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No.18266の一覧
[0] ある店主(ry 外伝リリカル編[ときや](2010/10/15 21:45)
[1] 第一話[ときや](2010/04/26 17:51)
[2] 第二話[ときや](2010/06/01 18:18)
[3] 第三話[ときや](2010/05/24 23:48)
[4] 第四話[ときや](2010/05/23 18:35)
[5] 第五話[ときや](2010/05/24 23:49)
[6] 第六話[ときや](2010/05/29 01:25)
[9] 第七話[ときや](2010/05/30 19:39)
[10] 第八話[ときや](2010/10/05 23:24)
[11] 第九話[ときや](2010/06/11 00:15)
[12] 第十話[ときや](2010/06/11 23:00)
[13] 第十一話[ときや](2010/06/25 20:13)
[14] 第十二話[ときや](2010/06/25 21:21)
[15] 第十三話[ときや](2010/07/10 00:53)
[16] 第十四話[ときや](2010/07/17 03:29)
[17] 第十五話[ときや](2010/07/26 00:24)
[18] 第十六話[ときや](2010/08/08 22:26)
[19] 第十七話[ときや](2010/09/12 23:23)
[20] 第十八話[ときや](2010/09/13 15:58)
[21] 第十九話[ときや](2010/10/06 00:46)
[22] 第二十話[ときや](2010/11/12 21:46)
[23] 第二十一話[ときや](2010/11/12 23:43)
[24] 第二十二話[ときや](2010/11/26 21:35)
[25] 第二十三話[ときや](2010/12/24 22:09)
[26] 第二十四話[ときや](2011/01/31 16:35)
[27] 第二十五話[ときや](2011/03/01 14:55)
[28] 後書き+拍手返し[ときや](2011/03/01 15:01)
[29] 拍手返し過去物[ときや](2011/03/01 15:03)
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[18266] 第十九話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/06 00:46

 強さとは何か。前触れも無くそんなことを聞かれ、果たして即答できる機動六課に人が何人いようか。いや、今回は前触れがあったのかもしれない。なぜなら私たちフォワード陣とメカニック陣が暇つぶしに六課最強は誰かと議論していたからだ。
 それを通りかかった隊長たちに聞かれた。そしてなのはさんにそう問われた。ただ、そこはかとなく機動六課。少し目をやればどこかで、青や金やピンクといったバトルジャンキーが獲物を探してうろついている場所だ。
 六課最強は誰か、話をしていたら近くで、決着を付けようではないかといきり立つ者が約二名いた。しかしヴィヴィオの教育に悪いからとユウキさんにエガオになったのは言うまでもない。もしかしたら、あるいは六課最強はユウキさんなのかもしれない。本能的に逆らえないという意味で。
 閑話休題。本題に戻ろう。強さとは何か。正直私たちではその答えは分からない。見当もつかない。というわけで、何かと知っていそうなユウキさんに聞くことにした。行き詰ってはどのような回答も出てこないのだ。仕方が無い。

「強さとは何か、か……なのはも意地の悪い質問をするものだね」

 確かに。力でなく、単純に強さとは何かと聞いている時点でそれは非常に意地の悪い質問だ。さらに強さ、これもまた心の強さか力の強さか、はたまた肉体的な強さか。そのどれとも限定していない。
 この質問は捉え方によっては様々な意味を持つ。そのどれをとっても答えは一通りではない。なおかつ、私たちではその答えの一つにもたどり着けない。いくつかは見当がついているが、そのどれが本当なのかが分からない。なのは隊長の質問の答えなのか……

「少し見方を変えようか。強ければ、何が出来ると思う?」
「強ければ、ですか?」
「うん。強さの意味が現れるのはそこだからね。良く分からないものは少しずつ分かるようにすれば良いんだよ」

 ふむ、そういった見方はしていなかった。只管に強さの意味を考え、力の形を模索し続けていた。
 さて、強ければ何が出来るのか。少しは分かりやすくなったものの、しかしやはり難題であることに変りはない。
 そこでさらに、ユウキさんは口を開いた。

「その前に、少し力について分類分けしようか。僕が思うに、大雑把に分けて力は三通りある。一つは物理的な力、これは極普通に魔力がといったことだね。一つは精神的な力、いわゆる心が強いというやつだ。最後は外界の力。分かりにくいと思うけど、仲間の力、あるいは財力、権力といった自分ではどうしようもない力。
 主に分けるとしたらこの三通りになると思う。さらに細かく分類できるけど、結局は似たもの同士になるからね。それで、質問だ。それぞれ強ければ、何が出来るか。共通していることは何かな?」

 物理的な力と精神的な力は理解できる。しかし外界の力は今一つ理解できない。仲間の力、あるいは財力、権力といったものの、さてどういったことだろうか。
 自分ではどうしようもない。ここから少し切り崩してみよう。物理的な力や精神的な力は先天的な才能はあるものの、ある程度は自分でどうにかできる。伸び白や自由度が存在する。
 そういう観点では財力、権力なども自分でどうにかできるが、ふむ。経済が破綻し、権力を保証する国家が亡くなれば確かにそれは消滅する。これは流石に自分ではどうしようもない。
 仲間の力も自分では伸ばせず、本人の意思によるものだ。しかしこれらは確かに存在する。ただそれらが存在するのは外界、自分の内面の世界ではない。
 そういう意味でユウキさんは外界という言葉を選んだのだろう。なるほど。ある程度は理解できた。完全に、というほどではないが、それでも質問を考えられる程度には。

「す、すいません……」
「……全然分かりません」

 あんたらに期待していない。
 早々諦めた二人を他所に考える。物理的な力が強ければ当然そのままのことだろう。守ることも傷つけることも容易い。しかし、その程度だ。それでは助けることはできても救えはしない。
 精神的な力、思いが強ければ何が出来るだろうか。この前ヴァイス陸曹に借りたが某アニメの主人公属性カンストした主人公が“思いだけでも、力だけでも”と叫んでいた。しかし思いだけでは誰も助けられず、力だけでは救えない世界がある。そう、思いだけでは何も出来ないのだ。
 外界の力が強ければ何が出来るだろう。財力もその世界だけでしか意味が無いことで、また世の中金で解決できる問題ばかりではない。権力なども以下同文。仲間の力では何でも出来る。ただその全てが自分の思い通りになるとは限らない。
 それらの共通事項。と悩んだところで何一つとして共通していることが無かった。それだけでは無能である精神的な力が存在している時点で、この質問に答えは存在していない。

「共通事項は、ない、ですか?」
「それもまた答えの一つだ。こればかりは考え方一つでいくらでも答えがあるからね、どれが正解とは言えない。そういう意味でも強さとは何か、この質問は意地が悪い」
「……ユウキさんのたどり着いた答えは一体、どんなものですか?」
「下らないよ。本当に下らない。どれか一つ強ければ、誰かを傷つけることが出来る。
 物理的な力が強ければ、守るためにそれ以外を傷つけ、あるいは意思を持って他者を害し、精神的な力が強ければその強すぎる意志を持って容易く相手を傷つけることが出来る。意志の弱いものがいればその者を操ることが出来る。いわば妄信させることが可能。外界の力が強ければその力で誰かを傷つけることが出来る」

 思いが強ければ、殺意が強ければ、憎悪が強ければ、思う心が強すぎれば。なるほど、私はその観点を見落としていたのか。仲間が強ければ、その絆が強ければ、財力が強ければ、権力が強ければ。自分に何かあったとき、あるかも知れない時に誰かが誰かを傷つける。
 下らない。本当に下らない。たどり着いた答えは非常に下らないほど、それでいて事実であった。
 だがしかし、そうであってもそうではない。あくまで力が強ければ誰かを傷つけることが出来るだけで、出来るでしかないのだ。必ずしもそうではない。自分の意思である程度は抑制できる。

「だから僕はこう思う。強さとは、力とは抜き身の剣だ。研がなければ錆び、使わなければ意味が無く、触れれば誰であろうと切る。使い手の意思によって動くが、その思い通りになるとは結果を見るまで分からない。
 その上諸刃の剣なものだから使い方一つでは傷つけたくないものまで傷つけてしまう恐れがある。しかしその手に盾は無い。鞘は無い。剣しかない。だからそれを使うか、あるいは自らを犠牲にする以外、守る術が無い」

 質問の意味が無数にあり、答えが人の数だけ存在し、残酷な答えすら存在する。そして残酷なものほど、真の意味に近い。本当に、意地が悪いにも少しは程度を覚えてもらいたい。
 そこまで聞いたところで、一つ疑問が沸いた。ではユウキさんは強いのか。そこまで分かっていて、果たして強さを得ているのか、保持しているのか。いつも弱いと言っているが、そこまでたどり着いているなら決して弱くは無いはずだ。

「いや、僕は弱いよ。だって何も出来なかったから。何も出来ず、何をしても意味はなく、誰一人として守れなかった。守りたかったのに、守ることなど最初から出来なかった……
 何も出来ないのなら、したところで意味が無いなら僕の持つ強さに意味はない。あってもなくても関係が無い。価値が、無いんだ。ほら、だから、弱いだろう? 何も守れなかった僕の強さなんて、あってもなくても同じなんだよ」

 もしも何か一つ、守れたなら僕はここにいなかっただろうしね、と呟き残し、膝枕しているヴィヴィオをそっと撫でる。彼の言葉はどうしようもなく事実なのだろう。どれほど今努力しても、どれほど今貪欲になろうとも守れなかった者は取り戻せない。守りたかった者にもう、届かない。
 結果が残らないのならその強さは弱いものだ。いくら強くとも意味が無いならそれは弱く。強さとは、結局は出来た者の力だろう。望みを叶えた者が手にしている力だろう。
 ユウキさんが強さを剣と例えたように、私は強さを結果と例えよう。結果が出たからこそその人は強さを持ち、強さを持っているからこその人は結果が出たと。
 私の得た答えは正しくは無い。それは絶対的に言える。ただ、ユウキさんが再三言うように、私の得た答えは間違っていない。それもまた言える。結局、世界どこを探しても人生において、世界において、哲学的な問答において正しい答えは用意されていない。だから、間違っていない。そのぐらいでちょうど良い。

「……うーん……」
「どうしたの、スバル?」
「何でなのは隊長は私たちにこんな質問をしたのでしょうか?」
「それは……考えてほしかったんじゃないかな?」
「強さの、意味をですか?」
「うん。そういった答えの無い、でもいつかは考えなければいけないことをね」

 紅茶を飲む。私が思うに、質問した理由は話題を転換したかったからではないだろうか。あのまま六課最強は誰かという議論を続けていては何時か必ず決戦になる。その時もしかしたらユウキさんが場に立っているかもしれない。
 いや、間違いなく立たされているだろう。それを避けたいがためになのは隊長はこんな意地悪な質問をした。そこに少しユウキさんを戦わせるかもしれないことをしたことに対する憤怒を混ぜたのかもしれない。
 結局、これも本人に聞く以外答えなど無い問答であり、また本人に聞いたところでこちらが納得できる回答を得られるとも限らない。悩むのはほどほどにしよう。どうせどれもこれも些細なことなのだから。

「ああそうそう、ティアナ」
「何でしょうか?」
「今日の夜、何か予定ある?」

 急にこの人は何を言い出すのだろうか。そう思いながら今日の訓練予定を思い出す。今日は夜間訓練は無く、緊急出動を想定した訓練もつい先日行われた。当分それは無いはずだ。
 こなさなければならないデスクワークも夕方の間に済む程度で、スバルたちのフォローもそのぐらいで終わるだろう。なら、予定はない。

「いえ、特にありませんが……」
「良かった。なら夜、夕食の後で良いから温室に来て。少し、話しておかないといけないことがあるんだ」
「はぁ……ちなみにそれは、どのようなものでしょうか?」
「……今はまだ、秘密」

 たぶんその話は私に関係することで、私の話ではないのだろう。そのことを何となく感じ取った。少なくとも浮ついた話ではなく、軽く人に話せるような内容でもなさそうだ。
 さて、その夜。予定通り何事も無く、まるで謀ったかのように暇を持て余した。以前ならこういうときは自主訓練に励んでいたものだが、現在それは控えている。控えているだけであって、無理が無い程度に軽くしている時もある。
 無論なのは隊長に相談の上での訓練だ。私個人の意見としては少し軽めな気がするが、正規局員である現在においては仕方が無いのだろう。少し、訓練生だったあの頃が懐かしくなる。
 閑話休題。昼間ユウキさんとの約束で彼が事後承諾で作った温室に足を運んだ。ちなみにそこでは料理に使う薬草や本当に趣味で植物を育てている。中には猛毒の花もあるとは本人談。

「やあ。夜分に呼び出してごめんね」

 私が足を運んだ温室の中央に当然のように立ち、月を見上げていた。装いは夏の夜間の普段着である甚平ではなく、何故か未だにバーテンダー服だった。
 しかしバーテンダー。本来バーで働く人のための服装であり、昼間見るよりもやはり夜間見るほうが相応しい。場に合っていると感じる。特に花に囲まれたユウキさんは一際この世のものとは思えない雰囲気を漂わせているため、何だろう。この感情を何と言えば良いのか。

「いえ、ちょうど暇だったので大丈夫です。それより、話とは一体?」
「そろそろ教えても良いかなって思ったんだけど、さて……」

 その手には何やら見慣れないものを持っている。カード状の、デバイスであろうか。珍しい。起動できても残る魔力が極めて僅か、むしろ無いに等しい彼がデバイスを持ち歩くなんて。一体どういう風の吹き回しだろうか。

「まずは、クロスミラージュに付けた機能についてでも説明しよう」
「……まさかとは思いますが、私たちのデバイスを改造したのですか?」
「鋭いね。その通りだよ。新人フォワード陣全員のデバイスは問題にならない範囲で僕が密かに手を施してある。スバルのは見ての通りの頑丈さ、つまりは新素材だから説明不要で、エリオのはすでに教えている。キャロのは説明してはならないものだから教えていない」

 この瞬間に良く理解したことが一つある。どれほどまともに見える人であっても、所詮マッドはマッドでしかないのだ。
 問題にならなければ良いってあんた、それが無ければどこまでやるつもりだったのよ。その答えを聞きたくは無いが、ぜひとも聞きたい質問だ。

「で、君のは教えない限り使えない代物。でも今までの君に教えるのは少し、危なかったから今まで秘密にしていた。本当はもうしばらく秘密にしていたいのだけど、そうも言っていられない自体が見えてきたからね。ちょうど良い機会だし、僕がティアナに話さなければならないこと全て、話すよ」

 一体何の話か全く分からないが、とにかく強くなれるようだ。ならば私が拒否する必要性は一切無い。

「それを話しても大丈夫なのですか? もしも私がそのことを管理局に教えては問題になるのではないでしょうか?」
「大丈夫。今から管理局が努力してその技術を再現しようと思っても五十年は掛かる。量産体制を築くにはプラスで二十年かな。それ以上に、クロスミラージュに施した技術は現行の体勢を覆す代物だ。量産したくとも、無理なんだよ」
「ですがその場合はユウキさんを捕まえれば、あるいはなのは隊長を人質に取れば良い話ではないですか?」
「出来ると、思う?」

 思考時間二秒。答えは唯一つ。不可能。出来るわけがない。
 ユウキさんの言葉が事実であることを仮定すると、相手は五十年先の技術を最低でも四つは持っており、それらを楽に使える。まず技術面でこちらは劣っており、どう考えても相手はそれ以上の技術を複数有している。
 戦力面から見てもいくらこちらが数で圧倒していようとヴァランディールさん、スオウさん、たぶんその他大勢がいる。あのなのは隊長ですら勝利は愚か勝負にならないと言っていた人たち。そんな人が多数いれば逃げるには十分だ。
 何より、これは勘なのだが、彼ら誰一人として敵にしてはならないと思う。べきではないとかそんなレベルの話ではない。してはならない。絶対の話だ。
 結局、彼の質問は私の質問の答えであり、また私自身への問いかけである。私が管理局にそのことを話せることが出来るかという問いかけなのだ。全く、彼も彼で意地が悪い。

「…………」
「少し長話になるからお茶を飲みながら話そうか」
「……本当、敵いませんね」

 そう言って中央付近にある椅子に腰掛ける。どうやら今回茶菓子は無く、お茶は紅茶でも緑茶でも無くハーブティーのようだ。それも新鮮なハーブを使っているため、茶の色は薄い緑色をしている。

「とりあえず……トランジスタを知っている?」
「えっと……それは何ですか?」
「知っていたら説明が省けたんだけど……いわば大きな電流を小さな電流で制御する電子回路では外せない基礎的な部品の一つ。クロスミラージュに取り付けた装置もそれに似ている」

 つまりトランジスタについて、またその装置について詳しいことが知りたいなら自分で調べてくれということか。

「カートリッジシステム、あれはカートリッジにこめられた魔力を一時自分のリンカーコアに流し込み、反発力で一時的に巨大な魔力を引き出す。けど実際のところ、それはとても効率が悪く、かつ使用者への負担が大きい」
「そうなのですか?」
「デバイスから普段流す以上の魔力を無理やり逆流させる。さらに反発力を求めているんだよ。効率で言ってしまえばカートリッジの魔力と本人の魔力出力の合計値よりかなり劣っている。そんなことは一時脇に放置して。
 とにかく従来のカートリッジシステムはとてもじゃないが世間に出せるものじゃないと僕は思う。で、最初のトランジスタに戻るんだが……まあ簡単に言うとね、そのままなんだよ。カートリッジの魔力を一時体内に戻さず、そのまま使っちまおうっていうだけ。制御魔力として自分の魔力を少量消費するけど、そのぐらいだ」

 確かに魔法の大部分はデバイスに頼っている。精々人が行っていることは使用する魔法の選択と一部魔力制御、また魔力の維持程度だ。ならばこの際その魔力すらもデバイスに任せても問題ないと判断したのだろう。
 ただ思う。外部にある魔力をそのままで使用することが出来るのか、と。いくら大量の魔力でもそれは人の手を離れた魔力だ。少量の魔力ではすぐに霧散するのではないか。

「集束魔法の応用だ。あれは魔力を集めるために大量の魔力を必要とするけど、これは元から魔力が集まり、さらに圧縮されている。そのため僅かな魔力で制御が可能だ。まあ結構な魔力制御力が必要だけどね」
「なるほど。でもその話で行くと砲撃魔法しかできないのではないように聞こえるのですが……いえ、そもそもその手法で魔法を行使することは可能なのですか?」

 カートリッジを使用し、魔力を体内に戻す。それは本当に一瞬だ。デバイスという小さな機器の内部と限定するとその時間は刹那に過ぎないと予測される。その間に流れる大量の魔力を少量の魔力で制御し、魔法を構築し、使用する。いくらデバイスという補助器具があろうともそれは些か難しい。
 少なくともアクセルシューターといった複雑な制御を要する魔法、またヴァリアブルシュートのような時間を要する魔法は使えない。精々砲撃魔法か、直射弾かシールドの類か。使えるといってもその程度が限界だ。

「およそ一般人には君が考えている通りだ。それで十分だろう?」
「まあ、はい。でも良くそんなことをもいつ来ましたね。いくらトランジスタのことを知っていて、カートリッジシステムの効率が悪いといってもそんなとっぴなことを考え付かないでしょう」
「ああ、そのこと。僕が使える魔法の基本的な部分がそれだからさ」

 使える魔法がそれだけで、その魔法が使えるから思いついたのか。確かにそれは道理だが、ユウキさんは魔法を使えたのか?
 再三再四、事ある毎に魔力が無いからといっているユウキさんが、魔法を使えるのか。いや確かに魔法が使えないとは言っておらず、少なくとも魔力があるのだから魔法は使える。しかし、そんな超理論のような魔法を果たして、使えるのか。手元のそれは使うためのデバイスなのか。

「こればかりは実際に見せたほうが早い。僕が使える唯一の魔法はいわば――」

 そう言って指を鳴らす。と同時に背中に虹色に輝く蝶の羽のようなものが生える。その瞬間に一切の魔方陣は現れず、何の前触れも無い。展開に僅かコンマ一秒も掛かっていない。

「――常時展開型魔力集束魔法。これを残されている微量の魔力で誘導し、他の魔法を行使する。魔力量以外の技能は突出しているからね。余計なものを噛ませない方がスムーズに使える」

 今朝方、六課最強は誰かという論議をした。どうやら六課最強は純粋にユウキさんの手にあるようだ。この温室にあった魔力が全て、彼の後ろにある羽に集束している。目の前に展開されている空間モニターもその構成している魔力を羽に奪われようとしている。もうそれは制御の域ではない。魔力の、隷属だ。
 今なお手から魔力球を出してはまた羽に戻しているところを見るといくらでも再利用は可能のようだ。もしかしたら、こちらの魔法すら魔力に分解され、隷属されるかもしれない。天才なんて霞むほどの化け物が眼前にいた。

「余談が過ぎた。クロスミラージュにはカートリッジの魔力を純粋に使う機構を取り付けている。使えるようにしておいたが、余り過信しないように。結局は自分の力で制御しなければならないから、訓練は怠らないようにね」
「それは、勿論です」

 化け物が化け物過ぎて驚くに驚けなかったが、まあ良い。目標が出来た。ユウキさんのようなことは出来ないまでも魔力制御や思考速度を鍛えれば彼に近づけるのは確かだ。目標が出来た分、それに近づくことが出来る。

「それでは次、本題。僕の話」
「そのデバイスに関係する話、ですか」
「うん、そう」

 机に置かれたデバイスを見る。待機状態はカードタイプで、どこかクロスミラージュに似ている。いや、違う。クロスミラージュがこれに、似ている?
 既視感を感じて記憶を探る。何時、私が、何処で、どのような形でそれを見た。その記憶を必死に探す。絶対に見たことがあるはずだ。その記憶はあるのに、該当する記憶が見当たらない。



「これはね、僕がティーダ・ランスターのために作ったデバイスだ」



 思い、出した。そう、そうだ。私はそれを見た。それを持ち歩く兄さんの姿を見た。でも何故、兄さんのデバイスがこんなところに存在するのか。本来ならそれは遺品として私の手元に来るはず。なのに、何故。
 待て。兄さんが死んだ事件では確か、使っていたデバイスはコアを砕かれて壊れたと教えられた。なのに目の前にあるデバイスには傷一つ無い。壊れた形跡は無く、ただ使われ続けたために出来た擦り傷や汚れが存在するのみ。修理は愚か、壊れた形跡が見当たらない。

「本来ならこれは遺品として君の手に渡るか、あるいは処分するかが妥当なんだけど……そうできない事態がティーダが死ぬ前に発生した」
「……詳しい話を、教えてください」
「元よりそのつもりだよ」

 彼は何を知っているのか。何故知っているのか。どうしてそれを持っているのか。疑問は尽きることなく、私の中で泡のように浮かんでは消えていく。
 様々な言葉が口から出て行こうとするのをぐっと堪え、今は話を聞こう。質問はきっとその後からでも聞いてくれるはずだから、今は暫し我慢する。

「……僕が元々あるバーのマスターだということは知っているよね?」
「ええ、まあ」
「出会い等々は省くけど、ティーダは常連の一人だった。結構仲が良かったからデバイスを作ってあげた。考えれば浅慮に作ってしまったのが問題だったのかもしれない」

 少し身近にある例をとって考えてみた。そう、私のデバイスに取り付けられた装置だ。もしもこれが広まったなら、例え魔力素質の低い魔導師でも努力次第では活躍できるようになるだろう。
 同様のことが犯罪者側にも適用されるが、実際の問題はそこではない。魔法と質量兵器の違いはどこか。それは人を選ばず誰もが手軽に扱える。容易く使えるという点にある。
 天に選ばれた者のみが限定的に扱えるからこそ、非殺傷設定があるからこそ魔法はクリーンで安全を歌える。しかし、クロスミラージュに取り付けられた装置で誰もが手軽に使えるようになったなら。魔法はもはや近代兵器の延長線上にある超科学兵器でしかない。
 考えてみれば私たちに与えられた、否、ユウキさんが秘密にする技術というのはどれ一つ取ってしても世界を変えるほどの発明なのだろう。悪く言えば世界が変ってしまうほどの発明なのだ。
 今までは不運にも失敗しなかった。しかし兄の周りで起こった出来事により、少し過敏になっている。考えれば私たちに技術を与えたこと事態、彼にしてみればかなりの譲歩なのかもしれない。

「ティーダに作ったデバイス、まあレイジングハートの姉妹機は現状の管理局から見てもオーパーツ、あるいはロストロギアといって良いものでね。彼にもそれを伝えていたから決して管理局の技術局を頼らなかった。
 だが、その技術力は否応無く目立つ。特にその形、いくらティーダに合わせているとはいえレイジングハートの姉妹機。当時旬な話題であるエースのなのはと同型機となれば誰もが眼を行く。中にはその性能を余すことなく調べたいと願う人がいた。
 しかし当然、エースであるなのはからデバイスを取り上げることが出来ない。しかし空戦魔導師とはいえ地上部隊陸士であるティーダからなら。と一部が権力に物を言わせて取り上げた。それが始まり」

 魔導師からデバイスを取り上げたなら、一部を除いてその大勢が魔法をほとんど使えなくなる。しかしそれに関わらず兄さんは仕事をしていた。死ぬ事件に至っては三日徹夜の大仕事すらしていたほどだ。そのぐらい当時の地上本部は人材不足で頭を悩ましていた。
 ああもちろん兄さんも一部例外に入らない魔導師だ。たぶん管理局から支給されるデバイスを持って事件現場に向かったことだろう。いや、無ければ空も飛べない役立たずだ。どのようなデバイスであれ、持たないわけにはいかない。

「使い慣れないデバイスに加え、使いにくいフォルム。比べるまでも無いほど劣悪すぎる性能、足りない機能。加えて何だっけ。三日徹夜するほどの激務をこなした後の任務で空から来た派遣局員が致命的なミスを犯した穴埋めで死んだのだったか」

 ある精神病、シスコンを除けば面倒見の良い先輩であった兄を慕う人は今も多くいる。その人たちが完全善意で事件の全容を調べたところ、余りに気に食わないことが判明した。
 その空から来た魔導師は犯罪者に対し降伏勧告を行った。これ自体は良い。しかし相手が連続犯かつ再犯者であることを加味した上でその行動を取ったのであれば話は別だ。常識的に考えて、降伏するとは考えづらい。
 またあろうことか廃棄都市とはいえ市街地の近くにあるにも関わらず砲撃魔法を行使しようとした。もしも外れたなら市街地に被害が及ぶかもしれないのに。それを止めるため周りが四苦八苦していたら犯人に市街地に逃げられた。
 いくら才能があるとはいえ、思慮浅い魔導師に犯人確保を頼むわけにも行かず、その場にいた唯一の空戦魔導師に頼むに至った。そこからは兄の単独行動であるため詳しいことは分からないが、相打ちに近い形まで持ち込み、結局市民を護って命を落とす結果に終わる。
 ちなみに以後の航空戦技隊ではレジアス中将命、なのは隊長監修の劇的な意識改革が行われ、そのような人材は物理的に排他されたそうだ。あと、レジアス中将に土下座された。流石にいかつい中年の本気の土下座は素で引いたを良く覚えている。

「そもそもその問題は僕がやりすぎたためだ。文明水準に比べ、余りに先走りすぎた技術というのは不幸を呼ぶことを最初から知っているはずなのに、たかが地上本部がまともになった程度で、大丈夫だろうと安心してしまった僕のせいだ。
 あるいは、僕が早くに気付けば、もっと早くに上手くいかなければ事前に止められた事件でもある。二度は言わない。そもそも言いたくない言葉だが、一度だけ言わせてくれ」
「でも、ユウキさんは……」

 関係ない。そう、関係が無い。ユウキさんはあくまでデバイスを作っただけで、道具を作っただけだ。確かにその責任はあっても決して悪いことではない。ましてや兄の生死に関わるようなことでもない。
 むしろユウキさんがデバイスを作ってくれたおかげで兄の仕事は非常に助かっていた。昔より早く帰ってこれるようになり、疲労も格段に軽くなった。彼がデバイスを作ってくれたお陰で助かった人もいる。



「済まない。僕はまた、救えなかった」



 レジアス中将にも言える事だが、この人にも謝られるいわれはない。むしろ私が感謝しなければならない人だ。だが、それではユウキさんが納得しない。だからここは彼の謝罪を心から受け止める形で私の感謝の意とする。
 とりあえず、誰が悪いという話題を掘り下げても碌なことにならないというのは眼に見えて明らかなことだ。故に閑話休題。別の話を間に挟んで話をずらす。

「所で、どうしてユウキさんがそのデバイスを持っているのですか?」
「中身の大半はブラックボックスにしているんだけど、預けたままというのも気に食わないから取り返した。本来なら君に渡すべきなのだが、言ったとおりこれは半ばオーパーツだから気軽に渡すわけにもいかないんだ」
「まあ、確かに。というより、私にはとても扱えそうに見えませんし。今でもほしがりませんよ」

 いくら慣れてきているとはいえ、現在の技術を改良した程度のクロスミラージュでさえ若干振り回されている気がする。加えて新たな機能が解放された。とてもではないが、その上を行くものを今でさえ私は扱える自信が無い。
 何より葬式があったころの私が力を与えられ、さて何に使うか。碌な使い方をしないのは容易く分かる。だからこそ与えなかったのだろう。

「……うん、やはり疑問なのですが、あなたは一体何者なのですか?」
「あえて分かりやすい言葉にするなら、狂気なまでに狂気を求めた外道の外道。あるいは異常を喰らう人型の鬼とでも言うべきか」
「えっと、つまり狂っていると? 決してそのようには見えないのですが……」
「僕は完成してしまったから。一応まともな行動も取れるだけだよ」

 彼の実家を好奇心で見てみたいやら、恐怖心で見たくも無いやら不思議な気分だ。ただ、彼の実家は決して見るべきではないのだろう。それだけは確実に理解できる。

「酷い言い方をすると、マッドサイエンティストって聞くよね? そういった人と血を重ね、人工的に認否人を作り出してしまった一族が神楽」

 近親相姦を重ね、血の純潔を保つというのは小説で良く聞く話だ。その逆のようなものと受け止めればよいのか。遺伝子劣化に対しては一切の問題はないものの、果たしてそれで目的のものが手に入るかどうか。
 何よりマッドサイエンティストは血や遺伝子よりも精神構造だ。どれほど血を交えた所でそれが遺伝的になるわけも無い。精々家庭環境が歪なものになって、子供の発育に影響を与える程度だ。

「それはともかく、僕の周りに何かしら異常な人しかいないのは事実で、実家は物作りの環境として最高なんだ。お陰で実家の技術水準は世間に比べて突出していた……」
「三人集まれば文殊の知恵、ということですね。でもそこまで突出することも無いと思われますが」
「僕を見て、その言葉がまた言える?」
「あ」

 異常の完成形、それがただ一人でもミッドチルダの技術力を軽々しく上回っている。彼に近しい人が何人もいる場所だ。場合によってはロストロギアに分類しても良い発明を量産しているかもしれない。
 それが本来文明レベルの低い地球で。正しくは彼のいる地球で。考えたくも無いが、事実として存在するのだろう。

「今更どこぞのバカ共が次元航行戦艦や並列世界間転移装置、時間航行船、猫型タヌキロボットなどを作っても疑問に思わないよ」
「そのぐらいですか……」

 常識とは何か。たぶんきっと、失っては二度と戻らない尊いものを言うのだろうなと、何となく悟った。

「基礎概念は置いてきたからね、僕が」
「あなたのせいか!」
「あはは、だから言っただろう? まともな行動も取れるって」

 そこはかとなく血に逆らえないというもので、結局彼も異常者の一員だった。楽しそうに笑うユウキさんの前で私は頭を抱えて突っ伏した。本当、誰でも良いからこの事態の収拾をつけてほしい。

「ぱぱぁ」
「……ヴィヴィオ」
「うー」

 そんな私の前に天使が現れる。実際はつい最近ユウキさんが身元保証人兼保護責任者となったヴィヴィオだ。とてもかわいらしいパジャマ(断じて寝間着ではない)に身を包んだその姿は否応無く天使に見える。
 前触れも無くここに来たヴィヴィオはまっすぐにユウキさんの元に行き、抱きついた。時間帯と服装から考えてもう寝ていても可笑しくは無い。むしろ寝ていない今がおかしい。

「ユウキくん」
「なのはも……寝付いて、くれなかった?」
「うん。やっぱりユウキくんじゃないとダメみたい」
「それは困ったな」
「仕方が無いよ。ヴィヴィオ、まだ不安なんだよ。だから早めに帰ってきてって言ったんだよ」
「ああ、うん。ごめん」

 抱き上げれば首にしがみ付いたヴィヴィオを撫でながら、ユウキさんは困ったように笑う。確かにここまで見事に甘えられていてはそう遠くない未来にファザコンになる。一人立ち云々以前に結婚できるのかどうかという問題が立ち上がる。

「ごめんね、ティアナ。どうやら話はここまで見たいだ」
「ああ、構いませんよ。聞きたいことは一通り聞けたので」
「それは良かった。それじゃ、お休み」
「ええ、おやすみなさい」

 さて、これから暫し追加された機能の小手調べでもしようかと意気込むと即時やる気が萎えた。意味は分からなくとも仕方が無い。何せこれは条件反射だ。無意味に躾けられた結果だ。
 無理と無茶をして問題を起こした次の日から、人知れず無理や無茶な訓練をしようとすると強烈な殺気を叩きつけられる日々を過ごした。今となっては無理や無茶をしようとすると私がそれを自覚しなくとも身体が勝手にすくむ。やる気が思い切り削られる。
 それでも無理をしてやろうと思えば出来ないこともないが、こんな気分で何をしても何も身につかないことは分かっている。泣く泣く帰路に着く羽目になった。明日、なのは隊長に相談しながらじっくり慣れて行こう。


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