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No.17872の一覧
[0] PSYchic childREN (PSYREN-サイレン-) 【オリ主】[昆布](2011/06/12 16:47)
[1] コール1[昆布](2011/03/04 01:52)
[2] コール2[昆布](2010/12/23 03:03)
[3] コール3[昆布](2010/12/23 04:52)
[4] コール4[昆布](2010/12/23 04:53)
[5] コール5[昆布](2010/12/23 04:53)
[6] コール6[昆布](2010/12/23 04:53)
[7] コール7[昆布](2010/12/23 04:54)
[8] コール8[昆布](2010/12/23 04:54)
[9] コール9[昆布](2010/12/23 04:54)
[10] コール10[昆布](2010/12/23 04:55)
[11] コール11[昆布](2010/12/23 04:55)
[12] コール12[昆布](2010/12/23 04:55)
[13] コール13[昆布](2010/12/23 04:56)
[14] コール14[昆布](2010/12/23 04:56)
[15] コール15[昆布](2010/12/23 04:56)
[16] コール16 1stゲーム始[昆布](2010/12/23 04:57)
[17] コール17[昆布](2010/12/23 04:57)
[18] コール18[昆布](2010/12/23 04:57)
[19] コール19[昆布](2010/12/23 04:58)
[20] コール20 1stゲーム終[昆布](2010/12/23 04:58)
[21] コール21[昆布](2010/12/23 04:58)
[22] 幕間[昆布](2010/12/23 04:59)
[23] コール22[昆布](2010/12/23 04:59)
[24] コール23[昆布](2010/12/23 04:59)
[25] コール24[昆布](2010/12/23 04:59)
[26] コール25[昆布](2010/12/23 05:00)
[27] コール26[昆布](2011/06/20 03:08)
[28] コール27[昆布](2011/06/12 16:49)
[29] コール28 2ndゲーム始[昆布](2011/07/29 00:23)
[30] コール29[昆布](2014/01/25 05:06)
[31] コール30[昆布](2014/01/25 05:05)
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[17872] コール16 1stゲーム始
Name: 昆布◆de1a5a25 ID:3563f643 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/23 04:57
瞬間、静寂―・・・


耳に届く乾いた風の唸り声。土埃の匂いが鼻を掠める。
細かな砂塵が目に入る為、あまり長い間目を開けていられない。 

僕は確かに伊豆のエルモア・ウッドに居た筈なのだけれど、気付いた時には見知らぬ場所に立っていた。


「ここ、は・・・」


目に砂が入らないよう手で目の付近を覆いながら薄く瞼を開け、周りの状況を確認する。

地層がズレたかのような不自然な程に切り立った崖、大地に半身を呑まれた高層ビル。
見渡す限り植物の気配は無く、どこまでも赤茶けた岩肌が続く。

そして、光を奪われたかのように薄暗い空。


「・・・」


世界の終末。
そんな言葉が頭に浮かんだ。

同時にお婆さんの言葉を思いだす。


『近い内に、必ず世界は滅びる』


・・・ここはその滅んだ世界なのだろうか。

お爺さんの見た景色、お婆さんの見た予知夢、そして今目の前に広がる世界。
以前からもしかしたら、と思っていた事が現実味を帯びてきていた。

つまりサイレンは滅んだ先、未来の世界なのではないか。

確かめようもない事だ。
だけど、それでも一旦固まりだした疑念は、中々頭から離れなかった。


「ッ、ゲホっゲホっ!」


考えるのに頭を使っていたら、熱っぽかったのが本当に熱が出てきたような気がする。
頭もガンガンする。関節に異物を差し込まれたような鈍痛も感じ出していた。

これは、風邪確定だろう。


「っはあ・・・」


吐く息も熱を帯びている。

体調は最悪。しかもこれからどんどん悪化していくだろう。
それでもいつまでもこんな何も無い所に突っ立っている訳にはいかない。

とにかく、何とか帰る方法を探さないと・・・
お爺さんが帰って来た以上、帰る方法はあるはず。お爺さんはどうやって帰ったのだろうか。

フラフラとあてもなく歩く。
一歩進む毎に体力が削られて行くような気がした。


「オーイ!!」


「っ!?」


しばらく歩いていると、不意に声を掛けられて驚いた。
振り向くと、少し離れた建物から誰かがこちらに向かって手を振っている。

手を振っている人以外にも複数人の人影が見えた。
まさかこんな場所に僕以外の人が居るとは思わなかった。

しかし、よく考えれてみればサイレンへ行ったとされる人は多く居る。
ここがそのサイレンなら僕以外にも人が居ておかしくない。と言うより居ない方がおかしいのだろう。


「オーイ、こっちこっちー!!」


こっちが気が付いたと言う事を示すために僕も手を振り返し、そこへ向けて歩き始めた。
大声で返事をする気力は、あまり無かった。



◆◆◆



建物の中には、6人の男の人が居た。

眼鏡で金髪坊主頭の男。ニット帽を被り、風船ガムを膨らませている青年。
がっしりした体で、角ばった顔で髪の毛を後ろで一つに纏めた男。

貫禄のある体にこげ茶色の髪をした男、
どこかの制服だろうか、ブレザーを着てシャツをズボンから出している明るい茶髪の毛の逆立った青年。
そして、男達の中で最年長であろう、ジャンパーを着込んだ老け顔の男。

12個の瞳が僕を捕えていた。


「チッ、変なガキまでいんのかよ」


真っ先に角ばった顔の男が吐き捨てながら言った。


「・・・どうも」


変とは髪と右目の刺青の事だろうか。ガキ呼ばわりされたけれど、それは事実だから別に腹は立ったりしない。
それに、今は腹を立てる元気も無かった。とにかく腰を下ろしたい。立っているだけでしんどかった。


「キミも、カードを使って・・・?」


全員が興味を失くしたように僕から目を離す中、貫禄のある、悪く言えば太った男の人が僕に話しかけてきた。
男の人が言いたいのは、カードを使って、気が付いたらここに居たのか?と言う事だろう。


「・・・ええ、まあ一応」


答えながら、足で床に散らばる礫やガラス片などをどけた。
そしてそこに座り、息を整える。

男達を見ると何かの話し合いをしていた。
僕がその話し合いに入れられないのは、子供の相手なんかしていられないと言うことだろうか。

ホントは僕だって情報が欲しいのだけれど、相手にされないし、しんどいしで横から眺めるだけだった。


「なんか、随分大変そうだね。具合悪いの?」


弱々しく息をしていると、まだ傍に居た太った男の人が話かけてきた。


「・・・多分風邪です。それより、あなたは話し合いに参加しなくていいんですか?」


「あいつらどうも荒っぽくてね・・・さっきから除け者扱いされてたんだ。

キミ、いくつ?どこから来たの?」


太った男の人も僕の隣に腰を下ろした。どうしてか、やけに親しげに話しかけてくる。
僕としては嬉しいんだけど、熱で朦朧としてきているから話すのはしんどい。


「歳は、9歳です。伊豆の方に住んでました」


「9歳かー。僕もこんな事になって泣きたいんだけど、キミみたいな小さな子の前じゃ泣いてられないな。

あ、僕は愛知の豊口市に住んでるんだ。千葉拓也って言うんだ。よろしくね」


「天樹院ファイです。こちらこそよろしくおねがいします」


ホントは実年齢も不明なんだけど、身長的にエルモア・ウッドのみんなと同じくらいだから9歳としておいた。
向こうが名乗ったのでこっちも名乗らないと失礼だから自己紹介する。


「・・・天樹院だって?」


僕たちの話が聞こえていたのか、眼鏡の男の人がこちらを向いて言った。
他の男達もそれに釣られて一斉にこっちを向く。


「まさか、サイレンの謎に懸賞金を掛けたあの天樹院エルモアの関係者か?」


眼鏡の男が近寄ってきた。
そして僕の目線に合わせるように屈んだ。


「・・・天樹院エルモアは僕の保護者ですが・・・」


「サイレンの謎を解いたら、5億・・・。ほんとなのか?」


ああ、そうか。
お婆さんの掛けた懸賞金に釣られた人もこの中に居るのか。


「・・・ええ、本当です。お婆さんがそう言ってました」


今、この場で僕に注目しているのは4人。
眼鏡の男と、髪を纏めた男、老け顔の男、そして千葉さん。

ニット帽の青年とブレザーの青年は興味無さそうにそれぞれ床と壊れたデスクの上に座っていた。

千葉さんが僕を見るのとは異質な目で男3人が僕をじっと見つめていた。
多分、この3人が懸賞金目当ての人達なんだろう。


「おいガキ!適当なこと言ってんじゃねえだろうな」


髪を纏めた男が便乗して尋ねてくる。


「・・・証明なんてこの場じゃできませんけど、この場で天樹院の名を語る理由がありますか?」


いい加減に喋るのがしんどい。
それに、なんだか懸賞金目当ての人達はギラギラしていてあまり近寄りたくない。


「・・・ケッ!」


「5億の話はデマじゃなかった、か。しかも良い証人まで見つけた。

オレ達は5億にグッと近づいた訳だ・・・!」


眼鏡の男が言った。
他の懸賞金目当ての二人もニヤけるのを抑えられないと言ったようだった。


「あ・・・!あれは!」


そんな、何となく嫌な雰囲気の中突然千葉さんが声を上げた。
窓の外を見つめて何かを指さしている。


「オーイ君達ーッ!!!こっちこっちー!!」


手を外に向けて振っている。
あの様子だとまた新たに人を見つけたのだろう。

座るのも怠くなってきた。少し、横になろう。

・・・これからどうなるんだろうか。
寒気が背中を走り、心細さと不安が入り交じって精神的にも少し辛かった。




◆◆◆



新しくこの建物にやって来たのは、制服を着た高校生らしい二人の男女だった。

黒いツンツンの髪と短ランの男の人が綺麗な長い髪の女の人を背負っている。
どうやら女の人は気を失っているらしかった。


「どうやら君達も僕らと同じ状況のようだな」


代表するように眼鏡の男が二人に声を掛けた。
新たな参加者に再び全員の視線が注がれる。


「ああ・・・」


気を失った女の人を背負った短ランの人は生返事をする。
そして女の人を床にそっと下ろした。

それから、脇目もふらず部屋の隅にあった公衆電話へ向かう。


「くそ!!」


何が目的なのか良く分からないが、壊れている公衆電話の受話器を取りボタンをガチャガチャと押した。
助けでも呼ぼうとしたのだろうか。


「壊れてるよ・・・オレ達だって試したさ・・・」


眼鏡の男が短ランの人を諫める。


「――・・・ねぇ、キミ達もここに来る直前・・・

妙な奴・・・いや・・・ネメシスQってやつが目の前に現れたりしなかったかい・・・?」


それまで沈黙を保っていた千葉さんがおずおずと短ランの人に尋ねた。
新しい人が来て、もう一度全員で話をする事になり、そこには千葉さんも加わっていた。

僕はやっぱり話し合いに参加させて貰えないが、せめて話だけでも聞こうかと体を起こした。


「やっぱり・・・あの妙チクリンなヤツがせやったんやな」


「オレの前にも現れた・・・!!

本当にいたんだ・・・秘密結社 サイレンの遣い・・・怪人ネメシスQ・・・!!」


関西出身だったらしい老け顔の男が関西弁で言う。
その後にはニット帽の青年が続いた。


「待ってくれ・・・!!じゃ、もしかしてここにいる全員とも・・・?」


「そーみたいだな・・・」


状況がまだよく飲み込めてないらしい短ランの人、もとい短ランさんが言い、髪を纏めた男が答える。
そして、眼鏡の男が話を総括するように最後に言った。


「ここにいる全員がテレカを手に入れ、公衆電話でアンケートに答えた・・・

その僕らが今・・・。このどこかも分からないこの荒野に連れてこられてしまったというわけさ。


キミだって外を見れば・・・・・・ここがもう日本ですらないことは分かるだろ・・・?」


・・・確かに日本にはあんな風景の場所はない。現代、では。
ただ、未来だと言っても仕方がない気がする。
僕だって確証がある訳ではないただの推量だし、なにより言っても信じないだろう。未来だなんて。


「フザケんなーーッ!!!じゃ、ここはどこだッて言うんだ!!?」


「知るかーーッ!!今それを話し合っとるんだろうが!!!」



「あぐぅ・・・」


短ランさんと眼鏡の男の怒鳴り合いが頭の芯にまで響いた。思わず声が漏れる程の頭痛に身を捩る。
そんな僕を無視して話し合いは続く。



「――・・・しかし、一体どうやったんだ・・・?家にいたら頭の中でベルの音がして・・・

オレはあっという間にこの荒野につっ立ってたんだ・・・」


髪を纏めた男が腕を組みながら、思案するように言った。


「そうだ・・・ベルと一緒にネメシスQが現れ・・・」


「ケータイをとった瞬間ここにいた・・・!!」


千葉さんを補うようにニット帽の青年が言う。全員同じ経験をしたみたいだ。
僕は来る直前にはネメシスQを見なかったんだけど、気付かなかっただけか。


「多分・・・あのベルにゴッつい催眠効果が仕込まれ取ったんちゃうか・・・!?

そんでワシらは気ィ失っとる間にここへ運ばれて来たっちゅうわけや・・・」


・・・前から気にはなっていた。あのネメシスQという存在。

直接会った時にも確認した訳では無いけれど、トランスのPSIで侵入されたことも考えたら、
あのネメシスQは何らかのPSIの力が関係している気がしてならない。
PSIの力ならばこんな状況が作り出されてもおかしくはない。

ただし、よっぽど強力な力を持つ存在にしかこんな事は無理だ。
・・・誰なのだろうか。コレを仕組んだ人というのは。


「ククク・・・まァ何だっていいさ・・・!どうやら決まりだ・・・!!

オレは今・・・!とうとう都市伝説サイレンの尻尾を掴んだんだ・・・!!

ここがあの・・・!秘密結社 サイレンの・・・楽園ってやつに違いねェ・・・!!」


髪を纏めた男がいちいち強調しながら言った。


――空気が、変わった。


「よ・・・喜んでる場合じゃないでしょう!?これは完全な拉致じゃないか!!」


「オレも嬉しいね・・・!!オークションでテレカにはたいた大金はムダじゃなかった・・・

大量の人間が失踪した事件の謎に・・・オレは今迫ってるんだ・・・!」


「っ!?」


その不穏な空気を感じ取ってか、千葉さんが怯えたように言うが、
それを否定するように眼鏡の男が言った。


「ワシもや・・・ここに連れてこられた人間はこっからどうなるのか・・・

サイレンがどう仕掛けてくるか興味シンシンやで・・・!」


「突然だったけど後悔はないね・・・!楽しくなってきた・・・・・・!」


千葉さんに追い打ちを掛けるかのように関西弁の男とニット帽の青年も言う。
自分の意見に賛成の人がいなくて千葉さんはもう涙目になっていた。

そもそも、サイレンの謎を追おうとする人間が、まともな思考をしている訳がなかった。
金目当てか、オカルトに対する好奇心か。サイレンを追う動機なんてそんなものなのかもしれない。

突然置かれた状況に戸惑っていた空気が、サイレンの謎に迫ろうとする方向へ流れが変わり始めていた。


「この際だ・・・!今の内にお前らにも警告しとくぜ・・・!!

サイレンの謎を解くのはこの俺だ・・・!邪魔する奴はブッ殺す・・・!!」


髪を纏めた男がその口火を切る。
そのせいで流れが、完全に変わってしまった。


「痛い目に遭いたくなきゃ大人しく俺に従うこった・・・俺は本気だぜ・・・!!」


「・・・ッふざけやがってこのダルマ・・・!」


「何やワレ独り占めするつもりかいな!」


止めをさす男の台詞。ニット帽の青年と関西弁の男が触発される。
目に見えて緊張感がその場を包んだ。


「うう・・・僕はテレカを拾って・・・それを一度使ってみただけなのに・・・!

どうしてこんなことに・・・!」


触発されたのは怒りだけじゃない。
千葉さんの不安感が限界に達し、泣きごとを漏らし始めていた。

・・・嫌な空気だ。
怒りにしろ、不安にしろそれが自制出来なくなってきている。
しかもそれは感染し、連鎖するようだ。
全員が先程と違った雰囲気を醸し出していた。


そんな時。


ずっと今まで沈黙し続けていたブレザーの男が立ちあがった。
ゆったりとした足取りで、けれど真っ直ぐに髪を纏めた男の方へ歩いていく。


「お・・・?」


至近距離までブレザーの男が近づいて、やっと髪を纏めた男が気が付いた。

そして、ブレザーの男は、予備動作無しで固めた拳を振りぬいた。
拳は髪を纏めた男の顔面のど真ん中を打ち抜き、男は後方へ吹き飛ぶ。


「邪魔だ。お前が死ね」


鼻筋から上唇の真ん中の人体の急所を同時に二つ捕えていて、とても痛そうだった。


「・・・げ・・・!思いだした・・・!アイツ地久羽(ちくわ)高の朝河じゃんか・・・!!」


「アサガ・・・?」


今男を殴ったブレザーの男を知っているらしいニット帽の男がそのニット帽を押さえながら、
なにかおっかない物をみるかのように言った。

それに短ランさんが反応する。


「ウチの地元のチンピラの吹き溜まり地久羽高の有名人さ・・・

"ドラゴン"朝河だよ・・・!なんでこんなとこいるんだよ・・・!!」


ブレザーの男、ドラゴンさんが振り返り、全員を見渡しながら言った。


「オレは金目当てじゃねェ・・・!人を探していたらこんな所へ飛ばされた・・・!

サイレンのテレカを持って消えたタツオって後輩を探してる・・・誰か知ってる奴いるか・・・?」


全員は突然の出来ごとに茫然としていて、ドラゴンさんの質問に答える人は居なかった。

そして、また空気が変わる。より険悪な方向へ。
殴られた男が立ちあがった。


「~~~テメェ・・・ブッ殺してやる・・・・・・!!!」


男は懐に手を突っ込み、銀色に鋭く輝く小型のナイフを取りだしていた。

・・・どこかで見たような光景。どうしてもあの雪の降る日を思い出してしまう。
だから僕は、微かに震える右手を、前に突き出していた。


「……ホォ・・・やってみろ。ハズすなよ・・・」


ドラゴンさんが更に挑発する。
お互いに一触即発な雰囲気だった。

イメージを精神の深層から呼び起こし、それを昇華させる。
作り出すは不可視の掌、テレキネシス。



・・・投影。



「な、なッ!?」


ナイフは男の手を離れ、硝子窓を突き破って物凄く勢いよく外へ、銀の軌跡を描きながら飛んで行った。
男には何がどうなったか全く分からないだろう。

そして、周りで見ていた人達には男が突如ナイフをすっぽ抜かしたようにしか見えない。
男は、戸惑っているようだった。


「何やってんだ・・・?」


「う、うるせえ!!こうなったら直接・・・!」


「やめろ!!今は・・・!こんな事してる場合じゃねえだろが!!」


こうなったら僕も直接男をテレキネシスで押さえつけようかと考えていた時、
そして男がドラゴンさんに殴りかかろうとした時、二人の間に短ランさんが割って入った。

・・・てっきりこの場には見て見ぬフリをする人しかいないと思っていたから、短ランさんの行動は意外だった。
驚きと共に掲げた右手を、密かに下ろす。


「どけ・・・テメェも殴るぞ・・・!」


男が痛みと短ランさんの雰囲気に少々圧倒されたように言う。


「邪魔すんじゃねェよ・・・!これはオレの喧嘩だ・・・!!」


「じゃ、オレが両方買いとってやるよ」


やっぱりドラゴンさんは火の粉を払うのではなく喧嘩するつもりだったらしい。
この状況で喧嘩しようだなんて何を考えているのだろうか。


「ケンカなんざオレがいくらでも相手してやるよ。

・・・ただしこのクソみてぇな世界から抜け出してからだ!!」


短ランさんがそう啖呵を切った。
かっこいいのだけれど、それはこの状況で火に油を注いでいるとしか思えない。


「コイツ・・・!!」


予想通り、短ランさんの行動は余計にドラゴンさんを煽っていた。
ドラゴンさんの矛先が短ランさんに向きそうになる。

これはいよいよ僕が収めるべきか、と右手を浮かすか浮かすまいか悩んでいた。



"ジリリリン、ジリリリン、ジリリリン、ジリリリン、"



―・・・その時。
部屋の隅の忘れ去られた公衆電話が、けたたましく鳴った。



「なんだ!?電話が!?」


「壊れてたんじゃねーのかよ!!?」


誰が言ったかは分からないが、誰かがそう言った。


「ッ、とるぞ」


「あ、待ッ・・・!!」


「待てやオマエがとるて誰が決めてん!?」


短ランさんがドラゴンさんを無視して公衆電話へ向かう。
周りからの制止の声も聞いていないようだった。


「オイ!!聞いとんのか!?」


そして短ランさんは、受話器を取った。


―刹那、世界が姿を変える。


「何だあァァアアッッ!!?」


「うわあああああああ」


「ッぐ、これは・・・」


頭に響いてくる違和感。
気持ちの悪い浮遊感と、頭の中で反響する音。その二つに思わず胃の中の物を吐きだしそうになった。

この感覚は、恐らくトランス・・・!
アンケートの時に侵入された物か、それとも別の物か・・・

吐き気を堪えていると、音だけでなく声も聞こえてきた。
その声は、あの入国審査の時の女の声。僕の過去を握っているかもしれない人の声。



『――サイレンを目指す者に・・・・・・絶望と力を・・・!!』



サイレンを目指す者に絶望と力を。サイレンに辿り着いた者に世界の全てを

このゲームの出口はひとつ……!!


サイレンを目指す者よ・・・世界の出口を目指す者よ・・・』


そして頭の中に、一つの映像が浮かんでくる。
どこか荒れ果てた建物の中、その中には佇む一つの公衆電話が。



『 門"ゲート"を探せ―・・・!!!』



「!?戻った!!」


音声の終わりと共に、異常感は消え去った。
後には先程と何も変わらない世界が。胃がひっくり返りそうな感覚は残っていたけれど。


「オエ・・・!!何やったんや今のは・・・!!」


関西弁の男の口ぶりからすると、この場の全員が同じ感覚を味わっていたみたいだ。

しかし・・・これでお爺さんが帰って来た方法が分かった。
門"ゲート"・・・それが元の場所に帰る鍵らしい。
それを見つけさえすれば、帰れると。
このどこかもよく分からない広大な場所で、たった一つの公衆電話を見つけさえ、すれば。





・・・・・・無理じゃない?





「はあ・・・」


溜息とも熱のだるさからくる息ともつかない空気が肺から漏れた。

これからどうなるのかなあ・・・
どこか吹っ切れて他人事のように考えている僕が居た。

そして、異常事態というのは二度ある事は三度あるらしい。
ここに連れてこられた事、公衆電話からのトランス音声。


「ひいッ!!?」


「こッ・・・今度は何だ・・・!!?」


「一体何の音や・・・!!」



そして、窓の外から、正確には遠くの丘の向こうから拡声器による警報の音が、空気を震わせていた。

いい加減にしてほしい。もう異常事態はお腹いっぱいだ。
かのブッダだって三回までなんだから。

僕は今、忍耐度で言えばブッダに並んでいた。
すごいぞ、僕。




・・・あ、まずい。泣きそう。



◆◆◆



あの警報が鳴り終えた後、男の人達はゲートを目指して行ってしまった。
どうやら、あの警報がゲームの始まりの合図だと受け取ったらしい。

ここを起つ際に眼鏡の男が僕に言った。


『君はここにいろ。オレ達はゲートを見つけたら戻ってくる。大事な証人に何かあったら困るからな』


気遣ってくれているように聞こえるが、意訳をするならフラフラの子供なんか連れて歩くのは嫌だということだろう。

僕のお守りをさせられて他の男達に出し抜かれては困ると言ったところか。
迎えに来るというのも多分誰かが押しつけられる役割になるのだと思う。

ここに残ったのは、僕と千葉さんと、髪の長い女の人の三人。
何はともあれ僕はこの初めのビル内で待機する事になったのであった。

そういえば、行く直前になって短ランさんが男達と口論していたけど、あれは何だったんだろうか。


「なんでこんな事になっちゃったんだろうね・・・」


横にいた千葉さんが僕に話しかけるでもなく、自分に問うのでもなく、ボンヤリと虚空に向かって呟いた。

別に答えは期待していないのだろう、答えが返ってくるとも思ってないだろう。
ただ、口に出さずにはいられなかったと言った様子だった。

千葉さんは事態に戸惑っていると、競争相手を減らそうとする目論見からか、
足手まといだから来るなと男達から言われていた。

千葉さん自身も早く帰りたがっていて、ついて行きたそうにしてはいたが、
僕がここに残る事になると千葉さんもここに残った。


「キミは小さいのに偉いね。こんな状況になっても泣かないなんて。ボクはもう泣きたいよ・・・」


「・・・僕だってさっきちょっと泣きかけましたよ。でも泣いてても仕方ないですし」


今度は僕に言ったようなので返事をする。
この人はどうしてこんなに親しげにしてくるのだろうか。


「そうやって割り切れるのが凄いんだよ・・・。

そう言えば、キミ親は?突然居なくなって心配してるだろう?」


「親は、いません。僕はお婆さんに拾われたんです」


そう告げると、明らかに千葉さんがしまったという顔をした。
いや、もしかしたら居るのかもしれないけど、分からない。覚えていない。

記憶がないことまで話すとややこしくなるのでそこは黙っておいた。


「・・・ごめん、無神経なこと聞いちゃって」


「いいんですよ。家のみんなを本当の家族みたいに思ってますから、親が居なくても寂しくはないです。

そういう千葉さんはどうなんですか?」


こっちが会話の受け身になってばかりじゃアレなので僕も尋ねてみた。


「僕は、普通の家だよ。親が居て、兄妹が居て。結婚相手はまだ居ないんだけどね。

・・・妹はまだ小さくて、キミくらいの歳なんだ。だからかな、どうもキミの事が他人事に思えなくて」


千葉さんはそう言ってははは、と笑った。
なるほど、やけに親しげだったのはそう言う事だったのか、と一人納得した。


「お互い、生きて帰りましょう。妹さんの為にも」


「・・・そうだね。よしっ!泣いてなんかいられないな!」


千葉さんはそう言って勢いよく立ち上がった。
別に立ち上がってもすることなんかないんだけど、立ち上がりたい気分だったんだろう。


「そう言えば、あの女の子は大丈夫なのかな。

気を失ってるみたいだったけど。あの黒髪の男の子も行っちゃったみたいだし」


髪の長い女の人の顔をのぞき込む。
僕も気になって近くへ寄った。

その時。



「あンのトサカ野郎ーッ!!!」


短ランさんの怒鳴り声と、短ランさんが何かに八つ当たりする音が聞こえた。




続く


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