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No.18189の一覧
[0] 【ネタ・習作】P3P女主←無印P3男主憑依であれこれ【TS逆行憑依捏造】[みかんまみれ](2010/06/20 16:18)
[1] ●第一回●[みかんまみれ](2010/04/18 01:56)
[2] ●第二回●[みかんまみれ](2010/04/18 12:09)
[3] ●第三回●[みかんまみれ](2010/04/24 14:48)
[4] ●第四回●[みかんまみれ](2010/05/01 19:48)
[5] ●第五回● 4月21日~タルタロス初探索~[みかんまみれ](2010/06/05 21:00)
[6] ●第六回● 4月22日~“魔術師”コミュ発生~[みかんまみれ](2010/06/05 21:09)
[7] ●第七回● 4月23日~『かつて』からの贈り物~[みかんまみれ](2010/05/29 22:03)
[8] ●第八回● 4月24日~“戦車”コミュ発生~[みかんまみれ](2010/05/29 23:18)
[9] ●第九回● 4月27日~『噂』が呼ぶ悪意~[みかんまみれ](2010/06/20 15:59)
[10] ●第十回● 4月28日~“恋愛”コミュ発生~[みかんまみれ](2010/07/17 00:39)
[11] 蛇足もろもろ[みかんまみれ](2010/07/17 00:51)
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[18189] ●第六回● 4月22日~“魔術師”コミュ発生~
Name: みかんまみれ◆4e5a10fb ID:809f8e81 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/05 21:09
「……ん。こんな感じ、か」

 湊は鏡の前で、前から斜めからと顔を動かして眺めてみて、おかしなところがないかチェックする。
 少し心配だった、泣いた事による目の充血や目蓋の腫れなども、一夜明ければほとんど残っていなかった。いつも通りに化粧を施せば、そろそろ見慣れた感もある、ちょっとした美少女の出来上がりだ。
 ゆかりのお化粧レッスンは昨日で一応の卒業となり、今日からは自分だけで朝の支度をこなす事になる。気楽になったのはいいが、いきなり手を抜けばバレバレなので、そこは徐々にといこう。

 まだ食卓で茶漬けをかきこんでいる順平の近くを、「行ってきまーす」と軽い挨拶で通り過ぎる。答えようとして飯が気管に入ったか、むせたような苦しげな声が聞こえたが、構わず玄関を出た。ご老人じゃないのだし、茶漬けで死んだりはするまい。
 足取り軽く、心も軽く。こうして笑顔で駆けている自分は、何だか昨日までとは違う人間みたいだ。
 涙は心を洗い流すと言うけれど、本当にそうかもしれない。

 昨夜“審判”のコミュニティ『特別課外活動部』を手に入れて、きっと自分はようやくこの世界に受け入れられた気がしたのだ。もちろんそれまでも、世界が自分を拒絶していたというわけではなく、逆に自分がこの世界を認めていなかったのだが。
 でも、ちゃんと目を開けてみれば、世界はこんなにも自分に優しい。そして自分も、この世界を好きになれると思う。
 美鶴と自分がともに生きていられる世界だけが、1度死んだ自分の望みのはずだったのに。たがが外れてしまったように、貪欲にどこまでも願いを広げてゆく自分は愚かだろうか。美鶴、仲間たち、『かつて』コミュを築いた相手、それにファルロス――全員一緒に、幸せを手にしたいと叫んでも、この世界ならまだ許されるんじゃないだろうか?

「知らなかったな。おれって、すごく欲張りだったんだ」

 呟いた声すら、春を歌う鳥のようで。
 学校へと向かう湊の姿は、誰の目にも楽しそうに、弾んで見えたという。


 今日も良く晴れている。
 清々しい空気の中を歩き、学校へと辿り着いた湊はふと足を止めた。正門から校舎までの敷地内に植えられた桜が、もうちらほらと散り出している。昨日の影時間に見た、妖しいまでに咲き誇る様は、今シーズンにおける有終の美であったのだろう。
 花びらとともに、結い上げた髪を風に遊ばせていると、背後から聞き知った声がした。
 振り返れば、いつもと変わらぬ姿の真田がいる。実に健康そうで、これで本当にあばらを痛めているのかと聞きたくなるほどだ。

「おはよう、同じ電車だったんだな。昨日の今日だが、疲れは残っていないか?」
「身体は別に辛くないです。精神的にも、すっかり持ち直しました」
「そうか。まあ、あれだけ啖呵を切ったんだ。しばらくは順平のやつも大人しいと思うぞ」

 昨夜の湊の醜態を思い出したのか、抑えられない笑いが漏れている真田に、湊は憮然とした顔を返した。真田はそれに全く悪いと思っていない態度で「悪い悪い」と手を振って見せる。
 それから湊のすぐ近くまで身を寄せると、少し潜めた声でこう続けた。

「美鶴は休めと言うが、実際あばらの方はそう大した事もない。俺もじきに復帰するから、その時は頼むぞリーダー?」
「…そうですね、桐条先輩が許可してくださったら」
「やれやれ。お前は本当に美鶴が好きだな」
「なっ…!?」

 まさか自分の美鶴への恋心を見抜かれたのかと、湊の身体全体に緊張が走った。――が、よく考えてみると真田にそんな恋だの愛だのといった感情の機微が察せられるはずもないのだ。
 ちなみに湊が『かつて』から継続して抱いている真田へのイメージは、バトルマニアの朴念仁である。割と酷い。
 一瞬で跳ね上がった鼓動をなだめながら真田の表情を確かめるに、完全にこちらをからかっている態度なのが見てとれる。どうにも昨夜の件で、湊にとっては傍迷惑な意味で気に入られてしまったようだ。
 ……湊の真田に対する印象に、『大人気ない』が加わった。

「ははっ。じゃあな。1時限目は授業を潰して全校朝礼だが、話が退屈だからって寝るなよ?」
「寝ませんよ!」

 咄嗟に言い返してから、『かつて』は年末近くなるほど学校で居眠りする確率が上がっていた事を思い出した湊である。しかしこの時期で全校朝礼と言うと、美鶴の生徒会長就任演説か。それはかぶりつきで聞くつもりなので、まあ嘘は言っていないだろう。
 真田は最後まで笑ったまま、湊の肩を叩いて去っていった。
 朝からのいい気分が台無しだ。おれはオモチャじゃないぞ、と内心拳を握り締めていた湊は、ふと視線を感じて周囲を見回す。

「……?」

 だが視界に入るのは、普段通りの生徒たちの登校風景である。
 こちらを見ている複数の気配があったように思ったのは、気のせいだったのだろうか?
 あまり遅れると、鳥海のやる気の無い注意を聞く事になる。湊はそれきりこの視線の事を忘れて、校舎玄関へ向かったのだった。


《――であるからして…》

 一見いい事を言っているようで、実際は何の中身も無い無味乾燥な長話が続く。
 校長のありがたいお話とやらは、真田自身が有里公子に言った通り、酷く眠気を誘った。全校朝礼も既に予定時間の半ばを終え、椅子に座りっぱなしの生徒たちの中にはうとうとと舟をこぐ者が現れ始めている。
 真田も目を開けている事を放棄した1人だが、耳近くで囁かれた警告にビクリと反応する。

「……おい、真田。ご学友のお嬢さんが睨んでるぞ」
「! 美鶴、待っ…――って、おい! こっち見てないじゃないか」
「うん、嘘だ。お前があまりに気持ち良さそうに寝ているのでムカついた。てかお前相変わらず桐条に弱いな…」

 むっつりと顔をしかめて「うるさいな。ほっとけ」と真田は毒突いた。ニヤニヤこちらを観察しているのは、真田が普段からその程度にはぞんざいな口を利く相手である。
 真田に友人は少ないが、全くいないというわけではない。良くも悪くも高校生活3年目ともなれば、それなりに人間関係はある。
 隣の男にも、あばらを痛めて薬を飲んでいるから眠い、という話はしてあった。忘れていないだろうにこうしておちょくってくるのは、人が悪いのか、この退屈な時間に心底飽き飽きしているのか。

「まあそれはいいとしてだ。聞いたぞ、校門前で2年の転校生に手ぇ出したんだって?」
「転校生――有里か? 手を出したって、またそういう話か…」

 いつものように呆れた態度で嘆息して見せる。身に覚えの無い濡れ衣を着せられるのは、不本意ながら慣れていたので。
 しかし今回は、やや引っかかった。校門前、有里公子。場所と人物だけなら、ほんの数十分前の出来事と符合するような。

「……ん? ああ、そうか。確かに…『手』は出たな、つい」

 なるほど、うまい事を言うものだ。有里公子に構いつけるうち、自然に手が伸びて肩を叩いていたのを見られたのだろう。
 だが笑う真田に対して、相手は信じられないものを見るような目を向けてきた。

「えっ? …ちょ、マジか? 例によっての根拠レスな嫉妬とか、ネタじゃなくて?」
「何だ。そんなに驚く事か?」
「いや、だってさあ、お前…これまで実際オンナに興味とか無かったじゃん? へえー、ほおー、ふーん。あーいうのが好みか」
「…勘違いしてないか? 俺はただあいつの肩を――」
「いやいやいや、よーくわかった! 何も言うな。オレはお前を応援してやるぞ。あの牛丼が恋人でボクシングバカの真田クンに、ようやく訪れた春だもんな」

 そこまでは、教師に私語を注意されるかされないかという、ぎりぎりの声量であった。しかしこういった話題に対しては耳ざとくなるのが高校生という年頃の常であり、あっという間に真田の周囲は騒がしくなった。囁き交わす程度の声でも、何十人と集まれば波のように大きなうねりとなる。
 校長はこの状態でも全く意に介する事なく喋り続けている。生徒が聞いていようがいまいが、あまり関係無いのかもしれない。
 さすがに担任教師が1度わざとらしく咳払いをすると、次第にざわめきは収まっていった。
 いつもの事だと肩をすくめ、真田は元凶たる隣の男を睨んだが、奴は真面目くさった顔で演説を静聴するふりをしている。発言の撤回を求めるのは難しそうだ。

 真田は再度、特大のため息を落した。
 ――全く、自分の有里公子への感情は、そんな面白おかしく囃されるものではないというのに。

 真田は、自分が有里公子に、亡くした妹を重ね見ている事を自覚していた。
 いつから、と問われれば、昨夜の一件以外にありえまい。それまでの彼女はただの後輩であり、シャドウの討伐という目的を掲げて共に戦う仲間の1人。真田明彦個人として、特別な思い入れのある相手では無かったのだ。
 それが、あの時の彼女の涙声を聞いて。
 思い出したのは、10年以上も前の事。自分と荒垣の取っ組み合いの喧嘩を、泣きながら止めようとした妹の姿だ。

 真田と荒垣は、同じ孤児院で育った幼馴染にして親友である。それに妹――美紀が生きていた頃は、真田の後ろをちょこちょこと付いて歩く美紀も含めて、3人でよく一緒に行動したものだ。
 しかし男というものはいかんせん、他者と優劣を競いたがる性分がある。それが気の合う友であっても、くだらないきっかけから口論、そして拳が出るに至るのも珍しくない。分別の無い、幼い頃ならばなおさらだ。
 真田と荒垣も度々喧嘩になり、ただでさえ気の弱かった美紀を、怖がらせ泣かせてしまった。
 けれどあの時は、いつものように泣いているだけだと思っていた美紀が、突然真田の背に飛びついてきて。荒垣の方は、驚いて動きを止めた真田を殴り飛ばしてから、美紀の存在に気付いたのだったか。普段から共にいる真田でも滅多に見られないほどの狼狽ぶりだった。
 何とか美紀を泣き止ませ、怪我が無い事も確認して、どうしてこんな危ない真似をしたのかと訊いた。
 その答えが、おにいちゃんもシンジおにいちゃんも好きだからケンカしないでほしい、というもので。真田と荒垣が喧嘩をしてはあちこち傷だらけになるのが嫌で、泣いててもどうにもならないとわかったら、もう飛び出してしまっていたらしい。
 ……それ以後、真田と荒垣が喧嘩になる回数は激減した。

 結局昨夜の件は、有里公子が綺麗にまとめた形で終わった。
 流れを変えたのは彼女の涙であり、心からの叫びである。泣き喚いて己の意見を通そうとするのは子供の我が儘だろうが、彼女のそれは違う。美紀が真田と荒垣を泣いて止めたように、仲間を想うがゆえに有里公子は泣いたのだ。
 これだけで有里公子と妹を重ねてしまう自分の思考回路は、随分と短絡的だと自嘲する。
 だが別に、重ねたからといって何か弊害があるというわけでもないのだ。今は休養中だが、戦闘に復帰すればむしろ、思い入れがあるだけ仲間として気を配れるだろう。

「……まあ、可愛がって悪い事はないだろ」

 自分が特定の異性を特別扱いする、という事が何を意味するのか。
 致命的に理解していない真田は、1人で勝手にそう納得していたのだった。


 全校朝礼があった以外は、特に目新しい事も無い日常だった。
 放課後、鞄に荷物を詰めながら湊は、講堂の演壇に立った美鶴の言葉を思い返していた。
 全員が1つの思いを1年間ずっと切らさずおくのは簡単ではない、大事なのはそれが途絶えても確実に回る仕組みをいかに造っておくか――それは、学校生活と言うよりもむしろ、自分たち特別課外活動部にこそ向けられたもののように聞こえた。ゆかりが、真田が、そして美鶴自身が、己の心の芯としたものを砕かれて絶望し、けれどそれを乗り越えてまた仲間として共に歩む事を選んできた『かつて』。
 結果論でしかないし、今の美鶴がそんな可能性未来を描いているとも思わないが、2度目を生きている湊には耳にしみた。

 さて帰ろうかというところで、湊はクラスメイトの女子に声を掛けられた。これまで1度も話した事の無い、『かつて』でもあまり関わった覚えの無い相手だ。
 笑顔の下に何か含むものがあるような、微妙な表情で彼女は廊下を指差した。

「あのねぇ、有里さん。あなたに話があるって人が、外で待ってるよ? 大事な大事な、話なんだってぇ」
「……大事な話? わたしに…誰が?」
「さあね、あたしにわかるわけないじゃん? 早く行った方がいいと思うなぁ」
「そう…だね。ありがとう」

 何か釈然としないが、重要な話があるという相手を待たせておくのが良くないのも確かだ。
 湊は彼女に礼を言うと、鞄を持ったまま廊下へ出た。タルタロス初探索の翌日に交番の黒沢巡査を紹介されたと記憶しているので、できれば早めに話とやらが終わるといいと考えて。

「ちょっと。アンタが有里公子?」
「――あ、はい。わたしが有里ですが」

 湊が相手を見つける前に、相手の方から呼び止められた。
 声の方を振り向くと、他のクラスの女生徒と思われる2人組がこちらをじっと見ていた。
 1人は染めた金髪の生え際だけが黒い巻き髪の少女。もう1人は、湊の男としての視点で見てすら、濃すぎるのではないかという化粧を施した少女だ。2人が放っている空気は、何やら剣呑である。

「……ふぅん。アンタがねぇ」

 2人組はそれっきり、湊の事などそっちのけで、自分たちだけでぼそぼそと言い交わしている。聞き取れる部分だと「何だ、大した事なくない?」とか「男の前じゃブッてるんじゃないの」とか、よくわからないが悪意が感じられる。
 話があると言う割りには、あまりに失礼な態度である。

「……あの、用が無ければわたしは帰りますけど」
「ハァ? 何勝手に言ってんの」
「アンタさぁ、ちょっとチョーシ乗ってんじゃない? 転校生だからって抜け駆けとか、マジKYってカンジ。真田センパイに肩抱かれるとか、何ソレ? そーやって何人男くわえ込んだの?」

 ……何だろう。今何か、宇宙語を聞いた気がする。
 理解するのを頭が拒む内容に、湊はただ言葉を失った。

 湊の代わりに解説するならば、男をくわえ…云々というのは、そもそも精神が男である湊にはまずありえない話だし、その前の真田に肩を抱かれたというのも、事実ではない。
 真田が肩を、というのなら、それは今朝の校門で軽く肩を叩かれた事だろうか。どうやらその時湊が感じた複数の視線は、噂好きな女子たちのものであったらしい。彼女らが面白おかしく話を広げる間に、真田が親密な様子で湊の肩を抱いていた、という表現に摩り替わってしまったのだ。
 未だ固まったままの湊に、女生徒2人はなおもねちねちと嫌味を投げつけている。廊下を通りすがる他の生徒たちは、遠巻きに眺めたり関わりたくなさそうに去るだけで、この状況を放置していた。
 いつまで続くのだろうか? 何も言わない湊に女生徒たちがさらにヒートアップしてきたところで、救いの手は意外な人物からもたらされた。

「あっれー公子ッチ、まだこんなトコいたのかよ? 今日はオレがラーメン奢ってやるって言わなかったっけ?」
「あぁ!? 伊織かよ、ウザ。あっち行ってろ!」
「女同士の話に割り込んでくんなっつーの!」

 反応したのは湊よりも、怒りの形相の女生徒たちの方が早かった。
 自分を庇うように目の前に立った順平の背中に、湊はまたしても驚くばかりだ。
 女生徒たちの剣幕に、順平は「おー、こわ」とおどけるように両手を上げて見せる。

「つっても、オレの方が先約だし? 早く行かねえと店混むし。用が済んだんならもういいっしょ?」
「終わってねーし! ソイツにもう真田センパイに近付かないって、キッチリ――」
「さ! 行こうぜ公子ッチ」
「な、待てっつってんだろ!」

 もはや女性らしさの欠片も無い荒れた口調でぎゃあぎゃあとわめく2人を尻目に、順平は湊の腕を引いて歩き出す。まだ混乱が残る湊だが、これが降って湧いたチャンスである事は間違いなく、順平について足早にその場を後にした。
 階段を下りる頃には、女生徒たちのやかましい声も聞こえなくなっていた。


 湊と順平は、そのまま玄関まで逃げてきた。さすがに腕は途中で離している。
 靴を履き替えて外へ出ると、下校する生徒たちの波が丁度良く引けた時間帯であり、ほんの数人の人影しか無い。
 湊はようやく、ほっと息をつく。その横で順平も、一気に緊張が解けたようだ。

「っあああもー! オマエね、転校早々から何つーヤバいのに目付けられてんだよ! 見た時マジ一瞬肝冷えたよオレ!?」
「うん。順平が連れ出してくれなかったら、日が暮れるまであのままだったかも。ありがとう」
「どういたしまして、って…いや、そうじゃなくて! 危機感持とうぜ少しは……」

 今一理解していない様子の湊に、順平が語ったところによると。
 湊に恫喝まがいの「女同士の話」をふっかけてきた2人組は、隣のクラスの所属で、悪い意味で有名らしい。普段はそこまで素行が悪いというわけではないが、真田が絡むと態度が豹変する。溜まり場に出入りする不良と付き合いがあるとか、以前真田に積極的に声を掛けていた女子をその不良に襲わせたとか、噂レベルならもっと凄まじい内容もある。
 それでも停学になったりしていないのは、これまではあくまで彼女らの仕業だという証拠が無かったからだと言う。ただ今回は、ターゲットである湊に堂々と接触してきている。

「たぶん焦ったんじゃねーの? 今まで真田サンから女子の肩抱くとか無かったし、オマエが手強いライバルに見えてんだろ」
「それ誤解だから。肩抱かれたりなんてしてないし、叩かれただけ。単に子供扱いされてるんだよ」
「ふーん。ま、事実がどうでも、噂ってのは勝手に広まってくもんだしな。とにかく、気を付けろよ。オマエの場合、転校生だからまだ地盤固まってないっつか。今のうちに叩いとけって思われてるぜ」

 地盤という抽象的な表現に首を傾げる湊に、順平は「つまり、庇ってくれる同性の先輩とか、友達とかってコト。あ、桐条先輩ってのはナシな」と付け加えた。
 順平の話では、ゆかりにも真田と同じ寮へ移る時に、件の女生徒たちからの嫌がらせがあったらしい。ただゆかりの場合は本人の性格が負けず嫌いであるのに加え、同学年の友人や部活の恐い先輩など、彼女の味方が校内にそこそこいるのが幸いした。

「今じゃゆかりッチには何にも手出しできねーって状況らしいぜ? ゆかりッチの場合はそれ以前に、そもそも本人が真田サンに興味ナッシングだけどさー」
「わたしも別に、そういう意味では真田先輩の事どうでもいいんだけど」
「うわー……それ、真田サンの前では言うなよ? あーいう人って一旦気に入った相手には弱いんだから」

 順平が哀れむような顔で真面目くさって言うので、そういうものだろうか、と湊は一応覚えておく事にした。
 後々、湊がこれを意識しながら真田に接したせいで、話が妙な方向へ転がっていく羽目になるのだが――まあ、それについてはいずれ語るとしよう。

 話が長くなってきたので、湊たちは敷地内に設置されたベンチに移動した。ちょうど桜の枝が大きく張り出している真下にあり、散りつつあると言えども風情を感じられる。
 ベンチに落ちている花びらを軽く払って、友人同士として不自然でない程度に距離をあけ、2人並んで座った。

「要するに、真田先輩にあまり近付かないようにしつつ、友達たくさん作って、校内での交流を広げろって事だよね?」
「そうそう。真田先輩の方は寮同じだし、今朝みたいに? アッチから来られる事もあるから難しいけどな」
「友達の方は、わたしも元々そのつもりだったから大丈夫。すぐには無理かもしれなくても、少しずつ頑張るよ」
「そっか。オマエの場合、クラスメイトよりは部活や委員会絡みの方が伝手作りやすいと思うぜ。最初の自己紹介ん時の態度とか、その後の1週間以上の病欠とか、ちょい話しかけ辛いってか、遠巻きな雰囲気出来上がっちまってるし」

 ベンチの背に両腕を乗せるようにしてもたれつつ「オレも結構フォローしたんだけど、女子の方はなー」と空を仰ぐ順平。
 そんな順平の横顔を、湊は少々意外な思いで眺めていた。しばらくすると視線に気付いたか、順平もこちらを向いた。

「ん、何? オレッチに惚れちゃった?」
「……そういうのじゃなくて。ただ、わたしのために色々してくれてたんだなって」
「あー。まあ、言ったじゃん? オレも転校生だったからさ、わかるんだよ。ガッコってさ、結構キビシー部分あるし。女子は特に、グループに入れないとキツいって聞くよな」

 笑って「せっかく可愛い女の子が来たってのに、暗い顔させとくのももったいないじゃん」と誤魔化されたが、冗談めかした言葉の裏にある確かな気遣いを、湊は感じ取った。
 だって湊は知っている。順平が何の下心も無しに、純粋に自分を心配してくれたという事を。
 湊が身体もちゃんと男だった『かつて』においても、同じように順平は声を掛けてくれた。あの時順平がクラスメイトを紹介して、積極的にその輪に入れてくれなければ、元々受身な気質である湊はうまくこの学校に溶け込めたかわからない。
 後々の嫉妬とか八つ当たりとかでつい忘れられがちだが、本来の順平は空気の読める気配り屋であった。

「……順平は、すごいな」

 それは奇しくも、『かつて』チドリが順平に告げた言葉と似ていた。
 湊自身は、順平とチドリの間にあった会話を知らない。この言葉が出た経緯も、チドリの時とは違う。
 だが順平に対して与えた衝撃は、恐らくそれに匹敵するものがあった。茶化す余裕も忘れて目を見開いた順平は、呆然と間の抜けた返事を返す事しかできなかった。

「へ? …そ、そう?」
「すごいよ。わたしには、同じ転校生だからってそこまで他人に親切にするなんてできないもの」

 湊は胸に灯る、ほのかな光を感じる。
 湊が『かつて』は見失っていた、この地でできた最初の友人が自分に向けてくれた温かな気遣い。そして、今だからこそわかる、それがどれほど得難いものであったかという事。
 今の順平が湊を案じる心。それをしっかりと受け取って、自らも応えたいと思う湊の心。
 触れ合った心と心、――ここに確かに、絆は生まれた。“魔術師”コミュが、湊の新たな力となった。


 重ねた両手でそっと胸を押さえて微笑む有里公子の姿は、舞い散る桜の花びらにも似て可憐であった。その唇からこぼれた言葉は真摯であり、お世辞や愛想など抜きにした、彼女の心からの本音であるとわかる。
 カッと熱くなった頬の色を誤魔化そうと、順平はわたわたと慌てた末に、頭の上の野球帽を深くかぶり直す。
 順平には、誰かに真っ向からこんな風に褒められた事が無かった。遠い昔にはあったのかもしれないが、覚えていない。

 いつからだろう。自分の本心を隠し、その場その場で適当に調子を合わせて生きてきた。その方が、楽だったから。叶わぬ夢を追って現実との齟齬に苦しむのも、深く付き合った相手から手酷く拒絶されて心を痛めるのも、馬鹿馬鹿しいと切って捨てたのだ。
 自ら道化を演じ、ムードメーカーを買って出て。それは順平が身に付けた、一種の処世術だった。集団の中で一定の役割を確保し、弾き出されないようにしてきた。
 有里公子に親切にしたのだって、その一環でしかない。いや、多少は順平自身が言い訳に用いた通り、同じ転校生だからと自身を重ねての同情もあったかもしれないが。
 しかし一方で、そんな現在の自分への葛藤があった。漫然と流れてゆく日々を無為に過ごす、本当の意味では誰にも必要とされない、無力で何の価値も無い自分。
 変わりたくて、でも変われない。今さら生き方を変える事は恐ろしく、変われるだけの自信も無かったから。

 昨夜、空回りしているとわかっていながらも、ひたすら戦闘の先陣に立とうとしたのも結局はこれが理由だ。
 特別な力を得た。なら自分は、特別な存在であるはずだ。人に必要とされ、仲間たちに頼りにされるべきであるはずなのだ。
 これこそが、自分の存在する意味なのだ。学校で皆の中に埋没し、波風立てずにへらへら笑っている、そんなものは真の自分を隠すための仮の姿だったんだ。本当の自分は、もっと、もっと――

 ……けれどやっぱり、それは錯覚だった。自分は結局、リーダーの器ではなかった。『ヒーロー』は自分じゃなかったのだ。
 戦いなど無縁に過ごしてきたはずの、あの柔らかな手の少女は、まるでそれが運命であったかのように自然に戦場に立っていた。自分とゆかりに常に気を配り、ゆかりが暫定リーダーをしていた時だって、実際に場の空気を握っていたのは有里公子だった。
 自分が彼女を巻き込む形でペルソナの攻撃を発動してしまっても、鮮やかな身のこなしで回避して見せた。あれで素人だなどと、誰が思うだろうか?
 それが、本物のヒーローの実力。天性の素質、特別である証。本物の前では、ニセモノの自分など無様をさらしただけだった。

 なのにその本物のヒーローたる彼女が、今順平をすごいと褒める。誠意ある感謝の中に、僅かな尊敬すらにじむような視線で。
 それはまさしく順平が欲していたもの。自分の存在を確かに肯定してくれる言葉。
 特別と思い込んだ戦場では順平など皆の中の1人でしかなかったのに、ただの処世術であった日常での己こそを、戦場でのヒーローが賞賛している。

 順平の脳裏を、一瞬にして様々な感情が駆け巡る。
 歓喜。誇らしさ。でも消せない嫉妬。猜疑。
 巡り巡って、結局は相手と自分の差に落ち込む。こうして自分がぐるぐる考えている事だって、彼女にはどうでもいい話だろう。
 有里公子の無邪気な笑顔を見れば見るほど、自分のみじめさが身につまされる。
 もし彼女がペルソナ使いでなく、ただの転校生の女の子だったなら、もっと素直に彼女の言葉を受け入れられただろうか?
 得意げに笑って「ようやくオレッチのすごさがわかったか! わはは、苦しゅうないぞ」なんて、軽口の1つも飛ばせただろうか。
 だが現実の有里公子を前にした順平には、表情は帽子で隠せても、苦い思いが声を低めるのまでは止められない。

「……どっちが、すごいってんだよ」
「え?」
「昨日の戦いさ、オレなんて足引っ張るばっかで…それに比べて、オマエはすげーよな。リーダーやるために生まれてきたんじゃねーの? その後だって何つったっけ、みんなと一緒に生きていきたい? ……何でそーいう事さらっと言えるワケ?」
「……それは、」
「オレだってゆかりッチだって結局は会ったばっかの他人だろ。その他人をさ、命懸けてまで守ろうって何で思えるんだよ。オレみてーにカッコつけたいってんでもないのに、……そっちのがよっぽど、難しいじゃんか」

 刺の混ざった言葉を吐いて、順平は帽子を上げると常に無い真顔で有里公子を見据えた。いつものように、なあなあで済ませてしまえばいいのにと、自分の中の誰かが呆れている。
 でもここで誤魔化さないのは、あえてその刺を彼女に見せる事は、せめてもの誠意であるように思えたのだ。昨夜涙声で訴えてきた彼女への、これが今の順平なりに、表せる限りの応えだった。


 風が梢を揺らし、色気の欠片も無く見つめあう2人の間を花びらが舞う。
 数秒、それとも数十秒。視線をそらさずに順平の心に向き合った湊は、ゆっくりと口を開いた。

「……他人じゃ、ないからだよ」
「わたしたちもうお友達でしょ、ってか? マジでそんなん思ってんの? それで納得しろって!?」
「ちょっと違うかな。『お友達』じゃないよ。わたしにとっては、――もっと、強い執着だから」

 わけがわからない、というように眉間にしわを寄せる順平に、湊は曖昧に笑んで見せた。
 他人ではない。『かつて』と重ねないと決めはしたが、それでも彼らは湊にとっては仲間なのだ。これからの1年を共に歩む、また『かつて』があるからこそ、さらに深く関わって絆を結ぶと決めた人たち。
 しかし今の順平に対して、自分が2度目の時間を生きているなどと正直に言えるわけもなく。
 湊が理由として選んだのは、またしてもこの言い訳だった。

「わたし、記憶喪失なんだ」
「は? ……え? 何、その唐突な振り?」
「冗談とかじゃないよ。最初にこの街に来た夜、寮に着いた時にはもう、わたしに昔の記憶は無かった。前の学校の事とか、これまで世話してくれてた親戚の顔も、何にも。桐条先輩は、影時間に対する適性への目覚めが、うまくいかなくて混乱したせいだろうって」
「何ソレ、何そのヤバい話!? つか、初耳なんですけど! じゃあ何、オレも一歩間違ったらキオクソーシツだったワケか!?」
「どうだろ。わたしが特に酷いってだけかもしれないし」

 順平のリアクションが大きすぎて、話が別方向にずれそうだ。
 湊はずいっと身を乗り出して、強制的に順平の注意をこちらに向けさせると「つまり」と続けた。

「記憶喪失のわたしにとっては、わたしを初めて受け入れてくれた寮のみんなが家族みたいなものなの。順平だって寮の一員になったんだから、同じだよ。わたしの居場所はあの寮で、他に行くところなんて無い。家族を、自分の居場所を守りたいって思うの、おかしくないでしょ?」
「――かぞ、く?」
「難しい事なんて、わたしは考えてない。ただ、この街でわたしが『生き始めて』最初に一緒にいてくれた人たちと、これからも一緒にいたいだけ。わたしはそういう、単純な人間だよ」

 姿勢を戻して、湊はこれで終わりとばかりに順平の言葉を待った。
 先ほどは言い訳と言ったが、湊の言葉全てが嘘であるわけでもない。少なくとも、仲間たちと共に生きていきたいという願いだけは偽り無き真実の想いだ。そして湊に有里公子という少女が育った環境の記憶が無いのも、また事実である。
 疑われるかと多少は身構えていた湊だが、順平はそれよりもさっきから「家族」という単語ばかりを繰り返している。

「……順平?」
「…ん、ああ。…悪ぃ。何でもねーよ。そだな、まだ理解できねー部分もあっけど……オマエが本気だってのは、よくわかった」

 順平は話を打ち切ると「そろそろ行こうぜ」と立ち上がり、真顔なのはそこまでだった。2、3歩進んで、湊がまだ座ったままなのを振り返ると、いつものニヤリ顔で腕組みしてふんぞり返る。

「おいおーい。このオレがせっかく奢ってやるって言ったんだぜ? 滅多にないってこんなラッキーチャンス!」
「…あれ、あの場から逃げ出す作り話じゃなかったの?」
「まあ昨日の詫びも兼ねてって事で。大丈夫! 男・伊織順平に二言は無い! 今日はまだそこそこ財布があったかいからな!」

 ラーメンラーメン、と調子っぱすれに歌い出した順平を追って、仕方なく湊も歩き出した。
 何だか、肩透かしだ。心で向き合ったと思ったのに、途中で逃げられたような。
 湊は『かつて』順平の私情に立ち入った事は無い。だから、今の順平が何かを抱えているのはわかっても、その正体に関しては推測しかできない。家族という単語に反応したのだから、恐らく家庭の事情なのだとは思うが。
 順平は横に並んだ湊をちらと見て、だがすぐに視線を前に戻す。それから独り言のように、静かに呟いた。

「……ちっとさ、時間欲しいんだわ。正直、オマエの気持ちに応えられるほど、今のオレ自身が色んなコトにケジメつけられてねーし。言い方悪いかもしんねーけど、……まだ、重すぎるってかさ。オレから聞いておいて何だけど」
「うん。そう言われても、仕方ないよ」
「とりあえず、普通に付き合ってくれっと嬉しい。オレだってオマエの事嫌いじゃねーし、いい友達になれたらなって思ってる」

 その後は何となく無言のまま、校門へ向かって歩く。
 敷地を出る前に突然、順平が立ち止まった。何やら重要な事に気が付いた、といった様子で湊を振り向きのたまう内容は。

「なあなあ! 考えてみたら今の会話、何か公子ッチがオレに告白したみてーじゃね!?」
「安心して。それは絶対無いから」
「ナッハハハー。……ですよねー」

 キラキラと擬音の付きそうな爽やかな笑顔で断言した湊に、順平は予想以上に凹まされたようだ。深くため息をついて、くずおれるようにその場にしゃがみ込んでしまった。
 まさか期待していたわけでもないだろうに、つくづく大袈裟な男だ。湊はそう思い、どうでもいい話として流した。

 ちなみに今さら校舎から出てきた真田が一直線に寄ってきて、取り巻きの女子たちからまたぞろ湊が睨まれたのは余談であろう。立ち直った順平に「ちょ、真田サン空気読んでください!!」と言われて、意味がわかってない真田もお約束だ。
 真田の用件は湊の記憶通り、武器の入手経路としてのポロニアンモール交番の紹介だった。
 そして今回も幾月からの支度金は5千円だった。『かつて』の年末あたりでは十数万円という出費が当然だった湊も、順平と一緒になって「しょぼい」ともらしたのであった。


 ともあれ、新たなコミュを作るという意味でも、湊にとっての本格的な学園生活が始まった。
 性別が違うという事で、以前は簡単に友達になれた相手と話し辛かったり、逆に全く接点の無かった相手と縁を持つ事ができたり、色々な変化が予想される。『かつて』友近との間に築いた“魔術師”コミュが、今は順平との間に発生したわけだから、それぞれのアルカナに対応する相手が大幅に変わる可能性もあった。
 全ては、これからの湊の行動次第だ。1つ確かなのは、自分から動かなければ何にもならないという事。
 自らの足で歩いていき、心を注いで絆を生み出す。世界を守る方法を探すのと同等に、今の湊には必要な行動だ。
 そして湊自身が今最も欲している絆、その相手はもちろん――

「……美鶴」

 自室で明日からのスケジュールを組み立てつつ、想い馳せるのは彼女との大切な記憶。
 ここに彼女から貰ったバイクのキーは無いけれど、この心に焼き付いた思い出こそが何よりの証だ。

 ……けれど湊はあえて目をそらしたままでいる。
 今の仲間たちを『かつて』の彼女らと重ねないと言いながら、美鶴だけは全くその区別がつかぬほどに重ねたままでいる事に。
 それもやむなきかな。この世界において湊の生きる目的とすら言えるものが、桐条美鶴という人間への恋情だ。今の湊がこの世界の美鶴を『かつて』の彼女と別人だと認めるのは、湊自身の生きる意味を否定する事に等しい。
 だが、コミュを築くには一方通行の思いではいけない。湊からだけでなく、相手の方でもまた、湊が自分の心に向き合ってくれていると感じられる事が必要なのだ。
 はたして美鶴が、湊が自分に誰かを重ねていると気付けないほど、愚鈍な人間だろうか?

 シャワーから上がって、女性ものの下着を着けるのにもすっかり慣れてしまった。もともと脱がせた経験はあるし、自分が身に着けるという抵抗感さえ乗り越えてしまえば、さして難しくもない作業だ。
 髪を乾かしてパジャマに着替え、ベッドに身を投げ出した湊は明日からのまた新たなコミュを想像する。
 くすくすと上機嫌に笑い、ベッドの上でそのしなやかな身体をくねらせる少女が、心は男性であるなどとは誰にもわかるまい。
 布団にもぐり、ほぅっと艶めいた吐息をもらして。恋にくもったその瞳に映るのは、決して実らぬ果実だ。
 湊が自分の恋人としての美鶴を求めれば求めるほど、今の美鶴の心は湊から離れてゆくだろう。けれどその皮肉が現実として立ちはだかるのは、いま少し先の話となる。
 夢見る少女そのものの姿をして、湊は静かに眠りに落ちていった。


     ――初稿10/05/16
     ――改稿10/06/05


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