とある『海』の旅路 ~多重クロス~
Fate編 第1話
地球の日本、転移する先は何故か他の場所よりも魔力と呼ばれる力の元が強い場所。
何故と言われれば答えは簡単、単純な話ただ気になるから。
「興味本位で決めちゃったけど、何か旅行みたいでわくわくする――――あっ!?」
………結果だけ言うよ。
私がこの世界に転移した瞬間、この世界、全宇宙は破滅してしまいました。
良く考えれば当然だね、アリシアの身体から溢れている私の存在、全ての世界を支える原初の海はこの世界である宇宙よりも遥かに大きいのだから。
世界を風船に例えれば、全宇宙という空気が在った所に私という存在、その一部とはいえ、この世界よりも遥かに大きいのだから破滅するのは仕方が無いよ。
「まるで人形遊びみたいになるから好きじゃないけど、この世界を滅ぼしに来た訳じゃないし、残念だけど仕方が無いかな?」
幼い体に入りきらない私の存在を、内側に創造した世界を経由する事にして、この世界に影響が無い様にし、破滅した世界の断片を集め、其処から数時間前の世界を割り出し創造する―――多分、これで以前の世界と変わり無い……かな?
「細かい事は良いや。
それよりも、衣類、体温の調整ついては周囲の空間を調整するからいいけど。
こうもお腹が減ってくるのは、如何したら良いのかな?」
世界を管理していた時には食べるといった行為は必要無かったし、頼みのアリシアの記憶には食材の調達された後の調理法はあっても、食材を調達する術と何が食べられるかは確認出来なかった。
先程まで死んでいたからか、お腹は既にくうくうと隠し様も無いほど空腹を訴えている。
周囲の時間は夜、場所は公園。
見上げれば月がとても綺麗に見えるよ。
「本当、どうしようか―――んっ、猫?」
その時に一匹の猫が散歩か歩いている。
確か肉って調理出来たよね?
アリシアの記憶にあるのは、トレーに乗った肉ばかりなので何の肉かは記憶されていないのが困り処だけど。
「―――お肉なのには違いはないよね?」
頭の片隅には、あの猫がどうやったら記憶にあるお母さんの料理になるのか不明のままである事に不安を抱かなくもないけれど、こうお腹が減ってはしょうがない。
世界から自分の時間を隔離させ、時間が停止する世界の中を歩き猫を捕まえる、再び世界につないだ瞬間、驚いた猫が「ニャッ」と鳴き声を上げてちょっとびっくり。
でも重要な食料である君を私は放すわけにはいかないよ。
折角の命なのに、少し罪悪感を抱くもののお腹が減っていたのでそのままかじってみた。
「フギァァァー」
凄い悲鳴が上がった、耳から入って来る余りの絶叫に私も驚き「きゃ」なんて声を上げてしまう。
かつてこれ程の相手がいただろうか―――いや、世界樹がもたらせる遥か前、他の海達との会話には言葉など存在せず、互いに想いを込めて殴りあうしかなかったけれど……これ程驚かされた存在は初めてだった。
「ん~、世界樹を管理する私を驚かすなんて、この猫さん只猫じゃないよ!?
……もしかすると救世主より凄い子かもしれないよ、でもお腹も減ったし、猫さん食べようとすると凄い声上げて何か怖いし、あぅ~」
アリシアの記憶にある、山猫という種族のリニスはこんな風に鳴い事なんか無かったので如何したらいいのかも分からず、ただオロオロしていると。
「一体如何した――って、何で裸かなのさ!?」
赤毛の男性は走って現れるなり何か叫び出す。
それに、裸と言われても周囲を書き換えれば良いだけなのに何でいけないのかな?
「うん。お腹が減ったから食べようとしたんだけど―――お兄ちゃん、この子如何したら食べられるの?」
状況が分からないので小首を曲げつつ答える。
それは、この男の人が猫さんの食べ方を知っていれば私にとっても利があるからだ。
「ええっ!?その猫食べる!?」
あれ?
赤毛の男は驚いているよ、選択を間違えたのかな?
「いや。それよりも、両親や家は如何したのさ―――それに服は一体?」
ん~。家、住処。
私の代理とはいえ、影が居る神の座が一応の住処になるのかな?
沢山ある内の一つとはいえ、今期の救世主当真大河が召還器トレイターと共にやって来て暴れてたし。
この娘の母であるプレシアは既に死亡している、これは私が残骸の花畑に埋葬したから確実だね。
「………うん、まず私の家に刃物を持った男の人がやって来て。
それで、お母さんは死んじゃったからいないし服は気がついたらなかったよ」
言って気がついた。
そういえば何で裸なのかな?
そういった風習があったとは記憶に無いし、プレシアお母さんは変な宗教にでも入っていたのかな?
「―――なっ!?
(そうだ、つい先日深山町でも押し入り強盗があって。
押し入り強盗による殺人事件だっただろうか……じゃあ、この少女の両親もそいつに!?)」
思いつめた表情で拳を握り締める、何だか見ている此方が気圧される程。
一応、私は人から神って呼ばれた事もあるんだけどな……
「――っ!?ごめん、悪い事を聞いた。
俺は衛宮士郎、良ければ家に来ないか?
お腹が減っているなら食べる物もあるし、多分こういった事は俺よりも藤ねえの方がわかるから」
家に来るかって?
「知らない人には付いて行ってはいけません」とアリシアの記憶にあるお母さんからの言葉が蘇える。
一瞬、人攫いかとも思ったが衛宮士郎からはその様な感じは見られない、これで実は人身売買の構成員とかだったら私が存在してきた数百億年。
いや、数百億年と言っても年月を計る文明が現れてからだからもっとか、どちらにしろ、今まで経験してきた事柄は全て無駄となっている証拠にすらなるだろう。
脳裏にそんな事を過らせ、キョトンとしていたら衛宮士郎は上着を脱ぎ私に着せてくれた。
「ああ、藤ねえは俺の学校の先生なんだ。
多分もう家の方にいるだろうから、相談できるし―――って何でそんな目で見る」
その時感じた僅かな違和感―――まるで誰かを助ける事で自分が救われてる様な感情、それが私には理解できなかった。
また、残念な事に稀に見る強敵と認識した猫さん(非常食予定)は、「虐めちゃだめだろ」と言われたので渋々解放、そしたら「よし、いい子だ」と言われ頭を撫でられました。
その居心地良い感触、む~今までこんな事された事無かったよ。
その後は、お兄ちゃんと雑談を交えながら家に向かう。
それで解った事は、新都の飲み屋のバイトが終わり、ぼんやり歩いていたら叫び声が聞たらしく公園まで走って来たとの事でした。
他にも話はあったけど解ったのは一つ、このお兄ちゃんは真正の愚者。
何れ色々な相手に都合良く使われボロボロになり捨てられる存在―――でも、そんな存在こそが新たな種へと進化するから生命は驚きなんだ。
だからこそ、かな。
それ「故に命とは愛しい、か」
でも、世界を守る為とはいえ、少し前に一つの枝世界に置ける全ての命と可能性を滅ぼそうとしたのは他ならぬこの私なんだよね……
「ん。何か言ったか?」
あれ、気が付かず声に出していたのかな?
「何でもないよ、ただお兄ちゃんが良い人だって思っただけ」
「こら、大人をからかうんじゃないぞ」と何故か顔を赤らめるお兄ちゃんに、少し前に一つの世界を滅ぼそうとしてましたなんて言ったら如何なるだろう?
それでも私を許すかな、それとも怒られるかな?聞いてみよ―――ん。
「……ん」
お兄ちゃんも坂の途中に人影があるのに気がつたらしい。
「――――」
人影、私より年上の女の子は二コリと笑うと、坂道を下りて。
過ぎ去る際―――
「早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」
と、意味深い事を口にする。
「お兄ちゃんの知り合い?」
呼び出すって何をだろうと曖昧過ぎで判らないので聞いてみる。
だってあの娘、繋がっている力はそこそこ有る―――いや、人間にしたら異常だから。
「……いや、この辺じゃ見ない。変わった娘だな」
「向こうの住宅地の娘かな?」と話し始めつつ、坂を上がりきってお兄ちゃんの家に到着した。
家の明かりが点いている事から、桜姉さんと藤ねえさんは居る様子。
どんな人達なんだろう?
お兄ちゃんの知り合いだからきっと苦労してるんだろうな。