない大地は無い!こと、現に戦場となっている所なら、尚更ねっ!」

「巨大アンデット…そんなものが私相手に有効だと思ったの?」

「エルストラス・メリン・我は賢者の石の秘蹟なり」呪いを紡ぎ、「我は万物の根源たる四元素に命ずる」死者達に埋まってゆくロベリアを見据え
、「爆ぜよ」と発動させ―――

「―――っ、魔法が発動しない!?」

「あはははは!言ったろルビナス、千年で得た力を見せるって!」

「っ、だったら」

エルダーアークに根源力を収束させ解き放つ、だが、腕を交差させ防御障壁を展開しながら受けの姿勢を取った巨大アンデットの体を僅かに斬り裂いただけとなり、その損傷も見る見る内に塞がってゆく。

「その成果がこれさ、私自身を核とする事により、死体の魔力を使い、内部から爆発させるあんたの錬金術も、丸ごと焼き払うミュリエルの魔法にも対応させた強力なアンチマジックを備えさせ、あんたらの魔法は効かないが、私のネクロマテックの秘術は使える!
再生には死体が必要な処が難点だけど、先程も言ったようこのアヴァターに屍体が無い場所は無いのさ」

ロベリアを覆う死体の群れは、次第に形を巨大な人の上半身の形に変えると、巨大な腕を私目掛け振り下ろし、その巨大な拳を後ろに跳びながら、エルダーアークで衝撃を緩和させ受ける。

「っ、見た目通りの力って訳ね」

「そうさ、そして魔法は効かず、頼みの剣も強力な再生力により阻まれ―――尚且つ、圧倒的な力を持つ不滅の巨人、このカーリド・イムラークにあんたは何処まで耐えられるかい?」

先程の衝撃を殺しきれずにいた事から、巨大な拳をまともに受けていては、何れ体が持たなくなるのが解った。

「ルビナス殿、加勢するでござる!」

カーリド・イムラークの巨体を見たヒイラギさんが近寄ろうとするが―――

「はん、邪魔するんじゃないよ!」

「くぅ」

巨大な腕を払う様にするロベリアの動きに、直撃こそ免れたが、一度に広い範囲を薙ぎ払う動きにヒイラギさんは近付く事が出来ないでいる。
―――っ、ロベリアにまさかこんな奥の手が残っていたなんて………いえ、これは一度倒した時に友達だったからせめて命だけはと思い封印しなかった判断の甘さが招いたミス。

「ヒイラギさんはもう一人の破滅の将をお願い!」

「―――っ、分かったでござる」

恐らくこのロベリアのカーリド・イムラークは、救世主候補生全員で攻めなければ倒せない…それをヒイラギさんも悟ったのでしょう、リコとシアフィールドさんが戦うシェザルへと踵を返す。

「あははははは、そうだ踊れ踊れルビナス」

魔法を防ぎ、凄まじい再生能力を持つ、更にはロベリアの屍霊術士(ネクロマンシー)の魔法が使え、巨大な拳を振るう不滅の巨人、カーリド・イムラークだけど欠点はある。
動きの遅さ、それがあの巨人の弱点、だから私がとる行動は、皆が破滅の将の一人シェザル倒すまでロベリアを引き付ける事、私はロベリアの攻撃を避け続ける事に徹した。
だが―――

「痛っ」

リコが転移を繰り返し、かく乱と牽制を行い、ヒイラギさんが苦無いを投げ接近戦を行う機会を窺っているなか、シェザルの銃弾を障壁で防いでいたシアフィールドさんは、射撃が弱まった隙を突き魔法を放とうとした刹那―――鞭で打たれ倒れ伏す。

「悪いね…アタシはシェザル兄さんの味方なんだよ」

そう口にするトロープさんは青色のローブを投げ捨て、その下からは漆黒の皮の衣装が申し訳ばかりに細い体とたわわな乳をつつみ込んだ肢体が現れ。
そして、蝶のマスクをつけ倒れ伏したシアフィールドさんを腕を回すように起こすと、手にした鞭を放し、どこからともなく取り出した短剣を喉元に突き付ける。

「仕方ないだろ、アンタ達が兄さんを殺すって言うのだから―――実際、破滅の将を倒したヒイラギ・カエデと、甘ちゃんだけど強さは本物のルビナス・フローリアスはヤバイから」

「…っ、いくら貴女の兄でも、今は破滅を指揮している将、破滅の将であるあいつ等を倒さないと、皆が殺されてしまうのよベリオ」

「ベリオ?ごめんね、今の私、ベリオじゃないの…アタシの名前は闇に羽ばたく虹色の蝶、ブラックパピヨンさ」

戦闘用に作られたらしい鞭の一撃を受け、苦痛の表情を浮かべるシアフィールドさんにトロープさんは自身が盗賊ブラックパピヨンだと告げた。

「―――ははは、だから言ったろ兄が兄なら妹も碌でも無いって」

「アタシは兄さんの為にであって、アンタの為にやってるんじゃないよ」

「それでも結果が同じなら同じ事―――アンタは十分破滅の一員だよ」

ロベリアは面白さからか動きを止め、トロープさん―――いえ、ブラックパピヨンに向き。
私もシアフィールドさんが人質に取られているのでブラックパピヨンの動きに注目し理解した。
戦いが始まる前にシェザルが言った言葉は、トロープさんではなくブラックパピヨンに向けて語られた言葉だったのだと…

「ベリオがブラックパピヨンですって、なら、今まで私達の事を騙してたの!?」

「別にあんた達を騙してた訳じゃないよ、本当に『この娘』は知らなかったんだもの」

「この娘?」

喉元に短剣を突き付けられながらも、シアフィールドさんはブラックパピヨンから情報を汲み取りながら隙を窺う。

「アタシはこの娘の影―――この娘の隠された本質の一部。
この娘の意識が眠っている時にだけ表に表れる事が出来る、もう一人のベリオ」

「っ、二重人格…」

「そんな処、だから当然アタシが出てきている時には、この娘は眠っていて、そこで何が起きたかは知らないわ―――でも、アタシはこの娘の自我の一部だもの、当然この娘が見聞きした事は知ってるわよ」

「そんなのおかしいわ、ベリオは貴女の事を知らないでいて、貴女はベリオの事を知っているなんて」

「それは、この娘がアタシを否定したがっているからよ。
アタシはこの娘が否定し切り捨てた自我の固まり、無視して忘れたい存在だから記憶にも残さない……そういうわけ」

「―――ベリオの性格なら、破滅の将なんかになるような兄がいたら辛いのは確か、二重人格の事もそれが原因って訳ね」

「ベリオは決着をつけようとしていたみたいだけど、私には兄さんしかいないの―――おっと、動くんじゃないよ」

僅かに動こうとしていたシアフィールドさんの喉に短剣を軽く押し込んで、その動きを止めさせる。

「この戦いが終わったら、アタシはずっと兄さんと暮らせるんだ―――だから、邪魔はさせない」

「ああ、そうとも…二人で豊かに楽しく、尽きる事の無い愉悦を味わう事ができる…」

ブラックパピヨンに向けられた視線に答え「クク」とシェザルは哂う。

「……………ふぅん、そういう事、ベリオは破滅の将となった兄相手に対決しようといていたんだ」

シアフィールドさんは一呼吸の間眼を閉じ。

「―――だったらアンタはまだ私達の仲間よベリオ!
アンタは破滅の将にまで堕ちた兄と決着をつけに来たのでしょう!
ブラックパピヨンなんかの好きにさせてないで、少しは私達に意地を見せてみなさいよ!!」

「っ、アンタ自分の立場ってものを解って―――っ!」

まるで何かに打たれたように、ブラックパピヨンはよろめき、不自然な動きでシアフィールドさんから離れる。

「パピヨン…?」

シェザルが訝しがるなかブラックパピヨンに変化が現れた。

「お…お願い…貴女にこの体を譲るから…お願い、みんなを…アヴァターの人達を助けてあげて」

「どうして…今頃、ノコノコ出てくるのよっ!?なんで!?
私は兄さんや父さんとずっと一緒に暮らしていたかった…なのに、ベリオがつまらない意地をはるからっ!
私も男の子と素敵な恋がしたかった!友達と悪ふざけがしたかった!もう、うんざりっ!ベリオにはうんざりなのっ!」

シアフィールドさんの声でトロープさんが目覚めたらしく、ブラックパピヨンとトロープさんの二つの人格が一つの体で争う。

「いったい、何が起きているのでござるか?」

「今、ベリオさんの中で二つの人格が争っているんです」

状況が飲み込めないヒイラギさんに、リコが説明し、それをロベリアは「面倒くさい娘だね…」と呟き見ていた。
そんな時―――突如、大地が揺れ、正面から攻勢を仕掛けていた破滅の軍勢の間から紅の触手が無数に生え、断末魔の声が響き渡る。
ここは丘だから判る、それは…まるで地獄の釜が開いた光景だった、丘の下は正に炎の地獄、紅の触手は触れるもの全てを焼き尽くして灰に変えてしまう。
周囲の兵からも「まるで…地獄だ」とか「神よお慈悲を」といった声が聞こえて来る。

「低脳のモンスターばかりかと思えば、あの様なモンスターも居たとは」

「…いや、主幹からは何も聞いていないが」

「だが、今…正に破滅の鉄槌が蘇り、全ては灰燼に帰すのは確か―――我ら破滅の勝利は確定した」

シェザルとロベリアが交わす話しから、あの炎の地獄を体現しているモンスターを二人も知らない事と、二人の上に主幹なる人物がいる事が解った。

「―――まだよ、まだ私達は負けてなんかいない!」

「なかなかいい光景だ…絶望の中、一縷の希望を探し求め、もがき続ける強い魂―――そして、それを無残に踏みにじるのは最高の快楽…」

「貴様は歪んでいるでござる!」

シアフィールドさんの叫びを嘲笑するシェザルに、ヒイラギさんは怒りで答え。

「貴女は如何なのベリオ!」

「私はもう後悔を重ねない…これ以上、皆を殺させない」

地獄を連想させる光景を目の当たりにした事から、体の支配権を勝ち取ったのでしょう、シアフィールドさんの声に答えるトロープさんは召還器ユーフォニアを呼び出し手にする。

「私に逆らうのか、ベリオ?」

「ええ…貴方にこれ以上罪を犯させない…それが、私にしてあげられる唯一つの事ですから」

「そうか…やはり、お前の血は平民の汚らわしい愚かな血であったか…」

「兄さん…?」

「もう兄さんと呼ぶな…ベリオ、お前はどこぞの家から父さんが盗んできた子供だ」

「…え…?」

「父さんは子供欲しさにお前を盗んできたのだ、そして、お前は我々の期待通り、可愛らしい娘に育ってくれた。
私はお前が成熟した後は、手足を切り取り、美しい悲鳴を上げる彫像として、長き伴侶となってもらうつもりだった」

シェザルとトロープさんの話しに「…さすがの私もそれには引くね」とロベリアも呆れ、「…そうね」と私も同意した。

「…さようなら、兄さん。
それでも、貴方は私の大切な兄さんでした、幼い頃に可愛がってくれてありがとう…」

「そうか…ならば、私はお前の手足を切り取り、思いを適えさせてもら―――がぁ!?」

トロープさんが思いと覚悟を決めシェザルと対峙しようとした時―――どこからともなく、凄まじい速さで飛来した赤い何かがシェザルの体を貫き、更に軌道を曲げロベリアのカーリド・イムラークに突き刺さると同時に巨体の半分近くを吹き飛ばした。

「っ、何が起きたって言うんだい!?」

巨体の受けた損傷を死体が蠢くようにして、修復させるとロベリアは周囲を見渡す。
そして致命傷を受けたシェザルは―――

「ふ…成る程、散々、人の命を盗んできましたが…いざ、自分が盗まれるとなると…これ程の、解放感はない。
ああ、どうしてもっと早く試してみなかったのでしょう?」

体に空いた穴から溢れ出す血を手にし見詰める。

「ああ、そうか…生きて、生きて、他人の命を奪って、しつこく生き抜いてきたからこそ…
たった一つの自分の命が失われるときに、これほどのカタルシスを感じる事が出来るのですね」

「……兄さん」

「バカはほっときなさいベリオ!」

「ふふ…」

駆け寄ろうとするトロープさんだが、シアフィールドさんに引き止められ、破滅の将の一人シェザルは、最後まで哂いながら息絶えた。

「ムドウに続きシェザルまでもが―――だが、今のは何なんだ一体?」

周囲を見渡すロベリア同様、私達も周囲を確認しようと見渡すと、左翼防衛線の空が紅く染まり、丘の上では爆発音やら肉塊となり空を舞うモンスター達の姿が見え隠れしている。

「―――まあいい、あの紅蓮のモンスターが居る以上我らに負けは無い」

「でも」とロベリアはトロープさんに向くと、「結局のところアンタは白なのかい、それとも赤なのかい?」

「私は救世主候補生、これ以上、貴女達の思い通りにはさせません」

ロベリアの問いに、召還器ユーフォニアを両手で突き出す様にし構えるトロープさん。

「そうかい…なら、私の敵で良いって事だね…じゃあ―――死にな!」

実のところ、トロープさんは中距離において実力を発揮できるタイプで接近戦は苦手と言ってもいい。

「トロープさん避けて!」

そんなトロープさんが、詠唱する時間も足ず防御障壁を展開出来ない距離から、巨体であるカーリド・イムラークの巨大な拳を避ける事も、受け止める事も出来ないのは理解してしまうが叫ばずにはいられない。

「っ」

でも―――その巨体から繰り出される拳を、突如現れた蒼い疾風が受け止めていた。

「………ベリオ・トロープ、貴女は何て格好で戦場に出て来ているのですか?」

目には見えない何かでカーリド・イムラークの拳を受け止めた、蒼い疾風とも呼べたセイバーさんは呆れた様に口を開き。

「…え…あ……この格好あの子が」

トロープさんは漆黒の皮の衣装で申し訳ばかりに包まれた自身の格好に気が付き、慌てて両手を使い体を隠す。

「救世主候補の貴女方は、崩れた戦線の立て直しを―――その間、この怪異の相手は私が引き受けます」

「っ、待つでござる、如何にセイバー殿とてこの異形を相手に一人では!?」

「問題ありません、この手の手合いとは幾度か戦った事があります」

セイバーさんは、ヒイラギさんの言葉で私達を一瞥した後、再びロベリアに向き合う。

「お前は!?っ、しくじったか白の精―――だが、たった一回受け止めただけでいい気になるな!」

「―――そうか、お前は知っているのか白の書の事を」

「はっ、ずっと前からアンタの近くにいて気が付かなかったかい」

ロベリアは巨体を操りセイバーさん目掛け振り下ろし、セイバーさんはその拳を上段から振り下ろした何かで受け止めると瞬時に、振り下ろされた巨腕の上に跳躍し、凄まじい速さで駆け上がると胴に見えるロベリア本体へと斬り掛かった。

「―――なっ!?」

ロベリアは空いていた片手でセイバーさんの不可視の一撃を受けたものの、巨腕の方が一瞬押し込まれる。

「………化け物かいアンタ」

「問おう―――破滅の将、貴女は白の救世主か」

人の領域を凌駕するセイバーさんの実力に、ロベリアは唖然とするのに対し、セイバーさんは油断等ない感じで不可視の何かを構え口にした。

「元、白の救世主さ―――白の精と契約を交わした者はアンタのすぐ傍にいたんたけど判らなかった様だね」

答えるロベリアに「すぐ傍に?」とセイバーさんは眉を顰め。

「セイバーさん、その事については後で話すわ」

「貴女は知っているのですねルビナス」

「―――それより、今はロベリアとあの紅蓮のモンスターを何とかしないと」

「それなら心配は無用、あの溶岩を纏った精霊はアリシアのペットのポチ―――我々の味方です。
故に、後は破滅の将と軍勢の残存を掃討するのみ」

「ポチですって!?」

「って、あんなトンでもないのをペットにしてるってどんな人間よ!?」

「アレが師匠のペットのポチでござるだと…」

真っ直ぐにロベリアを見据えるセイバーさんが口にしたポチという存在、それを私は知っている。
そして、思わず突っ込みを入れてしまうシアフィールドさんと、私同様ポチを知っているヒイラギさんは紅蓮の地獄を作り出したポチに驚きを隠せないでいた。
私もモグラみたいに、地面の中を移動する小さな精霊だとばかり思っていたのだけれど…まさか、あれ程の事が出来てしまうなんて予想すらしていなかったわ。
そんな私達の話しに頷き、不可視の何かを構えたセイバーさんから恐るべき気迫と桁違いの魔力が溢れ出す。

「解りました―――ならば、残るはあのロベリアと言う将を討つのみ!」

「はっ、やってごらんよ!いくら常人を凌駕する力と速さを持っていたって、私のカーリド・イムラークは死体を使い無限に再生出来るのさ―――そんな倒せない相手に何処までアンタは戦えるかい?」

そうロベリアは言うが、恐るべき実力を持ったセイバーさんを相手にしている以上、ロベリアに私達を相手にする余裕は無く。
私達も迂闊に手出しをすればセイバーさんの足手まといになってしまう可能性もある事から、私達救世主候補生達はポチに追われ戦線を突破しようと死に物狂いで圧力をかけてくるモンスター達を倒し。
その後は、距離を取り兵士達を下がらせながら何時でも援護を出来る様にしていた。

「だったら、これなどう!いくら人間離れしているからって―――ネクロマンシーの奥義の一つ、即死呪文に何処まで耐えられるかしらねっ!!」

巨腕を振るうだけの攻め方では、セイバーさんを倒せないのを理解していたのでしょう、距離を取った瞬間を狙いロベリアは魔法を放ち、その生命を奪い去る黒い霊気を避けようともせずに直撃を受けるセイバーさんだけど。

「………その程度ですか?」

当たる寸前で黒い霊気の方が消え、何事もない感じでセイバーさんは佇んでいた。

「―――なっ、まさかアンタも強力なアンチマジックを!?」

「その程度の魔術では、私を傷付ける事は出来ない」

「くっ、ネクロマテックを極めた私の魔法がその程度だと!」

怒りに我を忘れたロベリアの猛攻を避け続けるものの、セイバーさんにも決定打は無いのか気が付けば丘の上にまで来ている。

「逃げているばかりじゃ、私には勝てやしないんだよ!」

「―――風よ」

振り下ろされた拳を避けるどころか、瞬間移動の様な動きでロベリアの下側へと位置を変えると、セイバーさんは呟き嵐が起きる―――いえ、彼女からではなく、彼女が持つ剣から。

「私の宝具は強力故使い所を選ぶ―――だが、ここならば、地上を焼き払う心配も無い」

幾重もの風を払い、不可視の封が解かれ、その剣は姿を現した。

「黄金の―――剣?」

同時に収束する光―――その純度は私の召還器エルダーアークとは比べるべくもない。

「くっ」

瞬時に輝きが増す黄金の剣に、いも知れぬ危険を感じたのか、ロベリアは障壁と両腕を交差させ防御の姿勢をとる。

「―――約束された(エクス)」

その光はなんと尊き輝きを秘めているのだろう。

「勝利の剣――――!!!(カリバー)」

振るわれ放たれる光の刃は―――文字通り光の線。
それは、ロベリアが不滅の巨人と名付けた、カーリド・イムラークの防御障壁を容易く両断し、巨体を一瞬で蒸発させた後、遥か上空の雲すら断ち切り消えて行った。

「………なに…アレ?」

目を丸くし、そう呟いたシアフィールドさん言葉は今いる私達全員の疑問…
そして―――しばらくすると「救世主いる限り我らに負けは無い!」や「救世主がいる限り我らは常勝無敗」と周囲の兵士達が声を上げ始め、崩れかけた士気はこの上ないほど高いものへと変わり、王都防衛線右翼へと進撃して来た破滅の軍勢の残存を掃討した後、無限召喚陣を破壊するのにそう時間は掛からなかった。


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