そこは部屋の灯りは点いているのに薄暗く感じさせる部屋だった。
いや、明かりは既に事欠かない、要は魔術師の工房らしく中に入った者は逃さない造りなのだろう。
……魔術師の工房としては当然なのかもしれないけれど、衛宮君の家に入った後だからなのかしら―――こんなにも薄暗く感じる。
そして、背後からは熱と炎で家が朽ちていく音と、重量がある物が高速で壁に叩きつけられる音。
その音のうち一つの発生源である白髪のサーヴァント、斧を出したアーチャーが壁に幾度も叩きつけ壊し出来た穴から外気が入って来る。
「凛、出口が出来た。早く外に出たまえ」
何故こんな事をしているのか?
理由は簡単だ、恐らく通常出入りするだろう玄関などは入る時以上の罠、進入を阻止するよりも悪質な、進入したモノを逃さない罠が起動している事だろうから、このまま玄関まで行くのはリスクが大き過ぎる。
では如何するか?
これも簡単だ無いなら作れば良い―――もっとも、普通の魔術師が幾ら身体を強化しても、力技では魔術師の工房として長い年月をかけ入念に強化された壁を破壊するのは不可能に近い。
でもサーヴァント等という非常識な存在なら話は別、これは私にアーチャーいてこそ出来る力技だった。
「ええ、解ってるわ―――桜、動ける?」
「……姉さん」
これも生前に愛用でもしていたのか?
どこからともなくアーチャーが出したバスタオルに巻かれた桜に肩を貸し、間桐邸の壁を破り作った出口へと向う。
後を振り返る必要は無い、桜を奪い返す為に間桐邸に乗り込んだはまで良いけど、桜を見つけた部屋―――無数の蟲が蠢く工房ともいえない場所で桜は蟲に埋れていた。
余りの光景に思考が止まってしまった私の代わりに、アーチャーは蟲に効果がある宝具でも出したのか蟲を追い払い桜を助けてくれた。
そこで何とか正気に戻った私は、蠢く蟲が集まる様にして奥から現れた間桐家当主―――間桐臓硯。
そいつに対し取って置きの宝石である父の形見の宝石を使い、無数に湧き出る蟲もろとも焼き尽くした。
あの時、臓硯は何か言っていた様だったけど聞えてたとしても怒りで理解できる筈もないわね、まあ大方、両家の契約の事だろうと予想は出来るけど。
でも、幾ら魔術師家系の契約とはいえこれじゃあ姉失格……こんな事ならもっと早くに気付くべきだったわ。
あの時―――ライダーを倒した後、慎二の記憶を見て愕然とした。
妹の幸せを願って間桐に桜を預けたのにも関わらず、桜は間桐にとって魔術師としてではなく、ただの子供を産む道具としてしか存在を許されてなかった。
いや、慎二の記憶を見る限りでは間桐家の家系は間桐臓硯と言う恐怖に縛られた道具でしかないのだろう事も理解出来る。
でも、理性で解っても感情は別、慎二が桜にしてきた事は許せるものではないから取敢えず私が気の済むまでボコボコにしといたけど。
「ねぇ、アーチャー。臓硯は死んだと思える?」
「……さて、な。君が場所も弁えず使った魔術の威力からしてみれば、あの場合即死だろう」
「だが」と付け。
「あの手の妖怪はしぶといからな、念の為、気は抜かない方が良いだろう」
「……そうね」
アーチャーの言葉に頷き表へと出る、確かに臓硯は気になるけれど今は消耗している桜を安全な私の邸に休ませるのが先だろう。
急ぎ邸に向う必要があるのでアーチャーに桜を預けると、私もアーチャーにつかまるようにして間桐邸から離れる。
が、何故か私の邸に向う途中で止まったアーチャーは、「なに、念には念を入れるだけだ」等と口にして桜と私を降ろすと近くの屋根に登り、何時の間にか出したのか弓を構えた。
しかも矢の代わりなのか、何処から如何見ても螺旋状の剣身をした剣にしか見えないモノなんかをつがえ―――
「偽螺旋剣(カラドボルグ)」
―――その宝具の真名を開放した。
随分離れた筈なのに、一瞬にして離れた間桐邸だろう場所から響く轟音、恐らく臓硯もアレを受けては生きてはいないだろう。
でも……あんた、記憶が無かったんじゃなの?
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
Fate編 第11話
ランサーさんと訓練して解った事が一つある。
幾ら世界を誤魔化して大きくなったり、速く動ける様になったとしても今のままの私が英霊と戦っても勝つのは出来ないだろうという事。
確かに世界そのものを創造、改変、消滅や、存在の否定等、人として出来ないだろう力を振るえば話は別。
だけど、それだと『何処か私の管理の仕方に問題があったのかもと、行動も移さないで私にばかり頼りきるのは何故か?』どころか。
あの神の座まで来た救世主、当真大河が何で怒って私の影と戦うまでに至ったのか?
多分、それすらも解らないと思うんだよ……
例えば、ご飯は美味しいけれど体を動かした後に食べたお昼ご飯は更に格別だった。
これも人の身になって解る事、そういった不便さこそが様々な技術を発達させる原動力にもなる事も理解出来た。
戦場と言う名の環境から生まれた槍という武器、それを更に効率良く使う経験から生まれた技術。
今の私がランサーさんの域にまで達するには大体一ヶ月位は掛かるだろうから、この聖杯戦争の最中に間に合わないのは明白だよ。
だからこそ理解出来た―――今の私ではサーヴァントには勝てない、と。
そう結論を出した私は柳洞寺に向かいお兄ちゃんとセイバーさんの後に付いて歩いていた。
私の後ろには霊体化したランサーさんが居るけど、今回ポチはイリヤお姉ちゃんの安全も考えて家に残している。
ポチは寂しいだろうけど少しの間我慢して貰うしかないかな。
「……セイバー。
サーヴァントの気配、感知できるか……?」
「―――はい。正確には把握できませんが、確かにサーヴァントの気配がします」
お兄ちゃん達に倣い見上げれば、灯りも無く暗い闇に包まれた階段が上へ上へと広がっている。
「あう、先が見えない……」
ランサーさんは霊体のままなので心配は無い、兎に角、今の私に出来る事はこの先の見えない階段を転ばないようにしながら登る事だと思う。
風に揺られた林がザワザワと奏でる中、足元を確認しながら一段一段を確実に上って。
ようやく山門が見えてきた頃―――テレビの時代劇で出て来る様なお侍さんが現れる。
英霊化したお兄ちゃんの座などを視て知り得た知識から解るとすれば、見ていて気持ちが良いほどの理想的な自然体、そんなお侍さんが月を背にして立っていた。
―――っ!?
これって……これってまさか!テレビに出てくるヒーローの登場シーンそっくり!!
テレビではこんな感じで登場する相手は主役な訳で……存在としての力はバーサーカーさんよりも少ないけれど、世界の修正と呼ばれる力が働けばその限りじゃないかもしれない。
だから、もしかすると……この闘いは勝機が無いのかもしれないよ。
「やはり出ましたか、アサシン」
セイバーさんの言葉にふっと笑った後。
「左様―――アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」
その言葉で相手のクラスがアサシンだと解る。
暗殺者なお侍さん、きっと凄い暗殺剣を使う人だったんだろうという事が理解できた。
「ランサーさん、セイバーさん!このお侍さん普通じゃないよ、油断しないで!!」
「知ってるさ、以前一度交えた相手だからな」
実体化して槍を手にするランサーさん。
「ええ、こちらも承知してます。
(初見でアサシンの異常性を見破るとは流石と言うべきですね)」
「セイバー、言峰からはアサシンはマスター殺しに特化したサーヴァントで、サーヴァントではキャスターに次ぐ弱いクラスだって聞いてたぞ。
確かに英霊だから油断は出来ないのは判る、でもそれ程警戒しなきゃならないほどの相手なのか?」
「ええ。一見してアサシンからは英霊特有の宝具も魔力も持ち合わせていません。
ですが、それ故に油断ならない、恐らく―――あのアサシンは己の技量のみで英霊の高みまで来た存在と言えるでしょう」
「なっ!?自分の技だけで英霊にまでなった英霊だって!?」
見上げるお兄ちゃんは、驚きの表情でお侍さんを見ていた。
ふ~、ようやく隣まで来れたよ。
「以前は悪いなアサシン、真名を名乗れなくてな」
以前から交流があったらしいランサーさんはとても楽しそうにしていた。
「よい。知らぬとは言え無粋な真似をしたのは私であったからな。
貴様もよいぞ、セイバーのサーヴァントよ」
お侍さんは持つ刀を月の光で一瞬光らせ。
「……目が眩むほどの美しい剣気―――なるほどな、セイバーと言われるのも頷ける。
言葉で語るべき事など皆無、元より我らにとって敵を知るにはこの刀だけで十分であろう」
ゆっくりしていて無駄の無い動きで降りてくる。
「ええ、確かにその通りです。
(前回は僅かな刀身に歪みが出来た事によってあの長刀の本来の速さが鈍り勝機を得ましたが……
本来の速さの『つばめ返し』を破った訳ではありません―――しかし、今の私には鞘が有る。
アサシンが『つばめ返し』を使うのなら、その一瞬、シロウより返された鞘で防ぎ勝負を決める!)」
セイバーさんは油断無く構えた。
「それで良い。
―――では果たし合おうぞセイバー。
サーヴァント随一と言われるその剣技、しかと見せてもらわねば―――む?」
楽しげにアサシンさんが語るなか、ランサーさんはセイバーさんの前へと出る。
「待ちなアサシン。セイバーとは俺が先約だ、後からの割り込みとは気に入らねえな」
「ふむ……セイバーとの死合いも惹かれるが、その方が先約か」
「だが」と言い放ち、お侍さんは長刀の先をランサーさんに向けた。
「此度は本気を見せてくれるのかランサー?」
「はっ、お見通しって訳だったか。
安心しな、前回は気に入らねえ命令を受けていたが今回は何も受けてねえからな」
ランサーさんは私やお兄ちゃん、セイバーさんを一瞥し。
「先に行きな。セイバーうちのマスターを頼むぜ」
「解りました。シロウ、アリシア此処はランサーに任せます。
(確かにキャスター相手なら対魔力の高い私の方が適任。
反対にアサシンの相手は間合いの長いランサーが適任です)」
「解ったセイバー」
言うが早いかお兄ちゃんは私を小脇に抱える―――だから。
「ちょっと待って」
と言い。
「ランサーさん全力で戦って」
次に。
「必ず勝ってまた会おうね」
と令呪を二つ使った。
もしお侍さんが世界の修正により力を増していていれば効き目は薄いかもしれない。
けど、無いよりはマシだと思うから。
「―――ほう、マスターには恵まれたようだな。
此処で令呪を二つもとは、此方の女狐には出来ん事よ、これは楽しめる死合いになりそうだ」
アサシンさんは嬉しそうに笑みを浮べる。
「アリシアもう良いのか?」
そう言ってくるお兄ちゃんに「うん」と答えると、お兄ちゃんは私を抱えてお侍さんの横を駆け抜ける。
「じゃあね、ランサーさん。上で待ってるよ」
振り向き離れていくランサーさんを見つめ、山門をくぐり抜けようとした時。
それは起きた。
―――空間に異常!?
「強制転移……!?くっ、仕掛けてきたかキャスター!」
セイバーさんの姿が歪む。
あれ、昨日私が空間転移や時空間転移を使った時皆驚いていたけど他にも使える人が居るんだ。
そうか、魔術師の英霊であるキャスターさんだからか。
空間にも影響を与えるなら、世界の創造とか破壊とまでは無理でも改変くらいは出来そうだね。
あれれ、もしかしたら少しくらい力を使わないと危ないのかな?
「まずい、下がれセイバー……!なんか、体が消えているぞ…!」
「違いますシロウ……!転移を受けているのは貴方達の方だ……!早く私の手を……!」
「っ……!?」
「シロウ、手を伸ばして……!そのままでは中に引き込まれ―――」
お兄ちゃんの腕を掴もうとするが、後ろを振り向き剣を振るう。
見るとセイバーさんの後ろや横から手に剣や槍を持った骸骨達が現れていた。
更には後ろの林からも現れ私お兄ちゃんにと剣を振り上げる。
が、それはセイバーさんの一閃により砕かれた。
「な―――セイバー!」
この世界から離れ多次元を経由してから元の世界へと移動する、魔術での転移の瞬間てこんな感じなんだなって思った。
「じゃあね、ランサーさん。上で待ってるよ」
二つの令呪を惜しげも無く使い、俺のマスターはセイバーのマスターに抱えられ階段を上がって行く。
今までに感じた事の無い程の力が溢れ、体が異常なまでに軽く感じる。
クソ神父の時がマスターだった時にはまず考えられない状態だ。
「すんなりと行かせちまったが良いのかアサシン?
貴様、セイバーに何やら因縁でも在るかの様な感じがしてたんだがな?」
「なに、生前刀を振るうしかやる事が無かったのでな。
セイバーを相手に私の剣が何処まで通じるか試してみたかっただけの事―――それに、セイバーに挑んだところで貴様が許すまいランサー?」
楽しげに語る長刀の剣士、サーヴァントアサシン。
「当然だ」
なら此方も言う事は一つだ。
「ならば、先におまえと交えるのは当然と言えよう。
元より生きては帰さんつもりなのでな、セイバーとの決着は帰りの時に付ければ良い」
歌うよう様に口にするアサシンは長刀を向ける。
「付け加えるならランサー、お前のマスターは二つも令呪を使ったのだ。
例え相手が剣士で無く槍兵であっても其れ程の相手、何故戦わぬ必要がある?」
嬉しい事を言ってくれる。
戦士ではないキャスターではこうは行かないだろう。
「そう言う事か」
以前も感じたが、アサシンの手に持つ長刀からは宝具の感じはしない。
だが、その技量は凄まじい。
英霊としての格こそ低いが、この侍の長刀は並の英霊では凌ぐのは厳しいだろう。
忌々しい令呪を使われ偵察がてらに交えた前回、目の前の剣士に俺の槍は掠る事も無かったが、アサシンの長刀も俺を捕らえてはいない。
恐らくは、先程アサシンが言っていた様に俺が本気を出せないのが解り加減でもしたのだろう。
それは屈辱以外の何ものでも無い―――ならば当然この場であの時の借りを返す。
「まずい、下がれセイバー……!なんか、体が消えているぞ…!」
セイバーのマスターの声が響き、槍を構えながら見上げれば、門を通り抜け様としていたマスター達の姿が消えた。
そこにキャスターの使い魔らしい骸骨兵とセイバーを残し。
ちぃ、油断したなセイバー!
「では此方も始めよう。
なに、如何やら向うは女狐の方が一枚上手の様だ―――が、セイバーがついてるのだ心配する必要は有るまい」
「まあな、だが俺のマスターも甘く見るな」
そう言い放ち俺はアサシンを見据える。
「見ればキャスターのサーヴァントであろうが何であろうが容易に討たれる事になる」
クソ神父、言峰の野郎はマスターは神の一人と言っていたが、俺は『はじまりの海』の名を、アリシア・テスタロッサなんていう名の神は知らない。
だが、時を操る魔法を使い。
更には昼の練習時。
俺の領域、英霊の域にマスターは容易に踏み込んできやがった―――経験が足りない今ですらアレなのだ。
もし仮に、マスターが己の技に誇りを持ち成長していったなら、時を操る時点で、神霊の域に達しているかもしれないが……それ以上は俺にも予測がつかない。
あのポチとかいう精霊が懐いてるのも解る気がするぜ。
もし、聖杯が未来の存在を呼び出せるのなら。
―――――俺は大人になったアイツと互いの誇りを賭け勝負がしてえと想った程だ。
それが仮に俺と同じ槍で在ったのならもう言う事は無い、その時のアイツは一体どれ程の存在と成っているのだろうか?
「あの童女がな。それはキャスターも気の毒な事だ」
「ま、そういう事だ。
で、アサシンお前には前回の詫びも有る―――我が魔槍、存分に味わえ!」
「それは楽しみ、存分味あわせて貰うぞランサー」
初速から最速で繰り出さられた、長槍と長刀が火花を散らした。
私が使うのとは違う多次元を経由した空間転移、この世界に来て初めて他の転移術を受けたけど。
「あ――――う、げっ……!」
「――つ、あ――うぷ」
ちょっとこれは快適とは言いがたいよ……
移動した際にちゃんと次元の干渉と緩衝を考えてないから……
うん、昨日イリアお姉ちゃんやお兄ちゃん達が驚いていたのが解ったよ。
この世界でも空間転移の技術はあるけどまだ未熟なんだね、だからかもの凄く気持ち悪くて吐きそうになのは。
……あう、それにしても一瞬体の中身が出てくるかと思った程だよ。
「あら。龍を釣ろうと思ったのに、網にかかったのは雑魚だけなんて」
「っ、ぐ……!」
女性の声がした刹那、お兄ちゃんは空いている手から剣をだして背後へと振り払う。
でも、多分この人がキャスターさんなんだろう。
紫の服を着た英霊は何か呟いただけで光の弾を放ち、お兄ちゃんの剣を壊しただけではなく、その胸ごと吹き飛ばして。
付加えるなら、更に私ごとお兄ちゃんを吹き飛ばして水面へと沈めてくれた。
もう!この季節は水の中はとても冷たいのに、キャスターさんって酷い事するよ!!
「馬鹿な子。そんな紙屑みたいな魔法抵抗で私の神殿にやって来るなんて、セイバーもマスターには恵まれなかったよう―――あら?」
「っ、痛。大丈夫か、アリシア」
「うん」
一緒に水面から立ち上がるお兄ちゃんの姿は、服は破れたものの他は元に戻っている。
「……そう。
あらかじめ治療魔術をしかけておいたなんて、聖杯戦争に参加するだけはあるわね。
その復元魔術に近い効果、褒めてあげるわ―――でも、もう後は無いわよ」
よく解らないけれど、一応褒めてくれたキャスターさんは何か呟くと再びお兄ちゃんに光の弾を放った。
「っぐぁ」
でも、光の弾はお兄ちゃんの胸に大穴を空けるけれどお兄ちゃんが胸に視線を向ける頃には復元している。
「―――なっ!?」
それは、キャスターさんにしても予想外だったのか更に指先から光の連弾、火の玉を次々と放つ。
でも、キャスターさんの魔術で吹き飛んだ瞬間にはお兄ちゃんの体は元に戻っているから余り意味の無い行為かなと思う。
けれど、体は無事でも服は戻らないから上半身を裸されてしまったお兄ちゃんはなんだか寒そうだよ。
「……っう」
伊達に世界の理から切り離された特異者、世界の破戒者じゃ無いんだからね。
なのに―――
「……一応聞いておくわ。
貴方人間、それとも死徒なのかしら?
死徒にしてもかなりもモノね、前言を撤回してあげる」
何て、お兄ちゃんは世界の理から切り放しただけなのにキャスターさんは『お前は人間じゃない』って酷い事を言って来たんだよ。
それに―――
「―――でも、神代の魔術に何処まで耐えられるかしらね」
先程よりも大きい光の弾、違う光の玉をキャスターさんは放つ。
あんなもの当たったら痛いのは決まってる、だから私はフォトンランサーを放ち相殺した。
世界の理から外れた破戒者でも、砕かれたり、焼かれたりすれば痛いんだからね!
「これ以上、お兄ちゃんを虐めるな!」
「あら?
貴女はそれなりに可愛らしいから、従順なお人形にでもしてあげようと見逃してあげてたのに残念ね」
「む~、私はお人形じゃないよ!!」
キャスターさんは何が楽しくいのか解らないけど笑っていた。
「あらあら、本当に可愛いわね。
まさかとは思うけど、私に本気で勝てるとは思っていないわよね?」
「ほえ?」
何故かキャスターさんは私と闘ってもいないのに勝った気でいた?
生命にとって生きる事とは即ち戦い、喰い喰いわれ成り立つ、そこにキャスターさんの様に油断や驕りがあればそれは死に繋がるんだ。
だからこそ、普通は油断も慢心も無く全力で行く筈なのに?
ランサーさんやセイバーさんなら仕留められる時には仕留めるだろう。
でも……目の前のキャスターさんにはソレが無い。
―――そう、か。
キャスターさんは生前戦う者じゃなかったんだ。
「シロウ、無事ですか!?」
軽く小首を曲げて考えてたら、セイバーさんは魔力を放ちながら凄まじい速度でキャスターさんとの間に入る。
「……ああ、大丈夫。
キャスターが手加減してくれたんだろうな、こっちの被害は服だけだ」
「「―――!?」」
「碌な詠唱もしてないのにあれだけの魔術が使えるんだ、魔術師である以上俺でもキャスターが凄いのは良く解る。
(それでも俺を殺さなかった……なら、無関係な人を巻き込んでいるのはキャスター本人の意思じゃないのか?)」
お兄ちゃんの言葉に何故かキャスターさんとセイバーさんが絶句してた。
「如何いうつもりですキャスター?
(キャスターの魔術を受けたにも関わらず、服以外シロウにはこれといった変わりは無い?
如何いう事だ、このキャスターは私が知っているキャスターでは無いのか?それに何故服だけを?)」
剣を構え、一息に間合いに入れるよう慎重に警戒を怠らないセイバーさん。
二人の動きが無いうちに、私とお兄ちゃんは池から上がる事にした。
「如何いうつもりも何もセイバー。
貴女が来る前にそこの未熟なマスターから令呪を奪おうとしただけよ。
でも、まさか―――本気でないにしろ私の指で死なないのには驚いたわ」
セイバーさんからお兄ちゃんに視線を移し。
「そうね、貴女が素直に私の奴隷になるなら、その男も実験材料くらいには生かしといてもいいわよ」
「―――っ!?
(この感じ。やはり、無関係な街の人々から魔力を吸い上げているのにキャスターも同意しているのか!?)」
「っ、世迷い言を」
キャスターさんの言葉でお兄ちゃんは表情を険しく変え、セイバーさんは持つ不可視の剣に明確な殺気を込める。
「こう言う事よ」
片手に変な短剣を取り出したキャスターさんが何か呟やく。
瞬間、私達の周囲の空間が凍結したかの様にして固定された。
「――――」
ほえ~、魔術ってこんな事も出来るんだ。
口をパクパクしているキャスターさんを見ながら、多分勝ち誇っているのかな?
けれど……固定された空間では言葉は伝わらないので良く解らないよ。
こんな時、テレビの悪役だとどんな事を言っているかなと思っていると、セイバーさんを中心にして空間の固定化が崩壊した。
「私の奴隷としてバーサーカー相手―――なっ」
「……この程度ですか、キャスター
(如何やら、キャスターが変わった訳では無さそうですね。
するとやはり、この世界のシロウの実力が私の知っているシロウよりも高く―――信じられませんが、令呪の繋がりをかき乱され捜し出すのに手間取ってしまった間、シロウ自身がキャスターの魔術を凌いだという事でしょう……)」
何だかセイバーさんはつまならそうにして呟く、でも、空間を固めるなんて私は凄いと思うんだけどな?
「対魔力……!?そんな、私の魔術すら弾くというのですか―――!?」
驚いたのか後ろに退いたキャスターさんにセイバーさんは物凄い速さで踏み込み、キャスターさんの手に持つ短剣を弾いた。
「―――!?」
「切り札はこれで無い、此処で果てろキャスター」
続けて振り下ろされる不可視の剣。
それはキャスターさんが指を突き出すよりも早く振り下ろされ紫色の服が二つになる。
キャスターさんを両断した―――様に見えるけど。
「セイバーさん上だよ」
と、指を指す。
存在力で見れば、二つになった服にあるのは残滓だけで。
あの時、セイバーさんが斬りつけた刹那、上空の空間に歪みが現れ新しい存在力が現れたんだよ。
キャスターさんも空間操作が出来る様だから、多分、空間転移で渡ったんだろうね。
「―――確かに手応えがおかしいとは感じてました。
ですが、少しは見直しましたよキャスター。
此処でなら、キャスターである貴女でも魔法の真似事が出来るという訳ですね」
セイバーさんが見上げる先。
夜空、月を背後にしてキャスターさんは空に浮いていた。
「あら?
サーヴァントであるセイバーよりも早く私の魔術を見破るなんて、貴女は隣の小物とは違うわね―――小さな魔術師さん」
そう言って褒めてくれたんだ。
凛さんにはへっぽことか言われてショックだったけど、ふふん、キャスターさんからは褒められたよ。
褒められると嬉しいなと思ったのもつかの間。
「―――だから、一緒に消してしまうのは勿体無いわね。
人形に出来ないのが残念よ」
いつの間にかキャスターさんは杖を手にしていて向けて来る。
「如何したキャスター―――ほう?」
でも、横合いから声が響くと同時にキャスターさんの動きも止まり、声の方を見れば境内から人影が歩いて来る。
「―――葛木が如何して此処に?」
お兄ちゃんよりも年上の葛木さんは、如何やら知り合いらしい。
此処に住んでいて、外が騒がしいから見に来たのかな?
「衛宮か、お前やそんな子供がマスターとはな。魔術師とはいえ、因果な人生だ」
それを聞きお兄ちゃんの表情が凍った。
「マスターだと!葛木アンタまさか……アンタがキャスターのマスターなのか!?」