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No.17872の一覧
[0] PSYchic childREN (PSYREN-サイレン-) 【オリ主】[昆布](2011/06/12 16:47)
[1] コール1[昆布](2011/03/04 01:52)
[2] コール2[昆布](2010/12/23 03:03)
[3] コール3[昆布](2010/12/23 04:52)
[4] コール4[昆布](2010/12/23 04:53)
[5] コール5[昆布](2010/12/23 04:53)
[6] コール6[昆布](2010/12/23 04:53)
[7] コール7[昆布](2010/12/23 04:54)
[8] コール8[昆布](2010/12/23 04:54)
[9] コール9[昆布](2010/12/23 04:54)
[10] コール10[昆布](2010/12/23 04:55)
[11] コール11[昆布](2010/12/23 04:55)
[12] コール12[昆布](2010/12/23 04:55)
[13] コール13[昆布](2010/12/23 04:56)
[14] コール14[昆布](2010/12/23 04:56)
[15] コール15[昆布](2010/12/23 04:56)
[16] コール16 1stゲーム始[昆布](2010/12/23 04:57)
[17] コール17[昆布](2010/12/23 04:57)
[18] コール18[昆布](2010/12/23 04:57)
[19] コール19[昆布](2010/12/23 04:58)
[20] コール20 1stゲーム終[昆布](2010/12/23 04:58)
[21] コール21[昆布](2010/12/23 04:58)
[22] 幕間[昆布](2010/12/23 04:59)
[23] コール22[昆布](2010/12/23 04:59)
[24] コール23[昆布](2010/12/23 04:59)
[25] コール24[昆布](2010/12/23 04:59)
[26] コール25[昆布](2010/12/23 05:00)
[27] コール26[昆布](2011/06/20 03:08)
[28] コール27[昆布](2011/06/12 16:49)
[29] コール28 2ndゲーム始[昆布](2011/07/29 00:23)
[30] コール29[昆布](2014/01/25 05:06)
[31] コール30[昆布](2014/01/25 05:05)
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[17872] コール14
Name: 昆布◆de1a5a25 ID:3563f643 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/23 04:56
暦の上では既に春になって久しいけれど、寒さは未だ健在。

流石に雪が降るような事はないが、動植物が活発になり、目覚めているという気配が空気全体に満ちるまで
もう少し掛かりそうな気がする、そんな三月の半ば。

カイルは暇そうだし、シャオは既に読んだ事のある本を読み直していて、
ヴァンは眠たげで、マリーは家事手伝いに励み、フレデリカは新しく仕入れた漫画を読み耽っていた。

要するに、相変わらずの日常が続いていた。

僕は、お婆さんに少しの遠出の許可を貰ったので余り長期の外出にならない程度に、
ちょくちょく出かけていた。
少し出かけて来て、土産話を持ち帰る。
夕食の時などに話すと、みんな結構興味を持ってくれていたようだ。

あの外嫌いのフレデリカでさえも、話に興味がないフリをしながら耳を傾けていたらしい、
という事をマリーから聞いた。

その後その事を僕に話したのがフレデリカにバレてマリーは罰として漫画の感想文を書かされていた。

僕は心の中で応援しておくのに留めておいた。
マリーの涙目は心に突き刺さったけど、僕だって下手に口出しして巻き込まれたくなかった。

それと、相変わらずと言えば記憶が戻る気配はなかった。

それでも旅は止めない。
見つけたいものが自分の過去だけじゃなくなったから。

あの日から一度も姿を見てないどころか連絡の一つもないあの人に、もしかしたらまた出逢えるのではないか、
という淡い期待も旅を続ける理由の一つになっていた。

空から降り注ぐ陽光と空気の冷たさが戦ってまだ寒さが勝つ中で、
もう少し経って暖かくなったらそろそろ遠出をお婆さんに申請してみようと考えていたある日の事だった。



◆◆◆



「フレデリカの様子がおかしい?」


プログラムを組んだテレキネシスを投影。
皿洗いを自動で行う為、僕自身は暇になった時にマリーが話かけてきた。


「うん、そうなの。ちょっと前からなんだけど…」


マリーは皿を拭いて食器棚にしまうまでを一連の動作で行っている。

本当はマリー一人で十分な仕事なのだけれど、テレキネシスの練習も兼ねて
僕が手伝わせてもらっていたのだった。


「おかしいって、どんな風に?また漫画のキャラクターに影響でも受けたとか?」


「ううん、それはいつもの事だから・・・

えっとね、なんて言ったらいいのかな、なんだかボンヤリしてるの」


マリーとテーブルを挟んで向かい合うような形になり、話を続ける。
その間も食器はカチャカチャと音をたてながらひとりでに片付けられていっていた。


「ボンヤリ?」


「話しかけても反応が薄いっていうのかな、いつも何か考え込んでるみたいな感じなの」


「うーん、ちょっと僕には心当たりは無いなぁ。

本人に聞けば手っ取り早いんだろうけど、多分フレデリカの事だから教えてくれないだろうし」


少し考えてから答える。

外の人間が嫌いなフレデリカは、この家の人間には逆にある程度の親愛の情を持っているようだった。
それでも、ある程度。

フレデリカは以前から誰に対しても一定の距離を保っていたように思う。
例えその相手がマリーでも例に漏れず。

完全に胸襟を開いている人間は居ないのではないか、そんな印象を僕はフレデリカに持っていた。
そんなフレデリカに悩みは何だ、教えろなどと言っても教えてくれる筈がないだろう。


「特に僕は嫌われてるみたいだし・・・」


初めてフレデリカと会った日のことを思い出す。
もう随分と前の事だけれど、今思い返してみれば僕の第一印象は最悪だった、と思う。

ヘッドバットから始まった共同生活は、フレデリカにしてみたら決して快いものではなかっただろう。


「うーん・・・フーちゃんも口で言うほどファイ君の事嫌ってないと思うよ?」


「え?」


「ホントに嫌いな人ならこうして一緒に生活してないし、ファイ君の旅行の話も聞いてないと思うの」


マリーが告げたのは意外な事だった。

てっきり話に耳を傾けていたのは嫌いな奴が何かほざいている、
といった具合の冷めた視線なのかと思っていた。


「それは、どうなのかな…。まあどっちにしろ好かれてはいないと思うよ。

だからフレデリカが何を思っているかは、ちょっと分からないや。ゴメン」


「そっか…ううん、いいの。もしかして分かるかなって思ってちょっと聞いただけだから。

それより、手伝ってくれてありがとう。もう終わったみたいだよ」


そういえば食器はもう全部仕舞われたみたいだ。


「いや、こっちから言い出したんだから構わないよ」


そして仕上げにテーブルでも拭こうかと思って、台拭きをテレキネシスでこっちに引き寄せる。
台拭きが空を滑ってくる。

と、そこに急に扉が開かれ人影が台所に入ってきた。


「あっ・・・」


その人影の顔面に台拭きが直撃した。

ずずず、といった擬音がしそうな様子で台拭きがゆっくりと顔面からずり落ちる。
粘ついた汗が背中をじっとりと濡らす。

時の流れが遅くでもなったかのように感じた。

そこに立っていたのは、フレデリカだった。
頭の中で未来予測が直ぐさま行われる。

1.その場でウェルダン
2.拳で挨拶される
3.台拭きの生搾りを飲まされる

・・・どれだろうか。
どの選択肢でも酷い目に遭うのは決まっていた。


「ゴメンナサイお手柔らかにお願いします」


とりあえず平謝りしておいた。
望みは薄いけれど情状酌量の余地があることを期待するしかない。


「・・・・・・」


「・・・?」


いつまで経っても浴びせられる筈の暴言が来ないので、地面すれすれまで下げていた頭を上げた。

フレデリカがじっとこちらを見ていた。
なるほど、確かに様子がおかしいみたいだ。それも明らかに。

無言を突き通すフレデリカの、その深い海のような瞳の奥で渦巻いている感情は読み取れなかった。


「あ、あの、フーちゃん・・・?」


マリーがおずおずと尋ねる。
マリーも巻き込まれないかビクビクしていた。

けれど、フレデリカが怒り出す様子はない。
こっちに明らかに非があるのだから、これをネタに一ヶ月はネチネチといびられてもおかしくは無いのだけれど。

そうした不思議な時間をしばらく続けたと思ったら、フレデリカがようやく口を開いた。


「・・・付き合いなさい」


…ああ、これが体育館裏まで来いとかいうヤツなんだろうか。


でもここエルモア・ウッドには体育館なんて無いんだけど。
とにかく、人目に付かないところでボコるという意味だから体育館じゃなくても良いのかもしれない。

ちょっと気になって尋ねてみた。


「・・・どこに?」


「・・・いいから付いてきなさい」


僕は返事も返す暇もなく、襟を掴まれ引きずられていった。
マリーがこっちに向けて手を振っていた。口元が頑張れと動いた気がする。

こうなったらフレデリカの気が収まるまでどうにもならないとみんな分かっているので、マリーの対応は妥当だ。
僕がマリーでも同じ対応をする。

どうやら今日は厄日風味らしい。
あまり過激にならない事を祈りながら、僕は引きずられていった。



――玄関。



「準備しなさい」


そうフレデリカが言ってようやく僕は解放された。
心の準備ならもう済ませてあるし、準備って何に対してのだろうか。


「何の?」


「出掛ける準備よ。さっさとして」


「え?」


フレデリカが、出掛ける?
この上なく珍しいというか意外な言葉を聞き、固まってしまった。

フレデリカの方を見ると、確かに言われてみればフレデリカの服装は外行きの格好だった。


「ちょ、ちょっと待って!

どこに!?何しに!?お金は!?お婆さんに許可は!?」


疑問をまくし立てるかのように言う。


「遠くに。ちょっと用事で。アンタ持ち。許可は、いいでしょ別に」


実に端的に答えてくれた。
その中にいくつか聞き捨てならない事や答えになってないものもあったけれど。


「ええ!?お金僕持ちとか許可無し、って・・・」


「・・・ごちゃごちゃうるさいわね。アンタは付いて来さえすればいいのよ」


言うのを遮られる。
色々と納得出来なかったけれど、不満を言うのを続けられなかった。

フレデリカの目が、原因が僕にはよく分からない憂いのような物を帯びていたから。


「・・・ちょっと待ってて」


そして、準備をしに自室へ向かったのだった。



◆◆◆



「えっと、子供二枚で」


最寄りの駅から新幹線の通っている駅まで先ずは移動。
そこから、新幹線に乗った。

電車賃などは例の如く以前にお婆さんから貰った旅費から出した。
子供料金とは言え、決して安い物ではないが、これも旅の一環だと言うことで納得しておいた。

行き先は、関西方面だった。
何故フレデリカが関西に行きたがるのか、ちょっとした用事というのがなんなのか、教えてくれなかった。

移動している間ずっとだんまりを決め込んで何かを考えていたフレデリカ。
会話がなく、非常に気まずい思いを僕はしていた。

指定席のシートに座り、しばらくすると電車が動き出す。
初めはゆっくりと、そして段々景色が流れる早さが早くなっていった。



――・・・



『(今日も、パパとママは帰ってこない)』


遠く、幼い日の頃を夢に見ていた。
アタシがまだ外の人間を、パパとママを嫌う前。

部屋で一人、漫画のページを捲る。パラリ、という乾いた音が部屋の壁に吸い込まれた。
いつもはワクワクするその行為が、すごく虚しく感じてた。

パパとママが忙しいのは分かってる。誰かの為に働いているって事も分かってた。
けど理解はできても、納得はできなかった。

どうにも読む気になれなくて、漫画をベッドに投げ出す。
カバーに描かれた主人公の目がこっちを見ていた。


『・・・フン』


なんだか寂しいような、不思議で、気分の悪い気持ちになってる自分が嫌で、
それを振り払うかのように鼻を鳴らす"アタシ"。

その主人公に見つめられているような気がして、漫画もひっくり返した。

部屋が静かなのが、辛い。
世界にたった一人で取り残されてしまったような感覚。


『(今日くらい、こんな日くらい帰ってきたって・・・)』


そんな風に心の中で愚痴を言う自分も嫌いだった。
そう思うんなら、言えばいいのに。

そんな時下の階、玄関の方から音が聞こえた。


『(帰ってきてくれたんだ!)』


"アタシ"の表情が一気に明るくなる。
それを見て、凄くイライラした。


――どうせ、すぐに裏切られるのに。


玄関の方へ駆けていく。
さっきまでのもやもやが嘘みたいに晴れていたんだった。


『おかえりなさい!あのね、今日ね、』


"アタシ"がパパとママの足下に駆け寄った。


ああもうこの先は見たくない。
けど、ひたすら当時の映像が再生されている。夢は終わってくれそうもない。


『ごめんよ、疲れているんだ。フレデリカ』


告げられる拒絶の言葉。
パパとママは、アタシの為に帰ってきてくれたんじゃなかった。
単に予定が変わっただけ。


『え・・・ごめんなさい・・・でもね、今日は・・・』


そしてその時パパとママの、不思議そうな表情から悟ったんだった。
パパとママはアタシの事なんかどうでもいいんだって。

自分の娘の、誕生日すら忘れるなんて。

そして気がついた時には、"アタシ"は泣いていた。
泣いて、PSIが抑えられなくなって、みんな燃えた。

忘れたい。
そう、必死に忘れようとしたのにどうして今頃こんなものを見てしまうのだろう。

アタシは夢が終わってくれる事をただただ祈った。



――・・・



流れていた景色が様子を変えた。
閑散とした風景が少し賑やかな景色に変わった。もうすぐ目的地に着きそうなのだろう。

初めはずっと頬杖をついて窓の外を眺めていたフレデリカは、今は眠っていた。
シートに体を預け、寝息を立てている。

それにしても、どうして急に出かけようなんて言い出したのか。
しかも僕を連れて。

…まあ僕を連れてる事に関しては、何となく分かった気がする。
多分、案内役みたいな同伴者が欲しかったのだと思う。

こんな電車を乗り継いだり、新幹線に乗ったりするのは一人じゃ心細い。
そこで、頻繁に外出したり遠出したりしていた僕に白羽の矢が立ったのだろう。

それならそうと言ってくれれば良いのに。
でも言わないからこそのフレデリカなんだろうな、とも思う。

そういえばと、ふと思い出し携帯電話を取りだした。

流石に何の相談も無しにこんな遠出をするのはマズイ。
お婆さんに連絡を入れておいた。
お婆さんはフレデリカが出かけた事を聞いて驚いていた。
そしてその後、どこか納得したような雰囲気もあったのだけど、それが何故なのかは僕には分からない。

遠出禁止令を破ったので何か罰を言われるかと思ったけど、
罰として下されたのは、フレデリカを頼むという事だけだった。

もちろん承諾。

電話が終わり、再びフレデリカの方を見るとフレデリカは夢見が悪いのか苦悶の表情を浮かべていた。
端正な顔に皺が刻まれ、目頭には光る滴があった。

僕にはフレデリカの見る物が分からない。苦しいのを共有する事もできない。
だけど、その苦しいのが少しでも和らげばいいなと思いながら、僕は自分の上着をフレデリカにかけた。



◆◆◆



「…確か、こっちよ。早く付いてきなさい」


電車を降りた僕らは、フレデリカが指定した街までバスを乗り継いだりして漸く辿り着いた。

バスから降りて、その景色を眺めてその空気を吸う。
そうしているとフレデリカに急かされた。

見た事のない風景。
僕にとっては知らない街なんだけれど、フレデリカにとっては違う。
見た事のある場所。
そこにかつて自分が存在していたという確信が持てる場所。

こんな時だけれど、それを持っているフレデリカがちょっぴり羨ましく思ってしまった。

フレデリカの進める歩みが少し早くなる。
段々その速度が上がって、最後には小走りになっていた。


「ここ…!」


フレデリカの足が止まる。
そして辿り着いたのは、大きな屋敷だった。


「ここって、ひょっとして…」


かつて聞いた話を思い出していた。
フレデリカはエルモア・ウッドに来る前はかなりのお嬢様だったと。

その話と今、目の前にある大きな屋敷。
それらを考えて、一つの推測が纏まっていった。


「……」


フレデリカが屋敷の門をじっと見つめている。
ある一定の所まで近づいた後、それから一歩も前に進めていなかった。

何度も進もうとして、やっぱり足が固まってしまう。

そうしている内にフレデリカがグッと俯いた。
レモン色の、陽光のような髪がフワリと揺れた。


「フレデリカ…」


「・・・ッ!」


僕がそう呼びかけると、フレデリカはハッと弾かれたように顔を上げ、同じく弾かれたように走り出した。
ちらっと見えたフレデリカの目には形容しがたい、様々な感情が浮かんでいた。


「あっ!ちょっと!!」


慌てて声を投げかけるが、声はフレデリカの背中に降り掛かるだけだった。
フレデリカはそのまま止まらずに、走って行ってしまった。


「…探すしか、ないよね。ここがどこかもよく分からないんだし」


一人残された僕が思わず呟いたのは、建前。
本当はフレデリカが心配だから。
それに今ここで追っかけないと、何となく瞬間最大風速でかっこ悪いような気がした。

だから、僕もフレデリカの後を追って走り出した。



◆◆◆



どのくらい走り続けただろうか。
土地勘が無い場所をデタラメに走って探すのは凄く骨が折れた。

走って、片方の脇腹が痛くなって、無視してまた走って、両脇と肺が痛くなった頃に、
ようやくフレデリカを見つけた。

フレデリカは、小さな公園のブランコに座っていた。
少しも揺れはしないブランコが、フレデリカの心情を表しているような幻視をした。


「はあっ・・・!やっと、見つけた・・・!」


呼吸を整える為に僕もブランコに座りながら、横にいるフレデリカに話しかけた。
フレデリカはこっちを見向きもしない。


「・・・・・・悪かったわね。こんな下らないのに付き合わせて」


下を向いたままフレデリカが言ってくる。

フレデリカらしくない謝罪の言葉。
どうも今日のフレデリカといると調子が狂う。


「・・・いや、いいんだけどさ。ついでにちょっとくらい話してくれると嬉しいんだけどね。

・・・なんでそんな泣きそうな顔してるのか、とかさ」


フレデリカがこっちを向く。
僕の顔を覗くフレデリカの顔は、何かを堪えるかのような痛切な顔をしていた。


「やっと目があった。今日初めてだよ?

なんか思うところがあるんなら、話してくれてもいいんじゃない?誰にも言わないからさ」


再び沈黙するフレデリカ。


言わぬなら 言うまで待とう フレデリカ


沈黙を保ったまま、僕はブランコを揺らし始めた。
キイ、キイと錆び付いた音が二人だけの公園に響く。

既に日は沈みかけ、辺りを暗闇が包み始めていた。

公園内に設置された外灯に明かりが灯り、烏の鳴く声も聞こえなくなった頃、
ようやくフレデリカがその重たい口を開いた。


「・・・アンタ、どうしてここまでアタシに付き合ってくれたの?

普通、こんなに振り回されたら怒ってもおかしくないのに」


「さあね。なんか放っておけなくて。

良く分からないけど家族が悲しそうにしてたら、そりゃ心配もするさ」


視線を虚空に向けたまま答える。
ブランコは揺れているけど、視線は一点に固定されていた。


「家族、か。

・・・今日はね、アタシが初めてエルモア・ウッドに行った日なの。つまり、アタシが家族に捨てられた日」


ブランコを揺らすのを止めた。
横にあったフレデリカの顔をじっと見つめる。


「それで、なんだか分からないけど急に気になったの。

大嫌いな、アタシを捨てた奴らが今どうしてるのか。アタシを追い出して幸せそうにしてたらどうしてやろうって」


「・・・」


「・・・でも、確かめられなかった。

馬鹿馬鹿しいわね、下らない理由でわざわざこんな所まで来て、それなのに確かめられなかったなんて」


言いながら、フレデリカが自嘲気味に笑った。
顔が皮肉げに歪められる。


「どうして、確かめられなかったの?」


「・・・分からないわ」


フレデリカが何かを否定するかのように頭を軽く振りながら答えた。


「・・・それは。・・・多分、フレデリカがその人達の事が好きだからだよ」


「違うっ!!だってアイツらはアタシの事を捨てたのよ!?アタシの事なんてどうでもいい人達なの!!

あの日だって・・・!あの日だって!!!」


堪えていた物が一気に決壊したかのように、フレデリカは大声で言った。

瞳と瞳が交差する。
多分、今、初めて本当の意味でフレデリカと向かい合っていたんだと思う。


「・・・どうして、フレデリカはその人達にどうでもいいと思われてるって思って、悲しかったの?」


「それはっ・・・」


僕の、どうして?という疑問の言葉は、冷たい刃になってフレデリカに突き刺さった。


「確かめられなかったのは、怖かったから。

本当に幸せそうに過ごしてたら、本当にどうでもいいと思われてるって事になってしまうから。それを認めたくなかった」


「・・・っ!」


多分、今フレデリカはずっと目を逸らしてきたものに直面している。
捨てられた事を恨む気持ちが強すぎて見えなくなっていた、本当の理由。


「アタシが、あの人達に捨てられて悲しかったのは・・・」


本当に嫌っていた人達なら、離れていても悲しくなんて無い。
好きだからこそ、近づけなくて悲しい。

フレデリカの瞳が、ジワリと滲んだ。


「・・・うん、辛いんならそこからは言わなくて良いよ。

フレデリカが自分でそう思えたなら、それをフレデリカの中で大事にするだけでいいんだ」


そしてティッシュを差し出す。
しばらくしてフレデリカはそれを受け取った。


「それに、フレデリカの両親はフレデリカを捨てたんじゃないと思うよ。

あくまでエルモア・ウッドに預けただけな気がするんだ」


「・・・どうしてそう思うのよ」


鼻をグスグス鳴らしながらフレデリカが尋ねてきた。
赤く腫れた目がこっちを見た。


「フレデリカが、好きな人達だから。悪い人達な訳がないさ」


「・・・なによ、それ」


自信を持って言ったつもりだったんだけど、笑われてしまった。
フレデリカが呆れたように言う。でもどこか嬉しそうに見えたのは都合が良すぎるだろうか。

フレデリカがゆっくりとブランコから腰を起こす。


「・・・アンタ、変な奴だと思ってたけど、やっぱり変な奴だったわ」


「なんかよく分からないけど、ここはお礼を言った方が良い気がする」


そうして僕も立ち上がる。

日はとうにその姿を隠し、紺色の紗幕が一面に広がっていた。
その紗幕には無数の瞬く星が散りばめられていて、なぜだかいつも見る空より綺麗に思えた。


「さ、帰ろうか、家(エルモア・ウッド)に。

本当の家がどうとか今は考えない考えない。家が幾つもあったら駄目なんてことはないんだしさ」


「・・・そうね」


フレデリカが、力のコントロールを身に付け、いつか大人になった時にかこの話は解決するだろう。
そんな気がした。いや、そう信じている。

それから、二人でゆっくりと歩き出した。
フレデリカの歩みには、来たときとは違った感情が表れているような気がした。




◆◆◆
エルモア・ウッド



「やれやれ、日帰りって疲れるんだなあ」


呟きながら玄関へと向かう。
すっかり遅くなってしまったが、電車の中でそろそろ帰ると連絡は入れたので大丈夫だろう。


「・・・」


フレデリカとはあの後ずっと会話が無かったけど、行く時と違ってそこに気まずさは無かった。
むしろその沈黙が心地よくすら感じたのは、どうしてだろうか。


「ただいま」


「・・・ただいま」


鍵を差し込んで回して、扉を開く。

玄関で言っても聞こえないのは分かっているけど、これは僕自身の気持ちの問題。
ただいま、と口に出す事で帰ってきた!という感じがするのだ。

と、そこにパーンと何かが破裂するような音が複数響いた。


「誕生日おめでとう!!フーちゃん!!ケーキもあるよ!」


僕らがびっくりしていると、クラッカーを鳴らしたマリーが姿を現し、そう告げた。
マリーの後ろから、エルモア・ウッドのみんなも出てきて口ぐちに祝辞を述べる。


「・・・なによ」


僕が目を丸くしていると、フレデリカが睨んできた。
三月十四日。今日が誕生日だったんなら、教えてくれてもよかったのに。


「いや、なんでも。誕生日、おめでとう」


「フン。・・・ありがと」


お礼の言葉は凄く小さかった。
ようやくいつものフレデリカが戻って来たのだろうか。やっぱり、そっちの方がフレデリカらしくていい。


「・・・それから、今日の働きでアンタをアタシの子分にしてあげる。感謝なさい!」


「ははは・・・そりゃどうも」


告げられた言葉に苦笑いとも違う笑いが漏れた。これはなんという笑い何だろうか。

そんな事を考えていたら、胸に熱を感じていた。
今まで感じたどの熱よりも熱い、どこかフレデリカらしさを感じる熱だった。

なんだかんだでめでたしめでたしなんだろう。
その方がすっきりしてていい。


「・・・そういえば、落ち着いたら思いだしたわ」


「何を?」


「台拭きの味」


「あー・・・」


その後僕がどうなったかは、別に良いだろう。
あんまり思い出したくないし。

何はともあれめでたしめでたし。
・・・僕以外が。



◆◆◆



五月。
暖かくなったし、お婆さんにも遠出の許可を貰った。

フレデリカについて関西へ行ってから、次の旅の行き先は西と決めていた。
夏に旅したのは、東へ進んでいき、そこから折り返して日本海側を来る道。

要するに関西方面は未知だったのだ。
だから、伊豆を出て太平洋に沿って西へ行った。

とりあえずは隣の愛知県に。


――そこで、運命を変えることになる。




続く


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