ビルの屋上に舞い降りてくる白い光。
白い光の正体は今回の聖杯戦争にライダーのクラスで呼ばれたサーヴァント、天馬を召喚したメドゥーサは天空を疾駆し、僕の指示した通りアーチャーを弄りながら力の差を見せつけていた。
「……いいぞライダー、予定道理じゃないか」
間桐慎二はようやく自分の思う通りに事が進んだ事を哂う。
思えば聖杯戦争に関する事だけでも、上手くいかない事ばかりだった。
一つ目は、学校に仕掛けた結界が起動出来なくなった事。
これは、御爺様が言うには学校の校庭が噴火したとかでライダーの宝具『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』の起点である地脈が狂ってしまった事により起動出来なくなってしまったらしい。
流石にすぐには信じられず、学校で火災が発生したニュースが今朝テレビで流れてなければ、ついに御爺様がボケたと思った程だ。
二つ目は、令呪の宿した衛宮を利用してやろうと思っていたのに出来なかった事。
あのお人好しの事だ、僕が魔力回路を持たない半人前のマスターだけど、間桐の家の為に仕方無しにマスターをしていると言えば、同情して僕の思う様に動かせる木偶になった筈だ。
どうせ衛宮如きじゃ聖杯戦争は勝ち抜けないさ、だったらせめて僕が有効に利用してあげようって思っていたのに、って言うかさっさとサーヴァントくらい召喚しろよ!
三つ目は、新都で以前から気にいらなかった美綴にライダーをけしかけ、精々僕の役にたってもらおうとしたところで遠坂が現れて失敗した事。
四つ目は、その遠坂のサーヴァント、アーチャーにライダーが近接戦で敵わなかった事だ!!
でも、ライダーが言うには必殺の宝具―――ランクでいえばA+もの大軍宝具ある、これなら遠坂のサーヴァントも終わりだ!!
ただアーチャーの傍を走るだけ、そうさ、ただそれだで追い詰めているのだから!!
遠坂にも見せてやりたかったよ、この光景を僕の力をね!!
どうせ、美綴相手に記憶操作でもして遅くなっているのだろうけど、そろそろ来てもおかしく無い時間か。
なら―――精々遠坂が来るまでの間、アーチャーに実力の違いを思い知らせながら絶望させ遠坂が来たら目の前で消してやるんだ。
そうしたら遠坂は僕に跪いて命乞いするだろうから、この前僕を侮辱した分も含めて散々弄った後で桜と同じく玩具にしてやるんだ、姉妹仲良く間桐の魔術師である僕の玩具になるんだから遠坂だって幸せだろうさ。
「大した英霊とは感じられませんでしたが、その頑丈さには驚きました」
「そう言われてもな。ただ避けているだけだ、褒められる様な事はしてい無いさ」
「成る程、ですがそれに意味はありますか?貴方には勝ち目などない。散るしかないのなら、潔く消えなさい」
静かに事実を告げるライダーに対しアーチャーは「クク」と哂い。
「なに、諦めか―――出来たら良かったのだが……生憎な事に私は諦めが悪くてね。
それに―――別段、打てる手が無いわけではないのだよ」
アーチャーは余裕なのか自然体で上空にて翼を休める天馬を見上げていた。
くそっ、なんなんだよあの余裕―――気に入らない!
遠坂が来るまで散々弄って、実力の差を思い知らせようとしてたけどもういい―――消してしまえ!!
「やれライダー!手足一本残すなよ!!」
遠坂が来たら来たで、「お前のサーヴァント、アーチャーはもう消えたよ」って言えば良いさ。
過程は少し代わるけど、結果は同じく遠坂は僕に跪くしかないんだから。
高度を上げ、旋回し、彗星と化したライダーが落ちてくる。
「―――――は。はは、あはは、あはははははは!」
勝った。
僕は遠坂のサーヴァントに勝った、ならそれは僕が遠坂に勝ったと同じ事だ。
そうだ、間桐の魔術師であるこの僕が遠坂に勝ったんだよ!!
「――――投影、開始(トレース・オン)」
アーチャーは何か呟くと鉛色の球体を現した。
はっ。
今更何をしも無駄なのに、そんな事もあのサーヴァントは解らないのかよ。
「後より出て先に断つもの(アンサラー)」
僕が見てる中、球体が変形し光る短剣と化し。
「騎英の手綱―――――!!!(ベルレフェーン)」
真名を開放し、光の奔流となったライダーに向け。
「斬り抉る戦神の剣―――!!(フラガ・ラック)」
アーチャーもまたその真名を開放した。
その瞬間、白色彗星と化していたライダーが元の天馬に跨った状態になり止まっていた。
「ひっ……!」
突然燃え出した本に慌て悲鳴を上げてしまう。
「あ―――あ、あああ…!燃える、令呪が燃えちまう……!」
これが無ければ僕は魔力回路を手にいれられない―――魔術師になれないんだ!!!
それなのにどうして!?
「間桐―――慎二、だな」
アーチャーと目が合う。
くっ、ライダーは何をしてるんだ!?
見上げればライダーは薄れ消えてゆく途中だった。
「ひ……!は、あは―――」
それだけで現実に引き戻される。
結果、ライダーは負けたのだ。
くっ、如何してこんな事になってしまたんだ!?
いや、それ以前に全然予定と違うじゃないか、何だよあの宝具!?
あんなデタラメあっていいのかよ!!
ライダーの宝具は一番強いんだろ!!
なのにライダーの宝具を無効にって、アーチャーのクセにどんな反則だよ!!
僕はアーチャーに背を向け、そのまま出口へと走り出そうとした瞬間。
「ひぃ!?」
足元に矢が刺さった。
振り返れば洋弓を手にしたアーチャーがたたずんでいる。
「くそ、くそくそくそ!
何が私の宝具は無敵です、だ……!あの口だけ女、よくも僕を騙したな……!!!余裕ぶってるから寝首をかかれるんだよ、間抜けがっ!!!」
「大方、貴様がそう命じたのだろう間桐慎二」
僕を見てふうと溜息をはいたアーチャーは。
「そもそもライダーは得物を弄る性格では無さそうだしな。
アレだけの大軍宝具、使うからには必殺。
―――なに、私としては君と言うマスターが相手で楽をさせて貰った、礼を言わせてもらう」
「くっ、なんだよ―――」
たかがサーヴァントの癖に、そう言いかけると背後の出口が音を立てて開き一人の少女が飛び出して来た。
「っ、いた!見つけたわよ、慎二!!」
振り返る瞬間。
「あ……と、遠坂」
僕が未熟な魔術師だから、とか話せば何とかなるだろうと思ったのもつかの間、遠坂が僕に指を指すと同時に黒いモノが当たった。
その後は覚えていない。
気が付いたたらベッドの上で、全治一ヶ月程の全身打撲で入院していたからだ。
「あの後何が起きたんだ……」
動けない僕は他にやる事も無く、ただそれを考えていた。
とある『海』の旅路 ~多重クロス~
Fate編 第9話
深夜、私達は今柳洞寺へと向かっている。
先頭に立つのはお兄ちゃん、その後ろに私とポチ、黒いロングコートを羽織ったセイバーさんがついていく。
何でセイバーさんがロングコートを着ているかと言うと。
ランサーさんは霊体化すれば傍目からは見えないから問題は無かったけど、不慮の事故なのかな?
無色の渦を垂れ流し、満たした中で召喚した事により召喚するなり受肉してしまったセイバーさんが鎧を外すのを嫌がったんだ。
そこで、昼間見つけたお兄ちゃんの養父、衛宮切嗣さんが使っていたらしいロングコートを着て貰ったんだよ。
でも―――
「きっと何か方法はあると思うから元気出してよ」
落ち込んでいるだろうセイバーさんに言う。
セイバーさんを召喚した後、その願いを叶える為に渦の力を用いた事を思い出す。
物作りで例えるなら渦や聖杯は資材、当然作るのなら設計等の計画が必要となる。
だから、私が設計役としてセイバーさんの意見を踏まえ、願いを叶える計画を何百通り立てたのだけど。
結論から言うとセイバーさんの行った行動は概ね正しくて、他の候補者では八割がそこまで辿りつくことは出来ず。
二割の内、一割程は同じか、中には数年程国が滅びるのは先延ばしされたけど。
結局は内乱が起きたり、毒殺されたりして国は分裂、滅びていきました。
で、残りの一割程に至っては論外で……私欲に奔り自滅していたんだ。
此処まで来ると、もう何か滅びる運命が決まっていた感じがしたよ。
なので別の星に移住する事にしてみたら、時間の矛盾から今度は現在に影響が出たりして何億もの人々消えてしまう事になり却下。
そこで、最後の計画ではセイバーさんを男にしてみる事にしたんだけど。
その計画でも余り変わらず……更には、毎回同じく奥さんが友達と不倫しているのを見て「くっ、ランス……よもや………私が男性でも、貴方と言う人は!」とセイバーさんは怒っていてトテモコワカッタデス。
一緒に歩いているお兄ちゃんも、セイバーさんに何て言えば良いのか解らずにいて声をかける事が出来ないし―――悪い事したかな?
「いえ、あれだけ考えた方法で駄目でしたから……これが私の運命なのでしょう」
セイバーさんは気持ちを切り替える為か深く息して整え。
「貴女に感謝を、貴女のお陰で私は自分の運命に向き合えた。
(聖杯ですら変えられぬのを見た今なら当然と感じれる。
国を維持していたのは私の判断だけでは無い、他の騎士……優秀な配下達が居たからなのだ。
彼らとの絆を見ていなかったのは確かに私の失敗だ。
だがそれを含めても滅んでしまった本当の理由は、アリシアいわく国の寿命らしい、繁栄すれば当然何時かは衰退する。
人が常に成長している以上、永久不変の国等ありはしない。
そして王は国を護ったが、国は王を護らなかった……ただそれだけの事だ。
それに―――アリシアは言っていた。
永い年月、幾度も国が繁栄と滅びを繰り返す事でこそ、その国の人々は強く成長出来るのだと。
国が滅びた事も、私の死も全ては後の人々の糧として生きる。
無意味ではなく、意味はあるのだと言っていた。
ただ、あの時のアリシアはまるで……自ら経験して来た事の様に悲しみと説得力があったのは気になる処ですが)」
セイバーさんに……何か探る様に見られているので落ち着かないけど、元気を取り戻してくれたのなら良い事かな。
「なら、聖杯戦争が終わったらセイバーさんの祖国があった所が如何なっているのか見に行こうよ」
「そうですね。今、あの地にて生きる人々が如何暮らしているのか気になります―――ですが」
坂の下に視線を向ける。
つられて視線を向けると、そこには一人の女の子が立っていた。
その後ろには大きな人が控えている。
「―――ねえ、お話は終わり?」
私は覚えているあの人の事を。
あのお姉ちゃんは『早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん』と親切にも警告をしていた人だから。
「よう。そっちからなんて、今日はえらく積極的だなバーサーカー」
何かびっくりして硬直しているお兄ちゃんの前にランサーさんが実体化するとお姉ちゃんに挨拶していた。
如何やらあの人の名前はバーサーカーらしいね。
「今晩はバーサーカーさん、私はアリシア・テスタロッサと言って、ランサーさんのマスターをやってるんだよ。
バーサーカーさんのサーヴァントは何て言うの?」
聖杯戦争でも挨拶は必要だよねと思い、ランサーさんの隣に出て頭を下げて挨拶をしたら。
「アリシア……バーサーカーはサーヴァントのクラス名です」
後ろからセイバーさんに間違いを指摘された。
「サーヴァントのクラス名と人の名前の違いも解らないなんて、魔術師以前の問題よ貴女」
はう……貴女、碌に挨拶も出来ないのって言われたみたいでとても辛い。
「あう、お姉ちゃんの名前じゃなかったんだ……」
「まあ、良いわ」
そう言ってお姉ちゃんはお兄ちゃんに視線を向ける。
「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」
「……ああ、君もマスターだったんだ」
半裸の男の人を見てから顔が引き攣っている。
私から見ても立派な筋肉だから驚いてるのかな?
でも、大丈夫だよ、お兄ちゃんだって負けてないんだから、だって美味しい料理を作るのに筋肉は決定的な要素じゃないからね。
「ええ、そうよ。わたしはイリヤ。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?」
「………ごめん、解らない。アリシアは解るか?」
ギギとぎこちなく動かし私に顔を向ける。
「ん~。お姉ちゃん、お兄ちゃんに危険を知らせてくれたから、親切なご近所さんじゃないかな?」
「いや、遠坂もそうだけど近所の魔術師って俺知らないから」
「―――そう、キリツグから聞いていないのね」
私達の反応が気に入らないのか、お姉ちゃんは頬を少し膨らまし。
「じゃあとりあえず、殺すね。やっちぇえ、バーサーカー」
何か楽しそうに言い放った。
「■■■■」
バーサーカーさんの巨体が爆ぜる様な勢いで私達の距離を詰め。
「下がってな」
「―――シロウ、アリシア、下がって!」
ランサーさんとセイバーさんが駆け出し、バーサーカーさんの大剣をセイバーさんは受け止め。
その瞬間にはランサーさんの槍がバーサーカーさんの頭、喉、心臓等を突いていた。
「ちっ―――やはりな」
槍が突き通せないのが不満なのかランサーさんは舌打ちしている、外皮が厚いのかなと思い視ると何か特別な力で保護されてるみたい。
「だから裸でも大丈夫なんだね」
冬なのに周囲の環境を書き換えたりしてないのに、あんな裸同然の格好で実体化していていたら普通は風邪引いちゃうもの。
裸でも大丈夫な守りが有るのは当然か。
私がバーサーカーさんの守りに気がついたその間にも、バーサーカーさんの旋風じみた大剣が唸り塀や道路、触れてもいないのに家々の門や植木とかを容赦なく壊していた。
……よくこの辺の人達、苦情に出てこないね?
良くある事だからって慣れてるのかな?
そういえばテレビで最近治安が悪くなったて言ってたけど、うん、これがそうなんだ。
―――あっ、もしかしてテレビでやってたご近所殺人事件とかってこんな事から始まるのかな?
あう、だとしたらランサーさん、セイバーさんにお兄ちゃんやお姉ちゃん―――怒ったご近所さんに包丁で刺されちゃうかしれないよ!!大変だ!?
「これが―――サーヴァント同士の戦いなのか」
見ればどうもお兄ちゃんはお姉ちゃんに会ってから何時もの調子を無くしている。
やっぱりご近所さんの迷惑だから困ってるのかな?
それに、サーヴァントが戦っている最中、私達マスターは如何したら良いいのだろう?
怒って出て来た家の人達に刺される前に謝れば良いのかな?
そう思いつつも視線を戻せば。
セイバーさんの剣が大剣を受け止めるけど、衝撃を相殺出来ずに後ろに押し戻されたり。
自分の持つ槍ではバーサーカーさんの守りを貫けないのが解っているランサーさんは、それでも諦めずに槍を突き放ち、大剣に絡めるようにして払うとセイバーさんの為の隙を作り出していた。
ランサーさんの作り出した隙を見逃す事無く、コートを吹き飛ばしながら魔力を爆発させる様に放つと、途轍もない速さでバーサーカーさんの懐に入ったセイバーさんは守りごと斬り裂く。
「■■■■」
痛いのか叫び声をあげてるバーサーカーさん、そりゃ胸から下を斬られれば痛いよね―――大丈夫なのかな?
「……ふうん。大した事の無い英霊だと思ってたけど、なかなかやるじゃない貴方達」
お姉ちゃんは、自分のサーヴァントが怪我をしたのに微笑んでいた。
あれ、もしかしてバーサーカーさんってマスターであるお姉ちゃんからいじめられてるのかな、だとしたら可哀想だよ。
「ちっ、しくじったかセイバー」
槍を構えバーサーカーさんを見据えるランサーさんはどうも今の事が不満な様子。
「いえ、確実に一つは奪ったはずです」
「一つ―――だと?」
セイバーさんの言葉に怪訝な表情をするランサーさんだったけど。
「あは、良く解ったじゃないセイバー。
そうよ、そこにいるのはヘラクレスっていう魔物、あなた達程度とは格が違う英雄、最凶の怪物なんだから。
宝具は十二の試練(ゴット・ハンド)。
だから後十一回は殺さないと私のバーサーカーは倒せないわよ」
クスと微笑むお姉ちゃんは自慢するように、ううん違う、バーサーカーさん虐めても死なないから好きなだけ虐めても良いって言ってるんだ。
酷い、それに痛い思いをして十二回も殺されるなんてバーサーカーさんってとても可哀想だよ……
「ヘラクレスだって!?」
驚いているお兄ちゃん。
だけど―――
「ん、お兄ちゃんヘラクレスさん知ってるの?」
「―――っ、なに貴女、聖杯戦争に参加していながらヘラクレスを知らないの」
あう、イリヤお姉ちゃんに何故か白い目で見られている気がする。
「……もういいわ、戻りなさいバーサーカー。
つまらない事は初めに済まそうと思ったけど、まさか聖杯戦争にヘラクレスも知らない子が参加してるなんて、ホントありえないわ」
バーサーカーさんは、ランサーさんにセイバーさんを警戒を解かずお姉ちゃんの方に後退してく。
「何だ、これで終いか」
「いえ、ランサー。
ここは引いて貰った方が良いでしょう。
シロウもアリシアも聖杯戦争を知らなさ過ぎる」
「……確かにそうだな。たく、うちのマスターにどんな説明しやがったんだアーチャーのマスターは」
ランサーさんとセイバーさんはそれぞれ思う処があるのか口々にしていて。
「それじゃあバイバイ。次は殺すからね「駄目だよ」――っなに貴女、見逃してあげた事も解らないの?」
帰ろうとしていたお姉ちゃんを引き止めると、お姉ちゃんの目には何故か侮蔑の色が浮かび上がる。
「だってお姉ちゃん、放っておいたらヘラクレスって人を使って悪い事するんでしょう。
だったら駄目だよ、それに後十一回も痛い思いしながら殺されるなら今、楽にしてあげるよ」
私の言葉に「えっ?」と一瞬目を大きくしたと思うと、「へぇ」と何故か笑顔で私を見つめた。
……何か変な事言ったかな?
「そう、言うじゃない。解った、誓うわ貴方達は此処で終わらせる」
お姉ちゃんの言葉に私は横に首を振り。
「お姉ちゃん、此処じゃだめだよ。見てごらん道路も塀もいっぱい壊れてるんだよ―――これ以上、近所迷惑しちゃ駄目だよね」
いくらこの辺の人達が温厚だとしても、流石にこれ以上は近所迷惑だと思う、本当に住んでる人達に包丁で刺されちゃうかもしれないし。
やっぱ暴れるにしても場所は選ばないといけないよ。
じゃないと明日、藤姉さんに私も悪い事したって怒られちゃうもん。
「はぁ、貴女なに言って―――!?
(あの子さっきまでと雰囲気がちが――っ、なにバーサーカーが警戒して構えている!?)」
「ポチ、この辺で広い場所って解るかな」
私が見た途端、何故か足元にいたポチが怖がってお兄ちゃんの方へ転がって行く。
ああ、そうかポチは存在を色で認識しているから、今の私がバーサーカーさんの苦しみから解放しようとしてるのを怒ってると感じてるのかもしねないね。
でも、「こ、この近くなら学校って場所が広いぞ」と答えてくれる。
ここからその学校を視て認識、うん、学校の校庭ならそれなりに広いし、荒れたとしてもポチに直してもらえば何とかなるから大丈夫だね。
「じゃあ、場所を変えようか」
校庭が何故か沼になっていたので、先に空間転移でポチを送り上の方の水分を移動させ足場を作らせた後、時空間転移によりポチより時間をずらして校庭に移動してもらう。
他にも近所の迷惑にならない様、この宇宙を止め此処以外に時間が存在しない様にした。
一瞬暗くなったけど、過去の月の光を持ってきて光源としてみたら結構明るかったよ。
うん。
これで、ご近所さんの迷惑にはならないね。
沼地と化していた学校の校庭はポチに作らせた急場凌ぎなの足場なので少しぬかるんでいるけれど、そこにイリヤお姉ちゃんとバーサーカーさんを前に、ランサーさんやセイバーさん、お兄ちゃんと私の四人はお姉ちゃん達と対峙している。
「なに―――これ、まさか空間を渡った」
「―――成る程、アイツが言っていたのもあながち嘘じゃないな」
「私の対魔力ですら何の効果が無い―――まさか!?」
呆然とするお姉ちゃんに、ランサーさんは楽しそうにしているけど、セイバーさんとお兄ちゃんは少し呆けているみたい。
取敢えず、先ずはランサーさんにパスの繋がりで話しかけランサーさんの必殺技を教えて貰事い。
同時に―――。
「お兄ちゃん、正義の味方を目指してるんでしょ。
どんな正義を背負うのかは判らないけど、今は戦ってでもお姉ちゃんを止める時だよ」
お兄ちゃんの精神に干渉して奮いたたせると効果があったのか。
「―――ああ、確かにそうだな。あんな小さな女の子がサーヴァントで人を殺すなんてさせていいわけが無いんだ!」
「うん。よく解らないけど、その意気だよ」
じゃあと、宝石を取り出し起動させランサーさんに魔力を供給させる。
「ランサーさん、悪いけどこの戦い私も干渉させて貰うよ」
お姉ちゃんに虐められて、戦いを強いられているいるバーサーカーさんを殺す事で救う。
これはもう決めた事、でも自身の最強を証明しようとするランサーさんの目的とは合わないと思っていた―――けど。
「はっ、何言ってやがるだ?
元々、聖杯戦争ってのはなマスターとサーヴァントが一緒にやって行くもんだろ。
お前に何か策があるならやれるだけやってみろ、失敗したならその時は俺に任せればいいんだ」
そう言ってくれセイバーさんと一緒にバーサーカーさんへと向かう。
「そうなんだ……ん、解ったよ。じゃあやってみるよ」
だからもう心残りは無い。
「バーサーカー、あの子何か変よ!何かする前に殺しなさい!!」
後はバーサーカーさんを苦しまない様に終わらせるだけ。
「■■■■」
先程と違ってセイバーさんの剣が届かなくなり、バーサーカーさんはランサーさんとセイバーさんを脅威と見なさず、一息で私との距離を詰め大剣を振り下ろした。
「危ない、アリシア!」
そこに両手に剣を握ったお兄ちゃんが私の前に飛び出し大剣を受けようとする。
「くっ、シロウ!」
叫ぶセイバーさん、でも―――安心して。
「なっ消え――た、うわっ」
同時に降り注ぐバラバラになった肉塊。
「終わり、かな?」
やった事は少し前と同じ空間転移。
違いといえば、バーサーカーさんを空間転移で少し上に転移させる時に数百個に分けた事くらい。
だから転移した後はバラバラになって落ちるだけなんだけど……あれ、まだ生きてる?
「そんな、バーサーカー……貴女、一体になにをしたの!?
(なにこれ!?今の一瞬でバーサーカーが十回も殺された!?)」
何か困惑気味のお姉ちゃん。
難しい事した訳じゃ無いけど、解らなかったのかな?
「ん、バーサーカーさんの身体をバラバラにして転移させただけだよ。
でも、凄いねバーサーカーさんまだ生きてるよ」
凄い事になにか煙を上げながら肉と肉がくっついて元に戻ろうとしている。
あう、バーサーカーさん余計に苦しめちゃったよ。
この世界を驚かしちゃうけど、世界を創造してすり潰しておけば良かったのかな?
世界と世界の狭間ですり潰せば確実だったと思うし悪い事しちゃったよ。
「ご免ランサーさん、失敗しちゃったよ後はお願いして良いかな」
バーサーカーさんに悪い事をしたなと思いながらも、失敗してしまったので後はランサーさんに任せる事にしよう。
「何言ってやがる上出来だ。止めを刺すから二人とも下がってな」
「……ああ―――んっ!?」
「うん」
ランサーさんに言われたお兄ちゃんと私は頷きをいれるのだけど、私はお兄ちゃんに「急げアリシア!!」と脇に抱られてしまい脚を強化したお兄ちゃんは急いで校舎の影へと避難する。
そうだった確かお兄ちゃん『突き穿つ死翔の槍』(ゲイ・ボルク)を昨日受けたんだっけ。
ん~、確かポチも痛いって言ってたから教えてあげないとね。
でも、伝えてみたら何か大丈夫だって返してきたよ。
何でも、サーヴァントは魔力で構成されているらしいからバラバラになったバーサーカーさん取込んでみたら以外にも美味しくて力が湧いて来たんだって、それで前に受けた槍ならもう大丈夫って言ってた。
そっかポチってサーヴァントも食べれるんだ。
私、親なのに知らなかったよ。
凄いや、ポチも色々成長してるんだね。
ポチとそんなやり取りしている間にもランサーさんは自分の周囲に何か書き自身の力を強め。
まだ、足が再生出来ないで動けないバーサーカーさんから一瞬で距離を取り構えると、私を通して宝石から魔力を取込む。
でも、バーサーカーさんの護りにはアレでも足りないと思うから。
「令呪、次の宝具使用時に自身の全力以上の力を発揮して使用して」
と、神父さんから教えて貰った令呪が発動させ六画あった私の紋様の一つが薄くなっている。
「令呪まで使われちゃあな。この一撃、せめて手向けとして受け取るがいいバーサーカー!」
ランサーさんは何かとても嬉しそうに低く構え直すと姿が消え、その後に衝撃波が走ってる事から軽く音速を超えていたと思う。
「―――突き穿つ(ゲイ)」
三角跳びの要領で校舎を踏み台にしてたらしく、気が付いたらとても高く跳んでいて弓を引き絞るよううに上体を反らし。
「死翔の槍―――!!!(ボルク)」
声と同時に槍を投げると直後に凄い衝撃が来た。
「くっ、これがゲイ・ボルクのもう一つの使い方ですか」
私とお兄ちゃんの前にはいつの間にかセイバーさんが居て剣から竜巻を出しながら衝撃波を緩和していた。
その渦の根元、それまで不可視の刀身だったモノからは僅かに黄金輝く刀身が見えてくる。
―――トレイター?
一瞬、反逆の名を冠する召還器トレイターを連想した。
けど違う、秘めてる存在力は救世主並みにあるけれど、個人の力じゃないんだ多くの想いが集まって出来た感じがするよ。
その輝きは見ていてとても心地良い感じがして見とれてると、ポチが「痛い痛い」と訴えてきた。
あれ?
大丈夫じゃなかったのかな?
怪我してたなら後で治してあげないと。
衝撃波が収まれば、槍が刺さった場所は大穴が出来ていてその衝撃の凄まじさを伺わせてる。
「やった―――のか、バーサーカーを?」
「……いえ、如何やらイリヤスフィールが令呪を使った様です」
バーサーカーさんの様子を確認しようとするお兄ちゃんだけど、セイバーさんの視線の先には大男が片膝をついて座っている。
その後ろには隠れる様にお姉ちゃんがいた。
む~、お姉ちゃんはバーサーカーさんを盾にしてまた虐めてるよ!
でも―――
「バーサーカーさん凄い回復力してるね……」
さっきまで人型の姿すらしてなかったのに……生前からあんな感じだったのかな?
だとしたら男の人とはいえ、赤と白の精霊は何で生前のあの人呼ばなかったのだろう?
ううん、もしかしたらバーサーカーさんが生きてた頃なら女の人でも強い存在力を持った人が居るかもしれないのに?
「恐らくは令呪で回復を促し、更にもう一つ用いて自分の前に移動させたのでしょう」
「―――っ、令呪ってそんな事も出来るのか?」
セイバーさんの言葉にお兄ちゃんは自分の令呪がある手を見て表情を変えている。
「そうです。令呪はサーヴァントに強制させる以外にも、先程のアリシアやイリヤスフィールの様に能力を増幅させる事も可能です」
「じゃあ、もう一回やれば良いんだね?」
私の言葉にセイバーさんは首を横に振り。
「いえ、それには及びませんアリシア。
忘れましたか―――私達は同盟中なのですよ」
バーサーカーさんを静かに見据えていたセイバーさんは視線を兄ちゃんに向け。
「シロウ、私の宝具を使用します」
「そっかセイバーのエクスカリバーなら、ランサーのゲイ・ボルクよりもランクが上だよな」
「はい、私の宝具のランクはA++の対城宝具、バーサーカーの十二の試練(ゴッド・ハンド)を斬り裂くには十分です。
イリヤスフィールが令呪を使用しなければならなかった状況からみて、バーサーカーの命は後二、三といった処でしょう。
更にイリヤスフィールの残り令呪は恐らく一つ、先程の様には出来ない筈です」
「解った、宝具の使用はセイバーに任せる」
「了解しましたシロウ、バーサーカーは必ず倒します」
そう言うセイバーさんは油断無くバーサーカーさんに向って行く。
「そういう訳ですランサー。
貴方には悪いですが私の宝具がある以上、これ以上アリシアに令呪を使わせる必要は無いでしょう」
「仕方がねえか、マスターも納得してる様だしな―――まあ、良いぜ。
噂名高いアーサー王のエクスカリバー、どれ程のものか見せて貰うさ」
呼び戻したのか槍を手にしたランサーさんはセイバーさんに任せると見物を決め込んだよう。
「悪いけど今日は此処までにしておくわ、バーサーカー!!」
でも、状況が不利だと判断したお姉ちゃんは馴れた動きでバーサーカーさんの肩へと乗り。
「■■■■」
先程まで肉塊だったとは思え無い速さで、バーサーカーさんは近くだった校門へと駆け抜け―――止まった。
「如何したの!?
バーサーカー早くしな―――っな、にこれ……外が真っ暗」
お姉ちゃんが恐る恐る見てるなか、バーサーカーさんが手にした大剣で叩くが火花が飛び散るだけで変化は無い。
「ぷう、駄目だよお姉ちゃん。バーサーカーさんは此処で終わらせるんだから」
お兄ちゃんと一緒に見物に徹したランサーさんが居る所まで行く。
「マスター、ありゃ結界なのか?」
「っ、結界!?。(あのバーサーカーでも壊せない結界ってあるのか?)」
ランサーさんとお兄ちゃんが怪訝そうに見つめる。
「うん、大きな音で近所の迷惑にならない様に学校の周りの時間を止めたんだよ」
「時間!?」
「ちょっと待て!マスター、時間って魔法が使えるのか!?」
お兄ちゃんもランサーさんも何故か驚いてる?
時間制御の方法って複数の世界では技術が確立してるから珍しく無いと思うけど、この世界では珍しいのかな?
「―――う……そ、貴女魔法使い………なの?」
「ん?お兄ちゃんやお姉ちゃんに、管理人の凛さんだって魔法使いでしょ?
それに神父さんに聞いたけどマスターの条件の一つが魔力を持っていて、魔法が使える事じゃなかったのかな?」
お姉ちゃんも何故か解らないけど酷く怯えた様になっている。
あう、これじゃあまるで私が虐めてるみたいだよ。
「此処で倒れろバーサーカー」
そんな事など構わずセイバーさんは油断も隙も無く間合いを詰め。
「くっ、私のバーサーカーは最強なんだから!!」
覚悟を決めたのか、お姉ちゃんもバーサーカーさんの肩から降りると素早く距離を取り。
「―――狂いなさいバーサーカー!!」
「■■■■■■■■――――!!!」
そう、お姉ちゃんに命じられたバーサーカーさんは、今までよりも大きな声で吼えるような叫び声を上げ様子も一変した。
「っ、バーサーカーの力が上がった!?」
「……だが、終いには変わらない。
マスターが魔法を使う前にやれば良いものを……遅すぎだな、ありゃ」
「今まで狂化していなかった訳ですか、ですが―――」
それまでの雰囲気が豹変するバーサーカーさんにお兄ちゃんは驚くけれど、ランサーさんは冷静に観察していて、同じようにバーサーカーさんを油断は出来ないものの脅威とはみなさなくなったのかセイバーさんの持つ剣からも黄金の光が宿り。
「―――遅すぎました」
セイバーさんが込める魔力が光へと変換され収束していった。
「約束された勝利の剣――――――!!!!(エクスカリバー)」
セイバーさんが満を帰して期して振り下ろした―――刹那。
「避けなさいバーサーカー!!(これが最後の令呪お願い!!)」
絶妙のタイミングで令呪にて可能性を上げられたバーサーカーさんは、その光の刃の余波で焼かれながらも避けセイバーさんを大剣で薙ぎ払おうと―――
「■■■――――!!!」
「―――バーサーカーなん」
したのを止め、離れて見ていたお姉ちゃんへと瞬時に駆けると突き飛ばし。
直後、バーサーカーさんは無数の光に包まれた。
バーサーカーさんは、一度『約束された勝利の剣』を避けたけど、光の刃は時間が停止した空間に弾き返されてしまい。
まるで散弾の様に拡散して戻ってきた『約束された勝利の剣』にお姉ちゃんが巻き込まれない様に庇ったんだ。
それが、自分の命を終わらせると知っていながら……
そうか、バーサーカーさんお姉ちゃんの事が好きだったんだね、だからどんなに意地悪されても耐えてたんだ。
大丈夫、お姉ちゃんは何とかするから。
だから―――お休みなさいバーサーカーさん。
「よもや最強の聖剣をもってすら……打ち破れぬ幻想………これが魔法と名の奇跡…なの…か」
そう呟きバーサーカーさんはお姉ちゃんの前で光と共に消えていった。