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No.18266の一覧
[0] ある店主(ry 外伝リリカル編[ときや](2010/10/15 21:45)
[1] 第一話[ときや](2010/04/26 17:51)
[2] 第二話[ときや](2010/06/01 18:18)
[3] 第三話[ときや](2010/05/24 23:48)
[4] 第四話[ときや](2010/05/23 18:35)
[5] 第五話[ときや](2010/05/24 23:49)
[6] 第六話[ときや](2010/05/29 01:25)
[9] 第七話[ときや](2010/05/30 19:39)
[10] 第八話[ときや](2010/10/05 23:24)
[11] 第九話[ときや](2010/06/11 00:15)
[12] 第十話[ときや](2010/06/11 23:00)
[13] 第十一話[ときや](2010/06/25 20:13)
[14] 第十二話[ときや](2010/06/25 21:21)
[15] 第十三話[ときや](2010/07/10 00:53)
[16] 第十四話[ときや](2010/07/17 03:29)
[17] 第十五話[ときや](2010/07/26 00:24)
[18] 第十六話[ときや](2010/08/08 22:26)
[19] 第十七話[ときや](2010/09/12 23:23)
[20] 第十八話[ときや](2010/09/13 15:58)
[21] 第十九話[ときや](2010/10/06 00:46)
[22] 第二十話[ときや](2010/11/12 21:46)
[23] 第二十一話[ときや](2010/11/12 23:43)
[24] 第二十二話[ときや](2010/11/26 21:35)
[25] 第二十三話[ときや](2010/12/24 22:09)
[26] 第二十四話[ときや](2011/01/31 16:35)
[27] 第二十五話[ときや](2011/03/01 14:55)
[28] 後書き+拍手返し[ときや](2011/03/01 15:01)
[29] 拍手返し過去物[ときや](2011/03/01 15:03)
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[18266] 第十三話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/10 00:53
 近頃、疑問に思うことがある。その疑念はずっと前からあったもので、今頃になって水を得たかのように私の心を乱す思い。それは機動六課に来たライトニング分隊の二人に関することだ。
 機動六課にはなのはの恋人であるユウキと言う人がいる。見た目は私たちと似た年齢だと思うのだが、纏う雰囲気が今まで出会ってきた人の誰とも違う、何とも変わった人だ。
 彼のことをエリオとキャロが少し違う目で、正確には親を見る目で見ている。ついこの前にはエリオが普通にお父さんと呼んでいたところを目撃した。保護者である私なんてまだ五年近くも一緒にいるにも関わらず、さん付けだと言うのに。
 何故、なのだろうか? それが理解できず、ただただ私の大切な人が次々と奪われていく恐怖にかられ、近頃酒に溺れ始めている。そんな、ミッドチルダでは珍しく雨が降ったある日の夜。

「はやてぇ」
「はいはい、どないしたんや?」

 一人で居ることに耐え切れなくなり、酒のせいで心の淀みが溢れる。気付けば私ははやての部屋に足を運び、絡んでいた。
 そんな私をはやては優しく受け入れてくれる。やはり友達は良いものだ。

「そんで、フェイトちゃんはどうしたいんや?」

 溢れた鬱憤をひとしきり出したところで、心が落ち着く。まだ酔いで頭が上手く回らないが、会話が成立しない程ではない。
 さて、私は何がしたいのだろうか。なのはを奪われ、エリオを取られ、おそらく今はキャロも。これ以上、私の大切な人を取られたくはない。だからと言って強行突破は良くない。

「私? ……私は……」
「エリオやキャロに父親となる人物が必要なのは眼に見えている。せやから、今頃二人からユウキさんを取り上げるのは間違いやと思う」

 なのはが好きになったほどの人ならきっと話せば理解してくれる。そう、信じよう。少なくとも悪い人じゃないんだから、うん。きっと大丈夫。

「うん。それは、そうなんだけど」
「かといってフェイトちゃんは二人のこと諦めれんのやろ?」
「諦めるなんてそんな事、出来るわけがないよ……」
「せやったら、そうやな……」

 しばらく思案して、はやての口からこぼれた言葉は。

「それなら――」
「あう、でも……」
「大丈夫やって。きっと分かってくれるよ」

 確かに解決策としては良策だ。しかし、そんなことをやってもよいのか。いや、そんなことをして破滅した人の話を良く聞く。だから、出来るならしたくない。
 でも、でも二人のことを諦められない。酔っていた、そのせいもあるかもしれない。心の奥底で心で描いた未来も悪くないと思ったのかもしれない。
 理由はともかくとして、私は知らず知らずのうちに、頷いていた。



 そんな夜から数日経った日。先日からなのはは地上本部の要請でしばらく機動六課を留守にしている。主には犯罪組織の完全壊滅のためためだ。管理局が万年人材不足でエースがとても貴重な戦力のせいだ。
 さて、新人たちの訓練日誌もつけ終わり、少し喉が渇いたので休憩室に行く。
 そこには意外と先客がいた。機動六課の厨房を取り仕切っているユウキさんだ。日当たりの良い休憩室でも最も過ごしやすい場所を的確に見つけ、読書を楽しんでいる。どんな本を読んでいるのだろう。少し眼を凝らしても題名らしきものは一つもなかった。

「……や、こんにちは」
「あ、こんにちは」

 ただ日当たりの良い場所で本を読む。それだけだというのに彼の様は絵になっているのは何故か。そのような疑問もなく、この日常風景を私はとても綺麗だと、感じる。
 自動販売機でコーヒーを買い、ユウキさんの近くに腰掛ける。ふと見れば高級そうなティーセットが一式。これなら紅茶の一杯でもねだれば良かった。

「……あの、少し良いですか?」
「ん、どうぞ」

 沈黙が重い。私が勝手にそう感じているだけなのだが、ともかく沈黙が重い。それを嫌がって口を開いたのは良いものの、さて何を話せば良いのか。
 何も考えていない。しかし話しかけた手前、今更何も言わないというのも失礼だ。ならば今疑問に思っていることを聞こう。

「どうしてユウキさんはエリオに親しまれているのですか?」
「別に、特殊なことをしているつもりはないんだけどね……ただ、何て言えばいいのかな……優しくするのも大切だ。厳しくするのも必要。でもね、フェイト」
「何でしょう?」
「エリオたちを子供としてしか見ないのは、駄目だよ。エリオはエリオ、キャロはキャロ。ちゃんと彼らを彼らとして見ることが足りてないんじゃないのかな?」
「私はちゃんと見ているつもりなんだけど……」

 保護者として、親として。何よりエリオに至っては自分と同じProject.F.A.T.Eによって生み出された被害者。だからこそ人一倍彼らのことを気にしている。その自負は私の中にある。
 むしろ二人のことを私よりも知らない人にそんなことを言われて腹が立つ。隠している事でも、隠している理由を察して欲しい。少なくともそう、二人とも孤児であることぐらい、聞いているはずなのに。

「親はなろうとしてなれるものじゃない。そもそも君は一年かけて成るものを、さらに長い時をかけて極めるものを、それを数段飛ばしで無理になろうとした。そこに無理がないわけがない」

 もう少し言葉を選んで欲しいと思う一方でユウキさんの言う言葉も理解できる。また事実として彼は二人に好かれている。ここはひとまず言いたいことを一時抑え、彼の話を聞くべきだ。
 例えそれが意味無くとも、少なくとも聞くだけの価値はある。また知らないからこそ、と考えることもできる。ならばやはり、意味はある、か。

「その無理を隠すなら、相手の無理も叱れないよ。子供は敏いよ。下手に賢くなり、愚かとなった大人よりも」
「…………」
「まあ無理に直せとは誰も望まない。ゆっくり、少しずつ親になれば良いんじゃないかな」
「あの……何故頭を撫でるのでしょうか?」
「いやぁ、ちょうど良い所にあったから。つい」

 そう、考えている。ならば普通こう言った、落ち着ける感情は抱かないはずなのに、不思議と私の心は波風立たず、極めて静かだ。ユウキさんが持つ独特の雰囲気のせいかもしれない。だから二人に親しまれていると言うのなら、私は一体どうすべきか。それはわからない。
 分からない今でも分かっていることはこのままではいけないと言うことで、だからこそ悩んでいこう。何時になれば分かるかも、どこまで行けば親になれるのかも分からないけど、何もしないよりかは良い。
 まあ、何とかなると良いな。不思議とそう気楽に考えながら、私は未だに頭を撫でられていた。何時まで私は撫でられているのだろうか。何時まで私はそれを、普通に許容しているのか。気持ち良いから別に良いけど。

「難しいなぁ……」

 執務官の仕事は全て考えれば答えや解決策のある話ばかりで、どうしても答えのない話は全くといって良いほどない。
 そもそもどう振舞えば親になるのか、その考え方は間違っていると感じる。そういう偽りの関係ではなく、私は本当に家族になりたい。だから、違う。

「悩んでいるようやな、フェイトちゃん」
「あ、はやて」
「何か、あったんか?」
「うん……人の親になるのは、思ったよりも難しいんだなって」

 最初からそんなにも簡単になれるものとは考えていなかった。ただ私はエリオやキャロのような救われない子供たちを放って置けなくて、どうにかしようと行動した。
 ユウキさんさえいなければ、今のままでも良いと思えた。あの人が現れるまでは別に家族になれずとも二人が笑顔でいてくれるなら構わなかった。しかし、知り、見てしまった。だから望む。あの場所を、欲する。

「まあまだうちらは十九歳やし、普通なら親になっているわけがない。そんな急に人の親になれるわけがない」
「うん、そうだね……その通り、なんだよ」

 一年という月日をかける。それはきっと子を宿し、産むまでの月日のことだろう。その間に人は、こと女性に限れば一年かけて人は親となる。それも痛みを対価に。
 私はどうか。放っておけないから保護して早五年近く。家族でなくても良いと考えていても、親となる努力はしてきた。
 正直、執務官の仕事に一生懸命で子供たちのことを疎かにしてきた感じは否めない。特に執務官の仕事は長期の仕事ばかりで、一度仕事に出れば一月二月家を留守にするのはざらだ。果たして私が保護してきたことに意味はあるのかどうか。それすら時に不安に思う。

「無理せずに、せやな……ユウキさんのせいやっけ?」
「うん、まああの人のせいと言えばせいだけど、むしろお陰と言うか何というか。ユウキさんがいたからこそ気づけたことだから」
「……せやったら、まあ。そのユウキさんを観察するなんてどうや?」
「えっと、どういうこと?」
「何や、自分に足りていないことは分かっている。それをユウキさんが持っていることも分かっている。なら観察して、足りないものを知ればええ。せやろ?」
「うん……」

 確かに。悩むのではどうしても時間が掛かる。それなら目の前にある手本を観察するのが良い。幸い、その手本は今すぐ近くにいるのだから。残りおよそ一年ほどであるが、この期間を無駄に使うわけにはいかない。

「うん、そうだね。ありがとう、はやて」
「どういたしまして」

 やはり、持つべきは友だ。一人で思考に埋没するとどうしても限界が見えてしまう。でも二人、三人と集まれば何かと意見が出てくるものだ。だからこそ親友は何人いても嬉しい。
 はやての意見を参考に、暇を見てはユウキさんを観察することにした。とはいっても私にだって仕事はある。特に新人の訓練を書かすこともサボることも、手を抜くこともできない。だから余り多くはない時間だが、無益にはならないはずだ。

「…………」

 そして現在食堂。ユウキさんはまた湯を沸かし、お茶を淹れようとしている。本当にたくさん食べている人だ。一体一日にどれほど食べるのだろうか。
 私も少し、小腹が空いてきた。もしかしたら私もユウキさんと同じように食いしん坊なのかもしれない。たぶん今から頼めば私の分も淹れてくれるはず。それにはきっと丁度良い量の茶菓子も着いてきて。

「フェイトも、紅茶飲む?」
「…………」

 なんて、甘いことを考えていると声をかけられる。まさか、気付かれているのか。いや、そんな事はない。仕事のために隠れたり、尾行をしていても気付かれたことはなかった。だから今もそんな気がするだけで、気付かれてはいないはず。
 机の上にカップが二つ置かれ、同様に皿も置かれる。うん、これは彼の気のせい。ちょっとのどが渇いて行きたいけど、今は我慢。

「そう……いらないんだ――桃のタルト」
「…………」

 小腹が空いてきた時を見計らったかのように取りだしたユウキさん。もちろんその誘いを受け入れ、ケーキを食べたい。きっとそれは美味しいのだろう。美味しいに違いない。美味しいはずだ。美味しいに決まっている。

「残念だけど、いらないというのなら仕方がないか……」
「…………」
「………………」

 少しぐらいなら大丈夫はず。唯通りかかったことにすれば問題ないが、それをすると今後こうして観察することに少々無理が発生するかもしれない。
 だが、惜しい。ここであのケーキを逃すのは余りに惜しい。

「…………」
「………………そうか、気のせいか」

 カップに紅茶が注がれる。その芳しい匂いが嗅覚を刺激する。ケーキの切れる心地よい音が鼓膜を叩く。私がそれを認識する前に心は既に、折れていた。

「……です……」
「ん?」
「ほしい、です」
「思い悩むぐらいなら最初から素直になれば良いのに。おいで、フェイト。お茶にしよう」

 手招きにつられて近づき、用意された席に座る。ユウキさんはその様子をただ穏やかに見ていた。何となく恥ずかしい気持ちになる。
 兎に角、差し出された桃のタルトはとても美味しかったです。ご馳走様でした。

「あ、ユウキさん」
「ん?」

 その日から隠れるのをやめた。隠れたところでユウキさんはきっと態度を変えない。それなら無理して隠れるよりも、堂々としていたほうが仲間に嘘をついていないように感じて気が楽だ。
 そうして今日も彼を見つけては声をかける。と言ってもまだ昨日今日の話だけど。それでもすぐに慣れれたのは、それに違和感を覚えないのはやはり、彼に何か特別なものがあるからか。

「――――あ」

 そうして近づいた時、何故か躓いた。それ自体は珍しくない。いつも友達からちょっと抜けていると言われているし、事実そうなのだろう。しかし、仕事中に躓くのは今回が初めてだ。
 近づいてくる床を見つつ、魔法を発動させようとする。ただその前に室内だというのに風が吹いた気がして。

「こらこら、危ないよ。ハイヒールはこけ易いんだから気をつけなきゃ」
「あぅ、ごめんなさい……」

 気付けばユウキさんが今までにないほど近くにいた。はて、妙な話だ。私が躓いてから今まで数秒も経っていない。いや、彼がそれを認識し、行動を始めたとしてもまだ二秒以下の話だろう。
 だというのにこの距離を、およそ十五メートルはあるこの間合いをわずか二秒以下で認識し、詰めたと言うのか。それは人間として余りに素早い。それもちょっと早いではなく、異常に。

「ん?」
「……何でもないよ」

 常春の気候であるミッドだというのに、ユウキさんの体からは何故か晩春の、梅雨間近の匂いがする。他にはちょっと土臭くて、でもどこか懐かしい。
 その匂いで脳裏に思い浮かんだ光景は田舎の田植えで、何故か分からないけど近くにいた見ず知らずの女性に不快感を感じる。

「いや、本当にどうかした?」
「何でもないよ」

 それにしても心地良い。男性だというのに香る、香水などといった人工的ではない自然の匂い。たぶん普段からそういった自然の中にいて体に染み付いてきたものだろう。だからこそ、心地良く思う。

「所で、何の用かな?」
「あ、えっと……少し、一緒して良いかな?」
「……仕事は問題ないの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと終わらしたから」
「なら、別に良いよ」
「うん、ありがとう」

 うん、やはり私はここが好きだ。ここが心地良い。たぶんエリオたちもこんな感覚を覚えたのだろう。そしてそれを、いない父親がくれるものと思ったのか。だから、父さんと。なのはもまた同様であり、ただ彼女の場合は恋心として認識したのだろう。
 そう思うと少し納得できた。そして、少し悔しく思った。これは彼が自然と手にしたもので、私には出来ないこと。私では、届かない。もちろんその程度で諦めるつもりもないが。
 さて、どうしようか。エリオたちに親は必要だ。だからといってなのはからユウキさんを取り上げるのも気が引ける。正直いつか見たお昼のドラマのようなことは避けたい。



 明日、なのはが地上本部より戻ってくるという夜中。珍しく寝付けずにいる。何かが物足りなく感じ、寂しい。そんな夜は久しぶりだ。ふと記憶をたどって考えると、なのはの付き合いが少し悪くなって以来だろう。
 いつか眠れると良いと考え、窓から夜空を見上げていると音楽が聞こえる。場所は近い。こんな夜更けに起きている人がいるのか。暇なこともあり、音に誘われ、部屋を抜け出す。

「ユウキさん……起きていますか?」

 たどり着いた先は何と、なのはとユウキさんの私室だ。まだなのはが帰ってきていないことを考えると、きっとユウキさんが音楽を着ているのか。
 ただこの考えは安易だった。ノックして入ると、ユウキさんが琴を挽いていた。この人は本当に、多才だ。
 でも人は本当はこんな風に自由気ままに生きるべきなのかもしれない。私たちのように仕事に一途に生きるのは、どこか間違っているのかもしれない。だって経った一度の人生、そんな生き方では短い生涯が余りにもったいない。

「フェイト? こんな夜更けにどうしたの?」
「あの……ちょっと、寝付けなくて」
「ふぅん……まあいいか。どうぞお入り。そんな所で突っ立っているのも、何だろう?」

 なのはにユウキさんが取られるのは別に何とも思っていない。彼と結婚するのもそれは良いが、したいと思うこともない。傍にいてくれると安心できる。傍にいてくれるだけで、安心できる。
 この感情を人は何と言うのだろうか。まだこの時の私では分かるわけもなかった。

「で、本当にどうしたの?」
「うん…………えっとね。あの……一緒に、寝ても良いかな?」
「まあ、良いよ」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「何でや!? 何でなんや!!」

 怒りの余り机を叩く。周りのことなど一切気にしていられない。それほどまでに私は彼の行動に怒りを感じた。
 ああ、確かにユウキさんは良い人だろう。しかし、それとこれは関係のない話。どうしても私は、何故あのようなことが出来るのか理解できず、気に食わない。

「何で、あんなにも……」

 口の中に鉄の味がする。やはりここはきっちり話をしなければならないようだ。場合によっては例えその行為が罪であろうと、黒白つけなければならない。

「そんなこと、許されると思うな――ユウキ!」

 そして私は激情を胸に、デバイスを手に彼の元へと向かった。あんな事、例えどのような事情を抱えていようが許されるわけがない。人の感情を、粗末にするなんて、絶対に許さない。全人類の半数のためにも私は、足を急がせる。





 遡ることおよそ一日。事の始まりは夜遅くにあったあの会話だろう。
 近頃何かと思い悩んでいるフェイトちゃんが私の私室に来た。顔はすでに紅潮し、片手に酒瓶がある。どう考えてもただの酔っ払いだ。まあちょうど良く私の手も寂しさを覚えてきたので、フェイトちゃんの来室はいつでもウェルカムだ。それはまた別の話。

「はやてぇ」
「はいはい、どないしたんや?」

 ううむ、私たちの中でももっとも外人らしい豊満な成長をした肢体は時間とともにさらに円熟味が増して。魔法のお陰でさほど激しい運動をせずに済むため、最前線に出ていても肉付きが全くけしからん。
 抱きつかれ、なだめながら話を聞く。酔っ払いの話なので言っていることを正確に汲み取るのは難しく、とりあえず要点だけ纏めると、こんなものだ。ん、また一回り大きくなっている。

 ユウキさんになのはちゃんを取られた。正確には取られたではなく、なのはちゃん自身がユウキさんの元に行ったのだが、それは言わないお約束。絡み酒はうっとうしい。
 ユウキさんにエリオが取られた。幼い少年は等しく親父に憧れるもので、今回はきっとそれに似たものであろう。それは諦めるしかないかと。というかこれ自体エリオが望んでユウキさんの下に以下略。
 ユウキさんにキャロが取られそう。もう語るまい。もう語る必要はあるまい。その被害妄想、まずどうにかしてもらいたいとだけしか語るまい。

「そんで、フェイトちゃんはどうしたいんや?」

 注がれた酒を半ば強制的に飲まされながら本題を聞く。聞かされた問題は全て彼女の家庭の問題。私が何か手を出す必要が果たしてあるかどうか。
 いや、それに関わらず関与しなければならない。なぜなら、面白そうだから。面白そうなことをこのまま放置するなどもってのほかだ。

「私? ……私は……」
「エリオやキャロに父親となる人物が必要なのは眼に見えている。せやから、今頃二人からユウキさんを取り上げるのは間違いやと思う」
「うん。それは、そうなんだけど」
「かといってフェイトちゃんは二人のこと諦めれんのやろ?」
「諦めるなんてそんな事、出来るわけがないよ……」
「せやったら、そうやな……」

 ではどうするのが最も面白いのか。それでいてフェイトちゃんに損の無い話は。しばらく悩み、思いついた。

「それなら――」
「あう、でも……」
「大丈夫やって。きっと分かってくれるよ」

 いやはや本当に、楽しくなりそうだ。それからその日はフェイトちゃんを堪能した。
 思い返せば事の始まりはこの会話だったのかもしれない。今更後悔が間に合うか、懺悔すれば救われるのか分からないが、とりあえず全ての始まりはここだったのだろう。
 とにかくその時私はこの会話によってどのような結果になるや、誰が何を思うと言ったことを、余りに甘く見過ぎていた。本当に、世界はこんなはずじゃなかったことばかりで、手に負えない。もっと私が最悪を想定すれば、こんなはずではなかったのに。



 それから数日後のこと。入念な準備を怠らず、遂に約束の日になった。昨日から障害となる人物も地上本部に呼ばれているためいない。計画を実行するなら今しかない。
 それでは、ミッションスタート。

「時に八神部隊長、何故私がこんな所に呼ばれたのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「んー? まあ私一人で見るのもつまらんでな、ちょっと話相手が欲しかった所なんよ」
「はぁ……ですが私にもしなければならないことがあるのですが?」
「大丈夫やって。しばらくの訓練は基本的に座学。ティアナはその辺ちゃんと出来ていること知っているからな。問題あらへん」
「……職権乱用はどこの国の言葉でしたか?」
「ちっちっち、力は使うものやで?」

 先ずは部隊舎の至る所に設置した監視スフィアを起動する。それをデバイスを通して制御し、空間モニターに表示。もちろん録画録音も完備。例えあの人が何と言おうと、事実さえ作ってしまえば反論もできまい。
 なお、部隊長の仕事はしばらくリインにやって貰っている。もちろん私がしなければならないことはあるので、それは夜中にこなす。楽しい所を、逃さないためにはその程度の労力も惜しまない。

「どうなっても知りませんよ?」
「大丈夫やて。全ての責任は私が取るから」

 フェイトちゃんは現在、なのはちゃんに代わって本日の訓練記録を付けている。一方、ユウキさんはと言うと厨房にて昼食の下拵えを着々とこなしている。
 今はまだ朝だ。この光景は仕方がない。しかしもうすぐすれば状況も変化するだろう。今からそれが一体どのようなことになるのか、楽しみで仕方がない。
 それにしても、何と言う包丁捌きであろうか。材料を切り裂くその包丁が見えないのではなく、腕の動きに眼が追いつかない。近くに置いた野菜に手を伸ばしたと思えば数瞬の間に切り終えている。彼は赤くて角でも着いていると言うのか。恐ろしい。

「ん、ファーストコンタクトやな。ティアナ、マイクの音量上げてくれるか?」
「はいはい」

 そんな下拵えも終り、機動六課でも日当たりが良く、過ごし易い休憩室で本を読んでいたユウキさんにフェイトちゃんが声をかける。その声は少々小さく、聞き取りづらい。
 ティアナにちょうど良いぐらいに音量を上げてもらい、今一度耳を澄ます。録画録音の方は問題ない。

「――――」
「――に、特殊なことをしているつもりはないんだけどね……ただ、何て言えばいいのかな……優しくするのも大切だ。厳しくするのも必要。でもね、フェイト」
「何でしょう?」
「エリオたちを子供としてしか見ないのは、駄目だよ。エリオはエリオ、キャロはキャロ。ちゃんと彼らを彼らとして見ることが足りてないんじゃないのかな?」

 よしよし、感度は良好。画像も鮮明。文句のつけどころは一切ない。さて、話している内容はどのようなものだろうか。

「私はちゃんと見ているつもりなんだけど……」
「親はなろうとしてなれるものじゃない。そもそも君は一年かけて成るものを、さらに長い時をかけて極めるものを、それを数段飛ばしで無理になろうとした。そこに無理がないわけがない」

 どうしてユウキはエリオに好かれているのか、にしては話が違う気がする。とにかく思ったものとは話が違う。それもまた仕方のない。むしろ僅か一度の会話でこちらの思い通りに行くとは思わない。

「その無理を隠すなら、相手の無理も叱れないよ。子供は敏いよ。下手に賢くなり、愚かとなった大人よりも」
「…………」
「まあ無理に直せとは誰も望まない。ゆっくり、少しずつ親になれば良いんじゃないかな」
「あの……何故頭を撫でるのでしょうか?」
「いやぁ、ちょうど良い所にあったから。つい」

 話している内容自体は思った物ではないものの、何かと良い雰囲気ではある。ならば良し。これをきっかけに親密な関係を気付き、そしてあわよくば、いやむしろそちらが本命だが、許されるなら――
 もちろんそんな事を口に出さない。もしも記録に残ればさて、どのような結果になるか目に見え、かつそれが恐怖以外の何物でも無い故に。

「で、一体これは何なのですか?」
「何って、見て分からんか?」
「いや、何となく分かりますけど……だからこそ聞いているんですよ。少なくとも、隊長に知られたらただでは済みませんよ?」
「あはは……大丈夫。知られんかったら大丈夫や。むしろ、そんな事あるわけあらへん……」

 どんなに手早く終わらせても四日はかかる任務。最悪を仮定して三日とする。それまでには全ての証拠を隠滅する手筈は整えておいた。ロングアーチの人にもこのことは伝えていない。
 そしてティアナは、もうこの時点で言い逃れは出来ない状況。ならば何の問題もない。

「難しいなぁ……」

 つぶやきが耳を叩く。ユウキさんのいない休憩室でフェイトちゃんが一人、コーヒーを見ている。一応機動六課内にも自動販売機は存在する。唯頗る売れ行きが悪い。むしろそんなものを飲む時は常に勤務中で、休憩室で飲むものではない。
 聞く話によると昨今の地上本部のほぼ全ての部隊舎の休憩室には喫茶店が設置されているそうだ。もちろんそこにいるのはプロ。そんな贅沢をして良いのかと思うが、お陰で効率が上がっていると聞く。働く時、休む時をしっかりするためだろう。
 さてここはひとつ、フェイトちゃんのために肌を脱ぐべきか。ティアナが他の新人隊員の世話で居ないため、録画は勿論されない。ならば証拠もない。

「悩んでいるようやな、フェイトちゃん」
「あ、はやて」
「何か、あったんか?」
「うん……人の親になるのは、思ったよりも難しいんだなって」

 そう簡単に慣れたならこんな悩みなどそもそも抱くわけもないだろうに。いや、むしろそう言った悩みを抱いている時点で十分に彼女は人の親と慣れるのだろう。もしやユウキさんはフェイトちゃんが悩むことを考えて、エリオの父親役を演じるのだろうか。
 流石にそれは考え過ぎと言うものか。要らない思考を排除し、買ったコーヒーにミルクと砂糖を投入。それから再びフェイトちゃんの隣に腰掛ける。

「まあまだうちらは十九歳やし、普通なら親になっているわけがない。そんな急に人の親になれるわけがない」
「うん、そうだね……その通り、なんだよ」
「無理せずに、せやな……ユウキさんのせいやっけ?」
「うん、まああの人のせいと言えばせいだけど、むしろお陰と言うか何というか。ユウキさんがいたからこそ気づけたことだから」
「……せやったら、まあ。そのユウキさんを観察するなんてどうや?」
「えっと、どういうこと?」
「何や、自分に足りていないことは分かっている。それをユウキさんが持っていることも分かっている。なら観察して、足りないものを知ればええ。せやろ?」
「うん……うん、そうだね。ありがとう、はやて」
「どういたしまして」

 良く言えば純粋な、悪く言えば天然なフェイトちゃんのことだ。私の予想としては暇なときは四六時中ユウキさんのことを観察する。
 そんなストーカー行為をされて良く思う人は普通いない。しかし相手が異性で、かつ美人であればどう考えるだろうか。特に性欲が強いと聞く男性ならあの美人のフェイトちゃんがもしや自分に恋心を抱いているのではと思うに違いない。
 そしてだんだんと近づく二人の距離。あわよくばそこに。そんなことを考えると口元が緩む。

「…………」
「………………」
「…………」

 監視スフィアで二人の様子を見る。フェイトちゃんは仕事がないときにずっとユウキさんを観察している。そのことをユウキさんはもちろん気付いているだろう。むしろ全く隠れていない顔に気付かないわけがない。しかし何も言わず、湯を沸かしている。
 仕事のときはしっかりとそつなくこなすフェイトちゃんでも、普段はかなりのドジっ子だ。だからあのばればれの隠れ方は普段だからで、決して仕事中はそんなことはない。そう信じる。

「フェイトも、紅茶飲む?」
「…………」
「そう……いらないんだ――桃のタルト」
「…………」

 全く持って面白い子である。ユウキさんの言葉に一々反応し、さらに現在はこのまま隠れて観察すべきか、はたまた出て桃のタルトを貰うべきかで葛藤している。現に少し身体が前に行っては戻ってを繰り返している。
 それにしても、録画映像を今一度見てみる。朝六時半、他の部隊員と共に朝食を摂る。それから十時ごろコーヒーを飲みながらチョコレートを少し多めに。十二時、昼食を人並みより少し多めに。二時に間食にクッキーを食べ、三時ごろ差し入れをすると共に自分も。四時、ケーキを取り出して今ここ。
 もしもこれが普段の食生活だとしても、どうして太らないのか。何故いろいろと間違えたスタイルを維持できるのか。それが疑問でならない。まさか太らない体質とでも言うのか。そんなファンタジー、認められるわけがない。

「残念だけど、いらないというのなら仕方がないか……」
「…………」
「………………」

 それを言えば先ほど間食を食べたばかりなのに、また食べたそうにしているフェイトちゃんも同じだ。甘いものを食べてもほとんど太らないのはリンディさんも同じ。あの二人、妙なところで親子だ。妬ましい。
 さく、という音がする。もちろんそんな微小な、タルトを切る音を拾えるわけがない。ただ映像だけでそんな音がした気がした。

「…………」
「………………そうか、気のせいか」

 カップが用意され、紅茶がそこに注がれる。まだフェイトちゃんは扉のところから動いてはいないが、その姿までは隠されていない。むしろ視線がずっとケーキに固定されている。

「…………」
「ん?」
「ほしい、です」
「思い悩むぐらいなら最初から素直になれば良いのに。おいで、フェイト。お茶にしよう」

 決して強要せず、むしろ自分からねだらなければ与えないとは、ユウキさんも意地が悪い。特に相手がそれを欲していると理解している辺り。出来れば私も分けてほしいが、それは欲が強いか。

「……フェイト隊長、言い方間違えていません?」
「ん、まあな」

 色々と言っておきながら、実は気になっているティアナとディスプレイを見る。彼女の言うとおり、フェイトちゃんはものの頼み方を少し間違えている。もしも相手に間違った意見の捕え方をしたならどうするつもりなのだろうか。
 今回は話の流れと言うものがあり、ユウキさんも常識人のため問題はなかった。今後は是非とも気をつけて貰いたい。街中で魔法を使われた場合、後始末が面倒なのだ。

「この部隊ほど非常識な部隊を私は知らないのですが」
「そういう意味やない」
「自覚はあるんですね」

 痛いつっこみを聞き流しつつ、今日のところはこれで終了。残された日数は短い。急ぎ足で言って何か良いことがあるわけではないが、何分時間がない。ここは少々危うくとも急ぎ足で言ってほしいものだ。

 夜中、面白いイベントもなく翌日。
 朝食後にユウキさんが自家用車でどこかに出かけるのを録画映像で確認。その手に重箱が多くあったことからなのはちゃんに弁当を届けに言ったのではないかと推測する。
 時に思うのだが、良く思うのだが、ユウキさんとなのはちゃんは夫婦関係を間違えていないだろうか。一方でなのはちゃんから聞いた話によると年間収入はユウキさんのほうが圧倒的に多いそうだ。では間違っていないのか。そうともいえない微妙な関係である。

「あ、ユウキさん」
「ん?」

 そして午前、屋上で猫や鳥などの動物に囲まれて午睡を楽しんでいたユウキさんが廊下を歩いているところをフェイトちゃんが声をかけた。

「――――あ」
「……こらこら、危ないよ。ハイヒールはこけ易いんだから気をつけなきゃ」
「あぅ、ごめんなさい……」

 天然とドジには定評のあるフェイトちゃん。その噂が伊達ではない光景を、私は見た。
 何もない場所で躓いた。しかもちょうど良くユウキさんに倒れこむという形で。これがもし何も策謀せずに戸言うのであれば、一体彼女は何者であろうか。いや、一体何に取り付かれていることだろうか。
 兎に角、そんな幸運に見舞われながらも好印象は与えれたことだろう。仕事中の引き締まったフェイト執務官と普段の天然でドジなフェイトちゃん。このギャップにときめかない奴は男じゃない。むしろ私が直々に教育を施す。
 さらにさりげなく押し付けられた胸。またちょうど良い位置に落ち着いた頭部。見上げられたあの体勢。ごめん、なのはちゃん。この世は常に弱肉強食なんや……

「所で、何の用かな?」
「あ、えっと……少し、一緒して良いかな?」
「……仕事は問題ないの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと終わらしたから」
「なら、別に良いよ」
「うん、ありがとう」

 ほほう、これは中々に良い雰囲気というものではないか。この仄かに甘酸っぱい空気が何とも言えない。やはりなのはちゃんとは違うのだ。これこそ、十九歳のあるべき姿なのだ。
 そこに多くの言葉はない。ただユウキさんがいて、フェイトちゃんがいて。時々別れて、また出会う。それを望んだのは私ではあるものの、やはり彼氏のいない身としては嫉妬を覚えざるを得ない。



 翌日もまた同様に時は流れて行く。とりあえずきっかけは作れた。後はフェイトちゃんに頑張りに期待しよう。純粋な人を利用した罪悪感が少し胸が痛むが、これも仕方のないことなのだ。
 全ては、そう。全ては出会いのない職場環境が悪い。甲斐性のないこの職場が悪い。出会いさえあればこんなことをせずに済んだのに。

「そろそろ、帰ってきますね」
「せやな。今日中にはちゃんと掃除せなあかんな」
「手、震えていますけど大丈夫ですか?」
「ははは、そんなあほな……」

 そこのスイッチを押せば全消去。残された録画映像などなどは私の個人的な記憶端末に送られている。彼女がそこまで調べるとは思わない。
 残念なことに事実までは発展しなかった。それも致し方のないことだ。世の中思ったとおりに行くことのほうが少ない。特にそこに自分以外の誰かがいるなら、それは滅多にないといっても良い。
 そもそもこれはフェイトちゃんの天然と、そしてユウキさんの男性としての誤解を当てにしたもの。そのような不確定要素を主にした計画が上手くいくわけがない。むしろあのような関係になれただけでも上々と受け止めよう。
 さて、今日は別に特筆すべきことはなさそうだ。そう思いながら映像を見る。ティアナは訓練で疲れているのだろう。今朝一度姿を見せた切り、再び足を運んではいない。そのため、私一人だ。

「――――お?」

 つまらない結果に終わった。そんな落胆を抱きながら消し忘れなどがないかチェックをしつつ、監視スフィアの映像をリアルタイムで観察していた夜中。面白い光景が映し出された。
 それは寝間着のまま寮を歩くフェイトちゃんの姿だ。それもユウキさんとなのはちゃんの部屋の方向。これはもしかすると、もしかしなくとも?
 何とまあ、まさかフェイトちゃんの方から押しかけるとは考えてもいなかったが、中々に大胆な女性だ。もしくはしたたかな。

「ユウキさん……起きていますか?」
「フェイト? こんな夜更けにどうしたの?」
「あの……ちょっと、寝付けなくて」
「ふぅん……まあいいか。どうぞお入り。そんな所で突っ立っているのも、何だろう?」

 流石にプライベートにまで監視スフィアをしかけることは不可能。そう言って諦める私ではない。ここまできたならくだらないことで諦めるわけにはいかない。最寄りの監視スフィアを移動させ、静かにフェイトちゃんの後を追わせる。
 魔力が雀の涙ほどと公言しているユウキさんがそれに気づくわけがない。またフェイトちゃんも今は別の事に気が向いているようで、気付かない。

「で、本当にどうしたの?」
「うん…………えっとね。あの……一緒に、寝ても良いかな?」

 良し、行った。私のしてきたことは決して無駄ではなかったという確信と共に、今後の計画を慎重かつ大胆に練りつつ、事の前には監視スフィアを消去しようと考えた。



 そして話は冒頭に戻る。
 何故ここで、ここまで用意されたと言うのに彼は、健全に一緒に寝る――添い寝と言う行為を取ったのか。そしてフェイトちゃんもフェイトちゃんで何の不思議もなく寝ているのか。
 もっとこう、押し倒す甲斐性と言う者は存在しないのか。据え膳食わぬは男の恥と聞く。どうしてここまで用意された据え膳をユウキさんは手を付けようとしないのか。それが気に食わない。
 ここはフェイトちゃんの決断をたたえ、押し倒すのが男と言うものだろう。その怒りが、心の中を占めている。
 そして私は、文句を言うためにデバイスを片手に部屋を……



今日のなのはちゃん

「三連休で手を打ちましたが、今は自分の浅はかな決断に後悔しかありません。それではこれより刑執行を開始します。受刑者、前へ」
『なお、せめてもの慈悲と言うことで全力で行わせてもらいます。喜びなさい。私のフルスペックを拝めるのはあなたが三人目です』
「……全く、嬉しくない」

ピチューン


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