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No.18329の一覧
[0] とある『海』の旅路(オリ主によるFate主体の多重クロス)【リリカル編As開始】[よよよ](2018/03/19 20:52)
[1] 00[よよよ](2011/11/28 16:59)
[2] Fate編 01[よよよ](2011/11/28 17:00)
[3] Fate編 02[よよよ](2011/11/28 17:03)
[4] Fate編 03[よよよ](2011/11/28 17:06)
[5] Fate編 04[よよよ](2011/11/28 17:16)
[6] Fate編 05[よよよ](2011/11/28 17:23)
[7] Fate編 06[よよよ](2011/11/28 17:26)
[8] Fate編 07[よよよ](2011/11/28 17:30)
[9] Fate編 08[よよよ](2011/11/28 17:34)
[10] Fate編 09[よよよ](2011/11/28 17:43)
[11] Fate編 10[よよよ](2011/11/28 17:49)
[12] Fate編 11[よよよ](2011/11/28 17:54)
[13] Fate編 12[よよよ](2011/11/28 18:00)
[14] Fate編 13[よよよ](2011/11/28 18:07)
[15] Fate編 14[よよよ](2011/11/28 18:11)
[16] Fate編 15[よよよ](2011/11/28 18:22)
[17] Fate編 16[よよよ](2011/11/28 18:35)
[18] Fate編 17[よよよ](2011/11/28 18:37)
[19] ウィザーズクライマー編[よよよ](2012/08/25 00:07)
[20] アヴァター編01[よよよ](2013/11/16 00:26)
[21] アヴァター編02[よよよ](2013/11/16 00:33)
[22] アヴァター編03[よよよ](2013/11/16 00:38)
[23] アヴァター編04[よよよ](2013/11/16 00:42)
[24] アヴァター編05[よよよ](2013/11/16 00:47)
[25] アヴァター編06[よよよ](2013/11/16 00:52)
[26] アヴァター編07[よよよ](2013/11/16 01:01)
[27] アヴァター編08[よよよ](2013/11/16 01:08)
[28] アヴァター編09[よよよ](2011/05/23 20:19)
[29] アヴァター編10[よよよ](2011/05/23 20:38)
[30] アヴァター編11[よよよ](2011/05/23 22:57)
[31] アヴァター編12[よよよ](2011/05/23 23:32)
[32] アヴァター編13[よよよ](2011/05/24 00:31)
[33] アヴァター編14[よよよ](2011/05/24 00:56)
[34] アヴァター編15[よよよ](2011/05/24 01:21)
[35] アヴァター編16[よよよ](2011/05/24 01:50)
[36] アヴァター編17[よよよ](2011/05/24 02:10)
[37] リリカル編01[よよよ](2012/01/23 20:27)
[38] リリカル編02[よよよ](2012/01/23 22:29)
[39] リリカル編03[よよよ](2012/01/23 23:19)
[40] リリカル編04[よよよ](2012/01/24 00:02)
[41] リリカル編05[よよよ](2012/02/27 19:14)
[42] リリカル編06[よよよ](2012/02/27 19:22)
[43] リリカル編07[よよよ](2012/02/27 19:44)
[44] リリカル編08[よよよ](2012/02/27 19:57)
[45] リリカル編09[よよよ](2012/02/27 20:07)
[46] リリカル編10[よよよ](2012/02/27 20:16)
[47] リリカル編11[よよよ](2013/09/27 19:26)
[48] リリカル編12[よよよ](2013/09/27 19:28)
[49] リリカル編13[よよよ](2013/09/27 19:30)
[50] リリカル編14[よよよ](2013/09/27 19:32)
[51] リリカル編15[よよよ](2013/09/27 19:33)
[52] リリカル編16[よよよ](2013/09/27 19:38)
[53] リリカル編17[よよよ](2013/09/27 19:40)
[54] リリカル編18[よよよ](2013/09/27 19:41)
[55] リリカル編19[よよよ](2013/09/27 19:56)
[56] リリカル編20[よよよ](2013/09/27 20:02)
[57] リリカル編21[よよよ](2013/09/27 20:09)
[58] リリカル編22[よよよ](2013/09/27 20:22)
[59] リリカル編23[よよよ](2014/09/23 00:33)
[60] リリカル編24[よよよ](2014/09/23 00:48)
[61] リリカル編25[よよよ](2014/09/27 01:25)
[62] リリカル編26[よよよ](2015/01/30 01:40)
[63] リリカル編27[よよよ](2015/01/30 02:18)
[64] リリカル編28[よよよ](2016/01/12 02:29)
[65] リリカル編29[よよよ](2016/01/12 02:37)
[66] リリカル編30[よよよ](2016/01/12 03:14)
[67] リリカル編31[よよよ](2018/03/19 20:50)
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[18329] ウィザーズクライマー編
Name: よよよ◆fa770ebd ID:57975dd3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/25 00:07

「ふ~ん、中は結構広いんだね」

私は一人呟いた。
今、私が居る所は冬木市では無く、並行世界の別の星、お兄ちゃん達なら俗に異世界と呼ぶ所なんだと思う。
この世界には、人々が竜が住むと口々にしている洞窟が沢山あって、洞窟の前には多分前に来た人達が使ったままなのだろうと思うけど、多数のテントやご飯を作る為のかまど等、ここでの生活がしやすい様な設備も整っている。
でも、他のテントにいる人達に聞いても誰が用意したのか解らないから少し気味悪がっていたりしているみたいだね。
そんな、竜の洞窟に挑戦する人達が集まるテントの一つに私は居た。
でも―――
危険分散とかで、一定の人数が集まってから挑むらしいので中々始まらないんだよ。
聞いた話だと、何でも洞窟に挑戦するのは月に一度の割合らしい。

「流石に一ヶ月も待てないよ………」

だから、皆には悪いかなと思いつつ、私は覚えたミッド式魔術の一つ、『サーチャー』と呼ばれる探索魔術を操り多数の端末を洞窟内に展開させ内部を調べていた。
で、肝心の洞窟内なんだけど……入ってから横に曲がりながらしばらく一本道が続いて、出た先には何故か宿屋があって少しびっくり。
ん~、こんな場所でも経営する人って居たんだね。
そして、中央は幾つかの小部屋に別れていて、その中に魔物とか呼ばれる存在が歩いていたりや、掃除とか雑用をしているメイドさんらしき人っぽい存在も確認出来る。

「竜の住処って、色んな生命が住んでいるんだね」

冬木で見たテレビだと、竜が一人で財宝の上でお昼ねしているだけだけど、実際には色々な種族が集まり協力して生活しているみたい。

「そっか、アレが共生ってヤツなんだね」

そうは言っても、私が確認した人間社会の法では人から物を取ると犯罪だけど、竜から奪うのは悪い事じゃ無いみたい。
むしろ、竜は村や街を襲う悪い生き物みたいなので、ここに集まる人達には私と同じ財宝目当ての人や、悪い竜をやっつけようとして来た人が大勢居る。
機会があれば、私も竜って生き物がどれ程の生命なのか闘ってみたいかなって思うけど、今の私は竜が溜め込む財宝が目的。
そもそも、人間じゃない竜がお金を持っていても使われる事は無いと思う。
お金っていうのは、社会にとって血液の様なモノだから常に動いていないと人間社会とその経済が滞ってしまい人々の生活が悪くなってしまう。
だから、お金を溜め込んでいる竜をそのまま放置していれば、何れ通貨不足とかで社会や経済に混乱が起こるかもしれないんだ。

「あ、アレだね!」

洞窟の奥にある大きな一部屋に、キラキラと光り輝くお金の山と色々な財宝が確認出来る。
使いもしないのに、竜って何であんなにも溜め込むのかな、性格かなと過ぎりもするけど解る訳が無く。

「じゃあ、お宝は貰うよ。大丈夫、私とお姉ちゃんが全部使うから」

「無駄なんかじゃないからね」と付け加え、『サーチャー』からの情報を元に、お金や宝石等で積み上げられた山の全てを私が倉庫に使っている世界へと転移させた。

「うん、これでよし。
後は、この世界にイリヤお姉ちゃんを連れて来るだけだね」

そう口にするけれど、この世界以外にもお姉ちゃんの練習に適した環境は沢山ある。
けど―――
困った事に、その世界に行ったとしても生活に必要なお金が無いんだ。
一応、アヴァターへ行く為の準備として幾らかの物資は用意出来ているけど、まだ準備中なので色々と不足している物が多いい。
それなのに、それらをここで使ってしまって肝心のアヴァターへ行った時に足りないとかになったら本末転倒って事になるかもしれない。
そこで、更に世界の情報を調べていたらこの世界を見つけ。何でも、この世界には竜がいて金銀財宝を溜め込んでるとか、しかも、竜って種族は太っ腹なのか洞窟に入り財宝がある部屋まで辿り着いた者には気前良く財宝をあげているという。
そう、竜の物は皆の物、それがこの世界のルールらしいから、この世界の情報を視た時、うん、ここしかないと感じたよ。


「よ~し、この世界でのお金も手に入れた事だしお姉ちゃんを呼んでこようっと」



「はぁ……はぁ………ふう」

準備運動を終えた後、アインツベルンの森を五周程走り終え呼吸を整える。
本来なら、小聖杯である私の体でこんなに走り続ける事なんか出来る筈が無いのだけど、デバイスと呼ばれる魔術礼装キリツグからもたらされる魔力以外の力。
アリシアが根源力と呼んでいる力により、私の体はキリツグからもたらされる溢れるばかりの力で満たされていた。
にわかには信じがたいけど、根源力とはその名の通り、根源からもたらされる力の事で、その力で体を強化したり、魔術を使う際に魔力に上乗せして使えば通常よりも遥かに強力な魔術として使う事も出来る万能の力だといえる。
それでも最初は一周も出来なかったけど、聖杯戦争が終わってからもう四ヵ月が過ぎた今では走るだけなら森を十周くらいは出来る様になっていた。
もう暦では六月、そろそろこの国では梅雨と呼ばれる季節に入ってきている。
多分、魔術的な要素の問題もあるだろうからアリシアは来月の後半、夏休み辺りにアヴァターへと行く予定でいるみたいだけど………
アヴァターでは、救世主候補と呼ばれる者達が召還器と名の礼装を用いてキリツグと同じ様に根源力使う事が出来るとか。
アリシアは、その根源力を使いこなせれば人でありながらサーヴァント、しかも大英雄ヘラクレスであるバーサーカーとすら互角に闘えるとも言っていたから、救世主候補者達がどれ程驚異的な存在なのかが解る。
そんな中、アリシアと一緒に練習して来たのだけど……
最初の一ヶ月は、何事にも体力が必要ならしいので今の様に体操して走り、魔力を操りながら、キリツグと一緒にマルチタスクと呼ばれる分割思考を練習していた。
二ヶ月目には、私の体にも体力がつきはじめたらしくそれ程疲れる事は無くなって来て、更に『ミッド式魔術』、正確には『ミッドチルダ式』というらしいけど。
信じられない事に世界の外でも使える魔術であり、いうならばデバイス内部に魔術基盤が構築されていて魔術を行使する際には状況を判断しながら、デバイスという意思を持つ魔術礼装と共に『ミッド式魔術』の業を選択し運用する、その選択、制御と魔力の効率化をするのが私の役割らしい。
この……過去へと向かうモノではない、異端の魔術をアリシアは秘匿する事無く私に教えてくれ、魔力で編まれた防護服や、高速で飛行出来る魔術等を教わった。
三ヶ月目には、前述に加え『ミッド式魔術』の攻撃や防御に相手を捕らえる魔術等を加えて練習して行い。
四ヵ月目である今は、それまで習って来た魔術を駆使しアリシアと模擬戦を繰り返している。
一応私は、飛行魔術との相性が良いのか、走るよりも飛翔し空中戦をした方が良いのかも知れないけど、、バーサーカーが空中戦を出来ないので模擬戦の時には浮かび、何かあれば動作を高速化させる魔術『ブリッツアクション』を用いて距離を調整しながらバーサーカーへの各種援護を行い、アリシアにも何度か勝ってはいた。
でも、アリシアが捕獲魔術『バインド』と空間固定魔術を使いバーサーカーの身動きを止めらてしまうと、アリシアの能力はほぼランサーと同じといえるので戦いにすらならなくなり、石突とはいえ朱色の魔槍で突かれて終わる事が多いいのも事実。
アリシアはバーサーカーだけではなく、私も十分戦える様にしないと救世主になるのは難しいと言っていたから後、残り一ヶ月程で何処まで出来るのかが不安なのも確かだった。
アヴァターと呼ばれる世界で行われる救世主を選出する為の儀式。
文字通り、救世主となった者が神の座、根源へと至り世界の全てを手に入れる聖杯戦争以上の戦い―――アリシアの感じからすると救世主候補は皆サーヴァントに近いみたいだし、今のままだったら厳しいわ……ね、根源力をバーサーカーに分けるとか出来ないかしら?
考えながらも体を動かし、腕立て伏せを百回三セット程し終える頃、「イリヤお姉ちゃん~」とアリシアが私を捜しているのだろう声が聞こえて来た。

「ここよ、アリシア」

立ち上がり声が聞こえて来る方向に答えると、「いた、こっちだね」と声が聞こえ奥から草木を掻き分けてアリシアと、その足元にはアリシアと一緒で嬉しいのかクルクルと回っている精霊ポチが出て来る。

「今日は随分遅いわね、学校で何かあったの?」

アリシアは魔法に至った使い手、私達がいう処の魔法使いであり、その実力は神霊級、当然年齢は見かけとは違う筈なのに……何故か彼女は小学校へと入学して毎朝楽しそうにランドセルを背負いながら登校していた。
まあ、初めは幼稚園って話だったらしいからましなのかもしれないけれど………

「ううん、学校じゃないんだ。
実はね今日、イリヤお姉ちゃんの練習にいい場所が見つかったから、そこでお姉ちゃんと練習しようと思って聞きに来たの?」

「ふ~ん。いい場所、ね」

バーサーカーと一緒に戦う事が出来る相手に場所―――死都にでも連れて行く気かしら?

「解った、行きましょ」

そうね、もし仮に二十七祖が相手なら大英雄であるバーサーカーでも厳しいかもしれない、ならそれは私の限界を超える機会になるかもしれない、それに……死徒二十七祖くらいでどうこうしていたら、根源の力を操る救世主候補者達に勝つ事なんか出来ないわ。

「うん、じゃあ準備するね」

幼児形態のアリシアは、身長の関係でランサーから渡された魔槍を使う事がないので、魔力を編んだ光の棒『フォトンランス』で地面に何やら儀式をするのだろう魔法陣を書いて行き。
一周し出来上がると、「よし」と言い次に何やら空中に穴が開いて、尋常ではない魔力が溢れ出て来た。

「―――っ、それってもしかして!?」

「うん、世界に穴を開けたの」

世界の外にある魔力を用い、魔法陣に魔力を注ぎ込んで行く様を見ているけど……この行為だけで、外に向かい穴を開ける儀式である聖杯戦争がアリシアにとって如何に無意味な儀式なのか解るといえる。
十分な魔力を注ぎ込んだのだろう、空中に開いた穴は閉じ、魔法陣から淡い光の様なモノが浮かぶ。

「じゃあ、世界とのラインも出来たから行くよ」

何処に行くのか?
相手は一体如何いった死徒なのか?
只の死徒なのか、それとも二十七祖の一人なのか?
不安と緊張が交差するけど、私の気を知らないアリシアは「早く行こう」とばかりに私の手をつかみ、その手からは暖かい温もりが伝わって来るので少し落ち着きを取戻した。
そうだ、私にはバーサーカーがいるしアリシアだっているだから!

「ええ」

答え決心した、聖杯戦争の時だってあの森でバーサーカーと一緒に頑張って来たんだから、今度もまた頑張るだけよ!!

「じゃあ、行くね」

そうアリシアがいい終えた時には、軽い浮遊感と共に場所が変わり、頭の中に何か様々な情報が流れ込んで来る。
その情報で理解した―――

「―――別の世界!?」


とある『海』の旅路 ~多重クロス~

ウィザーズクライマー編 


私とお姉ちゃんが異世界の街に着くと、お姉ちゃんはこの世界の情報を確認した後、急いで図書館へと向かう。
理由はこの世界では、私達の世界でいうところの魔術を魔法と呼んではいるものの、その魔法が一般に周知され。
更には魔法使い協会と呼ばれる組織もあり、その協会が私達の世界の様に何でも秘匿する訳でも無いらしく、図書館には多くの魔法に関する書物や文献が在るとか。
そんな訳でサーヴァントシステムを参考にして、この世界の人間社会に関する情報を人の脳が耐えられるくらいに纏めてみたんだけど、うん、イリヤお姉ちゃんは大丈夫の様だね。
初めてこの世界へとやって来た時に自身で試した時を思い出すよ、何せ、この世界というか星の全ての情報を本体を経由しないまま人の脳の力のみで処理しようとしたものだから酷い目にあったんだ。
人の脳がこんなにも脆いモノだなんて知らなかったよ、あんなに痛くて苦しいのに、よく歴代の救世主達は何とも言わない、うん、私が言うのもなんだけど救世主って我慢強いんだね、流石世界の代表に選ばれるだけはあるよ。
などと思っている内に、お姉ちゃんは、死んだ魚の様な目をしてぼうっとしている親切な人から図書館の場所を聞き辿り着く。
ん~、私が知っている内容だと一般には公開されて無いって話だったけどな?
でも、お姉ちゃんが受付の人と話していると、受付の人も何だか死んだ魚の様な目になり、文献が在る場所に案内してくれる。
後で聞いた話だと、この時お姉ちゃんは魔眼と催眠術を併用して使ったとか言っていた。
この世界の催眠術よりも私達の居た世界の方が上なのか、もしくはイリヤお姉ちゃんの魔眼とか催眠術が強力なのか判断がつかないけど、魔法関係者である受付の人が掛かったのだからイリヤお姉ちゃんが使う催眠術はこの世界の人にも十分通用するって事なんだろうね。
その後、私とお姉ちゃんは魔法関係の文献を読み漁り解った事は、この世界の魔法は努力すればどんな属性の魔法でも覚えられるという事だった。
私が知っている『ミッド式』でも『サンダースマッシャー』とかあるのだけど、これが困った事に電気変換資質とかが必要ならしく、そんな資質が無い私には使えたモノじゃない。
今の私が『サンダースマッシャー』を使うなら、少し時間が掛かるけど、聖杯戦争でキャスターさんが使った大魔術を使った方が遥かに相性は良いと思う。
それに、私が住んでいる世界の魔術でも、個人や家系により使える属性がほとんど決められている。
でも、詠唱は長くなりそうだけど、この世界の魔法なら、属性の変換等も術式に組み込まれている様なので、努力すれば火、水、風、地の四大属性や雷、光と闇の魔法等が覚えられ使う事が出来るらしい。
正直な話、この世界に来た理由はこの世界の人達が修行とかで上る塔が多数あり、そこでイリヤお姉ちゃんが未経験の多人数との戦い方や、姉ちゃんにとって他に足りない何かがあったとしたら、それを学べる切欠になれば良いかなと思っていたのだけど、これは思いがけない収穫だといえる。

「結構面白いわねこの世界、また明日来れる?」

残念な事に数時間ほどすると日が暮れてしまい、今日はもう閉館なので図書館を後にした時、不意にお姉ちゃんは口を開いた。

「ん、大丈夫だよお姉ちゃん。この世界と私達の世界の時間は違うから、この世界でいくら過ごしても私達の世界では時間は経過していないんだよ」

「っ、それってつまりはどうゆう事?」

「えと、この世界は私とお姉ちゃんの世界でいう所の並行世界の別の星なの、戻っても向こうでは数分も過ぎてないんだ」

「だから」と区切り。

「お姉ちゃんは何も気兼ねせずに、この世界でなら色々と練習しても大丈夫だよ」

間違えないよう念の為印もつけて来たし、その印からわずかとはいえ、お姉ちゃんに大聖杯からの繋がりで魔力供給もされてる筈だから色々と練習するにも都合は良いと思う。
それに、私は自分の力で制御出来るけど、お姉ちゃんは印の影響から、この世界の時間の法則には当てはまらないので、この世界で様々な体験をしていても歳が増える事は無いから安心の筈。

「並行世界………の別の星。
(並行世界への干渉って第二そのものじゃない……それに加え、宇宙旅行っ……て………いくらアリシアが神霊級でもやる事が滅茶苦茶よ。
多分、六人目である本人は指摘されないと、それが魔法の域の業である事すら気が付かない、魔法使いとしては落ち零れもいいところ)」

「この世界は思ったよりためになりそうだし、ちゃんとお金も用意してるから、一ヶ月くらい寝泊りしながらこの世界で過ごしてみようよ」

「そう……ね。
(でも、そんなアリシアだけど、魔法の域の業を幾つも使える彼女の実力は協会で知られている魔法使いを含め最高のモノでしょう。
最高の落ち零れ、そんなアリシアが私の為に選んだのがこの世界の魔法、それに会得した魔法を実際に試す場所もこの世界では不足しなさそうだし、確かにここなら私に不足している力を補う事が出来るかもしれない)」

「でも、まずはお腹も空いて来たからご飯が食べられる場所を見つけようよ」

お姉ちゃんは何やら難しい表情をしてるけど、元の世界なら、もう少ししたら皆でご飯の時間だから私はお腹が空いて来ているんだよ。

「それもそうね。でも―――アリシア、私は食事にはうるさいわよ」

何か面白い事があったのかクスリと笑うお姉ちゃん。
だけど―――

「ええ!セラさんとリズさんが居ないからって、食事中に騒いじゃ駄目だよお姉ちゃん!?」

特にセラさんはお姉ちゃんの教育係りでもあるらしく、お姉ちゃんとおやつを食べてる時でも行儀には厳しいのに!?
これが不良って事の始まりなのかなって想像していると、お姉ちゃんは「違うわよ、もう」と頬を膨らまし。

「そうね…味に拘りがあるって言えばいいのかしら?」

「そう?騒ぐんじゃ無いんだ…なんだ、でも、お姉ちゃん好き嫌いは良くないよ?」

「メッ、なんだからね」と付け加えるのを忘れない。

「………」

その後、何故か私はお姉ちゃんに頭の両側を拳でグリグリとされとても酷い目に遭い、お姉ちゃんは「言葉って難しいわね」とか呟いていた。
頭が痛かったけど気を取り直し探すと、泊まって食事も出て来るホテルがあったのでそこに入る。
取敢えず部屋と食事の値段を聞きながら、お金を積み上げて行く。
これは、神父さんから教わった冬木の管理者である遠坂凛さん攻略用のやり方、神父さんが言うには凛さんはお金に弱いらしいので。
ポチのおやつである霊脈の契約をする時に、色々と話しながら札束を積み上げていくと、凛さんは次第に表情が引き攣っていきはしたものの快く承諾してくれた経緯がある。
受付の人も如何やら同じならしく、前金にして払うと快く一番良い部屋と食事を用意してくれた。
案内された最上階にある広い部屋を見やり、お姉ちゃんは「まあまあの部屋ね」と言っていたから問題は無さそう。
それと、凄い事に部屋の中にお風呂があったのでお姉ちゃんと洗いっこしながら汗を流した後、部屋に置かれてたベルを鳴らしてホテルの人を呼ぶと、色々と良く解らない品名が載っているメニューから適当に選び運ばれてきた料理で晩御飯になった。
お姉ちゃんは「味もまあまあね」と零していたけど、ご飯も美味しいし、ベッドもふかふかで居心地良くて私は良いと思う。
なので次の日、取敢えずは一ヶ月分を契約し前払いで払うことにした。
でも、お姉ちゃんは着替えが無いし、私は元々少ないのもあったからホテルの人に聞いて午前中は衣類を買いに出掛け。
午後は、昨日と同じ様に受付の人に魔眼と催眠術を使って通してもらうのは何かと問題があると思うので、図書館には文献が収められている所まで転移すると一時的に書物や文献を借りる事にして読んだり調たりするのはホテルで行なうようにした。
お姉ちゃんと一緒に色々な本や文献を読んでいると、時折、清掃等で部屋に訪れる人がいたので、ホテルの人と話すしたら、そういった事をしている人にチップとしてお金を置くか渡すと、とても丁寧に仕事をしてくれると言われ。
試しに次の日、適当にお金を積み上げて置いてみたら本当に部屋が綺麗になっていたりもしたよ、こういった事でも人との繋がりはあるんだね。
また、この世界の魔法は火属性は攻撃力で水属性は連続詠唱、風属性は速度、土属性は治癒系と空を飛ばれてしまうと意味の無い地震等の広域攻撃。
雷属性は高い攻撃力と命中率が特徴で、闇と光属性は万能らしい。
これらの系統魔法をお姉ちゃんと一緒に学びながら、『ミッド式魔術』に対応出来るように端末で翻訳し、デバイスであるキリツグとディアブロと繋いで魔術、ミッド式、この世界の魔法の垣根を越えた新しい術式を構築して行く。
そうしながら過ごしていると一ヶ月なんてすぐに経ってしまい、結局、この世界の魔法を学びながら二年の月日が流れていた。
その間、お姉ちゃんと様々な雑談しているなかで、何で竜が財宝を集めているのかを話し合った結果、竜は私達の世界でいうカラスって鳥と同じく光る物が好きだから財宝を貰うと喜んで村や街を襲わなくなるのだという結論に達し。
この街のガラス工房に依頼してガラスの球を沢山作って貰い、冒険者達等から知られている竜の巣の財宝と交換していった。
そうしていくと、そのガラス工房が次第に設備を拡張して行き、二年の間にこの国有数のガラス工房へと変貌していたりする。
私とお姉ちゃんも色々と買い物をしたり、この世界の協会、魔法使い協会に入会して協会員になり入会金や会費を払い、訓練所等を利用していたけど、幾つもの竜の巣から手に入れたお金はとても使い切れないので、必要な分のお金を残し、残りは各村や街の教会へと寄付する事にしていた。
そうして―――

「今日は遂に塔に挑戦しに行くわよアリシア!」

「おう!」

お姉ちゃんと一緒に向かう先は、試練の塔って呼ばれているこの世界の協会が用意している訓練用の塔。
私もこの二年の間に今まで会得してきた魔術、ミッド式、この世界の魔法を複合させようやく『サンダースマッシャー』を放てる様になっている。
でも、問題もあり、周囲から魔力の収集やら圧縮と拡散させないよう収束させる等で放つまでに数分掛かったり、威力にしても、お世辞にも強いとは言えないから、世界の外に居る邪神に対してはほとんど通用しないかな……
他にもこの世界で学んだ魔法技術はあり、特に同系統は当然として、異系統の魔法にすら似通った処が在るので、その部分を上手く使い効率良く魔法を運用する技術は中々のものだと思う。
おかげで、私とお姉ちゃんのが使う『フォトンランサー』の連続射出能力も向上している。
塔へと向かうとベト、ナメッドとか呼ばれている魔物がうろついていたけど、炎の蔦の様なモノが絡みつき紅蓮に染まり燃え尽きる。
これはお姉ちゃんの新しい魔術、各系統の属性を加えた新しい『バインド』。
今使った火属性の『フレイムバインド』に、水属性で相手を凍らせ砕く『フリーズバインド』、捕らえた相手をそのまま切り裂く風属性の『スラッシュバインド』等、どれも捕らえられれば致命傷は免れないと思うモノばかり。
上の階に行くと木に手足が生えた様な魔物モエルモンに、影のような魔物ダークマンとかが現れたけど、お姉ちゃんはバーサーカーさんに頼るまでもなく最上階へと辿り着き、少し呆気ない感じもしなくはなかった。
後日、協会の人に話を聞いた処、魔法の塔と呼ばれる先の試練の塔の強化版みたいな所があるそうなので向かってみる事にする。
その塔は火、水、風、土、雷、闇、光のエリアに分かれていて魔物も試練の塔よりはやや強くなっていると思うけど、連続で射出される『フォトンランサー』に、近づかれた時の為に両腕に一発づつ『フォトンバレット』という強力な単発魔術を遅延魔法として用意している、その為か魔物達は鎧袖一触でお姉ちゃんに倒されて行き登りきると、最上階は沢山の水晶が乱立し、何やら文字が書かれていてそこには『優れた魔法使いほど、魔法に頼らない』と記されていた。

「お姉ちゃん、如何言う意味なんだんろ?」

「そんな事簡単よ、魔法を使い続ければ他の人にも解ってしまうわ、要は魔法を見せる時は常に必殺の心構えでって事でしょ」

「おー、そうなんだ、必殺技なら無闇に使うなんだね」

「そんな処でしょうね」

確かにそうだと思い出す、ここ二年間はテレビを見る事は無かったけど、以前見た番組では、始めの十五分以内に必殺技を出していた主人公が負けていたから。

「うん、そうだね。
魔術、魔法を使う時は常に必殺の心構え、即ち必見必殺って事なんだ―――うん、忘れない様にするよ」

『フォトンランサー』の様な牽制用や補助の魔法は兎も角として、砲撃魔法みたい一撃必殺技を見せるならその心構えは必要だろうから。
お姉ちゃんの言葉を理解し頷きつつ魔法の塔を後にした。
塔の付近で散歩させていたポチを見つけホテルに戻ると、魔法の塔での経験からお姉ちゃんの『フォトンバレット』の術式を近距離専用に修正し、拡散して放たれる様にしたので近距離では無類の威力を発揮する様になる。
魔法の塔を登りきったので、次は如何いった場所が在るのかなと協会の人に聞いた処、この近辺だと祝福の塔と最上の塔と呼ばれる塔があり、祝福の塔は登りきった者に何か判らないけど祝福してくれるそうで。
最上の塔は数多くの竜とそれを率いる古代竜が住むらしい。
しかも、その率いる竜は随分昔に天界とか魔界とかと対等に戦ったらしい竜の様で、協会の人はとんでもない強さだって言っていたよ。
私は幾つも竜の巣を見て来たけど、一度も竜の姿を見たことは無いので、そもそも竜がどれ程の強さを秘めているのかが解らないんだ、協会の人が言う分にから想像すると、少し前に封印した邪神、影に聞いた処では最近は理解出来ないような事ばかり喚き続けてるアザトー……何とかと同じくらいの力はあるみたい。
その竜が古の契約とかで、上る者を阻むとかいう話なので、もしかしたらその竜も天界とか魔界とかの勢力に敗北し塔に封印されているのかもしれない。

「どっちから行こうかお姉ちゃん」

「そうね、竜には興味はあるけど……その祝福ってのが気になるわね。
先に祝福の塔に行きましょう」

「うん」

そんな訳で祝福の塔に行くと、多分魔物の強さは上がっているのだろうけど、いかせん数が居ないので、ここもバーサーカーさんの出番は無い様だねと思い塔を上がって行くと、そこには緑色をした竜が居た。

「ほえ~、これが竜って生き物なんだ」

「そうね、思っていたよりも大きいし、知識として知っているのとこうして実際に見るとでは随分違うわ」

「えっ―――あ、うん、そうだね………」

お姉ちゃんは思っていたよりも大きいって言ってるけど、私の感想は反対で、想像していたよりも竜って種族は小さかった、協会の人の話からすると、惑星サイズとまではいかなくても、月とか小惑星くらいの大きさはあるのかと思ってたよ。
そんな種族が如何やって塔や洞窟に住むのかも疑問だったけど―――個体差はあれ、これ位の大きさが竜って種族なんだね。
でも、その緑色の竜から吐き出される息吹は、キリツグの持つ次元振動から派生した空間歪曲場でお姉ちゃんには届く事が無く。
反対に、お姉ちゃんに『スラッシュバインド』を何重にも使われ、今までの魔物達と違い両断される事こそ無いけれど、ろくに身動きがとれないまま体中を切刻まれて続けてしまい。

「やっちゃえ、バーサーカー!」

「■■■■―――!」

と、塔に登り初めてお姉ちゃんはバーサーカーさんを実体化させる、お姉ちゃんの操る魔術により身動きの取れない竜に対し、バーサーカーさんは斧剣を物凄い勢いのまま幾度も叩きつけると気を失ったのか緑の竜は力を失い倒れた。

「まだ、生きているみたいだね」

魔術を使うなら必見必殺とはいえ、余りにも一方的で、何だか虐めの現場に居合わせたかの様な心境になってしまう。
心配になって竜に駆け寄り見てみると、胸の辺りが動いているから大丈夫、どうやら竜の凄さは純粋な力ではなく生命力の強さなのだろう。

「そう、なら殺しなさいバーサーカー」

「―――■■■■」

お姉ちゃんの声に従いバーサーカーさんは白目を剥き横たわる竜を手にした斧剣で叩きまくり、次第に鱗が剥がれ竜の姿が血に染まってゆく。

「お姉ちゃん、なんか可哀想だよ」

「そうかしら?」

「うん、この竜もそんなに強い訳でも無いし、先を進んだ方が良いと思うよ?」

「それもそうね、いいわ。
あの竜もすぐには動けないでしょうし―――あの程度なら、私とバーサーカーとで何時でも倒せるもの」

そして、何階か上の階へと上って行くと、同じく白い竜がいたけど、お姉ちゃんとバーサーカーさんの連携で緑の竜と同じく身動きが出来ないままバーサーカーさんに袋叩きにされて倒された。
更に階段を上がっていけば、そこには大きな柱に鎖で縛り付けにされた巨人がいて。
私達に気がつき、巨人が振り上げた拳を両方下ろすと、衝撃が走り、まるで地震の様な感じで立つ事も難しい。
なので、私はお姉ちゃんに習い飛行魔術を使って浮かび上がり、距離を保ちながら一緒に『フォトンランサー』を放って黙らせた。
因みに、塔にはこの世界で知られている飛行魔法を対象とした『飛行封じ』と呼ばれる仕掛けがされていて本来なら飛んだりは出来ないけれど、『ミッド式魔術』はそもそもの術式が違うので、試した処使えたりする。
そんなこんなでようやく最上階へと辿り着くと。

「よく、ここまで到達しました。
この塔の守護者です、この塔の最上階に来た貴女達に祝福を」

と、声が聞こえた。
でも、祝福されても何も変わった感じはしないけど……

「えーと、もしかして、おめでとうって言うのが祝福なのかな?」

「………何か、無駄足だったわね」

お姉ちゃんは予想していたのと違ったのか、不満顔で口にする、私も同感で何かしらの効果をもたらすような事象が起きるのかなとか想像していたけれど褒められた以外は何も起きないまま私とお姉ちゃんは祝福の塔を後にした。
残る塔は最上の塔のみ。
その最上の塔の魔物達は、それまでの塔のモンスター達より強く、数も多いいけど、この世界の魔法技術、同じ様な部分を上手く使い回し連続性を高めた『フォトランサー』の発射個数は随分向上していて。
誘導制御無しで使うお姉ちゃんは、通常の短槍型は毎分六十個放つ事が出来、威力を弱め連続性を更に高めた針の様な感じでは毎分六百個前後放てる。
私は誘導設定を組み込んでいるけど、通常の短槍型だと毎分一万二千個前後、威力重視の長槍型では毎分千個ほど放てるので、なんというか数分も掛からずに殲滅出来た。
そして、再び緑色の竜と出会ったけど以前と同じく縛って袋叩きにし、白い竜、赤い竜、青い竜、黄色の竜、黒い竜が何度も現れては三人がかりで袋叩きにしてきた。
けど―――

「もう、この塔いったい何匹竜がいるのよ!」

倒した暗黒竜と呼ばれる黒い竜を背後に、両手を振り上げ、「ガー」と吼えるお姉ちゃんと一緒に上の階へと上る、と。

「また……」

「でも、お姉ちゃんあの竜は初めて見るよ」

溜息をつくお姉ちゃんと私の前に佇む金色の竜、今までの竜よりもやや大きい、多分これが古代竜とか呼ばれている種なんだろう。

「まあ、いいわ。
行きなさいバーサーカー!」

「■■■■■■―――!!」

「援護、行くよ」

流石に古代竜となると、お姉ちゃんの各種『バインド』も効果が薄く数秒で自由を取戻すけど、代わりに私が空間固定を使い首に両手足を封じ、身動きの取れなくなった古代竜に対し、強化魔術や各種補助系の魔術を施されたバーサーカーさんが手にした斧剣を振るい。
私とお姉ちゃんが『フォトンランサー』を十数分ほど当て続けると、ようやく耐え切れなくなったのだろう倒れ動かなくなった。

「結局、『サンダースマッシャー』は使う必要もなかったね」

「アリシア……貴女ね、キリツグが計算して教えてくれたけど、貴女が使う『サンダースマッシャー』は小さい島くらいなら跡形も無く消し飛ばせるから無闇に使っちゃ駄目よ」

そう呆れた感じで私に振向くお姉ちゃんも、当然というか砲撃魔術『サンダースマッシャー』は使え、属性を変えた別の『スマッシャー』を使う事も出来る。

「ぷう、小さい島じゃないよ!
時間さえ掛ければ、あそこに見える月だって消し飛ばせるんだから!!」

室内に明かりを取り入れる為なのだろう、重厚な石造りの窓から見える月を指す。

「………もっと質が悪いじゃない、私達が住んでいる世界で使ったら、多分抑止力が出て来るわよソレ」

「え~、折角覚えたのに使えないのー」

「アリシアが言ってる威力なら、ね」

「う~」

ようやく使える様になったのに、と少々がっかりしながら更に上へと足を進める。

「―――如何やらここで終わりの様ね」

そこには壁も天井も無い屋上。
今日は朝早くから上ってきたのに、周囲は既に日が傾き一方の空を朱色に染め上げていた。

「これ何だろう?」

最上階であるこの場所には、竜を模した石像が佇み、その前には何やら石碑があり何か刻まれている。
見てみると―――

ヴィクトリア=ルル=ブラックマン
メイア=クルセイダ
ルーン=ヴィレアトロ
ヘンリエッタ=ベベルズ
ヴィオラ=エントラ
セリスティーネ=ロココ

と、人名のよう。
でも、その中の何人かには見覚えがあり、確か魔法関連の本で何度か見た事がある名前だった。

「よく解らないけど、試練の塔と同じでこれもこの世界の協会が用意した塔なのかしら?」

「そうなのかもしれないね」

よく解らない事なので、これ以上は考えても無駄かなと思い、昼と夜とが一同する狭間の世界、変わり行く世界を見ているような光景を塔から眺めようとすると。

「―――それは違う」

男の人が一人、危なげに足元をふらつかせ上がって来る。

「……遥か昔、天界と魔界を相手に争っていた時、一部の人間達が私達竜と共に戦う事をのぞんでな、その時の契約でこの塔は建てられた………」

「あら、私達以外にもこの塔に来てたんだ」

「みたいだね」

お姉ちゃんと私が知らない事を教えてくれる親切な人、でも私達の後から来たにしては随分とボロボロな感じがする。

「私は先程戦った、古代竜だ……
我々は人の姿をとる事が出来る、み……見事だった」

「―――っ、それで、その竜が何しに来たのかしら?」

人の姿をした古代竜を見詰めるお姉ちゃんの目に冷たい輝きが宿り、先程の戦いでも起動させなかった魔術回路が淡く浮き上がる。
もしかしたらここで再戦なのかな、確か聞いた話では、空に上がった竜ほど手の着けられないモノは無いそうだし。

「ここまで来た以上、こちらから争うつもりはない、そもそも、君達のように強い者を育てるのが、私のここでの契約だからな」

そう古代竜は告げ。

「君達を祝福しに来た。
この塔の最上部に達したのは、君達で八人目だ。
おめでとう」

再度戦うつもりは無いらしく、私とお姉ちゃんの後ろを指し示し。

「そこにある記念碑に名前を彫らせて貰いたい。名前を教えてくれないか?」

「如何しようお姉ちゃん?」

意表を突かれたのか、呆気にとられているお姉ちゃんに視線を向けた。

「そうね―――私達の世界なら、名前だけでも魔術は掛けられるけど、この世界の魔法を見た限りだと名前だけでは難しいから大丈夫だと思うわ」

古代竜の話を聞き、敵意が無いのが解ったお姉ちゃんは魔力回路を止める。
でも、迂闊に名前を言っても良いかお姉ちゃんと小声で相談し合い、「そうなんだ」と古代竜に視線を戻す。

「私はアリシア・T・エミヤだよ」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

私とお姉ちゃんは自身の名を口にした。
でも、私の真名は違うので少し問題もあるかも知れないけど。

「わかった。
……では、また気が向いた時にでも挑戦してくれ」

人の姿を模した古代竜は、先程の戦いでの痛みがまだ抜けないのだろう、体を引きずる様に石碑へと進み、「はぁ……」と溜息を漏らす。

「………何度見ても女ばかり。
やはり、人間も雄よりも雌の方が強いのか……泣けてくる」

等と呟いていた。
そういえば、この世界の竜って種族は雄と雌で強さの次元がが違うとか。
私の知っている昆虫人や爬虫類人も、思い出してみれば同じ感じだったので「竜の雌ってどれくらい違うの?」と聞いてみた。

すると―――

「それは―――違う……そう、まったく別の種族じゃないかと思える程違いすぎる」

私に振り返った古代竜の表情は、次第に何やら青ざめていき。

「雌は凶暴で雄よりも弱いなんて事はない。
教えておくが、リュミスベルンと名乗る古代竜とは絶対に、絶対に、絶対に戦わない方が良い。
あれが暴れたら、身を小さくして隠れ、嵐が過ぎる去るのを待つのが唯一の生き残る道だ、竜族の大半はそうしている」

「知識として知ってはいたけど、竜の雄も大変なのね……」

「アレは規格外だ、一頭で天界や魔界に喧嘩を売れる竜だ」

言いながらガクガクと震えだす古代竜を、お姉ちゃんは何処か憐れみのこもった視線をもって見詰めていた。
それから、この古代竜がそのリュミスベルンの婚約者に選ばれそうになった事や、何やら竜族の計画で事故なのか行方不明があって、その後をそのリュミスベルンって竜が継ぐ事になり婚約は無くなったとか。
でも、他の古代竜と婚約する事には変わり無く。

「私はそれが嫌で、半ば婚約者から逃げるように、この塔の契約任務についたのだが、交代したら巣を作らないといけない……
それに、最近は君達の様に人間達も強くなって来ているのだろう、巣作りに失敗し姿を晦ます竜が後を絶たない…憂鬱だ………如何し様もなく憂鬱だ」

何故だろう、先程戦った竜とは思えないほど、古代竜の背中は小さく見えてくる……

「……君達が将来、誰かと結婚するなら言っておく。
旦那を苛めるんじゃないぞ、優しくしてやれ、男は意地っ張りだが、弱いんだから」

私とお姉ちゃんは古代竜の話を聞き、竜の社会も色々と大変なんだと懐きつつ塔を後にした。
それからホテルに戻り、塔を上り続けたこの数週間で気が付いた魔術の術式に手を加える。
それが終わると、お姉ちゃんは最強の幻想種である竜を倒せたから自信を持てたのだろう「そろそろ、元の世界に戻りましょう」と言い出したので、ポチと一緒に色々な場所を散歩するのを止め帰る準備をする。
何故ポチを好きに散歩させてないかというと、協会の連絡員の人から聞いた話では、何でも最近、新種だと思える魔物が現れたとかで、協会の偉い人が襲われたらしく色々な部門の人達が捜しているし、冒険者とかの組合にも賞金が掛けられている。
その魔物の特徴は、地面の下から現れ捕まると魔力を奪われながら引き摺り込まれるとかで。
捕まった偉い人は、普通の人よりも格段に多いい魔力を持っていたらしく、魔力を吸われはしたものの命に別状は無かったらしい。
でも、そんな怖い魔物が出て来るかもしれない時にポチを一人で居させるのは可哀想だし、何より万一にでも襲われたら危険だよ。
仕方ないので、今ではホテルの部屋で一緒にいて、遊ぶ時には遠くの場所で遊び、塔に登る時にも塔の近くで散歩させていたんだ。
でも、元の世界へと戻ればまた自由にお散歩も出来るから安心だ。
お姉ちゃんにしても足りない何かが解ったのだろう、自信が持てる様になっているからこの世界での出来事は無駄に為らなくて良かった。
だから―――丁度良いのかもしれない。

「なら、残ったお金で皆に御土産を買って行こう」

「そうね、そうしましょう」

次の日、ホテルの人達に今までお世話になったお礼を述べ、皆への御土産を買うと元の世界へと転移しこの世界を後にした。


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