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No.18266の一覧
[0] ある店主(ry 外伝リリカル編[ときや](2010/10/15 21:45)
[1] 第一話[ときや](2010/04/26 17:51)
[2] 第二話[ときや](2010/06/01 18:18)
[3] 第三話[ときや](2010/05/24 23:48)
[4] 第四話[ときや](2010/05/23 18:35)
[5] 第五話[ときや](2010/05/24 23:49)
[6] 第六話[ときや](2010/05/29 01:25)
[9] 第七話[ときや](2010/05/30 19:39)
[10] 第八話[ときや](2010/10/05 23:24)
[11] 第九話[ときや](2010/06/11 00:15)
[12] 第十話[ときや](2010/06/11 23:00)
[13] 第十一話[ときや](2010/06/25 20:13)
[14] 第十二話[ときや](2010/06/25 21:21)
[15] 第十三話[ときや](2010/07/10 00:53)
[16] 第十四話[ときや](2010/07/17 03:29)
[17] 第十五話[ときや](2010/07/26 00:24)
[18] 第十六話[ときや](2010/08/08 22:26)
[19] 第十七話[ときや](2010/09/12 23:23)
[20] 第十八話[ときや](2010/09/13 15:58)
[21] 第十九話[ときや](2010/10/06 00:46)
[22] 第二十話[ときや](2010/11/12 21:46)
[23] 第二十一話[ときや](2010/11/12 23:43)
[24] 第二十二話[ときや](2010/11/26 21:35)
[25] 第二十三話[ときや](2010/12/24 22:09)
[26] 第二十四話[ときや](2011/01/31 16:35)
[27] 第二十五話[ときや](2011/03/01 14:55)
[28] 後書き+拍手返し[ときや](2011/03/01 15:01)
[29] 拍手返し過去物[ときや](2011/03/01 15:03)
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[18266] 第二十二話
Name: ときや◆76008af5 ID:cf1b6796 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/26 21:35

 小学校での遠足の前日、楽しみで仕方がなくて寝付けない人もいる。中にはそんなことなんて関係なく寝る人もいるし、あるいは遠足なんて興味がないという冷めた人もいた。あるいは、身体を休めないとやっていけないと言う人もいるかもしれない。
 ともかく、私は遠足の前日はあまり眠れない方だ。それがどうしたかというと、明日。いやもう日付は変わったのだから今日か。今日から二日間、休暇を貰うことが出来た。

「…………」

 隣ではヴィヴィオが眠り、その奥でユウキくんが寝ている。出来れば初日は自宅でゆっくりのんびり、何気なく買い物に出かけたりして過ごしたいものだった。そう言えば化粧品が少し心許ない。念のために買い足しておきたい。
 しかしながらヴィヴィオが遊園地に行きたいと駄々をこねた。いや、駄々をこねたわけではない。子供らしく我侭を言った。そのため急遽三人で遊園地に行く予定を立てた。
 折角の休日の予定を壊されたとは考えていない。むしろヴィヴィオが我侭を言って安心した。今まで全く、食事のメニューや寝る位置を除いて全く我侭を言わなかったものだから不安だった。本当に私は、私たちはヴィヴィオに必要とされているのかと。だから我侭を言ってくれて少し、安心している。

「……可愛いなあもう」

 明日は三人で遊園地。家族三人でちょっと遠出。そのことが楽しみで、その事実が嬉しくて少し寝付けない。上手く眠れない。恥ずかしながら、私は遠足の前日は眠れないほうだ。
 一方ユウキくんは二日分の食事を作った疲労でぐっすり眠っている。歴史に残る地震が起きても戦争が起きても、それこそ身の危険が迫らない限り起きる気配は微塵もない。むしろ夕食を作り終えた時から既に眠たそうにしており、良くぞまあ今まで持ったものだと今更ながら感心している。
 間にいるヴィヴィオは最初楽しみで仕方がなくて起きていたが、ユウキくんが寝ぼけ眼でお話を聞かせていると眠っていた。ついでにユウキくんも膝にヴィヴィオを乗せたまま眠っていた。そして二人を横にして、今に至る。
 うん、ここは正直に言おうか。明日は家族で遊園地だというのに妙に眠れない。時刻は既に丑満つ刻を回ったと言うのに眠れない。というわけでユウキくんを抱き枕にすることにした。これですぐに眠れることだろう。

「それじゃ、おやすみなさい」

 明日は楽しくなると嬉しいなぁ。





 不眠のための体調不良も杞憂で終わった休暇一日目。的中確率が99.9%を誇っていた天気予報では降水確率が100%、本日は間違いなくバケツをひっくり返したような雨が降らなければおかしいと言っていたのに見事な快晴である。つい布団を干したくなるとても気持ちが良い晴れ模様だ。
 しかし真夏の日にそこまで晴れてしまっては問題が一つ。熱中症と日射病、それから水分補給である。特に体の小さい子供は注意しなければならない。というわけでお出かけ前に。

「それじゃレイジングハート、何かあったときはお願いね」
『お任せください。もしもの場合はアイスの前に遠慮なく本家直伝マスパを喰らわせます』
「いや、流石にそれはやりすぎだから。それにヴィヴィオはまだそれを全力で、しかも一発しか撃てないんだから倒れちゃうよ。せめてアイスを貰ってからシューター十発にしよ」
『了解しました。つまらない』

 迷子の時のためにレイジングハートをヴィヴィオに渡す。彼女の性格を考えると暴漢にご愁傷様と線香をあげるが、それは向こうが悪いことにする。それから水筒を持たせて麦藁帽子を被らせて。
 これで熱中症も日射病も大丈夫だ。迷子になった時の対策も万全である。ふと思うことだが、世の子供たちには迷子になった時のためにドッグタグでも付けておけば良いのではないだろうか。そうすれば親を探す側としても楽なのに。
 一人一台携帯を持っているならなおさら連絡も取りやすい。なのに何故それをしないのか。子供が誤飲する、個人情報が云々という理由を除けば余り考えられないのだが。

「とにかくヴィヴィオ、ユウキくんから離れないように。何かあったらレイジングハートを頼ればいいよ」
「はぁい。よろしくね、レイジングハート」
『ええ、よろしくお願いします……これで私色に調教すれば行く行くは第二の砲撃少女に』
「レイジングハート自重。好い加減にしないと幽香さんに肥料にしてもらうよ」
『それはマジ勘弁』
「じゃあ自重しようね」
『それは……写真撮影もですか?』
「そこは自重せずにじゃんじゃん撮っちゃって」
『ラジャー』

 そこはかとなく今朝方手紙があったもので。この文明が発達したミッドチルダで何処の誰が古き良き文化を使ったのかと送り主に目をやれば、あの人たちでした。それも内容は一貫して写真求む。数少ない良識人たちも、前置きに季語などを使っているが、内容は同じだった。

「ユウキくーん、こっちは準備できたよぉ」
「できたよー」

 着替えも化粧も終り、ヴィヴィオの準備も終わった。残るはユウキくんだけである。朝食を作る様子を見た限りでは弁当を用意しているようには見えない。なのでもう準備は終えているはずだ。
 さて、しばらくしても返事はない。どうせもう先に地下の駐車場に言っているのだと考えて下に降りる。ちなみに地下の駐車場と地下の酒蔵と地下の農牧場は同一の空間にあると言うのに全く違う場所にある。あと他には地下に研究室と工房と宴会場その他諸々を設けている。

「…………」
「……ユウキくん?」
「パパ?」

 地下駐車場にいるかと思ったら外で和傘を刺していた。しかも完全無欠に澄み切った快晴の空をただ見上げている。珍しく何の感情も浮かべずに見上げている。いつも顔に浮かべている笑顔すら今はない。
 その理由は至って簡単だ。優鬼の身体は病弱であるから。こんなにも見事な晴れ模様では問題なく滞りなく日射病と熱中症と脱水症状を併発してしまう。

「――ん、ああ。準備できたか」
「うん。だけど、その……大丈夫?」
「大丈夫って、えと。何が?」
「体調とか。ほら、今日はこんなにも晴れているから」
「それは、大丈夫だよ。そこまで無自覚じゃないから」

 となると尚の事私はヴィヴィオから目が離せない。もしも私がヴィヴィオと離れてしまったらユウキくんに精神的に加え肉体的な負担が発生する。どれだけ無自覚ではなく、慣れている事態であっても辛いことに変わりはない。
 それでも行きたくないとは言わないのは単にヴィヴィオのためだろう。流石に幼少期に一度も遊園地などに行かないと言うのは妙な話だ。また子が行きたいとしているのに親の都合で行かないと言うのも可哀想だ。

「パパ、お身体悪いの?」
「ん、大丈夫だよ」
「ホントに? 悪いならヴィヴィオ、我慢するよ?」
「大丈夫だって。いつも通りだよ。だから今日は一杯遊ぼうね」

 今のところ体調が悪いと言うわけではないが、身体が悪いのは事実だ。それから地下駐車場に止めている車の一台に乗って最近出来たと聞く遊園地に向かう。念のために言っておくが、車は勿論ユウキくんの改造済みであるため恐ろしく性能がいい。それでも今回は自重して一般的な交通ルールは遵守した。まあ時速制限60kmの一般道で80kmを出すのは普通であるかと。今回はその度が過ぎただけだ、きっと。
 交通渋滞をうまく回避し、ネズミ捕りと遭遇しないルートを選択し、なるべく人の通る場所を避けた結果、予定通りの時間に遊園地に到着した。十年前に出来たアトラクションワールド、ランドセルランド。それなりに良い名前に対しコンセプトは全くもって別物だ。

「地獄まで断崖絶壁」
「光だ、光になるんだ」
「僕と君たちの虎馬ランド」
「常識とは全力で投げ捨てるもの」
「倫理団体が投げた匙は月を穿ったそうです」

 等々、とてもではないが曲がりなりにも子供を相手するはずの遊園地に相応しい歌い文句はない。その上年齢制限身長制限などの類は一切なく、管理者側の過失を除く事故などの怪我の保証は全くない。奇跡的にも今はまだ死者はいないが、最悪で骨折した者がいるそうだ。それも利用者が諸注意を無視して愚かな真似をした為の自業自得であるが。
 そんな、今にも中学生が怪しげな変態と待ち合わせをしていそうな遊園地。他の遊園地を選べばいいのかと考えたのだが、ヴィヴィオがどうしてもそこのジェットコースターに乗りたいと言い出して聞かなくて。絶対、ユウキくんと常連たちのせいだ。

「まあ何と言うか、さすが日曜日。人の込み具合が半端ない。ここまで人が多いと、流石に困ったな」
「大丈夫だよ。ヴィヴィオにレイジングハート渡しているから、もしもの時は何とかなるよ」
「いや、そうじゃなくて……それもあるけど……まあいいか」

 末恐ろしい速度でジェットコースターが頭の上を通過する。悲鳴は一切聞こえない。正確には悲鳴をあげれるほど生易しい速度ではないだけだ。ふむ、ここにある全てのアトラクションを巡れば人として一皮剥けると冗談文句を聞いたが、なるほど。一理あるかもしれない。

「レイジングハート」
『何でしょうか?』
「とりあえず、これ」
『お……ぉお』



「漲って、キタ―――(`・ω・´)―――ッ!!」



 ゲート前にてユウキくんがコンソールで何かを変更した。その操作が終了すると同時にヴィヴィオの前に何かが現れた。背丈はリインと同じほどで、まるでユニゾンデバイスのようである。
 女性形で髪は金色、瞳は赤。服は白く、所々に金の留め金が使われている。恐らくはユニゾンデバイスと同様だろう。魔力を使用して肉体を擬似的に作っただけだと思う。あとデバイスなのに漲るとは何だ。しかもきたがきたではなくてキタだった。本当に余分なところまで丁寧な造りですね。

「流石に肉体は材料が集まりにくいから当分できないけど、それは簡単に出来るから。まあそれで我慢して」
「いや、十分嬉しいです。時に食事は摂れますか?」
「ああ、それはどうしようかと悩んでいるんだ。今はエネルギー機関を組み込んでいるから必要ないけど、どうせなら外部供給と内部熱源のハイブリットにしようか、現状のまま外部供給に頼ろうか、あるいはで悩んでいて。実際君はどれがいい?」
「念のためを考えるとハイブリットが良いですね。基本的には外部供給で、緊急時や戦闘時は任意で内部熱源に変更するという形で」
「それか……エネルギー循環システムが面倒なんだよな。加えて味覚センサーと消化吸収器官か……まあ了解。今日明日で終わらすよ」
「本当に有難うございます。所で崇めて奉っても良いですか? 何か下手な神々よりご利益がありそうなんで」
「止めてくれ。依存されるのは好きじゃないんだ」
「まあ冗談です」

 さて、レイジングハートはこんなキャラだったか。ユーノくんからもらった時から他のデバイスに比べておしゃべりだったのは間違いない。それはフェイトちゃんに指摘され、リンディさんに確認を取った。
 ユウキくんのお陰でその個性がさらに強調され、うん。どうやら昔からこんなキャラクターだったようだ。仮初の、魔力で出来たとはいえ肉体を手に入れた今では本当に人との区別がし辛く感じる。これでは昔のように共に無理をすることに今以上に抵抗を感じる。いや、無理をしないに越したことはないが。

「所で、何時の間にあんなことしたの?」
「この前のメンテナンスの時だよ。組み込んだは良いけど、隊舎で使うといらない詮索をされそうだったからね。黙っていた。でも今は、まあ良いかなって」
「そう、かなぁ?」
「うん、大丈夫だよ。確かにレイジングハートは個性が強いけど、悪くないから。それに彼女――彼女がしっかりしているのはなのはが一番良く分かっていることでしょ?」
「そうなんだけど……悲願叶って浮かれすぎないかなって。そのせいでヴィヴィオと離れるのは困るよ」
「まあ……何とかなるよ」



「レイジングハート、嬉しそうだね」
「それは嬉しいですよ。今まで碌な食事も取れませんでしたし、まともな娯楽もありませんでしたから。これからは存分に遊び倒せます」
「えっと、どんな感じなの?」
「所謂、我が世の春がキタです……まあ分かりませんか。所でヴィヴィオ」
「うにゅ?」
「う~☆ってしてもらえませんか?」
「うー?」
「違います。う~☆です」
「う~」
「惜しい。う~☆」

「う~☆」

「シャッターチャンス! よし、課題1クリア」

 ……まあ、良いか。これが終わった後に現像された写真をデータごと貰って、今晩来るだろう人に詳しい話を機構じゃないか。人のデバイスに何を教え込んでいるのかと。そして何より何故一枚かませなかった、と。
 そこで立っているのも時間が勿体無いので早速入場し、ヴィヴィオと逸れる前に一番早く長く断崖絶壁なジェットコースターに向かう。勿論身長制限年齢制限なし。別名、天国行き片道特急。この世のものではないという意味で的を得ているそうだ。
 ちなみにレイジングハートはアウトフレームを最大に拡大し、見た目で言えばヴィヴィオと同じになった。そのため周りから疑問の目をもたれることもなく一緒に入場する。これならヴィヴィオが一人になる心配もない。
 結論から語る。空戦魔導師で速度と高さと急降下に慣れているとはいえアレは怖かった。ジェットコースターの癖にシートベルトはなく、しかも座らずに申し訳ない程度にある背もたれ付きの台座立ったにまま。流石に自分でやっいないから格段に怖かった。なのにヴィヴィオはまだまだ鼻息荒い。レイジングハートもやりきった笑顔だ。

「次はあそこ!」
「スリラーハウスですね、分かります」
「…………」

 入る前に玩具の銃を渡される。玩具とはいえしっかりと魔力弾が発射されるようで、妙に凝った造りであることが見て取れるが、さて。生憎ここまで魔力炉を小型化できる技術を持っている人を私は一人しか知らない。

「興を覚えて技術提供しました。調子に乗って遊びました。反省も後悔もない」
「まあ楽しいから良いけどね」

「ヒャッハー! 汚物も消毒だ!」
「ひゃっはー!」
「まあこれは頑丈なので鈍器としても使えますけどね」
「わぉ、すごくかたいです」

 それならまあ、奇跡的に死者が出ていない原因にも納得がいく、かな。

「ちょ、マスター! 今掠りましたって!」
「ごめん、外した。次はちゃんと当てるから」
「え……いや、あの――え?」
「本当に、何ヴィヴィオに余計なこと教えているのかな? 私そんなこと望んでいないよ、ねえ?」
「あ、うん。ごめんなさい。調子に乗っています」
「うん、そうだね。だからレイジングハート。今後のためにも私たちはわかりあう必要があると思うんだ」
「それに暴力は必要無いと思うのですが」
「暴力だなんてそんな。ただの共通言語だよ」
「わぉ、マスターマジ魔王」

 ちなみにユウキくんとヴィヴィオはそこを最高得点でクリアしたそうです。私もそれなりに遊べたから良いか。続いてフリーフォールという名の成層圏近くまで行ってジェットコースターに乗り。タルタロスと名づけられた迷宮で黒い化物と争って気分転換にジェットコースターに乗り。
 ジェットコースターの数もさることながら、ここは地味に入出口が多い。特にジェットコースターに乗った後では方向感覚が麻痺してしまう。それから適切な出口に池といわれても少し難しい。

「――――あれ?」

 お陰で皆と逸れてしまったではないか。右を見る。そこには人が大勢いる。左を見る。そこにも人が大勢いる。前後も同じく。上はひっきりなしにジェットコースターが行きかう。
 間違いなく私が迷子になっている。しかし問題ない。魔法文明の存在するミッドに置いては念話という非常に便利な会話手段がある。それを用いれば場所を無視して会話が出来る。

「……あ」

 しまった。ユウキくんは念話にすら拒絶反応を覚え、ヴィヴィオは念話を知らない。レイジングハートはデバイスだから出来ると思えないし、どうやって繋げばいいのかわからない。
 ともかく立ち続けるのも悪目立ちする。あそこのカフェで一休みしつつ、考えよう。携帯電話という手法も考えられるが、ユウキくんはその電波ですら気分が悪くなるという理由で持たない人間だ。そういう理由で常連客も可能な限り手紙を使っているわけだ。

「カフェラテをください」
「はい、かしこまりました」

 さて、弱った。ヴィヴィオが迷子になる対策は打っていたが、こんな年になって自分が迷子になるなんて想像もしていなかった。事務員に言えば放送で流してくれるのだろうけど、それは流石に恥ずかしい。
 ここでこうしてカフェラテでも飲みながら待てば、恐らく帰るまでにユウキくんは迎えに来るだろう。それも悪くないが、しかしそれで良いのかどうか。少し悩む。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「それではどうぞ、ごゆっくり」

 カフェラテはまあ、合格点だ。満点というわけにはいかないが、及第点ほど悪くない。不合格点とは程遠い。むしろ良い位だ。さすがユウキくんが関わっているだけはある。
 ちなみにアイスカフェオレというメニューはない。この暑い季節にホットなんて熱いもの飲めるかと激怒する人もいるかもしれないが、コーヒーに限ってアイスはない。事実、欧米でアイスコーヒーはない。理由は単純にアイスでは折角の香りが華麗に飛んでしまうから。
 何よりだ。悠長にホットカフェオレも飲めない世の中であるということが認めたくない。イギリス人は戦争中の最前線であっても午後のティータイムは優雅に楽しむという。人間そのぐらいの余裕は必要ではないか。

「…………まあ、良いか」

 迎えに来る時を待つのは嫌いじゃない。何故なら迎えに来てくれることが分かっているから。まあ良い時になれば自然と迎えに来るだろう。もしかしたら疲れて寝ているヴィヴィオを抱きかかえているかもしれない。
 バッグから本を取り出す。ヴィヴィオと一緒に遊園地を巡れないのは心残りであるが、問題はないだろう。たぶんヴィヴィオはヴィヴィオでそのことを気にして一生懸命何したと話してくれる。それもそれで楽しみだ。
 背伸びして、少ない語彙で出来る限り表現して、手足を使って。楽しかったと愚問を並べれば至極当然のように頷いて。その姿を想像するだけで口が緩む。何となく、子煩悩な親バカの気持ちが分かる気がする。
 ああもう、非常に楽しみだ。これだから待つのは嫌いじゃない。止められない。ただ、周りの視線が非常に気にかかる。老人や中年の夫婦からは気恥ずかしくなる視線を向けられ、若い夫婦は何故か見つめあい、カップルは恥ずかしそうに目を逸らしている。

「何でかなぁ……」

 疑問を並べながら飲んだカフェオレはやはり熱かった。



 さて、どれほど時間が経ったのだろう。持ってきた本も読み終わり、夏の空を見上げながらカフェオレをお代わりしていると眠くなったので少し午睡を楽しんだ。今やっと起きたのだが、さて今は何時か。
 目に映る橙色から夕方であるのは間違いない。夏という季節の関係上、もう午後三時も当の昔に過ぎ去った午後六時の当たりか。流石にまだ迎えに来ていないようであればこちらから行かざるを得ないのだが。

「おはよう、なのは」
「ん、おはよう。ユウキくん」
「だから日頃からちゃんと休まないとダメだって言っているじゃないか。いくらその時大丈夫と言っても疲労は蓄積するんだからさ」
「あはは、ごめん」

 勿論そんなことはない。ヴィヴィオは思ったとおりユウキくんに抱きかかえられたまま寝ている。レイジングハートも今は空気を読んで大人しくしている。

「そろそろ、帰る?」
「いや、その前に一つ。ヴィヴィオの願いでね。ちゃんと皆で観覧車に乗りたい、だって。だから行こうか」
「うん、そうだね」

 ランドセルランドとはいえ、流石に大きさはともかく観覧車にまで恐怖や光の速度を求めたりはしない。それでも人気がここの看板であるジェットコースターと似たり寄ったりというのは色んな意味で驚愕の事実である。

「ヴィヴィオ、持とうか?」
「まあ重いけど、大丈夫だよ」
「でも、私も抱っこしたいよ」
「そっか……それじゃあ次、次回に頼もうかな」
「本当? 約束してくれる?」
「うん、もちろん」

 そして観覧車前に到着したところでヴィヴィオを起こした。でもまだ眠いようでユウキくんにしがみ付いたままだ。しばらくすればきちんと起きるだろう。まずは観覧車に乗り込む。
 魔法文明の正しい使い方というべき、不可視のフレームであるため視界を遮るものはない。安心感のために椅子や壁は見えるが、しかし大部分が強化ガラスらしきもので覆っている。

「ヴィヴィオ、まだ眠いかな?」
「まだ大丈夫だもん。まだ寝ないもん!」
「そっか。でも無理しないようにね」
「うー」

 寝ないと言いつつも何もなければ舟をこいでしまう。そのぐらい楽しかったのか。今日話を聞くのは止めておこう。むしろ無理だ。確実にこれが終わったら寝る。
 眠りそうなヴィヴィオを時折つつく。外を見やれば大地が円形を描いているのが見て取れる。それなりに突起物があるはずだというのにどうして円を描いて見えるのか。

「うわー、うわー」
「……綺麗だね」
「うん、そうだね」

 永遠に続く向日葵畑の金色、果てしない麦畑の金色。自然が織り成す風景も絶景だ。しかし自然だけが美しいものを作り出すとは限らない。こういった人工物の中にも美しいものは存在する。
 ふと考えることがある。管理局は一体何を守りたいのか、と。世界を滅ぼしかねない力が危険だからこそロストロギアを封印し、管轄する。それは分かる。町の治安のために犯罪者を取り締まる。それも分かる。
 しかしながら分からない。何故か理解できない。言われているのに納得がいかない。どうして世界の平和を歌っているのにここよりも外に目を向けるのか。納得がいかないからこそ、こうして時折疑問に感じる。本当に管理局が守りたいもの何なのか。
 この考えは今自分に守りたいもの、決して譲れない何かができたから考えている。守るものが見えなければ疑問にすら考えなかっただろう。それもそれで幸せだったかもしれない。ああ、その前に一つ。聞いておかなければならないことがある。

「ねえヴィヴィオ、今日は楽しかった?」
「うん! 楽しかった!」
「そう。それは良かったね」

 本当に、何故多くの人がそこにあるものにすら気付けないのか。それは本当に悲しいことだ。



今日のユウキくん

「なのはは今日、休みだよね?」
『ええ、そうですが……しかしこの事件は――』
「お前ら全員休日の意味を調べて来い」

 ワーカーホリックも好い加減にして欲しいところだね。とりあえず着信拒否しておこう。ランドセルランド全体に念話妨害の結界を密かに仕込んで置いてよかった。


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