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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] アヴァター編02
Name: よよよ◆fa770ebd ID:021312f6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/16 00:33

少し遅めのお昼を食べた後、車に乗った私達はフローリア学園に辿り着いた。

「ふ~ん、ここがフローリア学園なんだ」

車から降りるなり、イリヤお姉ちゃんは門へと走って行く。

「ん~、折角ナビを付けて貰ったのに役にたたなかったよ。
説明してくれたおじさん嘘言ったのかな?」

車を買った時に説明してくれたおじさんは、「ナビがあれば道に迷う事は無いよ」って言ってくれたのに、使おうとしたら、何かよく解らないけどエラーが発生して使えなかったんだ。
嘘じゃなければ―――あ、もしかして、これが初期不良って事なのかな?
壊れてるかもしれないなら、学園での手続きが済んだら戻って確認してもらう方がいいのかもしれない。

「いや……普通は、異世界で使うなんて事は考えてないだろうから無理も無いだろ。
(ナビを使うにしても、そもそもGPSに必要な衛星が無いんだからな……)」

空を見上げるお兄ちゃん。

「え~、ナビってアヴァターじゃ使えないんだ」

そうなんだ、販売員のおじさんが嘘を言ってた訳じゃ無いんだね。
でも、折角付けたのに使えないなんて、少し勿体無いな。
そう思いつつ、取敢えずは車の時間を凍結して倉庫として使っている世界へ転移させる。

「しかし、四輪駆動というだけあって走りは良い感じでした。
(四次で乗ったバイクといい、車といい、私の望む通りに動きますから気持ちの良い乗り物です)」

運転する事が好きなのか、セイバーさんの機嫌はとても良いみたい。

「ね、あっちの方に行けば良いんだって早く行こう」

門の近くに居た人から聞いたらしく、イリヤお姉ちゃんは急かして来る。

「ああ(……何だよ、この城壁、ここ学校だろ?)」

お兄ちゃんは壁に視線を向けながら門をくぐる。
私とセイバーさんも後に続いて、門をくぐり学園の中に入ると、私の通う小学校なんか比較にならない程の広い広場にでた。

「何て言うか、凄い所だなここ?」

「ええ、資格学園というより、城塞都市と言った方が合っていますね」

城塞都市か、言われて視てみたけど確かに学園の周囲を囲む様に城壁がある。
でも、私の通う小学校もフェンスとかで囲まれてるから別に変じゃないと思うけど?

「もう、シロウもセイバーもなに言ってるのよ。
城壁があるなんて普通じゃないの?」

「いや、俺の普通だと城壁は無いな。
(流石に、イリヤは本物の城に住んでいるだけあって見慣れているらしい。
きっと、故郷には城壁に囲まれた城や街があるんだろうな)」

そうなんだ、ちょっと高いけど、学校のフェンスや家の塀と同じかと思ってたよ。
ん~、もしかすると、フェンスや塀だと偶に猫さんが歩いてるから、そっか、きっと、トイレにされないように猫さんが登って来れない高さにしてるんだね。
納得した私はイリヤお姉ちゃん達の後を付いて行き、受付で入学の手続きを済ませると説明を聞く。
如何やらこの学園は入学するのは簡単らしいけど、卒業するのは難しい仕組みらしい。
しかも、ランクもあって。
AAAがとても優秀、AAが優秀、Aは普通で、Bだと劣等生、Cは落第生。
そして、能力試験で二回連続でC評価だと退学になっちゃうらしいんだ。
私達が入る傭兵科は、他の戦士科等とは違い総合的な資格で。
戦う腕前や、戦場で生き残る方法だけではなく、何かを探したりとか、依頼主との交渉する力も必要なんだとかで、本来なら訓練所などから他の学科を卒業した人達が入るところらしい。

「ん~、何か話を聞いてると難しそうだね、イリヤお姉ちゃんはどう?」

「あら、私は大丈夫よ、アインツベルンの魔術師は優秀なんだから」

腰に手を当てて自信満々に答えるお姉ちゃん、だけど、その割には過去五回も聖杯戦争やって勝てなかったのは何故なんだろう?

「セイバーはどうなんだ?
(俺の場合、傭兵なんて、アーチャーの記憶で見た、それっぽいやつしか知らないからな、実感するのが難しいな)」

「私は、使われていた側ではなく、使っていた方ですので傭兵の扱われ方等は心得ているつもりです」

「……(この人、何処の州の貴族かしら?何でそんな方が、傭兵になんて危険な科に入りたがるのかしら?)」

ジィと、セイバーさんを見ていた受付のお姉さんに案内され、今日は筆記試験をして、後は部屋に案内される流れになった。
―――そして。

「筆記試験って難しかったね。
味方よりも、相手が多いい場合はどうするって問題。
私はやってみなければ分からないから、正面から迎え撃つって答えたら違うって事だったし」

「そうよ、バーサーカーは強いんだから、正面からだって倒せるわよ!
後、契約の反故をどうやってさせないかって問題で、強制(ギアス)を使えばいいって書いたら。
そんな凶悪で危険な契約なんて、誰も結ばないぞって言われたのよ!
そんなの、相手に分からせない様にしてやるに決まってるじゃない!!」

「いやいや、それは駄目だイリヤ。
って、言うより、強制(ギアス)の説明を試験官が聞いていた時の表情が凄く強張ってたぞ」

「ガー」と吼えるイリヤお姉ちゃんに対し、お兄ちゃんは何処か呆れ顔だ。

「アリシアの言っている問題の場合は、地形を利用したり、伏兵等を配置させるなどをして交戦するか偵察のみとして一旦退くのが正解でしょう。
少ない兵力で正面から戦えば、蹴散らされ敗走するだけです」

お兄ちゃんと同じよな呆れ顔で私を見てる、両手を腰に当ててるセイバーさん。

「そうなの?
ん~、偵察って、ただ相手を見て来る事だけだよ」

一応、戦って相手の力を確認した方が良いと思っていたんだけど?

「ええ、戦うべき相手の情報が有るのと、無いのとでは戦略的にも、戦術的にも違ってきますから。
それに、そもそも無理にでも戦う必要があるとは、何処にも記載されていません」

セイバーさんはイリヤお姉ちゃんに向き。

「イリヤスフィールの言っていた問題は、依頼者が信用出来る人物か如何かを見分けれる様に、必要な交渉をする事ですから。
間違っても、催眠術や魔術で如何にかするなどはしてはいけません」

「そう、なんだ……情報って大切なんだね。
有難うセイバーさん、これで次からは間違えなくて済むよ」

因みに筆記試験の採点の結果、私とイリヤお姉ちゃんの評価は崖っぷちのCランクで、お兄ちゃんはその上、崖が見え始めるBランク。
で、一国の王様だったセイバーさんは、アヴァターの風習が元の世界とはやや違ってはいるものの。
王様の時の時代と、今のアヴァターとが時代的に似ているところもあり、崖とは無縁のAAランクだったりする。

「そうして下さい―――と、ここが私達の部屋ですね」

日が傾き、茜色に染まる廊下を歩いていたセイバーさんが立ち止まる。
そこが指定された部屋らしく扉を開けると、中は四人部屋らしく両脇に二段ベッドが置いてある。

「うそ、こんな狭い部屋でどうやって生活するの!?」

部屋を見渡し、何故か呆然としているイリヤお姉ちゃん。
そういえば、確かにお姉ちゃんの住んでる城の部屋って広かったね。

「イリヤスフィール、そもそも、傭兵といわれる者達のほとんどはこの様な部屋にすら住めません。
屋根と壁があり、雨風を防げるのです十分ではありませんか」

ん~、それ以上は高望みだとセイバーさんは言いたいらしい。
傭兵って、思っていたよりも結構大変そうなんだね。

「っ、そうかも知れないけど、そもそもベッドが無いんだから寝る事も出来ないじゃない」

「いや、ベッドなら其処に在るだろ」

お兄ちゃんが二段ベッドを指す。

「む、シロウたら馬鹿にして、天蓋なら兎も角、二段になっているベッドなんて見た事も無いわよ。
アリシア、これって荷物置く台か何かでしょ?」

片手を腰に当てて、私を睨むイリヤお姉ちゃんはちょっと怖い感じで、思わず両手に抱えていたポチを強く抱締めた。

「え~と、以前、新都の家具屋さんに行った時、見たこと有るけど、これもベッドだよ」

うん、私の部屋の家具を揃える時に行った、家具屋さんの、確か子供用の売り場にあったと思う。

「―――っ、うそ、こんなベッドが在るの」

フラフラと近寄り。

「っ、マットも硬いいし」

とか。

「何この掛け布団の薄さ、それに変な臭いがするわよ!?」

とか、楽しそうにイリヤお姉ちゃんは、先程の試験での疲れが無いのか、「ガー」と元気そうに騒いでいる。
それを―――

「悪いセイバー、押し付ける様だけどアリシアとイリヤの事を頼んだ」

困った様な表情でイリヤお姉ちゃんを見ているお兄ちゃん。
そうだった。
この学園は、様々な学科を希望する人達が居るけど、寝泊りする宿舎は基本的に男子寮と女子寮の二つに分かれているんだ。
だから同じ傭兵科でも、お兄ちゃんは、ここ女子寮では無くて、これから男子寮に行かなくちゃならないんだ。

「ええ、分かりました。
ですが、シロウも此処は冬木では在りません、十分な注意をして下さい。
(そうは言っても、ここは王立の学園、魔術師の工房とは違いますからそうそう危険は無いとは思いますが……)」

「分かってるさ、セイバー。
じゃあな、アリシア、イリヤもまた後で」

「シロウ、私達も後で食事に行くから場所は後で念話で伝えるわ。
念話は大丈夫よねシロウ?」

「聖杯まで使ったんだ、念話位なら出来るぞイリヤ。
そうだな、俺も学園を回ってよさそうな所を探してみる。
(って、言うより会えないと俺が飯抜きだからな)」

「うん―――あ、そうだった」

私は預かっていた、お兄ちゃんの荷物、そうは言ってもスポーツバッグ一つしか無いんだけどね。
それを、倉庫にしていた世界から取り出し渡した。

「はい、これお兄ちゃんの荷物。
後、必要な物があったら言って、色々と揃えているから」

「ああ、有難うアリシア。
(……何か子供の頃、テレビで見た猫のロボットみたいだな)」

「うん、また後でね」

お兄ちゃんが男子寮へと向かい、部屋を出て行った後、イリヤお姉ちゃんは二段ベッドの上で「狭い~、荷物が置けないよ~」と言って転がっている。
確かに、お姉ちゃんから預かっている荷物は大きくて、この部屋の大きさだと置く事が出来ない物ばかりだよ。
受付のお姉さんの説明では、錬金科や魔術師科の人に多いそうだけど、部屋を勝手に改造する人が居るらしく、そういった行為は極力やらないで下さいとの事だったけど出て行く時に元に戻せば問題は無い筈だよね。

「うん、そうだよ、このままだと、イリヤお姉ちゃんの荷物やセイバーさんの荷物とか置けないし、仕方ないよ」

もう少し部屋が広ければ良かったのにと思いつつ、次元制御と空間制御の応用を行い、この部屋の大きさを拡大させる。

「―――っ、アリシア、一体何をしたのですか」

突然、部屋の大きさが広くなったので驚いているセイバーさん。
採光の方も、天井から外の光りを降らせる感じにしてるから問題は無いと思うけど。
先に言っておいた方が良かったかな?

「ん、次元制御と空間制御の応用で、部屋の大きさを広くしたんだ。
前にイリヤお姉ちゃんのお城で、第二魔法って言われる業の概念を教えて貰っていたから、似た感じにやってみたの」

「第二魔法……の真似事ですか。
(くっ、すまないシロウ、如何やら私では力不足だった様だ……)」

部屋の大きさは広くなり、地平線があるのか奥の方がよく見えない。
でも、私が倉庫として使ってる世界よりは空間の大きさも比較にならない程の狭さだけど、イリヤお姉ちゃんの荷物やセイバーさんの荷物を置くには十分な感じだね。

「イリヤお姉ちゃん、これなら荷物も置けるよ」

「ええ、有難うアリシア。
(思った通り、アリシアは甘いわ。
でも……コレだけ広いと、奥に行ったら部屋の中で遭難しそうね)」

持って来た家具等の荷物が置けて、嬉しいのか何処かニヤリとした笑みを浮かべ、広くなった部屋の奥を見据えるお姉ちゃん。

「でも、これ程広くしなくても良いわよ」

一旦区切り、私に振り向く。

「そうね、遠くの方に壁が見える位で良いわ」

「そう?少し広くしすぎちゃったかな?」

広い事はいい事かなと思って―――あっ、そうか、掃除とか大変だし広すぎても問題があるんだ。
流石、イリヤお姉ちゃん、私が見落としていた処を見ているよ。
私も見習わないといけないなと思い、遥か遠くの方に壁と窓が見える位に部屋の広さを調整する。

「ええ、それ位で良いわ。
じゃあ、アリシア、まずは扉の前にはパーテンションね。
次にあの辺りに敷物とソファを置いて」

「は~い」

「そう、その辺り。
ベッドは―――そうね、あの辺で良いわ」

イリヤお姉ちゃんの指示に従い、家具を出すと重いのでポチに移動して貰う。
イリヤお姉ちゃんの家具の設置するに、そんなには掛からず。
プライバシーの事もあるのか、パーテンションで互いの場所を区切り、まるで別々の部屋の様に独立させていく。
後は、私の家具とセイバーさんの家具を置くだけなので時間も大して掛からず終わった。
―――けど。
イリヤお姉ちゃん曰く、ここは魔術師に工房に相当するらしいので、学園の皆に分からないよう警戒や撃退用の結界を張るらしい。

「イリヤスフィール、万一の事も考え警戒用の結界は良いとしても、ここは学園の一部、撃退用の結界はやり過ぎです。
それに、その様な結界を張るには時間が不足している」

ん~、結界ってそんなに時間掛かるんだ。
もう部屋の中も暗くなって来ていて、今は魔力で作り出した灯りを展開しているし、遅くなればお兄ちゃんもお腹空いて困るだろうから私も今は止めた方がいいと思う。

「そうね、セイバーの言う通りかも。
……とは言っても、食事にはまだ時間があるわね―――そうだ、少し早いけどお風呂に行かない?」

「ええ、私はそれで構いません」

セイバーさんは私に向き。

「アリシアもそれで良いですね。
(そう言われれば気になりますね。
この、アヴァターのお風呂とは如何いった感じなのでしょう。
恐らくは、私のいたイングランドと同じ形式だと思いますが、サウナと沐浴というのかもしれません)」

「うん。お風呂、お風呂~」

私もお風呂は気持ちが良いから好きなんだよ。
今は体操服の形状をした防護服のままだけど、流石にお風呂の後は着替えた方が良いと思うので。
以前、イリヤお姉ちゃんと行った別の世界で購入した大人用の下着と洋服を持って行く事にした。
ディアブロは防水対策が出来てるので念の為着けたままにして、と。

「さあ、どんなお風呂かな」

ポチと一緒にお風呂場の扉を開き中に入る、そこはテレビで旅館の紹介とかに出てくる様なとても広いお風呂場が見渡せた。

「広いですね、とても学園とは思えない。
(根源的な世界である根の国、よもや日本風の浴槽とは)」

「そうね……でも、何で日本のお風呂と同じなのかしら?
(建物の感じからして、私の城に在るような物を想像していたのだけど。
流石、根の世界アヴァター、私の予想を上回るわ)」

「恐らく、アヴァターは水が豊富に在るのでしょう」

タオルを胸から垂らしたセイバーさんと、変身魔術を解いて元の姿に戻ったイリヤお姉ちゃんが後から続いて入って来る。
多分、身体を洗うのに、変身したままだと何かしら不都合があるんだろうね。

「わ~い、一番~」

「あっ、ずるい待ちなさいアリシア」

早かったのか誰も居ない湯船に、私とイリヤお姉ちゃんは飛び込み二つの水柱が立ち昇る。

「アリシア、イリヤスフィールこの様な浴場では、今の様な行為は迷惑ですのから―――って、アリシア、泳いではいけません!」

「ほえ、こんなに広いのに泳いじゃいけないの」

夏休みに入る前、小学校の体育の時間にプールがあったけど、家のお風呂では泳ぎの練習も出来無かったから丁度良いと思ったのにな。

「ええ。入浴にも作法があります、今こそ他に人は居ませんが、これから来る人には迷惑に受けとられる。
(……まさか、四次と五次に召喚された時の知識が、聖杯戦争とは無縁の異世界で役に立つとは思いませんでした)」

「ん~、そうなんだ、御免なさい」

あう、迷惑ならしかたないや、お風呂の入り方もルールがあるなんて、世界は私の知らない事だらけだよ。
こうやって、一人の人間として生きていないと色々な事が解らないんだね。
このアヴァターでの選定も、基本的には座に居る影に任せて結果しか聞いていないし。
きっと、このアヴァターでも私の知らない事は沢山あるんだろうな。

「そうよ、アリシア。泳ぐならせめて水着は必要でしょ?」

「ええ、そうで―――いえ、イリヤスフィールそういった話ではありません」

セイバーさんは、軽く身体にお湯を掛けた後入って来る。
広いから、プールのみたいな感じで思っていたけど次からは気をつけよう。
横では、タオルで遊んでいたイリヤお姉ちゃんが、セイバーさんにお風呂の入り方で怒られていた。
セイバーさんは、怒るとイリヤお姉ちゃんよりも怖いから注意しないと。
うん、お風呂はゆっくり静かに入る事にしよう。
―――あ、そういえば、このアヴァターにも当真大河は居るのかな?
ふと気になったので、暴れてる座を視て存在を確認してから、同じ存在がこのアヴァターに居るか視てみる。

「……見つからないや」

ん~、赤の方か白の方か判らないけど、まだ書の精霊は呼んでないんだ。
私達の来た世界は、並行世界の一つだから―――って、あの地球と同じなら星や霊長の抑止力が存在するから書の精霊でも影響を受けちゃうか。
そっか、例えば救世主に成れるかもしれない存在を召喚しようとしても、抑止力が関与して来るかもしれない。
召喚しようとしたら、何故か近くに死徒二十七祖とか呼ばれている者達の誰かが居て、召喚された後、まだ存在力が低い候補者達が全員襲われちゃうかもしれないし。
特に神父さんから聞いた話では、五位の宇宙怪獣ORT(オルト)とかは二十七祖の中でも凄い子らしいので、そんな子が一緒に召喚されたらアヴァターに住む子達は絶滅しちゃうかもしれない。
うん、選定どころの話じゃないね、書の精霊が召喚出来るとかの話じゃないや。
でも、これは、本来一つの筈の理の精霊を、選定に必要だからって、半分にするよう指示してしまった私のミスだから仕方が無い。
とりあえず捜して―――ん、いたいた、あれ、この世界の当真大河は女性で両親と妹の四人暮らしなんだ。
如何やら、女性の当真大河は色々な男の人達から誘われて困っている様だし、妹の方はアレが話しに聞く反抗期って事なのかな、所々で女性の当真大河に反発しているけど、何処か幸せそうな家庭がするよ。
そうか……この世界じゃ当真大河は召喚されてないんだ、でも居ないならしょうがない、だったら『何処か私の管理の仕方に問題があったのか』や、『行動も移さないで私にばかり頼りきるのは何故か?』って二つの問いはの答えは、やっぱりお兄ちゃんやセイバーさん、イリヤお姉ちゃんと一緒に居て出すしかないや。
何たってお兄ちゃんは、正義の味方を目指しているんだから、私が悪いことをすれば怒るだろうし、王様だったセイバーさんも何が悪いか教えてくれると思う。
そういえば、この世界の当真大河は女性だったけど、あの座で暴れている当真大河は男性だから怒っている理由は救世主になったのに女性じゃないから選択も出来なくて怒ってるのかな?
―――でも、女性になりたくても、なれない現実を否定したいって理由が当真大河の大切な何かだったら……何ていうか私の今の立場が無いよ………
っ、そういえば、すっかり忘れてた、昔は特定の形や体を持たない精神体やエネルギー生命体ばかりだったから存在力だけが必要だったけど。
その少し後は、昆虫人が主流だったから男の人は別の種族かと思う位弱かったし、子供を作るとすぐ死んじゃったから……
この辺も変更させとくの忘れてたな~。
私が失敗したなと思っていると、お風呂場の扉が開き他の人達が入って来る。
雑談を聞いていると何でも、このお風呂場には覗きをする迷惑な人が居るらしい。
色々な価値観を持つからこそ、命は視ていて飽きないけど―――

「皆が嫌がる事をするなんて、悪い人も居るんだね」

そう言いながら膝の上に居るポチを撫でた。


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

アヴァター編 第02話


心配だったとはいえ、何時までも女子寮に居るわけにもいかず三人と別れた俺は男子寮へと急いぐ。

「この部屋―――で、合ってるな」

受付の女性から渡された部屋の番号を確認し、扉を開け中へと入る。
中はセイバー達に宛がわれた部屋と同じ四人部屋の様だ。

「ん……何だお前?」

俺が入ると、下の方のベッドで寝転んでいたらしい男と眼が合った。

「すまない、驚かすつもりは無かったんだ。
俺は衛宮士郎、今日この学園に入った傭兵科の学生だ」

「ああ、そういう事か。
俺は自然魔術師(ドルイド)科のデビット・バード、よろしくな新入」

「此方こそよろしくバード、処で俺は何処のベッドを使えば良いんだ」

部屋を見渡すが、デビットが使っているベッド以外使われている形跡が見当たらない。
まさか、この四人部屋を一人で使っている筈も無いだろうし聞いてみた。

「デビットでいい、あと何処でも勝手に使っていいさ。
この部屋に以前居た二人は、この間Cランクを二回連続でやっちまったからな、今じゃ俺と……エミ・ヤシロウだっけかお前の二人だけだ」

「言い難いだろ、俺もエミヤで良い。
そうか……思っていたより、この学園は厳しいんだな」

エミ・ヤシロウって誰だよ……と内心思いながらも反対側のベッドに荷物を置き座る。

「あ~、何て言ったらいいんだろうかな。
前居た二人なんだが、実力は結構あったんだが……救世主候補は知っているだろう?」

「ああ、名前だけは」

歯切れの悪いデビットから、救世主候補なんて思いもよらなかった名前が出て来る。
む、まさか、救世主になる人間だからって好き放題してるのか?
っ、既に小さな村とか色々被害が出ているって言うのに!

「あの二人……凄い救世主候補のファンになっちまって、学園から救世主候補関連グッズを買い漁った挙句。
資金稼ぎにいろんな依頼受けまくってたからな、実技は平均よりも上だったらしいが筆記試験は駄目だったようだな」

そい言えば救世主候補って、この世界でアイドルだったな……
要はアイドルのグッズ欲しさに、アルバイトしすぎて、学業を疎かにしてしまったからか、ならデビットの歯切れの悪さも無理ないだろう。
でも、デビットの話は俺にも当て嵌まりそうだ。
王都の傭兵組合で、小さな村々の話を聞いた時には直にでも力に成れればと思い、行こうとしたが、資格の無い俺が村に行っても信頼性が無く受け入れられないばかりではなく。
現在アヴァターで行われている、傭兵と依頼者の信頼関係を著しく乱す可能性があるとセイバーに言われ思いとどまった。
何でもセイバー曰く、信頼関係が揺らいでしまうと、そこに目を付けた野盗等が入り込んでより酷くなるかもしれないらしい。
信頼関係を崩さないようにしつつ、他の人達の力に成れるよう、傭兵の資格を取りに学園に来た経緯が俺にはある。

「俺も注意しないと拙いな……」

「そうだな、でもその効果もあってかこのレッドカーパス州や周辺の州は治安は良い方さ」

「良い方?」

「だって、そうだろ?
正規の資格こそまだ無いが、ある程度訓練を積んだ者なら実戦を経験した方が良い。
そりゃ、素人同然が行っても邪魔になるだけだが、この学園はエリートを養成する所だからな。
ほとんどの奴は他の訓練校を卒業して来てる。
俺だって、訓練所でBランクの傭兵の資格を取ってからこの学園に入ったしな。
ほら、どうだ、いくら学生とは言え実力は十分にあるしそんな人材はここには沢山居る。
だから、破滅に選ばれたモンスターが相手とはいえ、近くからの依頼なら受けて相手を知った方が後々の為にはなるんだ」

と、一旦区切り。

「学園の方もそれは分かっているらしく、同じ様な基礎を持つ資格なら一年生からじゃなく二年生から入れる飛び級や、簡単な依頼なら傭兵の資格を持ってなくても受けられる仮免制度ってのがあるんだ―――て、その顔じゃ知らなかったのか?」

「ああ、今初めて知った、有難うなデビット」

「そうか、結構有名な話だと思っていが……俺の思い違いだったか」

肩を竦め、そんな事もあるのかと態度で現すデビット、でもアヴァターの出身ですら無い俺からすれば初めて聞くデビットの話はためになる。

「……まあ、入園の案内にも書いてあるから眼を通すのも良いかもな。
とは言っても、実際仮免の申請試験は、筆記試験及び実技試験両方Aランク以上が条件だが」

飛び級は兎も角として、仮免制度か―――いい事を聞いた。
よし、後で入園の案内を読むとしよう。
因みにその後知った事だが、一口に傭兵の資格と言ってもランクが定められていて。
仮免制度と呼ばれる資格は、Cランクとされていて俺達の世界でいうところのアルバイトに近い。
他の訓練校で得られるのはBランクで、このランクだと普通の傭兵として組合から仕事を得る事が出来る。
そしてAランクの資格だが、この資格だけはここフローリア学園だけでしか得られない資格となっていて。
王国が定める資格要件を満たした者だけが、修得する事が出来る、いわば一流の傭兵を示すランクになっているそうだ。

「それじゃあ、これも見て無いだろう?」

石の様なモノを取り出す、確か幻影石って名だったな。
俺の世界で言えばカメラに似た代物だ。

「こいつは、学園が出してるヤツで、救世主候補達の訓練姿を映した物だ」

映し出される映像からは、赤毛の女の子がまるでキャスターに匹敵する火球を作り出して標的を爆発していた。
救世主候補という位だから、恐らく実戦ではあの火玉がキャスターやアリシアの様に一斉に放たれるに違い無い。

「この女性が救世主クラスの主席、我らがアイドル、リリィ・シアフィールドさんだ。
……俺としては、もう少し胸が無ければ完璧だったんだがな」

「………」

映像はその後も続き、恐らく破滅のモンスターと呼ばれているのだろう獣人を相手に、単発の火玉で牽制し、近寄ってきた所を「ヴォルテックス」と叫び雷撃を放つ姿を見詰るデビットの表情はとても悔しそうな感じが見て取れた。
なんて言うか……デビットも学園を去った二人と同じく、救世主候補に惹かれている奴の一人なのだろう。
でも、まあ映像を見る限りでは、シアフィールドって女の子はキャスターの魔術に匹敵している感じすらあるんだから、憧れるのも無理はないか。
映像が移動し、コックの様な帽子に眼鏡を掛け、手には―――これも以前聖杯戦争中にキャスターが手にしていた様な両手杖を持っている女の子に代わる。

「この娘はベリオ・トロープさん、聖職者であり女子寮の寮長だ」

言峰と同じ聖職者か、そのトロープが「シルフィス」と叫びチャクラムの様な光る輪を飛ばし標的を壊していく姿は凄いものがある。
それに、言峰と同じ聖職者なら格闘技でも凄まじいレベルなのだろう。
以前、神霊級の実力をもち聖杯まで所持しているアリシアだが、まだまだ子供で保護者だからお前が護れとか言われ格闘技を教えて貰ったが……俺ではあの動きは難しい。

「あの眼鏡が良い、と言っているヤツも居るんだが……俺にはどうも理解出来ない」

「そうだな」

まあ、眼鏡掛けながら戦うなんて危ないからな、相当の実力と自信があるのだろうと思い同意する。

「次で最後だ」

また映像が代わり、今度はイリヤ位にしか見えないツインテールをした女の子が出て来た。

「あの娘はリコ・リスさん、一部の寮生からはリコタンと呼ばれている。
学園内で一番の力を実力を持った召喚師だ。
俺としては、あの胸のままもう少し成長して欲しいと願わずには要られない」

映像からは召喚師の名の通り、時折スライムや本を召喚して使役している。
実力は認める……ただ、本が武器って如何なのだろう、角で叩かれれば確かに痛いだろうが一度本人に聞いてみたい処だ。
―――いや、まてこの娘で最後って事は。

「ちょっとまて、救世主候補って全員女の子なのか!?」

「そうだ、が。
彼女達の実力は本物だぞ、そこに何か問題があるのかエミヤ?」

顔を顰めるデビット。
―――っ、そうだった。
破滅が迫る中では文字道理の総力戦、男も女も関係無いのだろう。
もし、遠坂が居たとしたら率先して戦場へ向う感じがしなくも無いしな。

「……いや、救世主候補の実力に問題が在る訳じゃない。
ただ、女の子が戦わなければいけない世の中がな」

そう言うと、デビットは驚いた様に眼を見開き俺を見詰めた。

「―――そうだな、エミヤの言う通りだ。
だが、その為に彼女達が要る……矛盾してるが破滅さえ終われば彼女らとて戦う必要は無くなる。
だから俺達に出来る事は彼女達が破滅と戦い、終わらせられる様に道を作る事だろうさ。
(女性しか召還器は使えず、救世主には女性しかなれない、これがアヴァターでの常識。
故に、基本的に男女同権だとはいえ、最終的に男は役にたたないと言われ、大半の男達が自信を失っているのが現状だ。
俺も救世主が現れたのなら、破滅相手は救世主に任せればいいと思っていた。
だが、この男―――エミヤは違う。
例え救世主になるだろう女性が居ても、女を護り国を守るのが男の役割だと認識しているのか。
そうだな、それは間違いじゃない子を作り育むのが女性なら、俺達男性は彼女らが生きる為の世界を守る為に居るのだから。
ならば救世主だろうが候補者だろうが、そんな些細な事等関係無い筈だ。
まったく、俺達男性が率先して彼女達への道を開かなくて如何するんだ……とても大事な事だったのに久しく忘れていた、な)」

「……そうだよな」

「お互い、アヴァターの為に頑張るとしよう。
(正直、この男の御陰で俺も目が覚めた。
何も破滅とは救世主だけが戦う訳じゃない―――俺にだって出来る事がある筈だ、そうだ己の力で明日を希望をこの手に掴まないで如何するのか!)」

何か感じる処があったのか、デビットは握手だろう手を前に出し、断る理由も無い俺も握り返して互いに握手を交わしあった。
だが、やはりアヴァターの人々は誤解しているらしい。
目の前に居るデビットの様に、アヴァターではほとんどの人が、救世主が世界を救ってくれると信じているのだろう。
その救世主候補の誰かから、救世主に成るヤツが出て来た時にこそ、破滅が始まるなんて事は言っても信じて貰えないだろうし、それ以前に残酷過ぎて言え無い……よな。

「そうだな、まだメシまでには時間がある、どうせ暇だったしエミヤさえ良ければ学園の案内でもしようか?」

「いいのか?」

「散歩は趣味みたいなものだし。
一人で散歩しているよりは、新人の案内も含めた方がエミヤにもいいだろう?」

「なら頼む、正直いうと学園が広過ぎて分からなかったんだ」

「じゃあ、早速行くとするか」

デビットと雑談を交わしながら案内され、医務室がある建物や図書館、明日から通う校舎に実技訓練の為の闘技場等を巡る。
その話の中にあったのだが、本来ならこの学園の寮の部屋は慢性的に不足しているらしいが、能力試験が終わった今の時期は退寮する者が出る為に一時的に空きが出るそうだ。
それでも、各科専用の寮は満杯だったそうで予備的な意味合いを持つ、あの寮に少し空きがあったくらいだったとか。
知らないで来た事を伝えると、デビットはエミヤは運が良かったのだろうと呆れ顔で言われた。

「ん、何だ」

「如何したんだデビット」

立ち止まるデビットの視線と同じ方へ向き視力強化する。
日が落ち、辺りが暗くなっているので判り難いが……女子寮付近に人間の頭部らしきモノが落ちていた。
―――っ、殺人事件か!?
いや、動いてるし、頭だけ出して残りは埋まっているだけだ。
何だろう………この感じ、何処かで見た様な?

「デビット、誰か埋まってるぞ?」

「エミヤ―――こんなに暗いのに、アレが見えるのか」

「ああ、とりあえず行ってみよう」

近くに行くと、アレが男の頭だと判るのと同時に、横の建物から水の音と複数の女の子の話声が聞えてくる。
て、ここ女子寮棟の風呂場じゃないのか!?

「拙いな。慎重に行くぞ、エミヤ」

「ああ」と言葉を返し、何か嫌な予感がするが助けない訳には行かないだろう。

「アイツ……セルだな。成る程、なんとなくだが状況が読めた」

一人デビットは納得している。

「どんな奴なんだ?」

「セルビウム・ボルト、エミヤと同じ傭兵科だ。
羨ましい事に、天賦の才があるらしく剣の腕は傭兵科の中でもトップだ。
が、周りを憚らないスケベで、よくアレで学園を追放されないなと不思議に思う奴だ」

「何て言うか……色々凄い奴だな」

「ああ、学園側が寛大なのは、アイツの才能が惜しいんだろうってもっぱらの噂さ。
とはいえ、見つけてしまった以上、助けてやらないとな」

近くまで寄ると、セルも俺達に気が付いたらしく、必死に背後に首を回そうとしていた。

「ぅ、助けてくれ~」

「何やってたかは大体分かるが、通りかかった縁だ助けてやる」

「コレを使ってくれ」

投影したシャベルを渡した後、場所が場所だけになるべく音は立てない様、慎重にセルの周りを掘り、腰位まで掘るとセルは力を込め自分から出てくる。

「「―――っ!?」」

「くっ、まただ。ここに何かいやがる!?」

セルが出て来ると同時に、地面から土の触手が現れ絡みつき、再びセルを埋めてしまった。
て、今のポチじゃないか……そういえば、家じゃ猫相手にしてたな。
確か、二時間位埋めた後で開放するんだけど、そうすると一ヶ月位は寄り付かなくなるらしいとアリシアは言っていた。
そうか……アヴァターじゃ覗き相手にやる事にしたのか。
でも、猫じゃなく相手は話の判る人間だポチのやり方で無くても大丈夫だろう。

『ポチ、コイツは俺が話とくから、今回は放してくれないか?』

昼間、アリシアから習った『ミッド式魔術』の『念話』で話しかけてみる。
これで駄目だったら、アリシアを呼んで来るしか方法は無いだろう。

『分かった、任せる』

『念話』での会話が成立したと同時に、セルビウム・ボルトは迫り上がる様に地面から出て来る、流石精霊だな。

『有難うポチ、アリシアには俺の方から伝えとくから』

何て言うか、初めてポチの声聞いた。
成る程そうか、アリシアも『念話』でポチと話してたんだな。
今まではただ回っているだけで、会話にすらならなかったから何て言うか新鮮に感じる。

「……えっと、どうなってんだ?」

「詳しい事は後にして、まずはここから離れよう」

て、言うよりも、女の子が入っている風呂場の近くは正直落ち着かない。

「そうだな。エミヤの判断は正しい、お前も今日の処は退んだセル」

「何言ってやがるんだ、此処で退いたら男が廃るってもんだぜ。
二人共、良く考えろ俺達の前には何が有る」

真剣な眼差しで俺達を見据えた後、女子寮棟の風呂場を指差し示し。

「あそこに見えるのは理想郷、パラダイスじゃないか、俺達はこれをみすみす見逃すのか、いや無い」

「「………」」

両手を動かしながら力説し、最後には拳を握り締めながら男を語るセルビウム・ボルト。
一応、風呂場の女の子達には聞えない様、小声でやり取りはしているが。
この男は、覗こうとしてポチに埋められたのにまだ諦め無いのか……
いや、その前に男がやる事は覗きだけって処につっこむべきなのだろうか?
それに女子寮棟の風呂場は、パラダイスって言うより、どちらかと言うと取返しのつかないパンドラの箱じゃないかと俺は思う。

「セルビウム・ボルトだっけ、止めた方が良い。
此処には俺の妹のペット、ポチが居るから次に覗いたら俺でも助けられないぞ」

パンドラの箱なら、最後には希望が残るらしいが、ここではそれも残っているか如何か怪しい処だ。
セイバーに知られでもしたら、「シロウは如何やら、少々気が弛んでいるようだ」って感じで、両手に竹刀を持つセイバーの姿が予想出来る。

「っ、畜生、今日の処はコレで勘弁してやるぜ」

現状を把握出来たのか、悔しそうに風呂場に向き直るボルト。
何ていうのか、ボルトという男は変わり身が早いというか、昔の慎二もこんな感じだった様な気がして悪い感じはしない。

「話が纏まったなら、早々に引き揚げよう。
(成る程な、エミヤの妹は召喚師か)」

「ふ~ん。で、何処に逃げようですって?」

俺達は互いに頷き合い移動しようとした時、第四の声が俺達の動きを止めた、振り返ればやや離れた所にポニーテールをした一人の女の子が不機嫌そうに立っている、何処かで見た顔だけど……

「っ、やばい。救世主候補主席のリリィ・シアフィールドだ!」

「うげっ、全力で走るぞ!!」

「そうか、って救世主候補の一人!!?」

状況が状況だけに、ここで摑まれば間違い無く覗きの犯人扱いだろう、その後は両手に竹刀を装備したダブルセイバーが待っている。
うん、ここは逃げるしか方法は無い。

「逃がすと思う!
(精神統一していて、頭に何か話し声がしたと思って来たらただの覗きじゃない!
セルといい、義母様の学園で覗きだなんて!いい加減にして欲しいわ!!)」

救世主候補の一人、シアフィールドは片手を突き出すと電撃を放って来る。

「っ、投影開始(トレース・オン)」

咄嗟に数本の大剣を投影し背後に突き刺す。
剣身で体を隠せる訳では無いが、放たれたモノが電撃なら避雷針代わりにはなるだろう。

「凄いなお前」

「―――っ、何処からあんな物何処から出した!?」

突然、剣が現れれば驚くのも無理は無いだろう、ボルトにデビットは走りながらも俺に視線を向ける。

「転移魔術の一種だ」

これは、学園に来るまでにセイバー達と決めた事だ。
俺の投影もそうだが、セイバーの剣を出すのもアリシアの使う転移魔法も見た目は同じなので、なら俺もセイバーも転移魔術を使っているとすれば違和感は無いだろうとの事で決まった。
それに、もし転移魔術に違和感を持つ相手が現れたとしても、アリシアが転移魔術を使って見せれば追求は出来ないだろうから。
後ろを見れば、予想通り電撃は大剣に阻まれ俺達には届いていない。

「こんな物何処から!っ、逃げるな!炎よ!!
(やってくれたわね!
男が召還器を呼べる訳無いってのに、一瞬、召還器かと思ったじゃい!)」

一瞬だが、俺の投影した大剣に戸惑うシアフィールド、だが今度は火球を放って来た。

「て、殺す気か―――!?」

迫り来る火玉に対し、バーサーカーの斧剣を数本投影し道を塞ぐようにして即席の盾にする、すると火球は音を盛大に上げ爆発した。

「っ、マジでやべぇ、こりゃ委員長の時とは段違いだ」

「セル、お前トロープさんにも追われた事があるの―――っ、二人共こっちだ」

直撃しても壊れる様子が感じられない斧剣が気に入らないのか、シアフィールドは「この!」とか「ああもうっ!」と言いながら火球を連続て放ち爆発させ、それは一時的にシアフィールドの視界を塞ぎ、その機を逃さず俺達は茂みに隠れた。

「―――逃げられた!?
っ、逃げ足だけは速いわね!」

以心伝心なのだろう、俺達三人は微動だにせず俺達を捜すシアフィールドが過ぎるのを待つ、その間に俺は投影の解除行い証拠を隠滅する。
投影した剣なんか刺したままにしていようものなら、セイバー達が見れば犯人の特定は容易だ。
その後のダブルセイバー登場はほぼ確実。

「……行った様だな」

暫くして、足音から居場所を確認していたのだろう、地面に耳をつけていたデビットが顔を上げた。

「ふう、今日は散々だぜ―――でも、よくばれなかったな?」

「ドルイド科を舐めるなよセル。
逃げたり隠れたりするのは、ドルイド科にとって基礎中の基礎だ。
それに、少し離れていたから俺達の顔もばれてないだろう」

シアフィールドが去った事で、俺達はようやく一息ついてボルトは後ろの木に背を預けている。
確かに散々だったが、救世主候補の実力の一端を眼にする事が出来たのは不幸中の幸いだったかもしれない。
後、逃げたり隠れたりって、余り自慢出来ない感じもするが、退くタイミングを見逃さずにいたデビットの実力も結構高そうだ。

「でも、この学園にも遠坂みたいに無茶する女子が居るんだな」

―――いや、もしかしたら、救世主候補って実は無茶苦茶な奴しか居ないとしたら?
何て言うか、そんな事を考えたら頭が痛くなって来た。



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