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No.17768の一覧
[0] とあるヒロインの御坂美琴【禁書目録再構成】 [とある文芸部員](2010/04/01 00:08)
[1] 第一話(禁書目録編プロローグ)[とある文芸部員](2010/05/15 00:59)
[2] 第二話[とある文芸部員](2010/04/01 00:13)
[3] 第三話[とある文芸部員](2010/04/03 02:57)
[4] 第四話[とある文芸部員](2010/06/18 22:05)
[5] 第五話[とある文芸部員](2010/04/06 17:11)
[6] 第六話[とある文芸部員](2010/04/16 01:36)
[7] 第七話[とある文芸部員](2010/04/16 01:51)
[8] 第八話(禁書目録編完結)[とある文芸部員](2010/05/15 01:00)
[9] 第九話(吸血殺し編プロローグ)[とある文芸部員](2010/05/27 19:59)
[10] 第十話[とある文芸部員](2010/06/09 19:39)
[11] 第十一話[とある文芸部員](2010/06/09 19:48)
[12] 第十二話[とある文芸部員](2010/07/22 18:41)
[13] 第十三話[とある文芸部員](2010/07/22 18:42)
[14] 第十四話[とある文芸部員](2010/08/06 01:51)
[15] 第十五話[とある文芸部員](2010/08/06 02:00)
[16] 第十六話[とある文芸部員](2010/08/24 23:40)
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[17768] 第十五話
Name: とある文芸部員◆b391eec1 ID:24c22098 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/06 02:00
 美琴とインデックスは気絶したままの上条を引きずり回しながら、昼食をとるために街路を散策していた。

 インデックスは腹ぺこ度合いが頂点に達しているらしく、目を覚まさない上条を煩わしく支えながらも目をぎらつかせている。

「みこと、とうま置いてってもいい?」

「いや、アンタさすがにそれはひどいわよ。正直ちょっとやりすぎたかなーって思うし」

 まだ起きる気配のない上条を少し不安げに見ながら、美琴はインデックスを窘める。

 99パーセント悪いのは上条ではあるが、さしもの美琴も反省していた。

「確かにそうかもだけど、もう限界なんだよ……」

 インデックスも一瞬ばつが悪そうな顔をするが、腹の虫が食べ物を要求して鳴き出し、今にも倒れそうに項垂れる。

 聞き分けてくれそうにないインデックスに、美琴は絶対に説得できる言葉をかける。

「あのねえ、当麻を街中で放置したら、誘蛾灯のように新しい女を引き寄せるに決まってんでしょ」

「……はあー、そうだね。とうまはとうまだしね」

「でしょ。ただでさえ今でもフラグをひっきりなしに立ててんのに、みすみす防げる旗を立てる必要ないでしょ」

「早くとうまはとうまであることを直せばいいのに。絶対無理だろうけど。……むかむかしたら、余計にお腹空いてきたよ」 

 上条が気絶していることを良いことに、散々なことをいう二人であった。

「…………うう」

 悪口を聞きつけたからという訳ではないが、ようやく上条が目を覚ました。

「……ここは? 俺、生きてる?」

 力のない動作で二人の支えを緩やかに振りほどいて、上条は己の身体を抱く。生の喜びを実感しているのか、はたまた痛めつけられた恐怖を思い出したのか軽く身震いする。

「ようやく目を覚ましたわね、ちょっと心配したわよ」

 美琴は軽い声で上条の肩を叩いた。本音はかなり心配していたのだが、乙女心を傷つけられた恨みは忘れてないので、決して表に出さないが。

「お前なあ、やった張本人がなにいってんだよ」

 上条はげんなりした後、背筋を伸ばす。気絶から醒めたばかりなのに、すでに普通に歩き出そうとしていた。

「……アンタ、その回復力やっぱ異常よ」

「そうかあ? 別にこれくらい普通だと思うんだけどなあ」

 美琴に変な生き物を見るような目で見られ、上条は逆立った髪を掻いた。

「…………うがー! もう、我慢できない!」

 突如上がった獣のような咆哮に、上条と美琴が驚いて振り向く。

 すると白いシスターが理性のない肉食動物の目つきで、全速力で前方600メートルにある喫茶店に突撃しようとしていた。

「ちょ、あのシスター我慢弱すぎだろっ!」

「まったく、しょうがないわねー。あの喫茶店で昼食にしましょうか」

 インデックスの後を追い、二人も駆け出す。

 空腹で野生の獣と化しているインデックスのスピードはかなりのものだったが、かつて美琴と朝まで追いかけっこしたことがある上条は、どうにかインデックスに追いつく。

「インデックス、落ちつけって。食いもんは逃げやしねえんだから」

「とうま、食事の確保さえままならない生物は、生存競争に生き残れないんだよ!」

「いや、そんなキリッって顔でいわれても、食いもんは逃げねえっていってんだろ。そもそも金もないのに、一人で店に入ってどうすんだよ」

「とうまは細かいこと気にしすぎなんだよ。ねちねちした男は嫌われるんだよ」 

「……うはあ。お前シスターのくせに毒舌過ぎないか?」

「私としては、アンタが世界中の女性に嫌われて欲しいところだけどね」

 いつの間にか追いついた美琴が、後ろから上条の心臓を一突きするような暴言を吐いた。

「上条さんの心はいたく傷つきました! そんな呪いの言葉を掛けるほど、さっきのこと根に持ってるのか!?」

「……こういわれてそう返すの? いや、ほんと、アンタの鈍感はよぉくわかってるけど、はあー」

「なんで俺が、ため息つかれなきゃならねえんだ?」

 上条と美琴が夫婦漫才を演じている隙に、インデックスはもう喫茶店前まで辿り着いた。しつこく理由を聞いてくる鈍い上条をあしらいながら、美琴も続こうとする。

 そこでようやく気付いた。

 店内を見通せるガラス窓。そこから見えた奥の席。

 
 見覚えのある、元ルームメイトのツインテールの少女が、もの凄い形相で二人の少女に詰め寄っていた。


「……当麻」

「……ああ」

 具体的なことは何もいわずに、同じものを見ていた上条と共に美琴は即座に行動に移した。

「えっ? み、みこと、なにするんだよ! ご飯が私を呼んでるのに!」

「残念ながら、ここのご飯は私たちを呼んでないわ。地獄の釜なら開いてるんだけど」

「と、とうまもなんとかいって――いつの間にか脇に抱えられてる!?」

「わりいなインデックス、俺はまだ死にたくないんだ」

「い、いやだよ、ご飯が、ご飯がぁーっ!」

「はいはい、向かいの店でハンバーガーでも食べましょう」

「混んでるけど、少し待てば食べられるだろ。たぶん」

「み、みことととうまの、ひとでなしー!」

 インデックスの怨嗟の声を聞き流し、上条と美琴はハンバーガーのチェーン店に向かった。



「……? 白井さん、どうしました?」

「今、お姉様の気配がしたような」

「いや、さすがにそんな偶然ありませんって」

「………………そうですわね。お姉様がここにいるはずありませんもの。今は類人猿抹殺計画を練る方が重要ですわ」

(佐天さん、話を戻させてどうするんですか。嘘でも、あれ? あそこに御坂さんがいたような、とかいうところですよ)

(ごめん初春。でもあんた、なんか黒いよ)

「それで、まずは手足を縫い付けて、動きを封じたところでじわじわと――お二人とも、聞いてらっしゃるの!?」

「「は、はい!!」」








 黒子のお姉様レーダーをどうにかかいくぐり、向かいのチェーン店で注文を済ませ、食事を受け取った三人は、あまりの混雑ぶりに呆然としていた。

「これは、座る席ねえかもな」

「困ったわね」

 今にも席に着かずにハンバーガーを食い散らかしそうなインデックスを横目に、美琴は空いてる席はないかと視線を巡らす。

 常盤台のお嬢様が安っぽいチェーン店にいるのが珍しいのか、何人かの視線を集めているが、美琴は気にもとめてない。

「おっ、あそこなんか空いてるけど……無理だ」

 同じく席を探していた上条が声を上げるが、すぐに萎んだ。

「なに? 空いてるのに無理って。あからさまに頭悪そうな格好してる不良でもいるの?」

 周りの客に迷惑を掛けているのなら、電撃で軽く追い払って席を奪ってやると荒くれ者みたいなことを考えながら、美琴が振り向く。

 しかし不良なんて、そんな生易しいものではなかった。

 
 なんか、巫女さんらしき少女が、大量に散らばったハンバーガーの包み紙に顔をつっこんでいた。


 その巫女さん(?)はぴくりとも動く気配がなく、彼女の周囲だけ時が止まったかのように静かで、誰もいなかった。

 美琴はしばし思考が停止していたが、どうにか現状を把握し上条に同意する。

「うん、無理ね」

「だろ? あれ絶対厄介事が絡んでくんぞ。仕方ねえから、他の席探そうぜ」

 そういいながら、美琴と上条は見なかったことにしようとした。

 しかしそうも問屋が卸さなかった。

 インデックスがトレイに乗ったハンバーガーの山を器用に落とさないようにして、矢のように巫女さんが突っ伏す席に駈けていった。即座に席につき、無心で山積みになったハンバーガーを崩しにかかる。

「ちょ、インデックスさーん!」

 厄介事に自ら突っ込んでいったインデックスに届かぬ右手を伸ばしながら、上条がその名を呼ぶ。もちろんインデックスは無視を決め込み、両手いっぱいにハンバーガーを持って食らいつく。

 美琴はトレイを片手で持って、空いた手を額に当てた。しかしそれで現実が変わるはずもなく、腹をくくる。

「当麻、行くわよ」

「……すっげー嫌な予感がするんだけどなあ」

 そういいながらも素直に美琴に付き従う。

 巫女さんが突っ伏している席は四人掛けだった。

 新しいフラグの可能性もあり得ると考えた美琴は、嫌々ながらも進んで巫女さんの隣に座る。

 上条はどこかほっとした表情をしながら、ハンバーガーをひたすら食いあさるインデックスの隣に座った。

 こうしてようやく席に着けたはいいが、どうも食べづらい。

 インデックスのように気にせずに食べられればいいのだが、そうするには巫女さんの存在感は圧倒的過ぎた。

 どうにかできないか、と上条がアイコンタクトをとってくる。

 美琴は渋面でアンタがどうにかしなさいよと返そうとした。だがフラグを立てられたらたまったものではないので、仕方なく美琴が巫女さんに声を掛ける。

「ちょっと、アンタ大丈夫?」

 美琴が巫女さんの肩を軽く揺すりながら問いかける。うめき声を上げながら、巫女さんの身体がぴくりと動いた。

 見えた横顔は美人だったが、上条の嫌な予感は拭えたどころか倍増した。桜色の唇が微かに動いたのを見て喉を鳴らす。

 巫女さんが放つ第一声、それは――

「…………く、食い倒れた」

 という、周りの包み紙の散乱具合から、正にその通りなものだった。

「……ねえ、こんな時になんて言葉を掛ければいい?」

「……いや、俺に聞かれても」

 自分から声を掛けたはいいが、どう反応すればいいか困惑顔で美琴が訊ねるも、上条だってどうすればいいかなんてわからない。

 インデックスは我関せずと食事を続けていた。しばらくの間、喧噪と咀嚼音だけがこの空間を支配する。

 上条は嫌だけどやむを得ないという顔で、巫女さんに話し掛ける。

「えっと、なんで食い倒れてたりしてたんだ?」

 すると巫女さんはゆるゆると起き上がり、ぼんやりとした顔で上条を見つめた。

 大和撫子の見本みたいな綺麗な女性に見つめられ、うわあやっぱ美人さんだと上条の頬が緊張で強ばる。

 巫女さんの隣で美琴が不機嫌そうな顔をしていたが、上条は見ない振りをした。後で電撃を食らわされる理不尽な未来が見えた。

「お得な無料クーポンがたくさんあったから。とりあえず三十個ほど頼んでみた」

「インデックスじゃあるまいし、頼み過ぎよ」

 美琴にそういわれながらも、インデックスは何もいわずに、すでに三十八個目のハンバーガーを平然とした顔で食べる。

「まあインデックスは規格外だしな」

「エンゲル係数が高くなっても私は平気だけど、アンタだけなら養いきれたかわかんないわね」  

「ぐう……。ど、どうせ上条さんは家なき子の文無しさんですよーだ」

「だからいってるじゃない。私の家に住めば問題ないって」

「それは無理だって何度もいってるだろうが。上条さんはまだ犯罪者になりたくありません」

「ふん、なによ。私が同い年なら同棲したわけ」

「ど、同棲って、お前、女の子がなんて言葉を。…………しかし美琴が同い年だったら、かあ。――ってなにを考えた俺!」

「ちょ、ちょっと今なに考えたのかいってみなさいよ!」

 巫女さんをほっぽり出して、二人の世界を形成する上条と美琴。

 巫女さんは苦しそうにお腹をさすりながらも、所在なさげにしている。その様子はどこか影の薄さを感じさせた。

 さすがに見かねたインデックスは、多少は腹を満たせたこともあって一旦食事を中断し、巫女さんに問いかける。

「ねえ、あなたは何でそんなに食事を頼んだの? 必要以上の暴食は大罪なのに」

 巫女さん以上にハンバーガーの包み紙を散らかしておきながら、どの口がということをのたまった。

 しかし巫女さんは呆れることなく律儀に答える。

「帰りの電車賃。四〇〇円必要だった。でも全財産が三〇〇円。だからやけ食い」

 ぶつ切れの言葉を聞き取ると、どうも巫女さんは帰るに帰れないのでこのような暴挙に出たらしい。

「歩いて帰ろうとは思わなかったの?」

「……暑いから。無理。溶けてなくなる」

 巫女さんのくせに、精神修行が足りてない俗なことをいった。心頭滅却すれば火もまた涼し、なんて言葉は辞書にないようだ。

「だったら、とうま達にお金でも借りたら?」

 インデックスはもう自分が話すのはここまでだといわんばかりに、未だわいわい話す二人に言葉のキラーパスをする。

 二人が驚いて振り向いた時には、すでにインデックスは新しいハンバーガーを口いっぱいに頬張っていた。

 巫女さんがじっと上条の顔を見つめる。表情がないように見えて、その目は期待に満ちている。

「いや、無理だって。さっきも話してたけど、今一円も持ってねえから。むしろ恵んでほしい立場だから」

 上条が視線を両手で遮って断ると、巫女さんは小さく舌打ちした。

「……甲斐性なしが」

「初対面の人間に、自分のことを棚に上げといて罵倒された! シスターといい巫女さんといい、宗教関連者は口の悪い奴ばかりなのか!?」

 うがーと上条が唸る。美琴は甲斐性がないことは事実なので、上条が悪くいわれていても反論できない。

「……ほんと、もう少し甲斐性があったらねえ」

 なんて本音が漏れだして、上条の心を密かに傷つけた。こういう時って、泣いてもいいよなといわんばかりに涙が溜まって、決壊しそうになっている。

「私。巫女さんではない」

 不意に巫女さんが、自身の存在を全否定するようなことをいってきた。上条が驚いて涙をとめる。

 美琴は胡散臭い言葉に思わずつっこんでしまった。

「巫女服きたアンタが巫女さんじゃないのなら、なんだっていうのよ」

「私。魔法使い」

 いきなり冷凍庫に放り込まれたように、空気が瞬間冷凍された。

 上条は硬直しながらも、インデックスとの出会いを思い出した。ああ、こいつも残念な人なんだなと。

 美琴は目を見開いて唖然としていたが、いやねーよ、どこの新番組の色物魔法少女?と不味いものでも食べたような顔をした。

 インデックスはもの凄く胡散臭そうな顔をしていた。自称魔法使いをじと目で見ながら問いかける。

「魔法使いって、本当なの? こういう時は専門と学派と魔法名と結社名を名乗るのが礼儀なのに」

 正直なところ上条と美琴に初めて会った時のインデックスと、どっこいどっこいの胡散臭さなのだが、そんな記憶は何処へやら疑ってかかる。

 上条と美琴は顔を見合わせて乾いた笑い声を上げた。 

 当の巫女服を着た自称魔法使いはというと、首を傾げながらもすぐさま凛とした表情で答える。

「嘘じゃない。私。魔法使い」

 胸を張ってどこか自慢げにしていた。

 ……胡散臭さが倍増した。

 インデックスはその返答が癪に障ったのか、むっとした表情で矢継ぎ早に質問する。しかし巫女さん(?)は全ての質問に「だから私。魔法使い」の一点張りで、碌な回答をしない。

 しまいにはインデックスの口調がヒートアップし、オバカだの似非陰陽師だの罵倒が混じり始めたので、見かねた美琴がとめにかかった。

「落ち着きなさいって、インデックス。ほら、アンタの時みたいに何か事情がある可能性も、なきにしもあらずだから。まあ、夏で頭をやられた可能性の方が高そうだけど」

「いや、お前もお前でひどいこといってんぞ。いくら発言が痛いからってさ」

 美琴を諫める上条もなんだかんだで煽る発言をしている。

 巫女さんは傍目からは平気そうな顔で聞いているように見えた。しかし注視すると額に青筋が浮かんでいる。

「……どんな情況でもいちゃつく。公害レベルのバカップルにいわれたくない」

 巫女さんは先ほど二人だけの世界を形成していたことを揶揄しながら、砂糖でも出そうだといわんばかりに大きなため息をついた。

「んなっ! ば、バカ! 俺と美琴はそんなんじゃ――」

「アンタが魔法使いって認めるわ!」

 慌てふためく上条の顔を右手でぐいと押さえながら、美琴は威勢よく前言を撤回した。

 自他共に魔法使いと認められた巫女さんだけでなく、インデックスさえも美琴の反転っぷりにどん引きする。

「いや、美琴、そんなことよりも俺たちはバカップルなんかじゃないってててててててててててて!」

 上条は反論しようとするも美琴のアイアンクローに封殺される。それでもどうにか逃れようとしたら、軽く電撃を流された。「あばばばば」と感電する上条。

「み、みことがどんどん、手段を選ばなくなってるよ」

 影ながら同居計画のサポートをしていたインデックスは、独裁者にしか見えない美琴に戦々恐々とした。

こわごわと様子を窺っていた巫女さんは、しかし好機を見逃すまいとした。

「あの。一〇〇円」

 機嫌の良さそうな美琴にちゃっかりお金を要求する。だが美琴は聞いちゃいなかった。

「そっかそっか、傍からそんな風に見えるんだ、私たち。『バ』カップルって言い方がちょろっと気に入らないけど、この際気にしないわ。ふふ、カップル、カップルかあ」

 緩みきっただらしない顔でふふふと笑い続ける美琴。その様は普段無下にしていたツインテールの後輩にそっくりだった。

 巫女さんは不気味に笑い続ける美琴に、手を差し出した体勢のまま、どうにかしてほしいと上条に視線で訴える。しかし彼はまだ美琴に捉えられたままで、電極を刺されたカエルのようにひくひくしていた。

 そうして、四人全員が気を緩めていた時だった。 

 
一〇人近い人間が、いつの間にかすぐ側で自分たちを取り囲んでいたのは。


 それだけも十分に異常事態だった。個性というものが見あたらない大人が、上条達に気付かれずに近寄ったのだ。尋常な人間じゃないということはすぐにわかった。


 しかし、真の恐怖はこんな生ぬるいものではなかった。


 まるで猛獣が目の前で襲いかかろうとしているような、強烈な殺気が上条を襲った。

 たったそれだけで全身から滝のように汗が流れ、心肺が停止しそうになる。今まで戦ったどんな相手よりも、そいつは明確な殺意を上条に抱いていた。

 上条は咄嗟に美琴の手を払い、三人を庇うように立ち上がると周りを囲う大人達を睨みつける。しかし殺気の元は彼らではない。

 喉を鳴らし、上条が殺気を放つ人物を探っていると、インデックスが服の裾を引っ張ってきた。

「と、とうま、あ、あれ」

 短く、でも怯えが多分に含まれた声で、インデックスが震える指で指したその先、


 窓に両手をべったり貼り付け、真っ赤に充血した目に憎悪を塗り固めた、ツインテールの悪魔がそこにいた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 上条は叫んだ。心の底から、魂の底から恐怖し、ただ絶叫した。

 悪魔少女――白井黒子は上条に凄絶な笑みを浮かべ、こう呟く。


 ミ・ィ・ツ・ケ・タ


「く、黒子ぉ! な、なんでここに気付くのよ! 外からじゃここの席って見えにくいはずなのに!」

 美琴が青い顔でそういうが、黒子のお姉様レーダーを舐めてはいけない。結局黒子はやはりお姉様の気配がするといいだし喫茶店を飛び出して、直ぐさま愛しのお姉様と殺るべき怨敵を発見したのだ。

 よく見ると黒子の後ろで会計を済ませた初春と佐天が、逃げて下さいと手を慌ただしく振っている。しかしもはや遅すぎた。

 鬼神を殺せそうな形相の黒子が、一瞬姿を消した。上条が逃げるぞの「に」の字すらいう暇も与えず、悪魔が目の前に現れる。

「殿方さん」

 ひどく平坦な声で黒子が上条に呼びかける。上条は返事も逃げることもできず、ただ固まる。

「く、黒子、これにはね、その、訳があってね――」

 美琴が言い訳をしようとするが、黒子は片手を風切り音と共に突き出してとめた。

 後で絶対、ずぇったいに真相を聞き出しますけど、まずはこの類人猿をぶっ殺すのが先ですわ。

一瞬だけ美琴に目線を動かして、これだけの量を目で語る人間離れの技を繰り出す。

 いきなりこれから殺人でも犯しそうな少女の登場に、無表情を貫いていた一〇近くの人間達にも動揺が走った。しかし美琴と上条+α(シスター、巫女さん)しか、どす黒く濁った黒子の瞳には映っていない。

 黒子はゆっくりと、焦らすように口を開く。

「ねえ、殿方さん。私、前からいってましたわよね」

「は、はい!?」

 黒子のいう前からいっていたことに心当たりのない上条は、疑問と肯定がない交ぜになった返事をした。

「お姉様に近寄るのは許しますわ。まったくもって理解できませんが、お姉様は殿方とことを気に入ってらっしゃるみたいですし、まあ会話したり遊んだりするのはいいでしょう。……しかし、しかしですわ。お姉様に手を出したら、わたくし貴方を殺しますと、散々いいましたわよね」

 いやいってねーから! 有無もいわさず襲いかかってきただけだろ、お前の場合!

 そう怒鳴りたかったが、黒子が怖くて碌に反論もできない。

「なのにまあ、貴方ときたら。この前お姉様に抱きつかれるだけでなく、同棲しようって考えるなんて。本当に、本当に、まあ……」

「く、黒子、どこからその情報を? 私は寮監にインデックスと同居するとしかいってないのに」

「み、美琴! 余計なこというな!」

 揃って仲良く自爆した二人に、黒子の肩がぴくりと動く。し、しまったぁ! と上条の顔が真っ青になった。 

「そう、やっぱり同棲は事実ですのね。しかもお姉様だけでなく、シスターや巫女さんまで囲う鬼畜外道っぷり」

 インデックスは一応同居しているので、そういえるかもしれないが、全く無関係の巫女さんまで上条ハーレムに含まれてしまった。どうも美琴の同棲相手が一人増えたと勘違いしたらしい。

 嵐が去るのを黙って空気のように待っていた巫女さんが、「ち。違う。私。無関係」と必死に否定するも、黒子は聞く耳持たない。

 黒子は上条に最後の判決をいい渡す。 
 
「これってあれですわよね。――殺していいってことになりますわよね」

「ならねーよ! 自分の思うがままに死刑執行って、どんな悪逆非道風紀委員(ジャッジメント)だよ!」

「く、黒子、今のアンタはおかしいわ。ほら、もうちょっと冷静になる時間をとって、は、話し合いで解決しましょ?」

 二人の言葉はもはや黒子には届かない。一度殺ると決めた黒子は、鉄の意志を持って果たさんとする。

「殿方一人地獄じゃ寂しいでしょう? お姉様との同棲ライフを楽しむ不埒なシスターと巫女もまとめて、殺して差し上げますわ」

 とばっちりだと巫女さんが絶望を顔に表す中、じゃきりと鉄の矢を何本も取り出し、黒子は笑う。

「では、地獄でもお元気で。さようなら、殿方」

 鉄の矢が、今にも上条の心臓めがけて射出されようとしていた。

 命の危機が迫る時、人はゆっくりとものが見えるようになるらしい。上条も不幸中の幸いだったかその例に漏れることはなかった。

 黒子が演算を終了し、全ての矢が上条の心臓に突き刺さる前に、上条は静止したような風景の中で、どうすればいいか考えた。どうすれば殺されずに済むか。どうすればみんなを守れるか。熱が出そうなくらい考え抜いた。

 そして至った解答は、いたってシンプルだった。

(逃げるしかねえだろ! こいつに立ち向かうなんて絶対無理だ!)

 主人公にしては情けないが、方法なんて初めからそれしかない。というよりそれしか考えていない。

「インデックス!」

 上条はインデックスの名を叫んだ。突然の大声に、黒子の集中力が途切れ、鉄の矢があらぬ方向に突き刺さる。

 何本かは上条達を囲っていた大人達の足の間に突き刺さり、情けない悲鳴が上がった。

 黒子に怯え、上条の背に隠れ「こ、これが日本の妖怪? 私の禁書目録にも対処方なんてのってないよ」と震えていたインデックスは、上条の言葉で我に返る。

「背中に掴まれ!」

 いわれるがまま、インデックスは上条の背にしがみついた。

「美琴! あと巫女さんも!」

 続いて上条は手を二人に差し出し、無理矢理にその手を握る。

「走れ! 命が惜しければ!」  

 美琴はともかく巫女さんの意思を確認することもなく、上条は全速力で走り出した。引っ張られている美琴と巫女さんもつられて走り出す。

 本当にあっという間に、四人はハンバーガー店から姿を消した。見事なまでの逃げっぷりだった。

「ふふ、ふふふふふふ……逃げられると思ってらっしゃるんですの?」

 黒子は新しい鉄の矢を取り出しながら暗黒微笑を浮かべ、テレポートで姿を消した。

 空間移動能力者から逃れることは容易ではない。上条達に追いつき、矢の雨を降らせるのは時間の問題であろう。

 黒子は必ず上条の命を奪える確信を抱いて、炎天下の中をテレポートで飛び回る。

 鉄の矢がまき散らされた店内には、なんの目的で上条達に近づいたかわからない大人達が、唖然として動けずに残されていた。



























  



























 十五話投稿終了。
 なにやら黒子のせいで変なフラグが立ちました。
 しかしまあ、VS錬金術師の前に上条さんが人生で最大のピンチに見舞われていますが、美琴後略の際には黒子はラスボスなので、どのみちいつかは対峙しなくてはいけません。
 予行練習できてよかったね!
 ……なんて、かなり遊びました。姫神を連れ去ることは決まってたんですが、まさかこんな形になるなんて。場をかき回すのに黒子は使い易いので、ついつい頼ってしまいます。




 次回は上条達と黒子のデッドヒート! 生き残るのは誰だ!
 ……いえ、嘘です。
 次回は思わぬ人が上条達を救います。



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