とある『海』の旅路 ~多重クロス~
第0話
我は原初の海、世界樹という無限の世界を支える白銀の海にして管理者―――だが、人々は我を神と呼ぶらしい。
我はただ世界を創ってしまった責任がある故に、世界が崩壊しないよう管理しているだけなのだが……困った事が起きた。
事の発端は我にあるといえるだろう、我は生命やその可能性を気に入っており。
その為に数多の世界を創世し、更には並行世界すらも容認してしまったのだ。
可能性が在る限り無限に増え続ける世界、これでは如何にその歪みを正しても過負荷は増えていくばかり、だからこそ、この様な時には世界の理から変え創り直すのが最善である。
故に、この度も現在の理より世界に歪みが起きにくい新たな理、すなわち、今の理を赤と白とに分け新たに世界を創り直す事にしていた。
世界の精霊である赤と白の両名に選ばれた者、即ち世界の代表となりて世界を救い、そこに住む者達には終焉を与える救世主に選択させる。
そう、新たなる理の元、世界を創り直す為の救世主―――それが何故か叛旗を翻し我の示した理を拒絶してしまった。
今の理のままでは、世界に歪みが多く生じてしまい放置すれば渦となり、世界の間に生じる歪みにより次元断層やら、邪神、自ら神と名乗る存在が時折現れてしまい、我や我の代理として枝世界を管理する影達の負担が多くて困る。
いかに無限に近い力を持つ我とて、その世界全てを把握しているのでは無いのだぞ……それなのに。
一度目は、ようやく選定が終わったかと思い代理の影を通して見れば突然斬りつけられるわ。
二度目は、わざわざ神の座までやってきた救世主がいるのでどんな者かと思い、影から見たら同じ救世主だったのでまた驚かされた。
何故、この救世主は我を幾度も驚かそうとしてるのだろうか?
「勝った…けど……」
ふむ、世界を管理する力の一部を用いて創り出したる我の影を倒したようだな、影は所詮影、我には及ぶべきもない。
―――だか、我が消滅しない限り消える事も無いのだ。
「思った通り…復活しやがったな……」
我の存在により影は復元する、その影に向かい救世主に選ばれた者は、元々救世主であった者達が永き時を過ごす為に形を変えた姿、選定を行う地では召還器と呼ばれているそうだが―――それを構え。
「だがいい…これが続く限り……」
我に反逆する召還器トレイター、我の計画には無い救世主以外の召還器。
「あいつらは…平和に暮らせる……
俺は負けない……行くぜ、トレイターッ!おおおおおおおおッ!」
その黄金輝く長大剣の輝きが主、当真大河に答える様に増していく。
だが、当真大河にトレイターよ……理解しているか?
只でさえ無限に存在せし世界……その一つ一つが増大する先を………我の管理が及ばなくなるほどの肥大化した世界。
それは、負荷が負荷を増大させ、やがては全ての次元世界に次元断層が連鎖発生する事を意味し―――次元崩壊、この影が治める全次元世界の枝は崩れ去る。
いや、責任放棄になるがこれも人の選んだ道か……人類以前、かつて繁栄を極めていた生命、昆虫人に爬虫人達と思えば今までもそうであったか、高い知性と高度に発達した文明を有していたが結局は滅びてしまったのだから。
「―――」
……いや、そもそも何故?
何故、創造主であり管理者たる我に逆らうのだろうか?
我はただ幾つもの世界、違う環境にて命という可能性を見たいだけだと言うのに?
それ程まで我の管理は人に嫌われているのだろうか?
確か、世界各地において教会と呼ばれる施設で敬われていたような……
いや―――あれは自分では何もせず、我にああしてこうしてと注文していただけの様な気がしないでもない、か。
―――成る程、望みを叶えなければ我になぞ従う気になぞならないか!?
全く、我とて管理者はとは管理だけをして見守る存在でいたいのだ。
しかし、我は命がもたらす可能性を見知りする為に、稀に世界に住む者達に力を与えて来たのもまた事実。
それに甘え、我に頼りきりになっては命の可能性の意味は無いだろうに……
我にしてもその世界に生きる命を従える気などない、その代わり、世界に住む者達が命の限り生き抜いて我に可能性を示して欲しいもの。
それこそが我の喜びだと―――む、いや、まさか我の管理に問題があったのか?
だとすると、これは検討するに値する事柄だぞ。
「………」
だが、問題はこの世界か。
統治している影がこれではまともに管理等出来る筈がない。
しかし、直接我が管理したとして同じ問題が起きる可能性は否定できない無いだろう。
―――ふむ。
成る程、幸いにしてこの神の座には影以外にも存在がある―――これを用いてこの世界での我の代理としよう。
まず、この世界の精霊達に選ばれた此度の救世主である当真大河が影と認識している中身をこの枝世界の歪みを修正するシステムに換える。
当真大河がこれと戦う力を利用する事でこの世界に巡る力を循環させ渦にしなければ、我や影には及ばないものの居ないよりは遥かにましになる―――それに、我に反逆する程の救世主ならば二、三千年位は問題ないだろう。
「―――むぅ?」
早速考えを実行してみたが……こうも上手く行くとは。
当真大河は、姿は同じでも内が替わった事に気がつく事も無くを倒し続け、その結果、歪みは渦にならずに各世界へと流れ続けている。
ふむ、思いの外上手く行っているようだ、まだ余裕がある様なら他の枝の歪みも付け足しても良いだろ、ん?
……いやまて、人柱の様になるがこれを世界樹の各枝にて救世主級の存在力を持つ者達、最低数百人集めて行わせれば何とか管理出来るのではないか?
「………」
―――なんて事だ!?
もっと早くに気がついていれば、このような命の可能性を摘み取る様な真似などしなくても良かっただろうに―――何と勿体無い事か!?
判明した事柄に自分自身呆れながらも、構築し直した管理システムの最終調整を確認する。
基幹システムとの連動誤差良好、各次元世界から歪みへ検出と割り当て……と、全システムに異常は確認されない、な。
救世主当真大河よ、世界樹の一枝となるこの世界の管理を任せよう、我を否定したのだからせめて我が問に答えが出るまでは持たせてみせよ。
もっとも、今まで我が意思を受けた影が管理してたのだ―――しばらく、そうよ……な、五十億年位は管理しなくとも次元崩壊等といった問題は起きない無い筈だ。
「―――後は行くのみ」
こうして我は答えを得る為の旅に出る事にした。
だが、答えを得るためとはいえ……如何するか?
このまま世界樹の外側から世界を視るだけでは今までと大して違いは無いだろう。
必然、一人の人として観察する為には我の入る器を創るか調達するしか無いのだが。
「―――」
うむ、丁度いい感じのモノが世界の狭間の一つ、この枝の住人が言う名称では虚数空間に在った。
透明な容器に入った人の幼体に、干物―――いや容器にしがみ付く様にして果てている事からこの幼体の関係者の様だ。
辺りに散在する機材等から想像出来るのは、次元航行中に何らかの事件・事故よって次元断層に遭遇。
そして、世界の狭間たる虚数空間にて最後を迎えたのだろう、しかし、そんな些事は我にはどうでもいい事。
肝心なのは、魂が無い死体でありながらこの鮮度の良さだろう、体が生きていようが死んでいようが我にしてみれば些細な違いに過ぎないのだから。
早速、体に入り生態情報を収集する。
情報を元に生態を活性化及び欠損部分を分解・再構築。
―――生体機能良好、生体活動再開確認。
次いで記憶領域を読み取る。
どうやら生前はリンカーコアが機能していないようだが、生体活動が再起動した際に生じた力の流れにより使える様になった様だな。
「そうか、この娘の名はアリシア・テスタロッサか」
アリシアの記憶を視るが不可解な事が分かった。
この娘が死亡した時の内容がここ、虚数空間と接点が無い事……いや、この娘からしたら気が付いたら死んでいたのだからより不可解と言える。
それでも死んでいるのは事実なので、何かあって死に、更に死体の移送中に次元断層に遭遇したのかな?
「だとすると、死んだ後も運が無かったんだね」
アリシアの記憶と状況から、干物化した女性は母プレシア・テスタロッサだと判断した、他にもリニスという名の山猫がいるそうだけど見たところソレらしい姿は無いね。
記憶からすると、この娘が生きていた世界は時空管理局って組織が管理する世界のよう。
「管理局……ねぇ、この世界を管理してくれるのなら私としても嬉しいけど。
人は集団、組織になると暴走する時が多いから少し心配かな」
機材が見える土の正体は、恐らく次元航行可能な船舶の残骸なのだろうな。
そう思考しているとふと、アリシアの残留思念の影響か自然と残骸にプレシアの墓を作っていた事に気が付いた。
「成る程、これが人……か。この思考、我(わたし)には解らない筈だよ」
不思議とすら思える己の行動を確認し、枯れ果てた花畑にある墓を見つめる。
ふと、母は花が好きだったなとよぎり。
アリシアの思考から、母が好きであっただろう花を創造していった。
「プレシア・テスタロッサ、御免なさい。
悪いけど貴女の娘の体をいただいていきます」
そんな己の行動を、既に母さんの魂はここには無いのに何をしているのか不思議に思う。
深く頭を墓に下げた後、この周りの時間を停止させる。
「そう……だね。
この不可解なのが解るには、当真大河のいた世界に行って見れば良いかな?」
そう思いつつも、無数に在る地球のどれかな?
各枝から更に分かれている並行世界も含めれば地球すら無限に存在するといってもいい。
取りあえず適当に視ていると、面白い世界が在るのに気がついた。
何故かやたらと自衛心が強い地球があるのだ、並行世界だからだろうか、何れにしろ興味深い世界であるのは間違いない。
「まずはあそこから始めよう、すぐに答えは見つからないだろうけど―――見つける為に、始めようその第一歩を」