永い間分かれていた魂と記憶、それが一つとなり全てを思い出せた。
「そう、ならアリシア。
改めて名乗るわ、私はルビナス・フローリアス。
ルビナスでいいわ、宜しくねアリシア」
自らの名を名乗る事で、互いの名が知り、私とアリシアは友達となれたと思う。
―――欲を言えば、私の事を想ってくれる男性によって目覚めたかったのだけど、『目覚めのキス』に憧れていたのはここだけの秘密にしておきましょう。
「じゃあ、そろそろお昼の時間だから、ルビナスさんも一緒に外に出てお昼を食べようよ」
「そうね、そうしましょう」
そう―――この場所は、アンデットの友達と遊んだ記憶で溢れているけれど、その友達も昇天し、私にはかつてと同じ悲劇を繰り返さないようにする目的があるのだから、この場所に居続けても意味は無いわね。
外に出る途中、入り口の扉が誰かに閉められていたけど、私の召還器、エルダーアークから根源力を変換し、振り下ろすと同時に解き放つと扉を切り裂いて表へと出た。
「ほえ。ルビナスさん、召還器持ってるんだ」
「……ええ、これはエルダーアークよ」
以前の白の主、ロベリアとの苦い戦いを思い出しつつ、アリシアを見れば何時の間にか朱色の槍を手にしている。
「アリシアのその槍は?」
先程までは持っていなかった筈なのに―――もしかしたら召還器なのかもしれない、なら先程の事も根源力を扱える救世主候補なら出来ても不思議じゃないもの。
「ん、これは、ゲイボルグっていう呪の込められた槍。
前の持ち主だったランサーさんが、私に使いこなせよって言って私に託してくれたの、だから私も使いこなせる様に頑張ってるんだよ」
きっと良い人だったのだろう、ランサーさんという方を思い出しながらにこやかに語るアリシア。
「それでね。扉が閉まってたから、この槍を投げて壊そうとしたんだけど。
だけどルビナスさんが召還器を手にしてたから、必要ないかなって見ていたの」
言いながら槍が消える。
「消え―――それ如何やったの、まさか、それも召還器なのかしら?」
「ほえ、違うよ今のは転移魔術。
倉庫にしている所から、必要な物を必要な時に転移させて使ってるだけだよ」
いわれてみれば、召還器なら名を言わないと来ないのにアリシアは何も言っていなかったわ。
恐らく転移魔術とは召喚師の召喚と召還と同じく、予め特定の場所にアンカーをセットし、そこから持ってくる魔術師の業なのだろうと予想する。
私が永い事分かれていた間に、アヴァターの魔法も随分発展したのね、魔法物理学とかも色々変わってそう。
ふと、久しぶりに見上げる空は昔と変わらず青々と澄み渡り美しかった。
「そうだ、闘技場には運動部用のシャワーがあったからそこで洗ってから行こう。
まだそれ位の時間はならあるし、身嗜みとかには煩いからね、イリヤお姉ちゃん」
「イリヤお姉ちゃん?」
「うん、私のお姉ちゃんで時々私の頭を両手でグリグリするんだよ、とても痛いんだから」
両手を上げ、プンプンと怒ってるアリシア。
「……え~と」
アリシアて、イリヤさんて人から虐められているのかしら?
とはいえ、話していて解ったけどアリシアって何処か子供ぽいから、話だけでは判別も出来そうにないわね。
と、話をしつつも闘技場へとつき、闘技場にあるシャワー室で身体を洗った後、アリシアに誘われて礼拝堂の近く、池と森がある場所でお兄さんのエミヤ・シロウ君にセイバーさん、先程話しに出たイリヤスフィールさん達と一緒に話をしながらお弁当を頂く事になった。
アリシアが言うには、地下墓地で地面に潜って行ったポチは、如何やら地下で食事しているらしく地上にはまだ出て来ないらしい。
そして、エミヤ君はどこか疲れてるにも関わらず急に現れた私に色々と気を使ってくれるし。
セイバーさんは、何処と無く人の上に立つ魅力を感じ、イリヤスフィールさんは少し世間知らずな感じはするものの悪い子には見えないわね。
アリシアもイリヤスフィールさんの事が嫌いな訳でも無く、偶々話に出た事をされただけなのでしょう。
そうして、私が頂いたのはお弁当は、今まで食べた事が無い味、恐らく調味料が変ったからなのでしょうけど、アヴァターの食事も随分変わったらしい。
更に話を聞いていると、如何やら救世主候補が集まりだしている事や、破滅のモンスターが各所で出没している事等も次第に解って来た。
ホント、アレから随分経っていた様だけど何とか間に合った様ね。
ロベリアの時の様に、共に戦った仲間同士で殺しあう悲劇が起きるのを食い止められるならと千年後まで封じたままでいて。
千年前のあの決断が間違っていなくて、今の人達が私を許してくれるなら、きっと、封印を解いてくれるだろうと思い―――運命の導きとでも言うべきなのかしら、アリシアが私の封印を解いてくれたのだから。
「お、いたいた、捜したぞエミヤ」
かつての決断は間違っては無かったのでしょうと思いに暮れていると、声と共に一人の男性が走って来た。
「ん、お兄さんだれ?」
「アリシア、アイツが俺と同じ部屋のデビットだ」
同じエミヤの姓だからか、ほぼ同時に反応するエミヤ君とアリシア。
「悪いな食事中だったか、処で―――そちらの四人は?」
「ああ。そうか、デビットには紹介してい無かったな」
エミヤ君はセイバーさん、イリヤスフィールさん、アリシアちゃんの事を紹介して行き。
「私はルビナス・フローリアス、今日から学園に入るから宜しくね」
「俺の事はデッビトでいいさ。
でも、フローリアスさんは新入生か―――少し時期が悪いな、もう少し早ければ寮にも空きが有っただろうに。
王都の方も下宿場所は一杯らしいから、今からだと探すのも大変だぞ。
(……しかし、ルビナス・フローリアスって名前は何処かで聞いた事があった様な?)」
気の毒そうに私を見詰るデビット君、如何やら悪い人じゃ無いわね。
「大丈夫よ、私が入るクラスは救世主クラスだから」
「そうか、救世主クラスなら常に女子寮に空きが有る筈―――てっ、救世主クラス!?」
「そうよ」
目を見開くデビット君に、驚くのも無理は無いわねと思い立ち上がり腕を掲げ。
「エルダーアーク!」
召還器を呼んだ。
現れたのは黄色い古の大剣エルダーアーク、その大剣を両手で掲げる様に持ち。
「今、再び破滅が迫って来ています、でも、恐れないで決してあなた達を破滅などさせません」
「これが召還器」
イリヤスフィールさんは初めて見る召還器をじっと見詰め。
「フローリアスさんでしたね。
問おう、貴女は救世主となって何を成そうとするのですか?」
先程とは雰囲気が変わり、座ったままのセイバーさんから凄まじい威圧感が発せられた。
そう、この問いに偽りを言えば、その命、無いものと思え―――とすら。
って、セイバーさんまだ学生なのに!?
アリシアといい、私が分かれていた間に、アヴァターの人達の錬度って信じられないくらい変わっていたのね。
「ルビナスでいいわ」
セイバーさんの視線を正面から受け止め。
「私が成す事は、世界を破滅から守り、人々に元の生活が出来る様にする事よ」
そうよ、決して破滅などさせない―――例え、それが救世主候補生の仲間を手に掛ける事になるとしても世界を滅ぼす事だけは阻止しないと!
「納得してくれたかしら?」
暫しの間、見詰め合う私とセイバーさん。
「―――ええ、ルビナス貴女に感謝を」
「こちらこそ」
まるで、私の内面を読むようなセイバーさんの視線と威厳とも感じられる威圧感は、かつての仲間アルストロメリア以上に感じられた。
凄い時代ね、学生ですらこれほどの実力を持っているのだから、正規の騎士や兵ともなればどれ程の実力なのか予想がつかないわ。
でも、嬉しい誤算とも言える、こんな超人だらけなら破滅のモンスターが大挙して押し寄せてきても正面から打ち破れるでしょうから。
「そういった訳で、皆さん、美味しいお弁当ありがとう、私は入学の手続きに行く事にするわ」
決意を固め、私はアリシア達と別れる事にした。
セイバーさんとの視線でのやり取りもあってか、遥か昔に自身で定めた使命を強く思い出せたわ。
目覚めさせてくれ、友達にもなろうとしてくれたアリシアには悪いけど、私にはしなければならない事があるから御免なさい。
「そうなの、ルビナスさん忙しいんだ。
じゃあ、今度時間が空いていたら遊ぼうね」
アリシアは別段気にする風でもなく、私が救世主候補である事も関係無く接し、「またね~」と手を振り送り出してくれる。
一瞥すると、後ろでは「初めて見ました、アレが召還器というモノなのですね」や「召還器って色々な形をしてるんだな」とセイバーさんとエミヤ君達は話していた。
―――大丈夫よ、必ず救世主は誕生させはしないから!
勢いのまま、学園の受付へと足を運び。
突然訪れ、救世主クラスへと入学を希望する私を、当然ながら訝しがる受付の女性の前で召還器を出し納得させ、学園長へと通して貰った。
案内してくれた受付の女性が、学園長室らしい扉をノックすると、部屋の中から「入りなさい」と声が聞こえ。
部屋に入ると約千年前の仲間である、ミュリエル・アイスバーグに似た女性が迎えてくれた。
声もそっくりだし、もしかしたらこの人はミュリエルの子孫なのかもしれないわね。
受付の女性は一礼すると下がり、部屋から出て行った。
それを確認してか学園長が口を開く。
「救世主候補とは赤の書により選ばれ、召喚される者達……まさか、ここアヴァターから救世主候補が現れるとは思っていませんでした」
余程私の存在は、数々の世界でも稀な救世主候補者の中でも、特に稀なのだと学園長が胸の内を語る。
「申し遅れたわね、私はミュリエル・シアフィールドこのフローリア学園の学園長しています」
「っ、ミュリエル!?」
―――いえ、同じミュリエルの名だけど、姓は違うから、きっと先祖の名を受け継ぎ、継承しているって事でしょう。
「ええ、そうです、私の名が如何にかしましたか?
ええと―――」
僅かとはいえ、私の動揺を察したのか、学園長は私の名を言おうとして私がまだ名乗っていない事に気がつく。
「私はルビナス・フローリアス、かつて千年前、赤の精霊に選ばれた者よ」
「―――ルビナス!?」
恐らく書物か何かで私の名は出てるのでしょう、学園長は目を細め、私を見つめているけど―――如何してか、先程のセイバーさんの戦慄すら覚える威圧感程には感じられないのが不思議ね。
「そうよ」と返し、「エルダーアーク」と私の召還器を呼び手にする。
「そ、それはエルダーアーク……大いなる古の剣っ!千年前、ルビナスが使っていた召還器!」
学園長の驚き様からして、多分歴史の教科書とかに私の召還器の名と形状が載っていそう。
「そうよ私がその、ルビナス・フローリアス。
名前を継承しているって事は、学園長はかつて私の仲間だったミュリエル・アイスバーグの子孫なのね。
ホント、声とかも私の知っているミュリエルにそっくりよ学園長」
姿にしても、私が知っているのはもっと若々しい感じだけど、きっとあのミュリエルも歳を重ねて行けば学園長の様になったに違いないわ。
「ええ、貴女がそう思うのは仕方が無い事でしょう―――何せ本人なのですから」
「え?」
学園長の口から私の予期しない言葉が現れ。
「千年前、ロベリアを自身の体に封印した後、私は貴女が昇天したのかと思っていました。
その姿の事といい、教えて欲しいわね、この千年間一体何処に居たのかを」
その言葉に一瞬思考が止まった。
けど、何故千年後のアヴァターに居るのか、私が知りたいと同じくミュリエルも私について知りたいのは仕方ないわ。
「私は最後の戦いに赴く前、ホムンクルスを錬金術で創造したの」
ホムンクルス、錬金術で作った人工の肉体、生命の無い、人の姿をした偽りの肉体。
「私の魂は肉体を奪われた後、全ての赤を奪われない為に、あらかじめ仕掛けられた魔法で、記憶はロザリオへ、魂はホムンクルスに封印されたのよ。
その後は、記憶の無い魂は地下墓地を彷徨っていて、ようやく記憶と魂が一つになれて全てを思い出せたから―――私はここに来たの、ミュリエル」
「そ…う、だったの。記憶が無いままずっと千年もの時を地下墓地の中で……記憶を取戻す為に彷徨って………」
痛々そうな視線で私を気遣うミュリエル。
千年前のあの決断が間違っていなくて、今の人達が私を許してくれるなら、きっと、封印を解いてくれるだろうとアルストロメリアには伝えてあったのに、どうもミュリエルには伝わっていなかったようね。
それに、もしかしたら千年の時の流れの中で私の存在も忘れ去られていたのかもしれない。
でも、その手段が私を想ってくれる人のキスで、記憶と魂は結合し私は永き眠りから目覚めるってのは、ミュリエルには内緒にしておきましょう、絶対に呆れられるから。
「私も知りたいわ、教えてミュリエル、あの後―――何があったの?」
「そうね、貴女には知る権利があるわ。
白の主、ロベリアとの戦いの後で、貴女の肉体は何者かに持ち去られ、行方がわからなくなってしまったわ。
そして、その力と破滅から世界を救った事を評価されアルストロメリアは女王なり、私と共に書と古代兵器の封印の為に学園と王都を作ったの」
そう、確かにアルストロメリアは元々アヴァター王家の血筋だったから。
「でも、私は学園が創立されこれからって時に、一度元の世界に戻された……アヴァターに自力でたどり着いた時には千年の時が過ぎていたのよ」
そう言えば、かつて赤の書の精霊オルタラが言っていたわ。
次元移動には時間の不連続断面を越える必要があって、それに気がつかず、普通に超えてしまえば時間も一緒に越えてしまうって事を。
「時と次元を同時に操る事が出来るのは、書の精霊ぐらいのものだわ」
「そう、それで今の救世主候補にミュリエルは入っているのよね」
ミュリエルの召還器は、魔力を増幅するグローブ状のライテウス。
ライテウスを着けたミュリエルの実力は軽く一師団を相手に出来る程のモノ、破滅との戦いには欠かせない。
「いえ、ライテウスは娘のリリィに継がせました」
「え、ミュリエル、貴女娘が出来たの?」
「ええ、アヴァターへ来る途中、破滅に滅ぼされかけた世界で会い、養子として引き取ったわ。
でも、偶然とはいえライテウスの封印を解いて契約してしまうなんて……これも、何かの運命なのかしら」
沈み込んだ表情で俯くミュリエル、そうね……ミュリエルがやろうとしてる事はなんとなく解る。
それを―――養子とはいえ、自分の娘である相手に対して、しなくてはならないかもしれないのだから………
「解ったわミュリエル、貴女が心配しないくても良いように、私は救世主候補生達の中から真の救世主になりそうな者を捜すわ」
「そう言ってくれると助かるわ、ルビナス」
私とミュリエルは今後の事もあり詳しく話し合い。
特に問題となるだろう救世主の正体に、選定する基準と方法に関しては千年もの時の流れに加え、記憶と魂が一つとなった時に記憶の一部が失われてしまった事で無いものとし。
それでも訝しがる人には、少し嫌だけど頭と胴体を離して見せれば信じる筈だろうと結論に達した。
その後は、女子寮へと案内され、救世主候補でありながら、寮長でもあるベリオ・トロープさんと会い、宛がわれた部屋で休む事になる。
「記憶が無かったとはいえ、実際、千年ものブランクね……明日はこの身体で、何処まで出来るか把握しとかないと」
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
アヴァター編 第04話
「そうなの、ルビナスさん忙しいんだ。
じゃあ、今度時間が空いていたら遊ぼうね」
そう言いながら手を振るアリシアにルビナスは微笑んだ後、入学の為に受付へと向かって行った。
でも……まさかな、アリシアが知り合った女の子が救世主候補の一人だとは思いもしなかった。
俺も状況が急すぎて、思考がついていけなかったから折角ルビナスが救世主候補だったのに碌に話も出来なかったんだが―――
「で、如何したんだデビット、お前、王都で受けれそうな依頼を探してたんだろ?」
俺以上に状況に対処出来ないだろう、デビットを見遣る。
「……ああ、そうだ、その依頼の事なんだ。
お前、金が無くて次の月までに寮費を払えないと寮を出て行かなきゃならないだろう。
王都で丁度良い依頼を受けたんで、エミヤも如何かと思ってな」
そこまで言うと、落ち着きを取戻したのか表情を変え。
「さっきの娘。
新しい救世主候補で召還器は大剣だったな、一体何処で知り合ったんだエミヤ?」
「俺じゃない、妹のアリシアがポチと遊んでいたら出会って、ここで一緒に食事をしようって話になったらしい」
救世主候補はアヴァターではアイドルらしいから、デビットが気になるのは解る。
「そうか、その娘が妹の、それに先程の救世主候補フローリアスさんとの―――いや、確か救世主候補って異世界から召還されるって話を聞いてたからな、一体何処から来たのか気になっただけだ。
(先程のフローリアスさんは何やら威厳の様なモノを感じたが、セイバーさんからもそれは窺えた、もしかしたらこの人も救世主候補の資格が在るのかもしれない。
―――いや、所詮は俺の勝手な憶測に過ぎないしな、救世主候補が増えるのは、破滅と戦う戦力が増す事だからいい事だからどの道、俺が出来る事は限られている、俺は俺の出来る事をすればいいさ……)」
デビットは、アリシアとセイバーに視線を向けた後、少しの間なにかを考えていた様だが。
「でだ、依頼の件はエミヤの実技試験の結果次第なんだが」
「実技試験はAランクだったけど、如何なんだ?」
確かAランクは普通って意味らしいからな、厳しいのかもしれない。
「なら問題無いか。
その依頼ってのは、コーギュラント州辺りでモンスター達が目撃され、周辺の村の人達が不安だから場所を特定して州軍に知らせるって簡単なヤツだ」
「そのモンスター達は放って置いていいのか?」
学園で学んだ限りだと、モンスターなんて放って置けば近隣の村々で被害が広がるだろうし、村に近づけなくするとか、如何にかしないと不味いだろう。
「エミヤ、俺もそうだが俺達は学生なんだ、得て来た経験も少ないから、まだ半人前と思っていた方がいい。
そりゃ俺だって傭兵の資格は持ってはいるさ、けどな、ドルイド科としての実力はまだまだなのは解っているつもりだ。
エミヤは初めて傭兵の資格取りに来ているんだから、思い上がって真正面から破滅のモンスターを相手に出来ると思っていたら―――お前死ぬぞ」
髪を掻きながら溜息をつき。
「まあ、お前がほっとけない性格なのは解ってるつもりだけど、今回の依頼は戦うヤツじゃなく斥候、捜索だ。
場所を特定出来たら、州軍の詰め所に連絡して破滅のモンスター達が住処にしている場所へ州軍が派遣されて終りだ。
そもそも、俺達が戦うとしてもモンスター達の数すら分からないんだから、策も無しに行けば無駄死にするのが関の山」
更に―――
「特にお前は姉に妹、それに彼女もいるんだから無理するな、少なくてもそこの三人はお前が死んだら悲しむぞ」
デビットの視線からは、俺の事を本気で心配しているのが解る、けど―――
「俺だって、まだ死にたくは無いし無理するつもりはないぞ」
死ぬっていえば、アーチャーの奴、聖杯戦争の時に俺の首を刎ねたとかって言ってたな。
俺も自分の異様な治癒能力には驚くばかりだが、アーチャーが言っていた様に首を刎ねられて生きていられる確信は無い。
原因にしても、大体の目星は付いているけど、それが『原初の海』だとしたらアリシアに呼んでもらった瞬間に世界は終わるらしいから、確認のしようがないし、怪我が治りやすいってくらいに考えといた方が良いかもな。
「それに、彼女って、俺は兎も角セイバーに悪いだろう」
言いながらセイバーに視線を向ければ、やはり気分を害したのかやや顔を表情が赤くなっている。
―――少し怒らせたか、確かに俺なんかじゃあセイバーにつり合うとは思えないしな。
「そうか、セイバーさんとは―――違うのか?
……なら、悪いことを聞いたな、二人ともすまない。
で、如何だ、やってみるか?」
「勿論だ、色々とありがとなデビット」
同じ部屋だからだろうな、デビットにはよく世話になる。
それと、気分を害しただろうセイバーを見やり。
「デビットのヤツも悪気は無かったんだ、許してくれセイバー」
「―――っ、いえ、私は特に。
(っ、アリシアが被せた英霊の座とは、英霊となり祭り上げられた私の集合体の様なモノ。
その中に、結果的に聖杯を選んでしまったとはいえ、シロウを愛していた私も居たらしくて確かにシロウには惹かれますが、それは人としてでして。
いえ、好感は持っていますので好きか嫌いかと言われれば好きになりますし、愛しているか問われたら―――っ)」
表情が更に赤くなり、俯いたまま押し黙るセイバー、ヤバイこれは相当怒ってる様子だ。
後で何とかフォローしとかないと不味いな。
「それと、俺が傭兵の資格者だからな、何かあった時の責任は俺持ちの代わりに、リーダーをやらせてもらうぞ。
(今のアヴァターにはエミヤの様に女尊男卑な常識に囚われないヤツが必要な筈だ、無駄死にをさせる訳にはいかない)」
「そう、傭兵の依頼ね―――面白いじゃない私も行くわ」
「で、では私も、傭兵の仕事というのには気になりますし、シロウが無茶をするかもしれませんので。
(―――今は、世界全体の事を考えるべき時です、シロウについての想いは後で考えるとしましょう)」
俺とデビットの話が纏まり掛けると、今まで黙っていたイリヤと、感情を切り替えたのか、俯いていた頭を上げたセイバーが参加して来る。
アリシアは如何かと思ったが、先程はルビナスや皆と話ばかりしていたから、まだ弁当を食べている途中なので傭兵の依頼には余り気にしていない様だった。
「そう言われてもな……元々斥候の依頼なんて、危険が少ない代わりに、報酬も少ないからな、人数を多くすれば小遣い程度にしかならないぞ、分け前とかは少ないけどいいのか?
それにだ、危険が無いという訳でもないから、二人とも実技試験はAランクは必要だぞ。
(とはいえ、救世主候補のフローリアスさん相手にしていた時の感じからして、セイバーさんは大丈夫だろうが)」
まあ、デビットが心配するのも解る、見た感じではセイバーに大人姿のアリシアやイリヤは如何見ても強いって感じはしないからな。
「それなら、問題は無いわ、実技試験なら私やアリシアにセイバーはAAAランクだから」
「ええ、予期せぬ襲撃が予想される以上は、相応の戦力で挑むのが良い筈です」
「―――っ、AAAランク!
それって、もう学園卒業しても十分やって行けるレベルだぞ!!」
今までAAAランクの実力が、どのまで通用するのかは解っていなかったが、如何やら実戦で十分通用するレベルらしい。
……まあ、元々サーヴァントであるセイバーやバーサーカーは、その実戦で英雄に祭り上げられた存在なんだから、通用するのは当たり前なんだが。
見た目で―――いや、気が弱いヤツなら見ただけで心臓が止まるかもしれないバーサーカーは兎も角として、セイバー、イリヤ、アリシアの三人は外見からはそんな感じはしないので解る筈も無いか。
「ええ、そうですね、確かに教官からは近衛騎士にもなれると言われています」
「……近衛騎士にもって、そりゃすごい。
確か、近衛騎士団って入るのも洒落にならないくらいの所だって聞いてる……完全な実力主義だからこそ、貴族連中も入りたがらないって話しだしな」
「私のバーサーカーだって強いんだから!」
両手を上げ「ガー」と吼えるイリヤ―――頼むから藤ねえのようにはなるなよ。
それに、バーサーカーは単体で戦えば、アヴァターの一軍を一人で壊滅させる事が出来るだろうから強いって言うより洒落にならないだろう。
実際、対峙した教官も身動き一つ出来なかったし生きた心地もしなかっただろうから。
「解った。AAAランクが三人も居れば、心強いのは確かだ―――でも、報酬は五人で分けるから相当少ないからな」
「それで、何時其処へ行くんだ?
村の人達の事も考えるなら、なるべく早く行く方がいいだろうけど授業の事もあるからな」
正直な処、アヴァターでの講義は傭兵の在り方とか心構えの他にも、探し物や捜査に交渉の仕方、逐一変わる戦場等の状況で如何対応すればば良いのかを、座学で教えてくれるのでとてもためになる。
アーチャーもこういった所で学べれば、絶望の果てに一の価値を見失い、一を切捨て九を護る守護者にならなかったのかもしれない。
「ああ、依頼も実技の一環としてみてくれるから、授業の単位のとかは問題無い。
距離的にも今が昼だから夜には向こうに着けるだろうから、明日一日で捜索出来れば問題は無いが」
軽く握った拳を顎に当て。
「あるとすれば―――先程分かれたフローリアスさんのお披露目が、恐らく休み明けには行われるだろうという事だ」
「なに、そのお披露目会って、美味しいモノが出るの?」
ようやくお弁当を食べ終えたアリシアだが、何かのパーティーでもあるのかと聞いてくる。
………今食べたばかりなのに、まだ食べたいのかアリシア、それとも、甘いものは別腹っていう女性特有のアレなのか?
「いや、救世主候補生の実力を見せるお披露目さ、それで皆はその救世主候補生がどれだけの事が出来るの解るし、期待したり安心もする訳だ」
「そう、だから英雄じゃなく―――アイドルなのね」
何処か納得いった感じでイリヤは頷く。
「それならば、私も救世主候補がどれ程の者なのか自身の目で見て見たい。
……しかし、既に休みは今日を入れ、明日と一日半―――確かに時間が無いですね」
日程を立てようとするセイバーだが、時間が無いのはどうしようも無いらしく、眉を顰めている。
「なら、ここで話しても始まらないから、そのコーギュラント州へ急ごう」
きっと、その村々の人々は不安に違いないしな、早速行って安心して生活出来る様にしてあげたい。
「それじゃあ、集合は広場でいいだろ」
「そうね、そこでいいわ」
デビットの言葉にイリヤは頷き。
「ええ、そこでいいでしょう」
「ん、いいと思うよ」
セイバーにアリシアも頷いた。
「じゃあ、俺も準備があるから用意して来る」
寮への道を戻ろうとするデビットだが、何を思ったのか振り返り。
「ああ、そうだ、先生への連絡は今回は俺が伝えとくからな」
そう言うとデビットは寮へと戻って行った。
俺達はアリシアが居れば、下着とか以外は特に持って行く物は無いので早々に準備は終わり、広場で待つ事にし。
その間にアリシアが念話を使ったのだろう、ポチが地面から現れアリシアと戯れていた。
処が―――
「―――お前達、武器や防具は如何したんだ?」
片手に荷物の入った大きめの袋を持って、広場にやってきたデビットは、丸腰の俺達を見て唖然としていた。
そのデッビトの格好は厚手の防護服の上に、板状にした木を編んだ様な胴鎧を身に着けていたりするから、確かに丸腰の俺達は変に見えなくもないか。
「心配は無用です、我々の装備はこの通り」
気まずい空気を察知したセイバーが、一瞬で鎧へと換装する―――て、また服がお亡くなりになってしまった。
セイバーの纏っている鎧は、魔力で編まれているらしいから、そのまま鎧を纏えば内側から編まれた鎧によって服は破け四散してしまったりする。
一応、昔、言峰が遠坂用に用意して無駄になっていた服が十着はあるからまだ余裕はあるけど、なんだか時間の問題の様な気がしないでもない。
「―――っ、そうか、セイバーさん貴女もエミヤと同じ転移魔術とかが使えるのか。
それでも、そんな早く身に着けれるなんてな―――いや、正直驚いた。
(だが何故だろう、この人は呼び捨てに出来そうもない……これがカリスマってヤツなのか?)」
「処でデビット、その鎧は一体?」
セイバーも木を編んだ様な鎧は初めて見た感じだ。
「この鎧の事か、確かに革鎧みたいに一般的に出回っている訳じゃないし、知らなくても仕方がないか。
この鎧は干した蔦を乾燥させ編んだ後、特殊な樹液に漬けて作られる鎧だからな珍しいかもしれない。
火こそ弱いが、腐食も無いし、軽く通気性も良くてそれなりに身も護れるから良い鎧だと思うぞ」
「それは―――凄い、素材が鉄や鋼鉄では防御効果はいいのですが、重量や錆等の問題が付きまとっていましたから」
如何やら本心から驚いているらしいセイバー、デビットが着ている鎧は、セイバーの居た頃には実在しなかった鎧らしい。
「いや、素材が蔦だから鉄とか鋼鉄とは流石に比べ物にはならないさ。
俺も金があれば鎖帷子とかにしてるだろうしな」
そりゃそうだろうな、どんなに加工しても素材が蔦じゃ、鉄や合金と同じ強度は無理に近いだろうし。
「毎日の食費に、寮費や授業料やらもあるし、お互い金に縁が無いのは辛いな」
「貧乏人は辛い」と肩を竦めるデビットだが、俺達はまだそれのどれも支払って無かったりする。
支払い期限は次の月までだし、払えなければ学園から去るしかないから、デビットが持ってきた依頼の件は是が非でも達成しないと本当に拙い。
他にも雑談を交わしつつ、広場から門の外へと出ると。
「予定としては王都へ行って人数分の馬を借りてから、モンスターが目撃された場所に近い村まで行くつもりだ」
言いながら、王都の方へと指し示し。
「到着は恐らく夜になると思う。
そして、着いたら村で聞き込みをした後、屋根のある所で休めないか話してみる、運が良ければ野宿しないで済むだろう」
黙ってるけど、野宿という言葉に「むっ」とイリヤは眉を顰る。
まあ、イリヤの住んでた城やら、部屋の家具とかからじゃ野宿なんて想像も出来ないだろうし、聞いていて気分のいい話でも無いだろう。
「いえ、王都へ行く必要はありません」
「へ?」と、セイバーの言葉の意味が理解出来ず、王都を指差し固まったままのデビットから視線をアリシアに変え。
「アリシア、車を」
「は~い」
アリシアの返事と共に、ついこの前、学園まで乗ってきたキャンピングカーが現れる。
「これは車と言い、馬を必要としない馬車の様な乗り物です」
「はぁ、馬を必要としないって、なら如何やって動くんだ、この車っていう乗り物は?」
まあ、中世ヨーロッパ位の文明であるアヴァターに、車がある訳も無いから解らないのも無理は無いだろう。
ふと、視線を車に移すと、デビットが訝しげに車を見ている間にも、イリヤとポチを抱えたアリシアは車の中へと乗り込んで、ソファの様な座席に座っている。
「今は時間が惜しいから、取敢えず中に乗ってから話そう」
セイバーの説明では理解できそうに無く、唖然としているデビットを乗せエンジンを動かすと、「っ、何だよこの振動!?」とか、走り出すと「まさか、馬よりも早いのかこの乗り物!」って窓の外を見ながら落ち着かない。
それでも王都へつく頃にはなんとか慣れたのか、袋から地図を出し、運転しているセイバーに行く道を案内しはじめたが。
村までの途中、小休憩もあり、車について話しているとアリシアが炭酸の入った飲み物を出し、渡すとこれまたデビットは驚き始めたりした。
そんなこんなで、村に到着したのは太陽が沈みかけ空と雲を朱に染める頃だった。
それでも、馬では途中途中で休ませなければならないので、デビットの予想よりも大幅に早く村に到着する事が出来たようだ。
村に入る前で俺達は車から降り、アリシアは車を保管している所へと転移させる。
その様子をデビットは何処か遠いい目で見ていた。
「……じゃあ、まず俺が村の人達と話してみる。
(エミヤ達は、一体何者なんだ?
車ってのに乗った時は、何処かの貴族じゃないかとも思ったが―――あんな車ってモノが在ったのなら貴族の奴等が自慢しない訳が無いし。
更に、ペットボトルとかいう容器に入っていた液体、口の中でシュワってする飲み物なんて聞いた事すらない。
容器は容器で素材が何だか解らないときた、何でエミヤ達はこんなにも不思議な物を持っているんだろうか?)」
何か疲れた感じでフラフラと歩き出すデビット。
車に酔ったのかとも思ったが、恐らくはモンスターの生息区域から、怪しい場所を特定する必要があるだろうから、色々と考える事が多いいのだろう。
「そうですね、デビットの方がここでの知識が多いいですから、交渉には適任でしょう」
「セイバーの言う通りね、学園で少しは学んだとはいえ、アヴァターじゃ私達の常識が通じるかは難しいわ」
セイバーとイリヤがデビットの後に付いて行き。
「この村に書の精霊の手掛かりがあるといいね」
「いや、流石にそんな都合の良くは行か無いだろう」
何か遠足にでも行く様な感じで、楽しそうなアリシアと一緒にセイバー達の後を追った。