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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] アヴァター編10
Name: よよよ◆fa770ebd ID:d27df23a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/23 20:38

「如何かしら鎧の着心地は?」

全身を覆う鎧の不具合は、見た目では分からないので心配な表情をするミュリエル。
私は着ている服を脱ぐ訳では無いので、昨夜遅く届けられた鎧を試着していた。
簡単な布の鎧とすら思えるキルティングのあいだ着を着た後、王室特注の板金鎧を装着する、これは私の体、千年前のロベリアとの決戦の際に急ぐ必要から部分別に作製された事による弊害を少なくする為の装備。
勿論鎧であり、それも金属で出来ている以上防御効果も十分に高いし、鱗の様な金属で覆われた小手は殴っただけでも鈍器と同じ威力を持つでしょう―――しかし、私にとってはそれ以上に全身を金属鎧で覆い、外れ易い手足の関節を外側の鎧で固定する事で外れにくくする事の方が重要、特に破滅との戦いでは長時間の戦闘が予想されるから手足が外れ易いのは致命的といえる。
しかも、ミュリエルに頼み依頼していた板金鎧は、この千年の間にアヴァターの治金技術が思いの外上がっていたらしく、見た目よりも軽量で更には各種魔法技術が使われていている事から対魔法防御効果も期待出来る逸品らしい。

「そうね、思っていたよりも軽くて動きやすいわ―――ただ、難があるとすれば…一人で着られない事ね」

そう、この手の鎧の共通的な弱点としては、重量と蒸れ、手入れを怠ると錆が出るので細かな手入れが必要な事と、一人で装着する事の難しさでしょう。
この特注の鎧にしても、重量と防御力の対比の高さや、錆の発生が抑えられてはいるものの、装着するのは変わらずで一人での着用は難しかった。

「それは仕方ないわよ。
この鎧を使う事で、貴女の実力が十分に発揮出来るのだから我慢するしかないわ」

「そうね、贅沢は言えないわね―――そうそう、実力といえばリリィさんの事だけど」

ここでシアフィールドさんと言うと、ミュリエルと被るのでリリィさんと口にすると。

「リリィが如何かしたの?」

ミュリエルは、娘に何かあったのかと表情を曇らせる。

「安心して、良い方の報告よミュリエル。
前は何時も張り詰めていて、余裕が無かったから何処か危なげだったけど。
最近ではその余裕が出来て来たみたいで、先日のヒイラギさんとの試合でも、回復魔法を使いながら戦う事で戦況を有利に動かせる位になってたわ、貴女に並ぶのも時間の問題かもね」

「リリィが回復魔法を―――昔のトラウマで攻撃力が高い魔法しか学ぼうとしなかったあの子が…」

これは以前、順位決めの試合をした時に攻撃魔法しか使わない事に気が付いたので、『指導』として戦場で必要な魔法は、時には攻撃魔法よりも治療系の魔法の方が重要な事を教えたからでもあったと思う。

「それだけじゃ無いわ、この前アリシアとイリヤスフィールさんとの試合を見た事で、威力が弱くても連続詠唱可能な魔法や、補助魔法に罠として設置する魔法の有効性にも気が付いたようよ」

「あの子が今まで見向きもしなかった術式に……有難うルビナス」

「違うわミュリエル、私が教えたのは切欠。
後はリリィさん自ら学んで覚えたんだから、私に礼を言うのでは無くてリリィさんを褒めてあげると良いわよ」

「そう―――!?」

ミュリエルが返答しようとした時、爆音と共に何か揺さ振る様な衝撃が響き渡った。

「っ、一体何が」

「ミュリエル、アレを見て」

ミュリエルとは別の窓を開け見渡すと、召喚の塔の一角から一筋、黒い煙が立ち上っているのを確認し指し示す。

「召喚の塔が!?」

「まさか召喚に失敗して―――リコ!」

私とミュリエルは急ぎ召喚の塔へと走る途中、ダウニー先生とダリア先生と落ち合い一緒に向う。
召喚の間に辿り着くと、そこにはリコとその身を心配するミュリエルの娘リリィ・シアフィールドさんが居た。

「怪我とかは無いリコ」

「…はい」

コクリと頷くリコを見て少し安心した。

「ダウニー先生、マナの残留波動を調べて、ダリア先生は周囲の被害状況を調査」

召喚の間を一瞥するなり二人に指示をだし「はっ」、「はぁい」と頷いてダウニー先生とダリア先生は行動を開始する。

「お義母さま!」

それで気が付いたシアフィールドさんがミュリエルに視線を向けるけど、情報が少ないので答えられず。

「学園長、やはり破壊された塔の破片にはマナの残留波動は感じられません」

「周囲の建物にも影響は無いみたいですねぇ。
爆発は正確に召喚陣だけを吹き飛ばしたみたい」

「そう…となると、やはりコレは計算された物理的な作用による爆発と言う事ですか……」

手早く破壊された内部の調査を終えたダウニー先生とダリア先生の報告を受け、ミュリエルは唇を噛んだ。

「お義母さま、爆発って…?」

信じられないのか一呼吸間を空け。

「まさか…誰かが火薬を使って意図的にリコ・リスの魔法陣を壊した……と?」

「そうです」

声を震わすシアフィールドさんにミュリエルは軽く頷く。

「ルビナスさん」

立ち上る黒煙を見ただろうトロープさんが遅れ駆けつけ「どうしたのこれ?」と室内の状況を見て目を丸くしていた。

「大掛かりな魔法が逆転現象を起こしてマナが爆発的に飛び散ることが有りますが、今回の爆発は周囲の残骸にマナの影響は見られません」

「しかも、独特の硫黄臭もするしぃ。これは明らかに火薬を使った破壊行為よねぇ」

「そんな―――如何して、召喚陣を壊す必要があるのよ!」

ダウニー先生とダリア先生の調査結果を聞いたシアフィールドさんが憤る。
それを―――

「救世主を呼べなくするため……」

「え、如何いうこと?」

「いいえ…救世主を返せなくするため」

「如何して分かるの?リコ」

「………」

シアフィールドさんとトロープさんの疑問には答えず、リコはじっと召喚陣のあった辺りの破壊された石床を見詰めている。

「しかし確かにそうね。
召喚陣を壊す目的といったら、呼べなくするか、帰せなくするか…そのどちらかでしょうね」

「……そんな事はさせません」

「リコ・リス?」

リコは、その推測に同意するミュリエルに視線を向ける事も無く、破壊された召喚陣を見詰め声を漏らし、その姿に何か感じたのかシアフィールドさんはリコを見詰める。

「これは…私の責任です。みなさんが無事に帰れるように、召喚陣は私が責任をもって直します」

「あ、ちょっとリコ!」

「直すって、あの子どうやって……」

召喚陣が破壊された事に責任を感じて立ち去るリコの姿に、シアフィールドさんとトロープさんも何か危なげなモノを感じたのだろう声を掛けるが、振向く事も無くリコは去って行った。
訝しむ二人を尻目に、私はリコが何を思い考えていたのか気になり、リコが佇んでいた位置に移動し見詰めていた方に視線を向ける。
そこには―――

『じ か ん ぎ れ よ』

鮮やかな白色で描かれた文字が見て取れた。
召喚陣があった床に殴り書かかれたその文字は丸くて小さいな筆跡……でも、こんな所にリコが書く筈が無い。
しかも…『じかんぎれよ』の意味するもの―――っ、まさか!?

「でもぁ、ミュリエルさま~これではもう新しい救世主候補を召喚する事はできませんわぁ」

「あ…それでは今いる救世主候補の中から救世主が選ばれるという事…ですか?」

「まぁねぇ。でも、その中に真の救世主がいなかったら、破滅に負けちゃう事にもなりますものねぇ」

「っ……」

ここを破壊した犯人に私が思い当たるなか、これ以上候補者が増える事が無いという事実からトロープさんはダリア先生に質問をし、かつての経験から破滅を滅ぼすだろう救世主に強い憧れを懐いてきていたシアフィールドさんは、その強い想いから改めて決意をしたのか唇を噛む。

「…いずれにしろ、現有戦力の中から救世主にふさわしい人物を選ばなくてはいけなくなったと言う事です」

ミュリエルは一旦区切り、この場に居る私達を見詰め。

「新たな人材の確保が難しくなった以上、王宮もこれ以上の時間の浪費は見過ごしにしてくれないでしょうから、これからの救世主クラスの訓練はこれまで以上に厳しくなります―――覚悟しておきなさい」

更にミュリエルはダリア先生とダウニー先生の二人に視線を変え。

「……善後策を検討するために緊急職員会議を開きます、ダリア先生、全職員に緊急集合をかけてください。
ダウニー先生は現場の被害状況の報告書の作成と、校内にいる火薬知識を持つ人物のリストアップと、同人物の一両日中の足取りを」

「はぁい」、「はっ」とダリア先生とダウニー先生が答えるのを確認すると、再び私達に視線を向ける。

「……全校生徒は各自、自宅と寮にて自習。
校内に不審人物がいないかの検査が完了するまで外出を禁じます」

そう言うとミュリエルとダリア先生、ダウニー先生の三人はこの場を離れて行く。
私はおおよそだけど―――犯人には心当たりがあり、それを確認する為にミュリエルに許可が必要だから追いかける事にして、今だ破壊された召喚陣を見詰める二人を残し後にする。
召喚塔から外に出ると、爆音を聞きつけた生徒達が集まっていてざわめく生徒達を前に学園内を警備をしている衛士達は「許可が無い者は中に入らない様に」と言い注意していた。
先に出てきていたミュリエルが私達に言ったのと同じ事を生徒達に伝えると、「まさか!ブラックパピヨンの仕業か!?」とか「おのれ、ブラックパピヨン!」とか声が聞こえるけれど、集まっていた生徒達は概ね動揺するものの納得し、混乱する事も無くそれぞれの寮へと戻って行った。

「学園長、少しいいかしら?」

「何かしらルビナス」

ミュリエルとは親友だけど、ミュリエルが千年前の救世主候補の一人だという事は王宮にも議会にも伝えていない。
だからこそ、公の場では名前では無く学園長と呼ぶ必要があった。

「犯人についてだけど…」

「そう……心当たりがあるのね、分かったわ部屋に行って聞きましょう」

私とミュリエルは学園長室に入り、近くに誰かの気配を感じないか確認して閉める。

「それで―――」

ミュリエルは何が解ったのかと視線を向けて来る。

「単刀直入に言うわ―――『導きの書』のある『試しの場』へ行かせて欲しいの」

「如何言う―――っ、まさか白の精の封印が!?」

「本来、重要施設である召喚塔の入り口には常に警備の者が居るのに―――火薬を仕掛けた何者かが、その目を掻い潜って中に入って来るのは難しい」

恐らくミュリエルは私が言いたい事に気付いただろうと、一度区切りミュリエルを見詰める。

「それも、召喚陣をアレだけ破壊出来る程の量の火薬を持ちながらは……不可能と言ってもいいわ」

「…でも、『導きの書』に封印されている筈の白の精なら―――逆召喚を使えば容易に入る事が出来ると言う事ね」

「そうよ。出来れば違っていてほしいけれど…どの道確認は必要だと思うわ」

「確かに……ルビナスの言う通りね―――行ってくれるかしら?」

「ええ」

「でも、不死に近い存在である書の守護者には気を付けて」

「別に、倒して『導きの書』を得ようとしてる訳じゃないのだから大丈夫よミュリエル。
幾らなんでも私一人で不死身に近い書の守護者と戦うつもりは無いわ、倒せない訳じゃ無いけれど、目的は封印が正常にされているかを確認する事だから。
対峙しながらでもある程度なら遠目で解るだろうし、それさえ済めば退いて戻れば良いのよ―――それに、状況が悪化して難しい時には、無理しないで早々に退く事にするわ」

「ええ、でも…出来るだけそうならない様にして欲しいわね」

「そのつもりよ」

そう言いながら頷き、私とミュリエルは『試しの場』の入り口がある図書館へと向かい、『導きの書』がある特別禁書庫への入り口の鍵を解いて貰うと私は一人『試しの場』へと足を踏み入れた。
『試しの場』の比較的上の階は問題は無い様だったが、中頃辺りまで下りると所々で破損した本棚やひび割れや傷付いた床等が目立つ様になってくる。

「まさか…既に誰かが来ていたとでもいうのかしら……
だとしたら、ますます書の封印がなされているかを確認しないと不味いわね」

赤と白の理の精霊二人が救世主に相応しい者かを見極める場である『試しの場』、ここでは何時何が起こるのか分からない、故に何かしらの気配を逃がさないよう慎重に歩みを進めていた。
幾度かモンスター達が現れるも倒し先を進む、下層へと向かうにつれ、禁書庫内の室内の状態は悪化していき、この階で何か凄まじい力を打ち込まれたのか床が裂けたように割れ、本棚に納められてはいるものの本の大半が傷や変形していたり飛び散った血の様な跡で変色ていた。
そんな不気味とも思えるなかを歩き続け、書が安置されている最深部を目指していると、やや後ろの方から気配を感じ取る。

「そこに居るのは誰かしら?」

エルダーアークを呼び両手で構え、気配を感じ取った方を見据える。
すると―――本棚の影から現れた人影は小柄で…以外にも私が知っている人物だった。

「……何でこんな所に居るのかしらリコ?」

「私は……この世界に召喚した二人を、元の世界に戻せるよう『導きの書』を調べに…ルビナスは?」

そう、トロープさんとヒイラギさんの二人の事ね…貴女一人がそこまで責任を感じる必要は無いのに。

「私もよリコ、違うのは『導きの書』の封印が正常になされているかを確認する事と調べるの違いだけよ」

周囲への警戒はそのままにして、エルダーアークを下ろすとリコを見詰める。

「封印の確認?」

「ええ、実は今朝の召喚塔爆破の犯人に少し心当たりがあるのよ…
もしも、それが当たりなら、かつてと同じ様な悲劇が起きてしまう―――それだけは、させてはいけないなのよ!」

「そうですね……解りました、私もルビナスに協力します。
(―――まさか、イムニティの封印が?)」

「……ありがとう、リコ」

私を見詰めるリコの双眸からは強い決意を感じられ、ここは危ないから貴女は戻りなさいとは言えない。
いえ―――恐らく転移魔法である逆召喚を使っていただろうとはいえ、ここまで来たのだから言っても聞かないでしょう…
なら、せめて一緒に居た方が互いに危険も少ないと判断した。
そして、私達は幾度と現れるモンスター達を倒しながら下へと向かい、『試しの場』最深部へと辿り着く。

「如何やら、書自体の封印はされているようね」

「そうですね」

この様子なら、かつてミュリエル達が白の書の精イムニティにかけたという封印も機能しているようね。
そう、安堵しつつ私とリコの二人は魔法による封印に加え、物理的に鎖で封じてある『導きの書』へと近づく―――!?

「ルビナス?」

「―――待って、誰か居るわ!?」

片手でリコを制すると、『導きの書』近くの本棚へと視線を向ける。

「ふぅん―――オルタラだけが来るかと思ったらルビナスも一緒なのね」

そう呟きながら現れたのは、髪の色以外はリコと同じ容貌をした人物。

「イムニティ…そんな、どうやって……」

「『あなた達がかけた封印を破ったか?』かしら?」

―――でも、オルタラとイムニティって!?
リコを前に、クスリとイムニティらしい少女は哂い。

「そんなもの…マスターを得た私の力を持ってすれば造作もないこと、それに―――あんなものは私のマスターには何の意味をなさないわ。
(ホント…時間を掛け、封印の術式を解析すれば出来る者は居るでしょうけれど、瞬時に見破り封印を破るでもなく解くでもなく、一時的に中和してしまうなんて誰でも出来ることでは無いもの)」

「マスターを?うそです!!」

「くすくすくす。嘘じゃないわよ。なんなら証拠でもみせてあげましょうか?」

白の精霊イムニティに施してあった封印が解かれ、その混乱と焦りからイムニティの流れに嵌り込みそうになるリコ。
こんな時だからこそ、より冷静でいるべきなのに…仕方ないわね。

「―――よく判ったわ。
迂闊だった…まさかリコがオルタラで、よもやイムニティも封印を解いていたなんてね」

「…ルビナス」

「………迂闊だったって、ルビナス…貴女今まで一緒に居て本当に気付かなかったの?」

何処かすまなさそう俯くリコと、気が付かなかった事にあり得ないと眉を顰めるイムニティ。

「ええ、何処かリコがオルタラに似ているとは思った事はあったけれど。
本当に、リコがオルタラだという確信は持てなかったのよ」

確信が持てなかった理由の一つとしては、声や容姿等もあるけれど……一番の要因は、たぶんリコが僅かでも力を得ようとして、大量の食事を摂っていた事ね。
私が知っているオルタラは、大食漢では無かったから……その先入観が原因。
私というマスターを失い、力の供給を絶たれたリコは自身の力を節約しながら千年もの間を過ごし、千年後―――今期の救世主選定の悲劇を防ごうとしていたと思う。
その為には行動を起こせる力が必要だから、その力を僅かにではあるが食べ物を摂取する事で得られていたのでしょう―――故に必要な力を得るには大量の食事を取る事となり。
その姿を目にした私はリコをオルタラと繋げれなくなっていた。
言い訳かもしれないけれど―――リコがアレほど食べる姿を見なければ、私はリコがオルタラではないかという疑問を持てたと思うわ。

「……まあ、良いわ」

イムニティは溜息混じりにリコに視線を向け。

「リコ、私は主を決めたわ。
貴女も、赤の精の役目として貴女の救世主を決めなさい」

「うそ…です、みんなが…イムニティと契約する訳が…ない……」

「そうね―――私達との契約は仮にも世界の運命を決めるモノ、私もあの程度の連中とは契約なんかしてないわ」

声を搾り出すように出すリコに、イムニティもやや血の気が失せたような表情をし私達に向き合う。

「私が契約したマスターは、貴女の赤の書でも無ければ、私の白の書でもない―――神、自ら選んだ候補者よ。
その証拠に、今までの候補者達が塵芥に感じる程の力、存在する次元が違うわ。
(―――そう、普段は何処か幼稚で『バカ』とすら思えるけれど、こうして離れている今ですら…恐ろしいまでの強大な力が流れ込むのだから。
もし、身の程を弁えず、マスターの内面に触れようとしようものなら……私ですら無事ではすまされない。
その他にも神が選んだ候補者達、セイバー、イリヤ、シロウの三人はそれぞれが得体の知れない力を秘めている、私が白の書で捜して来た者達とでは存在からして異質だわ)」

「―――っ、神ですって!?」

「な…そんな、か、神が選んだ候補者……」

私とリコの声よりも、その力が圧倒的なのか、答えるイムニティの顔色は少し青白くなって来ている事の方が印象的だった。
でも、確かに世界の命運を決める救世主選定を行うように仕組んだのは神なのかもしれない、なら―――その神が痺れを切らしたって事なの!?

「ルビナス、貴女の実力は認める……でも…いえ、かつての貴女でも足元すら及ばないのに、今の貴女ではマスターどころか、マスターの仲間にすら及びはしない。
(セルとデビットの二人は論外だけど、シロウは距離を取ればルビナスすら倒せるだろう精密な狙撃が出来るし。
セイバーとイリヤの二人は白兵戦でも十分勝機があるもの)」

「「………」」

余程恐ろしい力なのでしょう、自身のマスターであるにも関わらず、話し青褪めてゆくイムニティを見て、私とリコは沈黙を余儀なくされた。

「もう一度言うわ。
私はもう主を選んだ―――けれどそれはまだ完全じゃない。
私と貴女で一つである様に、私達のマスターも二人がそろって主と認めてこそのマスター………もし貴女がマスターを選ぶつもりがないのなら、貴女を滅ぼして知識と力を頂く事も考えはしたけれど」

私とリコを見詰めるイムニティの目が細め―――来る!?
そう思いエルダーアークを握る手に力を込める。

「―――でも、今、下手に襲ったらルビナスと契約してしまうだろうし、今日の処は見逃してあげるわリコ……何れ貴女もマスターが誰だか解る時が来る、その時は迷う事無く決めなさい―――この世界にマスター以上の存在は居ないのだから。(ただ難点は、マスターがまだ白の救世主の自覚が無いのと、シロウの性格だと『破滅の軍勢』への参加は難しい事なのよね。
そうなると、マスターにセイバーとイリヤも来ないだろうから)」

そう言い終ると逆召喚したのでしょう、転移しイムニティの姿は消えた。
イムニティの言っていた事が本当か如何かを確かめる為に、私とリコは書の鎖を外しと封印を解いて中を確認する。

「……私の理である赤だけが残り、イムニティの白が抜け出てしまってる」

呻くように声を出すリコが開いた書のページには、赤い点の様なモノだけが並ぶ理解出来ないモノになっていて、イムニティの言っていたマスターが本当に居る事を示していた。

「―――っ、また、あの時のような悲劇が行われるというの!?」

「落ち着いてルビナス!」

「っ……ええ、そうね…こんな時だからこそ落ち着かないといけないわね」

「ありがとう、リコ」とリコに礼を言い、落ち着きを取戻すと私達はリコの逆召喚を使い、校舎へ戻ると急ぎミュリエルが居る学園長室へと向う。
事の顛末を知ったミュリエルは、急ぎ各方面に指示を飛ばし様々な情報を集め。
日を改めクレア王女殿下にも話をうかがった結果、王都では破滅との決戦に備え魔道砲レベリオンが秘蔵されていたのだけれど、その場所に何者かが侵入し、召喚塔と同じく爆破されたのが判明した。
魔道砲レベリオンが隠されていた場所には、以前にも何者かが侵入した形跡があり、経路を探ると学園に続く抜け道が発見された事から、もしかすると学園を騒がせているブラックパピヨンが関係しているかもしれないとの事だった。
更に、捜索隊の報告から、学園地下のアンデット達が居なくなり、何故か眠りから覚めないモンスター達やら、地下遺跡にある筈の『救世主の鎧』が失われていた事が判明する。

「―――まさか!?」

『救世主の鎧』それは、伝承によると、救世主の為に古代アヴァター文明が造り上げた究極の個人防御装備。
でも、実際の歴史では、鎧を纏った者は破滅を呼び寄せ、大勢の人々を犠牲にし、自らと共に破滅を終息させたと考えられる。
そして、鎧にはいつしか幾多の救世主達と人々の怨念が取り憑き、それを纏った者を破滅に導くと言われる様になったという。
その『救世主の鎧』が在った地下遺跡は、無念の思いで散った無数のアンデット達が彷徨っていた所。
私も魂と記憶が分れ、周りがアンデットばかりで自身もアンデットだと思い込み、千年もの永き年月を過ごしアンデットのお友達すら出来ていた。
そのアンデットのお友達と遊んでいた時―――突然、白い光が辺りを照らし…治まった時には一緒に遊んでいたアンデットのお友達は浄化され、消えてしまった事を思い出す。
そして、出会ったアリシアはアヴァターとは違う系統の魔法を使い。
更に言うならば、あの時―――地下への入り口である扉は閉ざされていたのだ…なら考えられるのは―――

「アリシア達が神の選んだ候補者……」

―――そう結論が出るのに時間は掛からず、ミュリエルに伝え至急呼び出しをかけたのだけど…アリシア達は、数日前にドルイド科の人達と合同の依頼を受け学園外へと出て行ってしまった後だった。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

アヴァター編 第10話


ドルイド科の人達が乗り込む荷馬車の後ろを、セイバーが運転する車がついて行き、助手席に座る俺は窓から外の風景を眺めている。
何故ついて行くのかというと、この前のアリシアとイリヤの凄まじい練習風景を見たドルイド科の三年、何年か前にフローリア学園の傭兵科でAランクのライセンスを習得した人達に、一緒に仕事をしないかと誘われ、俺達としてもAランクの依頼が如何いった事なのかを知りたいのもあり仕事に混ぜてもらう事にした。
依頼の内容は何でも、各地で王国軍と活発化した破滅のモンスター達との小競り合いをしている隙をつかれた感じで、オーガソル州という南部の海沿いに二万ほどのモンスター達の集団が現れ、まるで何かを探しているのか、村や小さな町、果ては砦を襲っては彷徨っているらしく、ドルイド科の三年生達はAランク傭兵として討伐軍に参加するとの事で、俺達は討伐部隊が集結している場所へと向かっている。
そして、セルとデビットの二人もぜひAランクの仕事をやってみたいとの事で乗車していた。
リビングのソファに座り、初めてキャンピングカーに乗るだろうセルは「乗り物なのにベッドがある!?」とか「何だか随分快適な?」とか驚き、その度に横に座るデビットは「うん、うん」と頷いている。
まあ、アヴァターには無いエアコンなんて空調設備はあるし、何でも車なのに断熱材や断熱塗料とかが使われているらしいので、普通の車よりも快適さは高いのもあるだろう。
他にもキャンピングカーであるこの車には、温水シャワーやらカセットトイレやら、換気扇付きのシンクにコンロ、しかもルーフにソーラーパネルまでもがあるらしく、電子レンジや冷蔵庫の使用も長く使えるとか。
更にいうと、ソファもベッドもフカフカして居心地は快適だったりする。
そのソファに座り、アリシアとイリヤの二人は、ニティ、セル、デビットの三人に勉強を教えて貰っていた。
二人共、実技は兎も角として筆記ではCランクを取ってしまっているので後が無い……のだが、アリシアは如何も勉強が好きでは無いらしく状況は厳しいようだ。
でも、本当に実技に関しては神霊級の実力者であり、大人姿の今はランサー同様の能力すら持っているので、俺等比較にならない程の実力なのは確かだろう。
だからか―――先月、アヴァターに救世主候補として召喚されたばかりのヒイラギ・カエデがその実力に敬服したのか、アリシアに弟子入りしたそうだ。
セイバーから聞いた話ではヒイラギは血が怖いらしくそれを克服する為らしい。
何故ヒイラギが血が怖いのかというと、如何やら子供の頃の体験が原因らしく。
誰だって話したくは無い事の一つや二つはあるだろうから詳しくは聞いていないが、アリシアが相談したセイバーとイリヤは知っている様だった。
そして、今はイリヤの施す催眠術での治療とアリシアの教えている……何でも世界と同化する方法だとかで無理矢理乗り越えさせようとしてるとか。

「………」

―――ていうか、世界との同化なんて魔法の手前の業だと思えるのだが、まあ、教える方も教える方だが、いくらヒイラギが救世主候補でもあっても、そんな業をそう簡単には会得出来ないと思う、勿論、遠坂に「ヘッポコ」と呼ばれている俺ではそんな業を教えられても解らないだろう…
でも、ヒイラギにとっては良い方向に進んでいる様だ。
先週辺りに、ルビナス達救世主候補者が王国の依頼を受けてある村に行った時に、ヒイラギが偵察をした事で村の人々がモンスターに殺害された事が判り。
そうした状況のなか、たった一人だけ生き残った村人に訝ったルビナスは変身魔法に反応する魔法を掛け、村人の振りをしていたモンスター達を見つけ倒したらしいと聞いている。
そのルビナスには時々会って雑談するくらいしか出来ないが、アリシアに弟子入りしたヒイラギとはよく会うので色々と話し、他の救世主候補者の事もおおよそ分かる事が出来た。
そうした事から、トロープを言峰と同じく黒鍵やら拳法を使う代行者だろうと考えていたが、なんでも治療魔術等には長けていてるが、接近戦は苦手らしい。
流石にそういった事はセルやデビット、ニティには言えないが、セイバー、イリヤ、アリシアも様々な角度から彼女らを見ていて、今のところ救世主候補者に問題がある人物が居ないのは幸いともいえる。
その他にも、召還器についての事も教わり、召還器を手にする救世主候補は、何でも魔力感知に優れているらしく。
俺が学園に入ったばかりの頃、女子寮の覗きをしようとしていてポチに埋められていたセルを救出した時、俺達まで痴漢に間違えられ、シアフィールドに襲われたのは『念話』がシアフィールドに感知されたからなのが判った。

「モンスターとはいえ、相手は約二万―――軍団とも呼べる数です。
付け加えるなら、モンスター達が占拠した砦に籠るのであれば長期戦は否めない。
まして、破滅のモンスター達は何故か横の繋がりが出来るらしいので、援軍が来る可能性も否定は出来ません」

「ああ、でもセイバー、破滅のモンスターってのは、強い破壊衝動に駆られるから戦術とかは使って来ないんじゃないのか?」

「ええ、学園で習った限りではその様です。
―――ですが、シロウ、戦場では何があるか分かりません、偏見的な決め付けは視野を狭めるので危険とも取れます」

「俺にはそういった経験が無いから解らないけれど、セイバーが言うならそうなのかもな」

他の皆の勉強を邪魔しない様に、俺とセイバーは今まで得た情報を纏めながら、これからの事を話し合っていた。
モンスターとはいえ、殺すのに抵抗が無い訳ではないが、今までも何度か依頼を受けているのでモンスターとの戦いは慣れてきている。
しかし、セイバーが言うには今までの相手は少数同士の戦いであり、これから行われるだろう大規模な会戦は毛色が違うらしい。

「………」

―――だが、やむなくとはいえ、人に近い姿をしているモンスターを倒してこう感じるのだから……誰かを救う為に世界と契約を結び、同じ人間同士で戦い倒した果てに守護者となったアーチャーの苦しみは想像を絶する…
俺も一人だったなら、嘗てのアーチャー同様いずれこぼれる人間を速やかに、一秒でも早くこの手で切り落とすという、思考を停止させた方法を取っていたかもしれない。

「それに、モンスター達が何かを捜していると仮定した場合の事も重要です」

「捜しているモノ?」

「はい、三冊の書、世界を代表出来る程の存在力……アリシアが言うには、その二つの要素さえ揃えれば召還器は必要としません」

「―――まさか、モンスター達が三冊の書を!?」

「その可能性も十分考えられます。
例えば、救世主候補がフローリア学園のみに召喚されるのでは無いと仮定すれば、破滅を導く救世主の為に破滅のモンスター達が手足となって働くのも道理ではないかと」

考え過ぎかとも思えるが、アサシン曰くセイバーの直感は凄まじいモノがあるらしいので、セイバーがそう感じるとしたのなら否定する事は難しいのかもしれない。
それに―――救世主に必要なものは書と、世界を代表出来る程の存在力なのだから召還器を持たないヤツが救世主になる事も出来る、か。
アリシアから聞いた話では、召還器とは元救世主が自身の選んだ世界を見詰め続けられるよう、永い時を存在し続けられる為に形を持たなくなった存在らしい。
その為、召還器となった者と性格や生き様が近い者の呼びかけに応じ現れ、使用者に限定的な根源力使える様にしたりとか、戦い等に関して補助してくれるとかで、召還器を持たない者よりも持っている者の方が存在力が高くなるのは道理ともいえる。
俺達にしても、当初の予定は救世主候補を倒すとかでは無く、破滅のモンスター達の動きが活発化する前に傭兵の資格を取り、生活の基盤を磐石にするのと共に、組合の情報網を使いながら書が安置されていそうな遺跡巡り、救世主候補者達が書に辿り着く前に集めてしまうという事だった。
三冊の書さえ集めてしまえば、救世主候補者達は候補のままで、世界を滅ぼす救世主にはなれないのだから。
その上で、彼女達と話し合えれば世界の滅びを回避出来る方法も見付るかもしれない―――でも、飽く迄も救世主になろうとして、自分の欲望のままに今の世界を滅ぼすというのなら俺達も容赦はしない。
―――そうは言っても、学園ではルビナスとも会って話すし、女子寮の寮長であるトロープや、学園長の娘のシアフィールド……まるでフードファイターの様なリコ・リスに、この前学園に入ってきたヒイラギにしても話した限りでは良い奴等だからそんな事にはならないと思うが。
しかし、セイバーの言う通り、もしも学園に召喚されない別の候補者が居るとしたら確かに問題だろう。

「……そうだな、召喚師って奴は何も学園しかいない訳じゃないものな」

「はい。とはいえ、今はまだ憶測の段階です、その可能性も有り得ると頭の片隅に留めれば良いでしょう」

「ああ、解った」

それから俺達は、一日半程かけ討伐軍が集まる場所へと辿り着く。
その集合場所である王国軍の駐屯地にて、食料や医薬品等の補給物資を積んだ荷馬車やら、他の傭兵部隊等の到着を待つらしい。
そんななか、近くの川から汲んだ水が入る桶で俺がお昼の片付けをしていると。

「いいな~デビットは、エミヤから剣が貰えて」

「あの時は、持っていた剣が使え物にならなくなったから―――けど、俺もまさか…これ程の剣をただで貰えるとは思わなかった。
しかも、この剣は魔力を込めれば斬れない物なんか無いんじゃ無いのかと思える程良く斬れるんだぜ。
でも、まあ―――この剣じゃなければ、あの時無事では済まなかった筈だ」

会戦に備え、得物を手入れしているセルがデビットの剣、『絶世の名剣(デュランダル)』を見て感嘆を漏らす。

「そういえば、確か―――あの時…エミヤはこの剣と同じモノを沢山あるとか言ってたな?」

「マジか!?」

驚いたセルは、話していたデビットから洗物をしている俺にセルは視線を向け。

「なあ―――エミヤ、俺にもこの剣みたいなのくれないか」

等と言って来た。
気持ちは解る、セルの剣の才能は凄いものがあるから、感覚的に英雄のシンボルである宝具の凄さも解るのだろう。

「でも、セルの剣は良い物だから大丈夫だろ」

「そりゃあな、学園の女子達の着替えとか、救世主候補生の入浴とかを撮影した幻影石が高く売れたからな。
傭兵になる以上、命を預ける剣は良い物にしないと不味いし」

「………」

解析したところ、セルの剣はかなり良質だから言ったのだけど……まさかそう答えるとは思いもよらなかった。

「…全ては貧乏が原因か」

「いや、盗撮とか覗きは趣味だから…実益との兼ね備えだな」

「………」

金が無い事が全ての原因かと、しみじみ呟いていたデビットだが、セルはそれを両断するかのように答え、デビットは言葉を失う。
しかし、そんな事をしていてよく今まで放校されなかったなセル、いや、きっと何処かで捕まっていたら芋づる式に色々と出て来たんだろうから、単にもの凄く運が良かっただけなのかも知れないが。

「そっか、まあダメもとで言ってみただけなんだけどな」

平然と答えてるセルだが、ここにはセイバー達も草むらにシートを敷いて座り、テキストを開いて勉強しているので丸聞こえだったりする。
恐る恐る見てみれば、セルに向けるセイバー、イリヤ、ニティの視線は氷の様に冷たい。

「ふぅん、そうなんだ―――じゃあ、これ使ってみる?」

一人、子供故にアリシアだけが良く解って無いのだろう、倉庫に使っている空間から取り出し、肋骨の様な凸凹が胸の部分に浮き出た巨大な鎧が現れる。

「これは?」

「あの鎧は!?(これは、『救世主の鎧』!何故マスターが!?)」

「止めなさいアリシア、あんな女の敵なんかにあげるものなんて無いわ」

現れた巨大な鎧を見て、セイバーとニティは驚きを隠せず、自業自得なのだから仕方ないが、イリヤはセルに不快感を隠すつもりは無いらしい。

「でけぇ~」

「何だよこの鎧、凄いじゃないか」

「この鎧はね、学園の地下にあったのをポチが見つけて私が修理したの。
本来、この鎧は救世主専用らしくて、救世主が選ばれたらその人に使って欲しくて造られたみたいだよ」

デビットとセルが驚くなか、アリシアは話しながら巨大な鎧に何やら指示を出したらしく、鎧は片膝をつくと胸部が左右に開き人が乗れる空間が見てとれる。
しかし、何と言うのか―――アレは鎧と言うよりもロボットと言った方が良いんじゃないのか?

「なるほど、古代アヴァター文明の遺物という物ですか―――ですが、よくそんな物を直せます」

「まあ、アリシアだから仕方ないとも思えるわ。
でも、それにしては神秘が秘められている感じはしないわよ」

「恐らくは、古代アヴァター文明も我々とは違い、魔術が魔法と呼ばれ、神秘が神秘足りえないのでしょうね」

セイバーとイリヤも、テレビに出て来るロボットの様な感じの鎧を眺めていた。

「でも、折角在るんだし、使わないと勿体無いと思うんだ―――取敢えずセルさんに使ってもらってて、救世主が選定されたらその人に譲ってくれれば良いと思うよ」

「っ、救世主専用!?
くぅ、良い響きだぜ、何だか俺も救世主候補になった気分だ!」

「それなら、救世主クラスの人に使って貰った方が良いと思うが」

ロボットと思える鎧を見やりるデビットは、何やら興奮気味のセルよりも、救世主専用として造られたのだから、救世主クラスの女子達に渡す方が筋だろうと言ってる。

「ん~、でも、今は救世主クラスの人達は居ないし。
この鎧も候補じゃなくて救世主に使って欲しいみたいだよ?
なら、まだ救世主の選定は終わってないから、一時的にセルさんが使ってても良いと思うけど?」

「駄目ですマスター、それはマスターにこそ相応しいモノ。
こんな、覗きしか出来ないクズが使って良い物ではありません」

「私はランサーさんから貰った槍に、ディアブロもあるから必要ないよ?」

セルを指差すニティに、アリシアは朱色の魔槍ゲイ・ボルクを取り出し、左手にある腕輪ディアブロと一緒に見せる。

「なぁ、俺…何気に凄く悪口言われてないか?」

「お前のは自業自得だ」

顔を顰めるセルだがデビットに窘められる。
また、救世主絡みの話なのでセイバー、イリヤ、アリシアの三人と『念話』を使い話すと。
そもそも救世主が選定されたら、世界はその救世主が望むままの理にされてしまうので、例え『救世主の鎧』が在ったとしてもその存在価値が生かされる事は無いらしいとの結論に達した。
そんなこんなで結局、あの救世主専用の鎧、ニティが言うには『救世主の鎧』と呼ばれるらしいが、救世主が居ない今は取敢えずセルが使う事になり、余程嬉しいのか、セルは早速乗り込むと巨大な鎧を操る。
操縦に関しても、思考トレース方式だとかで誰でも簡単に使え、何だか解らないが、使い方が解るらしくセルが操る鎧もセルの意思通りに動くようだ。

「あんなクズに『救世主の鎧』が従える訳が無いわ」

当然と言うべきなのか、女性からしたら覗きや盗撮する奴は嫌われるので、結構キツイ事を言いながらその様子を見ていたニティだったが、セルが『救世主の鎧』を扱えるのを見て「まさか!そんな筈は!?」と驚きの表情を浮かべていた。
それから後続との合流を待つ間に、飛び道具の様に腕を飛ばしたりや、背中に四対ある伸縮自在の槍を使い鎧の使い方を覚えるが。

「この鎧、悪くないんだけど、なんていうか―――剣がないといまいち感じが悪いな」

「そうか、セルは剣を使った方が戦い易いのか」

セル程の剣の使い手だ、恐らく小さい頃から剣を学んで来たのだろうと想像するのは容易い。
それなのに、突然、剣を拳に変えて戦えというのは難しいに決まっている。
そうは言っても、セルが持っていた剣は人が持つ様に作られた物なので、『救世主の鎧』を纏ったセルが持つと短剣以下の物になってしまい、持ち辛いわ使い辛いわで、とても使い物にならないだろう。

「そう言う事なら仕方ない」

しかし、あの巨体だ、それこそ力もバーサーカー並みにあるだろう―――ん?

「―――そうか、ならバーサーカーが使っても折れないモノにすれば良いのか」

俺はバーサーカーが使っている斧剣を、大きさを変えながら投影し、重いので持たずに地面に突き刺す。

「セル、コレなら如何だ?」

「おおっ!サイズが若干違うけれど、バーサーカーが使ってるヤツと同じ剣。
悪いな、エミヤ―――いや…つーか、お前、何でこの鎧で使えるの剣なんか持ってるんだ?」

「まあ、それは秘密って事で勘弁してくれ」

流石に、バーサーカーの斧剣を投影魔術で改造しました等とは答えられない。

「しかし、エミヤにセイバー、アリシアは便利な魔法が使えて良いな。
俺も魔法習えば覚えられるかな?」

そう呟き、セルは投影した斧剣を振り感触を確かめ、巨大な鎧が剣を扱う様が珍しいのだろう、「巨人なのか?」とか「ゴーレム?」とか言う見物人が増えるなか、軍勢が揃う二日後には斧剣を使いこなしていた。
また、ここ二日、ニティの姿が食事時にしか見かけずにいた様だけど、暇なので散歩にでも出掛けていたのだろうと思う。
そして終結した討伐軍、総勢二万五千もの軍勢が集まり、なんでも内容は王国軍の騎兵約三千、弓兵含む歩兵が約九千、魔術師なのだろうがアヴァターでは魔法使いと呼ぶのが正しいのだろう、魔法使いが約二千、他にも軽騎兵らしいが馬術と弓術に秀でた精鋭らしい弓騎兵が約千と凄まじい。俺達傭兵は数は一万近いが、剣、斧、槍を手にする者、弓よりも扱いやすい、いしゆみや火縄銃を使う者達等様々な武器を手にし。
なかには、馬に乗った騎兵の傭兵部隊も参加していた。
そんな王国率いる討伐軍が、モンスター達へと動き始めようとした頃、空に巨大な人影が現れ。
「何だアレは!?」とか「空に人影が?」とか周囲の人達が訝るなか。

『アヴァターに生きる者達よ、神の御神体である大地を汚す者達よ汝等の享楽の時は過ぎた。
今度はその代償を払う番である―――我らは破滅。
そして我らはそれを統べる破滅の将!
……よって。我々はここに人類の破滅を宣言する』

「破滅を統べる将だと!?」

「声からして女性らしいですが―――まさか、彼女がブラックパピヨンなのでしょうか?」

俺とセイバーは空に浮かぶ三つの影を見詰める。

『愚迷蒙昧なる民よ。神の秤は我が方にある、愚かな抵抗は無駄と知りなさい』

『破滅の後も己が命を保ちたいと考えるならば、汝が手で父を殺し、母を殺し、妻を殺し、夫を殺し、子を、兄弟を殺して破滅に参加するべ~し』

「……馬鹿ね、世界の理が書き換わった後に生き延びても、そこは貴方達が考えてる様な世界じゃないわ」

「―――イリヤ、何故そう言えるの?」

「赤にしろ、白にしろ、どの道今の世界を構成する理の半分が無くなるのよ?」

二人の男の影に視線を向けていたイリヤが、ニティに質問され振向き。

「後の世界が今の世界と違う世界なのは当然と言える―――寧ろ、人が生きられる世界なのか疑問よ、いえ、そもそも人が人の姿をしているのかさえ疑問ね」

「うん。書の内容によっては、その可能性も十分在り得るよ」

イリヤの疑問にアリシアが答えるなか、人影は『その時、神の慈悲は真の強者にあたえられるであろう』と言葉を言い放ち消えた。

「はっ、だったら破滅を倒せる救世主が居れば、俺達に神の慈悲とかがあるって事だろ!?」

「ああ、俺達には破滅を倒せる救世主が居る、救世主クラスがついているんだ―――破滅なんかに負ける訳が無い!」

セルとデビットが影のあったであろう空に怒りを向ける。

「―――シロウ、恐れていた事が現実になった様だ」

「ああ―――まさか、破滅のモンスターを操る側にも、救世主候補者が召喚されていたなんて!」

破滅の将を名乗る者達の宣戦布告に、俺とセイバーは、俺達の行動が遅きに失した事を悟った。


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