鬱蒼とした木々が茂る山の中を俺達は歩き続けている。
昨日、訪れた村で聞いた話では猟師がその村から数時間程行った所でモンスターらしき姿を見かけたという話を聞け。
その猟師が言うには、更に先に行った方角には別の村も在るらしく俺達は確認の意味も込めてその村を目指して歩くことにした。
車で行ければ良かったが、生憎とその場所は草が生えていないから道といえるような獣道だった為、俺達は徒歩で幾つもの山々を登っては下りながら半日近くを歩いている。
所々で休憩しながらとはいえ、元々英霊であるセイバーは兎も角、俺やデビットがやや体力的に辛くなって来てるというのに、変身魔術を使っているイリヤや、世界を書き換えて大人の姿をしているものの、六歳であるアリシアがまだまだ余裕あるのには驚いている。
二人がアインツベルンの森でトレーニングをしているのは知っていたけど、随分と体を鍛えたものだ。
「たく、体力には自信はあったんだけどな」
「俺もだ」
横で相槌を打つデビット。
「もう、シロウもデビットもだらしないわね。
(そうは言っても―――この疲労の少なさは多分、根源からの力で心身が強化されているからだと思う。
キリツグは、バーサーカーの魔力供給以外にも、救世主候補者達が扱う召還器と同じく、根源からの力の供給が出来るらしいから。
救世主候補者が人の境界を越えた力を発揮出来るのは、僅かとはいえ根源の力を使える事にある訳だし)」
そんな俺達を、振り返ったイリヤは何処か呆れて見ていた。
イリヤの実家の話は聞いた事がないから如何いった所なのか解らないけど、もしかしたらイリヤの実家は魔術師特有の神秘の秘匿の感性から、山の奥深くに住んでるんじゃないのかと思えてくる。
「ふふん、私とお姉ちゃんはまだまだ大丈夫だよ」
余程体力があるのだろう、こちらを一瞥すると元気な感じでアリシアは斜面を登って行き、その足元をポチが回りながらアリシアの後を追い、車の車輪のように坂道を登って行く。
「……ホント、あの三人元気だな」
俺達の先に行くセイバー、イリヤにアリシアを見つめるデビットが正直な感想を漏らした。
「俺達も頑張らないとな」
遅れる俺とデビットが三人に追いついたのは、丁度、山の頂を越えた辺りの事でセイバー達は待っていてくれたようで目的の村が見えると指し示す。
「デビット、あの村で良いのでしょうか?」
そう言うセイバーの格好は何時でも戦闘可能な鎧姿、英霊とはいえ女の子なのによく体が持つと思う。
「―――ああ、間違いない筈だ」
自然魔術と呼ばれる魔術を使ったのだろう、呟くように何かを唱えるデビットは地図を一瞥して口を開く。
アレがその村か、モンスターの被害を受けて無ければいいの―――っ!?
「モンスター達が居るぞ」
強化魔術により視力を強化し、村を見下ろせば村の各所にモンスター達が徘徊しているのが窺える。
「っ、この距離で見えるのかエミヤ?」
「ああ、俺は強化の魔術が使えるから、視力を強化したんだ」
でも、村には人らしき姿は見え無い……廃村に住み着いたのなら問題は無いか。
「ですがモンスターが居るとはいえ、村の何処からも煙らしきモノは上がっていない上に襲撃を受けている様子も見られない、あの村は元々廃村だったのでしょうか?」
膨大な魔力を持つセイバーだけど、アーチャーやキャスターではない彼女は視力の強化や遠見を出来ない、しかし、村全体の様子から俺が過った思いをセイバーも感じたのだろう。
「いや、地図には廃村とは記載されてない、な」
「なら、見える所まで下りてみようよ」
「そうね」
アリシアがもっともな意見を言い、イリヤはそれに頷く。
確かにここで村の様子が判るのは俺だけだから、セイバーやデビットが判断するにはある程度は村に近づく必要があるだろう。
「いや、その必要は無いさ」
待てとばかりに片手を向けた後、デビットは袋から筒を取り出し。
「望遠鏡があるんだ。高かったが買っておいて正解だったな」
伸縮型なのだろう筒を伸ばし村に向けた。
俺達の世界でいえば、アヴァターは中世くらいの文明なのに、伸縮出来る望遠鏡があるのかと感心する。
同時に、筒は真鍮の様で立派な見栄えだけど、俺達の世界で例えるなら観光地等で数千円で買える様な安っぽい感じも漂っているが特に気にするものでもないかな。
「ああ、確かにこの村がモンスター達の拠点のようだな」
「じゃあ、この村の事を伝えれば依頼は終わりなんだね」
後は報告すればいいだけなのでアリシアは嬉しそうだ。
「いえ。報告するにしても、もう少し情報を集めないと駄目でしょう」
「セイバーさんの言う通り、一部とはいえ州軍を動かすんだモンスター達の数や群れの構成。
それに……この村の人々が如何なっているのか判る限り調べないといけない」
「ほえ、そうなんだ」
「面倒な話ね」
「それが斥候の依頼ってやつさ」
望遠鏡から目を離したデビットはアリシアとイリヤに向き、
「なに。直接奴等と戦う訳じゃないから危険も少ない、それに、こういった仕事は慌てず徐々に慣れていけば良いだけさ」
そう返してビットは再び望遠鏡を覗き込んだ。
モンスターの拠点を見つけ、後は報告すれば終わりだと思っていたらしく、アリシアとイリヤは何処かつまらなさそうにしている。
「二人共、コレも仕事なんだからやるしか無いだろう」
「ん~、じゃあ私も『サーチャー』で調べてみるよ」
『サーチャー』……ああ、探索用の魔術だったか、でもアレは―――
「―――いや、『サーチャー』は駄目だアリシア」
「ん、何で?」
「『サーチャー』は探査用の端末を飛ばして確認する魔術だったから」
きょとんとするアリシアから視線を村に変え。
「ああいった開いた場所だと、恐らくソレが丸解りだろう。
それじゃあ、まるで俺達の方から教えている様なものになる」
「ん~、そっか駄目なんだ」
俺がアリシアとイリヤに注意している間にも、村を見渡していたデビットは望遠鏡を下げ、袋から紙と筆を出し何やら書き記している。
「デビット、よろしければその望遠鏡を貸して頂きたい」
「わかった、何か気になるものがあったら教えてくれ」
セイバーは望遠鏡を渡されると村に向ける。
「俺も何か不審な所が在ったら教える」
「ああ、頼んだエミヤ」
俺も村の人々が気になるので、更に視力を強化させる。
後ろでは―――
「お姉ちゃん、私達如何しよう?」
「そうね、邪魔にならないように休んでましょ」
「じゃあ、シート出すね。
デビットさんも座って書いたらいいよ、ポチもおいで」
「ああ、それもそうだな」
どうやら三人一緒に座ってデビットは村の状況を書き続け、アリシアとイリヤはやる事も無くポチと戯れながら休んでいる様だ、ん?
「――っ!?」
「如何したのシロウ?」
俺の動揺を見逃さずいたイリヤが声を掛けてくる。
「荒れた畑で人間らしき骨を見つけた、まさか……もう」
「こちらでも何箇所かで人骨らしきモノを確認しています―――恐らく、この村はモンスター達の襲撃を受け、生き残った村人達も止むを得ず村を捨てる他なかったのでしょう」
両手で支える望遠鏡を顔から離すセイバーの表情も何処か暗い。
「……手遅れか、二人共悪いけどもう少し村の様子を確認していてくれ」
「ああ」
「解りました」
俺とセイバーは再び調べる為、村の様子を見回してゆく。
それで判ったが、この村のモンスターの数はおよそ五十から六十程。
構成は人と同じサイズの獣人型モンスターが殆どだが、中には大型の獣と、神話なんかに出てくるミノタウロウスに似た二メートルを超える牛頭のモンスターも数体確認している。
ほとんど村全体が荒れている様子からして二、三日前って感じじゃなく、数ヶ月近くも前にモンスター達の襲撃を受け無人となった村を調査する俺達だったが、気がつけば太陽の角度が傾いてきていたから、だいたいの感覚で二時間近くは調査をしていたようだ。
「報告する内容も書き終わったし、これ以上書ける事はないだろうから、戻って―――ん、セイバーさんどうしたんだ」
その為、そろそろデビットが村の調査を切上げようとした頃。
「増援でしょうか、新しく二十体ほどのモンスター達が来ました」
セイバーの言葉を理解すると同時に、セイバーが見ている方向へと視線を向ける。
なんでこんな村にそんなに集まるんだろうとか過りながら見れば―――
「―――人質なのでしょうか、十数人の人間の女性が連れられています」
「人間の女性を?」
そう告げるセイバーの言葉通り、逃げ出せないよう十数人の女性達を囲むようにして、二十体程のモンスター達が村の中心へ向かうのが見てとれた。
「女の人?
お姉ちゃん、如何いう事なのかな?」
「破滅のモンスターがするとは思えないけど、何かしらの儀式に対する生贄って事も在り得ない話しじゃないわよアリシア」
―――っ、生贄!?
例えそうじゃなくても相手は異形の怪異、何をするか解らない。
「助けよう」
連れ去られて来ただろう女性達を、このまま見殺しになんかできない俺は、後ろを振り向きデビットに視線を合わせた。
「っ、馬鹿な事を言うなエミヤ!
数が違いすぎる、あの村のモンスター達の数を知っているだろう!
あの女性達に辿り着く前に俺達は全滅するぞ!!」
「でも、放って置いていい訳なんかないだろう!!」
「それはエミヤの言う通りだ!
でもな、あの数相手に何が出来る!
例え俺達が行ったとしても、無駄死にするだけだって言ってんだ!!」
悔しげに歯を食いしばり、拳を握り締めるデビット。
―――っ、そうだった、あの村のモンスターの数は五十から六十は居る。
更に新しく二十近く増えたから、おおよそ八十は居る事になるだろう。
そんな数相手に正面から向かった所で、突破出来るのはセイバーとバーサーカー位なもの、彼我の戦力差を思い出した俺は冷静さを取戻したが―――
「あの村のモンスター全員殺せばいいんでしょ?」
クスリと笑みを浮かべるイリヤ。
「私とバーサーカーなら、あんな有象無象のモンスターなんて相手じゃないわ」
「モンスターさん達も可哀想だけど、コレもお仕事だし殺しちゃうけどしょうがないよね」
イリヤの意見に「うん、うん」と頷くアリシア、何故か既に二人は殺す気満々だった。
「いや、まてよお前ら、今の俺の話を聞いてたのか?
相手の数は俺達の十倍は居るんだぞ!?」
などと、この戦力差ですら引かない二人に流石のデビットも驚きを隠せないでいる。
「では、策を用いましょう。
まず、バーサーカーを使い、やや離れた所で陽動を行い。
モンスター達がバーサーカーに向かい相手をしている間に、我々はアリシアの空間転移を使って奇襲を仕掛けます」
「そうか。それなら彼女達の周りにいるモンスターも少なくなるかもしれないから、そこを攻めれば!」
聖杯戦争でも使っていたのに、すっかり忘れていた、そうだアリシアは魔法扱いされるような空間転移さえ出来るんだった。
それを奇襲に用いて仕掛ければ、勝算はかなり跳ね上がる。
「いや、セイバーさんにエミヤも待ってくれ、そもそもバーサーカーって何なんだ!?」
けど、当然の事ながらバーサーカーを知らないデビットは話に付いていけてない。
「バーサーカーは私の使い魔よ」
「バーサーカーさんってとっても強いんだよ」
「そう言われても、俺はお前達を生きて帰らす。
それがチームリーダーの義務であり役目なんだ、そんな賭けの様な真似はさせられない!」
「我々を信じていただきたいデビット、策を十全に練ればこの戦い十分に勝機はあります」
バーサーカーについて話すイリヤとアリシアの話では判別し難いだろうが、デビットとセイバーの視線が合わさり沈黙が漂う。
「っ、済まない。俺ではお前達の力量が解らないんだ―――でも、貴女が出来ると言うのならそうなのかもしれない」
英霊であるセイバーやバーサーカーの力を知らないデビットは、内心俺達の安全をとるか、人質だろう女性達を助ける為に賭けとも思えるような危険を犯すか両手握り締め葛藤していた。
「だから―――俺は、チームリーダーをセイバーさん、貴女に譲る」
「解りました、リーダーの責任確かに承りました」
俺達の実力を把握していないデビットは、まだ一日程度のつきあいにも関わらず俺やアリシア、イリヤを統率するセイバーの力を見抜いたのか責任ある立場を譲り、譲られたセイバーは一度だけ深く目蓋を閉じたあと「では」と続けた。
「まず、彼女達が歩いている道ですが、あの幅なら車で十分移動できます。
しかしなから、無計画に事を進めれば追い詰められる可能性は否定できないでしょう、故に奇襲を掛けた後、即座に移動する必要が有ります。
デビット、この村から出た後、州軍への連絡が取り易い場所は何処ですか?」
「そ、それなら」
慌てて地図を見やり、なぞるデビットの指をセイバーは静かに見詰め、
「その道へと続く場所は―――あそこですね」
互いに望遠鏡で確認し合い「間違いない」とデビットは頷いた。
「次にイリヤスフィール、バーサーカーで陽動を仕掛けます、いいですね?」
「まあ、放って置くとシロウが飛び出して行きそうそうだし、いいわ。
で、何処にバーサーカーを向かわせるのかしら?」
「我々は人質とされている女性達が歩いている先にある、T字になっている所で仕掛けます。
右に行けば街へと続きますので、反対の左の先にある民家辺りで暴れさせて下さい」
「あそこね、解ったわ」
「セイバーさん、私は?」
「人質の女性達がT字の所へ差し掛かるやや手前で、バーサーカーによる陽動を行いますから、アリシアは人質達を護送しているモンスター達の数が減り次第転移を行い奇襲をしかけます。
それから、人質が確保出来次第車に乗せますので私達の部屋でしたよう車内を広くして下さい」
「おう」
セイバーの指示を受けたイリヤとアリシアの二人は、渡された望遠鏡で場所を確認しながら「お姉ちゃん、早く見せてよ」とか「駄目よ、まだ私が見てるんだから」とか緊張感なく話している。
「俺は如何したら良いんだ、セイバー」
「シロウとデビットは奇襲し各個にモンスターとの交戦後、人質を速やかに乗車できるよう護衛を。
攫われて来た者達が怖気づいてしまえば、動きは鈍ってしまい戦いが長引いてしまう、そうなればバーサーカーで陽動を行なったモンスター達すら戻ってきてしまうでしょう」
そうなれば、圧倒的な数で迫られる俺達は到底無事では済まない……
「解った、任せてくれセイバー」
「―――やはり、か。俺なんかよりも、セイバーさんの方がリーダーに相応しい」
作戦の要は時間、いかに素早く展開して人質を救出できるかが鍵だ、だけど、そんな状況でもやらなきゃ誰も救えやしないんだからやる価値はあるのだと俺は両手を握り締めながら頷き、セイバーの話しを聞いていたデビットも短時間でこれ程の策を立てるセイバーの実力を認めて相槌を打つ。
その後、奇襲の際の各自の役割の詳細な説明や、村のモンスター達の動向に注意を払い、人質だろう女性達の様子を確認しながら機会を窺う。
「頃合です。イリヤスフィール、陽動をお願いします」
作戦のタイミングを計る為に村へと望遠鏡を向けいたセイバーだが、望遠鏡を下ろしイリヤに作戦開始の合図を送る。
「解ったわ。一切の躊躇も油断もなく、近くに居るもの全てを殺し尽しなさいバーサーカー!」
霊体化して既に待機していたのだろう、村のやや奥側にある民家の近くにバーサーカーが姿を現し、その豪腕で振るわれる斧剣は近くにいたモンスター達を次々と肉塊へと変えてしまう。
村のモンスター達は、突如現れたバーサーカーに混乱しながらも、次第に集まりだしバーサーカーを包囲しながら次第に反撃し出始める、が。
相手は俺達の世界で、最強の英霊と云われるヘラクレスがバーサーカーとして召喚された存在、数などモノとしないと言った感じで、斧剣が一振りする度に何体ものモンスター達が薙ぎ払われ、それ程の威力を持つ一撃を絶え間なく振るう姿はまるで―――死が具現化した漆黒の暴風の様だった。
「護送しているモンスター達に動きが―――アリシア転移魔術の準備は良いですね」
望遠鏡をデビットに渡し、代わりにセイバーは不可視の剣をその手に持つ。
人質の女性達を護送をしているモンスターも村の奥での異常を感じ取ったのだろう、半数を残してバーサーカーの方へと向かって行く。
「おう!皆も、準備はいい?」
俺達を見渡すアリシアの見た目は体操服姿、手にはランサーから託された朱色の魔槍、ゲイ・ボルグを握っている、俺も両手に双剣干将・莫耶を投影し握り締め。
昨日、デビットから鎧の重要性を聞かされたので、取敢えずアーチャーと同じく赤い聖骸布に黒い胴鎧を投影し着込んだ。
ただ、この鎧は暗示や呪いの様な魔術的なモノには効果は高いが、剣や槍の様な物理的な防御は普通の革鎧に近いといえる。
イリヤはアリシア同様、見た目こそ体操服姿だがバリアジャケットと呼ばれる、魔力で編まれた防護服なので物理的な防御は高い筈だと思う。
それに、腕には『ミッド式魔術』を効率良く扱えるデバイスと呼ばれる魔術礼装、親父と同じ名をしたキリツグがあるから大丈夫だろうし、デビットも小型の円形盾と剣を持ち準備は良さそうだ。
「転移の後、モンスターと交戦、これを速やかに排除した後に車での脱出を行います。
時間を掛け過ぎれば、バーサーカーへと向かったモンスター達が戻り困難な状況になるでしょう、今作戦は時間との勝負になります」
俺達を指揮するセイバーは、威風堂々と俺達を見渡し、
「これより奇襲作戦を開始します、各自、武勲と誉れが在らん事を!」
「じゃあ、行くよ」
作戦が開始された刹那、俺の視界は変わり、目前には猪の様な胴鎧を着込んだ獣人のモンスターが現れる。
突然現れた俺達に虚を突かれ、獣人は手にする両手用の棍棒を構える事無く佇んでいた。
その機を逃さず、一気に間合いを詰め双剣を振るう、が。
「―――っ」
一瞬だが、モンスターだからとはいえ、簡単に殺してしまってもいいのだろうかと脳裏に過り、躊躇したからだろう、俺の双剣は獣人の体毛を僅かに薙いだだけだった。
「ブォォォ」
斬り付けられた事で獣人は我に返ったらしく、軽く後ろに下がり間合いを取ると、棍棒を振り回してくる。
棍棒を繰り出す獣人だが、その動きは力任せでしか無く、受け流し、身を捻り、足を捌いて避けるのは容易い。
しかし、後ろにいる、このモンスター達に占領された村に連れられた女性達を視界の隅に捉え、自分の行動に怒りを覚えた。
―――っ、何してんだ俺は!?
人質か生贄にされるだろう女性達を助けに来といて、何で躊躇ってしまったんだ!
人の姿に似ているとはいえ、相手は破滅のモンスター、放っておけば彼女達も畑で見つけた骸の様になってしまうってのに!!
「―――っ!?」
そして認識した―――俺だって魔術師だ、殺される覚悟はしている。
けど、相手を殺す覚悟はしていなかった事に……
「―――だからといって、彼女達を見捨てられるものか!!」
故に同じく正義の味方を目指したアイツ。
誰一人傷つける事無い誰か―――それを目指し、守護者にまでなった衛宮士郎の可能性の一つ。
脳裏にかつて夢で見知った、ヤツが駆け抜けた生き様が浮かぶ。
誓った言葉と護るべき理想、その為なら何を失っても構わなかったヤツの想い。
ヤツも誰かを救う為に、誰かを犠牲にするなんて初めから思っていた訳じゃない。
その手で救えず、その手で殺めた者が多くなればなるほど、理想とはかけ離れ。
結果、救う者を数でしか捉えられなくなり、一の価値を誤り、全てが狂っていったんだ。
だから間違えてはならない。
これから殺す相手が、一とか九とか数字で等無く、一つの生きた存在である事を忘れずにいる事。
それがどれ程辛く、切なくて苦しい事だとしても。
「―――それに」
全てを救う事はできないと。
誰かが犠牲にならなければ救いはないと、解っている―――それが、現実なのだと理解している。
そんなものが理想にすぎないと知った上で、理想を求め続けた。
それでも、アイツは―――最後までその理想を貫き通した。
―――だから、俺だって多少の事には耐えていける筈だ!
「―――――― 体は剣で出来ている」
自らを表す呪文に、自らを律する韻を持たせた言葉―――その呪文を呟いた。
俺はヤツを否定した、なら―――俺はヤツに胸を張って示さなきゃならないんだ!
覚悟を決める、獣人は俺の故意に作った隙を逃さず棍棒を振り下ろして来る。
それを、受流すと同時に踏込み、片方の剣で鎧ごと胸を貫く。
苦痛で硬直する獣人を尻目に、剣を放して間合いを取ると、まだ近くにいる獣人のモンスターへと、もう片方の剣を投擲し―――呟く。
「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」
炸裂する音を上げ、肉片となる二体の獣人だったモノ。
それに視線を向ける事なく、別の獣人を捉える俺の手には既に投影した『絶世の名剣(デュランダル)』を握り締め魔力を込める。
魔力を込められた華美な聖剣は、かつて天使より賜ったとされる、俺はその剣で駆け抜け様に纏う鎧ごと薙ぎ獣人の胴から上を二つに斬り分けた。
「―――他は!?」
俺が三体のモンスターを相手していた間にも、セイバー、イリヤ、アリシアは既に周囲のモンスターを倒し、中を広げるのだろう転移させた車の中にアリシアが入って行くのが見え、イリヤが運転席へと座って座席の調整をしている。
「我々は、依頼を受けた傭兵です。
攫われた貴女方を救出しに来ました、これより脱出の為、慌てず速やかにあの車に乗って下さい!」
透き通るように響くセイバーの言葉は、もう助からないという思いで望みを失ってしまっただろう、死んだ魚のような目をしたまま呆然としている女性達の目に再び生気を宿させ。
「本当なの?」や「私達助かるの!?」とか「有難う神様」と口々にしながら車に向かい走り始める。
「彼女達の護衛はポチがしてるから大丈夫だろう、と」
モンスター達から人質になっていた女性達の救出したのを見届けた俺は、周囲を見渡してデビットの姿を捜す。
すると、相手の獣人のモンスターは鎧を着込んでいて中々致命傷を与えられ無いようだったが、振るわれる棍棒を巧みに操る小盾で受け流しながら剥き出しの頭部に剣を叩き込み倒していたのが目に入ってきた。
しかし、デビットの剣は質が良くなかったのだろうか剣身に歪みができてしまっている。
「デビットその剣はもう駄目だ、この剣を使え」
「はぁ…ぁ…はぁ……すまない、エミヤ」
戦いでやや息を乱しているようだが、状況を確認しながら呼吸を整えてるデビットの近くまで走り寄る俺は、手にする『絶世の名剣(デュランダル)』を渡す。
「何だかやけに高そうな剣だな。
もし折れてしまっても、後から弁償ってのは無しにしてくれよ」
「馬鹿、こんな時に何言ってんだ。
その剣はデビットにやる、あと剣に魔力込れば大抵のモノは斬れる筈だ」
黄金の柄を持つ聖剣、『絶世の名剣(デュランダル)』の剣身を見ながら、冗談ともつかない事を言うデビットだが、この剣は戦いで敗れた剣の持ち主、ローランが重症を負い、敵に奪われない為に岩に叩きつけるが、剣は折れるどころか無傷のままで反対に叩きつけた岩が斬れてしまったって由来があるから心配はないだろう。
むしろ、折ろうとしても多分折れないと思う。
「俺達は彼女達が乗り込むまで車を護るぞ」
視界の端では、車内を拡張する魔術を終えたのだろうアリシアが車から降り、入替りに救出した女性達が乗車している。
「解ってるさ、エミヤ。
彼女達を護っているポチの力量は判断できそうにもないが、傭兵科トップランクのセルを問答無用で埋めたんだ信頼はするつもりだ。
それに―――」
と、魔力放出を使ってるのだろう、音速と見紛うような速さで縦横無尽に駆け回っているセイバーへと視線を向ける。
セイバーは、横と前から来る獣人達を相手に疾風迅雷の如く斬り伏せていた。
「普通の人とは違うと思ってたけど―――救世主クラスの三人よりも強いんじゃないのか、セイバーさん?」
英霊の力を目の当たりにしたデビットは、驚くよりも何処か呆れた感じで見ている。
その言葉に俺は聖杯戦争の時、「サーヴァントにはサーヴァントを以てでしか対抗出来ない」と言っていた言峰を思い出しながら正面に視線を戻す。
「気を抜くなデビット、来たぞ」
「ああ。、解ってる、此処は通させないさ」
車からやや離れた所から、向かって来るモンスター達を待ち構え、投影した弓で矢を続けざまに放ち続け獣人モンスターを仕留めていく、が。
―――それでも、倒れた仲間を盾に使い防ぎ向かって来る獣人が現れ。
前に出たデビットが、受け止めようとした棍棒ごと両断し、斬り伏せて行くものの、依然、向かって来る数は増えていく一方だった。
「っ、この数……拙いな。
(この滅茶苦茶な剣が在ればこそ、俺はまだ生きてられるが………それでも、何時までも持たないぞ)」
振り下ろされる棍棒に、そえるような動作で小型の盾を当て受け流すデビットは、瞬時に獣人モンスターを袈裟に斬り伏せるが状況が悪くなっているのを肌で感じて呟く。
「まだだデビット、もう少しの」
筈だと言い終えないうちに、
「全員乗り終わったわ!」
イリヤの声が響き渡り、
「乗り終えた!?」
後は車に合流するだけとホッとした表情を見せるデビットだが、正面からは人質救出が目的だと解り、こちらに向かって数多くの獣人モンスター達が迫って来ていた。
「―――停止解除、全投影連続層写!!!(フリーズアウト、ソードバレルフルオープン!!!)」
その群れに既に工程を完了させ、回路に待機させていた設計図に撃鉄を打ち込み撃ち放つ。
「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」
投影魔術によって宙に現れた数々の剣は、獣人や獣のモンスター達を刺し貫くばかりか、俺の言葉によって幻想、神秘という内包する力を爆発させ僅かだがモンスター達の足を鈍らせ、
「今だ」
「―――っ、あぁ」
何処か呆然としているデビットと共に、この機を逃さず車へと戻り乗込む。
「っ!?」
しかし、乗り込んだ車内は何と言って表現すればいいのか、やたらと広くなっていてまだ数十人は乗れるのではないかと思える程になっていた。
「これが―――今朝まで乗ってた車と……同じ中なのか?」
俺と一緒に乗り込んだデビット同感らしく、信じられないといった言葉と表情で全てを語っている。
俺も内心では驚いているが、魔法使いであるアリシアのやる事に一々驚いてたらきりがないと結論を出し状況を把握する為に周囲を見渡す。
これは後で知った事だが、この車に掛けた魔術は何でも第二魔法の応用らしく、乗車さえできれば何人でも乗れるばかりか、重量が増えれば増える程、そのエネルギーを使って車内の空間を広げる仕組みらしかった。
側面の乗り口から見やれば、外では上空からアリシアが「フォトンランサー」と言いながら、まるでレーザーのような魔術を使い、前に躍り出ようとしていた三つ首の獣、竜、獅子、山羊の頭を持つキメラとしか思えない大型の獣が、幾多の光線を浴び蒸発したのか轟音と共に消えていた。
「アリシア、もう戻れ!」
「うん」
状況が解って無いのか、まだ余裕があるのか判らないが緊張感なく答えるアリシアは、動き出した車の中へと入ってくる。
たく、まだ奴等を引きつける必要があるからこそ、速度を上げてないからいいものの、車の速さは飛行魔術でついて来れる速さじゃない筈だろ。
とはいえ、聖杯による経験の短縮から俺も一、二発程度なら『フォトンランサー』ってミッド式魔術は使えるようにはなっている、しかし、アリシアが先程使ったのとは違って小さな光の槍というか弾みたいな形状だったが。
この半年間の間に、まるで別物になるまで改変していったのだろうか?
それなら、飛行魔術も研磨されライダーの天馬とはいかなくても、車よりも速い可能性は否定出来ないくもないか。
などと思いながらも、側面ドアから後を見やれば幾多のモンスター達が―――やはり、荒れてるとはいえ畑だと走り辛いのだろう道一杯に列をなして向かって来ていた。
「っ、セイバーの読み通りだな」
「ホント、そうね」
俺の呟いた言葉に、運転しているイリヤが僅かに顔を動かし答え、
「バーサーカーは霊体化させて戻したから、もういいわセイバー!」
窓の外に向け言い放った。
同時に屋根からドンと、何かが上に乗る音が車内に響く。
念の為、ドアから首を出し上を窺うと、セイバーが後ろを見詰めながら不可視の鞘を外してるのだろう、旋風が解き放たれ黄金に輝く剣身が露わになる。
「約束された(エクス)』
セイバーが込める魔力を変換しているのか、元々輝いていた剣身は更に輝きを増してゆき、
『勝利の剣――――――!!!!(カリバー)」
振り下ろすと同時に、聖剣から迸る極光が後ろから迫って来る獣人達を薙ぎ払った。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
アヴァター編 第05話
セイバーさんが宝具を使った後、私達は村に居るモンスター達を掃討し殲滅するのではなく、そのまま車で州軍が駐屯している街へと向かった。
どうやら攫われて来た人達の救出と安全を重視した事と、私達であの村のモンスター達を殲滅する事に意味が無いと感じた事からそうしたらしい。
確かに、良く考えればそれもそうだよね、モンスター達は住んでるけど、人はもう居ない無人の村だからモンスター達を殲滅したら誰も居ない村になるだけだし―――そもそも、殲滅した後で、州軍に連絡したらこの村には破滅のモンスターなんか居ないじゃないかって事で、斥候の依頼が果たせなくなってしまうから本末転倒になってしまうかもしれない。
そんな訳から、村に居るモンスター達が私達を追撃する意思と気力を挫く為と、方法を無くす必要からセイバーさんは聖剣を使ったらしい。
その効果は十分にあり、走りやすい道で追撃してきたモンスター達は聖剣で一掃されてしまい、更に追撃して来れるるような数はいそうに無い、それに道だった所は断層が出来てしまったから道とは呼べなくなっていて追撃してくるのは難しいと思う。
後顧の憂い無くした私達は、州軍が駐屯する街へと辿り着き、場所を伝えると討伐部隊を編成しながら、斥候として数人の馬に乗った人達があの村へと向かって行った。
また、州軍では今現在、各地で野盗やモンスターの被害が広がっていて人手が少ないらしく、学生である私達でも居ないよりはましだろうと、傭兵として働いてはどうかと話を持ちかけられたらしいよ。
でも、馬やご飯に装備等の準備があるので討伐部隊が動けるのは明日以降みたい。
だったら、この街で明日までぼうっとして待っているよりは、攫われて来た人達を元の村へと送った方がいいだろうとの事から、お姉さん達が住んでいる村へと向かった。
その時に聞いたんだけど、そもそもお姉さん達が攫われて来た理由が、モンスター達が繁殖する為の母体にする事だったそう。
「………」
ん~、私が知っている限りでは、亜人と呼べるだろう獣人と人間とでは子供を作るのは難しいと思うけど、アヴァターでは出来るのかな?
そんなに繁殖しなければならない理由はと考え、一つの結論に達する。
そう、即ち破滅のモンスターとは、その種族につがいとなる異性が不足するか、絶えてしまい滅びていく途中か待つだけの絶滅危惧種だったのだと。
だから、悪足掻きとはいえ、他の種族の異性を捕まえ子孫を残そうとしていたに違いない。
じゃあ、なら如何して獣人の女の人達は絶えてしまったのだろう?
選定をし易くする為に座に居る影が「何かしたのかな?」
「ん、如何したのアリシア?」
横に座っているイリヤお姉ちゃんが私を見る、あう、如何やら口にしてたらしい。
「うん、破滅のモンスターって何だろうって考えていたの」
選定については影に一任していたから結果しか聞いてなかたし、一度だけ私が選定していた時もあったけど、その時は破滅のモンスターなんて居なかったからよく解らないでいる。
「ふぅん、破滅のモンスターね」
イリヤお姉ちゃんは考えているのか数秒間、目を閉じた後。
「そうね、この世界は私達の居た世界とは違うようだから理解できない処も在るけど。
村の人達が言ってたわ、あのモンスター達は以前は山の奥で大人しく棲み分けていたモンスター達だったって。たから、この村に下りてきて娘を差し出せって言って来たのを狂言か何かと思って無視したみたいだし、何か外因が在るのは間違い無さそうね、多分それが学園で習った破滅に選ばれたって事なんじゃないかしら」
「破滅に選ばれる―――か、選定の基準て何なんだろう?」
「そんな事解らないわよ」
そう区切っりながら私を見つめ、
「そんなに知りたいのなら、『原初の海』に聞けばいいんじゃないの、全知全能にもなれるみたいなんだし」
と、何処か意地悪そうな笑みを浮かべる。
「ええと、多分教えてくれないと思うよ」
そもそも、その本人が知らないんだから、解るわけが無いよ。
あうぅ、まさか本当にお姉ちゃんにはばれてるのかな?
「なら、今のアリシアが考えてても無駄に近いわ、考察するにも、もっと情報を集めてから考えないと駄目よ」
私が本人ですって今更言っても仕方ないし、嘘をつくなら、最後まで突き通さなきゃならないから嘘つくのも大変だよ。
でも―――破滅の選定に関する件は、いずれ座の影に聞いてみよう。
「おいおい、今日の主賓がなに白けてるんだ、飲め飲め」
そんな私達を見つけたデビットさんは、顔を赤らめながらも両手にグラスを持ってやって来る。
今は攫われたお姉さん達が住んでいる村で、無事に救出されたお姉さん達の祝いと、私達に対する感謝の気持ちからだろう村総出の宴会になっていた。
「うん。デビットさんの言う通りだね、今は楽しんだ方が良いよね」
グラスを受け取り少しずつ飲んでゆく。
この村で出されてた飲み物は不思議な飲み物で、甘くて美味しいけど、何か暑く感じてくるし、頭もぼうっとしてくるけど、何処か気分がよくなる感じがする。
見渡せば、お兄ちゃんは村の人に混じって、大きな鉄板で肉や野菜を串に刺して焼いていて、セイバーさんはその串焼肉や野菜を食べ尽していってた。
「あんたらは村の娘達を助けてくれた恩人、それも、普通なら出来ない事をやってくれたんだ、それにこの宴は襲撃の際に犠牲になった人達に対しての別れも含まれてるから、居なくなった奴が迷わない様に出来るだけ楽しんで逝かせてやってくれ」
そう言いながら、村のおじさんが串焼肉を渡してくれる。
「そうだ、そうだ、食って飲め」
デビットさんも楽しそうに串焼肉を食べたり、この不思議な飲み物を飲んでいた。
きっとこの村の風習なのか、アヴァターの慣わしなのか、食べて飲んで楽しまないと死んだ人達が迷うと思われてるらしい。
渡された串焼肉を一口すると、芳香な味わいと肉汁でとても美味しい。
「うん、私も食べて飲む!」
私はセイバーさんやデビットさんを見習い、沢山食べ、飲みんでは騒いではしゃいだ。
でも次の日の朝、何故か頭が酷く痛かったので治してから起き、皆におはようの挨拶をするけどデビットさんも痛いのか頭を押さえていた。
「ん~、私も頭痛かったし、風邪が流行ってるのかな?」
朝のご飯は、お弁当ではなくて、村の人達と何もする事がなく手持ち無沙汰なのだろう、「何か出来る事は無いか」って手伝ったお兄ちゃんによって何品かは和食ぽいモノが出てきた。
久しぶりに、お兄ちゃんの料理を食べる事が出来たセイバーさんは、もっきゅ、もっきゅと嬉しそうに食べ。
イリヤお姉ちゃんも「変わった味ね」とアヴァターの料理を楽しんでいる様子。
私も美味しくいただいたけど、デビットさんはまだ頭が痛いのか何処か元気が無い感じだった。
朝食の後は、州軍との契約の為に村の人達と別れ出発。
街へと着くお昼くらいには、デビットさんの頭痛も治ったみたいで州軍の人達と話してもらい。
斥候からもたらされた情報から、あの村のモンスター達の残りは十体も居ないそうなので、私達は加わらなくてもいいって事になったそう。
斥候の依頼って……依頼料は少ないのに、その割にはいい様に使われる、本当、雇い主側に都合が良い依頼だと思うよ。
そんな訳から、頑張って交渉を行なった末、初めの依頼料に少し色を付けて貰えた私達は、空が朱に染まる頃ようやく学園に辿り着き。
そして―――廊下で焦げた布を握り、沢山の女性の下着の上で伏せているセルさんを見つけた。