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No.18266の一覧
[0] ある店主(ry 外伝リリカル編[ときや](2010/10/15 21:45)
[1] 第一話[ときや](2010/04/26 17:51)
[2] 第二話[ときや](2010/06/01 18:18)
[3] 第三話[ときや](2010/05/24 23:48)
[4] 第四話[ときや](2010/05/23 18:35)
[5] 第五話[ときや](2010/05/24 23:49)
[6] 第六話[ときや](2010/05/29 01:25)
[9] 第七話[ときや](2010/05/30 19:39)
[10] 第八話[ときや](2010/10/05 23:24)
[11] 第九話[ときや](2010/06/11 00:15)
[12] 第十話[ときや](2010/06/11 23:00)
[13] 第十一話[ときや](2010/06/25 20:13)
[14] 第十二話[ときや](2010/06/25 21:21)
[15] 第十三話[ときや](2010/07/10 00:53)
[16] 第十四話[ときや](2010/07/17 03:29)
[17] 第十五話[ときや](2010/07/26 00:24)
[18] 第十六話[ときや](2010/08/08 22:26)
[19] 第十七話[ときや](2010/09/12 23:23)
[20] 第十八話[ときや](2010/09/13 15:58)
[21] 第十九話[ときや](2010/10/06 00:46)
[22] 第二十話[ときや](2010/11/12 21:46)
[23] 第二十一話[ときや](2010/11/12 23:43)
[24] 第二十二話[ときや](2010/11/26 21:35)
[25] 第二十三話[ときや](2010/12/24 22:09)
[26] 第二十四話[ときや](2011/01/31 16:35)
[27] 第二十五話[ときや](2011/03/01 14:55)
[28] 後書き+拍手返し[ときや](2011/03/01 15:01)
[29] 拍手返し過去物[ときや](2011/03/01 15:03)
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[18266] 第十一話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/25 20:13

 あ、エビフライサンド美味しい。
 さて、ユウキさんより手渡されたサンドウィッチを食べる。今日の午前訓練が終わった時、流石に限界が来たスバルさんやティアナさんのデバイスが壊れた。それを見たなのはさんが現状でのデバイスではこれ以上は訓練は無理という判断をしたため、僕たちフォワード陣に正式なデバイスを手渡された。
 のは良いのだが、残念。最終調整をする前に初のアラート――第一種警戒体勢及びフォワード陣の出陣要請が出された。後十分もすれば昼食だと言うのに、よくもまあガジェットたちは空気を呼んでくれたものである。
 そう思いながらも優しいユウキさんは僕たちのために大量のサンドウィッチなどをヘリに持ってきてくれた。隣ではキャロがタコスを美味しそうに頬張り、スバルさんが大きなフランスパンサンドに齧り付き、ティアナさんは三つ目のBLTサンドに手を伸ばし、なのはさんはコップに紅茶を注いでいる。
 そしてユウキさんは、何故かそのまま乗込んできたユウキさんは僕たちの前でデバイスの最終調整をしながら手渡された紅茶を飲んでいる。

「…………」

 ユウキさんがここにいる理由、それは聞いてみれば非常に単純だ。彼が個人的に手掛けたデバイスは余りに特殊過ぎ、練習も無しにぶっつけ本番で使えて問題がないほど甘くない。故に使えるように改悪すると言う。
 正直、最初に与えられたストラーダで十分な性能があると思うのだけど、それに慣れている僕らですら手足が追いつかないとは性能とは。一体どのようなものか。

「完了っと。エリオ、キャロ。任務が終わったらまた返してね」
「あ、はい」
「……なのは、そこのポテトサラダサンド取って」
「うん、どうぞ」
「ありがとう」

 それにしても出動要請からヘリに乗るまで十分もないはずだ。なのによくもまあこんなにもたくさんのサンドウィッチなどを作ったものである。カレーパン美味しい。

「それじゃ、おなかも十分に膨れた所で今回の任務について説明するよ」
「今回の任務は二つ、暴走する貨物列車を停止させること。そしてレリックを安全に確保することです。ですからスターズ分隊、ライトニング分隊、二つの部隊でガジェットを破壊しながら車両前後から中央に向かうです」

 デザートのプリンが濃厚で濃厚で。昼食を食いそびれた事による怒気がだんだんと鎮静されていく。
 その間もリインさんが任務について説明する。そう言えばユウキさんはどうするのだろうか。デバイスの調整で乗り込んだは言いものの、魔法の使えない彼が戦場に立つとは考えられない。大方ヘリでのんびり過ごすのだろう。現に今も懐から取り出した本を読んで非常に寛いでいる。

「レリックはここ、七両目の重要貨物室に在ると思われます。スターズかライトニング、先に到達したチームがレリックを確保するですよ」
「何かあれば私たちがすぐに駆けつけるから、皆、安心して戦ってね」
『駆けつけると言うよりは狙撃した方が早いので狙撃しますから、射線上に入らないように注意してくださいね?』

 むしろガジェットよりそちらの方が怖くて笑えません。何があっても、危ないという状況は回避しなくてならないようです。

「それじゃヴァイスくん、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を抑える」
「うっす。なのはさん、お願いします」
「それじゃ、行ってくるけど、皆も怪我には注意してね? 危なくなったら逃げても良いから。とにかく無傷で帰ろうね」
「「「「はい!」」」」
「キュクルー!!」

 なのはさんはそう言うとデバイスを展開して空へと飛び去った。さて、僕らも気を引き締めて、任務に集中する。ここからが本番だ。僕たちはもう、訓練兵ではないのだから。ちゃんとしないと。

「良し――――新人ども、隊長さんたちが空を制圧してくれているおかげで快適に効果ポイントまで到着だ。準備は良いか!?」
「「はい!」」
「それじゃ、行って来い!」

 ヴァイス陸曹の掛け声とともにスターズ分隊の二人は――



「行かすなアホ。行くな馬鹿ども」



 ユウキさんの手によってヘリの床に転がされた。その一連の動作は水が流れるかのように連なって行われ、転がされた本人たちも何をされたのかすら未だに理解していないようだ。そういう僕も何時の間に彼がしたのか気付けなかった。

「バリアジャケットぐらい纏って行け。今の状態で流れ弾に当たればすぐに死ぬよ。このぐらい、陸士学校の初めの方で習う内容と聞いたんだけど?」
「え、あ……えーと……」
「とりあえず、テイクツー。ちなみに次は夕食抜きということで」
「じょれだけはやめてくだしゃい」
「どんだけ飯好きなんだスバル……」
「どちらにせよ、時間がねえんだ。早く行ってくれないか?」

 確かに何かの教科書で読んだ覚えがあるような気が。局員の死亡原因を纏めた時にバリアジャケットの展開が間に合わずに死亡するパターンが、無視できない割合で存在していた。

「はい! スターズ3、スバル・ナカジマ!」
「スターズ4、ティアナ・ランスター!」
「「行きます!」」

「……人の話ぐらい聞け、バカ」

 そしてデバイスを起動させながら、二人は空へと飛び去った。その様子を僕たちとユウキさんは見守る。次はライトニング部隊の効果。意気込みながらキャロの様子を見ると、震えていた。
 正直に言えば初の実戦、それは機動六課に配属されてからという意味ではなく、本当に人生初めての実践だ。だから僕も、怖い。身がすくむ。緊張が身体を縛る。でもここはやはり、騎士としてか弱い女の子の一人ぐらい守らなければ。

「キャ――」
「――大丈夫だよ」

 手をつなごうか。そう言おうと思った時、花の匂いが鼻腔を満たし、心を落ち着かせる。ユウキさんが僕たちを抱き寄せた。間近で見ると分かる若干癖のある髪が肌に触れ、滑らかな触感を伝える。

「一人じゃないから、支えてくれる仲間がいるから大丈夫」
「ユウキ、さん……」
「身に余る力が怖い。その気持ちは正しく、決して忘れてはならないものだ。何故なら力への恐怖を忘れた者は皆等しく、力に溺れ、大切なものを見失う。だけど恐れるだけじゃだめなんだ。恐れて、避けてはだめだ」

 普通より少し低めの体温が緊張で熱くなった体を程よく冷やし、危険な前線だと言うのに一切緊張の無い声が心を解き解す。

「二人は、なのはのことが怖いと思う?」
「いえ、いつも私たちの事を考えてくれる、優しい人です」
「そう……でもね、なのはの持つ力はとても強いよ。なのに何故怖くないか、分かるかい?」
「えっと、それは……」
「力を、制御で来ているからですか?」
「それもあるけど、本質的には違う。単純に彼女が優しいからさ。だから優しい力になる。確かに間違う時もあるかもしれない。その時は遠慮なく僕が止めに入るし、周りの皆も止めるだろう。だから怖くない。
 キャロ、力は力だ。恐れていてもそれは変わらないし、どう使っても本質は暴力でしかない。でも怖がらないで。怖がって避けないで。彼らはただ、人一倍臆病なだけだから。恐れて遠ざけないで。
 エリオもちゃんと守ってあげよう。でも無理はしないように。自分が傷付けば、その分誰かが泣くから。先ずは自分を守ろう」
「「――はい!」」
「……良い返事だ」

 そう呟いて僕たちを離した。やはりまだ怖い。でも先ほどまでよりはましで、多分大丈夫。万事上手くいく。確証もない自信が胸の内にある。隣のキャロも震えてはいるが、もうその目に怯えはなかった。

「エリオ、キャロ。行ってらっしゃい。気をつけるんだよ」
「はい、行ってきます!」
「ユウキさんも気を付けて」
「うん――――そうそう、今日の晩御飯は何が良い? 終わるまでに考えておいてね」

 ある程度安全とはいえ、危険であることには代わりのない最前線で全くふさわしくない言葉だ。ただそれが妙に嬉しく思う。
 さて、足元を見る。すぐ下には走る貨物列車があり、飛び降りる先を間違えば即ご退場となるだろう。となるとデバイスによるナビゲートと、基礎的な飛行魔法による調整が必要か。

「……手、繋ごうか?」
「あ……ありがとう」

 あ、デバイスを起動するのを忘れていた。心の中でユウキさんに謝りながら、デバイスを起動する。

「――ストラーダ」
『Get set……Stand by,ready?』

 髪と同じ赤を基調とし、黒いラインの入ったバリアジャケットだ。汗で槍が滑らないように配慮されたフィンガーグローブは肘まで覆う。半そで長ズボンに箇所によって金属が使われている。
 また両手両足にそれぞれ籠手と具足があり、その金属は本物だ。また籠手の掌部分に金属はなく、十分に動かしやすい。
 また本体である槍を見てみよう。今まで使っていたボーリングスピアとは違い、全体的に細く、それでいて頑丈なようだ。まさに一般的に言われる槍であり、ある程度伸縮性もある。とりあえず使いやすい短さにしておく。

『ちなみにそのどれも本体じゃなくて、亜空間格納庫にいくつかスペアがある。遠慮なく投げたり壊したりして良いから。一応全自動で格納庫に戻るようにしているから全部壊れない限り、底は尽きないよ』
「えっと……カートリッジシステムのほうは?」
『その辺は安心して良いよ。ちゃんと――――別のをつけておいた』

 軽く槍を振り回す。初めてこのような武器を扱うというのに非常に手になじむ。これなら、これならユウキさんに習った槍の基本を存分に発揮できそうだ。

――妙な癖がつくとどうしようもないから。諦めれないと言うのなら――

 そんな理由で基本の使い方だけ教えてもらえた。でもそれは槍の技術で、ボーリングスピアでは今一つ使うことが出来ない。というよりあの太い部分が邪魔だ。しかし、これなら出来る。
 その代わり加速装置のプラズマジェットがなくなったようだ。それが少しばかり、心残りである。

『……ねぇエリオ。魔力をプラズマジェットに変え、さらに推進力を得る効率が素晴らしく悪いことを知っている? あんなことをするなら純粋に加速魔法と浮遊魔法を使ったほうが良いし、小回りも効くんだよ。
 ちなみにヘルプウィンドウも設けておいたから、暇な時に見ると良い』
「はぁ……」
『まあ性能は後で説明する。それよりも敵だ』

 ガジェットがわらわらと。特に延ばされたコードが奇怪に宙を泳いで気持ちが悪い。こんなものを作った人はきっと精神が病んでいるのだろう。少なくとも美的センスを疑わせていただく。

「エリオ君、右!」

 一歩踏み出す。腰の回転に加え、狙った一点に向かって全身で槍を突き出す。その動作をどこまでも早く行う。
 まずは一機。続いて加速魔法を用いて――

『Sonic Move』

 AMF――Anti Magi link Field。魔力結合を阻害し、魔法を打ち消すそれは何も一瞬で行われるわけではなく、そのフィールド内に入ったときから一定の速度で結合を解除する。その結合解除量がある一定値を上回れば魔法が解除される。
 故にAMFを無視するには一つ、完全な物理攻撃で破壊する。しかしスバルさんのような怪力のない僕にはそれは無理だ。かといってティアナさんのような射撃適正や魔力制御力があるわけでもない。
 ではどうするか。一定の減衰比で解除されるなら、魔法が魔法でいられなくなる前に終わらせれば良い。だから。

「ふっ――せい!」

 近づいて、振りぬき貫き穿つ。やはりまだ狙った一点から大分外れる。ユウキさんは落ちる木の葉の狙った一枚すら正確に貫く。それに比べてやはり自分はまだまだだ。

「エリオ君、先走りすぎだよ」

 密集していたガジェットが炎に包まれる。出来ればもう少し早くに行ってもらいたいと思いながら、少し離れていたところにいるガジェットに槍を投げる。

「一人でそんなにも前に出ると危ないよ」
「う、ごめん」

 余りに槍が手に馴染んだもので、つい調子に乗りました。おかげで割と進めれたのだからまあ、悪くはないはずだ。

「所で、エリオ君の戦い方は……もしかして?」
「え、あ……えーと……」
「詳しくは聞かないけど、ユウキさんって料理も出来て、デバイスも作れて、本当に不思議な人だね」
「そうだね……でも、優しい人だよ」

 フェイトさんとは違う。優しいのだけど、時々厳しいところも見せる。事実槍を教えてくれたとき、間違ったことをした場合容赦なく殴られた。でもその分、上手にできた時は褒めてくれた。
 言葉にするなら父さんみたいな人だ。厳しいときに厳しくて、優しいときに優しくて。それでいてその背中は手が届かないほど遠くにある。
 そして、ガジェットを一つ一つ、時に纏めて掃討していたときの事だ。デバイスが警告を鳴らす。それもちょうど真下。反射的に後ろに飛ぶ。
 それとほぼ同時に巨大な球体をした、特徴的な色合いの機械が車両を破壊し、姿を表した。

「……大きい……」
「これも、ガジェット?」

 今までに見てきたものとは比べ物にならない。しかも飛行型に加え、新たにもう一つ出てくるとは。ただこう、形が。もう少し凝ったものは出来なかったのか。残念な気持ちばかりが募る。
 例えばそう、マクロスとか。変形とか合体とか分離とか自爆とか、主に浪漫が一押し足りない気がして止まない。

「キャロ、離れていて。たぶんこいつ、今までのとは全く違う」
「エリオ君も気をつけてね――ケリュケイオン」

 どう攻めるか、それを探っていると球に身体が重くなる。これは、強化魔法が解除された?
 まさかあのガジェットが。こんなにも離れているのに。いや、大きさから考えれば妥当とも言える。

「フリード、ブラストフレア!」

 大きなアームが迫ってくる。しかし大振りなため楽に避けられる。加速魔法を用いて開いた懐にもぐりこみ、死角から鋭く突きを放つ!

「か――――たぁっ!」

 腕が痺れる。ガジェットなら普通に壊れるというのに、無意味に頑丈に作られている。それでもストラーダには一切刃こぼれがない。むしろ、ガジェットのほうに傷が出来ている。
 詰まる所僕の力不足か。ではどうすればあれを破壊できるか。例えどれだけ頑丈であろうとカメラ部分は脆いはず。

「ふっ、は」

 伸ばされてくるアームを右へ左へと逸らす。ユウキさんの突きの方がもっと怖く、正確だ。確かにそれは縦横無尽ではあるが、まだまだ対処できる。唯押し合いになると、広く強力なAMFのせいで小柄な僕では負ける。
 だからこそ、今はまだ逸らす。隙を見て脇に潜りこむが、相手は球体のせいで楽にこちらに向きを変えてくる。全く、嫌な敵だ。

「あ、あの――」

 キャロ、この狭い空間では唯一の有効攻撃であると言っても良いフリードのブラストフレアは使えない。そもそもフルバックである彼女がこんな接近戦をこなせるだろうか。答えは勿論、否。故に与えられている解答は一つ。

「大丈夫。任せて!」

 球体、その面に対し正確に真っすぐ中心を捕えて刺し込まなければ力の流れがそれる。だから力が伝わりにくい。

 上へ飛び、ビームを避ける。

 僕の取り得は早さだ。逆に向こうは頑強さと一撃の攻撃力、そして小回り。正直相手が悪い。だからと言って、はいそうですかと諦めるわけにもいかない。

 ビームを放つ瞬間をねらい、カメラを一つ破壊する。

「しまっ――!」

 壊せた、違う。壊させたんだ。カメラを壊すことにより僕の動きを予測し、そして――

 腹部に重い一撃が入る。その衝撃で僕は、意識が飛ぶ。次はキャロ。それは嫌だ。たぶん、このまま死んでもフェイトさんも、多分ユウキさんも悲しんで。それも、嫌だ。
 だから、だから力が、あれば……





「ん…………」
「旦那! エリオが落ちています!」
「ん? あ、ああ。本当だね。でも大丈夫だよ。あの程度では死にはしないさ」
「いや、死なないって……でも助けねぇと!」
「だから大丈夫だって。あの子たちは君が思うほど弱くはない……それに――」
「ちょ、キャロも! あの馬鹿どもは!」



「――竜魂召喚!」



「だから、ね?」
「……旦那、久し振りに心臓が止まるかと思いましたぜ」
「あはは、少しは自分の部下のことを観察しなよ。そうすれば分かることだと思うけどな」
「まあとにもかくにも、後で殴らねえとな。あの坊主ども」
「……そうだね」





 クエスチョン。僕はどういう状態にあるでしょうか?
 アンサー。抱きつかれています……キャロに。

 うん、まあわかるさ。一時とは言え意識が飛んで、多分崖に転落させられたのだろう。だから心配して助けに来たのか。となると今空を飛んでいる竜はフリード?
 とにかく良い匂いが――――じゃなくて、そろそろ離れてください。かなり恥ずかしいです。これ以上のことを普通にできるなのはさんと、それを平然と受け入れるユウキさんの凄さを知った気がした。流石、最前線であろうがお構いなく砂糖不要の空間を作りだした二人。僕には到底無理だ。

「ぁ――あ、ごめんなさい!」
「いやあの……こっちこそ」

 むしろこちらこそ。僕が一人で無理をして、そのせいでキャロに心配させた。だから本来僕が誤るべきことだ。何より。

『エリオも、ちゃんと守ってあげようね。でも無理はしないように。自分が傷付けば、その分誰かが泣くから。先ずは自分を守ろう』

 言われた。ちゃんと言われた。事実たかが気絶しただけでキャロは危険に身を投じた。その上、今まで成功したことの無いことに挑戦した。
 どうやら僕はまだ、弱いままのようだ。

「フリード……ブラストレイ!」

 巨大化した、本来の姿になったフリードの攻撃でもガジェットは壊せない。いや、車両を傷つけない威力程度の攻撃では傷つかないのだろう。七両目、すなわち隣にあるレリックに下手な刺激を加え、暴発させては意味がない。非しかない。

「やっぱり、硬い……」
「うん、あの装甲形状だと砲撃じゃ抜きづらいよ」

 先ほどの攻撃以外に有効打は望めない。もしかしたらそんな機能があるのかもしれないが、キャロの持つブーストデバイスにある可能性は極めて低い。では、本来そう言った目的である、攻撃目的であるアームドデバイスならいくつかあるはず。
 そう思ってユウキさんに教わったヘルプウィンドウを開く。項目は攻撃魔法、頑丈な相手に対し有効なものはないだろうか?
 ………………
 …………やだ、何これ? 不覚にもときめくのですが。

「――僕とストラーダがやる」
「え? でも……」
「大丈夫だよ、キャロ。僕はもう大丈夫だから」
「……うん、分かった」

 ユウキさんが言っていたカートリッジシステムの代替品。仕様書を斜め読みした結果、それはカートリッジシステムの代替品などではなく、全く別の物であることが判明した。目的は同じなのだが、やり方や効果が全く違う。
 もしも僕がカートリッジシステムの方が良いと思うのならば付け替えてくれるとも書いてある。そのためのスペースは開けれるそうだ。解説書より。

「行くよ、ストラーダ!」
『System Start』

 装甲に隙間が開き、そこから黄色い魔力子が零れる。バリアジャケットの黒い線も同様の色で輝きだす。噴き出した魔力は流れとなり、物理攻撃魔法攻撃問わず、ほぼ全ての攻撃を外へと流す効果を持つ。
 曰く、魔力チャンバーに溜めこんだ圧縮魔力を開放し、リンカーコアに一部戻したり、バリアジャケットに張り巡らした疑似魔力回路に流すことで運動性能、攻撃性能、防御性能など各種性能の向上を行う。ただしこれはリンカーコアにも負担がかかるため長時間の使用や連続使用は禁物。
 確かに心臓の上あたりが地味に痛む。ただこれはカートリッジシステムのようにある特定の魔法を短い時間だけ強化するのではなく、全てを一定時間――五分間強化するシステムだ。だからここぞと言う時に使えばカートリッジシステムよりも使いやすいだろう。

「――はぁあ!!」
『Sonic Move』

 迫るコードを十分に引き付け、その間をかいくぐる。踏み込み、魔法で得た速度を殺すのではなく、腰から下で止め、腰の回転で腕に伝える。腕を伸ばし、狙う一点を定め。

――貫く!

「まだまだぁ!」

 装甲は貫けた。だが浅い。だからまだ続ける。

『Luger Lance』

 槍の先端が開き、隙間から圧縮魔力弾が発射される。内部で爆破。流石にこれには耐えられないようで、新型のガジェットも無残に砕け散っている。

「……ストラーダ、お前ってすごいんだね」
『No. 本当にすごいのは私の製作者です』

 とりあえず終わった。貨物列車もしばらくすると止まったし、レリックの方も無事確保できたようだ。
 ――て、あ。夕食の内容考えていない。ああ、今回はキャロに譲ろう。彼女には心配をかけ過ぎた。
 さて、後継ぎも終ったその日の夕暮れ。任務もあったということで訓練もそこそこに、今日は早めに解散となった。ユウキさんに秘密裏に教わっている槍の使い方も今日はお休み、基礎鍛錬を除いてお休みだ。
 故に報告書も書き上げた現在、絶賛暇をもて余している。こういう時趣味がないのが辛い。時間を潰せないのがきつい。デバイスも点検のため取り合えげられ、自主鍛錬しようと思ったら壮絶な悪寒が背筋を撫でた。本能的に棒を捨てた。

「――というわけで手伝わしてください」
「まあ……良いけど。それじゃニンジン摩り下ろしてくれるかな?」
「はい」

 今日の夕食はキャロの要望でハンバーグだ。材料は合挽きミンチ肉に炒めた玉葱、ニンジン。後各種調味料とつなぎを少々。
 余談だが、キャロはニンジンが嫌いだ。料理にニンジンが入っていると僕の方に寄せてきたり、残したりしたぐらいに。ただしそれも過去形で、それをやった時に出てきたニンジンゼリーを食べて以来、そこまで拒むことはなくなった。

「そう言えば、ユウキさん」
「ん、何かな?」
「ほら、前に一度キャロがニンジンを残したとき、あったじゃないですか。もしもあの後に出たデザートに手をつけなければ、どうするつもりだったんですか?」
「んー……まあこんな風にしてばれないように混ぜるだけだよ」
「なるほど」

 そう言っている間もユウキさんの手は流れるように木べらを操り、玉葱を炒めていく。

「…………」
「………………」

 静かだ。現在ここには僕とユウキさん以外いないのでそれも当然だ。
 大量のニンジンもすり終わり、次に材料を混ぜ合わせていく。この時肉を完全に潰さないように注意して。

「ユウキさん……」
「ん?」
「いや、何でもないです」

 力がほしいと願った。守るため、何より自分がそうであるように誰かを救うため。でも、でもそんな思いでは足りない。不十分だ。
 キャロを守るため、僕は前に出た。その結果傷つき、気絶し、空へと放り出された。もしもキャロが助けてくれなければ、最悪死んでいたかもしれない。少なくとも怪我はしただろう。僕のせいでキャロが泣いた。守りたいと願った人に心配をかけた。
 思いだけでは足りない。自分が願うだけでは駄目だ。その人が、守りたいその人が何を思っているのかも理解しなければ到底、誰かを救うことができない。

「そう……そろそろ混ぜなくても良いよ」
「あ、はい」

 力がほしい。大切な人を守るため、その人の思いを守るため。まだまだ先は長いだろうが、頑張って進んで行こう。



「よろしく、お願いします――父さん……」



 そう心に誓いながら、僕は小さく、呟いた。

「……まあ、無理しないでね」
「あぅ」

 小声でつぶやいたと言うのにどうやら聞こえていたようです。



今日のフェイトさん

「…………」

 掴む壁にひびが入る。何はともあれ、言いたいことは唯一つ。

「……私なんかまだ、フェイトさんなのに――妬ましい」


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