「コイツが――の」
「あぁ、確か名――は――」
「戦――50――」
「ふむ、なら――」
酷く曖昧。
まるで起きているのに眠っている様な感覚。
自分が誰で、何なのかすら分からない。
「それで、――星に?」
「惑――カノム――決まった。」
何か……“聞こえる”。
“音”が……聞こえる。
「それ――っそく」
「あぁ」
分からない。
“自分”の“体”がフワリと“浮かぶ”感覚に襲われると。
また何かに座らせ、プシュンッと“閉じる”音が聞こえる。
「さて――残――な?」
「さぁな――それまでだ」
「ま、それが――民族」
「サイヤ人」
何か、自分の中を熱くさせる音が聞こえると。
何かに引っ張られる様な感覚に、“俺”は再び眠りに付いた。
惑星ベジータから飛び立った一つの小型宇宙船、その宇宙船に一人の赤子を乗せて無限に広がる宇宙をかけていき。
その三年後に、惑星ベジータはフリーザの手によって滅亡されるのだった。
音がする。
酷く煩く、“耳”障りな音が。
『警告、警告、前方から未知の領域が展開されています。これより緊急離脱システムを作動させます』
音がそう響くと、体にガクンッと衝撃が襲いかかる。
『警告、緊急離脱システム作動不可能。これより、生命維持装置を作動させます』
何かが体に巻き付き、口に変なものが当たる。
不快に思い、俺はバタバタと“手足”を動かした。
だが、それは一向に解けず、余計に体に巻き付いてくる。
『警告、これより未知領域に突入。警……告、け……』
漸く収まる不快な音。
だが、それと同時に全身を揺さぶられる衝撃に、“俺”は再び微睡みの中へと沈んでいった。
――魔法世界。
人里から離れ、遺跡らしき建造物の近くに聳える一軒家。
その中か一人の男が姿を現した。
「俺のパンチはダイナマイト〜、どんな奴でも一発KOだ〜」
2m、或いはそれ以上の体格を思わせる褐色肌の男は、鼻歌混じりに悠々と森に向かって歩き出す。
「さて、今日も張り切っていくとしますか」
男はフンッと気合いを込めると、空高く舞い上がった。
人間の脚力では、到底到達する事などできない程。
地平線まで広がる樹林の中へと降り立つ男は、首をコキコキと鳴らし、腕を振りながら樹林の中を進んでいった。
「朝はやっぱ魚かな。詠春が昔作った和風の飯は中々良かったからな」
あの味噌汁が溜まらん等と口を挟みながら、男は再び鼻歌を歌った。
すると。
「グルルル……」
背後から獣の呻き声が聞こえ、男は振り返ると。
そこには、虎がいた。
ただ、地球にいる虎とは形も大きさも違う。
鋭く生えた牙、大きく揺れる鬣、そして背中から伸びる巨大な翼。
唯一それが虎だと言えるのは、顔の形状と全身に描かれる模様。
男の10倍以上あるだろうと思わせる虎は、空腹なのか口元から涎を垂れ流している。
地元の人間がいれば、直ぐ様逃げ出すか腰を抜かして震えているだろう。
だが、男は違った。
「おぉ、いきなり大物が取れるとは……今日は付いてるな」
男は、まるで自分が生き残る事を当然だと思っているように、動じる事もなく佇んでいる。
しかも。
「しかも中々の毛並み、こりゃ高く売れるか?」
男は空腹で獰猛と化している虎にあろう事か近付き、毛並みを調べている。
虎はこの大胆不敵な態度を取る男に憤慨し。
「ガァァァッ!!」
噛み付いた。
しかし。
「よっと」
男はヒラリと避けて、軽やかに宙を舞う。
勢いの乗った虎はそのまま樹木に突っ込み、頭を強打した。
揺らされた樹木は大量の実を落とし、着地した男に降り注がれる。
「お、ラッキー。今日はとことんついてるな」
落ちてきた実は、男の両手に吸い込まれる様に収まり、男はウハハと笑っていた。
クラクラしてきた頭を振って意識を取り戻す虎。
そして同時に視界に入ってきた男の態度に、虎は激昂した。
殺す。
確かな殺意を以て、虎は男に飛び掛かった。
両手を塞がっている今なら、回避は出来ても攻撃は不可能。
このまま襲い続けて疲れた所を噛み殺す。
「グガァァァッ!!」
虎は先程と違ってただ突っ込むのではなく、四つ足歩行による俊敏で不規則な動きで男を翻弄しようとした。
が、対する男は相変わらず余裕の笑みを崩さず、虎の動きを全て捉えていた。
「へっ」
男は鼻で笑い、足で迎撃しようとした。
すっと右足を引き、軸足である左足に力を込める。
そして、虎の動きを完全に捉え、蹴りを放とうとした。
瞬間。
「っ!?」
「グゴォォッ!?」
突如、空から何かが降り落ち、虎の脇腹を直撃させた。
虎は横に吹き飛び、樹木にぶつかり気絶している。
男はいきなり起こった出来事に、少々混乱していた。
いきなり目の前にいた虎がいなくなり、変わりに丸い物体があるのだ。
シューッシューッと音を立てて煙を出している物体を前に、男の思考は漸く正常に戻った。
「何だ……こりゃ?」
初めてみる物体を前に、男は近付いていく。
すると。
「うわ、開きやがった」
いきなり開く物体を前に男は少し驚いたのか、肩をビクリと震わせる。
そして、開ききった物体の中を覗き込むと。
「………はい?」
中に入っていた尾の生えた赤子の前に、男の思考は再び凍り付いた。
「まったくあ奴め、珍しく手紙を寄越したと思えばいきなり来てくれなどと言いおって」
男の家の前で、フード被った女性が佇んでいた。
フードから時折覗かせる褐色の肌。
そして、胸の膨らみからして女性だと思われる。
女性は辺りを見渡し、人気のない事を確認すると、女性はフードを脱ぎ捨てた。
美しく輝く金色の長髪と顔立ち。
そして気品溢れる雰囲気からしてかなり位の高い人物だと分かる。
ただ、その人物は唯の人間では無かった。
尖った耳に頭から生える二本角、それが彼女が人間ではないという証拠になっていた。
ブツブツと愚痴を溢しながら家の中へと入る女性。
「この筋肉達磨! いきなり呼び出してってどうしたぁっ!?」
勢い良く扉を開き、怒鳴り散らす女性が、目の前の惨劇に驚愕した。
派手に荒らされた家屋、後ろには穴が開いており、部屋の中心には酷く窶れている男が座っていた。
「よぉテオドラ、来たか」
プルプルと手を震わせながら挨拶する男。
彼はこれでも元気な素振りをしているのだ。
「ど、どうしたのじゃそんなに窶れて! まるで牛蒡じゃぞっ!?」
「ハハハ、訳の分かない突っ込みをありがとう。取り敢えず座れや、茶ぐらい出すぞ」
「あ、あぁ……」
自分の知っている男とは変わり果てている姿に、テオドラは困惑しながら言う通りに座った。
「そ、それでどうしたのじゃ? いきなり緊急事態だから来てくれなんて……」
少なくとも目の前の男は手紙等とめんどくさいと言い捨てて、殆ど書こうとすらしない。
それを自分から手紙を寄越しているのだから、彼女にとってはそれだけで驚愕するべき事実なのだ。
テオドラは自分の国の仕事を一先ず済ませ、抜け出す様にこの地へ赴いたのだ。
今頃宮殿は影武者が涙を流しながら自分を演じているだろう。
女性の質問に男は言葉を濁し、横にある籠に手を伸ばした。
そして。
「……赤ん坊、拾っちまった」
「………は?」
目の前に出された尾の生えた赤子に、テオドラは以前の男と同じ反応を示した。
「……成る程のぅ、そんな事が」
事の顛末を聞いたテオドラは、男から聞かされる話を整理していた。
「空から降ってきた球体の中に入っていた赤子。確かに奇妙じゃな」
「一応、このガキが入っていたガラクタは回収しておいたぜ」
指差した方向へ目線を向けると、穴の空いた壁の向こうには確かに小さい球体が置かれていた。
「にしても、良く良くみても奇妙な小僧じゃな。見てくれは人間じゃが尻尾が生えておる」
「ハーフか何かか?」
うーむと首を傾げて考える男とテオドラ。
すると。
「……それにしても、中々可愛い奴ではないか」
自分を見つめる赤子に母性が働いたのか、テオドラは指を出して頬を突こうする。
しかし。
「キシャァァァッ!!」
「のわっ!?」
口を開いて噛み付こうとする赤子に、テオドラは腰を抜かしてしまった。
「くそ! またか!」
ジタバタと暴れまわる赤子を、男はその肉体を以て押さえ付けた。
いきなり豹変した赤子を前に目をパチクリさせるテオドラ。
「な、なんなんじゃいきなり」
「気ぃ付けろよ。コイツこう見えて相当力があるからよ」
「で、では……」
この惨状の原因はこの赤子なのか?
「あぁ、俺もコイツを大人しくさせるのに大分手間取ったからな。あまり刺激させない方がいいぜ」
「わ、分かった」
震える体を抑えて座り直すテオドラ。
再び赤子と目を合わすと、彼女は言い難い悪寒に襲われた。
(なんて目をしているのじゃ、この小僧は)
まるで目にする全てに敵意を示しているかの様な目付き。
漆黒に映る瞳の中には自分が映っており、確かな殺意を剥き出している。
(殺意じゃと? この赤子が!?)
確かに、前の大戦で両親を失い憎しみに染まる子供を幾人と見てきた。
だが、産まれて間もないだろう赤子が、ここまで凶暴なのは見たことがない。
テオドラは、この赤子に眠る何かに震えるを感じずにはいられなかった。
漸く収まり、男の腕の中で大人しくなる赤子に、テオドラは話を続けた。
「……それで、どうするのじゃ?」
「あん?」
「赤子じゃよ。このまま放って置くにはいくまい。どこか施設にでも預けるのか?」
「………」
テオドラの質問に、男は黙り込んだ。
確かに、孤児であれば施設に預けるのが賢明だろう。
しかし、この赤子には異常な敵対心がある。
もし下手に刺激を与えようものなら、他の孤児が危ない。
だが、このまま放って置く訳にはいかない。
暫くの沈黙、それが一分二分と続くと。
「よし、分かった」
「何か提案があるのか?」
「おう、コイツを俺の息子にする」
時が止まった。
何を言ってんだこの筋肉達磨は?
そんな言葉を、テオドラはかの筋肉を総動員して表現した。
「お、お主、自分が何を言っておるのか分かっておるのか!?」
「ようし、そうと決まればまずは名前だな。この俺様が無料でお前を名付けてやる。感謝しろよ」
「聞けよ!」
自分の話を無視し、どんな名前か考えている男に、テオドラは酷く頭痛を覚えた。
そして。
「決めた! 今日からお前はバージル。バージル=ラカンだ!」
高々と赤子を掲げる男、その姿は一瞬だが本物の親子に見えた。
そんな二人にテオドラはやれやれと溜め息を吐き。
「やれやれ、どうなっても知らんぞ」
少し羨ましそうに二人を眺めていた。
嘗て、“紅き翼”というチームで世界を救った英雄。
ジャック=ラカン。
数々の異名を持つ男の前に現れた赤子、バージル=ラカン。
この赤子の進む未来に、果たしてどんな物語が始まるのか。
それは誰にも分からない。
「ダッ!」
「ブヘラァァッ!?」
「ジャックゥゥゥッ!?」
〜あとがき〜
どうも、性懲りもなくDBクロスを書こうとしているトッポです。
そして、今まで感想をくれた皆様、誠に申し訳ありませんでした!
皆様には大変失望されたと思います。ですが、これまで頂いたご意見ご感想を元にもう一度書いてみようとも思いました。
以前の作品を削除し、新たに考えていたプロットで最初から書き出していこうと思います。
本当に申し訳ありません!
そして、新たに宜しくお願いいたします!
因みにオリ主の名前はバジルからです。
そして、重ねて申し訳ありません。
産まれて戦闘力三桁って、エリートでしたっけ?