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No.17872の一覧
[0] PSYchic childREN (PSYREN-サイレン-) 【オリ主】[昆布](2011/06/12 16:47)
[1] コール1[昆布](2011/03/04 01:52)
[2] コール2[昆布](2010/12/23 03:03)
[3] コール3[昆布](2010/12/23 04:52)
[4] コール4[昆布](2010/12/23 04:53)
[5] コール5[昆布](2010/12/23 04:53)
[6] コール6[昆布](2010/12/23 04:53)
[7] コール7[昆布](2010/12/23 04:54)
[8] コール8[昆布](2010/12/23 04:54)
[9] コール9[昆布](2010/12/23 04:54)
[10] コール10[昆布](2010/12/23 04:55)
[11] コール11[昆布](2010/12/23 04:55)
[12] コール12[昆布](2010/12/23 04:55)
[13] コール13[昆布](2010/12/23 04:56)
[14] コール14[昆布](2010/12/23 04:56)
[15] コール15[昆布](2010/12/23 04:56)
[16] コール16 1stゲーム始[昆布](2010/12/23 04:57)
[17] コール17[昆布](2010/12/23 04:57)
[18] コール18[昆布](2010/12/23 04:57)
[19] コール19[昆布](2010/12/23 04:58)
[20] コール20 1stゲーム終[昆布](2010/12/23 04:58)
[21] コール21[昆布](2010/12/23 04:58)
[22] 幕間[昆布](2010/12/23 04:59)
[23] コール22[昆布](2010/12/23 04:59)
[24] コール23[昆布](2010/12/23 04:59)
[25] コール24[昆布](2010/12/23 04:59)
[26] コール25[昆布](2010/12/23 05:00)
[27] コール26[昆布](2011/06/20 03:08)
[28] コール27[昆布](2011/06/12 16:49)
[29] コール28 2ndゲーム始[昆布](2011/07/29 00:23)
[30] コール29[昆布](2014/01/25 05:06)
[31] コール30[昆布](2014/01/25 05:05)
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[17872] コール20 1stゲーム終
Name: 昆布◆de1a5a25 ID:3563f643 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/23 04:58
「道なりに行くと2股に分かれた峡谷!・・・マッタク地図通りだぜコノヤロウ・・・!」


朝河は携帯の地図を片手に、雨宮を背負いながら進んでいた。
一歩進むごとに全身が痛みを発して走ることは出来なかった。


「・・・・・・あなた・・・朝河君でしょう・・・?」


この地図を初めから知っていれば・・・と朝河が悔しさを噛みしめていると背中に担いでいる雨宮が尋ねてきた。


「・・・?・・・そうだ、オレは朝河だが・・・オレ名前教えたか?

なんでオレの事を知っている?」


ここまでに一度も朝河と名乗った事は無かったのに何故か背中の少女は自分の名前を知っている。
雨宮の言葉に違和感を覚えて逆に朝河が聞き返した。


「フフ・・・知ってるに決まってる・・・!!なんでもクソもない・・・!!」


(あ、この女ヤバい)


突然の答えになっていない答えと少女の不気味な笑顔に朝河はビビりながら胸中で呟いた。
少女はフフフ・・・と薄く笑い続け、朝河は冷や汗を流し続けた。


「さあ走れッ」


「ムリだッ背中が痛ェよッ・・・」


無茶な注文に朝河は反論するが、雨宮の雰囲気に飲まれて進める足は自然と早くなっていた。
しばらく行くと、岩壁に囲まれた少し開けた場所に出る。

そこには、四階建ての、初めの建物と同じように廃墟と化している建物があった。


「あれだ・・・!あのビルに間違いない・・・!あのビルがゴールの門"ゲート"・・・!!」


「・・・行きましょう・・・彼が来るのを待たなきゃ・・・」


「ああ!」


朝河達は辺りを警戒しながら廃墟に足を踏み入れた。
中には砕けた窓ガラスや壁が散乱し、非常に進み辛かった。


「・・・夜科は、まだみたいね・・・先に門"ゲート"を探しましょう・・・」


周りの安全の確認を終えると、雨宮が言った。
朝河も黙って頷くと、痛む体を引きずって門"ゲート"を探し始めた。



◆◆◆



(よし、大丈夫だ・・・)


夜科の身長を遙かに超える大きな岩に背中を密着させ、顔だけを岩陰から出して確認する。
岩の向こうには冷たい岩肌が広がるだけであり、動いている存在は見えなかった。

岩穴を出てからここまで一度も化物に出会う事は無かった。

だが、それでも注意し過ぎると言うことは無い。相手は人智を超える化物なのだ。
素早く、けれど慎重に夜科は目的地に向けて足を進めていた。


(無茶しやがって・・・!アイツ、死んでねえだろうな・・・!)


不安の思いと共に白い髪の少年の姿が頭に浮かぶ。
最後に見た少年の顔に怯えは無かった。

代わりにあったのは、覚悟。
あの化物を前にして一歩も退く気は無いと言った様子だった。
恐らくその自信は少年が見せた不思議な力による物だろう、と夜科は思う。
少年が掌に炎を灯した時、少年が何をしたのかは夜科には分からなかった。

ただ、何となくは理解した。
少年は自分が持たない何か、力を持っていることを。


(・・・だからって・・・!)


しかし夜科は、男達を助ける為に少年を一人化物の所に残した自分の行動に納得し切れていなかった。

自分は、弱い。

恐らくあの場に少年と共に残ったとしても何の手助けにもなれなかっただろう。
それどころかむしろ足を引っ張る可能性の方が大きい。

それは痛いほどに理解していた。
だから、少年を残して行った自分の行動は間違いでは無い、そう思う。

しかし、その思いには苦みを伴った。

何も出来ない自分が歯痒かった。
少年を一人残して行った事が、それなのに男達を助けられなかった事が申し訳なかった。
自分は弱いのだ。・・・だから、仕方が無い。
そんな自らの弱さを盾にした言い訳は、良くも悪くも真っ直ぐな夜科には出来なかった。

だから夜科は走っていた。

本来なら杉田と共に警戒区域から脱出するのを優先させるべきだったのだろう。
しかし、夜科は少年の元に向かった。
少年が死んだとしても自分のせいじゃないと、逃げる事はしたくなかったのだ。

あの少年と別れた場所に戻っても自分に何が出来るか分からない。だけど、何か出来るかもしれない。
それが、夜科を突き動かしていた。


「っ!あれは・・・」


起伏の激しい岩肌のその中でも一際大きな起伏の頂上に立つと視界が開けた。
そして見えたのは赤い水溜まり。

その中心で全身を赤く染め、倒れ伏す少年を夜科の目が捕らえた。


「おいッ!しっかりしろ!!」


急いでその元に駆け寄る。
少年の周りには焼け焦げた異形や左右に開かれた者、そして腹を割かれて血と臓物を溢れさせている異形の死体が転がっていた。

絶命している異形、伏したままピクリともしない少年、それらを一瞥して夜科はギリッと奥歯を鳴らす。
ここで何が起こったのかは想像に易い。

焼け焦げた異形の姿が見たことのある化物だと気付いて、さらに夜科は憤った。
ここに至るまでに化物に出会わなかったのは、この少年がその全てを引き受けていたからだ、と言うことに気付いたのだ。


「くそっ、すまねえ・・・!」


何も出来なかった自分に無性に腹が立った。
しかし、腹を立てていてもどうしようもない。とにかくは俯せになっている少年の体を起こした。


白かった髪は未だ色褪せることのない鮮やかな血で朱く汚れ、左の腕は裂かれ血が溢れており、手首から先は火傷したかのように爛れている。
右の腕は二本の突起物で刺されたような穴が二つ開き、その周りは肉が崩れ骨を覗かせていた。

顔を見ると半開きの目は虚ろで、そのそれぞれからは二条の朱い線が流れている。
そして肌を露出しているありとあらゆる場所に擦り傷や打撲の青黒い跡が見られた。
それはまさに満身創痍と言ったようだった。
だが、まだ死んではいない。胸に手を当てると薄く鼓動しているのを感じたし、なにより灰になっていなかった。

少年が死んでいなかった事と、少年の元へ駆けつけて良かったと安堵した。
しかし、放置すればそのまま死んでしまうような状態だ。急いでこの場を離れなければ、と夜科は少年の細い体を担いだ。


「・・・ぁ・・・」


その動きで体を軽く揺さぶられたからであろうか、少年が微かな声を上げた。
何の色も映さなかった空虚な瞳に色彩が戻る。


「・・・無事、だったんですね・・・よかった・・・」


「ああ、お前のおかげだ。ありがとな・・・直ぐにここを離れるから、しっかりしろ」


こくりと首を縦に振る。少年はしがみつく程の力も腕に込められないようだった。
だらりと垂れる腕を自分の首に回し、少年の足を抱える腕に力を込めた。

その時、足音が近づいて来る音が風の唸る音に紛れて聞こえてきた。


「っ!あの化け物どもか・・・!?」


慌てて側にあった岩の影に身を隠す。息を潜めて様子を窺った。


「あいつは・・・なんでここに・・・?」


現れたのは肥満気味の男、千葉だった。
千葉は、何かを探すようにせわしなく辺りを見渡している。

そして、千葉の他にも影が一つ現れた。それはあの人の形をした異形だった。
異形は手にボウガンを携え辺りを見渡している。

幸い、まだ夜科の方も千葉の方も気付いて居ないようだった。


「こっちだ!!」


夜科は声を潜めつつ大声を出すという器用な事をしつつ、千葉に向けて手を振った。
それに気付いて千葉は駆け寄ってくる。


「千葉さん、どうして・・・?」


少年は岩陰に入って息を切らしている千葉に尋ねた。


「キミが危ないって聞いて・・・いてもたってもいられなくなったんだ・・・」


胸を大きく上下させながら、絶え絶えに言う。
千葉は少年に向けて頬笑んでみせた。しかし、少年の様子をみると顔を顰める。


「酷い怪我じゃないか・・・!どうして、こんな・・・」


「・・・痛みを通り越して感覚がなくなってますから、動かせませんけど辛くはないです」


「話は後だ・・・!あの化け物がすぐ側に来てる・・・!」


岩陰から顔を出して確認しながら、夜科が言った。
異形はまだ辺りを見渡していて、ここら一帯から移動する気配が無い。


「クソッ、一体どうやってアイツを切り抜ければ・・・!」


まだ異形は夜科達に気付いていないが、気付かれるのも時間の問題と言った所だった。


「・・・僕が、やります」


進退窮まった状態に夜科が焦れていると、少年が言った。
夜科の背中から降りようと身動ぐ。


「バカ言ってんじゃねえ!そんなボロボロで戦える訳ねえだろうが・・・!!」


「そうだよ!無茶だ!」


夜科と千葉がそれぞれ言う。
しかし、少年は譲らなかった。


「この中であの怪物と戦える力があるのは僕だけ、です。

だったら僕がやるしかないじゃないですか・・・!」


「力があるからって戦わなくちゃいけない理由なんかにならないよ!!

どうしてキミは、そこまで誰かの為に自分を傷付けられるんだ・・・」


千葉が怒ったように言う。しかし最後の方には悲しそうな顔になっていた。
それを聞いて、少年が弱々しく吐露するように言った。


「・・・誰かが居なくなるのが、誰かに置いて行かれるのが、何故だか分からないんですけどすごく怖いんです。

誰かが居なくなるくらいなら自分が居なくなる方がいいって思うくらいに。だから・・・誰かの為に頑張るんじゃないです。

結局僕が怖いから、やるだけなんです」


「・・・ボクにはよく分からないよ・・・キミの思う事が。

でも・・・誰かに居なくなって欲しくないって気持ちは、ボクにも分かる・・・!」


「まずいッ!こっちに来やがった!!」


様子を窺っていた夜科が焦った声を発した。
異形が真っ直ぐこちらに向かって来ているのが見えたのだ。


「何で分かった・・・!?ッ、しまった!!影か・・・!?」


岩陰からはみ出していた三人の影が揺れたのが見えたのだろう。
異形は迷うことなくこちらへ近づいて来ており、ボウガンを向けていた。


「僕がやります!だから離して下さい!!」


少年が自分を抱えている夜科に言う。
少年の剣幕に押され、夜科はその手を緩めてしまいそうになった。


しかし――・・・


「ボクが・・・ボクが、やるよ」


それを、千葉の声が遮った。
その声は微かに震えているのが分かる。


「ボクが囮になってあの化け物を引きつける。その隙にキミ達は行って」


「っ!?何言ってるんですか!?」


「・・・ボクは、キミに居なくなって欲しくない、生きて欲しいんだ」


千葉は少年を見て気丈に頬笑んだ。
それが無理しているのだと、誰の目にも見て取れた。


「誰かが居なくなってキミが悲しむのと同じように、キミが居なくなって悲しむ誰かもいるって事、忘れないで。

きっと上手く逃げてみせるからボクなら大丈夫。それから、もっと・・・自分を大事にして。約束だよ」


「千葉さん!!やめて・・・・・・いやだ・・・嫌だ!!」


制止も聞かず千葉は岩陰から飛び出し、走って行った。


「アグロ・・・?」


それに気付いた異形がその背中を追いかけ始める。

最後に千葉が振り返った時見えたのは、泣きそうな笑顔で・・・だけど覚悟をした顔だった。
千葉の背中に手を伸ばすように少年が必死で藻掻く。


「アイツの頑張り、無駄にすんじゃねぇよ!!行くぞ!!!」


異形の姿が見えなくなった時、夜科は歯を食い縛りながら少年に怒鳴った。
背中の少年は朱ではない、透明な涙を呆然と流していた。


「・・・ごめんなさい・・・」


駆けだした夜科の背中で、少年が言葉を漏らした。
それは謝罪の言葉。もう届く事のない謝罪の言葉だった。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・」


涙を流しながら、少年は壊れたテープのように繰り返し続ける。
けれど、その言葉は無感情な乾いた風に吹かれて、空に融けて消えてしまった。




◆◆◆



「はっ、はっ、はっ・・・!」


息を切らせながら千葉は走る。
一歩一歩地を踏む度に、体の肉が波打っていた。

後ろを振り返ると、異形が小さく見えた。
大丈夫、まだ距離はあると胸中で呟き、再び前を向いて走ろうとした。


「・・・え・・・?」


感じたのは焼けるような感覚。それが痛みだと咄嗟に頭が認識できなかった。
灼熱の感覚のする方、右足を見る。

右足の脹脛からは、一本の矢が生えていた。
異形は矢を命中させた事に何の感慨も感じないように、ただ冷徹に新たな矢をボウガンに込めた。


「うあああああああ!!!」


千葉は右足に力を入れられず、体勢を崩した。
顔面から地面へ倒れ込む。


「ぐぅっ・・・!!」


地面に顔を摺り下ろされ、血を流す。
それでも、四つん這いになり必死の形相で前へ進んだ。


「あがぁっ・・・!!」


今度は左足に熱が走る。
これで千葉の機動力は完全に奪われた。異形は、どこまでも冷徹だった。


「う、うぅ・・・」


千葉は耐えきれずその双眸に涙を滲ませた。
怖くて、痛くて、辛くて仕方がない。そんな感情が千葉の胸の内で吹き荒れた。


「やっぱり・・・ボクにはあの子みたいに強くなれないや・・・・・・でも・・・」


異形が千葉の元へ近づいて来る。
もう千葉が動けないと判断したためか、その歩みはとてもゆっくりだった。

その緩慢な時間が、千葉の恐怖を更に煽る。
それは死が近づいて来るのと同義であった。

千葉は腹這いになりほふく前進のような形で地面を這う。
しかし、もはや逃げることが叶わないのは誰が見ても明らかだった。

それでも千葉は絶望はしない。
なぜなら胸の中に、一抹の満足な気持ちがあったから。


「・・・こんなボクにも、勇気ってあったんだなぁ・・・」


肘を付いて必死に這う。肘の皮膚は破れ血が滲んだ。
そして、千葉は薄く笑った。


「なんだ・・・やれば出来るんじゃないか、ボク・・・」


直ぐ後方に異形が地を踏み鳴らす音が聞こえた。
千葉の顔は、最後まで頬笑んだままだった。




◆◆◆




「ここだ・・・!」


夜科は杉田が居るはずの岩穴を見つけ、言った。
少年は夜科の背中でぐったりとしていた。

呟きが止んだので気になって見てみると、少年は目を閉じていた。
眠ったのかと思ったが、揺さぶっても起きない。

どうやら気を失ったようだった。
血を流しすぎたからなのか、千葉の一件で精神の糸が切れてしまったからなのか、夜科には分からなかった。

ただ、分かるのは急いで門"ゲート"に向かわないと手遅れになりかねないという事だった。

身を屈め岩穴に入り込む。
中は薄暗いが、辛うじて見渡せる程度には光があった。


「・・・?杉田が、いない・・・?」


見渡せども杉田の姿はどこにもなかった。
ただ冷たい岩肌がそこにあるだけであった。


「どういうことだ・・・?」


ふと、思い出したかのように杉田に渡されたテレホンカードの事が気になった。
そして少年を抱えながらテレホンカードを入れたポケットを探る。


「なっ・・・!?っ、まさか・・・!!」


指にあった感触は、細かな粉に触れたかのようだった。
手をポケットから取り出すと、指には灰色の粉、灰らしき物が付着していた。

よくよく見ると、杉田が横になっていた場所には灰のような物が、風に吹かれながらも微かに残っていた。


「そんな・・・」


がっくりと夜科の膝が崩れた。抱えていた腕の力を抜いたため少年が横に倒れる。
夜科は、死んだ男達が灰になったのを思い出していた。

そして、察する。


「お袋さんに渡すんじゃねぇのかよ・・・

くそっ・・・何やってんだ・・・っ!!どうすりゃあいいんだよ・・・!!俺はッ・・・!!」


ただひたすらに無力感だけが夜科の胸にあった。
拳を地面に叩き付け、その痛みでもって無力感を誤魔化そうとする。

ちらりと横を見ると呼吸の浅くなった少年の体が。


「生き残らなきゃ・・・!」


ここで自分達も死んだのなら、死んでしまった杉田や囮になった千葉に申し訳が立たなかった。
夜科は再び少年を担ぐと、歩き出した。


「絶対に・・・!」




◆◆◆




「アイツ、遅せぇな・・・まさかやられたんじゃねえだろうな・・・」


全身の痛みでフラフラする中、壁にもたれながら朝河は呟いた。
既にゴールの門"ゲート"は見つけており、後は夜科達を待つだけだった。


(・・・まったく、どうなってやがる・・・!怪力の殺人モンスターに、この荒れた世界・・・

――・・・一体どんな秘密がある・・・?)


夜科達を待つ間、朝河は一人考える。

しかし、考えても答えの出ない問いなので、直ぐに朝河は考えるのを止めた。
全身の痛みのせいで考えるのも億劫になっていたのだ。

そして、ちらりとガラスの無くなった窓から外を見る。


「っ!!アイツだ!あのガキも背負ってる!!」


窓の外には、黒い髪に短ランを着た夜科の姿があった。
背中には少年が背負われているが、腕はだらりと垂れ、意識が無いように見えた。


「良かった・・・無事だったのね・・・」


雨宮が隣で安堵の息をつく。
そして朝河はこちらの場所が夜科に伝わるように窓から身を乗り出し、声を発しながら手を振った。

夜科がそれに気付くと進める足の方向を定め、真っ直ぐに入口へと向かって行った。
それを確認すると朝河も安堵からか再び腰を下ろした。

その為・・・夜科達の背後に迫っている存在に、朝河は気付けなかった。



――・・・



「へへ・・・待たせたな・・・」


「ああ、待たせ過ぎだ・・・!」


暫くすると、夜科が階段の入り口から姿を見せた。
出逢って早々に軽口の応酬を行う朝河と夜科。

二人の口元には薄い笑みが浮かんでいた。


「その子は大丈夫・・・?酷くぐったりしてるみたいだけど・・・」


雨宮は夜科を見てほっとしていたようだったが、背中の少年の様子を見て不安そうな顔をした。
全身の傷に加え、両腕の酷い損傷を見て雨宮は痛切な表情になる。


「ああ・・・!こいつ、ヤベェんだ・・・!!早く医者に見せねえと・・・」


「・・・こんな小さなガキがあの化け物と戦って勝ったのか・・・一体どうやって・・・」


朝河は瞳も開かない少年の顔を覗きながら言った。
その顔には疑念の表情が浮かんでいた。


「それは後・・・とにかくここを離れないと・・・!

そう言えばあなた達だけなの・・・?千葉さん、は・・・?」


名前がうろ覚えだったのか、雨宮が多少詰まらせながら夜科に尋ねた。
すると、夜科は何かを堪えるかのような顔になる。


「アイツは・・・」


言い辛そうに顔を逸らし、拳を固く握った。
それでも現実を受け止めなければ、と自分の見たありのままを伝えようと口を開こうとした。


その時――・・・


勢いよく階段を上がって来る音が聞こえてきた。
リノリウムの床を鳴らすその音に全員が全身を硬直させるが、何の対策も取りようが無いほどにその音はもう近かった。


「ッ!!」


そして現れたのは・・・




「うおおー!!!やったで・・・!!ここが門"ゲート"かいな!!」




関西弁を話し、刈り上げた短髪にジャンパーの姿の、死んだ男達の中にいた筈の男だった。
男は息を切らしながら、階段の入り口に背をもたれている。


「おいおいワシを除け者にせんといてくれや・・・!寂しいやないか・・・」


「アンタ生きてたのか・・・!!」


全員が、特に異形の暴れようを間近で目の当たりにした朝河が驚きを口にする。
それを聞いた男は口を半月に歪めた。


「あン時バケモンに気ィ取られて崖から転げ落ちてなァ・・・

けど、それが逆に身を隠すチャンスになって助かったわ」


「よくここが分かったな・・・」


大げさな手振りで自分がいかに大変だったかを男は語る。
そんな男に夜科はふと湧いた疑問を尋ねた。


「へっへっへ・・・」


すると、男の笑みは益々厭らしく歪んだ。
そして意味ありげに夜科を見ながら夜科を指差した。


「そんなもん・・・!ずっとアンタの後くっついて来たに決まっとるやん・・・!!

気付かへんかった・・・?せやろなァ!?大変そうやったもんなアンタ・・・」


男の言葉を聞き、夜科の瞳孔が開く。眉間には深い皺が刻まれ額には薄らと青筋が浮かんでいた。
しかしそんな夜科の様子に気付く事なく男は語る口を止めない。


「アンタがそのガキのとこに行った時は焦ったで・・・なんせ着いてったらあのバケモンがおるんやもんなァ・・・

まァでも、あのデブがビビって逃げ出してくれたみたいで助かったわ・・・」


男は触れてはいけない場所を土足で踏み荒らしているかのようであった。
もう限界だった。

夜科の怒りは理性で抑えきれる範疇を超え、その溢れた怒りは固く握られた拳に集束して行く。


「な、なんやアンタ・・・そないな怖い顔して・・・!」


「黙れ・・・!それ以上その汚ねえ口でアイツを語るな・・・!!」


背中の少年を下ろし、一歩一歩夜科が男に近づいていく。
それに伴って男が一歩一歩後退していった。


「一発殴らねえと気が済まねえ・・・!!」


「ヒッ・・・・・・ガッ!?」



そして夜科がその拳を振り上げた時、男は白目を剥いて倒れた。

突然の事に夜科はその拳の矛先を失い動揺する。
男の側頭部には、黒金の矢が刺さっていた。


「な・・・に・・・!?」


髪の生え際の辺りの皮膚が抉られてピンク色の肉を見せ、赤黒い血液を頭から流しながら男は痙攣していた。
男の股間が濡れて、直ぐにそのアンモニアの不快な臭いが鼻を掠める。

しかし・・・それよりも先に、声が耳に届いた。


「アグロ・・・」


それは、死を届ける不吉な死神の声だった。


「アイツだ!!!」


声を聞いた途端に朝河の背中に冷たい汗が流れた。
それは、朝河達を襲った異形。死と破壊を撒き散らす死神。

それが階下にいて、入り口から階段の方へ身を出した男の頭をボウガンで打ち抜いたようだった。


「う・・・」


男の死体から後ずさった夜科とぶつかり、少年がうめき声を上げながら目を覚ます。
そして、階下から一回の跳躍で異形は夜科の目の前へと躍り出た。


「アグロ・・・」


「う・・・あ・・・」


夜科は目の前に現れた圧倒的な存在に、身動きが取れなくなっていた。
頭では動かなければ死ぬという事は分かっても、体が言う事を聞いてくれない。


「夜科!!」


雨宮が叫び、異形が拳を振り上げ、少年が身を起こし、異形が拳を振り下ろす。
その間数秒、夜科はただただ呆然とするしかなかった。

夜科の目の前に岩石のような拳が落ちてきた。


「・・・ライズ!!!」


夜科の頭が砕かれる直前雨宮が呟き、雨宮は颶風となって異形へと迫った。
異形の胸元に雨宮の履くローファーの踵がめり込む。


「ハアッ・・・!ハアッ・・・!」


そして異形は勢いのまま壁に激突して、轟音と共に堅固なコンクリート打ち放しの壁に大穴を開けた。
土煙がもうもうと舞いあ上がって視界が悪くなり、目を凝らさなければほんの少しの先も見えないようになる。

雨宮は、それが限界だったようだ。膝を崩し頭を押さえ蹲っている。
その鼻腔から血が流れているのが見えた。


「ッ、雨宮!!」


「オイ!!大丈夫か!!」


ようやくハッとした夜科と、事態を眺める事しか出来なかった朝河が動いた。
二人は雨宮の元に駆け寄る。


「っ・・・ハアッ・・・!!まだ・・・終わって・・・ない・・・!!逃げて・・・!!」


雨宮がか細く言ったのが聞き取れた。
そして雨宮の言葉通り、異形が土煙の中から姿を現した。


「アグロ・・・!」


異形に然したるダメージは見受けられなかった。
首をコキコキと鳴らし、それはまるで準備運動をたった今終えたかのようだった。

そんな異形の前にふらりと立ち塞がる姿。それは意識を取り戻した少年


「・・・お前は・・・お前だけはぁぁああああああ!!!!」


異形の付けるエプロンに、最後に見た時にはついていなかったまだ新しい鮮やかな血痕を見つけ、少年は吼える。
憎しみを込めながら異形を睨みつけるその双眸からは再び紅い涙が流れていた。

動かせない両腕の代わりに視線を虚空に向ける。
次第に流れる紅い涙の量も増え、最後には目が充血して目が真っ赤に染まっていた。


「"固定解除 フォール、ダウン"!!!」


白く濁った一振りの刃が目の前のリノリウムに突き立てられた。
それに少年は手を伸ばそうとして、前のめりになる。

どれだけ力を込めようとも、四肢はもう動かなかった。
いや、正確には力を込めるだけの気力が無かったのだ。

それでも、視線だけで異形を射殺さんと睨み続ける。

限界まで張り詰めていた糸がプッツリと切れてしまったような感覚を少年は味わっていた。
それと同時に込み上げてくる脳の痛みと眠気。
瞼がだんだん重たくなって行っていた。

しかし少年は自ら奥歯を噛み砕き、それを堪える。


「ッ雨宮を頼む!!」


「ああ・・・!!」


弾かれたように駆けだす者達がいた。
夜科に頼まれた朝河は雨宮を抱え移動し、夜科は刃の元へ。


「エイブラハム・・・!!」


異形は足の筋肉を盛り上がらせ、跳躍。
刃の柄を握った夜科に、目を疑うような速度で異形が襲い掛かった。


――身を低く、低く落とし、一閃。


異形の拳がこめかみに掠め、夜科がふら付く。
しかし、その刃は異形の脇腹にしっかり食い込んでいた。


「アグ・・・ロ・・・」


夜科達と同じ、赤い血を零しながら異形が膝を付いた。
刃は、胴の半ば程まで食い込んでいおり、その断面からは肉が付着したままの叩き折られた肋骨が覗かせる。


「アラララご愁傷様だァ・・・・・・!!」


こめかみを打たれ、盛大な吐き気に襲われながら夜科が言って捨てた。
異形を見ると傷を確認する為であろうか、エプロンを剥ぎ取っていた。

そして露わになる異形の胴体。
その胸には、鈍く光る丸い珠があった。

その珠に惜しくも刃は、届いていなかった。
肋骨やその周囲の肉を裂けても、珠には傷一つ無い。


「グァロッ!!!」


「冗談、だろ・・・?」


異形が叫び声を上げ、立ち上がった。
息を荒くしながらも異形はその二本の足で歩む。

一歩、二歩、三歩・・・

もう打てる手は何も無く、夜科は絶望と吐き気で目の前が真っ暗になった。
だんだんと近づいてくる音。それが到達した時に自分は死ぬのだと夜科は理解した。


――・・・しかし、四歩目の音は鳴る事は無かった。


「"炎虚刃 パイロ・エッジ"」


その声はやけにはっきりと、廃墟に響いた。
それと同時に異形の胴体から巻き起こる炎。

異形の肉と骨を断った刃。それは、ただの刃では無かった。
大気と自らのPSIを混ぜ合わせる際に、PSIにあるイメージを込めておいた物だった。

対象にその刃を突き立て、その体内から焼き尽くす。
フレデリカのパイロキネシスとカイルのマテリアル・ハイの力を借りて具現化された力の結晶だった。


「グァ・・・!!ア・・・ロ・・・!!!」


「な・・・!?」


夜科はその光景に目を見開いた。
そして声のした方を見ると、少年がゆっくりとその瞼を閉じる所だった。

異形は炎に身を苛まれ、悶える。
焼かれる痛みのためか所構わず殴りつけ炎が更に体に回ると、膝をおって地面を転がり出した。
蛋白質の焦げる異臭と異形の断末魔の叫びが灰虚を彩る。
この世の物とは思えないほどのうめき声を上げながら、その内動かなくなった。

そして炎が消える。
後にあったのは、炎に全身を舐められ硬直した異形の死体と、静寂。


「やった、のか・・・?」


朝河が雨宮を下ろしながら恐る恐る近づいてくる。
念のために炭化した異形を靴先でつついて見ると、やはり異形は死んだようだった。


「すごい・・・違う波長のバーストを同時に使うのなんて・・・初めて見た・・・!」


地面に座り込みながら雨宮が少年が見せた芸当に驚嘆の声を漏らした。


「ッ!?おい!しっかりしろ!!目ぇ覚ませ!!!」


しかし・・・その芸当をやってのけた少年は倒れたまま身動ぎ一つしない。

少年の様子がおかしい事に気付いた夜科が少年の元に駆け寄りその肩を激しく揺らす。
双眸からは閉じられてもなお紅い涙が流れ続け、元々白かった顔が更に生気を失って行くかのように青白くなっていた。


「マズイわ・・・!これは・・・PSIの使い過ぎ・・・!

一刻も早く治療しないと命に関わる・・・!!行きましょう!」


雨宮がそう言って立ち上がろうとするが、膝が笑っており自力で立つことは叶わなかった。
そのため朝河の手を借りてようやく起き上がる。

そして、夜科達が来る前に見つけていた門"ゲート"へと歩き始めた。


夜科達が背を向けた後、異形の焼死体が崩れ始めた。
それは、他の異形や男達が見せたのと同じ灰化現象。

廃虚に吹き込む風に乗って、それは窓の外へ。

後には静謐。
ただそれだけが、その場を包みこんでいた。




◆◆◆




雨宮は少年のポケットを探り、赤いテレホンカードを取り出した。
さして電話を弄って夜科達には分からない行動をすると、少年は消えてしまった。

続いて雨宮も電話に赤いテレホンカードを差し込み、受話器を当てると雨宮は消えてしまった。
驚く夜科だが、消える直前に雨宮が言った私に着いてきてという言葉を信じ、夜科も同じようにする。


「こ・・・ここは・・・!?」


そして、次に瞬きした時に目に飛び込んで来たのは目に痛い程の朱い光だった。
思わず目を細め辺りを窺うと、それはどうやら斜陽の光が夜科の目に刺さっていたらしかった。

窓の外にはを血潮を零したかのような焼けた空が広がっている。
その終わりを象徴するかのような黄昏の美しさに夜科は一瞬見とれてしまう。


「帰って来たの・・・元の世界に・・・ね・・・」


「・・・帰って来た・・・!?」


雨宮が浅い呼吸を言葉に織り交ぜながら言う。調子の悪さが声音から読みとれた。
そして夜科は窓を見下ろし、行きかう人々や車の群れを見て確信する。


「うおおおお!!マジに帰って来たみたいだぜェーーッ!!」


喜びの声を上げる夜科だが、急にハッと気が付いたように顔が真剣な物となる。
見渡し、横たわる少年を見つけた。


「そうだ・・・!!一刻も早く医者に見せねえと・・・!!」


「待って・・・!今助け呼んだわ・・・その子は普通の治療じゃ治せないの・・・」


雨宮に制止を掛けられる。
雨宮を見ると掌の中には携帯電話が握られており、それを弄っていたようだった。


「治せないってどういう事だよ!?」


「そのままの意味よ・・・!その子には特別な治療が必要なの・・・お願い、早く出て・・・!!」


「・・・ッ!?こいつ、息してねえぞ・・・!?」


そして夜科は、黄昏の―・・・終わり行く物の儚さを感じた。

日は次第に傾いて行く。
最後には僅かな残照だけを残し、辺りは闇に包まれてしまった。




続く


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