―――夢を見ている。
ある男の夢を。
そいつは、何が欲しかった訳でもなかった。
多分、俺と似ていて我慢がならない質の人間だったのだろうな。
まわりに泣いている人がいると我慢ならない。
まわりに傷ついている人がいると我慢ならない。
まわりに死に行く人がいるとしたら我慢ならない。
理由としては十分だろう。
でもそいつは、目に見える全ての人を助けようとしていた。
それは不器用で、俺でももう少し上手く出来ると思える程だ。
けれど最後にはきちんと成し遂げて、その度に多くの人達を救えたと思う。
正直な感想として、そいつは正義の味方だろう。
不器用な戦いは無駄ではなかったはずだ。
傷ついた分、死に直面した分だけ確実に、そいつは人々を救えていたんだから。
……けれど、目に見える全ての人と言うけれど。
人は決して自分を見る事だけは出来ない様だ。
だから結局、そいつは自分自身という奴を省みる事は無く。
世界ってヤツと契約してしまった。
そこで―――目を覚ました。
「今日のは……正義の味方か」
途中で目を覚ましたから最後は解らないが。
―――なんとなく、そいつは自分の全てを犠牲にして誰かを救い続け果てたのだろうと解る。
「……ふぅ」
と、溜息つき着替える。
あんなに努力した奴が報われない現実に、やり切れない気持ちを抱きつつも昨日の事を思い出す。
確か―――そうだ、校庭でバーサーカーを倒したまでは良かったけれど、気を失ってしまったイリヤを連れて柳洞寺に行く訳にも行かず連れて帰って来てしまったんだったな。
「―――あ」
大事な事を忘れてた。
バーサーカーとイリヤが待ち構えていたのは住宅地に入る境目の路地だったのに、アリシアが校庭へ空間転移させたんだった。
しかも、学校の周囲の時間を止めるなんてトンデモない魔法まで使って。
その魔法、時間を固定された結界にはセイバーの持つ最強宝具、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』すら弾き返し。
放ったセイバーも唖然としていたが、散弾となって跳ね返って来た『約束された勝利の剣』にバーサーカーが貫かれて終わったんだっけか。
「しかし、約束された勝利の剣すら通じないなんて―――魔法だけあって反則じみてるな」
いや、それ以前に俺、バーサーカーに圧倒されて何も出来なかった……
アリシアはバーサーカーの危険性を判っていたのか自分から戦ったのに。
「くそっ、こんなんじゃ誰も護れない救えやしない!!」
魔術の名門エーデルフェルトとか、魔法があるとか無しにアリシアはまだ五歳くらいの女の子なんだぞ!!
そんな子供を戦わせて俺は―――!!
「―――護れる力が……欲しい」
今の俺では護る事も、ましてや救う事なんて出来る訳が無い。
夢に出てきた、あの男の様に助けるなるなんてまだまだ先だ。
と、そこまで考え現実を再認識。
深呼吸をして平常心を保つ。
すると見えてくる、そうだ今の環境を考えろ。
剣ならセイバーがいて、槍ならランサーがいる。
二人共、英霊として呼ばれる程の達人で、と。
何だ鍛錬するのにこれ程良い環境は今まで無いだろ。
半人前なのは解ってる、だったらせめてこれからでも護れる力を手に入れれば良いんだ。
「よし。とにかく落ち着いて、と―――まずは朝飯作らないとな」
時間は午前五時を過ぎた頃か。
セイバーは隣の部屋で眠ってるから、起こさないよう静かに行かないとな。
さて、今日の朝食は何を作るかなと台所に行き冷蔵庫の中を確認する。
よし、今日は魚にだし巻き卵、大根の味噌汁でいいな。
魚は開きなのですぐ焼けるから、まずは味噌汁を作る為に大根の皮をむき短冊切りにして、次に玉ねぎを切り。
それを鍋に入れ、だしと一緒に火にかけた後、魚を焼き始める。
「次はだし巻き卵の準備だな」
作るため割った卵をわりほぐし、だし汁を加えよく混ぜる。
鍋のアクを取っていると「おはようございます」と言ってセイバーが居間に入ってくる。
受肉しているので必要だろうと、セイバーの服装は言峰が用意してくれたモノだ……が。
セイバーに良く似合う上品な洋服だった。
言峰が言うには、弟子に以前に何回か送りその余りらしいけど、洋服のセンスに関しては俺は言峰の足元に及ばないないのが解る。
あ、まずい……忘れてた。
「おはようセイバー、ところでセイバーは和食は大丈夫か?」
セイバーはあのアーサー王だからな……あの時代のあの場所に和食なんかがあるわけない、昨日のうちに確認しておけばよかったな。
「心配ありませんシロウ。
聖杯からの知識により和食や箸の使い方等も解っています、ですので私の事は気にせず朝食の準備をして下さい」
知識だからなのか、まるでこれから戦場に行く様に気合を入れているセイバー。
その気合の入りように負けた俺は。
「ああ、解った楽しみにしていてくれ」
と、答えるほか無かった。
だし巻き卵を中火で焼いていると「おはよう」とアリシアとポチが起きてくる。
見えないけど霊体化したランサーもいるんだろう。
セイバーが「おはようございます」と返すなか、アリシアはテレビをつけニュースが流れてきた。
「―――さい、昨日まで火災で焦げた跡や、割れたガラスがまるで何も無かった様に戻っています」
……まさか、あれウチ学校か?
そうだった、昨日散弾の様に跳ね返った『約束された勝利の剣』は、バーサーカーに致命傷を与えた、が。
あの時、俺達の前にはバーサーカー、その後ろには校舎である。
当然跳ね返った『約束された勝利の剣』は無数の光の刃となり、後ろに在った校舎を切裂きまくり一瞬で廃墟に変えた。
まずい事になったと思った時、「あ、いけない。壊れちゃったね」と言いアリシアが多分校舎の時間を戻しのだろう、グランドも校舎もポチが暴れる前に戻っていた。
正に魔法である。
だが、そんな奇跡も事情を知らない一般の人から見ればただの怪奇現象でしかないだろう。
土曜の夜に校庭が噴火し、校舎が火災に見舞われた次の日の夜に、何も無かった様な校舎があるだけで都市伝説のネタには十分だ。
ここは言峰が上手く情報操作するのを待つしか無いだろうな―――と、だし巻き卵が出来上がり食べ易く切り分けってと。
「よし」
後は魚が焼ければ出来上がりだな、と大根をおろす手を休めず考える。
……何か他にも忘れてる様な気がする?
一体何だ、とても重大な事の様な?
「ねぇ、朝ご飯。ランサーさんの分もあるかな」
トテトテと台所にアリシアが入ってくる。
ああ、そうかセイバーも食事が出来るのだからランサーも食べれて当然だな。
「食事は皆でしないと気分が悪いしな。
大丈夫、ちゃんと用意している―――」
そうか、俺が気にしていたのは食事の量だ。
しまった、英霊ってどれくらい食べるのだろう?
「いや、量はもう少し多めに作るか」
うん、だし巻き卵はもう一つ作っておこう。
「有難うお兄ちゃん」
「ああ、悪いけど朝食はもう少し待ってくれ」
「うん、待ってる。ポチお茶入った?」
後ろでは器用にもポチが急須でお茶を煎れている、と思う。
何故かというと傍目から見たら急須が宙に浮かんで湯呑に煎れているからだ、その後、人数分の湯呑が宙に浮きテーブルまで移動して行く。
「……これも、知らない人が見たら怪奇現象にしか見えないな」
急遽増産しただし巻き卵が出来上がり、魚の乗った皿と一緒にポチに運ばれて食事の準備が整うと玄関が開いた音がして。
「おっ早う士郎。おっ、今日は玉子焼きか」
虎が素早い動きでテーブルにつき料理を見渡していた。
「だし巻き卵だよ、藤ねえ……!?」
―――しまった!?俺が忘れてたのは桜と藤ねえの事だったんだ!!
まずい、この状況如何する。
いやまて、虎はまだ横にいるセイバーとランサーに気が付いていない……なら、このままで行けるか?
「朝から悪いな、世話になってるぜ」
だが、それも虎に相変わらずの姿でいるランサーが話しかけた事で終った。
「ん?あ、そうか貴方達が言峰さんから連絡があった切嗣さんの知り合いの。
確かコスプレが好きな……ランサーさんとセイバーちゃんね。
そっか、ニックネームで呼んで欲しいっていってたけど………ようやく解ったわ」
「―――コス…プレ!?」
虎から繰り出される言葉にセイバーは絶句している。
「はるばる海外から秋葉原や、その手の関係の会場を回る旅をしているって聞いた時はちょっと引いたけど。
うんそっか、よっぽど好きなんだね、海外じゃ日本のアニメは有名だから。
教会の言峰さんから話は聞いてるから、士郎ちゃんと二人を案内するのよ―――間違っても警察の世話にならない様にね」
「……おう、任せられた」
言峰が手を回してくれたのは有難いが。
あのエセ神父一体どんな説明を藤ねえにしたんだ。
何で、セイバーとランサーがアニメ好きのコスプレマニアなんだよ!?
「いや、落ち着け俺」
……良く考えれば、二人のあの鎧姿じゃ仕方ないのかもな。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
Fate編 第10話
藤ねえさんが「今日は桜ちゃん遅いね」と言いつつも朝食を食べ始めた時、電話が鳴りお兄ちゃんが出ると。
相手は桜姉さんからで、そのお兄さんの慎二さんって人が入院してしまい桜姉さんはしばらく来れないらしいけれど、不幸中の幸いとして命の危険性は無いとの事でした。
でも、慎二さんはお兄ちゃんの友達らしくとても心配してるのか難しい顔をして食事を食べていたよ。
だからなのかな、藤ねえさんとセイバーさんがおかわりを何度もするのも分からないらしく、代わりにポチがその役目を果たしてた。
ポチは偉いので、後でご褒美にバケツ一杯分くらいの渦をあげるとしよう。
で、ご飯が終わり一息つくと藤姉さんは、今日から一週間位、学校は色々な調査が入るので休校になるって言ってたけど。
言っていた藤姉さんは職員会議とかで忙しいらしく、来た時と同じく急ぐように出かけていったよ、学校の先生って大変だね。
とりあえず私は、ポチにご褒美の渦をあげようとバケツを取りに土蔵から出てくると、台所の洗物が終わったのか、お兄ちゃんがセイバーさんに頭を下げているのが窓から見えた。
何を話してるのかなと近づいてみると。
「すまないけどセイバー、俺に戦い方を教えてくれ」
とか話していた。
「……正気ですかシロウ、もしサーヴァント相手に戦う等と考えているなら、思い上がりも甚だしい。
(前回のシロウはギルガメッシュと戦った、その結果が如何であったかは判りませんが。
本来、人の身で英霊を打倒しよう等とは自殺行為に過ぎない)」
話しかけられているセイバーさんも真剣な表情を浮かべているよ。
「何もサーヴァントを甘く見ているんじゃない。
昨夜、バーサーカーの時……俺は何も出来なかった。
セイバーとランサーがバーサーカーを押さえてくれてるあの時、俺が動けたら話合いでイリヤを止められたかも知れないじゃないか。
いや、そもそもイリヤもアリシアもあんな小さい女の子が戦う何ておかしいだろ」
「ですからシロウが代わりに戦うと言うのですか?
結論から言えば、アリシアとシロウでは比較になりません」
ため息をしてるのか、少し間が空き。
「マスターでありながらアリシアは、バーサーカーの宝具すら超える程の神秘をもつ転移魔術が使え、現にバーサーカーを幾度か殺しています。
正直、あの転移魔術は一工程であるにも関わらず容易にサーヴァント殺せる規格外のモノです。
(私の対魔力ですら効果がありませんでした、もしアリシアが聖杯を求めるマスターだったのなら……その脅威は計り知れなかったでしょう)」
「ああ、実際目の前でバーサーカーがバラバラになった時は信じられなかった」
ん、もしかして空間転移ってこの世界じゃ難しいのかな?
「更に信じられませんが魔法の域に達しているのです、時間を止める事の出来るアリシアを見た目で判断しない方が良いでしょう。
(あの魔法は私の宝具すら跳ね返せるばかりか、校舎の時間を壊れる前に戻した。
もしかすると―――アリシアは例え殺されたとしても、それを無かった事に出来てしまうかもしれません)」
「次に」とセイバーさんは続ける。
「バーサーカーを失った今、イリヤスフィールはアリシア程直接的な脅威ではありませんが、危険と言うならば聖杯を欲していないアリシアよりも上でしょう。
イリアスフィールは教会に預けるべきです」
「ちょっと待ってくれセイバー、イリヤをどうかするか何て話は今は違うだろう。
そもそも、イリヤだって家族が居るんだろうから家に返さないと不味いじゃないか」
「……っ!?
(シロウは聖杯戦争をする魔術師が如何なる者達なのか理解していない。
アリシアしにても、魔法に達しているにも関わらず警戒心というのもが全く感じられ無い。
……せめて、凛が居てくれれば二人共少しはマシに成るでしょうに)」
真剣に見詰め合うお兄ちゃんとセイバーさん、でもそこに和室からイリヤお姉ちゃんが出て来る。
「なに。サーヴァントなのにマスターの言葉を聞けないの、そんなんじゃ騎士失格ねセイバー」
「―――イリヤスフィール!」
鎧姿こそしてないけど身構えてるセイバーさん。
やっぱりヘラクレスのバーサーカーさん虐めてただけあってイリヤお姉ちゃんは凄いんだ!
「待ちなさいセイバー、あなたに用は無いわ。
戦う気もないからそんなにいきりたたないでくれない?
……ほんと、おなじレディとして恥ずかしいわ。
わたしよりずっと年上なのに、たしなみってものがないんだから」
更にいきりたつセイバーさんに呆れた様に肩をすくめ。
「まあ、それも怒らないであげる。
今はあなたにかまってる場合じゃないもの」
イリヤお姉ちゃんはスカートの端を指につまむみ恭しくお辞儀をしてきた。
「え―――イリ、ヤスフィー?」
「礼を言います、セイバーのマスター、敵であった我が身を気遣うその心遣い、心より感謝いたしますわ」
「それと」と、窓を開け。
「そこで隠れているランサーのマスター。
まさか六人目とは知らず数々の無礼お詫びいたします」
「―――アリシアそこに居たのですか!」
「うん、何か大事なお話してるみたいだから邪魔にならない様にしてたんだよ」
でも何、六人目って?
―――ん、そうかサーヴァントのマスターが七人だから私が六人目なのか。
うんそうだね、お兄ちゃんがセイバーさん呼び出す前にランサーさんのマスターになったから私が六人目なんだね。
「わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
長いからイリヤでいいよ。それで、お兄ちゃんは何て名前?」
「俺…?俺は衛宮士郎だけど」
「エミヤシロ?なんか言いにくい名前だね、それ」
「……俺もそんな発音で言われたのは初めてだ。
いいよ、覚えにくかったら士郎でいい。そっちが名前だ」
「シロウ?なんだ、思ってたよりカンタンな名前なんだね。
そっかシロウか。……うん、響きは合格ね。単純だけど、孤高な感じがするわ」
「私はアリシア・テスタロッサだよイリヤお姉ちゃん」
「ああ、貴女の名は昨日聞いたからいいわ」
「そっか、もう知ってたんだっけ」
そうだった、昨日私の名前言ったよね。
「ええ、だから貴女はもういいわよ」と言われ。
「ね、お話ししよお兄ちゃん。わたしね、話したいコトいっぱいあったんだから」
イリヤお姉ちゃんはお兄ちゃんの腕に抱きつき。
お兄ちゃんも、
「セイバーすまない、先にイリヤの朝食を用意しないと。
イリヤもお腹減ってるだろ、作りながらで良いか?」
「もちろん!!」
と喜んでるイリヤお姉ちゃんと一緒に居間に入り。
セイバーさんも、
「シロウ、イリヤスフィールは危険なマスターです少しは警戒して下さい」
って言いながら入って行った。
居間で何を話してるのか少し気になるけど、邪魔しちゃ悪いし、ポチにご褒美の渦をあげなくちゃね。
土蔵から持ってきたバケツを、お兄ちゃんが使ってた強化の魔法の要領で私の力を少しずつ注いでいく。
「うん、出来た」
私の前にあるバケツは、以前とは違い白銀の輝きを放つバケツになっていた。
「これなら渦の中身を入れても大丈夫、漏れたりしないね」
早速、ポチを呼び出し「呼んだか」と地面から出てくるポチを両手で持上げバケツに入れる。
「今朝は頑張ったからご褒美だよ」
世界に穴をあけ無色の渦をバケツに満たしていくと、ポチは「何か力が湧いてくるぞ」と嬉しそうにバケツの中で泳ぐ様に回ってた。
「良かった、ポチへのご褒美だからね、気に入って貰えて嬉しいよ」
「つーかよ。何やってんだマスター、こんな所でバケツなんか光らせて」
見上げるとランサーさんが私とポチを見下ろしていた。
私の力を注いだバケツには、魔力が漏れない様にしてあるからランサーさんにも気が付かなかったみたいだね。
「うん、ポチへのご褒美のご飯だよ」
「って、おい、それ聖杯モドキの中身だろ。
たく、いくら持ってるからとはいえな、一応俺達はそれを巡って戦ってんだぞ、解ってんのかよ?
(つーか、このバケツが聖杯なのかよ……)」
「はぁ」と溜息をついてるランサーさん、その言葉にはっと気が付いた。
「確かにそうだね、皆戦ってるんだよね」
お兄ちゃんもさっきセイバーさんに戦い方を教えて欲しいって言ってたもの、私も戦える様に出来なくちゃ!!
「だから、ランサーさん私に槍の使い方を教えてよ」
「……は?って、何故そうなる!?それ以前にお前、魔法―――いや、やると決めた時の躊躇いの無さは良いがそれまでが全然だめだな。
要は経験がまるで無いのが原因だろうしな、良いぜ、で此処でやるのかマスター」
「ん~、此処じゃなくて道場でやろうよ」
「ああ。あそこか、良いぜ」
「じゃあ、一人にすると寂しいだろうからポチも連れて行くね」
言いながらバケツを持上げようとするけど結構重い、「う~」と力を入れていたら急に軽くなり、見ればランサーさんが持ってくれていた。
「さっさと行くぞ、マスター」
「うん、ありがとう」
教会ではお腹刺されて痛かったけど、ランサーさんは良い人なんだね。
「この辺で良いか」
道場へ入りポチの入ったバケツを置くランサーさん。
「ランサーさん、ありがとう」
「大した事じゃねぇよ」
「じゃあ」と私は魔力を用いてフォトンランスを二本組上げ渡す。
因みに魔力は私のリンカーコアから精製出来る量を超えてるけど、実は宝石を世界をずらした所で起動してるので魔力の量は十分余裕がある。
なぜずらしてるかというと、実は昨日宝石を起動した時気がついたけど、困った事にあの宝石周囲から魔力が丸解りだったりするんだよ。
以前、守護者になった兄ちゃんの記憶を覗いた時解った事だけど、魔術や魔法は周りに秘密にしないといけないみたいなんだ。
そのお兄ちゃんは秘密にしないでいたので、皆からあの人拙いね殺っちゃおうかって事で、魔術協会や教会から指名手配されちゃったらしいんだ。
私も好き好んで封印指定とか呼ばれる指名手配は受けたく無いからね、隠せるならそうしないと。
要はばれなきゃ良いらしいから。
「魔力で編まれた棍か、軽いしマスターが練習するには十分だな」
私の組上げたフォトンランスを振ったり回したりして何やら確認していた。
ランサーさんのフォトンランスは、何時も使ってる朱い槍と同じにしてあるので重さ以外は問題が無い様。
「でね、魔力を注ぐと伸びたり縮んだりするんだ、どれ位の長さにすると良いのかな?」
私はフォトンランスに魔力を注いで伸ばしたり縮ませたりしてみる。
「練習用だけあって随分面白い代物だな。
ああ、マスターはそれ位だろ。
じゃあ、始めるか。かかってきなマスター」
「うん、ランサーさん行くよ」
とりあえず、私はランサーさんがバーサーカーさんとの戦いの時した動きを再現する様にしてみる。
けど、突きを放った瞬間払われ、ランサーさんランスが私の心臓に当たってた。
速すぎて何が何だか解らない内に頭、鳩尾、お腹と次々に打たれる。
「今の突きは結構良い感じだたぜマスター」
「うっ、痛た」
「……マスターにはいきなり実践形式はきつかったか?」
「ん、痛かったけど大丈夫だよ」
「そうか、なら続けるぜ」
「うん」
それから少しランサーさんとの練習したけど、一方的にやられてただけだった。
私の動きはランサーさんの動作を模倣したものなのに何故こうも一方的に打たれるのだろう。
「なあマスター、動きは悪くないんだけどよ。
何か違うんだよな、なんつーかよマスターの動きは」
「……何が違うの?」
「筋も良い様だけど、こう体に合ってねぇんだ、マスターのはな」
「―――体に合ってない動き!?
そうか、そうなんだ!ランサーさん、解ったよ」
そうなんだ、ランサーさんの動きを模倣しても私とランサーさんの体格は違い過ぎる。
そもそも、この体格じゃまともにランサーさんの動きは出来ないのかも―――あ、そうかなら体の大きさを変えれば良いのか。
「ランサーさん、ちょっと待ってね」
ランサーさん動きが私の体格に合う様に計算しなおし。
同時に私の体が成長した時の体格を予測。
その両方が保てる理想的な均衡状態を導き出し。
その姿を世界を改竄し具現化する。
「お待たせ。あれ如何したの、ランサーさん?」
「……」
良く解らないけどランサーさんは茫然としていた。
如何したんだろと思いながらも、ランスの長さを再調整。
後、体の動きを試して動かしてみた。
「うん。さっきよりも動きが馴染む感じ、ランサーさん何時でも出来るよ?」
私の言葉に「はぁ」と力無く息を吐き。
「いやな、今回のマスターは何かと滅茶苦茶だと再認識しただけだ―――後よ、服破れちまってるぜ」
ほえ、と下を見ると確かに裸になってる。
「そっか、体大きくしたら破れちゃったのか。
でも、まあ良いよ服くらい、別に寒くも無いし練習しよ」
「……まぁ、マスターが良いって言ってんなら良いのか」
私もランサーさんも構え練習を再開した。
イリヤと話しながら朝食を作り、食べる間もイリヤは俺と嬉しそうに話をしていた。
そこで解った事はイリヤが親父の本当の娘で、結果として俺が親父を奪ってしまった事だった。
でも、セイバーは何でイリヤが危険だと警戒しているのか解らない。
確かに俺よりも魔術が上なのは解るけど、バーサーカーが居ない今はそれ程警戒する程じゃ無いと思う。
イリヤもバーサーカー以外はサーヴァントにする気は無いと言ってたしな。
むしろ、イリヤが親父の娘なら俺にとっては妹も同然、イリヤは俺が守らないといけない気がする。
確かにイリヤの安全を考えるなら言峰の教会へ預けるのが良いのかもしれない。
だが、あの神父にイリヤを任せて良いのか判断が難しい。
アリシアの時、言峰を見て本当に任せて良いのか迷ったが、遠坂の勧めもあり、ましてマスターである俺の側に居るよりは安全だろうと預けた。
が、如何してそうなったのか今でも解らないが言峰はアリシアに心酔してしまい。
アリシアは聖杯の修復の為マスターになった。
確かに聖杯の中に居るだろう、アンリマユを如何にかするにはアリシアの知ってる渦と交換するのが良い方法かもしれない。
けど、聖杯戦争に巻き込みたくないから預けたのにマスターにしてしまう言峰は信用出来ない。
まして、イリヤ自身も自分の家……なのか?
見せてもらった記憶のイリヤの家は正真正銘の城だ、あんな所にイリヤ一人を帰すのは間違っている。
今はイリヤも家に居たいと言ってるし、サーヴァントを失っていてもマスターである以上他のマスターからは狙われるだろう。
なら、此処にはセイバーとランサーの二人が居る。
それにバーサーカーは既に居なく、キャスターとアサシンは言峰が言うには柳洞寺から離れる事は無いだろうと言っていた。
残りは遠坂のアーチャーとライダーだけだが、恐らくライダーのマスターが一般人を巻き込んだマスターだろうから遠坂との共闘は無いだろう。
だから此処の方がイリヤの安全を守るのなら良いのかも知れないな、と道場に向かいながら考えて後ろを振り向く。
「イリヤ、セイバーに稽古をつけて貰うだけだから見ていても面白くないぞ」
「私がもっとシロウを知りたいからいいのよ」
言いながらも、見慣れないだろう造りの屋敷を何か楽しげに見回しているイリヤ。
その後ろにはまだイリヤを警戒しているのかセイバーがいた。
よし、俺もあの紅い男の様に目に見える全てとはいかないまでも、イリヤとアリシアを守れる様に出来ないとな。
セイバーに頼んで練習するんだから、せめて先に道場を掃除してからにしたかったな、そう思いながら扉を開けると。
そこは何か別の世界になっていた。
一度扉を閉め深呼吸。
「如何したのお兄ちゃん?」
「ランサーが居るようですが、我々は今同盟中です。
ましてランサーは気持ちが良いほどの騎士です、シロウを襲うとは考えにくい」
入ろうとしたのにすぐ閉めてしまった事に、イリヤもセイバーも何か感じたのだろう。
確かにランサーは居た、だがランサーは別に良いんだランサーは普通だから。
意を決し、再度開けてみると。
何時も見慣れた道場はランサーと、見知らぬ裸の美少女が光る棒を持って闘っていた。
「なんでさ」
現実とは程遠い光景に思わず呆然としてしまったが信じられない事に気がついた。
ランサーと少女は互角に闘っているのだ。
ランサーは兎も角として、全裸の少女の動きがまるでランサーと合わせ鏡の様に同じ動きで、残像を残す無数の突きを出し、それを払うと同時に突き払われていた。
正直な話、少女が全裸でなければこの高速で繰り出される棒を操る技量に魅入っていたかもしれない。
「ちょ、待て、ランサーそいつ何処の誰だ」
俺の声に二人とも闘いを止め。
「何処のってな……まあ、すぐには信じられないと思うがよ、これ俺のマスターなんだわ」
何か諦めが入った様な、達観した感じで答えるランサー。
「む~、ランサーさん、私これじゃないよアリシアだよ」
「アリシアってちょっとまて、アリシアは子供で俺の腰くらいなんだぞ!?」
「だから、何か成長するもんでも使ったんだろ」
如何やらランサーは詳しくは解らないけど、実際目の前に居るならそれはそういったものだろうと考えてるらしい、柔軟性があり過ぎるぞランサー。
「違うよ、世界に干渉して私の姿はこんな感じだよって書き換えたんだよ」
「もう、しょうがないな」と両手を腰に当て俺とランサーを見る。
って、全裸なんだから目のやり場に困るだろ!?
「―――っ、それより前隠せ、丸見えだぞ!!」
何かさらりととんでもない事を言ってた気がするが、俺にとってはこっちの方が重要だ。
「前をかくす?前って何処?」
解ってないのかアリシアは辺りをキョロキョロと見渡している。
「別に気にはしてないだろ、どうせ姿は大人でも中身はガキのまんまだしよマスターは」
確かにあれくらいの歳なら、裸でいても恥ずかしいとかは感じないのかもしれない、でもな。
「いや、アリシアが困らなくても、俺が目のやり場に困るだろ」
「ああ、そういうことか。
なに、マスターを守るのがサーヴァントの役割でもあるしな。
安心しな、マスターに何かする前に俺が相手してやるよ」
何かニヤリと俺を見る。
「いやいや違うだろうランサー、せめてアリシアに服くらい着せろ風邪引くぞ」
何でだろう、今、何故かここで変な回答をしたら人生が終わってしまう予感がした。
「お兄ちゃん、別に私寒く無いよ」
「そんなはず無いだろう、冬にそんな格好で道場にいたら俺でも風邪を引くぞ」
それ以前に裸で道場には行かないけどな。
「それなら大丈夫、寒くない様に書き換えるてるから。
それにね、私この姿で着れる服なんて無いよ」
あ、それもそうか。
「マスター、世界を書き換えたって言ってるけどよ。
なら、服着てる様に見せれば良いんじゃねぇか?
(世界を書き換えるか、まるで固有結界……まさか空想具現化じゃないだろうな?
まあ、魔法まで使えるんだからマスターが何をしても不思議じゃねぇかもな)」
「ん、あっ、そうか。ランサーさん頭良い」
「んと、じゃあの姿で良いかな」と呟くと白地に青が入った服、背中には金色の装飾と大きな羽が現れ―――何かやたらと神々しい感じになった。
「これで良いのかな」
ああ、言峰、お前が何でアリシアに心酔してるのか良く解った。
確かに教会でこれやったら神が降臨したと感じるだろうしな。
だからなのか、エーデルフェルトが魔術協会と教会両方に影響力があるのは。
でも、そんな感傷も後ろの二人の言葉で消えた。
「まったく六人目なのに、信じられないわ。
さっきのの貴女、唯の痴女よ」
「ええ、正直自分の目が信じられません。
まさかアリシアがこれほどの者とは、先程のは英霊の動きに匹敵している」
どうやら、イリヤにはあの神々しい感じも気にならないらしく呆れた様子で、やや遅れたセイバーは反対にランサー相手にあそこまで闘えている事を賞賛していた。
「まあな、さっきのは八割がた本気を出してたが、その様子じゃまだ本気を出してないだろうマスター」
ランサーは嬉しそうに棒を回してる。
「ん、私さっきから本気だよ?
別に速さはランサーさんと同じにって、変更してるから速くは出来ると思うけど、技術がついていって無いもん」
「俺と同じ速さだと?」
ランサーの顔が引きつる。
「うん、世界にランサーさんと同じくらい動けるよって変更してるから速さはランサーさんと同じになってる筈だよ。
でも、ランサーさん上手いからすぐランスが弾かれちゃうよ」
「成程、要はランサーと同じ能力を得たが、技量が足りない為一方的にやられてると言う事ですか。
(先程の動きではそこまでの差は感じられませんでしたが、たぶん相手と同調する魔術か魔法を使用したのでしょう。
もしくはアリシアの持つ渦、あれは聖杯と同じだ。
もしアリシアがそう望み、使ったのならそれも十分考えられる)」
何か納得したのかセイバーは冷静だった。
「―――っ、たく。
何処までもデタラメなマスターだ。
(この神々しさ半神どころじゃ無い、本物だ、あのクソ神父が神と言いきるだけあるか。
ついでに、まだガキなのに既に英霊の域に達していると来る、こりゃ将来楽しみだ。
機会があれば、本当に大人になったマスターと闘ってみたいもんだぜ)」
流石に呆れたのか、ランサーの表情には笑みが浮かんでいた。
「それでは、シロウ。私達も始めましょう」
「ああ、そうだ―――いや、此方から頼んでおきながら呆けていてすまないセイバー」
「いえ、正直私もアリシアには驚いていますから、シロウが気にするのも無理はありません」
そう言ってくれると助かるな。
俺はセイバーに竹刀を渡すと俺も竹刀を手にし。
「じゃあ、始めよう。頼むセイバー」
鍛錬の方針は全部セイバーに任せている。
「解りました。ですが私が教えられる事は、ただ戦う事だけです」
その言葉に偽り無いらしく、ましてや一朝一夕で戦闘技術が身につくなどある訳無く、そもそもセイバーは人に教えるのは苦手との事だった。
更に寸止めなし実戦形式で、だ。
初めはセイバーの容赦無い打ち込みや、体当たりで何度か意識が刈り取られていた。
だが、その容赦無い反撃もあの夢に出てきた紅い男の動きをイメージし、握り直しただけで何となくだが軽く扱い易くなった気がした。
「むっ!?(これはアーチャーの剣筋と同じ!
いえ、それ以前に何故こうも技量の上達が早いの―――まさかもうアーチャーが、このシロウに影響を与えているのですか!?)」
相変わらずセイバーは呼吸を乱さずこちらの踏み込みを裁いている。
俺も思いのほか体がセイバーの竹刀に反応してくれた分、何とか気を失うという最悪の状態を回避出来る様になった。
こうして道場で俺とセイバー、大きくなったアリシアとランサーがそれぞれ練習をする事になり。
それを、イリヤが珍しいそうにそれを見ていた。
まあ、簡単に言えば俺がセイバーと打ち合える訳が無く、ただ一方的にセイバーにやられていただけなんだが。
それでも、解った事はある―――勝てないヤツには何をやっても勝てない。
そんな初歩的な事も俺は解っていなかった事を思い知った。
だが知った以上、セイバーがその気になって相手をしてくれれば俺は確実にあの紅い男に近づけるだろう。
―――何故かそんな確信が持てた。