<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.18095の一覧
[0] Detective’s Circumstances (氷室の場合は、)[中村成志](2010/04/15 18:41)
[1] Detective’s Circumstances (氷室の場合は、)  中編[中村成志](2010/04/14 20:12)
[2] Detective’s Circumstances (氷室の場合は、)  後編[中村成志](2010/04/14 20:32)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18095] Detective’s Circumstances (氷室の場合は、)
Name: 中村成志◆01bb9a4a ID:76af8d97 次を表示する
Date: 2010/04/15 18:41
 バイト帰り。
 マウント深山商店街で夕飯の買い出しをする。
「そう言えば、お茶請けが切れてたな」
と気付いて、いつもの江戸前屋でどら焼きを購入していたら、後ろから

   くいっ

と袖を引っ張られた。


 どこかで見たようなシチュエーション。
 振り返るとそこには、
 銀髪の少女ではなく、振り袖姿の見知らぬ女性が立っていた。








        Detective’s Circumstances(氷室の場合は、) 前編








 まあ、正月も7日、明日から新学期という時期だ。和服姿はさほど珍しくはない。
 歳は、俺と同じくらいか。
 正直、美人は見慣れている俺だが、その女性には、派手さこそ無いが、落ち着いた貴品と言うべきものが感じられた。

 とは言え、見覚えがないのも事実だ。
「えー…」
 振り返った姿勢で、そのまま固まっていると、彼女の方から口を開いた。

「久しいな、衛宮某。終業式以来だったか。
 新年の挨拶もまだだったな。今年もよろしくお願いしたい」

「へ?」
 思わず、まぬけな声を出してしまう。

 目を丸くしたまま、頭の中の人名簿を超スピードで検索する。
 …うん、知り合いではない、はずだ。
 しかし、このそっけない口調、クールな眼差し、アップに纏めてはいるが灰に近い髪の色はどこかで…

「なんだ、見慣れぬ格好をしているから、戸惑っているのか?ほら」

 彼女はそう言うと、巾着袋の中からケースを取り出し、丸メガネをかけて見せた。


「………ひ、氷室っっ!!??」


 そう、我が穂群原学園3年A組、陸上部女傑三人衆の一、氷室鐘女史だった。



「…まさか、分からなかったと言うのではあるまいな」
 彼女は腕を組み、ベリークールな視線をこちらに向けてくる。

「あ、いやだって氷室…さん、メガネしてないし、髪型も違うし、服装だってほら……」
 手を振り回して言い訳するが、説得力の欠片も無いのが自分でも分かる。

「和服にいつもの髪のままでは、鬱陶しいだろう。
 眼鏡も、この髪型では似合わないと言われたから外しただけだ。
 元々、多少の近視と乱視が入っているだけだからな。外しても、通常生活には支障ない」
 そう言いつつ再びメガネを外す彼女を、俺は呆然と見つめていた。


 白を基調とした振り袖は一見地味ではあるが、よく見ると金糸銀糸で様々に彩られ、品の良さが際だっている。
 やはり白の、モヘアの襟巻きを肩にかけ、手にしているのは臙脂の巾着袋。
 灰色に近い髪を上品に結い上げ、そこに銀のかんざしを一つ。
 そっけないくらいのその飾りが、彼女には妙に似合っていた。


「…あまり、女性をそうジロジロと見つめるものではないぞ」
 わずかに頬を染めて言う氷室の言葉に、ようやく我に返った。

「うあっ!?
 い、いやゴメン!
 ほ、ほら、あんまり似合ってるもんだから!!」


 …あ。

 またやってしまった。
 いくら狼狽していたとは言え、思ったことをそのまま口に出すクセは、いい加減なんとかならないものか。

 氷室はしばらく固まっていたが、

「………はあ」
 やがて、大きなため息をついた。

「年が明けても変わらないな、君は。
 世辞ではなく、本音であることが分かるだけに始末が悪い。
 遠坂嬢たちも、今年も苦労することだろう」

 ん?
 俺のクセが、始末が悪いのは分かるが、なんで遠坂たちまで苦労するんだ?

「…もういい。
 今さら私程度の者が言って直るくらいなら、彼女らの苦労も無いだろう。
 君は君のままでいれば良い」

 さらに呆れられた様子。

 なんか納得できないが、ここでこの問題を追及していくと、さらにややこしい問題に発展するだろう。
 その辺は、それこそ遠坂たちからじっくりと学んでいる。


「あ、あー、ところで氷室…さん。
 遅れたけど、あけましておめでとう。こっちこそよろしくな。
 で、今日はどうしたんだ?家はこの辺じゃなかっただろう?」

「呼び捨てで良い。
 『さん』付けされるのも、今さらだろう。
 新都大橋のたもとで君を見かけたからな。
 少し話をしたいと思って、待っていただけだ」

 大橋のたもと?
 あそこでは誰にも会わなかっ…

 ああ。

 そう言えば、バイト先から歩いて帰る途中、信号待ちしていたら、振り袖姿の女性が乗っている車が横に止まったっけ。
 派手ではないがいかにも高級そうな、リング四つ並びのエンブレムが付いた車だった。
 正直、中の人よりも車の方に目が行ってたんだが。


「そうか、あの車に乗ってたの、氷室だったのか」

「君が私を認識していなかったとは思わなくてな。
 説明しておこうと思って、連れに頼んで、ここで降ろしてもらったんだ」

 説明?
 何の説明だろう。それに、連れって…

「あ。あの時、運転してた人か?」
 車同様、派手にならない程度の上等なスーツを着こなしていた、俺たちより少し年上に見える男性だった。
 へえ、それって…

「チラッと見ただけだったけど、なかなかカッコいい人だったじゃないか。
 なに、もしかして彼氏とか?」
 からかうように言ってみる。むろん、本心からではない。

「婚約者だ」

 まあ、そうだよな。
 前に彼女自身、
『自分の恋愛には興味が無い』
って言い切ってたし、そんな氷室が彼氏とドライブなんて………って


「えええーーーーーっっっ!?!?!?」


「……傷つくな、その反応は。
 そんなに大騒ぎするようなことを言ったか、私は?」


 いや、言っただろう!!!


「な、なんなんだ、その、こ、こん や…」

「婚約者は婚約者だ。許嫁といった方がしっくりくるか?
 私には、親が決めたそういう人間がいる。
 蒔の字や美綴嬢から聞かなかったか?」


 あ。
 そう言えば以前、美綴が話してたっけ。
 美綴の恋人を探る探偵騒動の時、氷室が
『顔も知らない許嫁がいる』
と冗談を言っていたと。

『すっかり騙されたよ』
と、美綴は苦笑いしていたが…


「軽い気持ちで言ったら、思いのほかリアクションが大きかったのでな。
 とっさに冗談にしたまでだ。
 こんなことで、彼女らとの関係が変化するのは、好ましくない」

 あくまでクールな氷室女史。

「じゃあ、本当に…」
 言いかける俺を、氷室が遮った。

「少々、長い話になる。
 立ち話も何だろう。場所を移そう」

 そう言うと、先に立って歩き始める。

 確かに、商店街の真ん中でするには微妙な話だ。
 俺は買い物袋を下げたまま、彼女を追った。





次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.023890018463135