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No.17872の一覧
[0] PSYchic childREN (PSYREN-サイレン-) 【オリ主】[昆布](2011/06/12 16:47)
[1] コール1[昆布](2011/03/04 01:52)
[2] コール2[昆布](2010/12/23 03:03)
[3] コール3[昆布](2010/12/23 04:52)
[4] コール4[昆布](2010/12/23 04:53)
[5] コール5[昆布](2010/12/23 04:53)
[6] コール6[昆布](2010/12/23 04:53)
[7] コール7[昆布](2010/12/23 04:54)
[8] コール8[昆布](2010/12/23 04:54)
[9] コール9[昆布](2010/12/23 04:54)
[10] コール10[昆布](2010/12/23 04:55)
[11] コール11[昆布](2010/12/23 04:55)
[12] コール12[昆布](2010/12/23 04:55)
[13] コール13[昆布](2010/12/23 04:56)
[14] コール14[昆布](2010/12/23 04:56)
[15] コール15[昆布](2010/12/23 04:56)
[16] コール16 1stゲーム始[昆布](2010/12/23 04:57)
[17] コール17[昆布](2010/12/23 04:57)
[18] コール18[昆布](2010/12/23 04:57)
[19] コール19[昆布](2010/12/23 04:58)
[20] コール20 1stゲーム終[昆布](2010/12/23 04:58)
[21] コール21[昆布](2010/12/23 04:58)
[22] 幕間[昆布](2010/12/23 04:59)
[23] コール22[昆布](2010/12/23 04:59)
[24] コール23[昆布](2010/12/23 04:59)
[25] コール24[昆布](2010/12/23 04:59)
[26] コール25[昆布](2010/12/23 05:00)
[27] コール26[昆布](2011/06/20 03:08)
[28] コール27[昆布](2011/06/12 16:49)
[29] コール28 2ndゲーム始[昆布](2011/07/29 00:23)
[30] コール29[昆布](2014/01/25 05:06)
[31] コール30[昆布](2014/01/25 05:05)
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[17872] コール13
Name: 昆布◆de1a5a25 ID:3563f643 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/23 04:56
見た事のあるような気がする風景。何もない真っ白な空間が目の前に広がっている。
いや、何も無いように思えたが、意識を傾けてみると目には見えない何かが存在していた。

その不明瞭な何かは不規則に流動している。

しばらくの間ぼんやりとそれを眺める。
その不思議な動きを眺めていて、僕は夢を見ているのだと突然気が付く。

前にもこんな事があったような気がするけど、はっきりしない。
いつもにも増して頭がボンヤリとしている。
何かが思い出せそうで出せない、そんなもどかしい感覚が僕を包んでいた。

ふと視線を前に向けると、光があった。

光が集まってゆく。頭の中で何かが燻ぶった。
光が集まって形を成した。燻ぶりが大きくなる。


「・・・また、しんだ?」


僕自身と、同じ声が響いた。

その声を聞いた時、燻ぶりが一気に弾け、脊椎を貫く衝撃が駆け抜けた。
それはまさに電流が流れると言った様だった。


・・・思い出した。長い間逢わなかったから、忘れてたよ。久し振り。


「ひさしぶり」


光が僕の声で答えた。

自分の声を録音して聞いた時のような違和感のある声じゃない。
いつも自分が話す時に聞こえている自分の声だった。

奇妙な物で、録音した声が聞こえても違和感を感じるのに、
自分の声と変わらない声が聞こえても、やっぱり違和感はあった。

そして光が言った事が気になり、尋ねる。


・・・死んだ?僕が?じゃあ、ここはあの世ってやつ?


「すきま。うらとおもて、ないとあるのあいだ」


光は抽象的な言葉をくれた。

声が響く度に鼓膜が、耳小骨が、内耳が、渦巻き管が、
耳の奥、頭の中がジンジンと熱くなるのを感じた。

それが頭の中で渦巻く疑問と相まって、考えるのが少し億劫になった。


・・・よく分からないんだけど。


「なんだ。しんでない」


光が詳しく教えてくれる事は無かった。

急に話を変えられる。
そして違和感に包まれている中で、更に別の違和感が生まれた。

ざわめきが大きくなる流動していた何か。


「ばいばい」


光が手を振ったような気がした。確証はないけれど、きっとそうだと思う。
だから、僕も振り返そうと思った。けれど、違和感に呑まれていて、それは出来なかった。

違和感に引っ張られてゆく。
これからどうなるのかが、何となく分かった。

夢の、終わり。



◆◆◆



真っ白な天井を眺める。
自分が天井を眺めていると気付くまでに、しばらく時間を要した。

自分がベッドに寝ているのだと認識すると、霞んでいた視界が漸く少しクリアになった。
どうやら頭が働き始めたようだ。

肘をついて起きようとすると、体の上に重みを感じた。
怪訝に思い、首から上だけを持ち上げ見てみると、それは毛布に包まれて眠っているヴァンだった。


「なんで、ヴァンが?」


何よりもまず先に口を突いたのは、どうしてヴァンがここにいるのか、だった。
その疑問で口火を切ったかのように次々と別の疑問が湧いてくる。

そして思い出した。
行動を共にしていた一人の男の人を。


「ッ、アロハさんは!?」


ガバッと一気に体を起こした。
僕にもたれて眠っていたヴァンはゴロリと体の向きを変えた。

そこに見慣れた人の影は無かった。ただ病室の壁だけがそこにあった。
気分を和らげる筈の薄いクリーム色の壁が、なぜだかとても冷たく無機質なように感じた。


「・・・ここは」


疑問の内の一つ、ここがどこかという事が気になった。
どうやらここは病室らしいが、それが何処の病院かという事は分からない。

ヴァンがいる以上、そんなに伊豆から遠くにいる訳ではないのだろうけど。
僕が倒れたのは、伊豆からは結構離れた土地だった筈なのに、どういうことだろうか。
そこまで考えて、僕は倒れた原因が刺された事だったのを思い出す。
記憶が芋蔓式にどんどん蘇ってくる。頭の回転も大分戻ってきたようだ。

コツ、コツと誰かが床を踏み鳴らす音が聞こえてくる。
そして僕のいる部屋の前でその足音は止んだ。

扉がゆっくりと開かれる。
ドアの前に居たのは、花が活けられている花瓶を抱えたマリーだった。


「ファイ君?」


丸く、大きな瞳が更に開かれた。
それから、深緑のようで見つめていると吸い込まれそうになるマリーの瞳が、ジワリと滲んだ。

マリーは花瓶を抱えたままこちらに駆け寄ろうとして、それを留めた。
それからあたふたと近くの机の上に花瓶を置き、駆け寄ってきた。

マリーに抱き締められる。

顔にマリーの髪がかかって、少しくすぐったい。
シャンプーの甘い香りが鼻腔を掠めた。


「…久し振り、マリー」


僕の首に顔を埋めているマリーに話しかける。

その久し振り、という挨拶をした時、何か既視間のような引っ掛かりを感じたけれど、
それが何なのかまでは記憶が蘇って来ない。


「久し振り、じゃないよ…!すっごく心配したんだから…」


「…ごめん」


マリーが涙でくぐもった声で言う。

マリーが僕にもたれ掛っている形なので、倒れないように片手を後ろにつく。
そのもう片方の手をどうしたら良いか迷い、暫く宙を彷徨っていたが、結局マリーの背中に落ち着かせた。


「ヴァン君も危ないかも知れないなんて言うし…!一時は心臓も止まったって…!

知らせが来た時はホントにびっくりしたんだよ!?」


「ごめん」


謝る事しか僕には出来なかった。
というより他に何かを言おうという気も起きない。


「行ってらっしゃい、って言って見送ったのにそれでお別れだなんて、私嫌だよ・・・」


背中に落ち着かせた片手をぎこちなく上下にさする。
それは気まずさを紛らわす為の誤魔化しだった。

マリーが顔を僕から離す。
泣いている顔を見られたくないのだろうか、俯いて目を擦った。


「ゴメン・・・でも、ファイ君が死ななくて、ホントに良かった…!」


そして顔を上げ、綻ぶような笑顔でそう告げる。
朝露に濡れた花弁のような笑顔に、思わず見とれてしまう。

綺麗、という言葉では表現し切れない。日本語の不便さをもどかしく思う。


「・・・うん、僕も死ななくて良かったと思うよ。心配してくれてありがとう」


なんと言えば良いか分からず、とりあえずお礼が口をついた。

そこに足音からでもその元気さが伝わってくるような、ドタドタという音が聞こえた。
ドアの方に視線を向ける。見なくても分かるが、恐らくカイルだろう。

懐かしさに、頬が少し緩む。
勢いよくドアが開かれた。


「おっしゃ一番!って!ファイもう起きてんじゃん!!」


予想通りの騒がしい声。
それに続いて落ち着いた、どこか大人びてすらいるシャオの声が聞こえた。


「病院の廊下は走るなって言っただろ。勝手に競争なんかするな」


「えー、シャオだって早足だったじゃんか」


「・・・うるさい。起きたのか、ファイ。大丈夫か?」


「ああ、ありがとう。大丈夫、頭がちょっとぼんやりしてるだけ」


シャオの気遣いを嬉しく思いながら返事をする。
カイルとシャオが病室に入ってくる。途端に騒がしくなった気がする。

そしてドアの近くにもう一人の気配。


「・・・フン」


最後に、熊耳付きフードを被り直しながら入ってきたのは、フレデリカだった。
フレデリカも、いつも通りだ。

傷口を見せてくれと言ってくるカイル、それを諫めるシャオ、林檎を剥いてくれるマリー、
林檎を勝手に食べるフレデリカ、これだけ騒がしくてもピクリともしないヴァン。

また皆に会えた事が、堪らなく嬉しい。
その思いの成分を含ませて、言った。


「ただいま、みんな」



◆◆◆



あの後、病室でみんなから事情を聞いた。
僕が刺されてから殆ど記憶が無いので、それからどうなったのか。

通り魔の事件は直ぐに全国のニュースに流された。
みんなが僕の事を知ったのは、通り魔の事件があってから数時間経ってからだそうだ。
警察から連絡があったらしい。僕の身元は荷物の中身から分かったのだろう。財布とかも入っていたし。

僕は近くの大きな病院に搬送された。
運悪く刃が肝臓に達していたらしい。しかも肝動脈まで傷ついていた。
救急車が到着した時には地面が真っ赤に染まっていた。そして同じく血に濡れたアロハシャツ。

僕は多量出血でショックを起こした。一時は心肺停止まで陥ったそうだ。
それから、唐突に蘇生した。何故突然蘇生したかは一切不明。

なんでも急に脳波が乱れたと思ったら、心臓が活動を再開したらしい。

医学に全く精通してないので良く分からないが、奇跡的だと言うことは分かった。
不幸中の幸いだとでも思っておいた。

それから、キュアでの治療を行う為にお婆さんの私設病院である"天の樹"へと運ばれた。
どうやらあの時いた場所は伊豆だったらしい。

二日程眠っていたようだ。
その間みんなが宿泊しながら見舞ってくれていた。

ヴァンのキュアのお陰か、後遺症や感染症などは見当たらなかった。
起きたときには既に痛みも消えていた。

本当にヴァン様々だ。


気になっていたことの一つ、僕を刺した男はどうなったか。

男の死体が直ぐ側で見つかったそうだ。両腕と首がねじきられた状態で。
警察は不審死として処理したらしい。
けれど、僕にはそれをやったのが誰なのか理解出来た。理解出来てしまった。

そして、もう一つ。
現場に背の高い、がっしりとした体格の男の人が居なかったかと尋ねたが、知らないと言われた。

記憶が途絶える直前、朦朧とする意識の中で僕はあの人と確かに言葉を交わした。


『・・・馬鹿野郎。

一瞬でも、ほんの僅かな間でも俺は獣なんかじゃないと思わせて貰ったんだよ…感謝するのはこっちの方だ』


確か、そう言っていた。
どうせ、僕と一緒にいてはいけないなんて事を思ったのだろう。

――・・・あの人に言いたいことが、言わなくちゃいけないことが出来た。

もし、また会うことが出来たなら、それらをぶちまけてやろう。
手元に帰ってきたアロハシャツに、そう誓った。

お婆さんに会うと、お婆さんに謝られた。
いったい何で謝られるか分からずに当惑していると、訳を話してくれた。

お婆さんは僕が旅に出る前に未来予知を行い、僕の未来の姿を見ていたらしい。
元気に帰ってくる僕の姿がそこには映っていた。

けれどこんな事になってしまった。
未来を見誤り、危険な目に遭わせてしまった事への謝罪らしかった。
当然、僕が今回事件に巻き込まれたのはお婆さんのせいじゃないので、謝罪は遠慮願った。
むしろ僕が心配掛けさせた事を謝っておいた。

それから、この先外出禁止などにするのは勘弁願いたいという旨も伝えておいた。
一旦捜し物は中断したけれど、またしばらくしたら捜しに行くつもりだったから。

お婆さんは渋い顔をしていたが、頼み込むと認めてくれた。
ただやっぱりしばらくの間、遠出は禁止されたけど。

要するに、出掛けるのなら近場にしておけという事だろう。

ついでに僕が庇った女の子は無事だそうだ。
精神的ショックは多少残るかもしれないけど、命あっての物種だ。
とにかく、僕が体を張ったのが無駄にならなくて良かった。

休養と術後の検査も兼ねて一週間ほど入院した後、僕は懐かしのエルモア・ウッドに帰って来たのだった。



◆◆◆



「っと帽子、帽子」


帽子を忘れていた事に気付き、声を上げた。
誰もいない玄関に僕の声が響く。


お婆さんに遠出は禁止されたため、最寄りの大きめの街に出掛ける事にした。

別にこの家に居るのが嫌なわけでは無いのだけれど、
何もしないまま無為に時間を過ごすというのは、あまり好ましい事では無かった。

靴に足を入れ、堅めに靴紐を結ぶ。この家に来てから買って貰った靴は、
色んな所を歩き回ったせいか、大分くたびれてきていた。

夏の間も愛用していた帽子を被る。
防寒と髪の色を誤魔化してくれる優れものだ。

帽子を被ると前髪が押さえつけられ、視界が遮られる。

旅の間に一度も切らなかったから、髪がかなり伸びている。
正直邪魔くさいので今度切ってこようとぼんやり思った。


「あれ?ファイどっか行くのか?」


準備が整って、さあ行こうと言う時に歩いてきたカイルに声を掛けられた。
今日も今日とてカイルは暇そうだ。むしろカイルが忙しそうにしていた方が拙いんじゃないかと思う。世界平和的に。


「ああ、ちょっと街にね」


「ふーん。何しに?」


カイルが興味を持ったのか尋ねてくる。


「街を見に」


僕の答えは単純だ。
別に誤魔化しているのでは無く、本当に街を見るつもりだった。


「えー、そんな事して楽しいのかよ?」


「うん、まあ楽しく無くはないんじゃない?」


「楽しく無くはない、えーとつまり楽しいって事か。どう楽しいんだよ。

と言うかなんで街なんか見るんだ?」


カイルが疑念の目で見てくる。


「色んな風景があるし、色んな人もいるさ。それを見るのは退屈しないよ。

街を見る理由は、まあちょっと捜し物。

灯台もと暗し、って言うしね。意外と探してるものが近くで見つかるかもしんないし」


「ふーん、よくわかんねえけど、なんか捜しに行くのか」


「そういうこと。お土産は期待するなよ」


そう告げて出て行こうとした。


「・・・じゃ、俺も行く」


するとカイルが驚いた事に、ついてくると言い出した。
別におかしな所は無いのだけれど、何となく意外に思った。

そして、今までカイルが、いやこの家の子供みんなが
自分から外に出ている所を見たことが無いのに気がついた。


「いや、僕は構わないんだけど、いいの?」


「あー、まあここでずっと暇してるよりは良さそうだしなー。
ちょっと待っててくれ。俺も準備してくる」


そう言ってカイルは自分の部屋の方へ走って行った。


『持って生まれた力や、環境によって行き場を無くした』


いつかお婆さんがそう語った。
ひょっとしたら、みんなどこか外に対する抵抗があるんじゃないだろうか。

フレデリカほど極端では無いにしろ、多少は。
そんな事をカイルを待ちながら思った。

それが悪いという訳じゃない。
でも、嫌いな物が少なければ少ない程良いんじゃないかとも思う。

けどそれは僕がどうこう言うことじゃない。本人の問題だ。
それに口を出せる程僕は偉い人間じゃないんだし。


「待たせたな。行こうぜ」


カイルが冬なのに涼しげな、いや寒々しい格好でやってきた。
カイルがいいんならそれで良いのだろう。


「ああ。財布は持った?」


「いや。今月の小遣いは新しいボールに消えました」


「おい、どうするんだ。バスとか使うんだぞ?」


「頼んだ」


即答される。

うん何も聞かなかった事にしようか。
だってなんだかこのままだとたかられる気がしたし。


「行ってきまーす」


カイルにしがみつかれる。
それも無視して進むとカイルが引きずられる。


「オイ!頼むって!バス代とかだけでいいんだよ!
ファイばっかり前にすげえ小遣い貰ってたじゃん!ズリーって!」


「まああれは旅費なんだけどね。

・・・でもそう言われたら確かに不公平かもなあ」


立ち止まって考え込む。

お婆さんに貰った額は一人の子供が持つには余りに膨大な額だったし、
旅費は残っていてまだまだ底を尽きそうにもない。


「だろ!?奢ってくれたって罰は当んないって」


「はあ、しょうがないか。奢るのは結構トラウマな気がするんだけど」


「さっすがファイ!よっしゃ、早くいこーぜ!!」


カイルが走って出て行った。
どうやって行くかも教えてないのだけれど、まあいいか。

それに続いて、僕も駆けだした。



バス内。


「なーこれ何なんだ?」


「ん?

っておい!吊革で体操するなよ!ウルトラC!?すごいな、じゃなくて!」


「こう使うもんじゃないのか?」


「違うって!ホラ、運転手さんが睨んでる睨んでる!」



「なーこのスイッチって何なんだ?押したらバスが爆発でもするのか?」


「してたまるか。そんな物騒なもの備え付けてありません。

それは次降りますって知らせるサインだからまだ押すなよ。って・・・」


「押しちった☆」


「あああ、運転手さんが睨んでる・・・」



チーン

「お?」


チーン

「おお」


チーン

「おお!」


チーン

「整理券取りまくるなああああ!運転手さんが、運転手さんが!!」



――・・・


街。


「疲れた・・・まだ着いたばっかなのに・・・」


「おー、街ですなあ」


カイルは元気そうだ。
僕は気疲れでか、既に結構へとへとだった。

あの運転手さんの睨む顔は完全に人を殺したことのあるそれだった。
この歳で胃痛持ちにはなりたくない。僕等以外に客が居なくて助かった。


「で、どーすんの?」


カイルが尋ねてくる。


「そうだな、とりあえず見て回ろうか」


「おう」


カイルが頭の後ろで手を組み歩き出した。
僕も帽子を被り直し、ゆっくりとした足取りで歩き出した。



――・・・



夕方、街。


「なあ、なんで今日はついてきたんだ?」


大した成果もなかったが、初めからそんなに期待していなかったからそこまで落胆もしなかった。
結果からすれば、今日はカイルと街に遊びに来た形になった。
そして気になっていたことをカイルに尋ねた。


「んー?

言っただろ、家で暇してるよりは良いかって思ったんだよ」


横を歩いていたカイルが前を向いたまま答える。


「・・・それに、なんでかね。

今まで街に出ようなんて考えた事も無かったけど、お前となら行ってもいいかなって思ったんだよ」


カイルが続けた。


「・・・そっか。で、楽しかったか?」


僕がそう尋ねるとカイルが僕の方を向いた。
銀色の髪が揺れ、角度によって紅くも見える二つの瞳が僕を捕らえる。


「おう。悪くなかった」


そして、くしゃっと笑った。
どこか清々しさを感じる笑みだった。


「そりゃ良かった」


僕もカイルにつられたのか、口元に薄く弧を描いた。



「あれ・・・?」


胸が、熱い。
これは前に経験したことのある熱。

以前マテリアル・ハイが使えるようになった日に感じた熱。
それが再び胸に灯っていた。

どうしてだろうか、何となく今なら前よりマシにマテリアル・ハイを使える気がした。


「おーい!なにしてんだ。バスが来ちまうぜ」


前方でカイルが呼んでいる。
正面から感じる斜照でカイルの影が長く伸びていた。


「ああ、今行く!」


地を蹴って駆け出す。
沈んで行く夕日に追いつこうとしている、そんな光景だった。


「バスで暴れんなよ?あとお前が結局飲み食いした事は忘れないからな?」


「いやー!明日もいい天気だといいな☆」



◆◆◆



炎が舞を舞うかのように揺らめいている。
くべられた薪が、乾いた軽い音を立てて爆ぜた。

暖炉から漏れる赤光が、近くのソファーに腰掛けるエルモアの横顔を照らしていた。


「そういえば、ファイはどこに行ったんじゃ?」


エルモアは、暖炉の側に座り本を読んでいるシャオと、寝っ転がっているヴァンに尋ねた。
手には紅茶の入った白磁のティーカップが握られている。


「うー?」


「ああ、ファイのやつなら街に出掛けましたよ」


ヴァンは知らないといった様である。
文字を追うのを止め、顔を上げてシャオが答えた。


「また街に行ったのか。出掛けるとは聞いていたがどこに行くかは聞き忘れてたのでの」


そう言って一口紅茶を含む。
違和感のない、自然な動作から優雅さが垣間見えた。

お茶請けは既にヴァンが食べた後だったのでエルモアは紅茶だけで飲んでいる。


「そういえば、おばあ様はカイルのやつがどこに行ったか知りませんか?
あいつ今日は姿が見えないんですけど」


「カイルならファイと出掛けたわよ」


部屋の入り口から鈴を鳴らしたような、澄んだ声が聞こえた。
フレデリカが数冊の漫画を抱えて部屋に入ってきた。

その後ろに更に多くの漫画を抱えたマリーも続けて入ってくる。


「あの、フーちゃん、前が見えないよ・・・」


漫画を文字通り山ほど抱えたマリーの足取りはふらふらとしていて心許ない。
シャオが読んでいた本を投げ捨て、マリーの元に駆けつけた。


「なんと、カイルもか。あやつが自主的に屋敷の外に出るなど珍しいの」


「そうでもないわよ、おばあ様。

最近カイルのやつ、ファイに引っ付いて外に出るようになってきてるわ」


フレデリカが絨毯の敷かれた床に座り込んだ。
横に漫画を下ろし、熊耳のフードを下ろした。


「あ、そういえばカイル君、こないだも何処かに出掛けてたね」


マリーもフレデリカのすぐ横に腰を下ろす。


「ふむ、前まではどんなに暇そうにしていても自分から出掛けるなんて事は無かったんじゃがのう。

・・・ファイが帰ってきてから、変わったのかの」


「どうせファイのやつの放浪癖がうつったのよ。アイツいっつも何処かにふらふら行ってるし」


フレデリカがばっさり切り捨てながら漫画を読み始めた。
既に視線はそのページに釘付けになっている。


「・・・外、か」


シャオが呟いた。
その呟きには単純ではない想いが込められている事を、その場にいる全員が察していた。


「・・・」


「あやつの記憶が戻るように、枝葉を揺らす風になってやろうと思っていたが、

案外風になったのはあやつの方かもしれんの」


エルモアが空になったティーカップをソーサーに置き、言う。


「ここ、エルモア・ウッドに変化をもたらす風にの」


四人は黙っていた。

そうしている内に外で風が大きくうねり、窓を揺らすのが聞こえた。
四人がそろって窓の方を、それから窓の外を見た。

冬の乾いた風だった。


「・・・フン。下らないわ」


沈黙を続けるのが苦痛であったかのようにフレデリカが鼻を鳴らして言った。


「フーちゃん・・・」


「この寒い中で外なんて出ようと思うやつの気が知れないわ。

アタシとは分かり合えない種類の人間ね」


窓に向けていた顔を再びページに戻す。
そして顔が上げられる事は無かった。


「ホント、外なんて・・・下らないわ」


風の音に遮られかき消えてしまうような声で、人知れずフレデリカは呟いた。




続く


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