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No.18266の一覧
[0] ある店主(ry 外伝リリカル編[ときや](2010/10/15 21:45)
[1] 第一話[ときや](2010/04/26 17:51)
[2] 第二話[ときや](2010/06/01 18:18)
[3] 第三話[ときや](2010/05/24 23:48)
[4] 第四話[ときや](2010/05/23 18:35)
[5] 第五話[ときや](2010/05/24 23:49)
[6] 第六話[ときや](2010/05/29 01:25)
[9] 第七話[ときや](2010/05/30 19:39)
[10] 第八話[ときや](2010/10/05 23:24)
[11] 第九話[ときや](2010/06/11 00:15)
[12] 第十話[ときや](2010/06/11 23:00)
[13] 第十一話[ときや](2010/06/25 20:13)
[14] 第十二話[ときや](2010/06/25 21:21)
[15] 第十三話[ときや](2010/07/10 00:53)
[16] 第十四話[ときや](2010/07/17 03:29)
[17] 第十五話[ときや](2010/07/26 00:24)
[18] 第十六話[ときや](2010/08/08 22:26)
[19] 第十七話[ときや](2010/09/12 23:23)
[20] 第十八話[ときや](2010/09/13 15:58)
[21] 第十九話[ときや](2010/10/06 00:46)
[22] 第二十話[ときや](2010/11/12 21:46)
[23] 第二十一話[ときや](2010/11/12 23:43)
[24] 第二十二話[ときや](2010/11/26 21:35)
[25] 第二十三話[ときや](2010/12/24 22:09)
[26] 第二十四話[ときや](2011/01/31 16:35)
[27] 第二十五話[ときや](2011/03/01 14:55)
[28] 後書き+拍手返し[ときや](2011/03/01 15:01)
[29] 拍手返し過去物[ときや](2011/03/01 15:03)
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[18266] 第二十一話
Name: ときや◆76008af5 ID:43d80830 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/12 23:43
 朝起床する。朝と言ったものの、僕の起床時間は明朝どころか夜といっても良いほど薄暗い時間だ。かろうじて東の空、そして首都の方角が僅かに明るい。しかし、それ以上に外は暗い。
 低血圧のせいで悪い寝起きの中、時計を見る。今の時間は午前四時ごろ。いつも通りの時間帯である。

「…………」

 まず右隣を見る。目に映るのは先日ここに足を運んだ幽香である。本当に安らかな寝顔を見せている。少し触れようかと思って、やはりやめた。僕は生まれつき新陳代謝も悪く、低体温症だ。寝起きは身体が冷えて仕方がない。もしもそのせいで起きたなら気持ちよく寝ている彼女に悪い。
 そしてそのまま視線を下にずらす。幽香のお腹辺りにヴィヴィオがいる。機能はこちら側で寝ているのか。しかし何とも、高々三日程度で非常に懐くものだ。
 続いて反対側を見るとなのはがアップで視界に入った。こちらも幽香に負けず劣らずの幸せそうな寝顔である。昔はよく腕枕をさせられていたが、自分でやって腕が痺れることに気付き、以来腕枕は余りせがまなくなった。代わりに心臓の上辺りに頭を乗せてくる。

「……んむ」

 少しなのはに近づき、彼女の体温で体を温める。先ほども言った通り、僕は低体温症だ。それも起きたときはまともに行動できないほどに。そのため一人暮らしの時には枕元に小型コンロと鍋、傍に牛乳と砂糖は欠かせない。
 本当に不便な体だ。そのせいで文明レベルの低いところでは旅が難しい。一人では行くことが難しく、二人でも僕のせいで行き先が限定される。本当に迷惑な話だ。死なない今、御役目から解放された現在に至っては寝ていたら死んでいましたという事態も稀にある。春は曙、されど冬の名残は其処彼処。
 うとうととしながら三十分ほどなのはの寝顔を眺める。まあ何とも、幸せそうな寝顔である。見ているこちらが照れくさくなるほどに。ある程度身体が温まってから三人を起こさないようにベッドから抜け出した。

「ふ、ぁあ」

 台所で湯を沸かし、コーヒーを淹れる。別にこの時コーヒーではなく、紅茶でも緑茶でも構わない。春夏秋冬、起きたばかりは温かい物が必要なのだ。まさに体温を維持できない爬虫類や昆虫類と人間の狭間のようである。
 時計が四時四十五分頃を刻んだ頃、なのはが起きる。早朝訓練のためである。昔からその時間に起きることもない。早朝訓練がない時は六時半頃に起きている。それでも彼女の年齢を考えればわりと早起き、朝方だ。実家がパティシエであるための体質だろう。

「おはよー……」
「おはよう、なのは。コーヒー飲む?」
「コーヒー……うん、のむ」

 ついでにチョコレートも食べて、なのはは早朝訓練に向かった。さて、僕もそろそろ仕事を始めようと扉に手をかけたところで止まる。どうやら素直に行くことは許さないらしい。ちなみにこの部屋のみ自動ドアではなく手動ドアを採用している。勿論僕の趣味。例えどれほど無駄だ不便だと言われようが、外せない何かには掛け替えのない思いが宿る。それを無駄とどうして言えようか。
 さて、時刻は五時を回ったところ。花畑の世話を考えると確かにもう起きている時間だ。しかし本日は例外的にゆっくり眠るのかと思っていたら習慣には意外と逆らえないもののようだ。
 踵を返し、寝室に向かう。部屋に入ると先ほどから感じている何とも言えない気配を直接肌で感じた。それは別に殺気や怒気の類ではない。アレだ。何とも言えない気配、そうとしか言えない。とりあえず無視すれば許されないのは間違いない。

「おはよう、ユウキ」
「うん、おはよう。もう起きていたんだね」
「ええ。本当ならそちらに行きたかったのだけど、ヴィヴィオがね……一人にすると寂しがるだろうから」
「寝ているのに?」
「寝ていてもよ」
「うん、そうだね」
「ええ、本当に」

 離してくれないんだ。離そうと思えば離せるが、ここまでしっかりとしがみ付かれては離すに離せない。幽香が来る前は仕方がないのでヴィヴィオを連れて食堂に向かっていた。今日は、彼女がいる間は大丈夫だろう。
 幽香の手招きに釣られ、近づく。手を伸ばせば届くどころか息が触れ合うところまで近づいて、やっと幽香の手招きが終わった。さては今日の昼食のオーダーか。あるいは昨晩は飲めなかったから今晩は飲みたいという欲求の発露か。

「――んむ」

 しかし彼女が望んだことはただのキスである。それもフレンチではなくハードなほうで。ヴィヴィオの子守代と考えれば良いか。あるいはおはようの挨拶か。もしくはその両方か。
 一分経過。先日の朝食は和食で固めていた。なら今日は洋食にしようか。厚切りベーコンに目玉焼き、サラダにトマトは必須です。パンにシリアル、イングリッシュマフィンも用意して。ああ、普通にオニオンとベーコンのマフィンも惜しい。全部作ろう。勿論体質の事を考えるとスープは欠かせない。
 三分経過。昼はどうしようか。ヴィヴィオはオムライスが好きだけど、二日連続というのは避けるべきだ。では肉まんやカレーまん、小龍包などを作ろうか。二人が手伝えないけど、そういう日も悪くはない。
 五分経過。夜は、後で考えよう。その前に間食に何を作るか。それは勿論昼の間にあんまんや芋あんまん、チョコまんを仕込めば何の問題もない。たまには飲茶も悪くない。
 七分経過、の前にやっと解放された。流石にこんなにも長くやられると舌が疲労を訴える。その疲労の分、幽香は非常に満足そうだ。出来ればもう少し僕のもやし振りを考えて欲しい。

「行ってらっしゃい」
「……行ってきます」

 最後に触れるだけのキスをしてやっと僕は食堂に向かった。幽香がいるためいつも通りとはならないが、まあ大体いつもどおり今日も始まる。とりあえず起き抜けで何だが、朝寝がしたい。やはり一日十四時間寝ないと体が保たないようだ。そのため夜は早寝を心がけているのだが、そうは問屋に降ろさせなかった人が一名いた。
 全力で眠気と戦いながら昼の仕込みをしつつ、朝食を作る。時刻が七時になるとまずロングアーチの人たちが朝食を食べに来る。彼らの多くは自宅から通勤のはずなのだが、何故か当たり前のようにここで食事を摂っている。

「いやぁ、自宅で食べるとどうしても手抜きになるんで。それに食堂のほうが栄養バランスも味も格別ですし。何より量の割りに安い。本当にこれ、原価取っています?」
「勿論、取っているよ」
「でも聞いた話だと六課の食堂は管理局から予算を貰っていないそうじゃないですか。それでこの価格って……いや無理でしょう?」
「細かいことは良いんだよ。事実としてこの価格でも成り立っているんだから。例えばほら、今日の野菜は全部幽香お手製だから。原価は零でしょ?」
「ああ、そう言うことで……人脈が広いってすごいですね。いや、ユウキさんの場合は一夫多妻か……」

 原価といっても使っている野菜類は大概自家製、ただし今は幽香特製。そのため残したら物理的にも精神的にも説教です。ベーコンや卵も同じく幻想郷産。土地代もなく、水道代も発生しない妖精や精霊の住む地で安全に無農薬栽培を行っております。やつらが。
 残る原価は光熱費と場所代。それでもこんなにも大勢の人が利用してくれているので一人当たりはかなり抑えられる。その上使っている機器の大半が僕が作ったもので、燃料効率は世間一般に比べて桁違いだ。加えて僕は昔から値段をつけるのが匙を全力で粉砕したくなるほど苦手。だから適当に付けているのだが、不安になるほど安すぎたか?
 それよりも昔から僕の周りで蔓延する問題は、どうやって溜まる一方の資金を処理するかだ。処理する手段が殆どなくて困っている。だが、だからといって下らないことに浪費したくないのも事実。使うなら消費で、決して浪費はあってはならない。

「パパ、おはよー」
「おはよう、ヴィヴィオ。良く眠れた?」
「うん、ぐっすり眠れたよ!」

 七時半少し前、幽香とヴィヴィオが来た。もうすぐ来るであろうなのはを待ちながら自分たちの朝食を作る。もしも管理局から予算を貰っているならばここまで自由に出来なかった。
 台所を制す者は全てを制す。はやて部隊長に黙認しなければ辞職すると判断を求めたところ、快く承諾してくれた。やはり人間という者は己が本能の命ずる欲求には勝てないのだ。
 それにしても、しくじった。幽香が向日葵柄の浴衣を着るとわかっていれば洋食ではなく和食で固めたというのに。そうすれば僕も甚平を着れたのに。

「や、おはよう」
「おはよう御座います、ユウキ殿」
「おはよう、ユウキさん」

 続いて来たのは意外となのはではなく八神家であった。だから君たち自宅通勤だろうが。特にこの前ヴィータから特技が料理と聞いた。少しは作らないと腕が鈍ると言うのに。
 ちなみにヴィータから聞いたのは何も特技ではない。何やら切羽詰って一生懸命何かしていると聞く。結婚が云々といった呟きから婚活だろうと推測している。その辺は恋人不在の独身男性局員を極端に入れなかった自業自得としか。せめて昔よく使った墓穴を掘るためのショベルカーなら貸そう。

「おはよー、リインちゃん! ヴィータちゃん!」
「はい、おはようですよー。ヴィヴィオちゃん。今日も元気そうですねー」
「しっかり食ってしっかり動けよ。じゃねぇと大きくなれねぇぞ」
「むー、すぐにヴィータちゃんより大きくなるもん」
「ならしっかり食わねぇとなぁ」

 まあヴィータはこれ以上大きくなれないからね。情報生命体だから情報をいじればある程度は容姿の変更が可能だろうが、そこまでの技術力はここに無い。実家に放り込めば一月の忍耐で完了するだろうけど。

「それにしても……ぁあ……なんつー凶器や、アレは……」
「次は容赦なく踏み潰すわ」
「クゥ! その身は全てユウキさんのものとでも言うんか!? 妬ましい!」

 先日の、幽香とはやてのファーストコンタクトは非常に不可解なもので終わった。幽香を見たはやてが急に妙なことを呟くと同時に飛び掛り、反射的に傘で打ち落として事無きを得る。一体何がしたかったのか、何をしようとしたのか離れていたためわからない。ただ二人の間で何かあるのは事実だ。
 とりあえずはやてが幽香に近づかないように注意しよう。命の危険や殺意は欠片も感じられない。しかし何があるのか分からない以上、ある程度の注意は必要だ。

「おねえちゃん、弱いものいじめはめーだよ」
「大丈夫よ。これは正当防衛だから」
「ならいっか」
「いやいやいやいや」

 大概その前に過剰なという言葉がつくのは言うまでもない。下手に人を殺して恨みを買わないように誠刀でも持たそうかと考える日々を悶々と送る。あの変態刀は所有者の戦う気を断つ所か、相手の意思すら殺ぐ。戦闘の未然防止という意味で誠刀は優れている。
 続いてドアが開き、なのはたちが来た。それではそろそろ僕も朝食を摂ろう。その前に大量の食事を作らなければならないのだけど。

「あ、ママ!」
「おはよう、ヴィヴィオ。それからおはよう御座います、幽香さん」
「うん、おはよう」
「ええ、おはよう。本当に朝から大変ね。あんな早朝から仕事があると朝ゆっくりも出来ないでしょう?」
「ええ。でもやはり私生活と仕事はメリハリつけて頑張らないと、ユウキくんに怒られるんで」
「まあそれもそうね」
「でも近頃管理局辞めて二人で、じゃない。三人で喫茶店をやりたいなと思うようになりまして……困ったものです」

 三人で。ヴィヴィオが今後どうなるかが問題だ。引き取り手が現れるのか、現れないのか。ヴィヴィオが望む未来は何処にあるのか。ヴィヴィオが望むなら今後も一緒にいられるが、そんな普通の未来があるとは考えにくい。
 喫茶店を開くにしても、ヴィヴィオの今後のことを考えるとミッドチルダ、ひいては管理局と全く関係のない世界で画一番良いだろう。そう、例えば地球とか。分類上管理外世界だから管理局もそう容易く手出しできまい。来る際に痕跡を抹消すれば良いだけの話でもある。
 またなのはのご両親にとってもその方が安心できるだろう。いくら腰をすえたからといってもやはり見えない、この手が届かない、声が聞こえない場所で戦っているのは不安だ。いや、戦っているという事実だけで恐怖を感じる。
 もしもなのはの言うとおり三人で店を経営する時、地球で開こう。場所は日本の布留部市なんてどうだろうか。地脈も安定しており、地理的に非常に良い。海鳴市との距離もあり、かといって遠いわけでもない。

「いっただきまぁす!」
「言う側から食べているんじゃない! そしてそれは私が狙っていたブルーベリーマフィン!」
「へっへーん、早い者勝ちだよぉだ。てああっ、それはあたしの!」
「早い者勝ちなんですよね、スバルさん――僕に速さで勝てるとでも?」
「…………皆、静かに食べようよ。ねぇ?」
「キュク」

 あちらの方は意識から除外する。とりあえず大量に山のように料理を持たせていたから恐らくお代わりはないだろう。それこそ四人揃って何か一種類のみを食べない限り。ただしそんな事をした場合は管理局地上本部屋上に集合となるだけである。
 一息つく暇もなく、エプロンを外して三人の待つテーブルへと移動する。流石にこれほどの量を作るとなると、毎日のことであっても腕が疲労を訴える。蘇芳が来ていた間は本当に楽だったのだけど。

「ごめん、待たせた」
「ん、それじゃ食べましょうか」
「うん、おなかぺこぺこだよ」
「それじゃ早速、いただきます」

 座っている席の順番は右から順に僕、幽香、ヴィヴィオ、そしてなのはだ。ヴィヴィオの保護責任者兼身元保証人になり、幽香が機動六課来た。そんなことがあっても僕の日常は大して変らない。機動六課も変ったように見えない。
 何を持って平和とするか、何を持って幸福とするか、何が悪でどれが善で何処に正義があるか。そんなことに拘る必要は果たしてあるのか。
 出会って別れ、友が来て杯を酌み交わし、再会を祈ってまた別れる。絶対の幸福はここにない。でもここには確かに幸せがある。僕にはそれで、この程度の平穏で十分だ。平和はいらない。善も悪も正義も必要ない。今だけで十分だ。

「こらヴィヴィオ、一度にたくさん食べない。みっともないし、もったいないよ」
「ふぁーい」
「口に物入れて喋らないの。汚いわよ。それからケチャップついてるわ。拭くから動かないで」
「むー」

 リスかハムスターの如く口一杯に食べ物を詰めたヴィヴィオをなのはと幽香が注意する。その光景に軽い既視感を覚えて記憶を探ると思い出す。恐らく今ここに幽香がいるからそんな既視感を覚えたのだろう。

「……何よ?」
「いや、懐かしいなぁって。ほら、幽香も昔似たようなことしたでしょ?」
「昔はね。今はしないわ」
「うん。でもそっくりだ」

 昔といっても幽香にとってはまだ二千年と少し前だ。僕の人生からしてみれば僅かに満たない。何となく、こういうことを言い出すと急に年を取ったみたいに感じる。自分も老いたと思える日常も割りと好きだ。
 しかしながら幽香本人からしてみればもう二千年と少し前の話なのだろう。そんな昔の話を今更掘り返されて恥ずかしくなったのか、何も言わずにヴィヴィオの口を拭いた。本当に、あの時映写機を作らなかったのが悔やまれる。

「そういうことは覚えているのね」
「断片的にだけどね。全部思い出すのは流石に無理」
「そう……そう」

 僕が思い出せた記憶と幽香が思い出して欲しい思い出は異なる。もしも幽香がその思い出について語ってくれたなら何か思い出すかもしれないが、しかし彼女はそれをせずにいる。たぶんその思い出は彼女にとって僕があることに価値があるのだろう。
 ならばそれは僕が思い出さなければならないことだ。しかし急ごうと考えない。思い出の内容が見当がつかないため、もし思い出しては幽香がこうして愛に来ることもなくなるかもしれないからだ。まずないと思うが、しかしないとは言い切れない。
 僕は今に甘えているだけだ。変らない平穏に甘え、ただ一歩を踏み出す勇気もない。自らを正当化するために愛しく思い、それを護ろうと流れに抗い、流れに逆らわない。何時か行かなければならないその時まで、必死に。
 毎年一番の向日葵を届けると約束したから。そう言う彼女の笑顔が好きだ。それと同時に今だ思い出そうとしない自分に嫌気が差す。本当に、どうなのだろう。幽香はどうして欲しいのか。それさえ聞けたなら変れるのに。それを聞いたなら、変らなければならないのか。

「ユウキ」
「――ん?」
「今日は泣いても良いから明日はちゃんと笑って。貴方が言ったことよ。こんなにも気持ち良い夏に辛気臭い顔は似合わないわ」
「ああ、そうだね」

 辛気臭い顔、か。確かにあんなことを考えていれば辛気臭くもなる。何はともあれ今幽香は、幽香も偽りのない笑顔でいてくれるなら今はこのままでも良い筈だ。だから僕はまた今に甘えている。
 朝食を食べ終え、片付けも終える。ヴィヴィオを預かっているとはいえ、流石にずっと遊んでばかりもよろしくない。社会の中で生きていくにはある程度の強要が必要だ。それは子供であれ例外はない。
 でも遊び盛りに勉めて学問を強いる、略して勉強というのも酷な話だ。語学、数学等面白みの欠片もない基礎以外は適当に遊びながら教える。ちなみに僕は勉強が嫌いだ。強制的にやらされている時点で拒否感を覚える。何故なら一切楽しくないから。するならせめて勉めて学ぶ勉学でありたい。

「物体はすべからく鉛直下向きに落ちる。つまり其方に力があるからだ。力は物質に作用して加速度を生み出し、加速度は時間と共に速度を増加させる。で、そういったことを纏めて考えてレールを敷くと、ほら」
「お、お、おぉ」
「それじゃ、一緒に作ってみようか」
「うん!」

 ピタゴラスイッチって楽しいよね。理科なんて当の昔に廃絶し、今は身近にあり、興味を引く物理を教えている。教育の第一段階は子供のうちにどれだけ学問の楽しさを洗脳させるかにあると思うんだ。
 語学は読書、化学物理生物は身近にある例を持って、歴史は寝る前のお話で、地理は遠出で、数学は必要とする計算で。遊んで勉強して、食っては寝て。体力が回復したら遊びながら勉強して。楽しくなければつまらない。当たり前の話です。
 急に大気が震えたので窓から外を見ると良く見た光が空を裂いた。そう言えばなのはが幽香に何かを頼んでいた気がする。たぶん絶対負ける相手を敵にした場合、どうすれば良いのかという経験をつませているのだろう。とりあえず、合掌。はやて部隊長にはごまかしに多大な迷惑をかけてしまった。
 時に幽香の相手は誰だろう。スペルカードを使っている時点でかなり手抜きだが、それでもマスタースパークを使ったほどの相手だ。少し気になる。

「あ、ヴィヴィオ。これじゃボールが落ちるよ。ほら、位置エネルギーがゼロになるから前に進まない」
「えっと、空気のまさつけいすうとレールとのせっしょくまさつでエネルギーそんしつが」
「それからレール接合部の段差によるエネルギー変動もね」
「あ、わすれてた」

 細部の計算は僕が行っているが、それをどれだけ必要なのかを考えて足しているのはヴィヴィオだ。流石に細部の計算までヴィヴィオは出来ない。時間さえかければ出来ないことはないが、計算機を使わずにやっているため面倒である。
 そんなとりとめのない日常の一コマ。さて、そろそろ肉まんを作るか。



今日のはやてちゃん

「私のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶぅ――」
「次は、ないと言ったでしょう?」

 スライディング土下座、余裕でした。


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